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2006年12月 4日 (月)

レックスHDのMBOと少数株主の保護

それにしましても、土曜日(12月2日)の読売新聞夕刊の一面記事には驚きました。投資会社主導で再建を進めているカネボウ社(実際には、3事業を別会社に移すというもの)の株主500名が、ファンド会社より派遣されてきた現経営陣5名を会社法上の特別背任罪で東京地検に告訴するとのことで、東京地裁はこれを「受理する公算が大きい」とのことです。(読売ネットニュースの記事は短いですがこちらにあります)法律に詳しい方ならご承知のとおり、告訴を「受理」するということは、けっこうたいへんなことでありまして、検察や警察が、思いつきで告訴状を受け取る、というものではございません。刑事訴訟法上、告訴の受理には法的効果(捜査報告義務)が発生しますので、なかなか告訴状は受理しないのが通常であります。(そのぶん、被害届であれば特別に捜査義務も発生しませんので、よく告訴を被害届けに切り替えるように要請されることもあります)おそらく、数ヶ月前から、告訴予定者と警察、検察との事前面談があり、告訴予定者側で相当の立証方法を検討、提出し、検察側と協議のうえようやく「受理」に至ったというのが真相ではないでしょうか。カネボウ株主による営業譲渡禁止の仮処分が11月30日に最高裁で却下されて、確定したことから、特別背任罪の構成要件の一部が認定しやすくなったことも、こういった受理との関連性があるかもしれません。(これは私の推測にすぎませんが・・・)もちろん、捜査機関が本腰を上げることと、特別背任罪が立件されることとはまったく別問題ですので、まだまだ今後の捜査次第ということになりますが、いずれにしましても、取締役の「利益相反行為」というものは、信託法や金融商品取引法の成立、改正とともに、来年あたりはかなりクローズアップされるテーマになるものと思いますし、また「取締役の利益相反取引」を企業コンプライアンス的な発想から考えますと、「社外取締役」「社外監査役」の有用性をもクローズアップさせるテーマになるわけであります。(このことにつきましては、また別の機会に詳述したいと思っております)

カネボウのような産活法からみの事例ではありませんが、ファンドと現経営陣による経営改革として、最近レックスHD(牛角、ampm、成城石井)がアドバンテッジ・パートナーズ社の支援を受けて、株式の非公開化(ファンドによるTOBへの賛同)に踏み切りました。こちらもTOB価格の低さのため、そして株主優待券の充実を前面に出して個人株主を歓迎するだけしておいて、突然「個人株主締め出し」(と一般的には受け取られる)策の一方的な決定のために、レックスの個人株主による「怒り」が次第に充満しつつあるようです。(12月2日に、こちらも第一回の「レックスHDによる株式強制収用に反対する会」が開催されたようです)いつも申し上げておりますとおり、私はM&Aの専門家でもございませんし、また個人株主の方々への思い入れ、というものもございませんので、あくまでも私の思いつきだけを記述させていただきます。ただ、先のカネボウ事例での取締役の立場同様、「もし、社外役員という立場であれば、こういったMBOの現場においてどう対応すべきか」ということに非常に関心がございますので、あくまでも役員という立場から問題点を検討してみたいと思っております。ただ、このレックスHDの株式非公開化(ファンドによる100%子会社化、ゆえに継続開示義務も免除される)に関する法的論点は多岐にわたると思われますので、きょうはその疑問点のほんの一部だけに触れておきます。

1 8月下旬の業績予想修正の意味

ご承知のとおり、レックスHDより、今年の8月21日に「業績予想、修正のお知らせ」が開示されております。この業績予想修正によってJASDAQ市場におけるレックスHDの株価が暴落しております。この業績予想修正のお知らせは、後に検討されるべき「TOBの適正価格の算出方法」に影響をしてくるわけでありますが、まずこの業績予想の修正は、なぜこの時期に、誰の主導で出されたのだろうかという疑問が湧いてきます。(これは普通にどなたでも同じ疑問が湧いてくるのではないでしょうか)フジサンケイビジネスアイの記事によりますと、レックスHDの代表者はアドバンテッジ・パートナーズ(AP)に8月ころに相談に行った、とのことでありますが、そうしますとこの業績予想修正の主導者は、レックスなのか、監査法人なのか、それともAPなのか、3つのうちのどれか、ということになろうかと思います。このお知らせ内容を読みますと、特別損失の発生と売上高、経常利益(引当金の積み増しと売上債権の繰越)の減少ということでありますが、まずこれらの修正要因となった項目につきましては、いずれも株式交換に関する税制改正によって、この10月から課税対象になるものばかりであります。(特別損失に関しては不振店舗の固定資産、固定資産除去損、ノウハウなど無形固定資産の評価換え)もし、これまでと同様の手法によって株式の非公開化を目指すのでありましたら、そういった課税対象となってしまう項目については評価を低くしておくことも十分ありうる話でしょうから、つまり、この8月の段階において、すでに株式非公開化の流れというものは経営陣のスキームとして成立していたのではないか、という推測が働きます。(なお、実際にはレックスは種類株式発行会社にしてから、全部取得条項付種類株式に転換する定款変更を行い、種類株式と交換に端数株式を少数株主に付与する、といった手法をとって税制改正に対応することになりますが・・・ただ、これはこれで、また別の法律上の問題点があるのではと。これはまた別の機会に・・・)

もちろん、レックス側からは「特別損失の発生については、当期から会計基準が変わったのだから、これを計上するのはあたりまえでしょ」と言われそうでありますが、不振店舗の固定資産の評価というものは、その店舗の最近の売上だけでなく、将来の店舗の収益見込みにも影響されるものでありますから、経営者による裁量の範囲はかなり大きいと思われます。これは無形固定資産の見直しでも、引当金の積み増しでも同様のことが言えるのではないでしょうか。そうだとしますと、監査法人から強く要請がなくても、経営陣側の主導によって、このような高額の特別損失を計上することも可能になってくるのではないでしょうか(このあたりは、ぜひ会計士の先生のご意見なども伺ってみたいところでありますが)このあたりの時期から、非公開化を射程においていたとすれば、こういった業績予測の修正を行うことは株価低落に繋がることは目に見えているわけですから、株価低落後の平均株価を基準として個人株主から株を譲り受ける金額、つまりTOB価格を決定することについては、取締役の忠実義務(株主の利益の最大化をはかる義務)との関係では、ちょっと問題が出てくるのではないかなぁと思ったりもしておりますが、このあたりはどうなんでしょうかね?とりわけレックスHDの代表者の方は、TOBをかけるSPVの3分の1を保有するわけですから、株主の利益を最大化しなければいけない義務を有しつつも、一方でできるだけ安い価格で株を買取ることに特別の利益を有する立場でもあるわけです。こういった立場にある以上は、その若干首をかしげたくなる行動に対しましては、「私利私欲のために動いたのではないか」と疑われてもしかたのないところでありまして、それがゆえに個人株主に対しての十分な説明が必要になるものと考えます。これがまずレックスHD事例における私の最初の疑問点であります。ここまではほとんど法律上の論点というものが出てきておりませんが、次回には一般株主による売却機会の喪失への責任とTOBによる免責の関係について、考えてみたいと思います。

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コメント

カネボウ個人株主の権利を守る会代表、及びアドバンテッジ牛角会暫定代表の山口三尊といいます。
現在、弁護士とともに、レックスに対する法廷闘争を準備中です。
※ 本日、アドバンテッジの竹井友二らを刑事告発します。内容はブログにて。

投稿: 牛角会山口 | 2006年12月 4日 (月) 08時46分

http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/
アドレスはこちらです。
役会議事録閲覧申立書、弁護士の山口先生がご興味ありましたら郵送します(下書きはアップされてます。)。

投稿: 牛角会山口 | 2006年12月 4日 (月) 09時52分

>牛角会山口さん

はじめまして。ご紹介どうもありがとうございます。
お心遣いはたいへんありがたいのですが、そちらのHPにアップされた情報のみにて結構でございます。もし私の意見に舌足らずな面がございましたら、どうぞご遠慮なくご指摘くださいませ。

と、いいますのも、エントリーのなかにも書かせたいただいたのですが、カネボウの件にせよ、レックスの件にせよ、私はあくまでも「第三者的立場」からの(といいますか、こういった事態を目の当たりにした役員という立場からの)リーガルリスクを検討することに留意したいと考えております。どちらかの意見に賛同を表明するスタイルもあろうかと思いますが、そうしますとブログという性格上、冷静かつ客観的な意見がこのブログに反映されなくなる可能性も否定できません。もしこのブログに山口さん方とは別の意見がコメントされたり、私自身がそちらと違った視点で物事を考えているほうが、おそらくそちらの今後の対策にも有益ではないでしょうか?
そのあたり、お汲み取りいただけましたら幸いです。
なお、今後もこの事例に関するエントリーは続編を予定しておりますので、山口さんのご意見につきましては積極的にお書きいただいて結構です。もちろん私も進行中の法的手続きへなんらかの影響を与えるような発言は差し控えますので、(といいますかそこまでの力はございませんが・・・・)どうかご安心ください。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2006年12月 4日 (月) 10時49分

>牛角会山口さん

ここは“高尚なる”井戸端会議の場所ということですので、どうぞ“品格ある”行動を取られるよう希望します。

投稿: unknown | 2006年12月 4日 (月) 11時53分

山口先生、品田です。ちょっとアメリカの大学に用事があったもので、しばらくご無沙汰でした。
私もカネボウ株主の会の告訴記事を読みましたが、この記事内容が事実だとするならばファンド側からカネボウ社へ送り込まれた役員の方は利益相反取引になるかどうか、といった故意は認定されてしまうのではないでしょうかね。しかし本当にそんな簡単なことなのでしょうか。カネボウ側にもなんらかの理由があったということでないと、ここまで明確に背任行為をするということは考えられないと思います。しかしこういった利益相反取引が真剣に取り上げられる、ということは今後も少数株主として売却しない株主の存在というものも、バイアウトMBOの場合には大きな意義がありますね。要はこういった活動を通じて判例が形成されていけば、MBOのリーガルリスクも把握できることになるかもしれません。
品格のないコメントで申し訳ありませんが、率直な感想を書かせていただきました。

投稿: 品田雄二 | 2006年12月 4日 (月) 13時50分

山口先生、ずいぶんとごぶさたしています。
コメントしずらい立場にいるので、一般論の形で関連する事項について、ちょっとだけコメントさせていただきます。
公開買付制度・大量保有報告制度の改正については、ご高承のとおり、6月14日に公布された証取法の一部を改正する法律2条に規定されており、公布の日から6ヶ月以内に施行となっているところです。まだ最終的に確定していませんが、9月13日から10月13日の期間、証取法施行令案や公開買付開示内閣府令案等がパブコメ(http://www.fsa.go.jp/news/18/syouken/20060913-1.html)に付されており、その中で、利益相反の問題について、ディスクロージャーの観点から一定の手当てをしようとしています。例えば、公開買付開示内閣府令案13条1項8号で買付価格の算定に当り参考にした第三者の意見書や評価書があれば、その写しを公開買付届出書の添付書類として提出すること(まだ案ですので、最終版でどうなるかは不明ですが)、公開買付届出書や意見表明報告書の様式の中で、利益相反を回避する措置を講じているときはその内容を記載させることが提案されています。
私見では、このような規制は、開示を通じて利益相反回避措置として適切なものがとられることをを期待しているのですが(開示を通じた間接的な規律を狙うもの)、そういう措置をとっていない場合に公開買付法制の中では対処仕切れない点で、そして一般株主の側の利益を無視した事態に対して、司法救済もなかなか見出し難いのが現状ではないかと思われます。
あまり当局の批判をするつもりはないですが、法制度としては実体の規制にまで踏み込むことが不可欠ではないかと考えています。
アメリカのあり方を参考にするのはいいのですが、連邦法では州の専属的な会社法にかかわる部分には踏み込めないために、開示中心になっている(憲法上、そうせざるをえない)という側面をしっかり考慮のうえ、わが国の制度構築の議論が進んでほしいと願っています。昨年のTOBワーキンググループの報告の内容をなぞっただけでは、まだまだ穴が残ってしまう、というのが実務家としての偽らざる実感です。
なお、反対ならば応募しなければいい、というご意見もあると思いますが、その後にどういう事態になるか、実際の例は多くないですが、少数株主として残った者の立場は非常に劣位であるのは疑いがなく、実際に案件でやっておりますが、反対株主の買取請求権も実際には少数株主の権利保護としては十分とは言い難いと思います。

立場上、本論に切り込んだコメントができないため、概論で失礼します。
また時折お邪魔させていただきます。
向寒の折、ご自愛ください。

投稿: 辰のお年ご | 2006年12月 4日 (月) 14時32分

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