日興コーディアルの役員会と内部統制
(12月25日深夜追記あり)
ブログの更新が進まなかったこの2週間ほどに、金融審議会から「監査法人制度改革報告書」がまとめられたニュースや、日興コーディアルグループによる(とされている)不正な会計処理に関する一連のニュースなど、このブログをお読みの方には関心のある話題が世間で賑わっておりました。なかでも、23日の日経朝刊では、社外役員による反対意見を押し切る形で2005年3月期の利益水増しに関する決算書が作成されていた、というニュースは、「社外取締役、社外監査役と企業コンプライアンス」をテーマの一つにしている当ブログとしても、たいへん関心のある記事でした。日興側が課徴金納付に応じる、ということのようですので、果たしてどこまで証券取引等監視委員会の把握している情報がオモテに出るのかは不明でありますが、これだけ「内部統制」に関する社会的な関心が高まっている時代ですので、ぜひとももうすこし内容が明らかになってほしいなぁと思っております。たとえばダスキン(大肉まん違法添加物混入に関する)株主代表訴訟におきましては、違法添加物混入の事実が調査委員会の把握するところとなった時点におきまして、おひとりの社外取締役の方が「いまならまだダスキンの信用低下を食い止めることができるから、ともかくも早く世間に公表すべきである」として当時の社長に書簡を送っておられたのでありますが、この方は代表訴訟の被告からははずれておりました。たとえば、今回の日興の事件におきまして、もし「企業ぐるみ」の不正会計処理、といった認識が正しいのでありましたら、取締役会における意思決定についても今後議論の対象になってくるものと思われますが、「粉飾ではないか」と疑義を表明していた役員の方々の責任というものについてはどのように考えればいいのでしょうか。軽々に意見を述べることもできないかもしれませんが、基本的には取締役会議事録に、その意見表明(最後まで反対の意思をもっていたことを示す)が記入されていない限りは、賛成されていた役員方と同様、「消極的ではあるにせよ、賛成の意思を表明していた」と評価されることもありうるのではないか、と考えます。
ただ、上記の取締役会におきましては、すでに監査法人による適正意見が述べられている、という事情があったようですね。社外役員の方々にどこまで財務会計的知見がおありだったのかは存じ上げませんが、公正妥当な会計基準の適用に関する問題点に関する意見の相違があったのでしょうから、ある程度は監査法人の意見にしたがって「やむをえず賛成した」ということが真実でありましたら、免責される可能性も高まるかもしれません。(このあたり、まだ真実がどのようなものであったのかは、報道されているところからは判明していないようですが)しかし、こういった重大な問題が、あいかわらず企業トップだけが責任をとって決着される、ということでありますと、内部統制ルールを導入したり、経営者による確認書制度が法制化されたり、といった制度改革も、これから先、どこまで有効性を持つのか、すこし不安になってしまうのではないでしょうか。とりわけ今回のように、証券取引等監視委員会が課徴金を課すための前提として、さまざまな調査をして、結論として対象企業の内部統制に問題あり、とした場合に、その企業の(経営者による)内部統制評価を適正とした監査法人は、その適正意見になんらかの責任が発生しないのでしょうか。金融商品取引法の成立に当たり、衆参両議院から附帯決議がなされておりますが、その決議によりますと、課徴金制度については、その運用をみて2年ほどで見直しをする、とあります。したがいまして、ここ2年ほどは、(運用実績を作る必要がありますので)積極的に課徴金賦課を前提とした調査や報告の徴求、さらには金融庁への勧告、建議がなされることは間違いないと思いますが、そういった活動のなかで、経営者の内部統制評価や内部統制監査人の評価と食い違う場面というものがいくつも出てくることが予想されます。「内部統制の限界」論で逃げてしまうことや、内部統制報告制度と課徴金賦課制度とは、その制度目的が異なるから、評価が異なることもあたりまえ、と主張することなども考えられますが、こういった場面で、内部統制報告制度が有効に機能しないことをはじめから認めてしまうといたしますと、ずいぶんと財務報告の信頼性確保という制度趣旨からすれば、魅力が半減してしまうようにも思います。
このたびの不正会計処理に関する事案におきましては、当時の監査担当法人の方々が、「どのように訂正報告書をまとめるか」苦渋されているとお聞きしておりますが、今後も課徴金制度と内部統制報告書制度や確認書制度との関係で、監査法人さんが苦労される場面というものがしばしば起きるのではないでしょうか。そういった意味で、金融審議会で話題になっておりました「監査役による監査人選任権、報酬決定権」など、会社法上の監査役の権限強化によって、監査人の独立性を強化する、ということも十分検討されるべきではありましょうが、そうなりますと今度は監査役の責任も現状よりも重いものになるような気もしますし、ここでもムズカシイ問題が発生してしまうことになりそうです。この論点につきましては、もう少し日興コーディアル問題の帰趨をみてからまた検討してみたいと思っております。
(追記)
日興コーディアルの会長、社長辞任会見の席で、特別調査委員会による解明がなされる予定であることが明らかになったようです。(毎日ニュース)記者会見では組織的関与があったことは認めるものの「利益かさ上げを目的としたものではない」と弁明されておられます。では、何のために監査法人と協議のうえ、SPCの連結はずしが行われたのでしょうか。
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コメント
こうも色々な事件が起こる(明るみに出る)と、「財務・会計の相当の知見あり」などとは、とてもじゃないが、”怖くて”事業報告に書けなくなってしまうのではないでしょうか(監査役の場合)。
また、「コンプライアンスの観点から取締役会・監査役会において積極的に発言をしました。」などという”決めゼリフ”も、同じ理由で”地雷”のようなものと言えるのではないかと思います(法律専門家である社外役員の場合)。
こういった点の”冷静な”論稿が見当たらないのですが、もっと真剣に議論されて然るべきと考えます。
(会計監査人の責任論でユニークな説を展開されているY教授あたりが、書いてくれないかなぁ。)
投稿: 監査役サポーター | 2006年12月26日 (火) 23時10分