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2006年12月10日 (日)

監査法人改革案「論点整理」

12月8日の金融審議会(首相の諮問機関)に、金融庁より「監査法人改革案・論点整理」が提出され、いろいろな改革案の是非が議論されたようであります。詳細は9日の日経新聞朝刊に掲載されておりましたが、一部朝日ニュースでも関連記事が掲載されています。今後も金融審議会で関係各団体と協議され、2007年の通常国会に改正法案が上程される、ということで今後の進展が注目されるところです。

とりあえず、監査役制度と関係の深いところからまとめてみますと、

(監査役の職責と関連のある部分として)
 ・監査法人への改善命令導入(ほぼ決定) ← 監査役と会計監査人との関係
 ・監査法人に対する刑事罰導入(未定)    ← 監査役と会計監査人との関係
 ・監査役による証取監査人選任権(未定)  ← 監査役の権限強化
 ・監査法人の不正報告義務化(未定)     ← 監査役との連携、協調問題
といったところのようです。

そのほか、朝日ニュースにもありますように、監査法人への課徴金制度導入についても、ほぼ異論なく認められそうな流れになっているみたいですね。今年の中央青山の業務停止命令による実務の混乱から、課徴金制度や業務改善命令といった「中間的」処分が必要とされる理由(社会的要請?)はなんとなく理解できるところです。ただ、こういった行政処分制度が導入されますと、刑事手続とは異なり、比較的緩やかなデュープロセスによって監査法人の調査受忍義務や報告義務が認められるでしょうから、今後は監査法人自身による内部統制がきちんと整備される必要がありそうです。

ただ、現首相による「再チャレンジ政策」というのは、直接金融制度の充実とも関係しているようですので、資本市場の健全性を推進するのはいいですけど、そのしわ寄せが監査法人の権限強化や責任強化につながる、というのもなんだか片面的にすぎるように思われます。私が現在、コンプライアンス調査として依頼を受けている業務におきましても、「循環取引(宇宙遊泳?)」のからくりにいち早く気づいたのは監査法人でしたし、疑惑のある顧問先に商品納入先の企業の「売掛債権の存在」を示す証憑を強く要求したのも監査法人です。かなり監査法人の監査対応が厳しくなっていることは間違いない事実です。監査法人が顧問先企業と向き合う姿勢を少し変えただけで、顧問先企業の不正会計への対応は大きく変わるところですし、あまり大きな監査制度の改訂まで進む必要はないように思われます。むしろ大きく変えなければいけないのは、不正会計防止へ向けての経営者の姿勢だと思いますし、たとえば財務報告の信頼性確保へ向けた内部統制システムの構築にしても、経営者が不正会計防止の重要性を認識しているのであれば、おそらくそんなに大きな費用を捻出しなくても評価報告書は作成できると思いますし、適正意見も監査人からもらえると思います。(いま企業にある人的、物的リソースを、どう使いこなすか、全社的に検討することが一番です)誰かにまかせっきりにしたり、監査法人のアドバイスに完全に頼ってしまう、ということになりますと、どうしても費用は高額になってしまうのではないでしょうか。

これからの公開株式会社法のソフトロー部分を実務で支えるのは、まちがいなく「会計士さん」方です。また改正信託法の実務運用を支えていくのも、おそらく会計士さん方だと予想しております。企業社会に対して「モノ言う会計士」さん方がたくさん増えるのを、これからも期待しております。(とりあえず、今日は備忘録程度に留めておきます)

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コメント

こんばんは。

久し振りなので、このエントリーについてもいくつかコメントさせて頂きます。

(1)公認会計士の先生方にはまさに逆風ですが、先生方からもっと異論が出てきてもいいように思います。このままでは、公認会計士の先生方は国家機関の機能の一部を強制的に(=種々のペナルティ賦課を担保として)担わされることになってしまわないでしょうか。そして長期的にみれば、これは産業界にとっても必ずしも得策ではないように思います。
(一部業界が道路特定財源の一般財源化を反対しているのと同様、「関係業界」として反対の意思表示を鮮明にすることは決しておかしなこととは思いません。あまり卑屈になる必要はないと思います。)

(2)考えてみれば、今回のように「政治絡み」になっているケースでは、公認会計士業界の「政官」との距離感というか影響力も関係あるのかもしれません。弁護士との比較でいうとこの点は明らかでしょう。
・弁護士出身(資格を有する)国会議員は結構いますが、公認会計士出身(資格を有する)国会議員は極めて少ない。
・法務省所管法律を法務省で立案している人の多くは法曹(退官後はほぼ自動的に弁護士に「なれる」)ですが、金融庁所管法律を金融庁で立案している人の中に公認会計士資格保有者は少ない(また、退官後自動的に公認会計士に「なれる」訳ではない)。
つまり、弁護士業界に厳しい法令は「構造的に」生まれにくくなっているのと比較すると、公認会計士の先生方は気の毒だなぁと思う訳です。法令は「権力装置」だが、会計基準や監査基準は「権力装置」ではない、という違いも関係しているのかもしれませんが(尤も「会計基準」「監査基準」も「法令」に含まれると見ると、話はそう単純ではありません)。

(3)金融審議会公認会計士制度部会には現役監査役の方が2名入っています(正確にいうと、うち1名は「監査委員」ですが)。しかも1名は部会長です。このことをどう見るかはなかなか興味深いところですね(特に、監査役に会計監査人選任権や会計監査人報酬決定権を付与するかどうかという論点)。
・・・ところで、部会のメンバー呼称として「委員」と「臨時委員」と「専門委員」がありますが、この違いは何なんでしょう。あと「幹事」というのもありますが、通常の日本語でいうところの「幹事」とは意味合いが違うように思います。これらをどなたかご存知でしたら、ご教示頂けませんか。(そんなこと知ってどうする? 我ながらそう思います。ただ、疑問に思っただけですので。)

毎度与太話で恐縮です。

投稿: 監査役サポーター | 2006年12月12日 (火) 23時29分

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