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2007年1月31日 (水)

日興CG特別調査委員会報告書(速報版)

ざっと資料も含めて120ページほどの日興コーディアルグループ特別調査委員会報告書を読ませていただきました。(しかし、ある程度の興味もしくは関心をもってフォローしておかないと、これはザッと読むのもシンドイですよね・・・)すでに前のエントリーにおきまして、この調査委員会の「プロによる事実認定と事実分析が大いに楽しみ」と書いておりましたが、予想をはるかに超えた内容で、ひさしぶりにドキドキさせていただきました。あまりにも多くのことを感想として抱きましたので、またきちんと読ませていただいたうえで、考えをまとめていきたいと思っております。また、いろいろな方と議論しながら今後の不正検査の実務の参考にさせていただこうかと思っております。本来、こういった調査報告書といいますのは、これで「自己完結型」を目指そうとするわけでありますが、詳細な事実調査のうえで、不正関与が疑われている役職員の方々に対して反論の余地をきちんと残しているところが「スゴイ」ですね。逆に、ここできちんとした反論ができない場合には、そのこと自体が不正行為への関与を決定付ける(つまり事実とその責任が確定する)といった流れになるんじゃないでしょうか。

各新聞やニュースの報道では、この報告書が「組織的関与を認定した」と書いておられるようですが、どこを読んだら「組織的関与が認定された」と理解できるのでしょうかね?私の理解ではそもそも「組織」というのはNPIのことなのか、NCC(報告書では、日興CG本体をNCCと表示)まで含めてのことなのか、というところもよくわかりませんし、なにぶん「ドレッシング」(粉飾)の動機がどこにあったのかすら、よく理解できておりません。おそらく組織的関与があった(組織ぐるみ)といえるためには、これに関与した人たちの不正行為に対する動機がどこにあったのか、といったところに結論を出さないと断定はできないのではないでしょうか?(調査委員の方の記者会見での発言によれば、業績連動報酬による個人的利益の問題ではないか・・・とのことでありますが、そういった記載は報告書には見当たらないようであります)ただ、報告書のなかで示されている「会議メモ」(全文が掲載されております)が「何を語るのか」、このあたりも関心のあるところですし、忽然とサーバーから消えたNPI元社長のメールの内容が、じつはもっとも「組織的関与」にとって重要な事項が含まれていたのではないか、などと考えますと「ITと内部統制の重要性」に思い至るところでもあります。また、組織的関与というところが(私的には)もうひとつはっきりしておりませんので、旧中央青山の関与、といったところも不明なままになっているように読めますが、いかがでしょうか。

また法律家や会計士さんのブログなどで、いろいろと話題になると思いますが、国税OB、公認会計士、証券業務に精通された著名な弁護士の方々を含めて構成されている監査委員会の本件に関する対応(監査委員会の活動状況)は実に興味深いところであります。社外役員の身の処し方について、大いに参考になるところであり、これも今後の検討課題になろうかと思われます。あと、監査法人のセカンドオピニオンの問題とか、企業情報の開示のあり方とか、そのあたりの企業会計にまつわる問題点もありそうです。(とりあえず、第一印象のみ記しておきます)

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2007年1月30日 (火)

皆様方へ諸々のお願いです。。

いつも拙ブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧いただき、ありがとうございます。すこしばかりお願いがございます。

ひとつは、最近学生の方や法務ご担当の方々より、メールにて質問を受けることが多くなりました。本来ならば、きちんと質問に対応するのがブログ開設者として、ご愛顧いただいている方への礼儀なのではありますが、なんとも本業を抱えている身ですので、深夜にブログをしたためるのが精一杯の状況であります。お返ししたい気持ちはヤマヤマなのですが、現状としましては、すべてに対応できない状況にありまして、そのあたりご理解いただければと思っております(こちらのブログにコメントいただけますと、すこしお返事は遅れますが、また私を含めて、いろいろな方がご意見を返していただけると思いますので、よろしければコメントをご利用ください)

そしてもうひとつは、コメントを付されるときに、ご自身のメールアドレスの書き込みはなるべくお控えいただいたほうがよろしいのではないか、ということであります。拙ブログは、名前さえお書きいただきますと、メールアドレスを付さずともコメントをお受けするような設定にしております。なかには会社名などが判明してしまうようなアドレスも散見されますので、皆様方にご迷惑をおかけすることにもなりかねません。(なお、名前もお書きになっておられませんと、こちらでいちおう「unknownさん」として登録させていただいておりますが、今後のお返事のやりとりのためにも、お名前だけは付しておいていただきたいと思っております)どうか、今後とも、マニアックなブログとして、さまざまな情報、意見の発信に努めてまいりますので、どうかご協力のほど、よろしくお願いいたします。

PS

天満橋の松坂屋5階の「ミドリ電化」でマイクロSDを購入したのですが、かたわらにWINDOWS ビスタのいろんなバージョンが山積みになっていましたけど、あれって特別に並ばなくても買えるのですかね?今朝の新聞では、秋葉原のフィーバーが記事になっていましたが・・・・・

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2007年1月29日 (月)

企業の不作為と刑事犯罪の成立(パロマ事件)

すでに皆様ご承知のとおり、1月27日にパロマ工業およびその親会社であるパロマ社に対して警察庁による強制捜査が行われまして、相当数の資料が押収された、とのことであります。28日の読売新聞の報道によりますと、経営陣の不作為の立件を視野にいれているとのことでありまして、再建計画にも大きな影響が出る可能性が出てくるかもしれません。2005年11月に発生した18歳の大学生の方の死亡事故のみが、業務上過失致死被告事件の公訴時効期間(5年)を経過しておりませんので、この最後の1件が、警察庁にとりましては、刑事責任追及のためのヨリドコロになるものと思われます。(もちろん、今後、5年以内の被害発生の事実が判明すれば別でありますが・・・)

1 不作為による業務上過失致死罪成立の可能性

ところで、このパロマの強制捜査の件でありますが、最近のいろいろな企業不祥事発生の報道ニュースに気をとられてしまいまして、「いまごろ、パロマの強制捜査?ずいぶんと遅いのではないか?」といったイメージを持って受け止められてしまいそうでありますが、今後の企業コンプライアンスを考えるにあたって大きな意味を持つかもしれません。といいますのも、経営陣の刑事責任を問うために、経営陣の「不作為」に対して業務上過失致死罪の適用が考えられているからであります。普通は交通事故や医療ミスなどでも連想できますように、被疑者による何らかの「作為」があり、これが「本来要求される注意義務を尽くさずに、漫然と作為に至った」ことを構成要件該当事実と認定するわけでありますが、先の読売新聞のニュースにもありますとおり、今回は一企業の経営陣の「不作為」を問題にするわけであります。「なにもしなかった」ということが果たして業務上過失致死事件の構成要件に該当するのでしょうか。「不作為」をもって刑事事件で有罪となるためには、パロマの経営陣の作為義務、つまり被害者を出さないための行動が容易にとれた状況にあり、また死に至るような被害者が出ることが容易に予想できた状況であったために、経営陣がこの当時、具体的にこのような行動に出なければならなかった(具体的な作為義務の特定)にもかかわらず、経営陣はあえてそのような行動に出なかった、というところまでを警察検察が立証できなければ立件は困難なはずであります。さらにやっかいなのは、「作為」が存在するのであれば、被害者の死亡との間に因果関係が比較的容易に認定できるはずでありますが、「不作為」となりますと、目に見える行動が存在しないために相当な因果関係の有無がかなり曖昧であります。たとえばパロマの件におきまして、修理業者による「不正改造」というものが中間に介在していることが予想されますが、もし不正改造が被害者の死亡と関係している場合には、「たとえパロマの経営陣がきちんと作為義務を尽くしていたとしても、被害者が死亡していた可能性がある」ということになり、因果関係が認められず、業務上過失致死の構成要件該当性は否定されることとなります。

きちんと調べたわけではございませんので、すこし誤解があるかもしれませんが、エイズ薬害刑事事件(厚生省ルート)の裁判において、厚生省の担当課長さんが「不作為による業務上過失致死罪」によって有罪判決を受けたことがあったと記憶しております。あのときも不作為の業務上過失致死というものが認められるのだろうか、といった議論があったかと思いますが、国民の生命の安全を守ることに高度の職責を有する行政官であったことや、行政庁という立場上、作為義務の根拠となる「被害状況に関する事実の認定およびその情報分析の機会および能力」があること、そしてどのような被害回避措置をとるべきか指揮監督できる能力を具備していたことなどが、刑事責任を基礎付ける理由になったのではないかと推測いたします。果たして、このたびのパロマの経営陣につきましては、このエイズ薬害刑事事件のときの行政官と同じように、作為義務を基礎付ける根拠がそろっているといえるかどうかは、まだまだ未知数ではないでしょうかね。もちろん強制捜査がなされているわけでありますから、裁判所の令状が発令されているわけでして、ある程度の根拠もあるかもしれませんが、令状が出るのと、刑事事件で関係者が有罪となるのは、その立証の程度において大きな違いが出てまいりますので、押収された資料等から、非常にハードルの高いところを飛び越えることができるような証拠を見つけ出さないといけないのが現状ではないか、と思ったりしています。

2 企業法務への投影

ただ、パロマの事件におきまして、本当に「不作為による業務上過失致死事件」が立件され、有罪と認定されるような場合には、企業法務的にはかなり大きな影響が出ることが予想されますので、今後も本件についてはフォローしておくほうがいいのではないでしょうか。先に述べましたとおり、もし「作為義務」というのが企業トップに課されるのであれば、それはどのような業種の経営者に課されるのか、その企業の取締役会でどのような議論がなされるべきなのか、情報収集はどのようにしなければいけないのか、収集された情報をもとに、経営陣はどのような事実確認を行い、そしてどのような行動に出なければいけないのか、といったことが公権的解釈として示されることになるはずであります。とりわけ、自社製品によって人的被害が出た可能性が高まった場合などには、その企業の経営者はいったいどういった内部統制システムを構築して、更なる被害拡大を未然に防止すべきなのか、企業の自立的規範のあり方を考えるうえでの重要な指針を与えるかもしれません。

そしてもうひとつ、企業法務的に重要でありますのは、こういったパロマの事件に業務上過失致死罪が立件されるといたしますと、おそらく今後、企業不祥事がマスコミ等で騒がれた場合には、被害者や一般の方による告訴、告発が増えるのではないか、という企業リスクの問題であります。被害拡大を抑止するための対策を企業が怠ったようなケース、たとえば組織ぐるみで公表を差し控えていたとか、被害事実をまったく分析していなかったようなケースにおきまして、被害者や一般市民にとりましては、損害賠償請求や代表訴訟などの民事的救済措置を検討するだけでなく刑事訴追を要求するために、もしくは民事賠償のために必要な事実認定の資料を確保するために、まずは告訴告発を利用して捜査機関に動いてもらう、といった戦略がとりやすくなるのでは・・・とも思えます。これは企業のリスクとしても大きなものとなりますが、経済刑法の分野において、捜査機関にとりましても、大きな負担になってくると思われます。ただ、そういった時代が到来することが、今後の企業不祥事防止にとって、ひとつの有効な手段になるのかもしれませんし、それが当然の時代背景となりつつあるのかもしれません。もし、こういった問題の整理のために、「不作為による業務上過失致死罪適用」に関する有益な先例などをご存知の方がいらっしゃいましたら、またご教示いただけますと幸いです。

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2007年1月27日 (土)

内部通報制度の実質を考える

昨日仕事の関係で、大阪に本社を置く内部通報コンサルタント会社の社長さんといろんな話をする機会がございました。資本金5億円以上の企業(上場、非上場問わず)に対するホットライン(ヘルプライン)の管理や、整備に関する相談業務などをやっておられるのですが、やはり内部通報に関する現場で毎日悩んでいらっしゃる方のお話は机上の理論とはかなり違いまして、我々の業務にもかなり参考になりました。あたりまえのことかもしれませんが、やはり「公益通報者保護法」や「内部統制システム整備」などが話題になる前から社内ホットラインを整備されておられる会社は有効に機能しているケースが多く、「法律で決まったから」「内部統制が問題になってきたから」ということで導入されている企業では、ほとんど有効に機能していない、という実態がはっきりと認識できました。先行しているから進歩している、ということではなく、やはり法律以前の問題として、内部通報のメリットを十分認識している企業では、自社特有のシステム(有効に機能しているかどうかを検証するシステムにいたるまで)というものを工夫しておられるようで、それが不祥事の早期発見、社内処理による早期対処を実現しているようであります。

不二家事件に関するエントリーは、このブログでは2つほどしかアップしておらず、その続報もフォローしておりませんでしたが、埼玉工場においては食品衛生法違反まで疑われる状況になっており、本当に「いもづる式」に不祥事が発覚しているようで、ついに事業再編の話まで現実化してきたようであります。言葉は適切でないかもしれませんが「たった一日遅れの消費期限切れの牛乳プリン販売」という事実が、より大きな不祥事発覚の誘因となり、企業の存続問題に発展するという、まさに企業にとりましては、背筋の凍るような話であります。これが内部通報を発端としたものである、とまでは断言できませんが、こういった不二家の事件経過をみていきますと、素人疑問として、ふたつのことがまず頭に浮かんできます。ひとつはなぜ不二家はここまで不祥事が話題となり、TDL(東京ディズニーランド、オリエンタルランド社)は、2年3ヶ月も消費期限が過ぎたチョコレートを販売したのに叩かれないのか、ということであり、もうひとつは、不二家でここまで食品衛生面で大きな問題となるような過去の不祥事が発覚したにもかかわらず、なぜその「過去の時点」において内部通報とか社外告発といったことが発生しなかったのか、というものです。ひとつめの疑問につきましては、また別の機会に考えるとしまして、ふたつめの疑問について、「内部通報制度の実質的な効果」を考えてみたいと思います。

上記の事実から推測されることは、①内部通報制度が社内において整備されていないか、もしくは整備されていても事業所、支店に至るまで広く周知されていなかったのではないか、②整備され周知徹底されていたとしても、従業員は内部通報制度を利用する気持ちはなかったのではないか、というものであります。企業コンプライアンスのお手本からすれば、①の方向に力点を置いて、今後の対策を検討したいところでありますが、じつは②のほうが本当の意味で改善策を検討しなければいけないところのようであります。なぜ、内部通報制度を整備して、これを社員に広く周知して、なおかつ社長が訓示として「なにかあれば社内通報制度を利用してください」と広報しても、内部通報制度は機能しないのでしょうか?

1 「内部通報システム」に対する従業員のイメージは?

企業がヘルプラインを広報すればするほど、その窓口は、どうも従業員には「特別の窓口」というイメージを抱く場合が多いのだそうです。窓口が監査役だったり外部の弁護士だったりすると、もうそれだけで「違法行為」を頭に描き、告発をためらうケースが実に多いとのこと。たしかに、よく考えてみると、なにが食品衛生法違反で、なにが違法でないか、など一般の従業員にはあまり理解できないところでありますから、躊躇するのも当然のような気がいたします。そこで、内部通報制度が有効に機能している企業では、内部通報制度とは別にかならず「よろず相談窓口」のようなものを設置して、そこに心理カウンセラーや産業カウンセラーのような方を置き、「直接ヘルプラインへの申告はためらわれるけれども、よろずお悩みコーナーだったら・・・」という気持ちで、そちらへ違法行為の告発をされるケースが多いのだそうです。また、内部通報を発信する従業員だけではなく、従業員から相談を持ちかけられる上司のための「お悩み窓口」というのも有効だそうであります。上司のストレスの一番の原因が「部下の悩みに長時間付き合わなければいけない」ということでありまして、この上司のよろずお悩み相談は、企業活動の効率性を向上させるだけでなく、そこから違法行為発生の端緒を把握することもよくある、とのことのようです。(この発想も、昔からヘルプラインを設置している企業のアイデアのひとつだそうであります)

2 社員から「経営陣」の顔は見えるか?

これは、その内部通報コンサルの社長さんが、社外告発をしようと悩んでおられる従業員の方々との相談業務から感じることだそうですが、社外告発は、本社従業員よりも支社、事業所の社員さんのほうが圧倒的に多く、また上司の対応におおいに不満を抱いているが、社長や監査役などが「尊敬できる人」であるがゆえに、告発をためらっている、ということが多いそうであります。つまり、従業員から経営トップの顔が見えないとか、従業員にとって経営陣が尊敬に値しない、といったところが、内部通報の利用ではなく、社外告発に影響を与えるというものであります。直接の社外告発も有効な場合がありますので、いちがいには申し上げられませんが、やはり社員から「顔がみえる経営者」であるかどうか、というところは内部通報制度の有効性に影響を与えることは間違いないようです。経営者が内部通報制度の普及をはかる段階におきまして、「ぜひこの制度を利用して、あなたがこの企業を変えてほしい」といった趣旨の表現を誠実に表明しなければいけないのかもしれません。

内部統制システムの構築の一貫として「内部通報」をとりあげますと、どうも先の①のほうばかりに注意がいきますが、これは経営者サイドにたって、経営者がどうすれば自分の責任を免れるか、といった視点に偏って物事を考えているからかもしれません。今回の不二家の事件の経過を追ってみて、もし事件の端緒が内部通報によるものだとすれば、どうしていままで有効に機能しなかったのか、もし機能していたら、経営者の積極的な不祥事公表の必要性まで含めて検討できたわけでありまして、そうだとすれば事業再編の話まで持ち上がるような事態にはならなかったのではないか、とも思います。いずれにせよ、いつも申し上げますとおり、事前規制から事後規制へと社会のサンクションのあり方が変容するなかで、企業不祥事の公表のあり方や、内部通報制度のあり方、企業内における事実認定のあり方など、その企業価値に大きな影響を与える管理行為について、もっと議論を深めていくべき時期にきているのではないでしょうか。(なお、内部通報制度と監査役との関係につきましても、昨日はいろいろと興味深いお話をお聞きしましたが、その内容はまた別の機会にエントリーさせていただきます)

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2007年1月25日 (木)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想(その5)

本日は上京して日本取締役協会の内部統制研究会に参加してまいりました。(たいへん有益なコメントをいただいておりますが、ちょっと明日の用意がございますので、帰りの新幹線のなかでとりまとめた下記のエントリーをアップするだけで、また明日にでもコメントにはお返しをさせていただこうかと思っております>七條権米さん、胡桃さん、監査役サポーターさん)

これまでは規模の大きな企業のご担当者の方をお招きして、米国SOX法やJ-SOX法に基づく内部統制システムの構築運用状況をお聞きする機会が多かったのですが、きょうは企業会計審議会内部統制部会作業部会の専門委員でもいらっしゃるA監査法人のH先生の「J-SOXにおける実施基準」の解説を2時間拝聴させていただきました。(実際には解説の途中でも、いろいろとご意見をください・・・とのことでしたので、私も4回ほど質問させていただきましたが)なかなかユニークだったのは、本日の解説のために仮想の「公開草案に対する意見書(とりわけ監査基準に関する意見)」といったものをお作りになってこられまして、その意見書のなかに「私見」として今後の実施基準を読み解くヒントとなる考え方も表明されていたところであります。また、実際に監査法人においてかなりの数の企業について「内部統制システムの整備運用」を支援されてきただけに、正直にJ-SOXの「よくわからないところ」への悩みも吐露されておられまして、東京まで寄せていただいた甲斐はございました。

J-SOXの実施基準の確定版は、本来ならば1月20日前後に公表される予定とのことでしたが、なんと190本もの意見書が届いているとのことで、最終確定版がリリースされるのは2月10日以降にずれこむとのこと。(しかし190となると、いちいちコメントを公表するだけでもたいへんですね。いや、全部吟味されていたら、もっと時間がかかるんじゃないでしょうか)また、これを受けて、3月には公認会計士協会による内部統制監査の実施基準への実務指針が出される見込みのようでありますが、これはまだ流動的とか。エントリーのテーマは「パブコメへの感想」ということにしておりますが、本日の解説をお聞きしての意見をすこしばかり述べてみたいと思います。(以前の多賀谷教授のご解説のときと同様、以下はあくまでも私の個人的見解でありまして、ご趣旨を取り違えている場合もありますので、すべての責任は私にあります。その点のみご了解ください)

1 アメリカの統合監査とは異なるものである(内部統制監査の位置づけ)

財務諸表監査と内部統制監査とは、それぞれが投資家に対して企業情報の正確性を担保するための有力な資料となり、双方が統合されて監査が完了するというのが統合監査のようでありますが、日本はあくまでも「内部統制監査は財務諸表監査のための付随的な監査である」ということが確認されました。このあたりは部会の最初の段階で委員の合意をみたところのようであります。ところで、実施基準の監査に関する解説のなかで、内部統制に重要な欠陥がある場合には、そもそも財務諸表監査はできない、といった説明があったと思うのですが、それはこの「財務諸表監査の付随的なもの」といった前提とは矛盾しないのでしょうか。(付随的なものであれば、重要な欠陥に目をつぶって、財務諸表監査に進むことができそうな気もするのですが、いや、これはあくまでも私個人の単なる理屈のうえでの疑問でありますが)

2 ダイレクトレポーティングとインダイレクトレポーティングは「程度問題」である

(この表題は、私の理解でございまして、H先生がこのように述べたわけではございません。念のため・・・・・)理屈のうえでは、この両者は意見表明への監査なのか、独立した監査なのかというところではっきりと理論上は分かれるところだと思うのですが、このあたりはH先生も悩まれておられたようでして、結局のところインダイレクトレポーティングを採用したといってみても、監査人が「直接証拠」による監査意見形成が認められる以上は、「程度問題」と考えざるをえないと思います。このあたりは、昨年12月の米国SOX法の改定に関するSEC、PCAOBの規則(公開草案)をみてもおわかりのとおり、企業が多大な費用負担を余儀なくされた部分として大きな論点となっておりますので、ダイレクトレポーティングを採用しなかったことの妥当性は理解できるところではありますが、ただ理屈をきちんと詰めて考えますと、やはりCIAフォーラムの眞田先生の意見書にあるようなご批判が正当性を増すのではないか、と私は考えております。
なお、ここでひとつ疑問が出てきますのは、経営者と監査人との「協力関係」のあり方ではないでしょうか。実施基準では非監査業務の提供は原則どおりに監査人が経営者にサービスしてはいけないということを前提としつつも、できるだけ期中からあるべき内部統制システムの構築へ向けて、経営者と監査人が協力していくことを推奨されております。私はこれがダイレクトレポーティングを採用しないことと親和性があるからこそ、このような説明が可能ではないかと思っておりますが、もしダイレクトレポーティングを採用すべき、と言い切ってしまうと、このあたりはどうなんでしょうか?基本的には監査人の監査は財務諸表監査と同様の構造になってしまいますから、実施基準のなかで特別に「協力関係」を持ち出すことについては違和感が出てくるように思えますがいかがでしょうか。

3 内部監査人の評価結果の利用について

内部監査人のJ-SOXにおけるウエイトの高さは、このブログでも何度も申し上げてまいりましたが、やはりH先生も同様のことを強調されておられました。なんといいましても、たとえば有効性評価のためのサンプリング25件のうち、たとえば内部監査人が10件ほどのサンプリングを適正に行っている場合には、監査人はこの内部監査人の評価結果を利用できる、とのことでありまして、経営者(企業)にとりましては、費用負担の点で十分検討しておくべきところであります。ただし、ここにも理屈のうえでは問題が発生しているようであります。内部監査制度自体も、経営者に関する評価の一貫として、監査人の監査対象(全社的な内部統制)になっております。その監査対象である内部監査人による評価結果というものを、そもそもサンプリングの一部として利用できる、というのはちょっと矛盾が生じているのではないでしょうか。理屈はすこし違いますが、これは監査役を内部統制監査のなかでどう扱うか、という問題にも共通するところの「矛盾」でありまして、どうもキッチリとこのあたりを説明できるような理屈というのも、いまのところはよくわからないところです。高い理想は維持しつつも、できるかぎり企業や監査法人の負担を軽くしたい、といった内部統制報告制度全般に流れる課題を実行しようとすれば、こういったところにも疑問点が出てくるのはやむをえないことなのかもしれません。(うーーん、なんだか「産みの苦しみ」のようなものを感じるのは私だけでしょうか・・・・(^^;) )

その他、経理の状況以外の評価対象について、企業はどのような基準をもってその有効性評価を行うのか、持分法適用会社の内部統制というものをどうやって考えたらいいのか、業務プロセス監査と評価項目の選択などなど、非常に大きく、かつ重要な論点についても議論がなされたのでありますが、ちょっと長くなりましたので、また続きとさせていただきます。

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2007年1月24日 (水)

談合決別宣言後の「談合」

昨年12月5日にアメリカ政府から外務副大臣に交付された「年次改革要望書2007」には「競争政策」という一項目が立てられておりまして、談合根絶への政府の積極的な取り組みを評価するとともに、更なる談合摘発に向けて具体的な要望がたくさん出されております。ここのところの公正取引委員会の活発な行動や、各都道府県の警察の動きというものは、おそらくアメリカ政府としても喜ばしい限りではないでしょうか。(ただし、リーニエンシーの適用にあたって、談合申告企業が指名停止を受ける、といった対応には不満のようですが)

名古屋の地下鉄工事の受注をめぐって、スーパーゼネコン3社が名古屋地検特捜部の強制捜査を受けたことにつきましては、すでに報道されているとおりであります。昨年1月の独禁法改正に伴い、どのスーパーゼネコンも「談合決別宣言」をされたようですし、管理職以上の役職者が「談合はしない旨」の誓約書を会社に提出されていたそうですから、今後の捜査次第では、たとえ本社レベルにおいて「まったく知りませんでした」と表明されましても内部統制の欠如を指摘される可能性がありそうです。(刑法上の談合罪というよりも、独占禁止法違反の罪によって法人処罰まで視野に入れて捜査が進んでいるとのことですが)

コンプライアンス・プログラムルールからしますと、社長が「談合決別宣言」をして、管理職が誓約書を提出する、といったあたりは、適正な行動であって、そういった社内ルールが支店現場末端まで浸透することにより、談合はなくなるのではないか・・・・・などと期待もされていたのですが、見事に裏切られてしまいました。談合はそんな甘いものではなかったようであります。コンプライアンス関連のお仕事をさせていただいて感じますことは、この談合や循環取引(架空取引)のように、競争会社を巻き込んでの違法な企業行動というものは、非常によく似た習性があると思っております。「競争を制限してでも、企業の共倒れを防ぐ必要悪・・・」といった愛社精神に由来するようなものでもなさそうであります。もっと日本人に独特の義理人情の世界であります。「前に仕事を分けてもらったから」「前に情報を横流ししてもらったから」「子供の学校の世話をしてもらったから」といった、たいへん個人的なつながりによって、悪への誘いを断ち切れない・・・といったレベルの話をよく耳にします。また、スーパーゼネコンにしましても、下請けに介在する中堅ゼネコンの面倒をみなければならず、その社員たちの顔が浮かぶ、という話も聞かれます。「以前あんなにお世話になったにもかかわらず、世間の風が厳しくなったからといって断れるだろうか・・・」といった苦悩の末での談合継続の図式が正しいのではないでしょうか。

以前「アットホームな会社と内部統制」というテーマでエントリーを書かせていただき、いろいろなご意見を頂戴いたしましたが、仕事がアットホームな雰囲気で進むということは、日本人的に解釈いたしますと「義理人情」でつながっている会社ということでありまして、会社の雰囲気がいいときには実に楽しく和気藹々としていて活気もあるのですが、いざ問題が発生したり、経営状況が思わしくない状況になりますと、みんなでグレーゾーンに足を踏み込んだり、みんなで悪事をかばいあったり、グレーゾーンへのいざないを断りきれなかったり、ということで負のスパイラルにつながる可能性が高いのでは・・・と思ったりしております。同様のことは談合や循環取引のように、企業をまたいで義理人情でつながっている社会にも言えるのではないでしょうか。たいへん不謹慎で申し訳ありませんが、私でも、一生友達としてお付き合いしたいのは、「今回だけ助けて」とお願いしたときに「いやいや会社が談合決別宣言を発したからもう教えられない」と、なんの恩義も感じずに平静に拒否する人間よりも、「じゃあ、今回だけね。これでこのまえの借りは返したってことで、ね?」あたりで、コソっと「蜜の味」を教えてくれる人のほうではないか、と思いますし、おそらく皆様方もそうではないかと推測いたします。(いえ、もちろん談合自体が必要悪だと申し上げているわけではございませんので、誤解のないようにお願いいたします。といいますか、本当に一生友達でいたい人に対して「今回だけ助けて」といったことは言わないかもしれませんが・・・・・・)

アメリカのローファームで働いたこともございませんし、また留学経験もありませんので、よくは存じ上げませんが、アメリカの在職期間の長い会社役員の方の話などを聞いておりますと、米国人も「義理人情の世界」はあるけれども、仕事のうえでのつながりをドライに構成してチームを結成している場合には「貸し借り」が発生しにくいとのこと。アットホームな雰囲気を職場に持ち込むとなりますと、どうしてもこの「貸し借り」の世界がはびこるわけでして、こういった職場環境のようなものが談合や循環取引、ひょっとすると今後はインサイダー取引なんかも、「構造的な病巣」としてずっとつきまとってしまうんじゃないかと思います。最近の大手のIT企業などで顧客と営業社員の関係を大きく変革させているところが出てきましたが、(たとえば、営業社員は休日に個人的に顧客とゴルフをしてはいけない、冠婚葬祭に出席してはいけない、そのかわり営業社員の売り上げノルマは課さないなど、つまり顧客は人とのつながりでなく、企業そのものとのつながりで対応していくといった思想によるもののようであります)企業体質そのものを大きく変革させる以外には、談合根絶のコンプライアンスは語れないのではないかなぁと感じております。

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2007年1月23日 (火)

企業コンプライアンス関連のブログ探してます・・・

執務中ですので、簡単ではございますが・・・・・

不二家、関西テレビ、大林組などなど、さまざまな事件が内部統制やコンプライアンス問題として取り上げられていることから、ずいぶんといろんな企業の不祥事公表が相次いでいるようです。私は今朝の日経新聞1面の「MSCBやMSワラントの第三者割当の引受規制(日本証券業協会)」がもっとも関心があるのですが、ほかの事件につきましても、皆様がどんな感想をお持ちなのか、とても興味がございます。もし、コンプライアンス関連のブログなどがありましたら、お教えいただけませんでしょうか(TBでもけっこうですよ)

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2007年1月22日 (月)

富山の冤罪事件と刑事司法制度

(1月24日 追記あります)(1月26日 追記あります)

およそ「ビジネス法務」を語る本ブログの話題とはかけ離れてしまいますが、この話題だけは法曹の一人として見逃すことができない悲しい事件であります。1月20日のニュースでもご承知のとおり、無実だった39才の男性が強姦および強姦未遂で有罪となり、3年の服役(2年1月で仮出獄)を終えた後に真犯人が逮捕された、というものであります。県警は謝罪をすべく、その男性を探しているのでありますが、いまだ所在不明とのこと。服役中にこの男性の父親は亡くなり、あまりにも悲しすぎる事件であります。なお、この事件の詳細につきましては、富山朝日ニュースの報道が参考になります。

逮捕直前までは否認していたものの、容疑を認めたために、その後の客観的証拠との整合性を軽視したあげくの実刑確定という経過には、疑問を禁じえません。私が第一に申し上げたいことは、捜査機関というのは、なにも富山県警、富山地検だけでなく、どこもだいたい「同じようなもの」だということであります。この事件が30年ほど前の出来事であれば皆様も納得されるかもしれませんが、これは2001年の出来事であります。最近は「それでも僕はやっていない」の映画のような「痴漢冤罪」が話題となっているようですが、現実に誰でも逮捕勾留されるリスクがあるだけでなく、ひとつまちがえますと「有罪」まで確定して一生「犯罪者」扱いをされてしまうリスクすらかかえている、ということであります。この捜査機関の行動については、もちろん非難されるべき点がたくさんあることは承知しておりますが、これが「現実の姿」であることを以前より当然であると認識している者としましては、とりたてて憤慨するところのものではございません。

むしろ、こういった冤罪事件を引き起こしてしまった「刑事司法制度」の現実に関する衝撃があります。どうして弁護人はこのように客観的な証拠のない事件で「被告人の無罪」を疑わなかったのだろうか、どうして強姦被害者は、「この人ではない」とはっきりと申し出ることができなかったのだろうか、どうして刑事裁判官は、検察官の証拠と被告人の証言との矛盾について、職権で調査しなかったのだろうか(もしくは弁護人にその旨、促さなかったのだろうか)、こういった点を皆様はどうお考えになるでしょうか?もし、皆様がこういった経緯で起訴されてしまった事件で「裁判員」に選ばれたとしたら、そして本件のように、あとで真犯人が逮捕されて、自分が有罪と判定した人が、まったく普通の生活者であって、その人の幸福な人生を奪ってしまったとすれば、どうお考えになるでしょうか?「それは、気が弱くて反抗できなかった被告人の態度にも問題があるし、また捜査機関が悪いから自分は関係ない」ということでは済まされないものと私は思います。捜査機関の行動というものがこういった誤認を「ある程度の確率で含んでいるのが当然」である以上、まちがっても「無実の人を有罪にしない」「被害者のために、真犯人を有罪にする」ことを使命としなければならないのは、まさに刑事司法に携わる者すべての責任であります。たいへん不謹慎な物言いで、恐縮ではございますが、裁判員制度が始まるまでの間におきまして、ぜひこの事件の顛末を詳細に調査していただき、出版化、映画化していただけたら・・・と切に期待しております。

以上は純粋な私の心情を吐露したところでありますが、しかしながら現実の刑事司法裁判というものはたいへん奥深いものであります。邪推にすぎないのでありますが、こういったことも考えられるかもしれません。(これは私の過去の経験に基づく邪推であります)被告人は当初否認をしていた、ということでありますが、捜査機関の威嚇によって意に反して犯行を認めてしまった。自白調書もとられてしまい、あいまいながら強姦被害者の供述調書との整合性もある程度、固められてしまった。国選弁護人はこの被告人が真犯人ではないと疑うようになり、被告人へ公判での無罪主張を勧めるようになった。しかしながら、被告人は弁護人に質問をした。「ここで否認に転じて、有罪になる可能性はどのくらいありますか?もし否認したまま有罪になったら、態度が悪いとして情状が悪くなりますか?このまま認めて、公判でも素直に謝罪したらどのくらい服役すればいいですか?実は父親がもう、長くないので、なんとか父親の最後の面倒だけはみてやりたいのです。」

弁護人として、「いや、あなたがやっていないのであれば、最高裁まで争ってでも無罪を勝ち取ろう」と言うのは簡単であります。しかし皆様が、もし弁護人だとして、先のような質問を投げかけられて、正論を堂々と言えるでしょうか?弁護士は、ときに他人の人生を背負う岐路に立たされることがあります。先の富山朝日ニュースを読んでいて、ふと、そんな状況が思い浮かんだのであります。公判前整理手続きなども始まり、裁判員制度の導入に向けて「刑事司法制度」が市民にわかりやすくなることはたいへん良いことだとは思いますが、その「わかりやすくなる」裏側には、こういった刑事裁判当事者の「人生をかけた思い」が、いたるところに眠っている可能性があることを、裁判員になられる方々へ知っていただきたいと切に願っております。

(1月24日追記)

昨日の報道によると、この男性がみつかり、1時間にわたって検察がこれまでの報告をして、謝罪したとのことであります。

(1月26日追記)

本日の報道によりますと、法務大臣がこの富山冤罪事件について正式に謝罪をした、とのことであります。皆様がたのコメントにもありましたように、「ちっぽけな新聞記事であってはならない」との感覚は正しかったようですね。法務大臣が正式に謝罪するのが当然であるほど、この件は刑事司法にとって大きな汚点だと思っています。ただ、法務大臣による謝罪ではすまないもの、つまり(裁判所も含めて)刑事司法全体がこの男性に、なんらかの意思を表示すべき問題(それが「遺憾」という言葉であってもいいかもしれません)だと、私自身は考えています。

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2007年1月20日 (土)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想(その4)

JICPA(日本公認会計士協会)のHPに昨日付け(1月18日)にて、内部統制実施基準(公開草案)へに対する日本公認会計士協会の意見書が公表されました。(12月20日付けの意見書であるにもかかわらず、なぜ1ヶ月遅れで公表されるのでしょうか?)金融商品取引法上の内部統制ルールの実務に多大な影響を与えるであろうJICPAの意見でありますので、どういった基本的な姿勢(スタンス)で、この基準を迎え入れようとされているのか、非常に関心の高いところであります。私も共著とさせていただいております公認会計士協会、大阪弁護士会共同著書の新刊(4月ころ出版予定)につきまして、私の執筆部分にもJICPAさんより詳細な「本部レター」が出されまして、「細かいところまでよく考えていらっしゃるなぁ」と、ホントビックリいたしました。「ごもっとも・・」と思って手直しした部分もあれば、「これは見解の相違」と思って、そのままにしているところもございますが、ともかく、あのように精査される会計士協会さんですから、この意見書もかなり詳細な分析をされたうえでリリースされたものと思われます。

そもそも企業会計審議会の委員の方々には、たくさんの会計士資格をお持ちの先生方がいらっしゃるわけですし、内部統制の評価、監査のあり方自体が、ほぼ業界の共通言語で括られていると(少なくとも私は)解釈しておりますので、実施基準そのものへの大きな異論というものは出てこないのが自然なところなんでしょうね。ただ、所々に監査実務や監査基準との整合性が問題となるところでの修正意見が散見されるようでして、こういったところを内部統制部会がどうとりまとめられるのか、ちょっと私には予想もつかないところであります。ただ、全社的内部統制と業務プロセスの内部統制との評価や監査に関する相関関係のようなところについて、すこしばかり疑問を持ちました。

たとえば、内部統制の基本的要素の位置づけなどを思い起こしますと、だいたい全社的な内部統制の評価手続と、業務プロセスに係る内部統制の評価手続とが分けて記載されております。そして「統制環境」と「リスク評価」が全社的内部統制の評価にとって重要、「情報と伝達」「統制活動」といった構成要素はどちらかと言えば業務プロセスに係る内部統制の評価にとって重要、「監視活動」がちょうど真ん中あたり、といった解説がされれるのが一般的であります。それで、もし皆様のお手元に以前紹介させていただきました「内部統制の要点」(第一法規出版)がおありでしたら、その99ページに掲載されている持永先生作成の図表(図表3-8「内部統制の基本的要素の位置づけ)をご覧いただくとわかりやすいのですが、いずれの棒グラフも重複していて、なおかつ「全社的・・」にも「業務プロセス・・」にもひっかかっている長方形の部分があることがおわかりになるかと思います。その長方形の部分といいますのは、できるだけ効率的に内部統制システムを構築(整備運用)できるような「仕組み」の部分を指しているのではないか・・・と思いますが、皆様はどうお考えになるでしょうか?つまり、企業が日本版SOX法に対応するためのシステム構築にあたって、なるべくお金をかけないで、効率よく対応方法を検討するには、この長方形をどう活用すべきか、というところが論点になってこようかと思われます。

ただ、これが「論点たりうる」ためには、ひとつの前提条件が成り立つことが必要であります。それは「全社的内部統制」の有効性判断基準と「業務プロセスに係る内部統制」の有効性判断基準は完全に区別されるものなのか、それとも重複するものが存在するのか、といったことであります。もし、重複するものがある、ということが正しいのであれば、内部統制評価というものが内部統制報告書の適正意見をいただくことができる「最低ライン」を目指すものでよい、と割り切って考えることも一案でありまして(といいますか、リスクアプローチという点からみても適正な考え方ではないかと思います)、なるべく先に掲げた「長方形」の範囲内に該当する内部統制システムの構築を検討すべきであります。たとえばリスク評価を適正に行ったうえで作成された現場での管理マニュアルというものは、それが整備されているかどうかは業務プロセスに係る内部統制の有効性評価にとって不可欠なものであります。しかしながら、その管理マニュアルが現場でどう使われているか、といった運用テストの段階になりますと、その評価は単に業務プロセスだけにとどまらず、トップの意思が現場に伝わっているかとか、現場のミス発見の事実が瞬時に担当役員に伝わっているかなど、全社的内部統制の評価基準にも関係してくるものと思われます。また、長期にわたって実務経験を有する優秀な内部監査人が存在することは、それ自体が業務プロセスに係る内部統制の有効性評価にとってプラスに働くものと思われますが、その内部監査人の実際の活動状況の評価はどちらかといいますと統制環境、つまり全社的内部統制の有効性判断に大きな意味をもつことになりそうであります。このように考えますと、やはり全社的内部統制の評価基準と、業務プロセスの評価基準とは、内部統制システムの構築に「整備」と「運用」の概念が含まれているために、かなり重複するところもあるのではないか、と私は考えておりまして、ここを経営者はうまく工夫すべきでしょうし、また何が重複するポイントかという点につきましては、それぞれの企業によって異なるでしょうから、監査法人さんとご相談されるのがよろしいのではないか、と思います。

実施基準(公開草案)におきまして、たとえば「全社的内部統制がとくに有効であれば、業務プロセスの内部統制の評価ポイントを少し下げてもいいのではないか」といったテーマが論じられておりますが、この発想を頭に厳格に詰め込もうとしますと、どちらの判断基準もまったく別個のものである、という思考方法がアプリオリに出来上がってしまいそうになります。しかしながら、「両方の内部統制の有効性に関するポイントを押し上げるような評価対象は存在する」ということであれば、上に掲げた「特に有効な」という意味につきましても、要するに全社的内部統制の有効性判断基準にも合致し、また業務プロセスに係る内部統制の有効性判断基準にも合致するようなシステムが効率よく整備されていると評価できる場合」を指していると考えてよさそうな気がいたします。このあたりの議論の整理につきましては、公認会計士協会さんの意見書の最後に出てまいります「社内の規定類の整備と全社的な内部統制」に関する意見等につきましても、ひとつの回答になるのではないかな・・・と考えております。

PS 三井住友海上では、営業職の勤務評価につきまして、これまでは営業成績がおおきな基準になっていたものを、今後は営業成績半分、法令遵守の姿勢半分として評価するそうであります。(18日の日経ニュース)もし、これがきちんと規則化されるとすれば、まさに全社的内部統制の評価としては大きなプラス事項になるでしょうね。(もちろん、これが企業全体の売上とか活力とかにとって、いい悪いは別として)

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2007年1月18日 (木)

食品会社の不祥事と証券会社の不祥事

年末年始の疲れが出たのか、体調を崩してしまいまして、フラフラの状態であります。ココログのメンテ明けということもありまして、アップしたい話題がいろいろとあるのですが、今後の展開のための備忘録程度のみ、記しておきます。

不二家社の騒動につきましては、前のエントリーにも書かせていただきましたとおり、予想をはるかに超えるヤバイ事態(不二家側からみて)になってきたようであります。公表しなかった経営陣の対応や、事件発覚後のマスコミ対応のまずさなどが「コンプライアンス的」な問題点としてよく指摘されているようですが、それもさることながら、「騒動」に発展してきた大きな原因としましては、大規模小売店舗による「販売自粛」を挙げることができるのではないでしょうか。これは不二家騒動における大きな転換点になっているものと認識しております。一般消費者の不買運動よりも、おそらくこっちのほうが食品会社にとっては大きな痛手だと思われます。スーパーにおきましても、やはり自社のコンプライアンス対応として、食品衛生上問題のある製品については、その安全性が確保されるまで販売しない、という対応は「一般消費者向け」のものとしては十分理解できるところでありますし、(当分の間の措置として)やむをえないものと考えられます。しかし、どの小売店も同様の対処方法を採用するとなると、もはや販売ルートが限定されてきますし、また不二家チェーン店についても、そういったスーパーの対応を消費者が知れば知るほど、販売不振に陥っていくことは目に見えております。もうこうなりますと「負のスパイラル現象」に歯止めがかからないようになってしまいそうです。

さて、いっぽう証券会社の不正経理騒動については、こういった転換点は訪れるのでしょうか?食品会社と同様、株価が低迷する(下落する)といった現象は考えられますし、また現にそういった株価の動向が認められたわけでありますが、食品会社の痛手となったスーパー的存在をひとつ挙げるとすれば、やはり「証券取引所」や「証券取引業協会」の存在ではないでしょうか。ただし証券取引業協会の会長さんの記者会見によりますと、日興の責任の取り方は妥当なものであり、今後は内部統制システムの整備を進めて頑張ってほしい、といった趣旨のコメントを残しておられるので、今後の非常に厳格な対応といったものはおそらくないんじゃないかと思えます。あと残るは、証券取引所が、監理ポストにある日興コーディアルに対してどういった対応で臨むのか、といったところでしょうか。さっきの食品会社の不祥事と比較してみますと、この証券取引所の対処方法自体が、どれほど一般投資家の視点から妥当(もしくは不当)な判断と評価されるか、というところを今後検討してみたいと思います。証券取引所も、その判断を誤ると、(判断結果よりも判断にい至る過程と思うのですが)一部の証券会社の不正問題をきっかけとして、その信用性を貶めることになってしまうのではないかと危惧します。(以下つづく・・・・・)

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2007年1月16日 (火)

愛されて、叱られて100万アクセス(感謝)

2005年4月にココログでブログを開設以来、本日をもって100万アクセスを達成させていただきました。

これもひとえに、いつも閲覧いただいている皆様方のご愛顧、叱咤激励の賜物でありまして、ただただ、感謝いたします。本当にどうもありがとうございました。「場末の弁護士のマニアックなブログ」としてチョロチョロと関心のある分野(企業価値)に関するテーマだけを書き続けてきましたが、最近は一日平均4500から5000アクセス(もちろん平日ですよ。土日はグッと少なくなります・・・)を頂戴するようになりました。そもそも、私には文才もなく、また法律家としての類まれな能力もないために、一職業人として走り続けながら日々の業務の中で感じていることを言葉にしていかなければ「おもしろくない」ブログになってしまう、と思っております。こういったスタンスをこれからも引き続き維持しながら、自分の書きたいことだけにこだわって参る所存であります。これからもご支援と、厳しいご批判ご意見、よろしくお願いいたします。

PS 本日午後3時より24時間の「ココログメンテナンス」となり、書き込み、TBができなくなりますので、ご了承ください。

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日興コーディアル不正会計と事実認定(その2)

昨日のエントリーにおきまして、「そろそろまた日興コーディアルの不正経理(といいますか、もはや虚偽記載といったほうがいいかもしれまえんが)に関する報道が増えてくるのではないか・・・」と書きましたが、さっそく日興CG(コーディアルグループ)の特別調査委員会が当初の予定どおり、今月の末日までに調査報告書をまとめること、報告書の内容は事実と原因、そして内部統制システムの提言に関するものであること、報告書は取締役会に提出すると同時に、その内容を公表することを明らかにした、という報道がなされております。(朝日新聞ニュース)この報道内容からしますと、特別調査委員会に付託された使命といいますのは、①事実の確定②事実の評価(「虚偽記載かどうか」とか「組織ぐるみかどうか」といった会計的法律的評価③再発防止のための政策提言、という非常に重要な使命のすべてを含むものになるようです。

ところで、たとえば私が委員をさせていただいております某上場企業のコンプライアンス委員会などでも、こういった使命を帯びて事実確認、事実評価、再発防止の施策提言という作業を行うことがございますが、それぞれの分野に強い委員の方がいらっしゃいまして、事実確認についてはなんといいましても元裁判官の弁護士、事実の評価については監査に強い公認会計士、再発防止の施策提言というところは私や社外のアドバイザーの方といったような役割分担がございます。今回の日興CGの特別調査委員の方々といいますのも、私はそういったいくつもの使命を短時間に果たすにふさわしい方々が選任されていらっしゃるのかと思いましたが、たいへん著名な企業コンプライアンス関連の法律家の方々(構成された4名のメンバーの方々はこちらのフジサンケイビジネスアイのニュースでおわかりいただけると思います。)ばかりでありまして、その役割分担というところが少しわかりづらくなっているような気がいたします。

元裁判官の法曹の方と、こういったコンプライアンス関連のお仕事をごいっしょさせていただき痛感いたしますのは、やはり「事実認定のプロ」として、その実力は他者を大きく凌駕しており、経験則の使用においてほぼ「穴」がなく、またバイアスがほとんどかからない、ということであります。人証、物証含め、「事実認定」を30年もプロとして続けてきた職業人の判断には、ちょっと「一介の弁護士」には能力的にはかなうはずもなく、まぁほとんどの場面におきまして説得されてしまうことが多いようです。また、当時の会計処理が「異常な」ものであったのかどうか、その処理がごく一部の会計専門家(もしくは経理、財務担当者)でないとなしえないものかどうか、といった「認定された事実の評価」に関する論点につきましては、たしかに最終的には法律上の問題となるのかもしれませんが、どうしても監査実務に強い公認会計士さんの意見を必要とする場面が出てまいります。おそらくこのたびの日興CGの特別調査につきましては、訂正報告書の作成にあらた監査法人が中心メンバーとなって調査を継続していることを考えましても、そういった役割分担的な委員選任が必要なのではなかろうか、そういった分担が考えられているのだろうか、といった素朴な疑問がわいておりました。

加えて、ちょっと危惧されますのは、このメンバーの方々の「外観的独立性」というものは確保されているのかどうか、といったところであります。報道されているところによりますと、この特別調査委員会の委員長の方(私が司法試験の口述試験のときの面接官だった方です。ちょっとコワカッタかも・・・・(^^;))は、もと日興CGの監査委員会の顧問をされていたとのことですし、また委員のおひとりの方は日興の法務アドバイザーを務めていらっしゃった方とのことであります。もちろん弁護士にはその職責としまして、自ら客観的な判断がなしうるように、独立した立場に務めるよう配慮すべき倫理上の義務もございますが、果たして元来の日興との関係からみまして、バイアスがかからずに事実確定、事実評価、政策提言がなされるのかどうか、この「外観的独立性」といったところからは疑問を抱かざるをえないところもございます。このあたりもたいへん気になるところでありますし、今後提出が予定されている報告書の結論にすこしばかりは影響しないだろうか、という不安を覚えてしまいます。(しかしながら、特別調査委員会の成果品が公表される、とのことですから、とりわけ内部統制システムの具体策として何を提言するのか等、今後各社にも関連性のある部分につきましては、調査委員会による公表の内容とされているところによりまして、今後の特別調査委員会による報告内容に大いに期待したいところであります。)

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2007年1月15日 (月)

日興コーディアル不正会計と事実認定

日興の不正経理問題につきましては、本来、1月15日に監査法人さんから訂正報告書が出る予定だったようですが、昨年末に担当監査法人変更(みすず→あらた)を理由として2月末日まで期限が延長されましたので、報道される機会も少なくなっているようです。課徴金5億円を納付した、とのことでありますが、今後日興の問題はどうなっていくのでしょうか?具体的な私見を述べることは避けたいと思っておりますが、これまでのカネボウ事件や西武事件における東証の対応と比較して、日興CDに上場廃止の可能性はどこまであるのか、もし監理ポスト解除という結末に至るのであれば、それはどういったソフトランディングによるものなのか、そのあたりの議論というのが、どこかのブログでなされると非常に有益かなぁと思っております。

ともかく、有価証券報告書虚偽記載ということでは、刑事捜査手続が進んでいないようですので、東証の判断にとって大きなポイントとなる「事実確定」を誰が責任をもって行うのか、このあたりが私にとってとても関心のあるところです。著名な法律家の方々4名による特別調査委員会の報告書が提出されるのが1月末ということであり、その後に訂正報告書が提出されるということだそうですので、おそらくまずこの特別調査委員会による事実調査が大きな影響を与えるのではないでしょうか。ただ、マネックス証券が日興CGの代用掛け目を80%→0%に変更した後も、日興の株式を買い支える動きがあったりするのを聞きますと、どんな力が働くのか予想もつかないところがあるわけでして、今後の東証の最終判断までの道のりは、日本における市場の公正さを考えるきっかけになるように思えます。ともかく、捜査機関による事実認定に判断を委ねることができない本件におきましては、この「事実確定」というまさに「プロの世界」の所業を、誰がどれだけの力量によって世間を納得させながら遂行していくのか、認定されたどのような事実を捉えて「組織的関与かそうでないか」を判断するのか、またどのような事実を捉えて「悪質かそうでないか」を判断するのか、注目していきたいですね。(おそらく今週あたりから、また日興の不正経理問題につきましては、ニュースや報道がさかんになるような気がいたします)

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2007年1月14日 (日)

コーポレート・ファイナンス入門

たいへん楽しみにしておりました勉強会が始まりました。本日(土曜日)より、社外取締役ネットワーク関西地区勉強会の「経営学講座」が開講されまして、前半5回は神戸大学大学院助教授の砂川(いさがわ)伸幸先生に「手取り足取り、コーポレート・ファイナンスのイロハを教わっちゃおう!!」という企画であります。

Corporate_finance 砂川先生といえば、この日経文庫シリーズ「コーポレート・ファイナンス入門」の著者でいらっしゃいまして、私よりも5つくらいお若い先生です。聴講生は社外ネットの会員10名程度で、適宜質問や意見陳述を交えながらの3時間のワーキングはずいぶんと贅沢なものであります。もともと大きな商社や金融機関の役員の方々、証券取引所の方、公認会計士の方などが中心メンバーですので、財務分析の「ど素人」の私が完全に「足をひっぱっている」形になっておりましたが、そんな私のシロウト質問にも嫌な顔ひとつせずに、懇切丁寧に解説をしていただきました。たいへん感謝をしておりますが、同時に、このブログでかなり恥ずかしい自論(おもにM&Aに関連するテーマです・・(^^;))を展開していたところにも気づきまして、これから少しずつでも、「コソっと」これまでのエントリーを修正しておこうかな・・・・・・などとひそかに考えているところであります。とにかく、株主への説明責任を尽くす、というのが社外取締役の重要な職責である以上は、対話のための道具として、すこしばかりでも資本コストについて知っておいたほうがいいと思いますし、株主(外部投資家)からみた「企業価値」算定根拠というものも関心がありますので、ご迷惑にならないよう、しっかり予習復習しておきたいと思っております。ただ漠然と経営学に触れる、という姿勢ではなく、「経営者はこんなところから、無理してでも株主に気に入ってもらおうとして、不正への誘惑にかられちゃう」みたいな、そんなところを理解する視点で勉強してみたいと考えております。

きょう3時間、いろいろなお話をお聞きしただけでも、資本政策との関係で転換社債や新株予約権発行の意義をけっこう考える機会となりましたので、有意義でありましたが、この経営学というものも、企業会計とは違った意味で会社法や独禁法と接点がありそうですね。本当にこれを学問として究めようとされている先生方は、経営に関する真理探究の道なんでしょうが、そこまでの能力もまた時間もない私のような者にとりましては、もうすこし実利的なもの、つまり無形資産の評価基準のように、会社というハコの売り買いを行う人達にとって「その時代におけるモノサシ」を提供し、またそのモノサシをたくさんの人達が使えるように普及する活動、といったイメージを持ちました。さて、次回からはグループに分かれて、財務分析の実習が始まるわけでありますが、私にはかなりムズカシイ訓練ですし、ホンマについていけるかどうか・・・・・(^^;

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2007年1月12日 (金)

関西外食産業のトップをめざして・・・

すでに報道されておりますとおり、私が社外監査役を務めます関西の外食チェーン会社が、同じく関西を基盤とする外食レストランチェーン企業と「合併のための基本合意」に至りました。当然のことながら、開示情報以外の事実を、ここで申し述べることにつきましては、私自身の感想を含めましてご遠慮させていただきますが、まさに「有事における社外監査役の職責」を自ら問いかけ、経営判断を冷静に見つめ、他の監査役と十分連携のうえ、株主、従業員、取引先などステークホルダーの方々へ最大限の配慮を心がけていきたいと思っております。クロージングへ向けてのさまざまな作業は両社の役員、従業員とも並々ならぬ努力を必要としますが、トップレベルの関西外食産業の老舗企業としてこれからも大きく成長できる企業となることを、確信しております。また、この激動の時期に社外監査役を務めさせていただいた貴重な体験を、私自身も今後の業務に生かしていきたいと思っております。(とりあえず、この話題につきましては、手続の終焉を迎えるまでは、今後ここで触れることはございませんので、あしからず御了承ください)

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不二家の公表・回収義務を考える(その2)

辰のお年ごさん、監査役サポーターさんから、有益なご意見を頂戴いたしました。(いつもありがとうございます。このブログをご覧の皆様方も、いろいろとご意見がございましたら、お気軽にコメントをいただければ幸いです)それにしても、このたびのシュークリーム事件は本当に不二家にとっては厳しいレピュテーション低下をもたらしてしまったようです。ここまでマスコミに厳しく報道される、ということは、昨日のエントリーをアップした時点では予想もしておりませんでした。株価ももちろんかなりの下落を記録しているようです。

「マスコミに知られたら雪印の二の舞になるぞ」と社内管理者宛に送付された内部文書も存在した、ということですので、社内の事態は昨年11月以降は、ほぼ「有事」のレベルに突入していたのではないか、と推察されます。(4期連続で洋菓子部門の経営が赤字続きであり、ようやく回復の目途が立ってきた、という矢先の問題発生という状況も、認識を甘くさせたのかもしれません)代表者は記者会見におきまして、「我々の認識が甘かった」との釈明をされていたようですが、はたして「この程度のことであれば公表する必要はない」という意味だったのでしょうか、それとも「事態は厳しいが、マスコミに知られることはない」という意味だったのでしょうか。おそらく内部文書の存在からしますと、後者の認識が甘かったのではないかと思われます。

1 環境保護宣言、再雇用促進策が裏目?

消費期限切れの原料をそのまま廃棄することは環境破壊につながる、として、不二家では廃棄処分方法への厳しい社内規制があった、とのこと。そこで、現場では消費期限切れの原料を安易に廃棄できなかった環境にあったようです。そして、元従業員の方々を現場で再雇用していたようですが、現場の方々は昔の製造現場における「勘」に頼って、たとえ消費期限切れの原料であっても「味や匂いで新鮮度がわかる」として、自らの味覚を頼りにできるだけ利用していた、とのこと。一見、企業価値を高めるためのCSR経営(職の安全性を宣言して、他社よりも厳しい社内規則を設定することも、これに含まれるものと思います)が、皮肉にも企業不祥事の発端になってしまった、ということが真実だとすれば、これは企業にとってかなりショックな出来事だと言えそうです。

2 内部通報制度と監査役制度

「公表」や「通知」することの重要性は、規制緩和時代の企業不祥事防止策としての「生命線」になりつつあると考えます。刑罰や行政処分のエンフォースメントをもって、行政監視による事前規制が厳しい時代であればともかく、企業の自律作用(内部統制システム整備によるリスクマネジメント)に、コンプライアンス経営への大きな期待を寄せる現代におきましては、おそらくステークホルダーや株主にしても、「誠実な対応」の表れとしての「公表」「通知」への信頼感が高まっていると言えるのではないでしょうか。もちろん、企業経営者自身が誠実であり、自発的に「公表」に踏み切ることができればいいのでしょうが、現実には「雪印の二の舞になるぞ」がホンネのところであると思います。そこでやはりこの「公表」の意味を考える場合には、社内における「内部通報制度」の充実が大きな影響力をもつのではないでしょうか。つまり、コンプライアンスを重視することを社内に徹底する社長のコミットメントと行動規範の存在、そしてなによりも、具体的なリスク管理の一貫として、何が社内規則違反となるのか、全従業員にわかりやすい形で広報していたのかどうか、そのあたりが内部通報制度の充実によって「不祥事は隠蔽できない」といった経営陣、従業員の意識を高揚させる大きなカギになるのではないかと思います。

また、私自身は先に書きましたように、本当は昨年11月ころから、不二家は「有事を意識していたのではないか」と思うのでありますが、その時点で監査役の方々はどう考えていらっしゃったのでしょうか。そもそも情報は共有されていたのでしょうか?カヤの外になっておられたのでしょうか?先のダスキンの事件におきましては、社長に「一刻も早く、社会に公表しなさい。いまならダスキンにとって最悪の状況だけは免れることができるから」と書簡を送っておられた社外取締役の方がいらっしゃいましたが、そのような対応はとられたのでしょうか。私自身も社外監査役という立場におりますので、企業の有事に責任ある行動をとることの難しさを理解する必要がございますが、やはり「有事」にこそ、その職責は果たされるべきであると思いますし、この11月の時点における社外役員らの行動に非常に関心を抱くところであります。

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2007年1月11日 (木)

不二家の公表・回収義務を考える

(1月11日午後追記あります)

ダスキン株主代表訴訟控訴審判決の影響からか、こういった事例にはどうしても敏感に反応してしまいますが、マスコミもこぞって株式会社不二家(東証1部)のシュークリーム問題を批判的に採り上げているようです。(日経ニュース中国新聞ニュース)ほぼすべてのマスコミにおきまして、工場の担当者が、怒られるのを避けるために(本来廃棄すべき)消費期限切れの牛乳をそのまま使用してシュークリームを出荷した、といった事実よりも、その直後に社内で事実が判明したにもかかわらず、出荷したシュークリームを回収したり、公表しなかったことに関する「会社の姿勢に対する」非難、という趣旨の報道姿勢のようです。(人事担当責任者の話においても、公表しなかったことが悪かった、というニュアンスが感じられます)消費期限切れの牛乳を使用してシュークリームを製造販売すること自体はおそらく食品衛生法違反、JIS違反にはならない、つまり「社内規定に違反するだけであり、違法性はないために公表するまでもない」といった企業の見解だったと思われます。しかしながら、マスコミから一斉に「なぜ公表して、回収措置をとらなかったのか」と疑問を呈されますと、「軽率でした・・・・・」という社内対応になってしまったようです。(いまになって発覚した、ということは、おそらく内部通報や外部通報によるものと推測されます。社内担当者の話でも、公表すべきとは思いもよらなかった、とのことですし。)

しかし「社内規定違反の事実」だけが認められる場合にまで、企業はその事実を公表しなければいけないのでしょうか。もし公表しなければいけない、というのであれば、それはどこに根拠があるのでしょうか。それは法律上の根拠ではなく、もっと倫理的なところ、つまり企業の社会的責任といったあたりに由来するのでしょうか?私自身、このあたりはグレーゾーンのような気がしておりますが、企業コンプライアンス的な発想からすると、マスコミから騒がれることが企業の社会的評価をオトシメルことになる以上は、その時代の風潮にしたがって法的には公表する必要はなくても回収、公表することが大事だ、ということになるのでしょうか。(でも、マスコミの考え方が企業倫理的に正しい、とはかならずしも言えないはずですよね。東京新聞あたりのニュースでは、「食品衛生法違反の可能性も浮上している」と報道されていましたが。)もしこのたびの不二家のシュークリームにつきまして、回収および公表することが取締役の責務である(取締役は、いたずらに企業の社会的評価を貶めないよう細心の努力をはらわなければならない)、ということが正当な結論とした場合、おそらく日本中の食品製造販売会社の役員さんたちは「ドキ!」っとしてしまうのではないでしょうか。内規違反の状態で製造販売してしまった、という事実は現実に発生しうるものと推察されますし、わざと公表しなかった、というのも当然に問題になるでしょうが、また販売事実を知らなかったというのも、内部統制に問題あり、ということになりそうですし、いずれにしましても、公益通報制度(内部通報制度)が充実した世の中におきまして、この「公表と隠蔽」問題は今後の企業コンプライアンスの重要課題になりつつある、と思われます。

私が「グレーゾーン」と考えました理由は、この報道を知ってすこしばかり「素朴な疑問」が湧いたからであります。消費期限切れの商品を使用すること自体が食品衛生法違反にはならないとしましても、その原料を使用して加工した製品には、また消費期限が付されるわけですよね。そこで加工品であるシュークリームの消費期限というものは、何を基準に決まるのか、というものです。原料の鮮度も判断基準になるとしたら、そもそも消費期限が切れている牛乳を使用したこと自体がシュークリームの消費期限を偽ったことにならないのか、もしくは牛乳の消費期限自体を偽って延期させたことにならないのだろうか、といった点であります。(消費期限の不当表示は明らかに法律違反であります)ただ、同じ加工品といいましても、チーズの場合であればなんとなく「セーフ」のような気もしますし、このあたり乳製品の消費期限というのは、いったい何を基準に考えるんでしょうかね?こういった単なる社内規定違反ではなくて、そもそも「グレーゾーン」の問題である、ということでしたら、企業としてもコンプライアンス的な見地から公表、回収に踏み切るべき「ふんぎり」がつくものと思うのですが、ただ「社内規定違反」というだけで取締役の責任問題が発生する、というのでは、とりわけ最近では、環境問題や消費者問題が企業のCSRの根幹をなすだけに、企業としては相当な対価を投入して、その対応を検討しなければならない、ということになりそうです。

社内不祥事の開示統制問題は、今後もさらに「企業にとってやっかいなコンプライアンス問題」として、リスクマネジメントを要求されることになりそうですね。1月11日午前2時現在、不二家のHPには本件に関する何らのメッセージもございませんが、この問題を不二家社としてどう考えておられるのか、「環境および食品衛生に最大限の配慮をしている品格ある企業」として、ぜひメッセージを株主(一般投資家)および消費者に向けて伝えていただきたいと思います。(結論先にありき、という意味ではございません。もし公表すべき問題ではない、ということでしたら堂々と、その社内方針を、社内の検査体制や安全性への取組みと結びつけて、説得的に述べていただければ、それもまた企業のコンプライアンス問題への姿勢と考えるべき、ということだと私は理解しております

(1月11日午後 追記)

すでにニュースで報道されておりますとおり、不二家としての謝罪会見、5日間の洋菓子製造中止ということで、HPトップページにも所見が表明されております。それはそれで素早い対応でさすが「品格ある企業だなあ」と感じ入る次第でありますが、やはり上記のとおり、私は「消費期限切れ商品がもはや市場に出回っていないような本件において、本当にこれが公表しないといけない事案なのだろうか・・・・今後の各企業における社内規定作りに、マイナスのイメージを与えてしまうことにならないだろうか・・・・」といった疑念がぬぐいきれません。ここがコンプライアンス問題の最大の論点だと思います。なぜ今回謝罪したのか、社内のどういったことに対して謝罪をするのか、もし謝罪しなかったら会社はどうなるのか、謝罪しないといけない根拠はどこにあったのか、公表することと今後の社内の再発防止とがどのように関連付けて説明されているのか、そこを詰めて考えいかないと、今後も各企業において「社内規定違反なんてどこも同じ。運が悪ければそこで考えましょう。もし社外に情報が漏れたら謝罪して、社内調査をして、内部管理体制の改正をリリースすれば済むこと」の繰り返しになってしまうはずであります。ここをきちんと考えておかなければ、企業コンプライアンス、CSR経営など「お題目」に終ってしまうような気がします。(なお、読売ニュースの記事内容からしますと、どうも「不適切な販売」には終らない可能性もあるかもしれません)

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2007年1月 8日 (月)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想その3

(1月9日 若干の修正あり)

昨年12月30日のエントリーにて、すこしだけ予告をしておりましたが、金融商品取引法上の内部統制報告制度の実施基準(公開草案)へのパブリックコメントとして、たいへん勉強になるのが12月20日に提出されましたCIAフォーラム ガバナンス研究会(内部統制監査制度分科会)意見書であります。この意見書につきましては、座長である眞田先生が11月21日以降にHP(弦巻ナレッジ)にて述べておられる公開草案に対するご意見や米国SOX法改正の動向、そして旬刊経理情報2006年10月20日号、同11月10日号などの眞田先生の論稿を事前にきちんと目を通しておかなければ感想など軽々しく書けない、と思いましたので、このお正月休み、そういったところもチョコチョコと時間をみつけては拝読させていただきました。論稿や意見表明の分量が多いので、おそらく「これ以上、要約できない」と思えるほど、その要素を簡明にされ、先の意見書にまとめられたのではないか、と想像いたします。(しかし読めば読むほど「ミスター内部統制」と申し上げてもいいほどのレベルの高さを痛感いたします・・・・・)なお、「ダイレクトレポーティング」に対比される「インダイレクトレポーティング」なる用語が散見され、会計業界に詳しくない者にとりましては、すこし聞きなれない言葉かもしれませんが、(監査人による)経営者意見表明の妥当性への保証意見がインダイレクトレポーティング、経営者意見とは無関係に、監査人が自ら監査証拠に基づいて保証意見を述べるのがダイレクトレポーティング、と考えるのが企業会計審議会意見書における定義のようであります。

まずなんと言いましても、これほど正面から金融庁内部統制部会作成にかかる基準案および実施基準案の問題点を採り上げた意見書というものは、ほかには見当たらないと思います。私がここ1年ほど、疑問を抱きつつも、会計的知識不足や経験不足のために言葉でうまく言い表すことができなかったところを、たいへん精緻に意見として展開されておりまして、「感動モノ」であります。外部監査にはなじまない、財務報告の信頼性実現を保証できない、諸外国の内部統制ルール導入経緯(廃止まで含めて)との整合性がまったくない、といった点からして「日本版SOX法には基本的性格に誤解がある」といったところから出発されておりまして、仮にこの内部統制監査制度を導入することを前提としても、米国404条の問題点の解決策、我が国固有の問題点の解決策、実施基準固有の問題点の解決策をきちんと提示しなければならない、といったスタンスは、(たとえこのCIAフォーラムの意見書の内容が採用されないとしても)企業における内部統制実務のあり方に多大なる影響を与えるのではないでしょうか。

このような精緻な理論、立法事実(実施基準の目的と手段とのバランスがとれているか、そもそも目的達成のためにこのような手段が必要だったのか)への詳細な検証など、その意見書作成までの経緯に鑑みるならば、私の意見など非常に雑駁なものでありますが、まずこの「実施基準の完結度」のようなところに私は興味を抱きました。もちろん、私もこのCIAフォーラムと同様、内部統制実施基準案で示されたものが本当に金融商品取引法の制度目的を達成するために有益なものであるかどうか、というところにある程度共感を抱いているところであります。ただ、実際のところ、一般に公正妥当と認められる会計基準としての内部統制評価基準や監査基準というものは、この「実施基準」で完結するものではなくて、日本監査役協会で検討中の「内部統制監査実務指針」や日本公認会計士協会から出される「内部統制監査実務指針」、CIA作成による内部監査人の実施マニュアル、それから各業界団体で作られるであろう「●●業界における内部統制評価マニュアル」、その業界の監督官庁で作られる官公庁の「監督指導指針」などなど、この内部統制部会の作成された実施基準を中心として、いろいろなルールがさらに想定されているのではないでしょうか。そもそも法律に根ざして内部統制評価報告制度が作成されるということで、大規模上場会社、中小上場会社とも一斉に強制適用される、ということでありますから、そこにはどうしても(どの業界にも万能な実施基準などありえない、といった)限界のようなものがあると思います。また重要な虚偽表示のリスクという「倫理的に無機質な目的」ではなくて、あくまでも本当の制度趣旨が「経営者による不正経理の根絶」にあるということでしょうから、この実施基準ですべてが完結するとは思われませんし、「重いものは、どこかに(一緒に)背負ってもらいましょう」といった対応もある程度はやむをえないようにも感じております。背負わなければならないのは、経営者であったり、監査役であったり、監査法人であったり、業界団体であったり、といったような。また、もう少し前向きに考えてみますと、この「内部統制報告制度」といったものは、いままでの会計士さんと企業の経理部門といった狭い範囲での共通言語ではなくて、もっと広く経営者や監査役、IT専門家を含め、もっと広い範囲での共通言語にしたい、といった願いが内部統制部会の審議では重要な論点になっていたものと思います。そうでなければ、このたびの内部統制報告制度の本当の趣旨(経営者による不正を防止する)の実現には到達しないからであります。

たしかに「内部統制の限界論」の捉え方次第では、この制度が本当に「経営者不正」を根絶するために有効なのかどうか、私も大いなる疑問を持っております。ただ、たとえば法律の世界においては非難のレベルが高い場合に「故意または重過失」という概念を用いますが、この内部統制報告制度におきましても、本当に問題にされるべきは一般投資家を無視した企業行動、つまり内部統制への無関心や、重要な欠陥があるにもかかわらずこれを「放置」した場合であります(内部統制システムの「運用」が重要なのは、まさにこの「放置」こそ「構築しないこと」に匹敵するほど非難されるべきだからであります)。つまり重要な欠陥があること自体に主たる問題があるのではなく、そういった評価に関心をもたないとか、欠陥をあえて修復しないといったところであります。そういったところになんとか焦点をあてて、単に会計監査に精通した方々だけの「内部統制」ではなく、金融商品取引法上の情報開示制度に関連する関係者一同の共有資産にしよう、といった取組み姿勢につきましては、私は内部統制部会の基準案にも理解を示すところであります。内部統制報告制度の中身を、これまでの財務諸表監査と同じ枠の中で考えると「基本的な性格に誤解がある」といった評価になりそうですが、枠の中から一歩外に出たもの、と捉えますと、また別の評価もありえるのではないだろうか、などと考えたりしております。同時に、監査法人、公認会計士さん方はたいへんなものを背負うわけですが、いっぽうで企業のあり方へ今まで以上に重要な役割を担う存在にもなっていくものと思います。(まだまだ監査とレビューの問題とか、リスクアプローチと会計不正の分析問題など、この意見書に関連したことで書きたいことが山ほどございますので、また日を改めまして、続編をアップしたいと思います。)

PS お休みの日にもかかわらず、早朝よりご意見をいくつか頂戴しておりますので、さっそく一部エントリーを修正させていただきました。

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2007年1月 5日 (金)

社長は知らなかったでは済まない制度って?

最近よく新聞やニュースなどで「今後は内部統制システムの構築が求められているので、経営者は『知らなかった』では済まないようになる」といったフレーズが聞かれます。これはもちろん不正会計や製品事故などによる企業不祥事が繰り返し発生しているところに、内部統制システムの整備、といった極めて耳に心地いい響きの言葉が流行していることに由来しているものと思われます。抽象的にはこれは正しいとは思うのですが、でも実際に内部統制システムの整備によって「社長が知らなかった、では済まない管理体制」って本当に構築できるのでしょうか?

株式会社日興コーディアルグループのHPに、12月28日付けで日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社(日興コーディアルの子会社)の内部管理体制強化に関するお知らせ  が掲載されました。このお知らせは金融庁や証券取引所に向けてのものなのか、一般の顧客、投資家に向けてのものなのか、その真意はわかりませんが、そこに新しい内部管理体制組織図と、内部統制専任取締役の新設に関する説明が記述されております。社内の特別調査委員会による調査開始や役員異動とともに、こういった内部管理体制強化を図ることそれ自体は、当然に期待されるところでありますでしょうし、なんら異論を差しはさむものでもありません。ただ、このリリースを読んで疑問に思いましたのが、こういった組織体制の強化によって、どこが改善されて不正経理問題の再発が防止されるのだろうか、これによって、一般の投資家やステークホルダーが「これなら安心できる」と納得できるだけの説明がつくのだろうか、といったところであります。

そもそもこのたびの日興コーディアルの不適切な経理処理の問題というのは、結局のところ、どの程度悪質なものだったのかよくわからないまま課徴金納付、監理ポスト入り、半期報告書の提出遅延という流れになっているのではないでしょうか。したがいまして、企業不祥事の再発防止、とまでは申し上げませんが、ともかく内部統制の整備について、今後は徹底していく、という意味がこめられたリリースであることは間違いないと思われます。そこでもし今後不祥事が発生した場合には、「社長は知らなかったでは済まされない」ような管理体制の構築を目指しておられるはずです。こういった組織図も大切でしょうが、なぜ「社長が知らなかった」では済まないシステムなのか、そのあたりの説明も不可欠だと私は思います。この内部統制専任取締役と他の取締役との関係は?内部監査室と内部統制専任取締役との関係は?監査役との関係は?などなど、情報共有や運用のあり方などの解説があってはじめて、不祥事を防止するシステムとして適正な内部統制システムかどうか、一般投資家やステークホルダーにも理解しうることになると考えます。また、これは一般投資家向けとは言いませんが、そもそも内部統制専任取締役といった職責の人が一生懸命に仕事をした場合、社長を含め他の取締役や監査役の方々は、もし何か企業不祥事が発生した場合に「信頼の抗弁」を持ち出して内部統制システムの構築義務違反から免れることになるのではないでしょうか?このあたりがきちんとできあがってこないと、そもそも内部統制システムの構築義務が履行されたことにはならないのでは?などと思ってしまいます。

もちろん、大きな企業において、会社の経営に影響を及ぼすような企業不祥事の原因事実がすべて社長の耳に入るようなシステム、というものは現実問題としては100%機能することなど「夢」なのかもしれません。ただ、それはある程度、外部から見ても納得ができるシステムが出来上がった上での「内部統制の限界論」として議論すれば足りるものでありまして、ただ抽象的にマニュアル的な人的物的組織を作っておわり・・・ということでは、おそらく今後も内部統制システムが「社長が知らなかったでは済まない制度」には到底なりえないと思われますし、お題目だけ唱えて流行が去っていってしまうような制度になってしまうような気がします。

金融商品取引法上の内部統制ルールとは異なり、会社法上の内部統制システムの構築論というのは、コーポレートガバナンスの議論と強く結びつくものである、というのが私の自論です。業界保護行政やメインバンクなどの金融機関によるガバナンスの時代が去って、ともかく経営者支配の弊害を除去しうるのは上場企業自身による内部管理体制の整備と、それに対する外(株主や会社債権者など)からの評価に依存するところが大きいと思います。そうであるならば、いま日興グループさんに期待されているのは、今後同じような不透明な会計処理を会社ぐるみで隠蔽しないような体質にするためにはどうすべきか、その内部管理体制のあり方は、外部の人達からも納得できるような仕組みを整備して、これを開示しなければならないと思いますし、これが本来会社法上で整備が求められているものではないでしょうか。

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2007年1月 4日 (木)

新年のご挨拶

今年は5日から始業される企業も多いようですし、まだ自宅でのんびりされている方も多いかとは思いますが、「ビジネス法務の部屋」も、いよいよ本日からまた更新を再開させていただきます。旧年中はいろいろとお世話になり、ありがとうございました。喪中ゆえ、慶賀の言葉は申述べられませんが、どうか今年一年また、このブログをごひいきにしていただましたら幸いです。お正月は父の看病疲れを癒すべく、少しの間温泉旅行をしてまいりました。昨日(3日)、「非常勤社外監査役」の実務と理論に関します共著本の原稿の一部執筆を終え、私も業務再開であります。(しかし、法律の本を出版する・・・というのは、ずいぶんと時間のかかる作業なんですね。1月はじめに校正原稿を提出して、4月に出版ということなんで、「内部統制」に関する部分などは、私の担当ではございませんが、記述内容の鮮度が落ちないかと心配になってしまいます・・・)

さて、特別な新年の抱負というものもありませんが、今年は昨年以上に、このブログにお越しになった皆様がたに興味深く読んでいただけるような工夫をしてみたいと思います。今年は年始早々、私自身が当事者的立場(代理人的立場?)となりそうな問題をいくつか抱えておりますので、そういった問題についてブログのなかで「通訳機能」を果たせるように心がけたいと思っております(もちろん、守秘義務に反しない範囲ではありますが)講演などもさせていただき、お声をかけていただくのはうれしいのですが、やはり法廷活動は楽しいです。ワクワクします。司法の場を通して、企業法務に役立つ話題をなるべくやさしくご提供できれば、と思っています。

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