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2007年1月 5日 (金)

社長は知らなかったでは済まない制度って?

最近よく新聞やニュースなどで「今後は内部統制システムの構築が求められているので、経営者は『知らなかった』では済まないようになる」といったフレーズが聞かれます。これはもちろん不正会計や製品事故などによる企業不祥事が繰り返し発生しているところに、内部統制システムの整備、といった極めて耳に心地いい響きの言葉が流行していることに由来しているものと思われます。抽象的にはこれは正しいとは思うのですが、でも実際に内部統制システムの整備によって「社長が知らなかった、では済まない管理体制」って本当に構築できるのでしょうか?

株式会社日興コーディアルグループのHPに、12月28日付けで日興プリンシパル・インベストメンツ株式会社(日興コーディアルの子会社)の内部管理体制強化に関するお知らせ  が掲載されました。このお知らせは金融庁や証券取引所に向けてのものなのか、一般の顧客、投資家に向けてのものなのか、その真意はわかりませんが、そこに新しい内部管理体制組織図と、内部統制専任取締役の新設に関する説明が記述されております。社内の特別調査委員会による調査開始や役員異動とともに、こういった内部管理体制強化を図ることそれ自体は、当然に期待されるところでありますでしょうし、なんら異論を差しはさむものでもありません。ただ、このリリースを読んで疑問に思いましたのが、こういった組織体制の強化によって、どこが改善されて不正経理問題の再発が防止されるのだろうか、これによって、一般の投資家やステークホルダーが「これなら安心できる」と納得できるだけの説明がつくのだろうか、といったところであります。

そもそもこのたびの日興コーディアルの不適切な経理処理の問題というのは、結局のところ、どの程度悪質なものだったのかよくわからないまま課徴金納付、監理ポスト入り、半期報告書の提出遅延という流れになっているのではないでしょうか。したがいまして、企業不祥事の再発防止、とまでは申し上げませんが、ともかく内部統制の整備について、今後は徹底していく、という意味がこめられたリリースであることは間違いないと思われます。そこでもし今後不祥事が発生した場合には、「社長は知らなかったでは済まされない」ような管理体制の構築を目指しておられるはずです。こういった組織図も大切でしょうが、なぜ「社長が知らなかった」では済まないシステムなのか、そのあたりの説明も不可欠だと私は思います。この内部統制専任取締役と他の取締役との関係は?内部監査室と内部統制専任取締役との関係は?監査役との関係は?などなど、情報共有や運用のあり方などの解説があってはじめて、不祥事を防止するシステムとして適正な内部統制システムかどうか、一般投資家やステークホルダーにも理解しうることになると考えます。また、これは一般投資家向けとは言いませんが、そもそも内部統制専任取締役といった職責の人が一生懸命に仕事をした場合、社長を含め他の取締役や監査役の方々は、もし何か企業不祥事が発生した場合に「信頼の抗弁」を持ち出して内部統制システムの構築義務違反から免れることになるのではないでしょうか?このあたりがきちんとできあがってこないと、そもそも内部統制システムの構築義務が履行されたことにはならないのでは?などと思ってしまいます。

もちろん、大きな企業において、会社の経営に影響を及ぼすような企業不祥事の原因事実がすべて社長の耳に入るようなシステム、というものは現実問題としては100%機能することなど「夢」なのかもしれません。ただ、それはある程度、外部から見ても納得ができるシステムが出来上がった上での「内部統制の限界論」として議論すれば足りるものでありまして、ただ抽象的にマニュアル的な人的物的組織を作っておわり・・・ということでは、おそらく今後も内部統制システムが「社長が知らなかったでは済まない制度」には到底なりえないと思われますし、お題目だけ唱えて流行が去っていってしまうような制度になってしまうような気がします。

金融商品取引法上の内部統制ルールとは異なり、会社法上の内部統制システムの構築論というのは、コーポレートガバナンスの議論と強く結びつくものである、というのが私の自論です。業界保護行政やメインバンクなどの金融機関によるガバナンスの時代が去って、ともかく経営者支配の弊害を除去しうるのは上場企業自身による内部管理体制の整備と、それに対する外(株主や会社債権者など)からの評価に依存するところが大きいと思います。そうであるならば、いま日興グループさんに期待されているのは、今後同じような不透明な会計処理を会社ぐるみで隠蔽しないような体質にするためにはどうすべきか、その内部管理体制のあり方は、外部の人達からも納得できるような仕組みを整備して、これを開示しなければならないと思いますし、これが本来会社法上で整備が求められているものではないでしょうか。

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コメント

 いつもいろいろと考えさせていただきながら拝見しております。内部統制については、自分の仕事が基幹業務ソリューションを扱っているため2008年4月期まではほとんとがこの話題といった感じです。
 社内での隠蔽体質というのは勿論あったりすると思いますが、それ以外に会社の経営陣が社内情報全体を素早く閲覧・監視ができない部分があったというのもあると考えています(まあ、そういった部分でITによる統制を唄った今回の改正でうちの仕事は増えているわけですが・・・)。
 役職などを新規に作ったとしてもそれをささせるITであったり実際の業務プロセスがないと結局、有事の際にはその役職の人が責任をかぶるということになってしまうのかと。その意味で「某企業の製品による内部統制システムを導入しましたのでこれで対策は万全です!」とかプレスリリースで出して発表するなんてのも面白いのではと思ったりします。
 でも、それで何か問題が発生してしまったら、その某企業に責任のなすりつけとかになってしまうのでしょうか。


 

投稿: matt | 2007年1月 6日 (土) 22時49分

>mattさん
はじめまして。コメントどうもありがとうございます。

よく、ソリューションを扱っておられる企業の方が、「日本版SOX法対応」とおっしゃっておられるのをお見かけしますので、私なりの意見を述べさせていただいたりしていますが(もちろん、なかには本当にSOX法対応と考えられるものもありますが)、企業が「攻めの内部統制」として、こういった製品をIR活動として広報していくことは、ポジティブに考えていいと思っております。私の自論は、エントリーにも書きましたが、会社法上の内部統制システムの構築は、コーポレートガバナンスのいわば「現代版」ではないかと思います。必然的に企業情報の開示と関連性が高いと思いますので、そういった「内部統制を売り物」として積極的に広報する「姿勢」こそ、貴重だと思います。ご懸念の「あとでなんかあったら」という点につきましては、それこそ責任問題が発生するのかどうか、誰が責任を負うのか、ということでしょうが、それこそ「内部統制の限界論」や「内部統制構築にかかる経営判断原則」といったところで対応すべきではないでしょうか。
2008年の内部統制ルール導入までたいへんかとは存じますが、このあたりの議論も今年あたりかなり進化していくことを私も期待しております。
またときどき、IT統制の方面よりコメントを頂戴できましたら幸いです。

投稿: toshi | 2007年1月 7日 (日) 02時18分

はじめまして、いつも為になるお話ばかりで感心してブログを拝読させていただいています。

初のコメントで気が引けるのですが、会社法で義務付けられた、いわゆる「内部統制システムの構築の基本方針」について実務上の取扱いを悩むことがあり、お知恵を拝借したいと思い質問を書かせていただきます。
平成18年5月開催の取締役会で決議した方針は、事業報告にその決議の内容の概要を記載する必要があるわけですが、当該事業年度中に同方針の改正の決議をした場合はともかく、例えば次期の4月開催の取締役会で改正を決議した場合は事業報告にどのような記載をすべきか?ということで悩んでいます。

例えば、組織変更にともない改正が必要になった場合や不祥事の発生により方針の強化を図ることもあります。
事業報告への記載については、
1.平成18年5月の決議の内容の概要のみを記載
2.平成19年4月の決議の内容の概要のみを記載
3.平成18年5月の決議の内容の概要を記載のうえ、平成19年4月の決議の内容の概要は後発事象と捉え「その他企業集団の現況に関する重要な事項」として記載する
のいずれかの方法を採りえると考えていますが、いかがでしょうか?
ご教示のほどよろしくお願いします。

投稿: momo | 2007年3月28日 (水) 17時25分

>momoさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
ついつい監査役の立場から考えてしまいますが、
内部統制システムの基本方針決議にあたって、監査役はその相当性を判断し、また整備運用状況についても監査対象としますので、私だったら3のパターンがいいと思います。平成18年5月決議の内容についても、たとえ今年4月に修正されるとしましても、それまでは運用されてきた実績があると思いますし、(不祥事で変更ということですと、けっこう難しい問題もあろうかと思いますが)その運用についても監査役は監査すべきですから。規則133条(でしたっけ?記憶があいまいですが)で事業報告内容の変更、という概念もありますし、4月決議のほうにつきましても、監査役監査が間に合うようでしたら、後発事象と捉えて、最新状況について報告しておかれたほうがいいのではないでしょうか。

投稿: toshi | 2007年3月29日 (木) 01時33分

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