日興CG特別調査委員会報告書(速報版)
ざっと資料も含めて120ページほどの日興コーディアルグループ特別調査委員会報告書を読ませていただきました。(しかし、ある程度の興味もしくは関心をもってフォローしておかないと、これはザッと読むのもシンドイですよね・・・)すでに前のエントリーにおきまして、この調査委員会の「プロによる事実認定と事実分析が大いに楽しみ」と書いておりましたが、予想をはるかに超えた内容で、ひさしぶりにドキドキさせていただきました。あまりにも多くのことを感想として抱きましたので、またきちんと読ませていただいたうえで、考えをまとめていきたいと思っております。また、いろいろな方と議論しながら今後の不正検査の実務の参考にさせていただこうかと思っております。本来、こういった調査報告書といいますのは、これで「自己完結型」を目指そうとするわけでありますが、詳細な事実調査のうえで、不正関与が疑われている役職員の方々に対して反論の余地をきちんと残しているところが「スゴイ」ですね。逆に、ここできちんとした反論ができない場合には、そのこと自体が不正行為への関与を決定付ける(つまり事実とその責任が確定する)といった流れになるんじゃないでしょうか。
各新聞やニュースの報道では、この報告書が「組織的関与を認定した」と書いておられるようですが、どこを読んだら「組織的関与が認定された」と理解できるのでしょうかね?私の理解ではそもそも「組織」というのはNPIのことなのか、NCC(報告書では、日興CG本体をNCCと表示)まで含めてのことなのか、というところもよくわかりませんし、なにぶん「ドレッシング」(粉飾)の動機がどこにあったのかすら、よく理解できておりません。おそらく組織的関与があった(組織ぐるみ)といえるためには、これに関与した人たちの不正行為に対する動機がどこにあったのか、といったところに結論を出さないと断定はできないのではないでしょうか?(調査委員の方の記者会見での発言によれば、業績連動報酬による個人的利益の問題ではないか・・・とのことでありますが、そういった記載は報告書には見当たらないようであります)ただ、報告書のなかで示されている「会議メモ」(全文が掲載されております)が「何を語るのか」、このあたりも関心のあるところですし、忽然とサーバーから消えたNPI元社長のメールの内容が、じつはもっとも「組織的関与」にとって重要な事項が含まれていたのではないか、などと考えますと「ITと内部統制の重要性」に思い至るところでもあります。また、組織的関与というところが(私的には)もうひとつはっきりしておりませんので、旧中央青山の関与、といったところも不明なままになっているように読めますが、いかがでしょうか。
また法律家や会計士さんのブログなどで、いろいろと話題になると思いますが、国税OB、公認会計士、証券業務に精通された著名な弁護士の方々を含めて構成されている監査委員会の本件に関する対応(監査委員会の活動状況)は実に興味深いところであります。社外役員の身の処し方について、大いに参考になるところであり、これも今後の検討課題になろうかと思われます。あと、監査法人のセカンドオピニオンの問題とか、企業情報の開示のあり方とか、そのあたりの企業会計にまつわる問題点もありそうです。(とりあえず、第一印象のみ記しておきます)
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コメント
toshi先生、おはようございます。
ずいぶんとごぶさたしております。3月9日のオフィサー・フォーラムでまたお会いできるのを楽しみにしております。
私もこの調査報告書は関心があるのですが、ちょっと時間的にまだ読めそうにもありませんが、調査委員会は関与が疑われる人に「最後の自白のチャンス」を与えているのではないでしょうか。今朝の新聞を読むかぎりでは関与が疑われている人が、役員会の改ざんを認めることで、なんとか自浄能力を発揮してほしい、このままでは最悪のシナリオになりますよ、といった希望的な意味合いもこめられているのではないかと思ったのですが。toshi先生は「反論の機会」を解釈されてますが、私は弁解の機会を付与したのではないかと。
しかし本当に、事実調査というのは、私のようなトレーニングを積んだ経験のない者には困難な作業だと思います。
たいへんお忙しいようですが、今年も楽しみにしていますので、ぜひかんばって続けてください。
投稿: halcome2005 | 2007年1月31日 (水) 10時40分
構図としては、破たん金融機関で露呈した、「子会社を使った飛ばしと利払い目的の融資」に印象が似てますね。飛ばしの場合も、会社社員(銀行員)の組織的関与があったことは自明ですが、違法適法の評価は判断が難しかったと思います。
もっとも、本件ではバックデートの事実から受けるイメージが確かに凄く悪いですけどね・・・
投稿: ねむねむ | 2007年1月31日 (水) 22時32分
この報告書、一読して感銘を受けました。
最も大事なことは、調査の目的は事実関係の究明とともに「社会に公表すること」と明記していることだと思います。つまり、誰のために、誰に向けてこの調査を行い、報告しようとしているのか、という点について、明確な視点が設定されているということ。
そして、その視点から揺らぐことなく、一貫して、知り得た事実を列挙、再構築し、事案の本質をあぶり出していること。これは言うは易く行うは難し。しかし本調査に関わった委員の方たちは短時間の間に素晴らしい成果を挙げたと思います。
世の監査報告書一般についても、このような揺るぎない視点をもって書き上げて欲しいものです。雇っているのは会社でも、監査の目的は経営者に報告することではなく、株主、そして投資家、ひいては社会一般に対して報告することにあると思っていただきたいものです。
投稿: やぶ猫 | 2007年2月 1日 (木) 13時00分
>halcomeさん
本当におひさしぶりです。お元気でしょうか?
第一回のオフィサーフォーラムでお会いしたのが、もうずいぶん昔のことのように思えます。ちょっと本業がいそがしいために、精読するところまではいっておりませんが、HALCOMEさんがおっしゃるような視点もあるかもしれませんね。(ただ、なかなか反省の弁を述べるような雰囲気になりそうもないような気もいたしますが・・・)
実は3月9日は私自身の講演が大阪でございまして、今年も残念ながらフォーラムは欠席させていただくことになります。また、ぜひ様子などをお聞かせください。
>ねむねむさん
コメントどうもありがとうございます。
この報告書を読みまして、バックデートという動かしがたい証拠による事実認定が非常に大きなウエイトを占めていると思っています。これがあるからこそ、「個々の手続きをとりあげれば不当とまでは言えないけれども、全体を考慮すれば限りなく黒に近いグレー」という判断が可能になっているものと思います。
ご指摘どうも、ありがとうございました。
>やぶ猫さん
やぶ猫さんも、たいへんおひさしぶりでございます。
私も大阪で似たような調査委員をお引き受けすることがございますが、ここまで精力的に調査をし、また正々堂々と意見を開陳する姿勢につきましては見習うところが多いです。間接事実の積み重ねによる事実認定の手法など、また精査のうえ、いろいろと勉強させていただこうかと思っております。「公表すること」に大きなウエイトを置いて書かれているところは、その意欲が非常に伝わってきますね。続編を書かせていただきますので、またご意見などお寄せください。
今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2007年2月 2日 (金) 01時50分