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2007年1月20日 (土)

内部統制(実施基準)パブコメへの感想(その4)

JICPA(日本公認会計士協会)のHPに昨日付け(1月18日)にて、内部統制実施基準(公開草案)へに対する日本公認会計士協会の意見書が公表されました。(12月20日付けの意見書であるにもかかわらず、なぜ1ヶ月遅れで公表されるのでしょうか?)金融商品取引法上の内部統制ルールの実務に多大な影響を与えるであろうJICPAの意見でありますので、どういった基本的な姿勢(スタンス)で、この基準を迎え入れようとされているのか、非常に関心の高いところであります。私も共著とさせていただいております公認会計士協会、大阪弁護士会共同著書の新刊(4月ころ出版予定)につきまして、私の執筆部分にもJICPAさんより詳細な「本部レター」が出されまして、「細かいところまでよく考えていらっしゃるなぁ」と、ホントビックリいたしました。「ごもっとも・・」と思って手直しした部分もあれば、「これは見解の相違」と思って、そのままにしているところもございますが、ともかく、あのように精査される会計士協会さんですから、この意見書もかなり詳細な分析をされたうえでリリースされたものと思われます。

そもそも企業会計審議会の委員の方々には、たくさんの会計士資格をお持ちの先生方がいらっしゃるわけですし、内部統制の評価、監査のあり方自体が、ほぼ業界の共通言語で括られていると(少なくとも私は)解釈しておりますので、実施基準そのものへの大きな異論というものは出てこないのが自然なところなんでしょうね。ただ、所々に監査実務や監査基準との整合性が問題となるところでの修正意見が散見されるようでして、こういったところを内部統制部会がどうとりまとめられるのか、ちょっと私には予想もつかないところであります。ただ、全社的内部統制と業務プロセスの内部統制との評価や監査に関する相関関係のようなところについて、すこしばかり疑問を持ちました。

たとえば、内部統制の基本的要素の位置づけなどを思い起こしますと、だいたい全社的な内部統制の評価手続と、業務プロセスに係る内部統制の評価手続とが分けて記載されております。そして「統制環境」と「リスク評価」が全社的内部統制の評価にとって重要、「情報と伝達」「統制活動」といった構成要素はどちらかと言えば業務プロセスに係る内部統制の評価にとって重要、「監視活動」がちょうど真ん中あたり、といった解説がされれるのが一般的であります。それで、もし皆様のお手元に以前紹介させていただきました「内部統制の要点」(第一法規出版)がおありでしたら、その99ページに掲載されている持永先生作成の図表(図表3-8「内部統制の基本的要素の位置づけ)をご覧いただくとわかりやすいのですが、いずれの棒グラフも重複していて、なおかつ「全社的・・」にも「業務プロセス・・」にもひっかかっている長方形の部分があることがおわかりになるかと思います。その長方形の部分といいますのは、できるだけ効率的に内部統制システムを構築(整備運用)できるような「仕組み」の部分を指しているのではないか・・・と思いますが、皆様はどうお考えになるでしょうか?つまり、企業が日本版SOX法に対応するためのシステム構築にあたって、なるべくお金をかけないで、効率よく対応方法を検討するには、この長方形をどう活用すべきか、というところが論点になってこようかと思われます。

ただ、これが「論点たりうる」ためには、ひとつの前提条件が成り立つことが必要であります。それは「全社的内部統制」の有効性判断基準と「業務プロセスに係る内部統制」の有効性判断基準は完全に区別されるものなのか、それとも重複するものが存在するのか、といったことであります。もし、重複するものがある、ということが正しいのであれば、内部統制評価というものが内部統制報告書の適正意見をいただくことができる「最低ライン」を目指すものでよい、と割り切って考えることも一案でありまして(といいますか、リスクアプローチという点からみても適正な考え方ではないかと思います)、なるべく先に掲げた「長方形」の範囲内に該当する内部統制システムの構築を検討すべきであります。たとえばリスク評価を適正に行ったうえで作成された現場での管理マニュアルというものは、それが整備されているかどうかは業務プロセスに係る内部統制の有効性評価にとって不可欠なものであります。しかしながら、その管理マニュアルが現場でどう使われているか、といった運用テストの段階になりますと、その評価は単に業務プロセスだけにとどまらず、トップの意思が現場に伝わっているかとか、現場のミス発見の事実が瞬時に担当役員に伝わっているかなど、全社的内部統制の評価基準にも関係してくるものと思われます。また、長期にわたって実務経験を有する優秀な内部監査人が存在することは、それ自体が業務プロセスに係る内部統制の有効性評価にとってプラスに働くものと思われますが、その内部監査人の実際の活動状況の評価はどちらかといいますと統制環境、つまり全社的内部統制の有効性判断に大きな意味をもつことになりそうであります。このように考えますと、やはり全社的内部統制の評価基準と、業務プロセスの評価基準とは、内部統制システムの構築に「整備」と「運用」の概念が含まれているために、かなり重複するところもあるのではないか、と私は考えておりまして、ここを経営者はうまく工夫すべきでしょうし、また何が重複するポイントかという点につきましては、それぞれの企業によって異なるでしょうから、監査法人さんとご相談されるのがよろしいのではないか、と思います。

実施基準(公開草案)におきまして、たとえば「全社的内部統制がとくに有効であれば、業務プロセスの内部統制の評価ポイントを少し下げてもいいのではないか」といったテーマが論じられておりますが、この発想を頭に厳格に詰め込もうとしますと、どちらの判断基準もまったく別個のものである、という思考方法がアプリオリに出来上がってしまいそうになります。しかしながら、「両方の内部統制の有効性に関するポイントを押し上げるような評価対象は存在する」ということであれば、上に掲げた「特に有効な」という意味につきましても、要するに全社的内部統制の有効性判断基準にも合致し、また業務プロセスに係る内部統制の有効性判断基準にも合致するようなシステムが効率よく整備されていると評価できる場合」を指していると考えてよさそうな気がいたします。このあたりの議論の整理につきましては、公認会計士協会さんの意見書の最後に出てまいります「社内の規定類の整備と全社的な内部統制」に関する意見等につきましても、ひとつの回答になるのではないかな・・・と考えております。

PS 三井住友海上では、営業職の勤務評価につきまして、これまでは営業成績がおおきな基準になっていたものを、今後は営業成績半分、法令遵守の姿勢半分として評価するそうであります。(18日の日経ニュース)もし、これがきちんと規則化されるとすれば、まさに全社的内部統制の評価としては大きなプラス事項になるでしょうね。(もちろん、これが企業全体の売上とか活力とかにとって、いい悪いは別として)

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