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2007年2月27日 (火)

消費者団体訴権と企業コンプライアンス(その2)

最近は、ちょっといかがわしそうなブログのTBや商業系ブログのTBが多かったために、ずいぶんと管理人の独断で勝手に抹消させていただいておりましたが、本日はこのブログにお越しいただく法務担当者の方にもかなり有益と思われるものを貼っていただいております。(どうもありがとうございます m(_ _)m )日本版SOX法ガイドさんも、TAKE IT EASYさんも、かなりの力作のようでありますので、皆様がたのご参考にもなるのではないでしょうか。また、いつも読ませていただいております「ぴて」さんのエントリー(TBを参考にしてください)では、昨年の夏以来、このブログでもときどき話題になっておりました「社外役員の責任限定契約と会計監査人による求償権行使の可否」につきまして、江頭教授説(Y説とは結論において反対意見)が紹介されておりますので、こちらも(とりわけ会計士の皆様方には)ご参考にされてはいかがでしょうか。

さて、つい先日、消費者団体訴権と企業コンプライアンスというエントリーをアップさせていただきましたが、ちょうど同時期に、金融法務事情の2月5日号(32ページ以下)におきまして、中央大学法科大学院の升田教授が「消費者団体の差止請求権と金融取引の実務(備えあれば憂いなし)」と題する論稿を出されております。金融機関のなかには、消費者契約について法令違反を問われるおそれはないものと安心しているところも多いかもしれませんが、この論稿では、消費者契約法(改正法)は、金融機関に無縁どころか、重要な影響力を持ちうるものであり、金融機関の取引の仕方、対応の仕方次第では、金融機関自身が実際の差止請求権行使の対象とされかねない・・・と警告されております。

この升田先生の論稿を最後まで読ませていただいたところでは、改正消費者契約法の手続面と実体面での概説をされておられ、金融取引上のどういった行動や契約内容について差止のリスクが発生するかを広く検討されておられますが、とりわけ非常に参考になりましたのは「差止請求権の内容」に関する記述であります。認証団体が今後どのような訴訟を提起されるのか、また裁判所によりどのような判決(もしくは仮処分における決定)が出されるのかは、もちろん未知数でありますが、事業者等の行為の差止だけでなく、広い内容の行為を請求できる、ということであります。つまり契約の不当勧誘や不当な条項の効力を差し止めるだけでなく、問題の行為の予防や、物の廃棄、除去、予防のために必要な措置をとることなど、具体的な作為命令を事業者に発令することが可能になるわけであります。さらに、最近は(従来の実務と比較しますと)民事執行法上の間接強制(もし命令に違反した場合には、一日あたり○○円を支払え、という強制手段)が広く認められるようになったために、相当に抽象的な程度の特定で足りることとなりますので、事業者にとりましては、類似の契約を破棄せざるをえない場面も予想されるようであります。これらを読ませていただいたかぎりにおきましては、認証団体の行動次第では、金融機関や一般事業体について、消費者契約法関連のリーガルリスクは相当程度高まるのではないか、と思います。

現実問題としまして、先日ある弁護士さんからお聞きしたところでは、すでに認証団体においては狙い撃ちする会社の選別が検討されているようですので(ただし、先日メールを頂戴してエントリーを訂正させていただいたとおり、選別の検討対象は一般上場会社というものではなく、中小の問題企業への行使が検討されている、とのことであります)金融機関にかぎらず、一般の事業会社におきましても、この消費者団体訴権の使われ方につきましては、定期的にフォローされるほうがいいかもしれませんね。

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2007年2月26日 (月)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(1)

2004年3月期における三洋電機社の決算について「灰色疑惑」が浮上しておりますが、またまた当時の監査法人の適正意見についても問題視されているようであります。(こちらの朝日新聞ニュースが、入手した内部資料などに基づいた記事を掲載しており、参考になります。)先日の日興CGにおけるSPCの「連結はずし」につきましては、私と仕事や研究会などでご一緒させていただいている会計士の方々も、調査委員会の結論が出る前から「あの会計処理だけ取り上げても明確に不当とはいえないのではないか」といった意見が多かったのも事実でありまして、現に特別調査委員会の結果報告におきましても、「会計基準の判断だけみても堂々めぐり」といった結論となっておりました。このたびの三洋電機社(単体決算)の子会社評価の妥当性(減損評価の可否)につきましても、いくら新聞報道で解説がなされましても、監査法人のどういった行動が問題視されるのか、正直申し上げてよくわからないところですし、ここはやはり現実に監査業務の経験を有しておられる現役の公認会計士の方々の解説のようなものが欲しいと思いますね。「いやいや、あのような状況なら、誰でも同じように減損はしない」と考えるのか「明らかにまずい処理であって、三洋電機さんに押し切られたとしかいいようがない」と判断されるのか、そのあたりの感想でもけっこうですから、新聞等でコメントをお出しになる方がいらっしゃったら、もうすこし新聞解説もわかりやすいのに・・・・と思いますね。

ただ、よく考えてみますと、会計基準の適用に関する判断というのは、前後にわたる会計年度の数値を詳細に比較したり、「収益見込み」といった定性的情報(その企業が秘密として公表できないような資産や情報を含めて)を相当長期にわたって分析するなど、当該企業を知悉していなければ判断できない前提条件も含まれているように思われますので、おそらく社外の会計士さんからみれば、到底「セカンドオピニオン」を発信できる立場にはない、といった認識をされているのかもしれません。このたびの三洋電機粉飾疑惑につきましても、私がよく参考にさせていただいております、いくつかの会計士さん方のブログを拝見しますと、いずれも旧中央青山監査法人さんの監査対応については「やむをえないものだったのではないか」「粉飾加担とまではいえないのではないか」といった同情に近いご意見が多く聞かれるところのようです。

しかし、私のような会計専門家ではない者からすれば(これまた、まったくの素人考えかもしれませんが)「収益見込み」というかなり曖昧な判断を要する事項に関わる問題であるからといって監査法人にはやむをえない事情がある、としてそれ以上の議論を放棄するのでは、積極的に粉飾に加担した場合と、そうでない場合との境界線をどこに引くべきか、という問題の解決策を見つけることができないために、今後ますます監査法人の監督などを含めた事前規制を容易にしたり、課徴金や刑事罰などの厳格化などの事後規制の増加を招く原因になってしまうのではないでしょうか。素朴な意見で恐縮でありますが、会計原則からすれば、なぜ2004年3月期になって、はじめて子会社の減損が問題になったのか(つまり、別の会計基準を適用しなければならなくなった原因事実がはっきりとしているのかどうか、はっきりしているとすれば、それはどういった事実を根拠としているのか、はっきりしていないとしたら、その前年度から監査法人は減損の必要性を十分認識していたのか、このあたりが明確でなければ、監査担当者としては、継続性の原則にしたがって、合理的理由がないかぎりは前年度と同様の扱いをすることが好ましいのではないでしょうか)、またかりに2004年3月期における子会社株式の評価を、これまでとは別の会計基準を適用すべきであったと評価される場合、それでは「会計保守の原則」があるにもかかわらず、どうして監査法人さんは三洋電機社側の主張にしたがった意見を表明するに至ったのか。どういった「収益見込みの急速な回復」を基礎つける資料が提出されたために、回復が見込まれることへの合理的判断が可能になったのか、そのあたりの説明はそもそも「会計保守主義の原則」がある以上は、監査法人さんのほうが主体的に立証しなければならないのではないでしょうか。(といいますか、立証できなければ、株主や投資家に対する説明責任を尽くすことができなくなり、結果として監査の信頼性を失わせてしまう結果になってしまわないでしょうかね)

なお、新聞報道におきましては、2005年3月期には、三洋電機社側で1500億円の評価損を処理しているので、いまごろなぜ2004年3月期の不正が問題とされるのか、といった解説が聞かれるところでありますが、これは理由にはならないと思います。本件がたまたま2007年になって問題視されるに至っておりますが、もしこれが2005年のうちに発覚したとしましたら、先の日興CGの場合と同様、三洋電機社さんにおいて隠蔽していたものと一般的には評価されると思われます。「会計の継続性の原則」や「保守主義の原則」など、会計学の基礎からすれば、言葉の適用場面が異なるかもしれませんが、もし誤りなどございましたら、またご指摘いただけますと幸いです。なお、議論の進化(といえるかどうかはわかりませんが)を目的としまして、過年度の決算に関する調査の持つ意味や、収益見込みに関する被監査企業の(監査法人に対する)説得のあり方など、また詳細なところにつきましては、別のエントリーで続編とさせていただきます。

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2007年2月23日 (金)

IXI社の粉飾決算疑惑

ろじゃあさんがフォローされているアイ・エックス・アイ社(民事再生中)の粉飾決算のお話でありますが、これは私が関係会社に近い立場におりますので、詳細はお話できませんが、一般論としてひとことだけ付言させていただきます。

朝日新聞ニュースが詳しく報道されておられますが、この事件を全体的に考えますと、架空循環取引(宇宙遊泳よりももっとすごいかも。モノがそもそも存在したのかどうかすら不明)から脱退声明を出す「勇気のある企業」の存在もさることながら、「これはおかしいのではないか」と声を上げた監査法人の存在も特筆すべきだと思います。(これは、たとえば・・・のお話ですが)協力企業間の決算期のズレを利用して、納品、買戻しを繰り返している実態を監査法人間で積極的に協力して解明したり、エンドユーザーに対して、納品の確認を求めて、モノの存在を検証したりと、監査法人が徹底した「独立第三者」ぶりを発揮したことで、(にっちもさっちもいかなくなった循環取引参加企業のひとつにおきまして)問題が表面化したものでありまして、監査法人の「あるべき姿」が垣間見えた特徴的な事例であります。なお、ここでいう「あるべき姿」といいますのは、なにも刑事事件の捜査活動をする、という意味ではなく、内部管理体制に裏付けられたお金の流れが明確にならないかぎりは「適正意見」を出さないといった断固たる対応のことを意味しております。たしかに、監査法人がこれまでの架空循環取引の継続を「見抜けなかったのか」と非難することは簡単かもしれませんし、途中で監査法人が交替していることから、なにか特別な事情もあったのかもしれませんが、時代が変わり、みすず監査法人さんが解体移管、というところまで来てしまった現在、「監査法人が(守秘義務に悩みつつも)その気になれば、公開企業も変われる」ことを実務において示した貴重なケースではないか、と思います。(ただ、監査法人さんが事の重大性を指摘してもなお、「バレなければいいのでは?」と呑気なことをおっしゃる役員さんがいらっしゃいますと、これも困り者であるわけですが。。。)以前「粉飾の論理」という新刊をご紹介させていただきましたが、このケースにつきましても、あと何年か先に事件が落ち着いてから、どこかの記者さんが、その一部始終をドキュメントとして公表することには大きな意義があると考えております。(もちろん、私は守秘義務がございますので、お話はできませんが)

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2007年2月22日 (木)

いちご白紙をもう一度

すでにご承知のとおり、大阪製鐵による東京鋼鐵の完全子会社化に向けての株式交換契約が、本日の東京鋼鐵側株主総会により否決されたようです。(日経ニュースはこちら。否決ラインは出席株主の3分の1超でして、40パーセント以上の否決票が投じられたとのこと)いちごアセット・マネジメントによる委任状集めが奏効されたようで、東京鋼鐵側の開示情報によりますと、株式交換契約は白紙となり、今後も統合比率の見直しに向けた動きはしない、とのことだそうです。(なお、大阪製鐵側は、簡易株式交換となるため、総会決議は不要であります)しかし、東京鋼鐵側株主にしてみれば、もう一回大阪製鐵側と統合比率の変更に向けた努力を東京鋼鐵側経営陣に希望するところではないでしょうかね?(まあ、最善を尽くして10月26日付けの統合比率発表に至ったとする手前、そう簡単に変更することはできない、との姿勢も理解できるところでありますが)

またまた、おバカな疑問でたいへん恐縮ですし、どっちの味方なのか不明な立場で安閑としているように見えるかもしれませんが、この委任状争奪戦に関するニュースやブログなどを拝読していてよくわからないところがございます。まず、ひとつめは、本日否決された株式交換契約でありますが、否決されたとはいえ、55%程度の株主は大阪製鐵側の株主として今後も東京鋼鐵の傍に残ることに同意をされたわけであります。つまり、ある程度の少数株主の人たちも、これだけ話題となった「いぢごアセット」の言い分をいちおうは聞きながらも、最終的には経営者サイドの意見に与した、ということであります。これはどう解釈すればいいのでしょうか?(以前から時折、TOBに関する疑問として、このブログでも書いてきたことでありますが)東京鋼鐵は大阪製鐵と比較して、長い歴史を持つ会社でありまして、おそらく株式を長期保有されている株主さんも多いのではないでしょうか。また経営陣も長期保有を勧めるようなIR活動を行ってきたのではないでしょうか。そういった株主さん方に対して、東京鋼鐵の経営者としましては、プレミアムをつけてのTOBに賛同すること(つまり、TOBということになりますと、通常は金銭で買付価格が決定されますから、お金で精算して皆様、さようなら、ということになりますが)を勧誘するよりも、これまでどおり、子会社にはなりますが、今後も一生懸命、企業価値を上げていきます、と決意を表明して、だからこそ我々についてきてください、と長期で株式を保有してもらうことを勧めることにも一理あるのではないか、と思う次第であります。(私だって、本当に事業統合が企業価値を上げるのであれば、機会コストを考慮しても、その株式を保有したいと考えると思いますし)そうしますと、MBOとは異なり、そのまま統合企業の株主として残るわけでありますから、支配権プレミアムの移動という概念も異なってくるのではないでしょうか。(このあたりは、私の勉強不足でありますが、統合比率を検討する場合に、プレミアムは発生するとしましても、それが、株主が権利を放棄する場合、つまりTOBと同じような基準で上乗せしなければいけないものなのでしょうか。また、おそらく交換契約時を基礎とした理論株価を中心に比較しなければならないでしょうから、プレミアムの考え方についても、いろいろと意見が異なるところかもしれませんが。ただ株式交換契約の発表と一緒に、業績の上方修正をしたことにつきまして、一見すると一般株主を甘くみているようにも思えますが、うーーん、これはすこし理解に苦しむところです)

もうひとつの疑問でありますが、おそらく東京鋼鐵社としましては、いちごアセットが委任状争奪に至った時期以降、一般株主に対しましては「統合は今後の企業価値を上げるものであるから、ぜひわれわれ経営陣の意向に賛同してください」とのお願いをされていたと推測いたします。そして、それに賛同した一般株主も多数いたものと推測いたします。そうだといたしますと、株式交換契約は相手方(大阪製鐵)のあるものとはいえ、その賛同していただいた株主の皆様に対して、もうすこしきちんとした説明責任を果たしてもいいのではないでしょうかね?否決の趣旨を表明した株主の方々も、統合自体を否定しているのではなく、比率を問題にされているわけでありますし、統合が正しいとして、経営陣に賛同した株主の方々には、なおさら、白紙しか方法がない旨の説明を必要とするものと思うのですが、いかがでしょうか。株主が正しいと思うところを、経営陣がもう一度、統合相手にぶつけてみて、それでもダメなら仕方ないかもしれませんが、そういった行動に出ることもなく、白紙撤回ですんなり決まるというのは、よほど第三者機関による統合比率算定に自信があったものと思われます。ただ、企業の再編は企業価値が絶対のものでないことは自明のことでしょうし、それ以外の要因で成功もすれば失敗もするわけでしょうから、そういった努力はなぜされないのか、そのあたりの説明はぜひとも欲しいところではないでしょうか。おそらく、この東京鋼鐵、大阪製鐵の事例は、今後数ヶ月は法律雑誌でいろいろな議論がなされるところでしょうから、高尚な議論の前座としまして、ぜひとも、私のような素人疑問を解消させたく、恥をしのんでエントリーさせていただきました。

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弁護士と企業との期待ギャップ

江頭先生の還暦記念論文集「企業法の理論」のなかに、全部取得条項付種類株式の利用制限に関する論文が掲載されておりまして、目下、読むのに苦労しております。スーっと、頭に入る人と入らない人がいるとすれば、私は間違いなく後者に属します。面白くなくて難解であればあきらめもつくのですが、かなり面白い内容でありながら、疑問が解消できないところが悔しい・・・・。学者の先生方でしたら、この上巻と下巻を一読されて、「やっぱり○○君のはおもしろいな」「そうだね、でも○○先生の発想も斬新だよね」などと会話が成り立つのでしょうが、ともかく実務に役立ちそうなところを最優先で頭にいれようともがいております私のような者にとりましては、とりあえず通読して評価する、といったところまではとてもムズカシイようであります。

さて、法曹人口の急増(司法試験合格者の増加)に伴って、「ノキ弁」が増えるであろう、といったニュースが最近よく流れておりますが、今度は「インハウスローヤーは、9割以上の企業が採用予定なし」といった調査結果が報道されております。(日経ニュース、どうも日弁連によるアンケート結果のようです)「企業人」として、弁護士資格者は当面必要ない、といった企業サイドのご判断であります。法曹人口増加の受け皿を一般企業に求めようといった日弁連サイドの思惑からすると、この調査結果はかなりショックかもしれません。でも現在の弁護士サイドの営業活動や、企業が求める弁護士像に鑑みますと、これは当然の結果だと思います。私もここ5年ほど、弁護士協同組合の業務改革委員会の委員長や副委員長をやってきまして、「企業と弁護士のお見合い会」みたいなものを開催したり、「弁護士はこんなことができますよ」といったパンフレットを作って、いろんな商工会議所を回ったりしてきましたが、反応は「いまひとつ」どころか「まだみっつ」ぐらいでありまして、マッチングの難しさを痛感しております。そりゃそうですよね。コンプライアンスに限って申しましても、そもそも企業コンプライアンスというのは「人を動かす仕事」でありまして、人を動かした経験のない弁護士にとりましては、果たして役に立つ仕事ができるかどうかは、たいへん心もとないところであります。

先のニュースにもありますが、単に「弁護士は企業コンプライアンスの強化に役立ちますよ」などと宣伝してみましても、「じゃあ、なんで企業のなかに弁護士を抱えなきゃいけないの?外からのアドバイスでもいいんじゃないの?」といった質問を受けることになりますし、そりゃ反応はほとんどないと思われます。ほかの人よりも少しだけ、コンプラに関するお仕事をさせてもらっていたり、3年ほど社外監査役をさせてもらっている立場からしますと、(企業内弁護士としての素養として)企業が知りたいのは、単に弁護士の資格というよりも普通に「人柄半分、能力半分」だと思います。人柄のなかには、性格も社会常識も含まれますが、能力というのは、司法試験で高い点を取る能力とは違うように思います。(そのような能力であれば、高いフィーを支払ってコンサルとして法律業務を委託したほうがいいわけでして)あえていえば、「なんかおかしいんじゃないの?」といった問題をみつけだす「勘」とか、人を説得できるだけの事実を確定したり分析したりできる技術だとか、紛争解決策を自ら提案できるようなプレゼン能力みたいなものではないでしょうか。何年間か弁護士として真剣に代理人をやっておりますと、ほかの業種の方よりも、やはり経験上、知恵のつくところがありまして、意外と企業の方は、そういった能力に秀でた弁護士が存在することに気づいておられない。これまで企業内弁護士を雇用した経験のない企業や自治体さんの場合、どうしても、弁護士のイメージが固定化してしまっておりまして、それまでの弁護士のストックに期待しているところが多いように思います。しかし、そういったストックは外部委託で足りるわけでして、企業内部で生かされる弁護士の能力はまったく別のところにあると思います。

結論的には、私はいきなり新人弁護士を採用することにはリスクがありますが、5年程度、相手方弁護士や裁判官や検察官にイジメラれ、これに真剣に闘ってきた弁護士というのは、そこそこ企業内で価値の高い仕事ができる人もいるのではないか、と思っております。(あっでも、そんな弁護士さんだったら、きっと仕事も面白いと思っているでしょうし、転職するかどうかはまた別問題ですが。最近はパートタイム裁判官になっている弁護士もいますので、パートで勤務する、という時代も来るかもしれませんね。でも、以前のエントリーでは、「パートで仕事したい、などといわれる弁護士さんはいらない」と厳しいご意見もいただいたような・・・・・)

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2007年2月20日 (火)

公開会社法への道標(その2)

きょうは、意見ではなく、情報のご提供のみで失礼いたします。

(その1)は、昨年5月12日に「公開会社法への道しるべ」といったエントリーをアップしておりましたので、約9ヶ月ぶりの続編アップということです。(そんなエントリーあったのかな?と 笑)(その1)の内容は、いわゆる上場企業におきましては、市場資本主義の興隆とともに「会計士さんの時代」がやってきまして、そのうち会社法と証券取引法が逆転してしまうんではないか、上場企業に法の支配は貫かれるのだろうか・・・といった趣旨のエントリーです。ちょうど、私が大阪弁護士会におきまして会社法研修講座の講演準備をしているときに感じたことをツラツラと書いたものです。そしてひさしぶりに(その2)をアップしようと思いましたのは、会計士さん向け雑誌の3月号に、著名な商法学者の方々の興味深いご意見が掲載されていたからであります。

「会計・監査ジャーナル」3月号の緊急企画「監査不信に立ち向かう公認会計士業界シリーズ第六回 識者に聞く 資本市場における公認会計士の役割とその責任」では、藤沼会長さんと上村教授の対談が実現しているわけでありますが、早稲田大学法学部長の上村先生は上場企業における証券取引法の会社法に対する優越性を強調され、さらに(資本市場をとりまくルールとしては)自主規制のほうが法律よりも重要である、有価証券報告書よりも適時開示のほうが重要である、会計基準はまさにトップクラスの重みがあり、資本市場の中心に公認会計士が存在する時代になる、だからこそその責任も重いのだ、といったお話をされております。現在、上村先生は、日本取締役協会の「公開会社法要綱案」の制定に向けてご尽力されていらっしゃるそうですが、この対談におけるご見解は、おそらくこれまでの上村先生のものとまったくブレがないものと拝察いたします。

いっぽうたいへん気になりましたのが、神田教授の「企業会計」3月号「論壇」における最後のまとめの部分であります。実は、これは立ち読みしかしておらず、前後の文脈まで精読していないのですが、この「まとめ」の部分におきまして、神田先生は上村先生とほぼ同じ趣旨のことをおっしゃってます。(と、私には理解できました。いや、それほど強く、というわけではないと思いますが)公開会社においては、会社法は企業会計基準の前では後退せざるをえない、(法律でいうなら)証券取引法の優越を認めざるを得ない、といった趣旨のことを申されて締めくくっておられます。(もしお手元に企業会計3月号がございましたらご確認ください。)

私はてっきり、いままで神田先生は、こういった考え方をお持ちでないものと勝手に思い込んでおりましたが、やっぱりそのようにお考えになっておられたのでしょうか?昨年のベストセラー「会社法入門」のなかで、神田先生は「会社法はどこへ行こうとしているのか」(第五章)と自問自答されて、コーポレート・ガバナンスに関しては、新会社法は公開会社が日本の資本市場において興隆していくための支援(いわゆる国策法としての会社法)を志向するであろう、といったお考えを開示されておられます。このたびの会社法につきまして、神田先生は、まさに中小企業、ベンチャー企業における株式会社の使い勝手の促進とともに、資本市場を活性化させたり、事業再編を容易化させることによる「公開会社のための会社法」というものを念頭に置かれていたのではないかと思いますので、やはり公開会社におきましても会社法の占める位置はたいへん重要ではないか、すくなくとも会社法>証券取引法とお考えになっているものとばかり理解しておりました。もちろん、証券取引法(金融商品取引法)と会社法との優先関係を議論することが、公開会社にとってどのような実益があるのか、といったことも検証しなければなりませんが、会社法ももうすぐ施行後1年となり、こういった構想も具体的に高名な学者の方々によって議論されるころになってきたのでしょうか。とりあえず、もし上記論稿などお読みの方がいらっしゃいましたら、私の認識の間違い等も含めて、ご感想などお寄せいただけますと幸いです。

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2007年2月18日 (日)

ヘッジファンドと企業コンプライアンス

2月16日の夕方、2時間ほどフィノウェイブ・インベストメンツ株式会社の社長でいらっしゃる若林秀樹さんと(ある方のご紹介にて)大阪でお話をさせていただきました。若林さんはご存知の方も多いかと思いますが、日経の人気証券アナリスト1位(5度)、2006年にファンドマネージャーに転身されてからは、日本株ショートロングヘッジファンドにおいて52本中1位の運用成績を上げておられ、現在も日経ビジネスオンラインにて連載記事(辛口市場主義)を寄稿されておられます。以前よりお会いするのを楽しみにしておりましたので、本当にあっという間の2時間でした。

こちらから若林さんにお聞きしたかったことは、ヘッジファンドの概要でありまして、ファンドストラクチャー、および「健全なファンドとはいかに?」といったファンドの運用実態からみた「安心しておつきあいのできるファンド」の選別方法についてでありました。しかしヘッジファンドのストラクチャーというものは、すぐに理解するのが容易ではありませんね。組織自体がどこの国のものかよくわかりません。(ちなみに、若林さんが社長であるフィノ社も投資運用会社ではなく、あくまでも投資顧問助言会社であります)といいますか、組織の基本パーツが日本やアメリカ、スイス、バージン諸島などなど、あっちこっちに分かれておりますので、「会社の形態」は全世界を見回してみないと理解できない仕組みになっております。また、この仕組みに「ファンドオブファンズ」が絡まっておりますので、もひとつややこしい状況になっております。若林さんからしますと、「あたりまえのこと」かもしれませんが、ヘッジファンドを日本法において理解しようと、へんな質問ばかりする私に、嫌な顔ひとつせず、懇切丁寧に解説をしていただき、本当に感謝で一杯であります。(ときどき、「いや、実は私にもそれはよくわからんのです」とホンネでお答えいただきました。)

ちょっと気になりましたのが、若林さんが日本の株式市場の今後の占う意味で「重要項目」としてあげておられたのが、景気、為替、政治、エネルギーを含む環境問題、そして「企業のコンプライアンス」でありました。世界の株式市場との比較において、重要な5項目のうちのひとつにコンプライアンスが挙げられるそうでして、「これはそんなに影響度が高いのでしょうか?」とお聞きしますと、若林さん曰く

「もちろんです。不祥事を起したかどうか、ということも個別の企業には大事ですけど、不祥事を起さない仕組みとか、リスク管理といったことを企業に要求する制度の有無は市場の浮沈に大きく影響しますよ」「たしかにアメリカSOX法はたいへんかもしれませんが、あれを実践できないということは、それだけで不祥事のにおいがします」「そもそも日本の市場に4000社は多すぎるかもしれません。実践できなければいったん退場して、しっかりした組織をつくってからまた上場すればいいんです」

などなど、やはり機関投資家のコンプライアンスへ向ける眼差しには、たいへん厳しいものがあることを実感いたしました。私は、普段の仕事が個々の企業からの依頼というところにあるものですから、不祥事再発防止のためにはどうしたらいいかといった観点からしか「コンプライアンス」を捉えておりません。したがいまして、大きく観点を広げても、「企業集団としてのコンプライアンスのあり方」くらいまでしか語る資格がないように思っております。しかしながら、市場規模の拡大(国策)のため、企業不正を予防ないし低減するための仕組みといったものが、これほど大きく捉えられているというのはちょっと予想外でありました。(会社法改正、金融商品取引法制定は、海外市場との比較でいえば、とても日本に有利な法制度の改変だそうであります)最近SRIの市場規模が拡大したり、自主規制機関が引受審査基準を変更したり、監査体制の環境整備が進められたりしておりますが、これらは主として一般国民に向けられたパフォーマンスの一環ではないかと思っておりましたが、そうではなく、アジアの飛躍的な株式市場の伸長から取り残された日本の株式市場の「復権、再興」をかけた外向けのパフォーマンスの意味のほうが大きいのではないか、と思い直すことにいたしました。

そういえば、2日ほど前の日経ビジネスオンラインの記事におきまして、東京地裁第8民事部(商事専門部)の裁判官の方々が、いつ提訴されてもおかしくないほどの「秒読み」状態になったMBO訴訟のために、いま必死で勉強されている、ということが書かれております。若林さんからヘッジファンドで働く人々のことをお聞きするうちに、日本の会社法における「多数株主支配からの少数株主保護」に関する判例が形成されるためには、どうもファンドが「少数株主」側として登場するようなケースが多発することが条件になるんじゃないでしょうか。(いままでは支配株主として登場することが念頭に置かれておりましたが)どうもそのあたりを、そろそろ裁判所も察知しているのかもしれませんね。

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2007年2月16日 (金)

サッポロHDにスティールPが意向表明書提出

(2月16日午前 追記あります)

一昨日(2月13日)でありますが、私が独立第三者委員会の委員を務めさせていただいている某企業にて、ライツプランによる買収防衛策再導入に関する意見交換会(もちろん、独立第三者委員会の委員によるもの)がありました。(適時開示情報を一生懸命探しますと、某企業からの「ライツプラン再導入のお知らせ」というものが出てまいります)独立第三者委員会3名でいろいろと協議をしたところでは、「もし、大量買付希望者が現れた場合には、どういった対処法をとるべきか」ということについて、けっこう難しい判断を迫られる場面が出てくるのではないか、と思われる論点がいくつかありそう、との認識でありました。いくら発動の決議は取締役会で決定するものであり、第三者委員会はあくまでも諮問機関である、といいましても、おそらく第三者委員会の勧告につきましては、取締役会も最大限尊重するものと思われますので、やはり責任問題という観点からは、かなり慎重に考えておかなければなりません。

そういった社外の独立した有識者によって構成される第三者委員会の委員の方々が、委員会としての意見を現実に形成しなければならなくなったのが、サッポロHDであります。(「特別委員会」と称されているようです)すでにニュースでもご承知のとおり、スティールパートナーズが、大規模株式取得行為を希望する第三者が出現した場合の防衛ルールに則り、サッポロHD代表者あてに「意向表明書」(と解釈できるもの)を提出したことが報じられております。敵対的買収に発展するのではないか、とのニュースも早々と出ておりますが、世間ではあまり注目されていないところでありますが、昨年1年間に導入された上場企業の事前警告型の防衛ルールのうち、100件程度のものに、この「独立第三者委員会」が設置されているそうでありまして、就任している人数からすると、300名以上の方(もちろんいくつかの企業の第三者委員会委員を兼任されておられることとは存じますが)が、(世間での注目度とは裏腹に)このサッポロHDの事件を見守っているのではないでしょうか。

そもそも、この防衛ルールの一環としての事前交渉制度といったものが、買収防衛策を導入する企業が一方的に作ったものであって、「果たして合理性を有しているのかどうか」ということに若干疑義を抱いておりますけれども、このサッポロHDの昨年2月の「大量取得希望者出現時における対応方針」におきましては、東京地裁の決定の趣旨を援用して、合理性があることを説明されております。たしかにルールそれ自体には不合理な点はないのかもしれませんが、こういったルールにしたがった大量取得希望者側より、逆に合理的な範囲において質問がなされ、その質問への回答に対して、大量取得希望者側が「われわれの質問への回答が不十分」と判断したような場合にまで、取得希望者はTOBに踏み込むことはできないのでしょうか?今回のスティールがサッポロに宛てた意向表明書のなかにも書かれておりますが、おそらく法務・財務に関するDD(デューデリジェンス)には被買収企業側は非協力でしょうから、情報の非対称性からすれば、こういった回答につきましては誠意をもって対応する必要がある場合も出てくるように思うのですが。一方的なルール策定がある範囲において「合理的」と評価されるのであれば、大量取得希望者側においても、質問をして、その回答内容から判断して、納得できなければそのルールに従わなくてもよい、といった理屈も成り立ちうると考えるのですが、さてどうなんでしょうか。企業価値算定による比較の問題にまで踏み込むべきなのか、形式的な要件該当性だけから勧告の内容を決めていいものなのか、大量買付希望者自身は経営する能力はないけれども、その背後に同業他社の影がちらついている場合などは、ルール上、直接の相手方をどうみなせばいいのか(三角合併の場合などに問題になってくるのかもしれませんが)、など第三者委員会の委員さんとしては、いろいろと問題が出てくるところではありまして、またそのあたりの論点は続きということにさせていただき、まずは防衛ルールのあり方といったところで、素人的な疑問が湧いてくるところであります。

(2月16日午前 追記)

今朝の読売新聞では一面トップで「アサヒがサッポロに統合提案」のニュースが報道されております。2月2日のエントリーでも少し触れましたが、これは当然の流れでしょうし(ただし、昨年12月ころから非公式には打診されていた、との報道内容です)、このあたりの流れを想定内にいれてのスティールの動きということなんでしょうね。ただ、この記事で気になりましたのは関係者のお話として「スティールはビール業をやったことがないから、提案を受け入れることはできない」として、統合提案を拒否する見込み(読売新聞ニュース)とありますが、こういった内容で第三者委員会も判断をしていいのかどうか。(ダメですよね・・・・・)

なお、今後の事業再編と法律問題との関係で考えますと、サッポロ・スティールのTOB以上に、今朝の日経報道にある「東京鋼鐵・大阪製鐵・いちごアセット」の委任状争奪戦による株主総会決議の行方のほうがかなり影響度が大きいと思います。ヤフー掲示板を10日間ほど眺めてましたが、いちごが30%以上を保有するにいたったというのは存じ上げませんでした。

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2007年2月14日 (水)

日興CGの内部統制を考える(2)

一昨日のエントリーにはたくさんのコメント、トラックバック、ありがとうございました。私見につきましては、皆様のご意見は賛否両論といった感じでしたが、予定どおり、13日に日興CGより「当社グループの信頼回復に向けた取り組みについて」と題する機構改革案が発表されました。改革案によりますと、「内部統制室」なるものが設置されるそうですが、予想どおり、これは「CEOオフィス」を改組するようですね。気になるのは「グループ間における役員兼職の原則禁止」といったテーマでありますが、(私が読んだかぎりにおきましては)どこにも「原則禁止」ということは書いてありませんね。むしろ、コーポレートガバナンスの強化のなかで「当社常勤役員の他社役員兼務に関する基準の整備」として

利益相反が生じず、牽制が働く形で、ガバナンスが保たれる枠内において、当社常勤役員が他社役員を兼務するための基準を整備する

とあります。ということは、やはりこれからも関連会社間におきまして(つまり親子間において)役員の兼職は(ある基準に基づいて)認める、ということなんでしょうか。といいますか、これであれば私も効率性と法令遵守の微妙な調和点を探るためには異議はございません。「切った張った」の世界を牛耳る証券会社の統括会社が、ガチガチの相互牽制で固めてしまって、どうやって競争企業と戦うのだろうか、あまりにも現実的ではないのではないか、とも思っていたのですが、この機構改革論と副社長辞任の「合わせ技」によってなんとか上場廃止論をかわせるかどうか、微妙なところではないでしょうか。いよいよ次は監査法人の訂正報告書の中身が問題になってきそうであります。

ところで、山一證券のように経営不振によって再編されるのは仕方ありませんが、有価証券の虚偽記載(不正会計)を理由に上場廃止という判断はなかなか勇気のいることだと思います。不動産業界や食品業界のように、業界が飽和状態であって、企業数も豊富で、限られたパイの取り合いというものでありましたら、やむをえないかなぁといった判断もありますが、国策的にこれからアジアナンバー1の証券市場を形成しなければならない、つまり是が非でも「右肩上がり」にしなければならない業界の大手企業に退出を命じるとなりますと、ほかにも同じようなコンプライアンス問題が発覚したような場合、その右肩上がりを担うべき企業数が減ってしまって、国策は頓挫してしまわないのでしょうか。いまのご時世、内部告発やら、内部通報やら、行政のコントロールできないところで過去の不祥事が発覚するリスクがあるわけでして、「もう日興のようなところはない」と果たして言い切れるのかどうか。これまでの証券会社の不祥事の歴史を振り返ってみますと、どうも言い切れることではないと思います。ちょっと発想を変えまして、たとえば日興CGが、本当にこのような機構改革案を実施することができるのであれば、これを証券業界のスタンダードな形にすえて、他社にもルール化する手法を考えることのほうが、「右肩上がりにしなければならない」業界、そして今後の日本のためにも適切ではないのかな・・・とも思ったりします。(それとも、厳格な対応を内外に示すほうが、証券市場の信頼性は向上するのでしょうか?このあたりも意見の分かれるところかもしれませんが)最近あたかも、内部統制の強化=万全の不祥事防止策といった図式で、なにかあると社外でも社内でも内部統制強化が叫ばれることが多いようですが、そういった神話が果たしてどこまで有効なものなのかどうか、またお寄せいただいたメールなどを参考にしながら、考えていきたいと思います。

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2007年2月12日 (月)

日興CGの内部統制を考える

以前、「日興CGの役員会と内部統制」というエントリーをアップしましたが、その翌日に社長さんが記者会見にて、「昨日のは一時的なもの。特別調査委員会の報告結果をみて本格的に内部統制の強化策を発表します」とおっしゃっておられました。そしていよいよ13日に新たな内部管理強化策の内容が明らかにされるようです。毎日新聞ニュースにもリリースされておりますが(日興、不適切会計防止策を13日発表)、2月10日付け日経新聞の朝刊に、かなり詳しく内部強化策の内容が示されておりまして、

  • 持ち株会社側には、子会社の違法行為の有無をチェックする専門の監査部門を設置する。
  • 子会社を監査する専門の執行役員を持ち株会社側に置く。
  • いっぽう子会社側も監査、内部統制部署を設置して、グループ全体において相互牽制により不正問題防止をはかる。
  • グループ相互での役員兼任は禁止する。

というのが骨子のようであります。。(子会社の違法行為を監査する監査部門といいますのは、日興CGのコーポレート・ガバナンス報告書に記載されている「CEOオフィス」のことでしょうか?)

おそらく日興CGのCFOの方が、このたびの不正会計問題に関与していた(と疑われる)ことや、NPIの元代表者の方が、これまたCG側の執行役員を兼務されていたような事実から、このたびの一連の不正会計の原因は、持ち株会社と子会社間でのチェック機能が働かなかったことにあると、現経営陣が認識され、このような防止策を公表するに至ったのではないか、と推測されます。たしかに企業コンプライアンスといった見地からすれば、公表された内部統制強化策も妥当なものであり、現経営陣の新生日興へ向けての意気込みを感じることができそうなのですが、果たして効果的なものかどうか、ということで考えますと、かなり疑問があるのではないでしょうか。

1 内部統制の運用面ではどうなるのか?

グループ全体において相互牽制により、違法行為の予防を図る、というもののようでありますが、そもそも親子会社間において、相互牽制作用というのは期待できるものなのでしょうか?並列的に並んでいる組織間においては、よく相互牽制機能を果たすことがいわれますが、上下関係(支配関係)のあるところで、相互牽制が有効に機能するためには、相当の運用面でのシバリ(運用基準の策定とか)をかけないと期待可能性はかぎりなく0に近いでしょうね。たとえば子会社のトップは社外から招聘するとか、過半数を社外取締役で構成するとか、一般社員への内部通報制度を充実させるとか、目に見える形で、整備された内部統制システムの運用まで保証されるものでなければ、絵に描いた餅に終わってしまうような気がします。まだ不正会計を組織ぐるみに行った本当の動機というものが明らかではありませんので、これは推測にしかすぎませんが、今回はたまたま持ち株会社と子会社との間で、兼務していた役員さんがおられたから、そこに原因があると結論付けておられますが、もし子会社であるNPIが単独で暴走していたような事例であったとすれば、今度は子会社に目が行き届かなかった持ち株会社に責任があったとされて、ぎゃくにグループ全体の内部統制を機能させるために、親会社と子会社との役員の兼任が提案されていたのではないでしょうか。最近の金融検査における「指摘事例集」などを読んでおりますと、金融庁による評定のランクが低いのは、せっかくコンプライアンスプログラムにしたがって「いい組織」を作っておきながら、その運用がまったくできていない、といったところに問題を指摘される事例が多いようです。戦略リスク管理の一環としての内部統制や、オペレーショナルリスクを回避するための内部統制など、今年はもうすこし概念整理が進むものと予想しておりますが、法令遵守体制を構築することを最大の目的とする「内部統制」のあり方については、本当にムズカシイ部分、つまり「運用面」で工夫をこらさなければ目的達成に向けての「説得力」がでないものと考えております。そもそも子会社専門の監査部門というのは、いったい何をされるのでしょうか?子会社との取引に異常性が認められた場合に、その経営内容をチェックするというものでしょうか。

2 親子間の役員兼務禁止は妥当か?

そもそも会社法における内部統制システムの整備に関しましては、会社法施行規則100条に、取締役(執行役)の職務執行の効率性を高める体制の整備、企業集団における職務執行の適正が確保されるための体制の整備が含まれております。(日興CGのような委員会設置会社の場合は会社法施行規則112条2項)また、金融商品取引法における内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)におきましては、その実施基準(まだ確定はしておりませんが)のなかでも、持分法適用会社を含めて、関連会社間の内部統制評価は不可欠なものとされております。したがいまして、どちらかといいますと、内部統制という面からみた場合には、親子会社間におきましては「相互牽制」のために役員兼任を禁止するよりも、役員を兼ねているほうが内部統制的には都合がいいのではないでしょうか。そのほうがトップの意思が即座にグループ企業に伝達される仕組みとなって「効率性」に資することになりますし、最高裁平成18年2月の文書開示命令に関する決定の趣旨からいたしますと、(もし役員兼任禁止ということになりますと)意思形成文書ではなく、意思伝達文書(持ち株会社で決定されたことが子会社へ伝達される)が飛び交うことになり、社内文書が第三者によって開示要求されるリーガルリスクを背負い込むことにもなりそうですし。そもそもこういった場合に、効率性ということよりも、「法令遵守、コンプライアンス経営の徹底」を主たる目的とする内部統制を検討するのでありましたら、役員兼任禁止、といった対応よりも、子会社役員の利益相反場面における行為規範準則を規定したり、子会社のバックとフロントにチャイニーズウォールを作ったり、子会社と持ち株会社とのアームスレングスルールを規定するなどの行為規範によって規制するほうが、なにかあったときの「個人的責任」が明確となり、不正会計防止策としては現実的には有効ではないかと思うのですが。皆様はこのあたり、「内部統制」という視点から、どのようにお感じになられましたでしょうか?

これらの意見は、まったくの私見でありまして、ひょっとしますと既に日興CGにおきましては検討済みかもしれません。また、そもそも役員兼務禁止は当たり前であって、私の常識がずれているのかもしれません。ただなんとなく、この報道を読みまして、どうも内部管理体制の強化策といいながら、ずいぶんと「場当たり的」ではないのかなぁ・・・と腑に落ちないところがございましたので、すこし長くなりましたが書かせていただきました。

(2月12日午後 追記)

経営コンサルタントさん、まほろばさん、コメントありがとうございます。またお返事書かせていただきます。ちょっと日本取締役協会によります「監査委員会ガイドブック」(商事法務)の72ページあたりを読みますと、そこに「(委員会設置会社における)グループ内部統制の考え方」という項目がございまして、内部統制の建付としまして、「いの一番」に「持株会社の場合には、傘下の事業会社の社長を持株会社の執行役として、子会社管理を担当させる」とあります。やはりこのガイドブックにおきましても、企業集団における内部統制のあり方としましては、子会社のトップが持株会社の役員を兼務することが効果的、との考え方に立っておられることがわかります。これが果たして正しいのかどうかはわかりませんが、あながち私の意見も常識から逸脱したものではない、と思われます。

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2007年2月11日 (日)

期待の「法務ブログ」発見!!

1月に「企業コンプライアンス関連のブログさがしてます」といったエントリーをアップしておりましたところ、一昨日に東京の某法科大学院の某教授(って、誰やねん(^^;;)よりメールを頂戴しまして、期待の法務ブログ(しかも実名ブログ)、ご教示いただきました。。うう!これ、まちがいなくおススメのブログであります。どう読ませていただいても、「かなりマニアック」であります。期間限定でないことを祈りつつ・・・(某先生、どうもご教示ありがとうございました)

拙ブログをご覧の方々には、すでにご承知のかたも多いかと存じますが、東京第二弁護士会の行方弁護士の「内部統制、コンプライアンスetc・・」であります。金融法務に関する講演会などでも実績のある「実力派」の先生で、メリルリンチ証券→金融検査官、といった経歴からも、「本物のにほひ」といいますか「コンプラ、内部統制フェチ」(失礼・・・)の琴線に触れるものが感じられます(^^;さっそく、畏れ多くもご本人さんにメールをしてしまい、このブログでもご紹介させていただくお許しを頂戴しました(どうも、ありがとうございます)ちなみに、行方先生は先週、日経の一面で紹介されておりました内部統制システムの構築支援をされるNPO団体(酒巻教授が代表)のメンバーでもいらっしゃるそうです。社会貢献という目的でブログをお書きになっておられるようで、さすがに「濃厚な内容」のようでありますが、今後は証券、銀行系のコンプライアンス、内部統制を中心に、実務に役立つご意見をアップしていただけると、とてもありがたいなあ・・・・・とひそかに期待をしております。ブログを拝見しておりましても、とても「前向き」なスタイルが伺われ、読ませていただき元気をもらえそうであります。ということで、ひさしぶりに「リスト」にもアップさせていただきました。

どうか息切れされましても、休み休みでも結構ですので、末永くお続けいただき、neon98さん、47thさんに続く(たぶん、おふたりと近い年代の方ではないでしょうか)「企業法務弁護士のブログ」に上っていただければと祈念いたしております。(あまりプレッシャーをおかけしないつもりで・・・と思いましたが、まあたいへん発見の喜びが大きかったものでつい・・・・・)また、皆様方でご存知の「法務ブログ」がございましたら、お教えいただけますと幸いです。

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2007年2月 9日 (金)

団体訴権と企業コンプライアンス

(2月9日午前 追記あります)

最新の「旬刊商事法務」(2月5日号)の「スクランブル」に、またまたたいへんおもしろい小論が掲載されております。題名は「役員の刑事事件と民事事件」といったものであります。世の中のコンプライアンス意識の高まりによって、法令順守が問題とされるような不祥事を起こした会社の役員の方々は、以前であれば追及されなかったような民事事件であっても、最近は企業のレピュテーション低下を招いた責任によって高額の民事賠償責任を負担する可能性が高まっております。実際に消費者に健康被害が発生していないような不祥事でありましても、企業の社会的評価を毀損して会社に損害を与えたというもので、たとえ刑事的には罰金30万円程度で済むようなものでありましても、民事的には数億円といった責任を負担するというのは、私法公法といった法体系を採用する日本において、果たしてバランスのとれたものであろうか、といった視点であります。法令順守に絶対の価値を置き、この絶対的価値の前ではいかなる利益も無価値であり、その侵害に対してはいかなる抗弁も許されない・・・といった風潮が強くなってきたことになんの懸念もないのでしょうか・・・といった問題意識ではないかと思います。

たしかに、企業が行政による取締法規に違反した行動に出た場合であっても、その行為が民事上の法的効果に影響を及ぼすものかどうかは、一概には決められません。(その取締法規違反の程度が、非常に重大である場合などは、私法上の行為につきましても、信義則違反などの一般条項を用いて私法上の行為を「無効」と判断するケースもあります)たとえばバブル崩壊のころ、証券会社が顧客から訴えられる裁判事例が多かったわけでありますが、裁判所としましては、証券会社に行政取締法違反の事実は認められるものの、顧客の証券会社との民事的な効力には影響しない、といった判決がよく出ていたものであります。要するに、証券会社の社員の行動は、その社員や証券会社に刑罰的なペナルティを課すことで証券会社(もしくはその社員の)行動を規制すれば足り、顧客へ不当な収益を返還することまでは必要ない、といった理屈であります。(これは現在でも、消費者契約法や金融商品販売法などによって企業の違法行為が私法上の行為に及ぼす法的効果を規定していない場合には、成り立つ理屈であります)企業がレピュテーションリスクを背負うこと、それ自体はソフトロー的な見方でありますが、そのリスクが株主代表訴訟などの裁判で役員の損害賠償請求権算定の根拠になるのであれば、それは「ソフトローのハードロー化」が起こっているものと考えられます。

さて、一昨年に、このブログにおきまして「団体訴権と事業リスク」といったエントリーを立てたわけでありますが、すでに皆様ご承知のとおり、いよいよ2007年6月より、消費者契約法の一部を改正する法律によって、消費者団体訴権制度が施行されます。消費者に損害が発生するか、発生のおそれがある場合に、国から認証を受けた消費者団体は、被害者を代理することなく、つまり一般消費者に代わって、その対象企業の事業活動の一部について差止請求権を行使できる、といったものでありまして、すでに東京と大阪の消費者支援団体は来るべき団体訴権行使にむけて着々と準備を進めておられるようです。きょう、その団体の役員の方々から、いろいろとお話をお聞きしたのでありますが、(あまり詳しくはこのブログでは書けませんが)かなり多くの企業への団体訴権行使に関する検討チームができている、とのことでして、果たして一般の企業の方々が、この「団体訴権」についてどこまでご存知なのだろうか、すでに事業リスクとして評価されているのだろうか、といったことを懸念いたしております。

一昨年にも書かせていただきましたが、この認証団体による訴えの提起につきましては、対象となる違法事由(基本的には現行消費者契約法で問題とされている事由)の範囲が限られていたり、行使される差止請求権の訴訟物をどう特定するか、ほかの認証団体や個人で訴えている人の裁判との関係、つまり既判力をどこまで認めるか等、これから先、まだ法律実務によって検討されるべき課題も多いわけでありますが、私法上の権利侵害の有無にかかわらず、消費者に代わる「認証消費者団体」が、企業の法令違反の事実を指摘して、その差止めを裁判所に訴えることができるわけでありますから、これまでの民事訴訟法を勉強してきた方々にとりましては、かなり異質(ある意味で画期的)な制度であることは間違いありません。企業がいきなり消費者団体から訴えられるわけではなく、事前交渉制度というものがございますので、そこで「和解」をすることも考えられるわけでして、その和解のなかでコンプライアンス違反行為を是正して、これを関係行政庁に報告する仕組みになっております。しかし、大きな企業であれば、この和解の申し入れを認証団体から受けた段階で、おそらく「適時開示」をしなければなりませんし、非上場企業におきましても、消費者問題であるがゆえに、広報すべき事由に含まれることは間違いないと思われます。団体訴権として、損害賠償請求権を行使することはできないものでありますので、こういった認証団体の運営資金については以前から不安がございましたが、関西の認証団体のほうでは、生協さんとの共同運営といった手法によって資金面での問題を解決されているようでして、私がみるかぎりにおきましては、早期に実績作りのために、もはや準備は万全といった印象を受けました。

日経BPコラムなどにおきましても、リスクマネージャーの方が、今年の企業リスクに関する大きな話題として取り上げておられるようですし、私も本日のお話をもとに、全社的リスクの一貫としまして、消費者と契約関係に立つような企業の場合には、取締役会等におきまして、この消費者契約法の一部改正問題(団体訴権問題)を検討しておかれたほうがいいように思いました。先の「スクランブル」と同様、一般民間の団体が企業の違法性に直接ストップをかける(法令の遵守は至上命令と捉える)、という法制度そのものには、まだまだ違和感を覚えるところではありますが、もはや施行が直前に迫っておりますので、きちんと知識くらいは先に勉強しておくべきかもしれません。

(2月9日午前 追記)

さっそく、ある消費者団体の方からメールを頂戴しました。被害者からの苦情などを事前に十分精査する必要があることや、悪質な契約締結について優先的に対応することなどから、いきなり大企業に対してなんらかの行動を起こすものではない、といったことをご指摘いただきました。ちょっと誤解を招きかねないエントリー内容ですので、追記させていただきます。ただし、今後は独占禁止法や景表法などによる被害に対しても積極的に訴権行使ができるように検討を重ねておられるようです。(ご意見、ありがとうございました)

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2007年2月 7日 (水)

3年ぶりに改定された監査役監査基準

本日、社団法人日本監査役協会のHPにて、3年ぶりに改定された監査役監査基準が公開されております。(改定監査役監査基準)おもに内部統制システムの整備運用に関する監査や、買収防衛策への対応、代表訴訟制度における不提訴理由通知制度など、会社法への対応を中心とした改定が確定したことになります。

すでにリリースされておりました公開草案と、今回の確定版との違いにつきましては、対照表が公開されておりますので、そちらでご確認ください。目立ったところで申し上げますと、「監査役および監査役会は」とされていたのが「監査役は」で統一されているところと、公開草案第30条で規定されておりました「財務報告内部統制」に関する条項がすべて削除されているところであります。とりわけ財務報告内部統制への検証、監視といった監査役の権限が明記されておりましたのは、今回の改定版の「目玉」かと思っておりましたので、この全文削除には少し驚きました。そもそも「財務報告内部統制」といった概念は、金融商品取引法上の内部統制報告制度と親和性を有するものと考えられますが、そうであるならば、非上場企業の監査役監査にも適用されるべき監査役監査基準の条項としてはふさわしくない(「会計監査人」なる文言が用いられておりますし)、との判断があったのかもしれません。また、もし「財務報告内部統制」への監査役の関わりを規定するのであれば、ニュースリリースにも記述されておりますとおり、今後策定が予定されております「内部統制システムへの監査実施基準」(改定監査基準21条7項)のなかで、細則として規定される予定なのかもしれません。ただ、公開草案43条2項から改定監査基準の42条2項への文言の変更から推測してみますと、「財務報告に係る内部統制」と監査役監査との関係を完全に断ち切ったものとまでは言えませんので、とりあえず会計監査人の内部統制監査に対する監査役の関わり方について、「検証」する立場というよりも、「協力、連携」といった立場を前面に押し出した形で解決したのではないか、という見方も成り立ちそうであります。さらに、もう少し細かい話になりますが、公開草案の43条2項の規定は、よく読みますと、会計監査人によるダイレクトレポーティングを想起させる文言となっておりますので(会計監査人による評価に関する・・・)、そのあたりを変更したものと考えることもできそうであります。ただ改定監査基準42条2項の「財務報告に係る内部統制に関するリスク評価」という文言も、すこしわかりづらい内容ですよね。(内部統制に関するリスク評価って、いままで考えてきましたでしょうかね? とりあえず、以上はあくまでも私の推測であります。このあたり、詳しい方がいらっしゃいましたら、またご教示くださいませ)

今後、東京、大阪、名古屋にて、改定監査役監査基準の解説会が開催される予定のようですので、またご関心のある方は、参加されてはいかがでしょうか。

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2007年2月 6日 (火)

日興CG諮問委員会の利益相反問題を考える

拙ブログにおきましても、年初より日興コーディアルの不正会計問題に関心を抱いておりましたが、やはり特別調査委員会による調査結果の公表あたりからずいぶんと報道内容もヒートアップしてきたようであります。インデックスファンドにおいても日興株の売却が進みだしたり(朝日新聞ニュース)、一方において再編への予測からか米国の投資運用会社が5%超の日興株を買い進んだり(こちらも朝日新聞ニュース)、世間ではもう会計処理の訂正報告に続く上場廃止問題にまで話題の中心が移ってきているような気配ですね。

日興CGの一連の話題におきまして、いったん報道はされましたけれども、あまり話題が続かなかったのが旧経営陣である日興CGの元会長、元社長さん達に対する数億円の役員退職慰労金の支払いについてであります。一部ブログにおきましては、ヒステリックな反応に近いものも見受けられましたが、それも一過性のものであり、報道から1週間ほど経過した現時点におきましては、ニュースでもブログでもほとんど取り上げられることはなくなってしまいました。私はこれを「特別調査委員会が組織的関与を正式には認めなかったからではないか」とも思ったのですが、どうも一般常識では調査委員会は「組織的関与を認めた」と解釈されているようですので、私の推論も適切ではないかもしれません。それどころか、現経営陣は(この特別調査委員会の結果報告を受けた形で)旧経営陣に対する民事、刑事責任の追及を検討しているとのことでありまして、その検討のための諮問委員会を設置したようであります。(こちらの日経ビジネスオンラインの記事が比較的冷静かつ正確にニュースとして報道しておられるようです)

ところで旧経営陣に対する退職慰労金の支払につきましては、2003年の日興の株主総会においてすでに承認済みとのことでありますから、業績連動方式の賞与の返還などとは異なり、旧経営陣の方々が正当に受領できるものであることは間違いありません。しかしながら、日興本体が旧経営陣に対して不法行為による損害賠償請求権を有しているとすれば対当額において相殺することが可能になってくるわけですから、おいそれと先に支払ってもいいのかどうか、ということが一応の法的な論点になってくるのではないでしょうか。この日興の諮問委員会も、こういった旧経営陣に対する民事上の責任追及を目的として発足するわけでありますので、もし損害賠償請求権の行使を可とするような結論に至る場合、安易に先に支払ってしまったことが回収困難性の観点からその適否を問題にされてしまうような気がいたします。つまり、もう少し役員退職慰労金の支払いを留保しておき、この諮問委員会による決定次第で支払いの可否を検討すべきではなかったか、と考えるところであります。

そこでもし旧経営陣へ役員退職慰労金を現経営陣が支払ってしまっており、そこに不法行為による損害賠償請求権の行使が可能との結論が出てきた場合には、現経営陣らによる先払いの妥当性に法的なクレームが生じることも考えられます。そして諮問委員会の顔ぶれをみますと、そこに現経営陣も参加して審議することが予定されているようであります(先の日経ビジネスオンラインの記事参照)しかしながら、こういった退職慰労金の支払い状況からみますと、そもそも委員である現経営陣の方々にとって公正な第三者としての判断を期待することはできないのではないでしょうか?もちろんここで利益相反のおそれあり、として現経営陣が諮問委員会の委員の立場から自ら退くことにつきましては、その先払いの妥当性に問題があることを認めてしまうことになりますので、おそらく期待可能性には乏しいものでありますが、いずれにしましても、退職慰労金の支払い事実から旧経営陣の責任追及検討までの一連の行動につきましては、どうもスッキリしないところがあるような気がしているのですが、いかがでしょうか。(そもそも、この退職慰労金支払いの妥当性に関しては、どこのマスコミもあまりツッコミを入れていないところをみますと、それほど騒ぎ立てるほどの法的な問題は含まれていない、といった見方が大勢なのかもしれません。したがいまして、あまりたいした論点ではないかもしれませんが。このあたり、どこかのマニアックなブログで検証されておられるとありがたいと思っております・・・・)

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2007年2月 5日 (月)

日興CG報告書とメール管理

財務報告の信頼性確保に係る内部統制の評価および監査基準のひとつとして、情報管理の適正性が挙げられると思われますが、このたびの日興コーディアルグループの特別調査委員会報告の内容を読ませていただいた感想として、「メール管理の重要性」、裏を返せば「メールは怖い」といった印象を強く抱いた方も多いのではないでしょうか。NPIが虚偽の発行開示書類を作成したのかどうか、という点は、「所与の前提」だけでは不明確であります。そこで調査委員会としましては、いくつかの「所与の前提」を時系列的に並べて、その間に調査委員の「推論」を置いていくわけですね。そして、この「推論」の部分が合理的な疑いが生じない程度にまで、確からしい証拠があるかどうかをひとつひとつ吟味していく、といった手法をとるわけであります。今回その「調査委員会の推論が正しいようだ」と裏付ける大きなポイントとなりましたのが、NPIHによりますEB債の発行決議(取締役会決議)の日付を誤魔化していたことを示す数々のメールでありました。また、過去にも同様の手法によってNPIが利益を捻出していたことを示すメールも出ておりまして、「所与の前提」の並び方が単なる偶然ではない、といったことの重要な証拠としても用いられております。単に直接証拠としてメールを用いるのでありましたが、保存期間もそれほど長期間でなくてもよさそうでありますが、こうやって間接証拠としてもメールが用いられたり、動機の立証としても活用される場面があるとすれば、やはり内部統制の一貫としてのメール管理のあり方としましては、5年以上の長期にわたる保存が最低限度必要になってくるのではないでしょうか。

ところで、NPIの元代表者の方の発信メールがまったく見あたらなかった、ということでありまして、サーバーから消えてしまったのではないか、との疑念が生じるところでありますが、社外メールならいざ知らず、社内メールというものは、個人の操作によって簡単に消すことはできるものなのでしょうか?最近はメール保存の際に、社内メールすべてに自動的に番号が付されていき(時系列)、もし誰かが日付をさかのぼらせたり、消去したりすると番号がおかしくなってしまうような仕組みを取り入れているところもあると思いますが、そういったシステムはとられていなかったのでしょうか。いずれにしましても、スタッフを含め合計12名の調査委員会組織が約1ヶ月の調査期間に50万件を超えるメールをチェックしたということですから、それは想像をはるかに超える程度の困難な作業だったと思われます。情報の伝達と管理にとりまして、メールの存在は上場企業にとって不可欠なコミュニケーション媒体でしょうから、内部統制システムの整備運用にあたっては、このあたりにどれだけ気を遣っているか、ということが重要な問題になってこようかと思われます。

なお、今回はたまたま「バックデート」という不正がメール調査から明らかになったようでありますが、もっと核心に触れる点、つまり日興CGの中心メンバーが不正な発行開示書類の作成に関与していることを示すようなメールは見当たらなかったのでしょうか?報道機関はこぞって「組織的関与が認められた」と、それこそ所与の前提のごとく扱っておられるようですが、私はまだ懐疑的であります。そもそも日興CGの中心メンバーが関与している、と評価できるためには、同様の虚偽書類の作成が繰り返し行われたことが立証されるか、あるいは単発の不正について詳細な謀議が立証されることが必要なはずであります。しかしながら、今回の報告書の内容では、日興CGの元CFOの方が「関与していた可能性が極めて高い」とされておりますが、この報告書をよく読みますと、この元CFOの方が「所与の前提」部分へ関与していたことは認められても、メールのようなものが出てこないために、「推論」の部分への関与はなんら証拠からは明らかになっておりません。このあたりはメール発信の主体であるNPI社員を統括するNPIの元代表者と日興のCFOとは少し立場が異なるように思うのですが、どうでしょうか。日興CG本体の組織的関与があったかなかったか、というところが、今後の上場審査にも影響が出るのではないか、とも思えますし、このあたりをどう報告書を評価すればいいのか、と少し疑問に思うところであります。(まだまだ感想はたくさんございます。この調査報告書はいろいろな論点を提示してくれるもののようです。監査委員会には、やはり財務会計的知見が必要であると認識したことや、情報の開示というのは、一般投資家向けにやさしく開示されるべきか、およそ株価の変動に影響を与える事項については、閲覧者のレベルに合わせる必要がないのかなど、また追々考えていきたいと思っております。)

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2007年2月 2日 (金)

サッポロHDに対するスティールの株主提案

何気に日経ネットニュースだけが取り上げていないスティールPのサッポロHDに対する株主提案権(買収防衛策の廃止へ向けての定款変更決議案)の行使(サッポロHDからのお知らせ)でありますが、これも3月決算の企業にとりましては非常に関心の高いニュースになりそうであります。(スティールはすでに19%を超えていませんでしたっけ?)いろいろと話題の食品業界であることや、公正取引委員会の審査基準の変更などの諸々のことを考え合わせますと、ビール業界で2番目あたりの企業にとりましては、「ココロオドル」ようなニュースではないでしょうか。それにしてもサッポロHDの買収防衛ルールによる特別第三者委員会のメンバーの方々は、めちゃ豪華ですね。(とりあえず、また週末あたりの続報に注目ということで)

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2007年2月 1日 (木)

内部統制ルールいよいよ確定

(2月2日未明 追記あります)

金融商品取引法上の内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の内容がいよいよ確定するそうであります。2月の企業会計審議会の総会で正式了承され、今夏にも内閣府令が改正されるとのこと。(日経ニュースはこちら)このニュースの内容からしますと、ほぼ原案(公開草案)どおりに了承される見込み、ということのようですので、関係者の皆様、どうかご安心ください>竹村さんをはじめ、ご担当者の皆様  しかし、原案どおり・・・ということになりますと、190本もの意見書というのは、いったいなんだったんでしょうかね。。(いちおう意見書に対する当局の見解集、みたいなものがリリースされれば、けっこう有用かもしれませんが。)このブログにおきましても年末年始にかけまして、代表的なパブコメを研究させていただき、これなら原案も修正されるところが多いのではないかなぁ・・とも若干期待するところもあったのですが、やはり公開草案は余程出来がよかったのでしょうか。

また、ニュースにもありますように、ぜひ当局によります「Q&A」モノを作成していただき、公開していただきたいと思っております。以前、私はこのブログにおきまして、実施基準が作成された後には、各業界団体においてマニュアルのようなものを作成されて、さらに実施基準が細分化されるのではないか、との予想を書いておりましたが、先日の内部統制部会の専門委員でいらっしゃるH先生にお聞きしたところでは、「内部統制評価基準というものは、原則として、一般に公正妥当と認められた唯一の会計基準でなければならないので、各業界団体がそれぞれマニュアルを作成しても、それは公正妥当な基準とはいえないのではないか」との疑問を呈されてしまいました。そうであるならば、やはり中小の上場企業が費用便益のバランスを確保するためにも、もうすこし詳細な実施基準の指針のようなものが必要ではないかな、と思いますね。

いろいろなパブコメを読ませていただき、また何度か実施基準(公開草案)を精読してはみたのですが、私個人にとりまして、いまだに疑問が氷解していないところがございます。そのひとつが「重要な欠陥の修復」の場面であります。内部統制の有効性の評価時点というのは、期末の時点である、との前提につきましては、以前もどなたかからご指摘をいただき、また公開草案にも記載されておりますので、そのあたりは承知しているところであります。ただ、内部統制というのは「システムの整備」とともに「整備されたシステムの運用」についても有効性の評価の対象となるわけでありまして、そうであるならば、なぜ「運用上の重要な欠陥」が期末の時点で修復できるのでしょうか?整備自体に重要な欠陥があり、期中において「指導」として外部監査人から指摘を受けているのでしたら、それは期末までにシステムを整備することによって修復が可能であると考えられます。(つまり、期末の時点において、内部統制は有効に機能している、と評価することが可能であります)しかしながら、整備されていた内部統制システムが期中においてまったく機能していなかった事実が期末に判明した場合、その内部統制システムは運用面において重要な欠陥があったと評価されますよね。これはもう、いかんともしがたい「過去の欠陥」でありますから、修復しようにもできないのではないでしょうか?1年間の運用の事実を期末において評価するわけであるから、その機能しなかった期間のことを総合的に判断すればいいのではないか、との意見もあろうかと思われますが、そうしますと、それは期末の時点での判断ではなく、判断の時点を定めない総合判断ということになりそうですし、またそれは「修復」もしくは「瑕疵を追完する」といった概念でも括れないものではないでしょうか。内部監査人が実は半年間ほど、ほとんど仕事をしていなかった(そんなことはほとんどありえないかもしれませんが)といった事実が後から判明した場合に、これはもう内部統制に関する重要な欠陥が後から判明したものでありますから、その半年間の「運用の欠陥」は修正できるものでもないように思われますが、そういった「運用上の重要な欠陥」がはたして期末の時点で是正できるものなのかどうか、このあたりはあまり議論されてはいなかったのではないでしょうか。このあたり、あまり議論になっていないところをみますと、私自身がどこかで考え違いをしているかもしれませんが、おそらく私と同じような疑問をもっていらっしゃる方もおられるかもしれません。また、現実には企業不祥事として、内部統制システムの運用そのものに問題があった(つまり整備されたシステムが、機能しないままにそのまま放置されていた)という事態が考えられると思うのですが、そういった場合に、内部統制報告書に適正意見を書いた外部監査人の責任というのが、比較的容易に認められる事態になってしまわないのでしょうか。

依然として、こういった基礎的な部分での(理屈におけるレベルでの)疑問点がまだまだたくさんございますので、追々検討していきたいと思っておりますので、この話題にもうすこしの間だけ、おつきあいください。

(2月2日未明 追記)

ぴてさんより教えていただいたのですが、1月31日の審議会資料として、確定(予定)の評価および監査基準と実施基準が加除式文書でアップされております。(どうも、ありがとうございました>ぴてさん)これが2月の総会で可決承認されるのでしょうね。

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