サッポロHDにスティールPが意向表明書提出
(2月16日午前 追記あります)
一昨日(2月13日)でありますが、私が独立第三者委員会の委員を務めさせていただいている某企業にて、ライツプランによる買収防衛策再導入に関する意見交換会(もちろん、独立第三者委員会の委員によるもの)がありました。(適時開示情報を一生懸命探しますと、某企業からの「ライツプラン再導入のお知らせ」というものが出てまいります)独立第三者委員会3名でいろいろと協議をしたところでは、「もし、大量買付希望者が現れた場合には、どういった対処法をとるべきか」ということについて、けっこう難しい判断を迫られる場面が出てくるのではないか、と思われる論点がいくつかありそう、との認識でありました。いくら発動の決議は取締役会で決定するものであり、第三者委員会はあくまでも諮問機関である、といいましても、おそらく第三者委員会の勧告につきましては、取締役会も最大限尊重するものと思われますので、やはり責任問題という観点からは、かなり慎重に考えておかなければなりません。
そういった社外の独立した有識者によって構成される第三者委員会の委員の方々が、委員会としての意見を現実に形成しなければならなくなったのが、サッポロHDであります。(「特別委員会」と称されているようです)すでにニュースでもご承知のとおり、スティールパートナーズが、大規模株式取得行為を希望する第三者が出現した場合の防衛ルールに則り、サッポロHD代表者あてに「意向表明書」(と解釈できるもの)を提出したことが報じられております。敵対的買収に発展するのではないか、とのニュースも早々と出ておりますが、世間ではあまり注目されていないところでありますが、昨年1年間に導入された上場企業の事前警告型の防衛ルールのうち、100件程度のものに、この「独立第三者委員会」が設置されているそうでありまして、就任している人数からすると、300名以上の方(もちろんいくつかの企業の第三者委員会委員を兼任されておられることとは存じますが)が、(世間での注目度とは裏腹に)このサッポロHDの事件を見守っているのではないでしょうか。
そもそも、この防衛ルールの一環としての事前交渉制度といったものが、買収防衛策を導入する企業が一方的に作ったものであって、「果たして合理性を有しているのかどうか」ということに若干疑義を抱いておりますけれども、このサッポロHDの昨年2月の「大量取得希望者出現時における対応方針」におきましては、東京地裁の決定の趣旨を援用して、合理性があることを説明されております。たしかにルールそれ自体には不合理な点はないのかもしれませんが、こういったルールにしたがった大量取得希望者側より、逆に合理的な範囲において質問がなされ、その質問への回答に対して、大量取得希望者側が「われわれの質問への回答が不十分」と判断したような場合にまで、取得希望者はTOBに踏み込むことはできないのでしょうか?今回のスティールがサッポロに宛てた意向表明書のなかにも書かれておりますが、おそらく法務・財務に関するDD(デューデリジェンス)には被買収企業側は非協力でしょうから、情報の非対称性からすれば、こういった回答につきましては誠意をもって対応する必要がある場合も出てくるように思うのですが。一方的なルール策定がある範囲において「合理的」と評価されるのであれば、大量取得希望者側においても、質問をして、その回答内容から判断して、納得できなければそのルールに従わなくてもよい、といった理屈も成り立ちうると考えるのですが、さてどうなんでしょうか。企業価値算定による比較の問題にまで踏み込むべきなのか、形式的な要件該当性だけから勧告の内容を決めていいものなのか、大量買付希望者自身は経営する能力はないけれども、その背後に同業他社の影がちらついている場合などは、ルール上、直接の相手方をどうみなせばいいのか(三角合併の場合などに問題になってくるのかもしれませんが)、など第三者委員会の委員さんとしては、いろいろと問題が出てくるところではありまして、またそのあたりの論点は続きということにさせていただき、まずは防衛ルールのあり方といったところで、素人的な疑問が湧いてくるところであります。
(2月16日午前 追記)
今朝の読売新聞では一面トップで「アサヒがサッポロに統合提案」のニュースが報道されております。2月2日のエントリーでも少し触れましたが、これは当然の流れでしょうし(ただし、昨年12月ころから非公式には打診されていた、との報道内容です)、このあたりの流れを想定内にいれてのスティールの動きということなんでしょうね。ただ、この記事で気になりましたのは関係者のお話として「スティールはビール業をやったことがないから、提案を受け入れることはできない」として、統合提案を拒否する見込み(読売新聞ニュース)とありますが、こういった内容で第三者委員会も判断をしていいのかどうか。(ダメですよね・・・・・)
なお、今後の事業再編と法律問題との関係で考えますと、サッポロ・スティールのTOB以上に、今朝の日経報道にある「東京鋼鐵・大阪製鐵・いちごアセット」の委任状争奪戦による株主総会決議の行方のほうがかなり影響度が大きいと思います。ヤフー掲示板を10日間ほど眺めてましたが、いちごが30%以上を保有するにいたったというのは存じ上げませんでした。
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コメント
スティールの正体は、皆さん大体において理解されているので真摯な議論の対象とはなりにくい雰囲気がありますが、ターゲットとなってしまった会社ではそうもいきません。
今回のケースでは、スティールが事前にアサヒのサッポロに対する非公式な統合提案を何ならかのルートで察知し、EXITの問題はなさそうだと推量しTOBの提案をしてきた可能性もありそうです。やや内部情報的取引の疑いがありそうですが、この面での法的手当てはなさそうなので正面からの対応が関係者にとっては必要となるでしょう。
村上ファンドのケースでもフジテレビがニッポン放送に対し株式取得を行ったことを知った段階からニッポン放送への買い付けが積極化していったように記憶しています。つまり、出口が明確になったことへの安心からの行動でした。
投稿: 紀尾井町 | 2007年2月16日 (金) 09時31分
紀尾井町さん、コメントありがとうございます。
私の追記と、紀尾井町さんのコメントが、まったく同じ時刻にかぶってしまったために、「パクったような追記」になってしまいました。
私も、紀尾井町さんのご推察にまったく同感です。リスク回避のひとつではないかと思います。
投稿: toshi | 2007年2月16日 (金) 09時40分
通りすがりのものですが、「東京鋼鐵・大阪製鐵・いちごアセット」に関しては何日か前の日経金融新聞に経緯がのっていますよ。
投稿: 通りすがり | 2007年2月16日 (金) 10時02分
>通りすがりさん
情報ありがとうございます。日経金融新聞は最近チェックしていないもので。。。(大阪の南森町というところでは、駅売りもないので、読みたい記事がありましても、アクセスできないんですよ)以前、購読していた時期があったのですが、さすがに仕事で忙しくて、フォローできなかったんです。この話題はぜひ、エントリーでいろいろと話をふくらませてみたいですね。とりわけ「法化社会の実現」とファンドの役割みたいな。。。
また遊びにきてください。
投稿: toshi | 2007年2月16日 (金) 12時58分
2006年2月17日のサッポロHDの発表は、「本対応方針を適正に運用し、取締役会によって恣意的な判断がなされることを防止するためのチェック機関として、特別委員会を設置します。」と述べています。
この方針は正しいと思います。特別委員と取締役とは情報の非対称性が大きすぎるのであり、取締役会が検討し方針を出すのが株主のため、会社のためであり、株式会社の取締役会の義務であると考えます。恣意的な判断や取締役の自己保全のための判断がなされていないかをチェックするのが特別委員会の目的であると考えれば私にはスッキリするんです。これを貫くには、取締役会が方針案を出した後に、それを特別委員会が審議するのがよいのではと思いました。
投稿: ある経営コンサルタント | 2007年2月16日 (金) 16時09分
>特別委員と取締役とは情報の非対称性が大きすぎるのであり、取締役会が検討し方針を出すのが株主のため、会社のためであり、株式会社の取締役会の義務であると考えます。恣意的な判断や取締役の自己保全のための判断がなされていないかをチェックするのが特別委員会の目的であると考えれば私にはスッキリするんです。これを貫くには、取締役会が方針案を出した後に、それを特別委員会が審議するのがよいのではと思いました。(引用終わり)
「ある経営コンサルタントさん」の熱い思いですが、この辺りの厳密な議論が日本でも深まっていくことを期待しています。誰が株主のために検討し方針を出すのが妥当なのか、それは取締役なのか特別委員なのか。また、それぞれの機能は株主のためなのか、会社のためなのか。そういったことを厳密に考えていけば、議論は分かれていくのではないかと思っています。
米国での訴訟事件などを調べていけば、1年前、2年前、あるいはそれ以前の議論とが違ってきていることに気付く筈です。米国は今でも議論が進化し続けています。このような議論のフォローアップは本来、学者が行うべきでありましょうが、何しろ日本では学者そのものの人材が少ないということの残念さがあります。大学関係者の奮起がほしいところです。職業柄、大学の先生の論文を読む機会も多いのですが、その内容あるいはレベルの低さに失望することが多いのです。ある大学の博士号論文を頼まれてチェックしたことがりますが、なぜこの内容・レベルで博士号が取れるのか、という疑問をもった経験もあります。また、大学の先生の海外文献の紹介での誤訳が多いことも気になっています。それもこれも法曹学界の人材の層の薄さに原因があると思っています。さらに付け加えますと、欧州では大人の議論がなされていますので欧州の学界の研究も必要です。
このブログの読者には大学の先生方も多いと推測しています。どうぞ皆さんそれぞれの研鑽と併せて若手学者の育成をお願いいたします。丁度いい機会ですので大学関係者の方々に苦言を呈しました。
toshiさん、ブログをかりてすみません。
投稿: シロガネーゼ | 2007年2月16日 (金) 23時05分
経営コンサルタントさん、シロガネーゼさん、コメントありがとうございます。
そうですか。
私などは、進化の過程などはまったく存じ上げませんが、そもそも経済事情やら、国の政策やら、いろんな環境の変化によって企業再編にまつわる利害関係者の顔ぶれも変化するわけですから、進化するのも納得できるような気がします。法と経済学の妥当する場面というのは、考えておりましてムズカシイ場面が出てきますね。
企業再編のエントリーになると、また懐かしい方々にコメントいただけるというのも、ありがたい話です。どうかご遠慮なく、また書き込みをお願いします。
投稿: toshi | 2007年2月18日 (日) 18時44分