消費者団体訴権と企業コンプライアンス(その2)
最近は、ちょっといかがわしそうなブログのTBや商業系ブログのTBが多かったために、ずいぶんと管理人の独断で勝手に抹消させていただいておりましたが、本日はこのブログにお越しいただく法務担当者の方にもかなり有益と思われるものを貼っていただいております。(どうもありがとうございます m(_ _)m )日本版SOX法ガイドさんも、TAKE IT EASYさんも、かなりの力作のようでありますので、皆様がたのご参考にもなるのではないでしょうか。また、いつも読ませていただいております「ぴて」さんのエントリー(TBを参考にしてください)では、昨年の夏以来、このブログでもときどき話題になっておりました「社外役員の責任限定契約と会計監査人による求償権行使の可否」につきまして、江頭教授説(Y説とは結論において反対意見)が紹介されておりますので、こちらも(とりわけ会計士の皆様方には)ご参考にされてはいかがでしょうか。
さて、つい先日、消費者団体訴権と企業コンプライアンスというエントリーをアップさせていただきましたが、ちょうど同時期に、金融法務事情の2月5日号(32ページ以下)におきまして、中央大学法科大学院の升田教授が「消費者団体の差止請求権と金融取引の実務(備えあれば憂いなし)」と題する論稿を出されております。金融機関のなかには、消費者契約について法令違反を問われるおそれはないものと安心しているところも多いかもしれませんが、この論稿では、消費者契約法(改正法)は、金融機関に無縁どころか、重要な影響力を持ちうるものであり、金融機関の取引の仕方、対応の仕方次第では、金融機関自身が実際の差止請求権行使の対象とされかねない・・・と警告されております。
この升田先生の論稿を最後まで読ませていただいたところでは、改正消費者契約法の手続面と実体面での概説をされておられ、金融取引上のどういった行動や契約内容について差止のリスクが発生するかを広く検討されておられますが、とりわけ非常に参考になりましたのは「差止請求権の内容」に関する記述であります。認証団体が今後どのような訴訟を提起されるのか、また裁判所によりどのような判決(もしくは仮処分における決定)が出されるのかは、もちろん未知数でありますが、事業者等の行為の差止だけでなく、広い内容の行為を請求できる、ということであります。つまり契約の不当勧誘や不当な条項の効力を差し止めるだけでなく、問題の行為の予防や、物の廃棄、除去、予防のために必要な措置をとることなど、具体的な作為命令を事業者に発令することが可能になるわけであります。さらに、最近は(従来の実務と比較しますと)民事執行法上の間接強制(もし命令に違反した場合には、一日あたり○○円を支払え、という強制手段)が広く認められるようになったために、相当に抽象的な程度の特定で足りることとなりますので、事業者にとりましては、類似の契約を破棄せざるをえない場面も予想されるようであります。これらを読ませていただいたかぎりにおきましては、認証団体の行動次第では、金融機関や一般事業体について、消費者契約法関連のリーガルリスクは相当程度高まるのではないか、と思います。
現実問題としまして、先日ある弁護士さんからお聞きしたところでは、すでに認証団体においては狙い撃ちする会社の選別が検討されているようですので(ただし、先日メールを頂戴してエントリーを訂正させていただいたとおり、選別の検討対象は一般上場会社というものではなく、中小の問題企業への行使が検討されている、とのことであります)金融機関にかぎらず、一般の事業会社におきましても、この消費者団体訴権の使われ方につきましては、定期的にフォローされるほうがいいかもしれませんね。
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コメント
こんばんは。
エントリーの主題とは関係ありませんが、冒頭に触れられているY教授説について一言。
以前私もY教授説に対する幼稚な疑義をこのブログに書き込ませて頂きましたが、その後少し思いが変わって来ました。私が目にしたのは旧「JICPAジャーナル」ではなく、「月刊監査役」だったかと思います。もう随分前でどんな書振りだったかは殆ど忘れましたが、「こう解するべきである」という感じではなく、「こういう解釈になっちゃいますよ」というトーンだったような印象があります。
つまり、解釈論の展開というよりは、Y教授の真意は別のところにあったのではないのか、とも思えるのです。昨年の今頃、取締役・監査役には責任軽減措置(社外は責任限定契約)を定款に設けるが、会計監査人については、せっかく会社法が導入したにも関わらず、積極姿勢を見せる会社は少数派でしたね。また、5月にくだんの大事件が起きたあと、6月総会が近づく頃になると、某機関投資家筋がその措置を盛り込んだ定款変更議案には反対すべし、との見解を公にし、当該議案を撤回した会社もありましたね。
ちょっと待てよ、これってちょっとヘンじゃないか。取締役連中は自分たちの責任は軽減する措置を提案しつつ、会計監査人については知らん顔かよ。なんかバランスを失していないか。そもそも「監査」を職務とする会計監査人が一次的に責任を負う事態は考えにくく、普通は取締役が一次的に、かつより大きい責任を負う筈ではないのか。自分たちだけの責任を減じておいて、会計監査人のそれは何ら手当てしないのは、一種のお手盛りではないのか。
なーんて具合に思って、世の風潮(風向き)に対するアンチテーゼとして敢えて主張されたんではないのかなぁ、と思ったりしております。昔の検事総長みたいに「巨悪を眠らせない」という一種の警鐘ではないかと。
まぁ、大学者の先生がこんなアホみたいな考え(感傷?)で、論稿を公にされることはないでしょうから、見当外れでしょうが、この1年間、そしてまた最近も公認会計士・監査法人ばかりを悪者にするかの如き風潮を目の当たりにするにつけ、そんな思いを強くしております。
(なお、私は、公認会計士業界には何らの利害関係もないことを、念のために申し添えます。)
投稿: 監査役サポーター | 2007年2月28日 (水) 00時16分
>監査役サポーターさん
いつも読み応えのあるコメント(最近は私の本文よりもこっちのほうが読む価値がありそうな雰囲気ですが(^^;))ありがとうございます。
実はぴてさんのほうのエントリーに私がコメントしていたのでありますが、この月間監査役のY教授の論稿は私も当時、読んでおりまして、こちらの責任限定契約に関するご主張にもツッコミどころがあるように思いました。(ただ、私もきちんと論文を書いて反論するのであればいいのでしょうが、ブログというやや柔らかい媒体で申し上げるのは失礼ではないか・・・と思いましたので、このブログでは再考モノを掲載するのを差し控えさせていただきました。)この話題がもう少し盛り上がって、多くの実務家によって議論されるころになりましたら、また採り上げたいと思っております。
そういえば、今月号の月刊監査役に私が写真入りで登場しております。
ちょっとした記述でありますが、この内容は、監査役サポーターさんからいただいた知識や考えなども参考になっております。(重ね重ね、お礼申し上げます)
投稿: toshi | 2007年2月28日 (水) 23時06分