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2007年2月26日 (月)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(1)

2004年3月期における三洋電機社の決算について「灰色疑惑」が浮上しておりますが、またまた当時の監査法人の適正意見についても問題視されているようであります。(こちらの朝日新聞ニュースが、入手した内部資料などに基づいた記事を掲載しており、参考になります。)先日の日興CGにおけるSPCの「連結はずし」につきましては、私と仕事や研究会などでご一緒させていただいている会計士の方々も、調査委員会の結論が出る前から「あの会計処理だけ取り上げても明確に不当とはいえないのではないか」といった意見が多かったのも事実でありまして、現に特別調査委員会の結果報告におきましても、「会計基準の判断だけみても堂々めぐり」といった結論となっておりました。このたびの三洋電機社(単体決算)の子会社評価の妥当性(減損評価の可否)につきましても、いくら新聞報道で解説がなされましても、監査法人のどういった行動が問題視されるのか、正直申し上げてよくわからないところですし、ここはやはり現実に監査業務の経験を有しておられる現役の公認会計士の方々の解説のようなものが欲しいと思いますね。「いやいや、あのような状況なら、誰でも同じように減損はしない」と考えるのか「明らかにまずい処理であって、三洋電機さんに押し切られたとしかいいようがない」と判断されるのか、そのあたりの感想でもけっこうですから、新聞等でコメントをお出しになる方がいらっしゃったら、もうすこし新聞解説もわかりやすいのに・・・・と思いますね。

ただ、よく考えてみますと、会計基準の適用に関する判断というのは、前後にわたる会計年度の数値を詳細に比較したり、「収益見込み」といった定性的情報(その企業が秘密として公表できないような資産や情報を含めて)を相当長期にわたって分析するなど、当該企業を知悉していなければ判断できない前提条件も含まれているように思われますので、おそらく社外の会計士さんからみれば、到底「セカンドオピニオン」を発信できる立場にはない、といった認識をされているのかもしれません。このたびの三洋電機粉飾疑惑につきましても、私がよく参考にさせていただいております、いくつかの会計士さん方のブログを拝見しますと、いずれも旧中央青山監査法人さんの監査対応については「やむをえないものだったのではないか」「粉飾加担とまではいえないのではないか」といった同情に近いご意見が多く聞かれるところのようです。

しかし、私のような会計専門家ではない者からすれば(これまた、まったくの素人考えかもしれませんが)「収益見込み」というかなり曖昧な判断を要する事項に関わる問題であるからといって監査法人にはやむをえない事情がある、としてそれ以上の議論を放棄するのでは、積極的に粉飾に加担した場合と、そうでない場合との境界線をどこに引くべきか、という問題の解決策を見つけることができないために、今後ますます監査法人の監督などを含めた事前規制を容易にしたり、課徴金や刑事罰などの厳格化などの事後規制の増加を招く原因になってしまうのではないでしょうか。素朴な意見で恐縮でありますが、会計原則からすれば、なぜ2004年3月期になって、はじめて子会社の減損が問題になったのか(つまり、別の会計基準を適用しなければならなくなった原因事実がはっきりとしているのかどうか、はっきりしているとすれば、それはどういった事実を根拠としているのか、はっきりしていないとしたら、その前年度から監査法人は減損の必要性を十分認識していたのか、このあたりが明確でなければ、監査担当者としては、継続性の原則にしたがって、合理的理由がないかぎりは前年度と同様の扱いをすることが好ましいのではないでしょうか)、またかりに2004年3月期における子会社株式の評価を、これまでとは別の会計基準を適用すべきであったと評価される場合、それでは「会計保守の原則」があるにもかかわらず、どうして監査法人さんは三洋電機社側の主張にしたがった意見を表明するに至ったのか。どういった「収益見込みの急速な回復」を基礎つける資料が提出されたために、回復が見込まれることへの合理的判断が可能になったのか、そのあたりの説明はそもそも「会計保守主義の原則」がある以上は、監査法人さんのほうが主体的に立証しなければならないのではないでしょうか。(といいますか、立証できなければ、株主や投資家に対する説明責任を尽くすことができなくなり、結果として監査の信頼性を失わせてしまう結果になってしまわないでしょうかね)

なお、新聞報道におきましては、2005年3月期には、三洋電機社側で1500億円の評価損を処理しているので、いまごろなぜ2004年3月期の不正が問題とされるのか、といった解説が聞かれるところでありますが、これは理由にはならないと思います。本件がたまたま2007年になって問題視されるに至っておりますが、もしこれが2005年のうちに発覚したとしましたら、先の日興CGの場合と同様、三洋電機社さんにおいて隠蔽していたものと一般的には評価されると思われます。「会計の継続性の原則」や「保守主義の原則」など、会計学の基礎からすれば、言葉の適用場面が異なるかもしれませんが、もし誤りなどございましたら、またご指摘いただけますと幸いです。なお、議論の進化(といえるかどうかはわかりませんが)を目的としまして、過年度の決算に関する調査の持つ意味や、収益見込みに関する被監査企業の(監査法人に対する)説得のあり方など、また詳細なところにつきましては、別のエントリーで続編とさせていただきます。

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コメント

こんにちわ。
ろじゃあです。
>「会計保守主義の原則」がある以上は、監査法人さんのほうが主体的に立証しなければならないのではないでしょうか。
このくだりでおっしゃっておられる「立証」とはどのような手続きにおける誰に対する「立証」のことを指しておられるのでしょうか?
読み手の側からするといろいろ念頭に置くものが変わってきてしまうのではなかろうかと思いまして恥ずかしながら質問させていただきました。

投稿: ろじゃあ | 2007年2月28日 (水) 15時36分

本件の争点は子会社株式の評価と言うことだと認識しています。
子会社株式の評価は原則として、当該子会社の財政状態(純資産)及び今後の事業計画により判断します。
通常はこの純資産から算出される実質価額が取得価額の50%程度を下回った場合には、財政状態が著しく悪化していると考えられます。
しかし、著しく悪化している場合でも、事業計画等で回復可能性が十分な証拠によって裏づけされる場合には、減損処理を行なわないことが認められています。
本件は、おそらく財政状態の著しい悪化は明確になっていたが、事業計画等の評価の判断の問題であったと思われます。
事業計画の評価は毎期行なわれるので、時点が異なれば当然評価が変わり、ある時点で減損処理を行うという判断になります。
問題は事業計画の評価を監査法人が適切に行なえるか?と言うことだと思います。
一般的には、会社が公式に作成した事業計画を監査法人が否定することは、非常に難しいです(否定できる根拠が無い)。
1~2年経過した時点で、当該事業計画が達成できていないなどの明確な根拠が無ければ、事業計画を受け入れて減損処理を見合わせるのは、監査人として止むを得ない判断だと思います。
すなわち『監査法人が主体的に立証』というのは、不可能であり、仮に投資家がこの立証を求めるのであれば、すなわち投資家が監査の限界や性質を理解していないのだとも言えます。
保守主義の原則については、企業会計原則に記載されていますが、一方で過度な保守主義にならないようにということも明示されています。『過度』の定義は無く、その境界は曖昧であるため、保守主義の原則で論じることはなじまない気がします。

しかし監査法人の対応策としては、子会社への投資損失引当金の計上が適切な処理として考えられます。この処理を行なっていれば、減損処理をしたことと実質的には同じ効果が得られるため、監査人はこの措置を要求することは可能であったと思われます。
この点において監査法人としての判断に疑問はあります。監査法人自身のリスクに対する感覚が鈍っていたと言われても仕方ない気がします(後からの意見ではなく)。

直接本件監査に携わっていたわけではないので、近いところにいた一会計士の私見として書かせていただきました。
おそらく他の方は、また別の意見をお持ちだと思います。
それが監査というものだと思っています。


投稿: 元会計士 | 2007年3月13日 (火) 10時27分

>元会計士さん

はじめまして。コメント、どうもありがとうございました。
一般の投資家だけでなく、私自身も監査の現実を理解していないひとりだ、との認識を新たにしました。理解しやすい記述であり、たいへん示唆に富む内容と感じました。
「引当金」の持つ効用といったものも、これは監査を行う方にとっては共有されているものなのかどうか、たいへん興味を持ちました。
ただ、見積り部分が増える企業会計のなかで、監査をされる方々にとってこのような限界がある、ということですと、今後はどうやって開示情報の適正性を向上させていくべきなのでしょうか?経営者の事業計画にツッコミをいれれば、それだけ監査人の責任の範囲も広くなりそうな気もしますし。
元会計士さんのコメントにつきましては、新たなエントリーとして検討してみます。
今後とも、どうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年3月14日 (水) 11時55分

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