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2007年2月 6日 (火)

日興CG諮問委員会の利益相反問題を考える

拙ブログにおきましても、年初より日興コーディアルの不正会計問題に関心を抱いておりましたが、やはり特別調査委員会による調査結果の公表あたりからずいぶんと報道内容もヒートアップしてきたようであります。インデックスファンドにおいても日興株の売却が進みだしたり(朝日新聞ニュース)、一方において再編への予測からか米国の投資運用会社が5%超の日興株を買い進んだり(こちらも朝日新聞ニュース)、世間ではもう会計処理の訂正報告に続く上場廃止問題にまで話題の中心が移ってきているような気配ですね。

日興CGの一連の話題におきまして、いったん報道はされましたけれども、あまり話題が続かなかったのが旧経営陣である日興CGの元会長、元社長さん達に対する数億円の役員退職慰労金の支払いについてであります。一部ブログにおきましては、ヒステリックな反応に近いものも見受けられましたが、それも一過性のものであり、報道から1週間ほど経過した現時点におきましては、ニュースでもブログでもほとんど取り上げられることはなくなってしまいました。私はこれを「特別調査委員会が組織的関与を正式には認めなかったからではないか」とも思ったのですが、どうも一般常識では調査委員会は「組織的関与を認めた」と解釈されているようですので、私の推論も適切ではないかもしれません。それどころか、現経営陣は(この特別調査委員会の結果報告を受けた形で)旧経営陣に対する民事、刑事責任の追及を検討しているとのことでありまして、その検討のための諮問委員会を設置したようであります。(こちらの日経ビジネスオンラインの記事が比較的冷静かつ正確にニュースとして報道しておられるようです)

ところで旧経営陣に対する退職慰労金の支払につきましては、2003年の日興の株主総会においてすでに承認済みとのことでありますから、業績連動方式の賞与の返還などとは異なり、旧経営陣の方々が正当に受領できるものであることは間違いありません。しかしながら、日興本体が旧経営陣に対して不法行為による損害賠償請求権を有しているとすれば対当額において相殺することが可能になってくるわけですから、おいそれと先に支払ってもいいのかどうか、ということが一応の法的な論点になってくるのではないでしょうか。この日興の諮問委員会も、こういった旧経営陣に対する民事上の責任追及を目的として発足するわけでありますので、もし損害賠償請求権の行使を可とするような結論に至る場合、安易に先に支払ってしまったことが回収困難性の観点からその適否を問題にされてしまうような気がいたします。つまり、もう少し役員退職慰労金の支払いを留保しておき、この諮問委員会による決定次第で支払いの可否を検討すべきではなかったか、と考えるところであります。

そこでもし旧経営陣へ役員退職慰労金を現経営陣が支払ってしまっており、そこに不法行為による損害賠償請求権の行使が可能との結論が出てきた場合には、現経営陣らによる先払いの妥当性に法的なクレームが生じることも考えられます。そして諮問委員会の顔ぶれをみますと、そこに現経営陣も参加して審議することが予定されているようであります(先の日経ビジネスオンラインの記事参照)しかしながら、こういった退職慰労金の支払い状況からみますと、そもそも委員である現経営陣の方々にとって公正な第三者としての判断を期待することはできないのではないでしょうか?もちろんここで利益相反のおそれあり、として現経営陣が諮問委員会の委員の立場から自ら退くことにつきましては、その先払いの妥当性に問題があることを認めてしまうことになりますので、おそらく期待可能性には乏しいものでありますが、いずれにしましても、退職慰労金の支払い事実から旧経営陣の責任追及検討までの一連の行動につきましては、どうもスッキリしないところがあるような気がしているのですが、いかがでしょうか。(そもそも、この退職慰労金支払いの妥当性に関しては、どこのマスコミもあまりツッコミを入れていないところをみますと、それほど騒ぎ立てるほどの法的な問題は含まれていない、といった見方が大勢なのかもしれません。したがいまして、あまりたいした論点ではないかもしれませんが。このあたり、どこかのマニアックなブログで検証されておられるとありがたいと思っております・・・・)

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コメント

 いつもこのブログで勉強させていただいています。
役員報酬(退職慰労金)の件がテーマとなりましたので、最近この点を勉強していることもあり、コメントさせていただきました。

 まず、既に打切支給が決議されている退職慰労金につきましては、理論的には、株主総会の承認が得られ、取締役会で具体的な支給決議がなされたことにより、単なる期待権から法的な債権となっており、会社にとっては支給が義務づけられることになるものと考えており、支給すること自体は法的には問題ないと思います。しかし、コンプライアンスに関する昨今の状況と会社に対する風評、現役員の立場を考えると、本当に支給する義務が会社にあると胸を張って言えるかという問題もあると思います。
 こうした問題を意識している会社であれば、退職慰労金の打切支給に際して、取締役会決議の段階で、不祥事等一定の場合には取締役会の決議により減額または不支給とすることができる旨を定め、一定の場合会社に支給義務がないような方策をとりますが、私もこの考え方が妥当と考えております。
 ストック・オプションも同様で、任期満了以外の辞任・解任の場合や、同業他社の役職員となった場合には行使を認めない旨の行使条件を付すことが妥当ではないかと考えております。
 ところが、日興コーディアルではストック・オプションにこのような行使条件が付いていない(故に、今回辞任した役員について「返上」という方法がとられたのではないでしょうか。)と考えられ、また、退職慰労金についても、減額または不支給の条件が付いていなかったのではないかと推測されます。
 結論としては、妥当性については疑問が残るが、法的には善管注意義務違反とは言い切れないような気がします。もっとも、これを機に、ストック・オプションや退職慰労金打切支給に関する取締役の注意義務が重くなるという風潮になればわかりませんが・・・。また、損害賠償との相殺については、支給期限の問題として、支給期限を延長できる旨の取締役会決議をしているかどうかによるかもしれません。

 なお、個人的には、某週刊誌に書かれていた高級住宅の無償貸与の方が気になります。これが真実であれば退職慰労金以上の問題となりそうな気がするのですが、いかがでしょうか。

投稿: Kazu | 2007年2月 7日 (水) 14時42分

kazuさん、詳細なコメント、どうもありがとうございます。
たいへん参考になりました。

たしかに辞任に伴って、企業に支払義務が発生することになりますから、kazuさんの理屈をもって払ったほうがいいのかもしれません。しかし、調査報告書が提出され、そこに「経営責任」とか「組織的関与の疑いも払拭できない」とあるわけですから、企業として債務不履行もしくは不法行為による損害賠償請求権を行使すべき事態が十分予測されるところであります。こんな状況のなかで、これまでの慣例と同様の条件で支払を敢行することで、会社側が元役員らの無資力のリスクを一方的に背負うというのは、なんとも「?」といった感覚になってしまいます。
論点を二つに分けたほうがいいのかもしれません。
ひとつは企業が支払をストップすることで、ぎゃくに企業に債務不履行の事態が発生するかどうか。もうひとつは、支払ってしまったことで、現経営陣に善管義務違反が認められるかどうか、といったところです。
支払をストップすることについては、民法576条(権利を失うおそれがあるときの買主による代金支払拒絶権)を援用することや、可能であれば供託手続をとるなどによって免れることはできるのではないでしょうか。これが可能であれば、世間の非難も免れることができると思います。さて、善管義務違反につきましては、たしかにkazuさんのいわれるとおり、社会的な非難はあるかもしれませんが、義務違反とまではいえないのかもしれません。このあたり、コンプライアンス的な発想からしますと、非常に興味深いところではないかなと私は思っております(でも、ほとんどマスコミなどでは取り上げられていませんよね・・・)
また、ご意見をお待ちしております。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年2月 7日 (水) 16時03分

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