日興CGの内部統制を考える(2)
一昨日のエントリーにはたくさんのコメント、トラックバック、ありがとうございました。私見につきましては、皆様のご意見は賛否両論といった感じでしたが、予定どおり、13日に日興CGより「当社グループの信頼回復に向けた取り組みについて」と題する機構改革案が発表されました。改革案によりますと、「内部統制室」なるものが設置されるそうですが、予想どおり、これは「CEOオフィス」を改組するようですね。気になるのは「グループ間における役員兼職の原則禁止」といったテーマでありますが、(私が読んだかぎりにおきましては)どこにも「原則禁止」ということは書いてありませんね。むしろ、コーポレートガバナンスの強化のなかで「当社常勤役員の他社役員兼務に関する基準の整備」として
利益相反が生じず、牽制が働く形で、ガバナンスが保たれる枠内において、当社常勤役員が他社役員を兼務するための基準を整備する
とあります。ということは、やはりこれからも関連会社間におきまして(つまり親子間において)役員の兼職は(ある基準に基づいて)認める、ということなんでしょうか。といいますか、これであれば私も効率性と法令遵守の微妙な調和点を探るためには異議はございません。「切った張った」の世界を牛耳る証券会社の統括会社が、ガチガチの相互牽制で固めてしまって、どうやって競争企業と戦うのだろうか、あまりにも現実的ではないのではないか、とも思っていたのですが、この機構改革論と副社長辞任の「合わせ技」によってなんとか上場廃止論をかわせるかどうか、微妙なところではないでしょうか。いよいよ次は監査法人の訂正報告書の中身が問題になってきそうであります。
ところで、山一證券のように経営不振によって再編されるのは仕方ありませんが、有価証券の虚偽記載(不正会計)を理由に上場廃止という判断はなかなか勇気のいることだと思います。不動産業界や食品業界のように、業界が飽和状態であって、企業数も豊富で、限られたパイの取り合いというものでありましたら、やむをえないかなぁといった判断もありますが、国策的にこれからアジアナンバー1の証券市場を形成しなければならない、つまり是が非でも「右肩上がり」にしなければならない業界の大手企業に退出を命じるとなりますと、ほかにも同じようなコンプライアンス問題が発覚したような場合、その右肩上がりを担うべき企業数が減ってしまって、国策は頓挫してしまわないのでしょうか。いまのご時世、内部告発やら、内部通報やら、行政のコントロールできないところで過去の不祥事が発覚するリスクがあるわけでして、「もう日興のようなところはない」と果たして言い切れるのかどうか。これまでの証券会社の不祥事の歴史を振り返ってみますと、どうも言い切れることではないと思います。ちょっと発想を変えまして、たとえば日興CGが、本当にこのような機構改革案を実施することができるのであれば、これを証券業界のスタンダードな形にすえて、他社にもルール化する手法を考えることのほうが、「右肩上がりにしなければならない」業界、そして今後の日本のためにも適切ではないのかな・・・とも思ったりします。(それとも、厳格な対応を内外に示すほうが、証券市場の信頼性は向上するのでしょうか?このあたりも意見の分かれるところかもしれませんが)最近あたかも、内部統制の強化=万全の不祥事防止策といった図式で、なにかあると社外でも社内でも内部統制強化が叫ばれることが多いようですが、そういった神話が果たしてどこまで有効なものなのかどうか、またお寄せいただいたメールなどを参考にしながら、考えていきたいと思います。
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コメント
「内部統制」をいくら強化しても、結局100社100様であるものですから、客観的な評価というのはほぼ不可能に近いと思います。いくら会社法等の内容に沿った内容の整備をしてもそれがちゃんと機能しているかは別問題ですし。オーナー会社だからガバナンスがなってない!ってことも必ずしも言えない訳ですから、内部統制の良し悪しは実際に不祥事が起こったかどうかでしか評価できないと思います。「内部統制があるから良い業績である」ではなくて、「良い業績だから内部統制が構築できている」の方が、内部統制が構築できていると判断しやすいですし。
投稿: m.n | 2007年2月14日 (水) 22時17分
やはり、コーポレート・ガバナンスの問題と改善が示されましたね。本件では、委員会設置会社における取締役会が執行役CFO(だけではないと思いますが…)の監査機能を果たしていなかった、ということですね。ただ、改善策としては、「経営倫理委員会」という取締役会のお目付け役を設置するということで、屋上屋にならなければいいのですが…。ガバナンスに限らず、仕組みを活かすか否かは、結局は人間。経営の健全性は、やはり、トップの職業倫理観をもった本気の取組みにかかっているのだと思います。今回の反省と教訓がいつまでも忘れられないよう、それこそ、”ゴーイング・コンサーン”を切に願っています。
投稿: 行方 | 2007年2月14日 (水) 23時47分
皆さんは、今回の発表をご覧になって、「うーん、確かにこの会社は生まれ変われるな」と得心されたでしょうか。
「倫理」「ガバナンス」「(内部)統制」「(内部)監査」「リスク管理」「PDCAのサイクル」エトセトラ・・・流行りのキーワードが並び、(必要性がよく判りませんが)所々に英文表記が併記され、末尾には立派な組織図も添えられています。しかし、形ばかりで、そこに込められた魂は何か、というのが見えて来ないように思います。
(1)色んな組織・ポストが新設されるようですが、そこに充てられる陣容の属性・規模はどうなんでしょうか。どういう人(どういう経歴と経験を持ち、どんなトレーニングを積んだ人)がこの新たな職責を担うのでしょうか。組織(入れ物)だけでなく、ヒト(中身)についても多少言及して頂かないとイメージが湧いて来ません。
(2)「経営倫理委員会」という新組織が目玉のようですが、どういうメンバー構成で、それは誰によって選任されるのか、任期・報酬はどうなっているのか、それは誰によって決定されるのか、会議の開催頻度はどれくらいか・・・そして一体この委員会は誰に対してどのような責任を負っているのか、職責(ミッション)を果たしたかどうかはどうやって測定されるのか、もしそれを果たしていないとされたときはどうなるのか 等々が全然判りません。「取締役会の監督機能」云々というのは法律上当然のことです。法律上当然のことが出来ていないというなら、取締役であってはならない人々が取締役であった、ということですから、取締役会の中から変革しないといけない筈です。法の定めによらない任意の機関を設置して、尤もらしい名称を付しているだけ、とも見えてしまいます。「平時」はそれでもいいのでしょうが、「有事」に至ってはどうなんでしょうか。
(3)会計監査人に一言も言及されないのは何故でしょうか。実態として会計監査人は完全に「外部者」かもしれませんが、会社における重要な機関です。これがどんな役割を果たしていくのか、また、監査委員会や内部監査部門とどのような関係(緊張関係、連携、牽制など)になるのか、そういうのは一体どこへ行ってしまったんでしょうか。コーポレート・ガバナンスにしろ、内部統制にしろ、(会計)監査人がプレーヤーとして全く登場しないというのは少々違和感を覚えます。
投稿: 監査役サポーター | 2007年2月15日 (木) 00時05分
山口先生、はじめまして。
きょうの山口先生の日本監査役協会でのご講演を拝聴した監査役のひとりでございます。終了後、ご挨拶をさせていただこうかと思いましたが、ずいぶんと質問の方々がいらっしゃったので、残念ながら先に失礼をさせていただきました。当社も内部通報制度への取り組みが浅く、外部窓口の利用もほとんど機能していないのが現状ですので、本日のお話は次回の研究会におきまして参考にさせていただこうと思っております。
私も、皆様方とほぼ同意見でございまして、コーポレートガバナンスにせよ、内部統制にせよ、そこは人間の組織の問題であって、支える人間がどのような者であるか、を抜きに考えることはナンセンスと思います。常に内部監査室と協力しながら業務監査を進めているわけでありますが、ベテランの内部監査人であっても、その人間の部分を正しく評価することは至難の業であります。しかし、もっとも企業不祥事にせよ、先生のいわれる「効率性」にせよ、人間への評価抜きには、その優劣を語ることは空しいものがあります。日興コーディアルにつきましても、仏つくって魂いれず、といった表現がまさに妥当するものではないでしょうか。
ただ、山口先生の言われるように、私も上場廃止まで選択されることについては、今後の証券市場の混乱を考えると同意できないところであります。もうすこし日興が改善策を考える余地があろうかと思われます。
本日は合同懇談会でありましたが、また別の部会におきましても、ご縁がございましたらよろしくお願い申し上げます。
投稿: 大村 | 2007年2月15日 (木) 01時31分
日経ネットに、企業年金連合会専務理事の矢野朝永氏が、 「日興の旧経営陣はなぜ逮捕されないのか」、と書かれています。 (「日興の不正会計問題が突きつけた課題」、2月13日)
この問題はこれに尽きるのではないのでしょうか?
NPIという日興の自己資金の運用を行う部門(子会社)の、 しかも2千億円以上のオペレーションが、会長と社長の専管事項
以外であるとは、常識では考えられません。
投稿: 近藤 | 2007年2月15日 (木) 02時26分
皆様、熱いコメントをありがとうございます。
エントリーのなかで、私は兼職は原則としてオッケーではないか、との趣旨の意見を書きましたが、実際のところ、次々と日興CG社では子会社役員との兼職が解消されつつあるようですね。(やはり兼職は原則禁止ということなのでしょうかね)ただ、本日、行政処分を受けて記者会見を行った三菱東京UFJ銀行の頭取さんは、「今後関連会社との兼職は解消しますか?」との質問に「いえ、それは理由ではありません」とハッキリと答えておられました。皆様方の異論も受けましたが、私もあまり兼職禁止とコンプライアンスは大きな関係はないものと考えておりますし、むしろ内部統制システムの効用として、長所もあると思っております。
監査役サポーターさんが、いろいろと疑問を呈しておられますが、私ももう少しガバナンスや統制システムの具体的な中身が知りたいですね。なお、近藤さんの疑問でありますが、堀江氏は逮捕されて、日興関連事件では刑事処分が(今のところ)課されていないのはなぜか、ということでありますが、やはり証券取引等監視委員会が、直接の不公正取引にいたるまで半年間ほど情報を分析するといった行動に出ておりませんし、また堀江氏に近い人物であって、監視委員会に情報を提供してくれるような人が本事件ではいなかったためではないでしょうか。本件で、虚偽記載の故意を認めるのも、そういった証拠がそろわなければ困難ではないか、というのが私の推論であります。
投稿: toshi | 2007年2月17日 (土) 02時07分