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2007年3月22日 (木)

堀江氏と宮内氏と故野口氏

いよいよ私が所属しております弁護士団体の役員任期もあと1週間ほどとなり、最後の総会に向けての準備に忙しい毎日であります。ということで、ライブドア刑事事件については、まったくエントリーもできないまま、本日宮内被告人の地裁判決となりました。もうすでにいろいろなブログでご案内のとおり、1年8月(いちねん はちげつ)の実刑判決が出されております。堀江氏については実刑判決は予想通り(といいますか、無罪か、実刑か、どちらかだろう、との予想)でありましたが、正直申しまして、私は宮内氏につきましては、「執行猶予付きの判決が出るのでは・・・・」と予想しておりましたので、かなり意外であります。(一般の方が思う以上に、職業人として、この量刑感覚に狂いが生じたことにつきましては、ショックであります。。。)日経夕刊社会面には、東京地検の次席検事さんのコメントとして

「おおむね妥当な判決。証券市場の公正を害する犯罪に対して厳しい姿勢を示したものであると理解している」

とありますが、ホンネのところでは検察も「予想外」だったのかもしれません。(検察の求刑は堀江氏に対して4年、宮内氏に対しては2年6月、つまり宮内氏に対しては執行猶予がついても構わない・・・といった意思表示のあらわれではないかと。)たしかに、粉飾決算による利益を自らの私利私欲のために費消した一面に悪質性が認められること、首謀者的立場はむしろ宮内氏であったことは事実のようでありますが、堀江氏の有罪立証(つまり、検察側がもっとも欲したところ)のためには最大限の協力をしてきたのであり、もしこのような判決が予想できたのであれば、共謀関係の否認や投資事業組合の実体に関する法的構成などの面において、おおいに争う道を選択していたのではないでしょうか。(「先生、話がちがうじゃないですか!」と担当弁護士に向かって不満をぶつける宮内氏の姿が目に見えるような気がします。担当弁護士の方々も、おそらく堀江氏に実刑判決が下りた後でも、宮内氏については執行猶予判決が出る可能性は高いとみておられたのではないかと推測いたします)

粉飾決算に関連する刑事事件は、たいへん立件が難しいとされています。こういった刑事事件におきまして、検察としては、できるだけ「本丸」に登るための協力者を欲するところでしょうが、今回の判決を前提といたしますと、「どんなに捜査に協力的な態度をとっても、やってしまったことの重大性だけが判決の基礎となるのであれば、一か八か、無罪主張にかけてみよう」といった、共犯者の動機付けになってしまいそうであります。(もちろん、保釈申請の現実をみた場合、できるだけ早期に事実を認めてしまおう・・・といった気持ちになってしまうのも現実であります。ただ、今回、堀江氏は無罪を争いつつも保釈されていますし、無罪を争う動機を保釈制度の現実が排斥してしまう、ということにはならないと思われます)今後の証券被害事件の捜査にとって、このたびの実刑判決は、果たして望ましいものなのかどうか、私自身はかなり懐疑的な気持ちを抱いているところです。(なお、刑事弁護実務に詳しい著名ブロガーの落合先生、矢部先生は、いずれも、このたびの実刑判決は納得できるもの・・・との冷静な分析をされておりますので、そちらをご参考ください)

裁判官の内心を斟酌してみる(たいへん失礼ながら・・・)

今回、堀江氏、宮内氏の裁判を担当された小坂裁判長の特色としましては、いずれも被告人の期待に反する判決内容を読み終えた直後に、「あなたを慕っているハンディキャップを背負った少年がいる。これから、そんな少年たちのためにも立ち直ってほしい」とか「堀江氏逮捕直後に、一生懸命かばおうとしたあなたの姿勢は評価できる(ちょっと不正確かもしれませんが・・・)そんな気持ちを、いつまでも持ち続けてほしい」などと、(その判決内容とは裏腹に)被告人らに温かい言葉を投げかけている ところであります。私が弁護人だとしますと、被告人らが奈落の底に突き落とされた直後に、そんな言葉をかけられても・・・、と思うわけでありますが、こういった情緒的な発言を好む裁判長の姿から、ふと、ひとつの内心のシナリオが浮かんできます。

「かつて堀江氏、宮内氏の仲間だった、元ライブドア取締役の野口英昭氏が天からこの裁判を見ているとしたら・・・・。その野口さんに対して、恥ずかしくない裁判をしなければならないのではないか・・・」

私の先ほどの「証券犯罪への捜査が困難になるのでは・・・」といった批判を吹き飛ばすシナリオです。もし、この世に野口氏が存命であるならば、宮内氏、堀江氏が完全否認に転じていたとしましても、おそらくこのたびの裁判では(検察側は宮内氏の協力がなくても)完全有罪立証を勝ち取ることは可能だったのではないか。野口氏は、このたびの被告人らのように振舞うことに耐えられず、あのような最期を遂げたのではないか・・・と。今回、検察の捜査に協力してきた宮内氏について、実刑判決を下すことについてのいろいろな判断はあるかもしれないが、それは決して将来の証券犯罪の立件を困難にすることにはつながらない。なぜなら、このたびは偶々、立件の焦点となる人物が不遇の死を遂げられ、そのために関係者の立場がアンバランスな状態になってしまったのだから。ともにベンチャーの道を進んだ「仲間の死」を境にして、仲間のひとりは自分が「にわか協力者」となって減刑を切望し、そしてもうひとりは完全否認の道を選択する。そういった人間の行動を、裁判所はどう受け止めるべきなのか。たとえ検察の意向、そして被告人らの期待に反する判決となっても、むしろ今後、第ニ、そして第三の「野口さん」を出さないようにするためにはどうすればいいのか。「自己中心的に振舞える大胆さ」を備えていない者がそっとこの世を後にすることで、その恩恵を仲間が受けることを、そのまま裁判所が追認してもいいのだろうか。野口氏がこの世に残すものとして、ここで裁判所としては、厳格な判断に至るべきではないのか・・・・と。小坂裁判長は、「生きていさえすれば、きっと更生の道も開かれ、世の中のためにその能力を発揮できるときがある」といった考え方をお持ちだと思います。裁判長が、最もこのたびの一連の判決で訴えたかったのは、天国の野口さんに背くような判決を出さないこと、つまり「生きていれば・・・」との気持ちを社会の人たちにメッセージとして送る判決を書くことにあったのではないでしょうか。さらにもう一言、付け加えるならば、もし野口氏を死へと導いた原因のひとつに「検察の捜査手法」があったとするならば、そういった検察の捜査への警鐘を鳴らすためにも、検察の思惑から逸脱した判決を出すことも厭わなかったのではないか・・・・・とも思えます。

久しぶりに刑事事件に関するエントリーでありましたが、小坂裁判長のちょっとした特徴から、上記のようなシナリオもあるかな・・・と考えました。もちろん情緒的な私個人の妄想でありますので、聞き流してください。。。(あっでも、こういったベタなシナリオを頭で考えてから、判決文を読むのと、全く何も考えずに判決文を読み出すのとでは、ずいぶんと判決内容の理解度に差が出ると思いますよ>司法修習生、ロースクール生の皆さん)

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コメント

堀江が有罪なら、宮内も有罪。あたりまえ。

投稿: hamster | 2007年3月22日 (木) 23時00分

野口氏は巨額の業務上横領が明らかになってます。それが自殺の原因であることは、ほぼ間違いありません。適当なことを書くのはやめましょう。

投稿: うに | 2007年3月22日 (木) 23時01分

結局は堀江側が無罪を主張するために宮内氏の横領をデッチあげたようですね

投稿: ガーリック | 2007年4月14日 (土) 22時44分

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