日興CGの上場維持決定
東証、大証、名証は日興コーディアルグループについて、上場を維持することを決定し、監理ポスト割り当てを解除することになったようであります。(日経ニュースはこちら)なんだか手前みそで恐縮でありますが、私は従前より>こちらや>こちらのエントリーにおきまして、特別調査委員会の報告書を拝読しましても、「日興CGの組織ぐるみの行動」とは認められないものと主張しておりましたので、このたびの上場廃止基準該当性なし、との東証の判断理由には、概ね賛同するものであります。(ただ、たとえ組織ぐるみではないとしても、NPIの組織ぐるみの日付繰上げ行為の悪質さは否めないところではないでしょうかね。証券会社が一番やってはいけないことをやっているわけですから、この行動に至った動機というものは是非もうすこし議論しておきたいところであります。)
ところで日経ニュースでは、この13日深夜になって異例の釈明記事がHPにアップされています。(釈明ニュース)いったん「日興、上場廃止へ」と報道したにもかかわらず、結局「上場維持」という東証の判断に至った経過についての釈明でありまして、今後もさらに検証していく、とのことであります。日経の与える投資家への影響を考えますと、こういった問題発生企業の報道姿勢というのも、かなり難しいものがありそうですね。
なお、有識者の方々より、(この上場維持の決定をうけて)もう少し上場廃止基準を明確化したほうがいいのではないか、との意見が出されておりますが、たとえもう少し廃止基準を明確化したとしましても、またさらに細かいところで基準への該当性が議論されるだけであり、結論としては「明確化」が投資家の保護に資することは期待できないと思います。むしろ、要件該当性が比較的あいまいなバスケット条項のままで廃止基準を残しておくほうが、上場企業の違法行為抑止効果は機能するのではないでしょうか。
それと本日の東証の判断理由を聞かせていただいて感じましたことは、日興CGは不祥事発覚後にいろいろと情状をよくするための対策をとったものではありますが、そういった悪質な行動の後の対応についてはほとんど東証は(最終決断にあたり)斟酌していないのではないでしょうか。(もし、これを斟酌したことで、東証が上場維持の決定を下したということでしたら、これまで「上場廃止へ」と報道してきたマスコミも救われるところだったのですが・・・・)再発防止策を一生懸命練って、二度と同じ過ちを繰り返さないように内部統制システムを再構築することが、大きく上場維持の判断に影響する、といった慣行が成り立ちますと、そもそも粉飾決算に対する取引所規則の抑止的効果が薄れてしまうのも事実であります。しかしながら、問題とされている悪質な行動だけを捉えて廃止基準の該当性を判断する、と明確な姿勢を打ち出した場合には、ぎゃくに内部統制の再構築へのインセンティブは薄れてしまうわけでして、企業の自浄能力を引き出すことができなくなってしまいます。もう1年以上前のエントリーにおきまして、ニューヨーク証券取引所におけるプロベイジョンの制度をご紹介いたしましたが、日本の証券取引所でも、これに類似する「上場廃止執行猶予制度」のようなものを策定するのもひとつの案ではないでしょうか。「廃止か維持か」といった根本の決定につきましては、取引所がこれまでのとおりの判断理由をもって決することとしますが、情状によりましては、「その廃止決定を猶予」するような制度も一考に値するように思われます。つまり、執行猶予期間中に、将来にわたって再犯防止のための施策を熱心に行っている場合におきましては、最終的にその廃止決定を見直す、というものであります。これであれば企業側にもインセンティブが付与されるので、適正なものであるように思われますが、いかがでしょうかね。
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コメント
80年代に米当局が金融機関の訴追に大使、法解釈で生み出したディファード・プロセキューションが一つの参考になると存じます。ご参考までに。
投稿: 山口ファン | 2007年3月13日 (火) 04時01分
いつもご教示いただき、おそれいります。
さっそく勉強して、もう少し理解を深めたいと
思います。
今後とも、ときどき登場してください。。。
投稿: toshi | 2007年3月13日 (火) 09時04分
こんにちは。
金融庁の課徴金命令と東証の判断とは矛盾しない、といった大臣のコメントがありましたが、責任追及委員会の今後の判断には影響しないのでしょうか?もし後日、民事上の損害賠償請求訴訟で、日興CGの元代表者の関与が認められた場合でも、今回の件は覆らないのでしょうか?(おそらく投資家保護の観点からは問題なし、とされるのでしょうが)
投稿: あすくる | 2007年3月13日 (火) 12時42分