セカンドオピニオンと監査報酬について
会計士さん方のブログで、「週間経営財務2810号」の町田祥弘青山学院大学教授の論稿「監査報酬はなぜ低いのか~監査人の交代時における監査報酬の実態調査を踏まえて~」が話題になっております。私もこれを読ませていただき、「ロー・ボーリング」なる概念を初めて知りました。(ちなみに、ロー・ボーリングとは、入札等におきまして、将来の追加契約や取引継続を見込んで、低廉な価格または報酬で最初の契約に応じることのようであります。)
ところで、監査報酬が低い(傾向になってしまう)のは、町田先生ご指摘のような契約形態とは別に、「セカンドオピニオン」に関する会計士業界の掟のようなところにも原因があるのではないでしょうか。たとえば、先日の三洋電機の子会社株式の評価に関する問題などが新聞で報じられましても、どなたか会計専門家の方がコメントとして、「会計処理に疑問がある」とか「会計士はまったく問題ない」などといった意見表明をされていることはほとんど見当たりません。また、先日の日興CGの粉飾問題の場合におきましても、監査委員を務める社外取締役の方々が、セカンドオピニオンを監査法人に依頼されたところ、一向に協力していただける監査法人さんがいらっしゃらなかった、とのことでしてた。先日も別のエントリーでも書かせていただきましたが、そもそも監査証拠となりうる計算書類の原本にあたっていなかったり、それまでの会計処理の歴史を深く認識しておられない第三者的な監査法人が、独立して会計処理に関する意見はリリースできないのかもしれません。また、そもそもセカンドオピニオンをとる、ということは監査の品質基準に差があることを認めてしまうこととなりそうですので、業界団体としましては、できればセカンドオピニオンの乱発は回避したいところだと思います。
ところで、もし監査報酬がもう少し高くなることを希望されるのであれば、やはり監査法人のランク付けのようなものが必要になるのではないでしょうか。「あの監査法人が監査しているのだから、間違いない」とか「あの監査法人が財務に関するコンサルタントをしているのだから」といったようなところに投資家が開示情報としての価値を見出すとか、そういった「付加価値」を創出しなければ、どうも今後も高額になることはたやすいことではないような気がいたします。(ましてや、競争原理も働かないままにジリジリと、どこの監査法人も監査報酬が高額化していく、というのは独占禁止法上の問題にも発展するかもしれませんよね)しかし、これだけ「見積もり評価」を要求されるような会計基準が増えたにもかかわらず、すべての会計士資格を有しておられる方の意見がすべて一致するとは思えませんし、企業側の適正なリスク管理の一環としまして、会計士さんのセカンドオピニオンをとりたい、といった企業側の要望にも、ある程度の合理性があるように思われます。やはり監査報酬の高額化というところは、そういった競争原理の働きがなければ難しいのではないか、と思った次第であります。(いえ、ふとそういったことが思い浮かんだだけでありまして・・・・・この話を今後も発展させるつもりは毛頭ございません。)
(追記)ほかの会計士さんのブログを読ませていただいておりましたが、どうも日経新聞の記事で「会計士協会、二次意見で新規則」なる報道がされておられたようですね。(まったくこの記事を読んでおりませんでした。)会計士協会さんのほうでもまじめに取り組んでおられるようで、誤解を招くといけませんので(言い訳になりますが)、私も決して不真面目な気持ちでエントリーしたものではなく、究極の目的が「監査報酬の高額化」であるならば、こういった方法もひとつの案ではないか、といった気持ちで書かせていただいたものであります。
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コメント
私は、会計士のセカンド・オピニオンは、実際的でない分野であろうと思っています。
理由は、会計監査を実施することは、その会社の会計のことについて監査報告書が作成可能であるレベルまで調査(必要な部分の証憑チェック、残高確認や実査を含め)を行った上で監査報告書が作成されるのであり、監査を行っていない会計士がオピニオンを出すことは困難であろうと思うからです。
日興CGの粉飾問題で言えば、中央青山は粉飾の元となっているNPI、NPIH、ベルシステム24そしてBBコールの会計監査人と聞いています。2004年9月時点からそうであったかは、確認していませんが、関係した全ての会社の監査をしたことから、中央青山は取引の実体を正確に把握していたと思います。財務諸表の訂正について最近まで発表されなかったのですが、取引の実体を把握したときには、監査法人としてすべきことがあったのではと思うのです。監査は、その特定の企業、企業グループに対して行われるのであり、又監査にあったっては内部資料も開示されることから、他の会計士や監査法人がセカンドオピニオンというのは困難な面が多いと私は思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2007年3月 9日 (金) 11時56分
>経営コンサルタントさん
こんばんは。
たしかに、なかなか会計士さんがセカンドオピニオンを出すことは困難が伴うであろう、といったところは理解できます。
ただ、前提となる事実を確定したうえで、たとえば会計基準の適用についての意見をお聞きする、といった方法はどうでしょうか。もちろん、事実の確定につきましては、現実に監査を行っている監査法人さんから了承をえたうえでのことでありますが。
いろいろと評価や見積もりを伴うことゆえ、事実の確定だけでいいのかどうかは迷うところでありますが、意見をお聞きする事項を限定したうえでのセカンドオピニオンというのも、なんとか成立しそうな気もするのですが。
投稿: toshi | 2007年3月10日 (土) 01時41分
会計士さんがやっているハードな仕事振りを見ていると、とてもセカンドオピニオンを簡単にかけるような代物ではないような気がします。また、限定した事項について聞いた意見をもとにセカンドオピニオンを出すというのは、その範囲をどのようにして決めたのかという難しさもあり、怖くてなかなかセカンドオピニオンはかけないのではにでしょうか。結局、二つの監査法人が違う方法で会社の監査を行うという重複する会計監査が行われてしまうことになりそうなので、非現実的と思われますが。
投稿: シロガネーゼ | 2007年3月10日 (土) 07時43分
読んでいてふと思ったのですが、いわゆる証券取引(発行)の世界では弁護士さんがリーガルオピニオンを出しますよね。一世を風靡?したMSCBでは、弁護士さんの中でも適法・違法の両方の意見があると聞きました(勿論、違法の意見書は世の中には出てこないでしょうが・・)。そう言う意味では、発行企業は(リーガル)オピニオンショッピングをしているのだと思います。
弁護士さんの世界で「ロー・ボーリング」を聞かないのは、会社法や証取法で大会社や上場会社に会計監査人の設置を義務づけているからなのでしょうね。法律で弁護士の設置を義務づけると同じ様なことが生じるのでしょうか?
日興の事件の場合、社外取締役が、監査法人ではなく、弁護士に意見を求めるとどういうことになったのか?と考えてしまいますし、逆に何故弁護士には意見を求めなかったのだろうか?と考えてしまいました。これは会計だけの問題ではなかったのでは?と思います。
(ふと考えたことを書いてしまいましたので、特に問題提起ではございません。)
投稿: ネットくん | 2007年3月11日 (日) 16時16分
ある経営コンサルタントさんは、会計士のセカンドオピニオンは実際的ではないというご指摘で、日興CGの場合も、監査委員会のご努力が十分に実らなかったという意味では、確かにその通りと思います。
話は本筋からそれるかもしれませんが、日興CGの調査報告書では、日興CGの監査委員会について「非難を加えることは難しい」との結論を下されています。しかし、私がこの点について疑問を感じるのは次の諸点です。
まず第1に、本件は、日興プリンシパルインベストメント(NPI)を舞台とした事件であることは間違いが無いと思うのですが、そうすると、調査報告書にNPIの監査役がまったく登場してこないのは、極めて奇異に思います。日興CGグループが実質的な支配権を持っていることは分かりますが、NPIの監査役が全く姿を見せないと言うのもおかしな話ではないでしょうか。監査委員会に非難を加えることは難しいといえても、肝心の常勤監査役が不在では、どうなっているのか、と思います。
次に、もし常勤監査役が活躍しておられれば、監査委員会がセカンドオピニオンを求めたときに、事件のにおいを嗅ぎ取ることが出来たのではないかと期待してしまいます。理想を考えれば、監査役が、その時に、特別調査委員会のようにメール等で業務監査に乗り出せば、EB債の発行日付の改ざんも明るみに出て、セカンドオピニオンとは比較にならない証拠を得ることが出来たのではないでしょうか。死んだ子の年を数えるわけではありませんが、監査委員会の活躍に眼を奪われるだけでもいけない、と痛感しました。
本筋から外れた話になり恐縮ですが、こうした時に監査役としてはどのように行動すべきかを考えている私としては、ついあれこれ考えてしまいます。常勤監査役が本格的に業務監査に乗り出せば、社外監査役の求めるセカンドオピニオンよりもはるかに強力な成果が得られると思うのですが、皆さんのご意見はいかがでしょうか。
投稿: 酔狂 | 2007年3月12日 (月) 16時45分
>ネットさん
コメントありがとうございました。
MSCBもそうですが、最近は学者の先生を交えて、株式買取価格に関する「公正な価格」に関する意見書がいろいろなところで作成されているように聞いております。オピニオンショッピングは確かにおっしゃるとおりですね。
最近、「法律のひろば」1月号で、東京地裁細野判事さんの書かれた「法解釈論と法と経済学との関係についての覚書」という論文を拝読いたしました。法解釈論と法と経済学との距離感について書かれたものでありますが、立法のための法と経済学のあり方、法律適用(解釈)のための法と経済学のあり方などを考えるうえでとても参考になりました。
リーガルオピニオンをとるにあたっても、そもそも法解釈に参考となる意見となるのかどうか、これを見極める力も必要かな・・・と思ったりしております。
また、ご意見、お待ちしております。
>酔狂さん
ご意見ありがとうございます。
ライブドア騒動のときもそうでしたが、事件経過のなかで、監査役の行動がどのようなものであったのか、あまり注目されないことが多いですね。(このあたり、実に悲しいところでありますが)そもそも、監査役の業務監査には世間の期待は集まっていない、ということなのでしょうか?しかし会社法でもそうですし、金融商品取引法の内部統制報告制度でも「統制環境」が重要視されておりますので、今後は確実に監査役の活動が評価される時代になると思いますし、逆に申しますと、「そのとき監査役は何をしていたのか」と厳しい視線を向けられる時代になるのでは、と思います。
このたび、金融法務研究会で講演をさせていただきましたが、2月に発出されました改訂金融検査マニュアルでも、監査役の地位、活動への評定はかなり重視されるようです。とりわけ常勤監査役への期待は高まるものと思いますし、監査役会自身が別途リーガルサービスを受ける時代が来るのではないかと思っております。(監査役会自身が独自の意見を形成できるようになるためにも)
投稿: toshi | 2007年3月13日 (火) 13時06分