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2007年3月25日 (日)

新生銀行に排除命令(景表法違反)

(3月25日午後 追記あります)

金融商品に関するチラシが不当表示に該当するとして、新生銀行が公正取引委員会より排除命令を受けるようであります。(チラシの表示や、金融商品の説明など、朝日新聞ニュースが詳しいようです)銀行としては初めて、とのこと。すでにこのチラシは使用されていないようですが、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)6条1項におきまして、たとえ違反状態が解消されていても、排除命令を発令することはできることになっております。

(排除命令)第6条 公正取引委員会は、第3条の規定による制限若しくは禁止又は第4条第1項の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令(以下「排除命令」という。)は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、することができる。

「貯蓄から投資へ」といった流れのなかで、金融商品取引法の成立施行は、「ホップ・ステップ・ジャンプ」のうち、未だ「ステップ」の段階と言われておりまして、保険、銀行を含めて広く横断的な規制が確立する「金融サービス法」成立が最終的な目標(いわゆる「ジャンプ」)とされております。そこで金融機関全般の監督監視機能といえば、そもそも金融庁及び証券取引等監視委員会が担っているわけでありますが、金融商品の取扱に関する垣根が取り除かれるにしたがって、金融機関も競争によるサバイバルの様相を呈してきております。「仁義なき顧客獲得競争」におきましては、こういった「不公正な取引方法」に対する公取委の厳しい対応が今後も予想されるところでありますので、金融機関内におけるコンプライアンス・オフィサー(またはコンプライアンス委員会)の役割もこれまで以上に重要になってくるのかもしれません。

ところで、私もあまり独禁法関連は詳しくないのでありますが、この新聞報道を読んだだけで、「いったい何が不当表示なのか」、私はよく理解できておりません。(もちろん、排除命令が出されれば、公取委のHPで確認できるわけではありますが)定期預金契約を希望する一般消費者が、もっともリスクの高い商品を選択した場合の利率だけをチラシ中央に大きく掲示した行為が問題になっているわけでありますが、この利率の表示の何が不当表示に該当するのでしょうか。具体的には元本割れの危険性があるにもかかわらず、一般消費者に対してリスクがないもののように誤信させたことが問題なのか、他の利率の商品構成があるにもかかわらず、もっとも利率の高いものだけを掲示したことが問題となっているのか、それとも、そのいずれも不当表示に該当する、というものなのでしょうか。景表法4条の要件から検討するに、他社の定期預金との比較において、自社の商品が優れているように一般消費者を誤信させていると考えますと前者が不当表示に該当するように思いますし、他者の同種金融派生商品との関係で、自社の商品が優れていることを誤信させている、と考えますと後者の点が不当表示に該当するようにも考えられます。(私的には後者なのかなぁ・・・と思ったりしておりますが)

昨日の、ある証券会社の引受審査が不適切であった事例や、本日報道されておりました日本テレビ「行列のできる法律相談所」での著作権侵害事例など、なかなか経営陣トップが現場での対応をいちいちチェックできるわけでもないと思っておりますので、やはりコンプライアンス関連の部署が重要な役割を担う時代がもうすぐ(事業会社にも、また金融機関にも)到来するのでは・・・と考えております。

(3月25日 午後追記)

金融法務事情などでお馴染みの行方先生のブログ(コンプライアンス、内部統制etc)におきまして、この不当表示に関する詳細なエントリーがございます。(私のエントリーよりもかなり正確な記述がなされております)また、本エントリーにコメントをつけておられる経営コンサルタントさんのコメントには、どういった場合にどれだけのリスクがあるのか、詳細に記述していただいております(どうも、ありがとうございます)ので、そちらをご参照ください。なお、この景表法の不当表示問題は、あくまでも経済法たる独占禁止法的な発想に由来するものと(私は)理解しております。つまり、不当表示が規制の対象となるのは、商品の持つ本来の品質よりも、「もっと優れている」と消費者に誤解させたり、他社の同種商品よりも「もっと取引条件がいい」と誤解させたりすることによって、不当に競争を優位に進めようとすることが経済競争にとって好ましくないところであります。そう考えますと、たとえば銀行などに、この景表法を適用しようとする場合、説明義務との関係などが問題になってくるのではないでしょうか。(つまり契約法としての性質を持つ金融商品販売法や行政取締法としての性質を持つ銀行法12条と景表法の関係など。)説明義務違反の問題と、景表法の問題を混同してしまわないように、この両社をどこかできちんと区別して検討する必要があると思いますがいかがでしょうか。(そのあたり、また別の機会に議論したいと思います)

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コメント

ネタが先生とかぶってしまいました(・・。)ゞToshi先生も、報道内容からでは不当表示の該当性に疑問あり、とお感じのようですね。朝日の記事からは、「実態より有利にみせかけて消費者を誤認させる」ものとのようです。http://www.asahi.com/business/update/0324/004.html
私としては、金融機関に対する過去の警告事例より不当性はむしろ少ないのでは?とも思われる一方、一般消費者の目線に立った広告表示がより強く求められているのかな、と感じるところです(それでも、景表法の要件該当性までは現時点で分からないのですが)。

投稿: 行方 | 2007年3月25日 (日) 10時57分

公正取引委員会の新生銀行のチラシ不当表示に関連した判断を適切であるとの観点を書かせていただきます。(なお、チラシ自身を私も、朝日の記事以外に現物を見ていませんので、想像が入っていることをお断りしておきます。)

単純な預金ではなく、デリバティブ取引を預金として表示したことは、一般預金者に対する説明として不適切であると思います。

具体的には、「外国為替プット・オプションの売り」がデリバティブ取引として組み込まれています。デリバティブは、ヘッジ取引として使う場合は、有効ですが、オプションの売りは、内容を知らずに取引をしてしまうと恐ろしい取引です。(利益限定にも拘わらず、リスクは大きい。)

新生銀行のチラシの場合で説明を行いますと。
・預金時の為替を120円であったと仮定します。
・5円円高の基準レートを選んだ場合と、10円円高の基準レートを選んだ場合の双方で1千万円預金したとして計算します。
・5円円高では3年後に765,000円税引き後の利息が得られ、10円円高では3年後に税引き後314,000円税引き後の利息が得られます。
・5円円高でも10円円高でも、いずれの場合も、オプションの売りの対価が利息の中に組み込まれています。
・3年経過したとします。その時の為替レートは、予測不可能ですが、100円になっている可能性も3年先ですから、ありうるかも知れません。110円は、可能性として十分あると思います。120円以上の円安の場合は、オプション実行がないので、預金元本と満期利息を得るだけです。
将来100円・基準5円円高の場合、9,515,000円が戻るのみ。(損失485,000円)
将来100円・基準10円円高の場合、9,481,000円が戻るのみ。(損失519,000円)
将来110円・基準5円円高の場合、348,000円の利息となる。
将来110円・基準10円円高の場合、オプションは実行されないから、314,000円の利息となる。
利息収入と損失となった場合の損失額とを比べると、確立を念頭に置く必要がありますが、収入はこれ以上に増加する可能性はありませんが、損失は更に拡大するリスクがあります。簡単には決断がつかないと思うのですが。損失の場合は、1千万円を3年間寝かしておいた結果ですから、頭に来る人もおられるのではと思います。
(注)利息の源泉所得税、源泉住民税についてデリバティブ取引の損失は、適用されないとして計算していますが、損益通算され損失の場合には源泉税が適用されない可能性もあります。これについては、チェックしていません。

チラシのどこかに多分上記の説明があったと思います。それと、途中解約が不可能か、可能であっても高額の解約手数料が必要であったはずです。何故なら、上記の「外国為替プット・オプションの売り」は、解約不可能であり、この取引をキャンセルするためには逆取引である「同一通貨・同一金額の外国為替コール・オプションの買い」を立てる必要があり、このデリバティブの購入費用が必要で、その価格はその時の外貨マーケットにより異なってきますから、預金のチラシ作成時には金額を提示できません。

もし、私が、この預金について相談を受けていたとしたら、リスクが大きすぎるとして勧めなかったと思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年3月25日 (日) 14時17分

>行方先生

コメントどうもありがとうございます。
不当表示の4条該当性、私も関心があります。おそらく銀行内のコンプライアンス・オフィサーは検討済みではないか・・・との先生のご意見、今後のテーマにつながりそうな気がいたします。

>経営コンサルタントさん
いつも、ありがとうございます。理論派のコンサルタントさんのご指摘、納得するところが大いにあります。
実際に、このチラシ、読んでみたいですね。かなり小さな字かもしれませんが、そういった説明もありそうですね。おそらくこの景表法による規制というものは、「一般消費者の視線」から、チラシ全体の持つイメージを思い描く必要がありそうです。理屈だけの世界でないところがコワイようなきもいたします。

投稿: toshi | 2007年3月25日 (日) 15時48分

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