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2007年3月 5日 (月)

コーポレート・ガバナンスと株主の評価基準

毎月第一土曜日は全国社外取締役ネットワークの関西地区勉強会が開催されまして、その帰りに堺筋本町の紀伊国屋書店に立ち寄ってみましたら、ずいぶんと株主総会関連の法律書が増えておりました。本格的な会社法施行後の総会は本年度からということもあるでしょうから、例年以上に雑誌、書籍では総会対策モノが売れ筋になるのでしょうね。(もうそんな時期なんですね。)

ということで、そろそろ機関投資家の方々が、今年はどのような議決権行使に関する基準をリリースするのか、といったところも気になるところでありますが、「コーポレート・ガバナンスの評価に基づいた投資のすすめ(銘柄選択の新潮流)」なる本(2006年 東洋経済新報社)の著者でいらっしゃるアレクサンダー・フラッチャー氏が3月10日号の旬刊経理情報にて、「企業統治リスクをどう見抜くか」といった、たいへん興味深い文章を書いておられます。この論稿では、昨今のいろいろな企業不祥事をとりあげて、コーポレート・ガバナンスのあり方と不祥事発生の可能性とを関連つけることで、企業評価基準として「守りのガバナンス評価」を展開されておられます。この論稿を読ませていただいた後に、先の「投資のすすめ」の書物を読みますと、なるほど、最近の代表的な不祥事を起こした企業のボードを分析されて、それを投資評価の基準として検討されるようです。(ちなみに、少し観点は異なりますが、この本では「長期保有している株主に対して、議決権上で有利な扱いを認める企業については、株主平等原則に反するものとして、断固反対する」とありますので、以前このブログでちょっと話題として取り上げさせていただいた同和鉱業さんの株主優遇策とかは、さてどうなんでしょうか・・・)

そもそもコーポレート・ガバナンスを投資評価基準として用いる、といいますのは、私の理解では「攻めのガバナンス評価」つまり、企業パフォーマンスの向上のためには、どういったガバナンスが最適か、といったアプローチで研究されているのが世界の潮流ではないかと思っておりましたので、かなり斬新なイメージを抱きました。たとえば、ときどき引用させていただいている「コーポレート・ガバナンスにおける商法の役割」(2005年 中央経済社)でも、最近は全世界において、ガバナンスのあり方と企業パフォーマンスの関係が議論されていると書かれてありますし、また最近出版されました「企業統治の多様化と展望」(2007年 金融財政事情研究会)におきましても、日本型取締役会の多元的進化とパフォーマンス効果について、ニッセイ基礎研究所の方等が研究成果を発表しておられますし、こういった評価基準に基づいてガバナンス投資を考えるのが通常ではないかと思っておりました。

たしかに、以前からコーポレート・ガバナンスを議論する目的は、(企業パフォーマンスとの関連性以上に)企業不祥事の防止(コンプライアンス経営の実現)と言われておりましたが、直接の目的が「企業不祥事防止」というのではなくて、いわゆる株主の利益を無視して(利益相反取引などによって)経営者が暴走することを止める仕組みを考えるのが一次的であり、その副次的な効果として「不祥事も防げる」といった関係で捉えるのが正確ではないかと思います。ただ、そう考えましても、具体的にどういったガバナンス体制を構築すれば企業不祥事を防止できるのか、といった観点から、果たして投資評価のモノサシにできるような定型的な解が出てくるのでしょうか?そもそも企業統治のあり方と企業パフォーマンスとの関係についての実証的研究というのも稀少なところかとは思うのですが、企業統治のあり方と不祥事発生の危険性との関係といったところは、ほぼ実証的な検討は困難な気もしますね。「何年何月から、この企業はこういった組織を構築した。そして何年ころからこういった競争力の向上があった」といった前提条件ならば、そういった企業がいくつか判明することによって、企業パフォーマンスとガバナンスの関係も(うすうすながら)推定できると思いますが、「企業不祥事は発生した。そして報道によって信用が既存され、株価が下がった」「この企業はこういった組織形態であり、ボードメンバーもこういった関係にある」ということから、「よって、こういった組織形態で、こういった人間関係にある企業は投資価値が低い」という結論に至るのはどうも短絡的に過ぎるような気もいたします。また、機関投資家や議決権行使支援会社より、おもしろい判断基準が発表されるかもしれませんし、今後何か興味深い基準が見当たりましたら続編をアップするつもりであります。

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コメント

3月から異動となりましたので、ちょっと先生のブログを拝見できる時間も限られておりますが、今後ともよろしくお願いします。
表記の経理情報の記事、私も読みました。筆者がガバナンスとして非常に高く評価している企業がベネッセだったりするわけですが、もしベネッセの社長が企業統治の重要性を主張されるのであれば、このたびの女性問題でも辞任されずに頑張っていただきたかったと思います。(きょうの日経優良企業ランキング発表でも上位でしたし)

投稿: halcome2005 | 2007年3月 5日 (月) 14時18分

こんばんは。コメントありがとうございます。
私も日経朝刊の優秀表彰企業300社、読みました。タイムリーに「企業統治」の重要性が謳われていましたね。どちらかといいますと企業パフォーマンスとの関係とみていいようですね。

投稿: toshi | 2007年3月 6日 (火) 02時31分

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