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2007年3月29日 (木)

新生銀行に排除命令(その2)

すでに「新生銀行に景表法違反で排除命令(その1)」のエントリーにて若干ご紹介しておりましたが、28日、新生銀行は、銀行としては初めて公正取引委員会より排除命令を発令されました。(日経ニュースはこちら また、公正取引委員会のHPでは処分概要と排除命令本文が掲載されております。本文のほうでは、実際に問題となりましたチラシの表面と裏面も参照できるようになっています)景表法違反ということでありますが、前回エントリーでの予想どおり、4条1項2号(取引条件の有利誤認)のほうでチラシの表示に景表法に抵触するところがある、といった判断のようであります。

銀行につきましては、不当表示に関する自主規制(銀行業の表示に関する公正競争規約、平成18年2月改訂なお、この規約は公正取引委員会による承認を得ておられるようです)もありますので、あえて排除命令に反論するようなこともないと思うのですが、やっぱり景表法は難解な法律のひとつであると思われますし、整理すべき論点がいくつかあるような気もいたします。まだ勉強不足のために、うまく表現できませんので備忘録としてあげてみますと、ひとつめは独禁法19条(不公正な取引方法の禁止)一般指定8項(ぎまん的顧客誘引の禁止)と、この景表法4条1項2号との関係であります。そして、もうひとつは銀行法12条(説明義務)と景表法との関係、あるいは適合性原則と景表法との関係であります。とりわけ後者のほうは、どうも私の頭では整理できずに悩んでおります。このチラシは他の商品ラインナップもあるにもかかわらず、この取引条件の金融派生商品がもっとも取引条件としては有利であると一般消費者に誤認させるおそれが著しく高い、といった判断において景表法違反に該当するものとされております。ただ、銀行で金融商品を購入する場合、銀行側は顧客の商品知識に応じて個別に理解可能な程度に商品説明をしなければならないわけですよね(適合性の原則)。たしかに、ニッセイのがん保険の表示が適切でなかった(つまり保険契約者が誤認するおそれが高い)として、2003年には保険商品について排除命令が出されている前例はありますが、高度の説明義務が銀行には課されているわけですから、チラシと一般顧客の誤認可能性との間に相当な因果関係というものが簡単に認められるかどうかは微妙ではないでしょうかね。もし、チラシが一般顧客を誘引するための媒体であったとしましても、それで結果的にみて一般顧客が取引条件の有利さを誤認したとすれば、それはチラシによるというよりも、銀行の説明義務に重大な問題があったからではないのでしょうか。たとえばネット上で金融商品を購入する、といった取引形態であれば、このようなチラシ広告だけを取り上げて「不当表示」と認定することも可能かとは思うのですが、この事例でもそうでありますが、店頭にチラシが置かれていて、そのチラシをみた一般の顧客の方々は、チラシに誘引されて店頭で商品の説明を受ける・・・といった流れになると思われます。ここで「誤認」ということがいちおう問題になろうかと思いますが、おそらく購買の意思決定を動機付ける情報の錯誤を指すものと解されますので、この錯誤の要因はどこにあるかといいますと、チラシだけでなく、説明のまずさにあるのではないかと思われます。

また、「表示」というものがどんなものを指すか、といいますと、「見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものも含む)および口頭による広告その他の表示(電話によるものも含む)」(昭和37年6月30日公取委告示3号 平成10年12月改正 定義告示2項2号)とあります。ちょっとビックリしたんですが、口頭による説明というのも景表法における「不当表示」に該当する場合があるわけですね。そうしますと、銀行法によって厳しい説明義務(顧客保護管理態勢)が課されている銀行業界におきましては、チラシと口頭による説明を一体と捉えて「表示」に該当するものと考えてみるのが実態に合致しているようにも思われます。(このあたりは、どうなんでしょうか。チラシにつられて、ホイホイと金融デリバティブ商品が買われてしまう、といった実態はありうるんでしょうか。うーーん、少なくとも細かい文字の保険商品の契約書を渡されて、あっという間に保険契約を締結するのとは、すこし事情が異なるような気がいたしますが)この景表法による規制といいますのは、けっこう他の特別法と(目的は異なりますが)規制の面では競合する場合がありまして、特別法による規制が優先適用される場合もあるようです。この景表法を、銀行法によって厚く規制が敷かれている銀行業界に真正面から適用していくことについて、銀行側からの反発というものはないのでしょうか。(先の公正競争規約の条文を眺めてみましても、このあたりはやはりあいまいな条項になっておりまして、よく理解できませんでした)自分では、あまり適当なことを書いているつもりはなく、けっこう真剣に悩んでおりましたので、またご専門の方いらっしゃいましたら、いろいろと教えてくださいませ。

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コメント

まだ詳しく分析できていませんが、やはり、単に最も高い金利のみを表示したことというより、「あたかも、表示された一つの金利のみが適用されるかのように示す表示」が有利誤認に該当すると認定されたようですね。確かに広告には、「特約設定レートは…お選びいただけます」との記載が(小さくですが)ありますので、一般消費者に誤解を与えかねないと言えるのだと思います。
Toshi先生のご疑問については、また、愚考を述べさせていただきたいと思います。それにしても、すごいフォローの早さですね…。

投稿: 行方 | 2007年3月29日 (木) 10時06分

この案件、消費者契約法、金融商品販売法のほうとの絡みもありますのでろじゃあも注目しております。
ことに、消費者のサイドから見た場合どの法律によるどのような解決が望ましいかという問題と、業者規制の観点から見た場合行政サイドでどれを用いるかという問題、さらには今回のような競争法上の視点を踏まえつつ、実際には利用者保護の視点がある類型について、公正取引委員会が排除命令という形で対応する場合、これらの他の制度枠組みとの関係をどう考えるべきなのかという問題がございまして・・・三つともかぶってくる場合は論外としても(^^;)、多くの場合は、これらの複数の法的規制枠組みは要件も効果も罰則の枠組みも異なっているわけでございまして。
この辺がどれかひとつの枠組みが外部からだと一見すると「さじ加減」的要因を重視している?ということになるとコンプライアンスも内部統制も「はらほろひれはれ・・・」ということになってしまうかなあというところがあるのではなかろうかと。
まあ、まさかそんなことはないとは思うんですけどねえ・・・。

投稿: ろじゃあ | 2007年3月29日 (木) 10時22分

>行方先生

すいません。あまりお手を煩わさないようにと心がけておりますが、ときどき行方先生の関心分野とかぶってしまうものでして。無理をなさらない範囲で、また貴ブログにヒントでも結構ですので掲載していただけましたら幸いです。金融法務と独禁法に関する論稿はときどき見かけますが、景表法となるとかなりマイナーなためか参考文献は少ないようですね。

>ろじゃあさん

実はその「さじ加減」のようなものを私も感じております。ただ、そのあたりは、もうすこし勉強してみないと、大はずれのコメントをしてしまいそうなんで、私ももう少しフォローしてみます。

投稿: toshi | 2007年3月30日 (金) 01時00分

①独禁法と景表法の関係は、独禁法と下請法の関係と同じく、後者はある”政策的な”(わたくし的に言えば、”パターナリスティックな”)目的を持って定められた特例法(特別法)です(それ故、純然たる競争法とは異なります)。(「不公正な取引方法」の一行為類型である)「欺瞞的顧客誘引」と景表法の関係は、「優越的地位の濫用」と下請法の関係と同様です。景表法が適用されれば、それに加えて独禁法上の欺瞞的顧客誘引が問擬されることはありません。景表法は「一般消費者」向け「景品」「表示」が規制対象になる訳ですが、通常、景品や表示が問題となるのは、一般消費者向けのものですので、いきおい欺瞞的顧客誘引の事例は少なくなります。いずれにせよ、欺瞞的顧客誘引と景表法の関係は明らかかと思います。

②一般論ですが、ある一定の行為・事態が、複数の規制法令に引っ掛かり得る、というのは、(少なくとも企業法務の現場では)よくある話です。例えば、価格設定(プライシング)にあたっては、独禁法、税法のほか、輸出取引であれば、輸出先国の通商法や関税法も関係してきます。そして、これらは、相互に目的とするところ(保護法益?)が異なるため、えてして”あちらを立てれば、こちらが立たず”的事態にもなりがちです。本件のようなケースでは、既に明記された法令以外にも不正競争防止法も一応ケアすることになるのかもしれません。法令のサプライヤーは、そのユーザーのことを全体として見てはくれません。あくまで”自社製品”のみのユーザーとしか見ないのしょう。従って、”法の衝突”(必ずしも常に”衝突”する訳ではありませんが)のような事態がはびこるのでしょう。昨今はやりのコンプライアンスの文脈に即して言えば、我々”ユーザー”は個々の法令およびその集合体にあまり振り回されることなく、それらの背後・根底にある価値をよく見極め、それを社会的要請としてよく咀嚼した上で、企業活動に織り込んでいく必要があります。ちょっと、最近の郷原先生の御本の受売りのようにもなってしまいました、すいません。

投稿: 監査役サポーター | 2007年3月30日 (金) 01時13分

監査役サポーター様
法のサプライヤーとユーザーという発想、大変興味深く拝読いたしました。
法の衝突というよりは、法の集中あるいは法の重畳なんでしょうね。
ただ、民法なんかの場合の重畳的適用如何なんて理屈ではなく、多くの場合は引っかかる(可能性のある)枠組みについては対応せざるを得ないのが辛いところで。
ただ、そこから新規の商品とかサービスが出てくるというのも事実でございまして、特定の業種の御話になってしまうかもしれませんが、営業部隊と法務部が前向きに且つコンプライアンスも踏まえた上で対応できると理想的な業態もございますね。
法務部というかコンプラセクションも業界団体の枠組みだけ守っていればいい状態というのはとうの昔に終わっているというのがろじゃあの認識なのでございますが・・・また途方もない方向に飛びそうですのでこれぐらいにさせていただきます。
また勉強させてくださいませ。

投稿: ろじゃあ | 2007年3月30日 (金) 17時44分

toshiさんへ
↑監査役サポーターさんの次に付けさせてもらったこのコメントつけるときには6桁の数字とアルファベット出てきませんでしたよ?
設定変えられましたか?
・・・ってコメントしようと思ったら6桁の数字とアルファベットが出てきました(^^;)。

投稿: ろじゃあ | 2007年3月30日 (金) 17時48分

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» [メモ]ビジネス法務の部屋で新生銀行関連追加エントリー [調べはいたるところに宿る]
3月26日のエントリーで紹介した「ビジネス法務の部屋」で、新生銀行の景表法違反についての追加エントリーがありました。ほんと早いです。読んでるだけの方が追いつけてないぐらいです。ありがたいですね。 「新生銀行に排除命令(その2)」 ここら辺に関しては、銀行、証... [続きを読む]

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