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2007年3月10日 (土)

ノーリツに対する株主提案権行使

未だ日経新聞等では記事になっていないものの、先日の「いちご旋風」に続き、この3月29日の株主総会に向けて、たいへん注目されるのが、神戸に本社を置くノーリツの少数株主(保有株0,09パーセント)による株主提案権の行使であります(読売新聞ニュースはこちら、またノーリツからリリースされております株主参考資料ついてはこちらです。該当ページは通し番号77ページあたりから)。これまでの配当金額の10倍以上の期末剰余金配当を求める(もしくは、別途積立金を大幅に配当可能となる繰越利益剰余金に振り返ることを要求する)というものであります。

筆頭株主にはスティールパートナーズ(15,3パーセント)、外国人株主が約3割を占める企業であることや、同日の株主総会におきまして、ライツプランによる敵対的買収防衛策の導入を決議にはかるタイミングでの提案であること(つまりは株主価値の最大化をはかる施策を導入する意思が企業側には存在すること)、給湯器死亡事故の公表問題や、製品の回収問題が発生していることなどと、この株主提案権がどういった関係にあるのかは、私自身は不明でありますが、いずれにしましても、株主がこういった配当要求を行い、他の株主が賛同されるのかどうか、非常に注目されるところだと思います。

理屈のうえでは、MM理論(配当無関連命題)によって、(インカムゲインとキャピタルゲインとの割合からみて)配当政策は株価には影響を与えないとされているようですが、現実には株価の向上を招来するわけでして、たとえばノーリツさんのように、安定的なキャッシュフローがあり、使途が明確でない余剰資金を大量に抱え込んでいる企業につきましては、フリーキャッシュフロー問題が深刻でありますので、株価がまったく企業価値を反映していない典型と言われております。したがいまして、長期短期云々というよりも、まず現時点における株主価値の最大化をはかるための施策としましては、他の企業の場合ですと「あまりにも過大」といわれるような大幅な増配(現金によるか、自己株式取得とするか)を敢行することが望ましいのではないでしょうか。おそらく、これは株主の本意だと思われます。しかも、取締役会としては、一方で買収防衛策を導入することとして、一方では株主提案に反対するということでありまして、このあたりの取締役会の行動といったものが、果たして株主と利益相反的にならないのかどうか(そもそも企業価値をますます株価に反映させない方向に検討されているのか)、これもまた非常に興味深い論点であります。(まだ十分に問題点を整理しておりませんので、本日は速報版ということで失礼いたします)

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コメント

先日、あるシンポジウムに参加したのですが、聴衆の中に北越製紙の顧問弁護士として活躍した牛島弁護士がきておられ、モデレーターの中谷氏から急に発言を促されました。牛島弁護士は、北越の取締役に雇われたのだから、取締役を守るためにはあらゆる手立てを講じる、というような発言をされていました。また、従業員は、自分の生活のために北越で働き、取締役はその従業員が昇格してなったものだ、要は会社は株主のためだけのものではなく、従業員・取締役のためのものでもある、というような趣旨のことも併せ述べておられました。弁護士にとっては、経済理論や株主主権論などどうでもよく、雇い主である取締役の利益を守るためだけに働くものだという強い信念の持ち主のように感じられました。善悪の判断を超えた職業意識なので、強い人には違いないのでしょうが、toshiさんの指摘される利益相反もなんのそので乗り越えて行動してしまう危うさがあります。この牛島弁護士の発言に感激して拍手する某会社取締役もいて、大多数の日本企業は、まだまだ会社は従業員のサラリーマン人生のスゴロクの上がりである取締役と従業員のためだけのものという意識を持った人たちで経営されていると強く感じました。ということはですね、アクティビスト系買収ファンドのターゲットになる日本企業がたくさん存在しているということです。
北越製紙の話しに戻れば、王子製紙はこれまた過激で、北越が導入した新鋭設備と全く同じ設備を導入しました。同時稼動を目指し、価格競争を仕掛けて北越を4年で潰す、三菱製紙を2年で潰すと豪語しているようです。北越経営陣の自己保身的な感情で行動したことに対し、王子も感情で行動する、結果として競争会社を倒産に追い込む、市場から駆逐してしまうということで今回の買収合戦の結末をつけるということです。
小僧さんは、その後どうしてらっしゃいますか。

投稿: シロガネーゼ | 2007年3月10日 (土) 07時16分

 山口先生、コメントありがとうございました。
 また、ご講演ありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。
 金融法務研究会には参加して1年くらいになりました。地方にいますと、研修をうける機会もなく、地元では、せいぜい、夏期研修のほか、日弁連の特別研修を中継でうける程度になります。
 私は、現在、損保会社と、銀行からの相談(相談内容は民商法の基本的な知識で対応できるものがほとんどです)が多いですが、民商法の基本的な知識も次第に錆びつつあり、先生から、先端のお話をうかがうことは大変な刺激になります。
 ご講演で外部委託先の内部統制についてもふれられていましたが、外部委託先とは、法律事務所も例外ではないだろうと思いますが、そうだとすれば、統制システムを構築していく必要があるのだろうと思います。ただ、私が生活している地方では、大きな事務所といっても、数名程度のものであり、また、共同経営タイプが多いため、なかなか難しいことかもしれません。

投稿: 田舎弁護士 | 2007年3月10日 (土) 09時13分

>シロガネーゼさん

コメント、どうもありがとうございます。たいへん興味深いお話ですね。大楠さんと牛島先生による北越・王子騒動の際の行動につきましては、日経の新聞報道しか見聞きしておりませんでしたが、代理人(助言者?)としての行動にも様々な意見があるのでしょう。私もぜひお聞きしてみたいです。(紛争解決の方法としての「司法のあり方」くらいしか、私には思いが及ばないところであります)
王子の対応につきましては、もしその計画が成功裡に終わったとしましても、また別のところからの次の制裁が待ち受けているようで、私は賛同しかねますね。
私の裁判経験からしても、いやというほど、そういった事例は見てきましたので。
また、有益なご教示、よろしくお願いいたします。

>田舎弁護士さん
なかなか舌足らずの講演となってしまい、申し訳ありませんでした。
金融検査マニュアルと内部統制との関係につきましては、再度勉強しなおして、実務面での検討もしていきたいと思っております。
外部委託先への内部統制に関する検討は、またこのブログにおきましても、エントリーしていくつもりです。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年3月12日 (月) 03時21分

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