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2007年3月22日 (木)

監査役協会「内部統制監査の実施基準」草案公開(その2)

監査役による内部統制監査の実施基準への感想(その1)におきましては、saraさんや、とーりすがりさんよりご意見をいただきました(どうも、ありがとうございます)私は、saraさんが深読み(?)されておられるほどのことは考えているわけではありませんよ(^^;・・監査役協会さんには普段からお世話になっておりますので、あんまり滅多なことは実名ブログとして書けるものではございませんし・・・・・(^^;;そこのところ、ご理解くださいませ。私が前回のエントリーにて、社外取締役と監査役監査との関係が若干不明瞭ではないか、と考えたところを、すこし敷衍して書かせていただきます。

この監査役協会の監査基準(内部統制監査の実施基準)の冒頭で、会社法上の内部統制システムの整備は「良質な企業統治体制の構築にとって必要不可欠である」(4条1項)と明記されておりますので、内部統制システムの整備はコーポレートガバナンスの議論と密接な関係にある、といった立場を鮮明にされています。J-SOXにおける内部統制報告制度は、ガバナンスの議論と一線を画していること(一般的にはそう理解されております。このあたりは先ごろ発売された「内部統制実施基準を考える」八田、町田教授の冒頭部分でも、話題になっております)とは対象的だと思われます。(このこと自体は、私も同意見であります)ただ、ガバナンスの問題と密接に関わっているとするならば、これまたガバナンスの重要論点である「社外取締役」に対する内部統制への位置づけというものも、どこかで検討されるべきではないのかな・・・と単純に考えた次第です。もし、そのことを7条3項(代表取締役の意思決定過程に関する内部統制整備への監査)で表現されているのであれば、すこし不明瞭ではないか、と。

といいますのも、このあたりは、以前から個人的にも非常に興味を抱いていたところでありました。監査役の立場からみて、社外取締役さんをどう位置づけたらいいのだろうか、と。この監査役による内部統制監査実施基準は解説のところで「おもに大会社であり、上場会社を念頭に置いている」ものとされております。つい先日(3月19日)の東証の上場制度整備懇談会の7項目の提言のなかにも、東証が模範となるべき企業統治のあり方を公表すべき、とありました。その中間報告には「親会社となんらの関係のない社外役員の導入」が明記されております。(こちらのフジサンケイビジネスアイの記事をご参照ください)そうしますと、今回の内部統制監査に関する実施基準のなかでも、この社外取締役さんに対峙する監査役の立ち位置のようなものをどう考えるべきなのか、素直に関心を抱くところであります。たしかに、とーりすがりさんのご指摘されているとおり、この監査役監査実施基準の6条2項におきましても、監査役が内部統制の整備状況を把握するためには、代表取締役および業務執行監査役からの事情聴取によるべし、とされておりますので、業務監査の範疇では、そもそも監査役と社外監査役の接点はあまり問題視するほどのことはない、と考えるべきかもしれません。

しかしながら、この内部統制監査実施基準では、「統制環境こそ、監査役として最も重要な監査対象」と明記されております。(4条2項)社外取締役による業務執行全般に対する意思決定への関わり方(たとえば社外取締役の意見形成に必要不可欠な情報の伝達方法が確立されているか、社外取締役の意見が取締役会、執行役員会議等において反映される仕組みが運用されているか)といったあたりは、ガバナンスと密接に関わる内部統制システムの整備事項として不可欠ではないか、と私は考えておりますし、このあたりの視点は「統制環境」を着眼点とするならば、内部統制監査としては見逃してはならないところだと認識しておりますが、いかがなものでしょうか?もちろん、このたびの実施基準が、そもそも取締役会が決定した内部統制システムの整備の「相当性」を判断するわけでありますし、当該企業が決定した内容に「社外取締役制度導入予定」がなんら記載されていないのであれば、そこまで監査役実施基準で一般化しなくてもよい、との考え方もあるかとは思いますが、すでに多くの企業で「社外取締役」の方々が就任されているのが現実ですし、この実施基準も上場企業の監査役監査指針(しかも内部統制整備に関する評価)を念頭に置かれているわけでありますから、もうそろそろ「社外取締役と監査役監査」の関係についても一般的な指針を設けてもいい時期に来ているのではないでしょうか。会社法上の内部統制システム整備の目的を考えた場合、そこには「経営の効率化」「法令順守」「企業のリスク管理体制の整備」など、いろいろと揚げることができますので、たとえ社外取締役への期待というものが「経営者への助言」「株主への説明義務の徹底」「株主の代弁者」といったように分かれている現状におきましても、それぞれの企業が導入したい目的に合わせて内部統制システム整備の一貫として社外取締役を位置づけることはできるものと考えております。(すいません・・・・、今回も財務報告内部統制のお話まで言及する余裕がなくなってしまいました。。。)

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コメント

ようやく先生の問題意識が分かったように思います。
理解遅くてすみません。

これは多分に沿革的な問題を孕んでいると思います。
我が国の監査役制度は欧米には無いものですから(ドイツにおけるそれとも決定的に異なる)、
・監査役と業務執行に携わらないいわゆる「平取締役」との関係(ないし役割分担)はどうなるのか。
・すなわち「監査」と「監督」はどう違うのか。
・そもそも機能的に分ける必要があるのか。
などが問題となってくるんだろうと思います。

ですから、先生が「「社外取締役と監査役監査」の関係についても一般的な指針を設けてもいい」と言われるとおり、米国の内部統制を我が国に持ち込む際にはその点を考える必要が確かにあると思います。新たな理論を構築すべきなのかもしれません。

ただ、前のコメントでも触れましたが、社外取締役も監査役も基本的には「見る人」なんですよね。
先生の言われる「取締役会への情報伝達」なんてのは本来業務執行サイドが確保すべきものであって、社外取締役としてはそれがきちんと機能しているかどうかチェックするに止まるわけです。
とするとやっぱり「監査役って必要なんだろうか?」という疑問はぬぐえません。
まあ監査役については「常勤・実査・独任制」という特色がありますので、ガバナンスに組み込んでおくメリットはなおあるのかもしれません。

まとまりなくてすみません。

投稿: とーりすがり | 2007年3月22日 (木) 11時53分

とーりすがりさんの書かれた”「監査役って必要なんだろうか?」という疑問”を読んで、常に持ち続ける必要がある課題なのだろうなと思いました。

取締役会、監査役会設置会社で社外取締役会が選任されている場合、監査役の仕事は何になるのか?

適切な例ではないでしょうが、大手ゼネコンの地下鉄談合の様な場合において、監査役が会社が談合に参加している可能性を疑った場合、何ができるのかと思います。即ち、監査役であるから会計面のみの監査が業務ではない。一方、取締役会でないので業務執行を行わないことから、無責任発言・行為と非難を受けるかも知れない。おそらくは、このような事態を告発しても株主にも歓迎をされないし、黙っておく方が賢明だという風な考えになられるであろうと思うのです。そして、これを非難するのも適切でない気がします。

社外取締役が存在し、会計監査人も存在する場合は、監査役はいなくても良いような気がするのですが。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年3月22日 (木) 14時25分

>とーりすがりさん

いつもご教示ありがとうございます。
以前、社外取締役ネットワークのシンポジウムにおきまして、社外取締役に期待する経営者のホンネ、といったところをテーマにしたところ、「経営者の指南役」というのが圧倒的に多く、そのつぎが「専門家などを招いて、株主へ経営内容を説明するサポーターになってもらう」、そしてもっとも少なかったのが「株主の代弁者になってもらう」といったところでありました。これが現実の姿なのでしょう。まだまだ社外取締役の「地位」というものがガバナンス論のなかで確立していないことから、監査役の立場からもきちっとした指針を出せないのではないでしょうか。こういった場合、証券取引所や取引業協会、証券会社の引受審査基準あたりにおいて、外からの導入規制のようなものでもないかぎりは監督を期待できる社外役員というものも遠い将来のことになってしまうのかな・・・と感じたりもしております。(もちろん、そこまでガバナンスを強制することが果たしていいのかどうか、という議論はまた別にあると思いますが)

>経営コンサルタントさん

いつもありがとうございます。
そういえば、このたびのライブドア事件でもそうですよね。あのような経営陣のなかで、監査役は何ができるのだろうと思います。そういった議論を重ねる努力を怠らないようにしないと、経営コンサルタントさんのご指摘のように、「社外取締役がいれば監査役はいらないの?」といった疑問を抱く人が増えてしまいますよね。(社外取締役と社外監査役との横のつながり・・・みたいなものは、実例としては知っておりますが)
私一人の疑問ではないことがよくわかりましたし、今後もこの社外取締役と監査役の関係について、いろいろと検討していこうかと思います。

投稿: toshi | 2007年3月22日 (木) 22時56分

こんばんは。

私はここ数年間、色々と立場を変えつつも、監査役まわりの仕事に携わっておりますので、心情的に監査役にシンパシーを感じております。従って、そういったある種のバイアスの掛かった意見になりますことを、まずはお断りしておきます。

私は、逆に、監査役設置会社における社外取締役の存在意義こそ疑問なのです。会社法下においては、要件を充足すれば自動的に「社外取締役」になるのではなく、会社にその意向がある場合のみ「社外取締役」になる訳です。ならば、その必要性、存在意義、役割を、(社外)監査役との対比において明確に示す必要があると思うのですが、不幸にしてそういう例を目にしたことがありません。

これを前提に、この問題に関する論点(というか私の勝手な問題意識)を以下ランダムに記します。

①(非常勤の社外取締役と社外監査役という対比ではなく)常勤監査役の存在意義、役割をどう捉えるか、という問題です。社外取締役は、現実にはまず100%非常勤のはずです(リクツ上は常勤もあり得ますが)。これについては、少ないながらも、常勤監査役(社内監査役であることが多い)が活躍した著名な事例が存在します(古くはJALの為替予約問題、最近では西武鉄道の株主名義偽装問題)ので、そのケーススタディ(後者については、監査役協会が一部実施済みのようです)をしてみることによって何らかヒントが得られるのではないか、と思います。同じことを社外取締役が成し得たか、といった視点で見ると面白いのでは、と思います。

②会社法施行規則で、事業報告における「社外役員」に関する記載事項として、「当該事業年度において当該会社において”不祥事”があった場合、その予防・再発防止のために何をしたか」というのがあります。猶予規定もあり、事例は殆どないのですが、殆ど唯一の事例として「フォー・ユー」という会社の事例があります(資料版商事法務でも紹介しています)。この会社は、社外取締役のいる監査役(会)設置会社なのですが、不思議なことに、社外取締役についてのみ記載し、社外監査役については何ら記載していません。施行規則上の要件として、社外取締役は「不当な業務執行」、社外監査役は「不正な業務執行」という違いがありますが、開示されている不祥事は明らかに「不正」なものです。この会社が、なぜ社外取締役についてのみ記載したのか、色々と推測することができるのですが、少なくとも社外取締役と社外監査役とでそれなりに明確な役割(あるいは会社の期待)の違いが意識されていると思われます。この事例の分析も一つのヒントになると思います。

③社外取締役のいる監査役(会)設置会社で結構多いのが、”擬似委員会設置会社”的な機関構成を構築するパターンです。すなわち、”執行役員”を置いて取締役会をスリム化するとともに、”報酬委員会””指名委員会”的な機関を設置し、そこに社外取締役を”1名”以上入れる、というパターンです(さすがに、”監査委員会”的な機関を設置する会社はないようです)。こういう会社については、社外取締役の役割、存在意義はそれなりに明確なような気がします。が、ならば何故端的に委員会設置会社に転換しないのか、という疑問は相変わらず残ります。

④拘束時間と役員報酬の問題もあります。社外取締役は取締役会だけ出席すればよいのに対し、社外監査役は監査役会も出席しなければなりません。各々の開催頻度は各社様々でしょうが、大雑把にいって拘束時間は1.5倍から2倍の開きがあると思います。これと報酬との兼合いを考えると、また色々な見方ができるでしょう。更には、監査役は、ストックオプションは馴染まない、賞与も馴染まない、という考え方をすれば、問題は更に複雑になります。

結局、監査役の存在意義を”処遇ポスト”的にしか理解しない人・会社にとっては、「監査役不要(扶養?)論」が説得力を持って受け止められるような気がします。

投稿: 監査役サポーター | 2007年3月22日 (木) 23時42分

>監査役サポーターさん

本シリーズにいつ参加していただけるのかと、ひそかに期待しておりましたが、やはり内容の濃いエントリーをいただき、感謝いたします。
②の事例については、存じ上げませんでしたのが、たいへん面白い事案ですね。すぐに・・・というわけにはまいりませんが、記憶にとどめておき、ぜひ監査役サポーターさんのご指摘された視点から検討してみたいと思います。最近の監査役制度のあり方からみて、単に「不当」と「不正」で区別できるほど、この監査役と社外取締役の関係は単純ではないと考えております。監査監督機能はガバナンスの要でもありますし、まだまだこの「監査役による内部統制監査実施基準案」への感想シリーズは続きますので、よろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年3月23日 (金) 23時18分

「社外」取締役と監査役ですが、もちろん監査役を残すという選択肢も十分あるかとは思います。

そもそも会社法の社外取締役は比較法的に見ても極めて不十分な制度になっています。欧米では単なる「社外性」では無く「独立性」を要求しています(NYSEの規則303Aなど)。

ただし、監査役制度も、その監査権限が適法性監査に止まることと、業務執行者の任免権を持っていないことという2つの欠点を持っています。

ですので立法論としては、社外取締役制度を改善したうえでこれに一本化させるか、もしくは現行の監査役制度をドイツにおけるそれと同様の制度にするかといった選択が考えられると思います。

もちろん両者を併存させるというのもあり得ますが、その場合の両者の権限関係などはやはり整理が必要なのでしょうね。

投稿: とーりすがり | 2007年3月27日 (火) 14時29分

商事法務の最新号(1796号)に大杉先生が「監査役制度改造論」を発表されてますね。
まだちゃんと読んだわけではありませんし、私などが言うことでもないでしょうが、立法論として至極妥当な方向性を示されていると思います。

投稿: とーりすがり | 2007年4月 7日 (土) 10時19分

>とーりすがりさん

ご教示どうもありがとうございます。
実は、大杉先生の「監査役制度改造論」は、すでに昨日拝読させていただき、本日午前の研究会でも話題になっておりました。(ちなみに研究会といいますのは、私的な研究会でございまして、神戸大学におきまして、京大(コロンビア大学)の曳野孝先生を講師としてお招きしている「企業統治+経営戦略=業績・収益性」なるゼミです。)いや、実におもしろいゼミです。大杉先生のこの「すごい論稿」については、僭越ながらご紹介させていただこうかと思っておりました。
なお、まだ午後からは大阪に戻ってまいりまして、定例の「社外取締役ネットワーク関西地区勉強会」がありますので、またそこでも話題になるかもしれません。
出先からですので、また夜にでも、エントリーさせていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年4月 7日 (土) 14時12分

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