« 新生銀行に排除命令(景表法違反) | トップページ | 架空循環取引と内部統制の効用 »

2007年3月26日 (月)

加ト吉社のリスクマネジメント

3月23日の加ト吉による特損リリース、そして24日の読売新聞の疑惑報道を中心にして、架空循環取引への関与が報道されておりました東証一部上場の加ト吉社でありますが、ついに役員関与に関する報道がなされるに至っております。(読売関西版はこちら

25日の常務の会見と社長インタビューとの発言内容のズレや、いくつかのブログで指摘されておりましたように、こういった循環取引につきましては、およそ全決裁に関与できる立場(つまり役員クラス)の方でないと(永年にわたる)隠蔽は困難と思われますので、(まだ滅多なことは申し上げられませんが)経営幹部の方の関与の疑いがあってもおかしくないはずであります。みずほ銀行(といいますか、みずほ銀行関連のSPC)が40億円の与信枠を中堅商社に付与していたわけでありますから、この中堅商社と加ト吉社との年間取引が200億円(中堅商社の加ト吉社への売掛債権をSPCが40億円の範囲で買取り、あとでSPCが加ト吉と現金決済)を超えていた、との証言のほうが正しいように思えますし(そもそも大手都銀が基礎となる契約書を精査していない、といったことは考えられないでしょうし)、「せいぜい年間十数億円と理解している」(経営幹部)ということであれば、おそらくSPCへのこれまでの現金決裁との整合性はどう考えてもでてこないと思われます。信用ある上場企業の「架空循環取引」における立ち位置の問題、一般投資家への情報開示のあり方、監査法人の指摘と企業の対応、外部調査委員会の報告内容などなど、今後の加ト吉社の対応につきましては、上場企業のリスクマネジメントのあり方として注目されるところであります。

そういえば、ちょうど1年ほど前に、NECE(NECエンジニアリング社)の社員が架空循環取引に関与した事例がありましたが、そこに今後同様の不正が社内で発生しないよう、4つの内部統制システム構築に関する社内決議がリリースされておりました。おそらく一般社員による循環取引関与は、そういった内部統制システムの整備によってリスクを低減することが可能だと思われますが、発注、納品、在庫管理、受注、請求と、一連のIT統制があたりまえの時代になりましても、(どんなに相互牽制作用を効かせても、それぞれの手続の適正性は確保されるかもしれませんが、一連の手続すべての評価はできませんので)一連の手続全般が見渡せる立場にある役員による内部統制の無視については内部統制の整備は無力のような気がいたします。(なお、循環取引と集合債権譲渡担保等SPCの利用との関係につきましては、TBいただいております ろじゃあさん のブログが詳しいです)

|

« 新生銀行に排除命令(景表法違反) | トップページ | 架空循環取引と内部統制の効用 »

コメント

toshiさんへ
こんにちは。
加ト吉案件については、アイエックスアイ関係のエントリーにTBさせていただきましたが、この件、売掛債権のSPCへの売却が仮に問題となりますと・・・ややこしい話が出てくるかもしれません。
循環取引と売掛債権の証券化・集合債権譲渡担保の件はちょっと前にエントリーにも書いたのですが(TBさせていただきました)、こうなると一気に一般論として同様(類似)の取引について、当事者間の利害と既存の案件での精査と検証が必要になってくる可能性もあるわけですからねえ。
ろじゃあも引き続きモニターしていくつもりでございます。

投稿: ろじゃあ | 2007年3月26日 (月) 15時50分

私はおそらく(ホントに推測ですが)、集合債権譲渡担保と循環取引とはかなり密接な関係があると考えております。合計30社にも及ぶ循環取引関連企業が永年にわたってその取引を継続させるにあたっては、こういった与信の存在は不可欠ではないかと。(以前はカネボウ粉飾事件のように、商社さんが関与されていたケースが多いと思うのですが)こういった問題でややこしいのは、ろじゃあさんが以前問題にされていたように、架空循環取引と名義貸し(信用貸し)取引の境界が明確ではないと思われるところです。もちろん個々の取引を洗っていけばわかると思いますが、おそらく混在しているのではないか・・・と思います。架空循環取引(宇宙遊泳)の典型例ではないでしょうか。
誰かがひとりで得をしているのではなく、みんなで少しずつ得をするといったイメージがあるのですが。
また、ろじゃあさんのブログも参考にさせていただきます。

投稿: toshi | 2007年3月26日 (月) 16時24分

toshiさんへ
宇宙遊泳・・・う~ん、まさに・・・って感じなんですかねえ。
今回の案件については、昭和の香りがする部分とそうでない部分があるのですね。
前者はどうやら一部の報道にあったように手形払いの部分が含まれているらしいこと。
そうでない部分は・・・売掛債権がいろいろと活用され得るというところと関係あるのかないのか。
メディアリンクス事件、アイエックスアイの案件、そして今回の案件・・・売掛債権と取引実態の乖離の可能性について法務担当にいろいろな可能性を想起させるわけですが、このような一連の事態が、企業取引と信用取引の枠組み(金融機関の今後の反応が気になります)やら内部統制体制とコンプライアンスシステムの信用性・有用性如何にボディブローのように効いて来るように思えてなりません。
またエントリーで取り上げさせてもらいます。
取り急ぎ

投稿: ろじゃあ | 2007年3月26日 (月) 19時20分

内部統制構築担当者としては、
内部統制の限界を超えるような問題が発覚すると、
自分たちのやっていることに疑問を感じるようになってしまいます。

とりあえず、
内部統制に限界はあるが有効な内部統制は限界を超えづらくする。
ということを信じて構築を進めるしかないのでしょうか?

なんてことを考えてしまいます。

投稿: saikawa | 2007年3月27日 (火) 07時36分

saikawaさん、はじめまして。
コメントありがとうございました。
そちらのブログも今後参考にさせていただこうかと思います。
この「内部統制限界論」、もう少し整理して議論してみたいと思っておりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年3月28日 (水) 02時22分

 かなり横気味の疑問なのですが。
 循環取引は、通常、物流が伴わない取引である、と理解しています。通常の卸売業や製造業ですと、物の流れとお金の流れが一致するのが原則だと思います。なので、内部統制上は「出荷実績がない取引は売上計上を行わない」とルール化し、物流部門からの出荷データと経理部門の売上データの整合性を確保することが求められるのではないでしょうか?例えば、内部統制として
 (1)通常のデータエントリでは、物の流れとお金の流れが一致しない取引を行えなくする(例えば、経理部門が売上を計上するための原始証憑は、物流部門の出荷実績表とする。ITを利用している場合は、出荷実績データを売上データと自動的に連携させる。等)
 (2-1)例外的にマニュアルで物流無き売上を入力する場合は、その理由を明確にし、依頼部門(通常は営業部門?)上長の承認を必要とする。
 (2-2)物流無き売上に関連する債権については、経理で個別に回収管理を行い、通常の回収期間で回収できなかった場合には、依頼部門に問合せを行う。
 (3)特に循環取引だけへの対応ではありませんが、与信限度額の設定を行う、売掛金回収状況管理を行う、あたりを行うのは必要でしょうし、
 (4)仕入単価はマスター設定し、マスター上の単価以外で仕入入力ができない。マスター上の単価と一定以上乖離した仕入単価が入力されたら、購買部門で個別に理由確認を行う
なんてものが考えられます。

 まぁ、以上のような牽制を入れても、物流が伴ってしまうと判らないですし、そもそも「目に見えるもの」がやり取りされない(例えばソフトウェア)ことが普通の場合には、役に立ちませんが。当然部門をまたいでの共謀には無力です。
 と言いつつも、単純な循環取引は内部統制でそれなりに防止できるのではないのか?と思いました。
 当エントリーが、もっと複雑で簡単には発見できないような取引を想定されているのであれば、お目汚しすいませんでした。

投稿: Mulligan | 2007年3月29日 (木) 23時34分

A会社(製造業でも販売業でも)が、商品をB社から購入して直接C社に納入し、A社の倉庫・工場を経由しない取引は、どんな業態でも一定の割合で存在するでしょう。
その場合の購買側の検収と販売側の出荷の検証は、B社からの納品書とC社から受取書などで行うのが普通です。

業務統合パッケージ(ERP)などでは、物流がないときに売上計上はできませんが、検収と出荷を起票する際には納品書・受領書を根拠証憑にすることが通常だと思われます。

財務報告に係る内部統制は、会計伝票と根拠証憑の照合を基本としており、根拠証憑が事実と一致しているかは検証しません。(日々の取引現場に立ち会わない限りできませんし、費用と手間の両面でそれをする会社は少ないと思われます。)

経営者又は役職者が主導するような循環取引に、会計に関する内部統制は全く無効だと思います。
(本質的に誤謬しか防止できない制度を、あたかも不正が防止できるかのように問題をすり替えています。)

投稿: 悪いけど | 2007年3月30日 (金) 08時04分

 "わるいけど"さんが想定されている取引が一定の割合で存在することは確かと思います。
 その場合、物流なき仕入売上として、別途管理するのではないでしょうか?例えば、私の前コメントの(2-1)の段階で通常納品と違い「入荷なき納品書」「出荷なき受領書」が存在した場合、納品書・受領書が物流部門で処理されることが前提ならば、物流部門でチェックが入るでしょうし、納品書・受領書が営業部門から経理に廻ってきたら経理部門でチェックが入るでしょう(部門間の内部牽制)。
 単純に「納品書があるから仕入計上」「受領書があるから売上計上」と処理するのではなく、納品書・受領書の流れによって、物流なき仕入・売上を抽出することは可能かと思います。実務上も、物流なき仕入・販売は、別途管理されている場合が多いかと思います。
 で、「物流なき仕入・売上」が抽出できることを前提とし、そのような取引については「仕入・売上同時計上」をルール化すれば良いのではないかと思います。「仕入・売上同時計上」が出来るのならば、リスクは限定されると思います。(例えば、「仕入・売上同時計上」の場合に、利益率チェック・入金支払条件のチェックを行う等)

 営業担当役員が「悪いけどこの納品書処理して」なんてことを物流部門・経理部門に言ってきたら、物流・経理担当者は「内部統制上そのような納品書は処理できない」と突っぱねることが求められるのではないでしょうか?現場では「仕方がないなぁ」と処理してしまうのでしょうか?もし、「仕方がないなぁ」がまかり通るのならば、それこそ企業文化の問題かもしれません。そのような企業もあるかもしれませんが、それこそ例外であって欲しいと思います。

投稿: Mulligan | 2007年3月30日 (金) 10時36分

会計プロフェッションらしく、あらゆる問題を議論するときに話題をそらしていく卓越した手法を、Mulligan様の投稿に見ることができます。

納品書・受領書記載のとおり物品が流れていないことを、第三者が検証することはほとんどできないと述べています。
それに対して、物流部門や経理部門が物品が実際にチェックできること(どうするかは述べていない)を前提とし、しかも利益率とか入金条件で再検証すると述べておられます。

おそらく、財務報告に係る内部統制の実施により、公認会計士の理論や手法が幅広く社会に知られます。内部統制地獄になりそうですね。
会計専門職大学院の大幅定員割れや若年・中年層会計士の会計監査離れに、将来の兆候が如実に現れています。

投稿: 悪いけど | 2007年3月30日 (金) 11時32分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 加ト吉社のリスクマネジメント:

» 循環取引と他のファイナンス当事者・・・アイエックスアイ(IXI)社の件を契機に [法務の国のろじゃあ]
ここのところアイエックスアイ社の民事再生の申立てを契機にろじゃあは継続的に、関係 [続きを読む]

受信: 2007年3月26日 (月) 15時56分

» 循環取引?・・・加ト吉さん?ソフトではなく物流になるとかつての「つけ売買」を復習しないといけないなあ [法務の国のろじゃあ]
このエントリーは公開時刻自動設定機能によりエントリしてます。 一部報道で、ここん [続きを読む]

受信: 2007年3月26日 (月) 15時57分

« 新生銀行に排除命令(景表法違反) | トップページ | 架空循環取引と内部統制の効用 »