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2007年4月28日 (土)

TBS買収と企業価値判断について(2)

GW初日、大阪はたいへん良いお天気ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。アクセス数もきょうは激減しているところから拝察いたしますと、皆様ご家族で旅行、ハイキング、お買物と、連休を楽しんでいらっしゃることと存じます。(こういった時期にこそ、思いっきりハズしてもいいような話題を取り上げようかと思います(^^;;)さて、楽天によるTBS株式の大量買付事前手続から始まった買収交渉も、昨日(27日)TBS側が質問状送付、特別委員会(企業価値評価特別委員会)招集ということで、本格化してきた模様であります。日経新聞では「両社の攻防は日本企業に広がる買収防衛策のあり方を問うものである」と解説されておりますが、私もまったく同感でありまして、法廷闘争、委任状争奪その他、どのような方向に動いたとしましても、「事前警告型の防衛ルール」の有用性が試される大きなターニングポイントになることが予想されます。私のブログでは「TBSは楽天を濫用的買収者とみなすのか」シリーズで、この問題を何度か取り上げておりますが、1年半以上も前に「TBS買収と企業価値判断について」と題するエントリー(かなり恥ずかしい内容ですが・・・)も残しておりますので、その続編として今後のTBSと楽天の防衛策を巡る攻防への私なりの視点を述べさせていただきます。これは、私が今年2月に改訂されましたTBSの買収防衛ルールに関する読後感想文のようなものと受け止めてください。

 「楽天が濫用的買収者かどうか」は誰が判断するのか?

まずなんといいましても、TBS側としましては、楽天を「濫用的買収者である」といった認定に持っていきたいところであります。(もちろん株主価値の最大化のための防衛ルールでありますから、そんなことは一切口には出せませんが)これに該当すれば、株主総会に諮ることなく、防衛策が発動できるわけでありますから、楽天としましては司法判断を仰ぐしか方法がなくなってしまうわけですね。TBS側としては、ここに持ち込むインセンティブは働くわけでありますから、その認定には大きな関心が寄せられるところであります。ところで一般的なイメージからしますと、「濫用的買収者に該当するかどうか」といった判断権は、著名な委員の方々で構成される「企業価値評価特別委員会」にあるような気もします。でも、TBSの買収防衛ルールを読みますと、大量買付希望者が濫用的買収者に該当するかどうかは、「手続違背」の問題とされております。つまり事前に決められたルールを無視した人が「濫用的買収者」とされるわけでして、ルールを無視した人が出れば特別委員会は防衛策発動を勧告する、ということになっております。しかし、そもそも敵対的な買収において、取締役会レベルで防衛ルールを導入することが「合理的」とされるのは、ライブドア・ニッポン放送事件の際の高裁判断が基準となっているはずでありまして、当然のことながら「濫用的買収者かどうか」はその買付希望者の実体に関する判断によるものであります。したがいまして、手続違反を根拠に「濫用的買収者」であると決め付けるには、単なる「手続違反」の事実だけでは足りず、その手続違反の事実が、実態的にも濫用的買収者であることを推認させるだけのものでなければ「合理的なルール」とはいえないはずであります。したがいまして、たとえば楽天側に手続違反の事実が認められるとしましても、その後になんらかの実体的に濫用的買収者でないことに関する反論の機会を付与しなければ、特別委員会、TBSの取締役会の「発動を是とする行動」には疑問符がつくのではないでしょうか。ただし、そういった反論の機会が付与されましても、誰が濫用的買収者かどうか、に関する判断権を付与されているのか不明でありますので、どういった手続の流れになるのかは、ちょっとよくわからないところがあります。そもそも、このTBSの買収防衛ルールが、特別委員会に濫用的買収者かどうか、に関する「手続違背かどうか」以外に実質的な判断権を付与していないところに問題があるのではないかと思います。この買収防衛ルールにおきまして、手続違反の際に特別委員会の勧告が「全員一致」を要求しているのかどうか、まったく触れられていないのは、こういった手続違反については実質審理の必要性がないと考えれおられるところにあるのではないでしょうか。(なお、特別委員会が早い段階から、いろいろな資料を買付希望者に要求できるのは、特別委員会が実質的な判断をするからではなくて、発動を勧告しない結論に達したときに、すぐに現経営陣に代替案を用意する機会を付与するためであります)

もうひとつ、手続違反から「濫用的買収者」と認定するところで問題になりそうなポイントがあります。どういったことかと申しますと、本当は楽天の実体を判断しているのだけれども、それを「手続違反」と判断する可能性であります。手続審査と実体審査という区分は、そんなに明確なものではないと思われます。たとえば「これこれの判断に必要な資料とともに、貴社の見解を述べよ」といった質問に対して、楽天側が必要十分と判断した資料と意見を述べたとします。それに対してTBS側が「貴社は必要十分と思われる資料も提出していないし、こちらが答えてほしいことに十分答えていない」と判断した場合、これは、「質問に回答する」ということを形式的に捉えれば手続違反とは考えられませんが、「質問の趣旨に合致した回答をする」ことを手続と捉えれば手続違反であり「濫用的買収者」と認定しても差し支えないこととなります。こういった問題が、私の「屁理屈」でありましたら、特別委員会でもなんら問題は発生しないと思われますが、こんな屁理屈でも理解を示される方がひとりでもいらっしゃいますと、また新たな問題が発生いたします(つまり、特別委員会は防衛策発動勧告については、全員一致によるのか、そうでないのか明らかにされておりません)このように考えますと、特別委員会は実質的には濫用的買収者かどうかを実体的に判断する権限を持っているようにも思えますが、高裁判断基準が、司法の場で立証するにあたってはあまりにも厳格なために、これを手続違反の問題にすりかえているのではないか、つまり立証の負担を転嫁させようとしているのではないか、と考えられます。

このように、楽天を濫用的買収者と認定するにあたっては、諸問題が発生する可能性があるために、私見としましては、本件では「濫用」認定は回避され、特別委員会の正式評価手続のなかで検討される、つまり法廷闘争には至らず、株主総会による発動の是非承認手続もしくはそのまま不発動(楽天の買付容認)に至ると予想しております。(ところで、昨日TBSは、3件の番組で過剰演出や不適切な編集があったことで総務省より厳重注意を受けていますね。楽天側としては、この厳重注意を受けて、TBSは今後どのような内部管理体制をとる予定なのか、統合を進めるうえで逆に説明を求める必要がありますよね。また、視聴率とCSR経営、株主の利益とステークホルダーである視聴者の利益をどう考えているのか、具体的なTBSの見解も陳述していただくことも、当然TBS経営者の説明義務の範疇にあると思われますが、いかがでしょうか)

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2007年4月26日 (木)

内部統制の限界論と開示統制(3)

タイトルは異なりますが、昨日のエントリーに関連した話題であります。加ト吉社の6年間にわたる約1000億円に上る架空循環取引による売上計上(外部の調査委員会報告書要旨による情報)には、32社程度の企業が関与していたようでありますが、本日午後、読売新聞ニュース東京新聞ニュースによって、名古屋証券取引所市場1部に上場している鉄鋼商社(O社)が関与しているとの報道がなされました。(このO社の株価は、このニュースの後、かなり下落しております)報道内容によりますと、加ト吉社の東京支社と、別の冷凍食品販売会社、そしてこのO社との間で、同一在庫商品が循環していたようであります。東京支社が関与する循環取引疑惑の取引額は240億円程度に上るとみられておりますので、いくつかの大手企業が関与していなければ、これほどの与信枠まで膨らむことはないと思われます。(現在、加ト吉社の架空循環取引につきましては、元常務の方がほぼ単独で進めておられたような報道がなされておりますし、そういった流れの外部調査委員会報告の内容のようでありますが、よく考えてみますと、東京支社だけでも5,6年の間におそらく異常な売上が認められたでしょうし、また全社的にみましても、異常な売上が限定的な取引のなかで発生していたことは取締役のなかでも気づいておられた方はいらっしゃったのではないか、という疑念はぬぐいきれません)

さて、こういった報道がなされた場合、現にO社の株価が大きく揺れているわけでありまして、一般投資家、株主にとりましては重要事実に関する報道がなされたわけでありますから、即時O社からの情報開示を(投資家としては)求めたいところでありますし、通常は「一部報道機関による報道内容について」と題する適時開示がなされるはずであります。ところが、現在(4月26日午前2時)に至るも、このO社からは自社HPにも、また適時開示情報HPにも、25日の報道内容が真実なのか、事実無根なのか、それとも内部調査中なのか、外部第三者に調査委託をしているのか、なんらの情報開示もなされていない模様であります。有価証券報告書の計算書類の真実性に影響を与える事実が問題となるだけに、ここでは実体面についての推測は控えさせていただきますが、この適時開示に関する上場企業としての姿勢については疑問を感じます。以前、スティールパートナーズに株を買い進められた明星食品社につきましても、どういった対応をとるのか公表をされず、「沈黙作戦」をとられたように報道されておりましたが、あの場合は熟慮期間として黙することもひとつの戦略とみられるところもあったかと思います。しかしながら、今回の場合には、おそらく名古屋証券取引所のほうからは、なんらかの会社の対応に関する開示を要求されているのではないでしょうか。

昨年10月ころにアップいたしました内部統制の限界論と開示統制といったエントリーをお読みいただきますと、私の意見も大方ご理解いただけるかとは思いますが、金融商品取引法の施行により、有価証券の流通面における企業情報開示制度については、大きく「内部統制報告制度」「四半期報告の法定化」「経営者確認書制度の義務化」に分けることができます。そして、内部統制報告制度だけでなく、この四半期報告制度、確認書制度の義務化につきましても、けっこう上場企業にとっては重要な制度変更であります。短期に報告書を提出しなければならず、その報告書には経営者やCFOの確認書も添付しなければならないわけでして、その確認手続きの適正性が企業内部においてシステムとして整備されなければならないわけであります。アメリカのSOX法でもそうでありますが(SOX法302条と404条の関係)、一般には内部統制と開示統制とは別個の手続きであると理解されておりまして、SEC規則をもとに考えますと、企業グループ全体からの重要情報収集手続きと企業情報開示手続きといったふたつの局面で適切性、網羅性、適時性が要求されます。たとえばこの鉄鋼商社であるO社におきましても、年間売上高6000億円のうちの250億円という売上比率が、どの程度まで重要性があるかは不明でありますし、どんなに財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムを整備運用していたとしましても、経営陣にとりましては事実を把握することが困難であったのかもしれません。つまり、内部統制の限界事例に含まれる事例だったのかもしれません。しかしながら、今回のような有事におきまして、できるだけ速やかに事実調査を行い、調査内容の真偽を判断し、公表すべき事実を確定する作業工程といったものは普段からマニュアル化、規則化しておくことは可能であると思います。こういった開示統制手続きがきちんと出来上がっている場合には、内部統制システムの整備状況も良好であろうと推測されますが、逆に適時開示が適切になされていない場合には、経営陣の内部統制システムの構築姿勢の評価にも悪影響を及ぼすものと推測されてしまいます。(こういった開示統制システムというものは、これまでも監査法人さん方も、それほど本格的に企業へコンサルティングされてきたことはなかったのではないでしょうか。むしろ、こういった統制システムの重要性を議論することで、会計不祥事が発生した場合の監査人自身への責任追及は軽減されるのではないかと思うのですが。)

もちろん、これまでも各証券取引所の規則によって四半期開示や確認書制度というものも存在していたわけでありますが、法定化され、義務付けられるとなりますと、もし適時開示に関する不適切な行為が認められた場合には、違法状態が存在することとなってしまいますし、取締役の法的責任論にも発展するのではなかろうか・・・という懸念を私は抱いております。(内部統制の議論と比較いたしますと、会計専門家の方による監査の対象外ですし、法的な争点にしやすい・・・といったほうが適切かもしれません)そこで、金融商品取引法の本格施行を前にしまして、最近話題になっている財務報告の信頼性に係る内部統制報告制度と同等程度に、この開示統制制度についても一定の注意を払っておかれたほうがよろしいのではないでしょうか。とりあえず、このO社が循環取引にどのように関与していたのか、その実体面につきましては、また明日以降の報道を注視しておきたいと思っております。

(26日午前9時40分追記)日経ニュースに今後のO社の対応について掲載されております。

(27日午前2時追記)コメント欄にも書かせていただきましたが、26日夕方にO社より開示情報として、加ト吉社との循環取引に関する中間報告が出されております。実は、物商分離というのは、冷凍食品業界における取引慣行としてはあたりまえのことで、商社取引と架空循環取引は外観からは認識は困難、とのご意見も頂戴しました。このあたりは、私も実務慣行がどうなっているのか、とりわけ専門商社が介入している取引の状況をもうすこし詳しく調査してから、あらためて続編を書かせていただくことにします。

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2007年4月25日 (水)

架空循環取引と内部統制の効用(2)

ある大手損保会社の方が幹事となりまして、オトコばっかり8人の「合コン」に参加してまいりました。いやいや面子は凄かったです。内部統制コンサルの会計士さんや、某人材派遣会社の役員さんとか、普通にご紹介できる方もいらっしゃったのですが、こうやってブログで肩書きすらご紹介できない方も何名かいらっしゃって、実に楽しい夜会でした。とりわけ某著名企業で長い間「架空循環取引」に関与されていた方の話はナマナマしかった。。。この合コンは続編もあるでしょうし、信頼関係を破壊してしまってもナンですので、お話はできませんが、とりあえず勉強になりました。(^^;

さて「架空循環取引」といいますと、すでにligayaさんのブログでもご紹介されているとおり、加ト吉社(および関連会社)によります6年間で1000億円にも上る架空循環取引の内容が外部調査委員会報告書によって明らかにされました。(ただし公表されておりますのは報告書要旨のようです。外部調査委員のメンバーの方は主として大阪の弁護士、会計士の方々が多いようですね。)3月27日のエントリー(架空循環取引と内部統制の効用)におきまして、加ト吉社における組織概略図をもとにいろいろと内部統制の効用について検討しておりましたので、またその続編として若干の感想を述べてみたいと思います。まず、この報告書(要旨)を拝読いたしまして、モニタリング機能というものは加ト吉社では機能していなかったことが印象的であります。せっかくのコンプライアンス委員会、内部統制委員会(グループ企業連絡会を含めて)、危機管理委員会といった常設の組織が本件でどういった活動を行ったのか、この報告書ではまったく不明であります。報告書では「内部統制機能が発揮されなかった」と結論付けられておりますが、なぜこういった立派な組織が存在していたにもかかわらず、機能が発揮されなかったのでしょうか?整備と運用の状況を含めて、非常に知りたいところであります。

つぎに、架空循環取引として5つのパターンが存在していたことが報告されており、そのうち東京支社における取引に異常取引形態が認められていたにもかかわらずずさんな経理処理が放置されていたことが判明しております。もしひとつのパターンでも、架空循環取引の存在が判明すれば、別のパターンも(おそらく)容易に調査することが可能であったと思われますので、この経理処理の放置はかなり重大な問題ではなかったか、と考えられます。このあたりは(グループ会社とはいえませんが)関連企業も含めたグループ全体における内部統制システムのあり方というものの重要性を認識することが必要だと思われます。

そして最後になりますが、あまり報告書(要旨)では突っ込んだ疑問が呈されておりませんが、すでに昨年12月の段階で加ト吉社の子会社(加ト吉水産社)が架空循環取引に関与していたことを推認できる出来事が発覚していたようであります。この報告書におきましては、この子会社による架空循環取引への関与を見抜けなかった点に内部統制上の問題があったことを指摘されておられますが、私が一番疑問に感じますのは、この段階でなぜ加ト吉本社は自社を含めた事実調査に動かなかったのだろうか・・・といった点であります。この報告書によりますと、加ト吉本社で事実調査に動き出したのは、監査法人に対して取引先からの告発があった本年1月10日以後のことであります。ということは、昨年12月14日から約1ヶ月間、加ト吉社としては「何もしなかった」と評価せざるをえないのではないでしょうか。おそらくこのあたりが、報告書で指摘されている「創業者によるワンマン経営」ということの弊害かとは思いますが、こういった事情からみますと、本件における架空循環取引は、単なる内部統制システムの「限界」の問題ではなく、きちんとしたシステムとガバナンスがしっかりしている場合には、最小限度の損害発生と信用毀損の範囲で防ぎきれたのではないか、と思われます。(もちろん、架空循環取引に関与していた企業が判明しているだけで32社もあった、ということですから、事の重大さを考えますと、容易に事実調査に動くことができなかったような事情があったことは推認できそうでありますが、やはりそれは問題の次元が異なるというべきでしょう)正式な調査報告書を読みますと、もうすこし真相がはっきりするのかもしれませんが、ざっくりとではありますが、いくつかの疑念とともに、やはりグループ企業も含めた内部統制の構築によって、架空取引という、企業コンプライアンスに及ぼす影響を認識することが可能であった事例だったように思われます。

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2007年4月24日 (火)

MBOルールの形成過程を考える

(一部訂正に関する追記あります)

レックスHDの事例を引用しながらMBO(マネージメント・バイ・アウト)と少数株主保護についていろいろと考えていた時期から、ずいぶんと時間が経過してしまいました。最近の企業会計、企業法務の専門誌を読んでおりましても、このMBOと少数株主保護(株主排除?)に関連するレベルの高い論稿が増えたように思います。学者の先生方も、大手の法律事務所を中心とした法曹実務家の方々も、(また、以前日経ビジネスオンラインの記事でご紹介しましたとおり、裁判所におきましても)来るべきMBOの適法性(MBOに関与する取締役の善管注意義務、忠実義務違反など。なお価格の公正性を含めるとすれば、株式買取請求事件もここに入るでしょう)を争う法廷闘争に備えて、さまざまな議論が展開されているようであります。商事法務に3回にわたって連載されておりました「フリーズアウトに関するデラウエア州法上の問題点」(N弁護士)や、ビジネス法務6月号に掲載されているT准教授とK弁護士との対談(前編)、同6月号の大手NT法律事務所の方々による「M&Aを有利に進める株主対応」などなど、どれをとりましてもたいへん興味深い内容でありまして、会社法的な考え方、訴訟法的な考え方、比較法的な考え方など、いろいろと実務に参考となるところが満載であります。ただ、考え方はいろいろありますが、基本的なところでは、「効率的なMBOは企業社会では有益であるが、少数株主の利益は最大限確保されなければならない。一般投資家にとって上場企業の退場場面においても安心できる制度でなければ、市場に参加する投資家の数は増えないのであって、投資家保護、市場の活性化のためにも、退場企業のルールを合理的に決めることは重要。とりわけMBOに不可避的に発生する対象企業の取締役(支配株主)の利益相反問題を規制するべき合理的なルールの形成が必要。」といったところではほぼコンセンサスは得られているのではないでしょうか。

このブログでM&A関連のエントリーをアップするときには、いつも「素人考え」というフレーズで逃げておりますが、今回も素人的発想による疑問でありますから、そのあたりを「値引き」してお読みいただければ幸いです。といいますのも、非常に優秀でいらっしゃる若手、中堅のM&A専門家の方々の雑誌の論文を拝読しておりまして、よくわからないのが「アメリカの実務や、日本の会社法制度、裁判所制度を背景としたMBOルールがどうあるべきか」といった議論は進展しているように見受けられるのでありますが、「それじゃ、誰がその合理的なMBOルールを形成するのか?」といったところは、議論されているのだろうか・・・・・、というところであります。(ホント、これまったくの素人的疑問でありますから、もしすでに議論の集積がありましたらご教示いただきたいところであります)たとえば、わかりやすい例ですと、ある上場企業がMBOの対象企業となり、某ファンドが設立するSPCによってTOBをかける。この上場企業の経営陣は、TOBに賛同する旨の意見表明を行い、ファンドとともにSPCの持分を取得する。TOBによって90%以上の株式をSPCが取得した場合には、合併比率(交換比率)を調整のうえ、略式合併(略式株式交換)によって、少数株主を排除(キャッシュアウト)する、といったスキームがあるとします。もしかりに、この上場企業の経営陣による利益相反問題が顕在化しないままに、客観的にみてTOB価格が支配株主以外の少数株主にとって低廉である場合、その違法性(不公正)を正すべき合理的なルールはどこから生まれてくるのでしょうか?一般的にみてTOBに応じることなく、事後の簡易合併手続き(簡易株式交換手続きでも同様)における株式買取請求権の行使による是正が考えられるわけでありますが、しかし株式買取請求紛争の実態を考えますと、カネボウ株主の方のブログを拝見しておりましても、鑑定費用に莫大な費用がかかるところでありますし、(私も読ませていただき、ビックリいたしました)とうてい一般の株主が予納できるようなものではありません。また、たとえ費用をかけて公正な価格算定が可能でありましても、それは個々の株主の満足とはなっても、今後のあるべきMBOの姿を形成するようなルールは生まれてこないのではないでしょうか?(ここが最大の問題点だと考えるのでありますが、もし間違っておりましたらご意見をいただきたいところであります。よく、少数株主保護といっても、いっぽうで有益なMBOを阻害してはならない、その調整機能として反対株主には株式買取請求権を行使する機会があるではないか・・・と言われておりますが、果たして本当に、この株式買取請求権の存在が、そういった調整機能として有効なのかどうかは疑問ではないでしょうか。)また、会社法上日本ではクラスアクションのような制度はありませんので、個々の株主が全体のスキームを問題としながら、TOBから始まるMBOの不公正さを議論する場面というのはかなり限定的であることが現実だと思われます。

たとえば、先日の東京鋼鐵の合併事例において、いちごアセットマネジメント社が、少数株主として登場し、委任状争奪競争で一定の効果を残したわけでありますが、MBOの場面におきましても、そういったファンドが少数株主として登場することも考えられるところであります。そういったファンドがリスクを背負いながら、TOB後の合併比率の不合理さを根拠として簡易合併等の取消、決議無効を争う、といったことも考えられるところであります。しかしながら、ファンドにおきましても、日本における法廷闘争には時間と費用がかかるところでありますし、人様から預かった資金を長期間寝かせておくことはできないのが通常であります。そう考えますと、議決権行使の場面においては活躍が期待されるファンド型少数株主でありましても、ことMBOと司法判断、といった場面となりますと有効に機能しないのではないか、とも思料され、果たしてMBOの合理的なルール(取締役の利益相反行為に関する判断)は、せっかく裁判官の方々が、てぐすね引いて待っておられたとしましても、司法の場面では形成されないのではないでしょうか。また、ダイレクトにそういった取締役の責任を追及するための第三者責任追及訴訟(会社法上もしくは民法上の不法行為責任として)を提起することも考えられるでしょうが、おそらく勝訴可能性や、費用負担の面ではなんら変わるところはないと思います。敵対的買収防衛ルールにおいては、その導入および発動の場面において司法判断が担保されるがゆえに、「パワーゲーム」の手段となりえますが、MBOの場面においては、担保となる司法判断が形成される土壌がないように思えます。また、MBOの場面における「あるべき取締役の振舞い方」つまり、善管注意義務をどう尽くせばよいのか・・・といった議論もさまざまなところで行われておりますが、これは最終的には株主代表訴訟を提起されるリスクによって担保されているわけでありまして、果たしてMBOで顕在化すべき「利益相反問題」はそういった訴訟のリスクによって担保されているといえるのでしょうか?(これは、どんなに情報開示面を強調した、司法によるプロセス判断重視を検討しても、訴訟提起へのインセンティブ問題が前提にある以上は同様ではないでしょうか)

こういったところからしますと、あるべきMBOの姿を追求できるための合理的なルールというものは、果たして司法判断のなかから形成されていくのかどうかははなはだ疑問でありまして、「やったもん勝ち」の世界ではなかろうか・・・と一抹の不安を覚える次第であります。もちろん、東証ルールのような自主規制によって「事前規制」をはかるべきなのかもしれませんが、すでにいろいろなMBO事例をみましても、取締役の利益相反問題への対処方法は、個々の事例によって様々であり、どのように事前ルールを詳細に規定しましても、情報の偏在化に由来する力の差というものは埋まらない気がします。結局のところ、取締役の善管注意義務が尽くされることを担保できるのは、事後に公正な価格と公正な手続きが審査され、また立証責任が転換されるべきルールが形成されることによって、MBO手続きがひっくり返るリスクを背負うことに期待されねばならないのではないか、と思いますし、「法の支配」をM&Aの世界にも貫徹するのであれば、どうしても司法によるルール形成の可能性を考えなければいけないのではないでしょうか。いま、少数株主のサイドから考えられることといえば、今後のファンド資本主義の更なる台頭、日本の株式市場が国際的に活性化することが予想されるなかで、こういったルールをきちんと形成することにもファンドが寄与することが、将来的な投資コストの低減につながる、といったことを認識していただくことと、裁判所に向けては、このままだと肝っ玉のすわった少数株主なら株式買取請求で満足できる余地はあるけれども、「やったもん勝ち」の世界でビビッてしまって、強圧的なTOBで満足せざるをえない株主は救済されず、ひいては市場への参加者は限定的に終わってしまうこと、それは最終的には一般国民にとって法による支配が及ばない領域を作ってしまうことにつながることの是非を問い、できるだけ鑑定費用や訴訟負担をかけずに効率的なMBOか否かを判定できる裁判手続の実現(もしくは工夫。たとえば鑑定費用をかけずに、手続きの公正さだけを争うことで、立証責任のバランスをはかり、相対的な決議無効を争えるような形として、その後は当事者間における和解的解決で決着をつけるとか。)をお願いすることが必要ではないか、と思います。なんだか最後のほうは泥臭い話になってしまいましたが、これがMBOと法律とのありのままの姿ではないでしょうか。

(追記 記述の誤り「簡易合併」→「略式合併」、「簡易株式交換」→「略式株式交換」を訂正いたしました。失礼いたしました)

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2007年4月23日 (月)

楽しい会社法学習法

私のブログでは、かつて「セレブな会社法学習法」、「ロハスな会社法学習法」をまじめに紹介させていただきましたが、今回は「楽しい会社法学習法」をご紹介いたします。これまでのものとは異なり、京都産業大学法学部の准教授でいらっしゃる木俣由美先生の「楽しく使う会社法」で、楽しく会社法を理解しちゃおう!!というものであります。

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条文の語呂合わせによって、条文内容が頭に思い浮かぶような工夫が施されており、かなり笑えます。ちょっと語呂合わせに苦しいところもありますが、このような発想で会社法の書籍を著される先生はあまりいらっしゃらないのではないか、と思います。「枝番抜きで条項が変更されたらどうなるの?」「施行規則まで理解しなければ会社法を理解したとはいえないのでは?」「そもそも、なぜ会社法を楽しく学ぶ必要があるのか?」・・・・・・・、などといった細かいことは抜きにして(^^;;、ともかく楽しく会社法を学ぼう!!といった向きには最適な本ではないでしょうか。

実は木俣先生は、最終学歴は京都大学とありますが、私の(阪大法学部の)先輩でいらっしゃいまして、ブログ「元検弁護士」の矢部先生同様、私が「司法試験の右も左もわからない」頃に、いろいろと勉強を教えていただいた方であります。(ただし矢部先生は別の大学のご出身ですが)もう24年ほど前のころですが、まだまだ阪大の法学部には女子学生が稀少なころ、木俣先輩はまるで慶応義塾大学在学中の「竹内まりや」さんのように清純で、法学部の学生には珍しく(?)「イマドキ」(当時の)の服装と髪型で颯爽とキャンパスを歩いておられました。でも、その容姿とはウラハラに(天然なのか、計算によるものかはいまだに定かではありませんが)「大ボケ」をかます かましておられたところがありまして、木俣先輩の周辺にはいつも笑いが絶えないのでありました。あれから四半世紀が過ぎましたが、いまでも木俣先輩は「笑い」と縁が深いご様子で、日本笑い学会の現役の理事でいらっしゃいます。(こちらの理事紹介のページのお写真を拝見しますと、うーーーん、いまでも少しだけ「竹内・・・・」風の面影が残っておられるような、おられないような)なお、昨年、私が役員を務めておりました大阪の弁護士団体におきましても、この日本笑い学会の副理事長の昇幹夫教授(麻酔科、産婦人科医)をお招きして講演をしていただいたのでありますが、笑いと脳の活動とはかなり関連性があるようでして、会社法のようなディープな世界も、「笑い」と結びつけることになんらかの意義を見出せる可能性は否定できないと思いますよ。

4月17日の読売ネットニュースでは、そんな木俣先生のユーモアあふれる研究室の様子が掲載されております。また、最新号の商事法務(1797号)では、「株主総会決議がないことを理由にした取締役への退職金支払の拒否が、信義則上許されないとされた事例」につき、商事法判例研究として論稿をお出しになっておられ、研究活動にも勤しんでおられるようです。(私も仕事に行き詰まるようなことがありましたら、会社法研究者としてでなく、笑いの学会理事としての木俣先生に、なにかアドバイスをいただこうかなぁ・・・と。)

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2007年4月21日 (土)

ブログの通訳能力(おおすぎBlogに期待するもの)

すでに磯崎さんのブログでご紹介されているとおり、大杉謙一先生(中央大学教授)のブログが開設されております。(私もさっそく、WEBリストに追加させていただきました)閲覧されている方の数から想像して、(広報の役割としましては、私ではちょっと効果が薄いと思われますし)拙ブログでご紹介するのもおこがましいのでありますが、月1回程度でも更新していただきますと、たいへん刺激となりますので、ぜひ細く長くお続けいただければ・・・と、ひそかに期待する次第であります。

そういえば中山先生(当時47thさん)の「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の終焉にあたり、中山先生は「ブログ論壇考」というたいへん面白い「47thとしての2年間の感想」を綴っておられ、道半ばで帰国の途につかれました。私はその「論壇考」のなかで、47thさんが言いかけて文章にされなかった「今後ブログに期待される通訳能力」について、非常に関心がございました。大杉先生は、世間で注目される論文をお書きになる立場でありますから、そこにこめられたご自身の思いや、論文ではかけない微妙なニュアンスを「ブログを媒体として」お伝えになることは、まさにブログに期待される通訳的機能を発揮することとなるものと思いますし、私はそこに大きな社会的意義を感じます。これは葉玉先生(当時葉玉検事さん)が「会社法であそぼ」を開設されたときにも感じたところであります。

たとえば、このたびの「権限分配論の呪縛」に関するエントリーにつきましても、このブログを拝読したうえで、もう一度商事法務1796号のスクランブル「三角合併と買収防衛策」に目を通しますと、筆者の提起された問題点などが非常にクリアに頭に入ってきます。いままさに問題となっている論点への「通訳的機能」というものは、やはり書き手に相当の力量が求められるように思います。

47thさんが「ふぉり・あと」に最後まで書ききれなかった「ブログの通訳能力」を、おそらく大杉先生が今後自らのブログで体現していただけるのではないか・・・と考えますと、また法務ブログの楽しみがひとつ増えたような気になってまいりました。(あっでも、ホント、月1回程度でもけっこうですから、細く、長く、お続けになってください。それと、監査役制度改造論への感想第二弾、またアップさせていただきます。)

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2007年4月20日 (金)

公開会社法への道しるべ(3)

(注:備忘録程度の内容です)

本日(4月20日)の日経朝刊によりますと、金融・資本市場改革案(政府の経済財政諮問会議による)の内容が明らかとなり、投資家保護に向け、上場企業にレベルの高い企業統治(ガバナンス)を義務付ける「公開会社法」の策定が提言されたそうです。(要旨は日経ニュースにも掲載されております)金融商品取引法、会社法と「公開会社法」との関係の詳細については、新聞の報道では明らかにされておりません。

やっぱり「公開会社法」(まだWGの中間報告ということらしいのですが)が登場してきましたね。ここで留意すべきは「企業の収益性、効率性向上のための」ガバナンス向上とは記述されておらず、「投資家保護のための」更なるガバナンス強化、と紹介されているところであります。不正取引の禁止や、不正防止のための役員間のけん制する仕組みなどを整えるとのこと。しかし、会社法上の内部統制システムの構築(体制の整備)問題と、公開会社法によるガバナンス強化の概念の関係とか、公開会社の機関設計の強行法規性とか、またいろんな論点が出てくるかもしれません。(紀尾井町さんのコメントと時間的にかぶってしまったようですが、お昼はエントリーの時間が割けないもので、備忘録程度にて失礼します)

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TBSは楽天を「濫用的買収者」とみなすのか(その3)

本日のエントリーのタイトルから「おや?(その1)とか(その2)はあるの?」というお声が聞こえそうでありますが、(その2)のエントリーをアップしてから、すでに1年半が経過しております。今こうやって1年半前のエントリーを読み直しますと、かなり赤面モノでありますし、ずいぶんエラそうな書きぶりでして、何様かと思われそうです。しかしながら、このエントリーには中山龍太郎弁護士(当時47thさん)がコメントを付けておられますが、今読み返しても誠に的確であり、いまさらながら、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の偉大さを感じる次第であります。(そういえば、あの頃はまだ「ビジネス法務の部屋」のアクセス数もそれほどでもなかったように記憶しておりますし、エントリーの気楽さ、というものが行間から滲み出ているように思えますねぇ。)

エントリー(その2)では、TBSの買収防衛策があまり適切ではない、といったことをエラそうに書いておりましたが、その結果だけは当たっていたのか、この平成19年2月に、防衛策の内容が手直しされています。本日(4月19日)、1年半の提携交渉が行き詰まった末に、楽天側がTBSの株式を保有割合で20%超となる買い増し宣言をされたようで、またにわかにTBSによる買収防衛策発動の可能性が話題になっているようであります。1年半前のエントリーを読み返しておりますと、なんだか目の前には「司法判断」への関心ばかりが感じられたのでありますが、昨今の防衛策を取り巻く状況などを鑑みますと、別の要素も浮かんでくるように思えます。

まずは「天下のTBS」の防衛策であること。本日、民放連は全員一致で関西テレビの除名処分を決定しましたが、このブログでも取り上げましたように、あの第三者特別委員会の調査報告書の内容からしますと、テレビ局(とりわけキー局)の公共性といったものは他の一般私企業とはわけがちがうようですね。どうも「株主価値の最大化」という慣用句は使いにくく、「視聴者を含めたステークホルダー全体の利益の最大化」とでも語っておかねばならないような存在です。ましてや、TBSは不二家報道における「朝ズバッ」謝罪事件の直後でもありますし、テレビ局が社会的責任をまっとうしつつ、株主の価値を向上させなければならない、といった事業計画の説明は事業の継続性のための必須条件でしょうし、そのぶん、他の一般私企業だと問題になりそうな敵対的買収防衛策であっても、放送局の公共性、表現の自由の担い手としての責任、といったところを考えますと防衛策を導入する側にはいくぶんかのアドバンテージがあるような気がいたします。放送局は、三角合併の荒波に飲まれてはいけない、といったような政策的配慮というものが、どこかに感じられる現在の社会情勢ではないでしょうか。

ふたつめに、この「アドバンテージ」でありますが、法廷闘争に発展したときのアドバンテージなのか、委任状獲得競争に至ったときのアドバンテージなのか、見極める必要が出てきたように思います。(たとえば取締役会にある程度の裁量権があったり、独立第三者委員会の構成メンバーの利益相反性、社外取締役の独立性といったあたりの要素が、法的に問題になるのか、株主から歓迎されないといったレベルなのか)いずれにしましても、楽天のリリースのなかで、興味深いのが防衛策導入に株主総会の特別決議を要求する定款変更議案の理由(株主提案権行使書)であります。楽天側が提案理由として掲げておられる7つの項目につきましては、これまで事前警告型の買収防衛策を導入した企業やコンサルタントの方々はたいへん注目されているのではないでしょうか。このまま司法判断に突入したり、委任状獲得競争に至った場合には、たいへんな影響が出るかもしれませんね。私はここに掲げられている理由は、どちらかといいますと委任状獲得競争に対しては楽天にアドバンテージがあるようにも思いますし、外国人投資家、機関投資家の持ち株比率が多い企業であれば面白いかなと考えますが、安定株主が6割ともなりますと、さて、どうなりますかね。いずれにしましても、この1年半でどういった話し合いがなされたのか、そのあたりを知りたいところです。また、もう少しお話が前に進んだときに、(その4)をアップしたいと思います。

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2007年4月19日 (木)

皆様からのコメントにつきまして(m(_ _)m )

(管理人toshiより)

いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。私自身の意見に関するご批判につきましては、ナンボでもお書きいただいてけっこうなのですが、ちょっとエントリーの趣旨と関係の薄いコメント等が増えており、管理人としてもご回答に窮するものが散見されるようになりました。

そこで、試験的に、いったんコメントを非公開にてお預かりして、管理人サイドで公開の要否を判定させていただくことといたしましたので、ご了解ください。また、投稿される方におきまして非公開を希望される方は、その旨、コメントにお書きくだされば、そのままとさせていただきます。

どうかご協力のほど、よろしくお願いいたします。

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リスクマネジメント委員会の活動

昨日(4月17日)は大垣法人会さんからお招きいただいて、岐阜県大垣市にて講演をさせていただき、本日はIPOをめざす大阪の某企業さんとの打ち合わせ、いずれも懇親会までご一緒させていただきましたので、なかなかブログを更新する時間がとれませんでした。大垣市というところは、人口こそ16万人程度の地方中堅都市でありますが、日経ナビ2008日本の優秀企業12位に輝くあの企業とか、顧客満足度3位に輝くあの銀行はじめ、けっこう高収益を誇る上場企業さんが多いんですね。(なお、ブログにつきましてはコメントもお返しできない状況で申し訳ございません)

IPO関連の打ち合わせにつきましては、出版や講演などで、けっこう著名な社長さんでありますが、この上場準備会社、主幹事の証券会社のなかでも、そろそろ引受審査部のほうへ担当が移る時期となり、この時期に至りまして、われわれ弁護士を中心とした「リスクマネジメント委員会」(仮称)を組み込むこととなりました。基本的な設立趣旨は、上場準備の段階から上場後にいたるまで、事業継続性を阻害するようなリーガルリスクの低減、法令遵守態勢の強化(コンプライアンス経営の推進)、上場企業にふさわしい企業統治(ガバナンス)確立のための全社的内部統制の整備、運営支援、そして上場企業にふさわしい適時開示の社内体制の確立といったところであります。なお、決算財務プロセス、業務プロセスとも、上場準備に必要な作業と、J-SOX対応の作業はほぼ同時にS監査法人さんのもとで遂行されておりまして、S監査法人さんとの業務の棲み分けは、ほぼ確定できるものと思われます。

実際の上場審査の現場では、すでにコンプライアンス体制や内部統制システムの整備に関する企業の取り組み姿勢がヒヤリングの対象になっているようでありますが、こういった我々の取り組みを主幹事証券会社の引受審査部、監査法人そして証券取引所の上場審査グループの方々からどのように評価していただけるのか、そのあたりが次の課題であります。また、すでに就任されている社外監査役の方々との連携協調の方策についても今後の課題であります。ここ半年ほど、準備会等により、ビジネスモデルを思案してまいりましたが、やっと第1号として形になりそうであります。また、私たち大阪の弁護士有志が、この第1号モデルで苦悩する問題につきましては、母体であります「IPO研究会」(こちらはすでに、こちらのエントリーでもご紹介したことがございます)にフィードバックして、さまざまなご専門家の方に支援いただく予定であります。「上場は目的ではなく、あくまでもその企業がやりたい事業のための手段・・・」そういった代表者の気概を実現するためのお手伝いを通じて、代表者にたくさんの利害関係者の存在を認識してもらい、市場の健全化に少しでもお役に立てるよう、活動していきたいと思っております。おそらく今後はいろいろな葛藤が予想されますが、守秘義務に反しない程度で、またこのブログでも問題点などをご紹介してまいりますので、どうか皆様、よいお知恵をお貸しください。また、以前お約束いたしましたとおり、第1号モデルが、どうにかこうにか軌道に乗ってまいりましたら、関西地区の方で、ご協力いただける方々にお声をかけさせていただきますので、またそのときにはよろしくお願いいたします。(とりあえず途中報告ということで。しかし上場準備というのは、なかなか厳しい世界ですね。社長周りのお金の貸し借りをきちんと整理したり、社長の色が濃すぎでも事業継続性に疑問符がついたり、社員さん方の満員電車での痴漢容疑の防止対策まで・・・・大げさでなく。。。うーーーん、そこまでホントに必要なんですかね??でも、こうなると、内部統制とかコンプライアンスといった漠然とした要件についても、関係者における「共通認識」がとても重要かもしれませんね)

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2007年4月17日 (火)

会社法改正待望論?(監査役の権限強化)

(監査法人の内部統制6新たな疑問編では、会計監査責任者の短期交代制を導入することで、その地位の独立性を確保できるのではないか・・・といった自論を書きましたが、なかなか短期交代制は現実的でないことについてcritical-accountingさんよりご意見をいただきました。ご興味のある方は、TBをご参照ください。どうも、ありがとうございます)

また会計監査人の独立性に関わる問題でありますが、昨日(4月16日)の日経スイッチ・オン・マンデー「法務インサイド」では、会計士法改正案の審議入りを前にして、早くも会社法見直しについて、金融審議会・公認会計士制度部会より、強い要望があることについての解説が掲載されておりました。監査法人の体制強化や監査法人に対する監督・責任の見直し、監査人の独立性保障問題などが公認会計士法改正案の制度改革のポイントになるわけでありますが、金融審議会側としましては、会計監査人の独立性確保のためには若干課題が残ってしまったようです。この審議会の協議内容をリアルタイムでフォローされていた方でしたらおわかりのとおり、会計監査人の独立性確保のためには、「連携協調」のパートナーである「監査役」の権限強化(ガバナンス)を図りたかったのでありますが、監査役の権限強化は金融庁というよりも会社法を所轄する法務省マターの問題であるために、独自に機関設計のあり方を定めることができず(金融庁サイドで金融商品取引法を改正しての修正は無理、との意見が多かったようです)、今後の法務省の「会社法改正」に向けた動きに期待せざるをえない、とのことであります。

今回の平成17年会社法改正におきましても、会計監査人の独立性確保のために、監査役(会)の権限としまして、会社提案の会計監査人の報酬決定につき同意権が付与されることになったのでありますが(会社法399条)、単に同意権では足りず、監査役(会)が独自で会計監査人の報酬額を決定できるように(つまり報酬決定権を監査役に付与するように)すべき、との意見が出されるようになりまして、これにより、会計監査人の監査の独立性を補強すべき、とのことのようであります。筑波大学の弥永教授(金融審委員)も、会社法制定以降に会計不祥事が続発していることから、監査役の権限強化の機運が高まっていることも考慮すべき、との意見を述べておられますし、先日ご紹介させていただきました中央大学の大杉教授の「監査役制度改造論」なども含め、多方面から監査役制度のあり方への議論が始まったところではないでしょうか。また、こんな物言いをしてしまうと、またツッコミが入ってしまうかもしれませんが、現実の監査役の姿といいますと、その権限を強化してみましても、果たして独立的立場で経営陣に向かって監視機能を行使できるかどうかきわめて疑問視せざるをえないことも現実であります。したがいまして、この金融審議会の期待(会社法改正待望論)につきましては、監査役制度のガバナンス面の改正とともに、まずもって監査役制度の現実が変わらなければ、本当に会計士の独立性を補強する基礎にはなりえないようにも思われます。(ただ、現実の監査役制度を前にした場合、その独立性確保のために、監査役(会)独自で法務コンサルタントを委託する、といったことも検討されるところでありますが、これはまた別の機会に)

ところで今回の上記「会社法改正待望論」に関する記事を読んでの感想でありますが、「法務省に監査役制度の改正が期待されている」とありますので、会計監査人の独立性の問題は、いわゆる会社法上の会計監査人と監査役との関係に絞った話でありますよね。しかしながら一般投資家保護、といった観点からみますと、監査の独立性確保を目的とした監査法人制度改革を考えるのであれば会社法監査とともに、証取法監査における会計士、監査法人の独立性確保についても検討する必要があるのではないでしょうか。そもそも会社法が今回規定している会計監査人の報酬同意権については、会社法監査についてのお話でありますから、証取法監査における監査人報酬については、監査役の同意権はなんら規定されていないわけであります。(会社法施行規則126条各項が、非監査業務を含めた監査法人の報酬開示ルールを規定しているくらいではないでしょうか)この点、どんなに法務省のほうへボールが投げられてしまっても、そこで改正されたものは、やはり会計監査人に関する規定ということになりますので、証取法監査についての監査報酬は経営陣と監査法人とで定められることに依然として変わりはないはずです。つまり、監査役制度を変容させてみても、それが「監査の独立」に機能するところはごく一部に限定されてしまうのではないか、との素朴な疑問がまたまた出てくるわけであります。このあたりはどのように考えればいいのでしょうかね?それこそ「公開会社法」を定めて、そのなかで企業が監査法人に支払うべきすべての報酬について、監査役が提案権を有する、とすべきなのかもしれません。金融庁と法務省が足並みを揃えて、監査制度のあり方を検討していかねば、監査役と会計士との連携協調がうまく機能しないのではないかと思いますが、どうなんでしょうか。

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2007年4月16日 (月)

経営統合はむずかしい・・・・(その2)

土曜日(4月14日)の日経朝刊(近畿版)には、私が社外監査役を務めます企業の合併撤回特集記事がドカーン!!と掲載されておりましたので、私もあまり偉そうなことは言えないのでありますが、同日の新聞にペンタックス社の大株主でありますスパークス・グループ代表者の(HOYA、PENTAX合併撤回に関する)コメント記事が掲載されておりました。ペンタックス社の取締役らは、たとえ直前に事実を知らされたとはいえ、合併に向けた基本合意について承認をしていたのであるから、今頃になって白紙撤回というのは善管注意義務を著しく怠っていると思う、こういった場合は撤回と同時に企業価値向上に向けた代替案を提示すべきだ、とのこと。たしか、白紙撤回に賛同されていたペンタックス社の取締役の方々は、「現在の合併比率のままでは、株主総会における承認が得られないおそれがある」といった理由で、合併に反対されていたと記憶しておりますので、こういった大株主様のコメント内容からしますと、今後どうやって株主の方々に白紙撤回理由を説明すべきか、かなり頭を悩ませることになるのかもしれません。ただ、いちごアセット・マネジメント社が「このままの合併比率では、東京鋼鐵社の実際の企業価値を反映していない」として、多くの株主の賛同を得て合併承認決議を否決した事例もありますので、取締役が少数株主の意向を考慮することも必要なのかもしれませんし、簡単には善管注意義務を怠った行動かどうかは判断できないものと思われます。

先日の「経営統合はむずかしい・・・」のエントリーでも書きましたが、私自身も合併統合に向けての情報管理を経験したうえでの感想ですが、昨年12月21日にリリースされましたペンタックス社の合併統合に向けての基本合意のお知らせ によりますと、すでにHOYAとペンタックス社双方において、企業価値の算定が行われており(UBS証券およびモルガン証券が公正な第三者として算定)、合併比率も同時に発表されておりますが、ほとんどの役員も知らされていない状況で、合併比率まで決められてしまうような企業価値算定というのは可能なんでしょうかね?役員や従業員の協力なしに、詳細な財務および法務DD(デューデリジェンス)はできないはずでしょうから、おそらく外部に公表してもいいような財務情報によって企業価値算定がなされているはずですし、たとえ公正な第三者機関による双方の企業価値が決定されたとしましても、相手方企業の企業価値算定を承認するためには、さらに詳細なDDの結果を待たなければ合併比率など、(それこそ株主代表訴訟のリスクをかかえることになってしまい)承認できないのではないでしょうか。ということで、私の(誰が考えてもわかりそうな)理屈によりますと、この12月21日の合併比率決定までの経過というものが、いったいどういった交渉がなされてきたのか、というところが明らかになりませんと、とうてい「現経営陣の善管注意義務」の中身を議論することが困難ではないか、と思う次第であります。

もちろん、ペンタックス社の取締役の方々は、はじめて統合計画を知らされた役員会の席上で、「ちょっと時期尚早ではないか」と異議を述べるべきだったのかもしれませんが、そこで大きな懸案事項(インサイダー取引規制)が出てくるわけであります。もうすこし、合併比率が適正かどうか、調査を進めてから発表したいのはヤマヤマではありますが、そうなりますと、今度は社内から逮捕者を出すリスクを抱えることになってしまいます。(以前のエントリーでも話題になりましたが、少なくとも、この時点ではインサイダー取引に該当するような「重要事実」はすでに発生していることになります。)ペンタックス社のリスクマネジメントとしましては、どういった経緯でここまで合併統合の話が進んできたのかはわかりませんが、とりあえず基本合意の公表については、その場で知らされた取締役の方々としましても、合意せざるをえなかったことも十分推察されるのではないでしょうか。また、白紙撤回したことにつきましても、たしかに株主、従業員に対して、合併を撤回するに値するだけの企業価値向上策を提示する必要があることはそのとおりかもしれませんが、現在の株主の利益を毀損するような合併比率による統合を阻止することを優先するのもまた、取締役にとっての善管注意義務を尽くすべき行動だと思います。(将来の企業価値が向上するためであれば、どんな合併比率であっても統合すべき、とはならないはずです)ひょっとすると、企業価値向上策を検討するより先に、HOYAよりも他に経営統合に適した相手方を見つける努力をすべきかもしれませんし、また配当政策やIR活動によって、実際の株価をもう少し高めるような施策が検討できるかもしれません。4月下旬には、HOYA社におきまして、TOBに出るかどうか、最終判断をされるようでありますが、それまでに「広い意味での統合」を含めて、両社がどのような方向で協議を続けていかれるのか、誰のどのような利益を最大限尊重される意向なのか、これからも注視しておきたいと思います。ただ、現実には、株価を乱高下させたことは事実であり、一般の株主様にはご迷惑をかけることになるわけでありますから、このあたりの問題は、M&Aと企業コンプライアンスが交錯する場面として、非常に判断がむずかしいところであることは間違いなさそうであります。

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2007年4月15日 (日)

会計監査人の内部統制(6-新たな疑問編)

一昨日の「会計監査人の内部統制(5-総会対策編)には磯崎さんやcritical-accountingさん、路傍の会計士さんはじめ、いろいろなご意見を頂戴しました。たいへん勉強になりましたし、また考えさせられるところも多かったように思います。ただ、いろいろとご意見を伺っておりますと、また新たな疑問が湧いてくるわけでして(そんなにたいしたことではないのですが)、もうすこしこのシリーズを続けたいと思っております。

今回は、皆様方が関心を寄せておられた「組織的監査と監査人のローテーション(定期的な交代)」に関する疑問であります。会計士さんの不祥事が市場の信頼を揺らぎかねないとして、監査現場における会計監査人と企業との癒着を防止するために、短期的なローテーションについても議論がなされているところであります。たとえば2年程度の短期間によるローテーションを義務化してしまえば、監査法人内の上級審査部による品質管理を重視することとも合致して、会計監査人の内部統制構築論ともマッチングするのではないか、と考えたのでありますが、会計士さん方のご意見は、やはり現場責任者による監査は今後ももっとも重要なものであるから、直接的には短期ローテーション制度とは結びつかない(結びつけるべきではない)といったご意見が圧倒的に多いようです。

たしかに現場における監査が最も重要ですし、ここで杜撰な監査がなされてしまいますと、そもそも監査法人内における品質管理の基礎資料すら存在しないことになりますので、理屈としては理解できるところであります。また、会計監査人の交代が企業にとりましても、新たな会計コストに跳ね返ってくることも予想されるところでありますから、費用面からみましても、ある程度の期間、同一責任者のもとで会計監査が担当されるほうが企業にとりましても経済的だといえるかもしれません。しかしながら、今回の監査法人改革にかかる金融庁(公認会計士・監査審査会)の主たる改革目的は「株主、一般投資家に目を向けた監査制度」の実現ではないでしょうか。たいへん難題ではありますが、投資家や一般株主のための監査制度ではあるけれども、年間報酬はその個別の企業との契約によって支払われているわけでして、そのことと「株主へ目を向けた監査」とをどこかで調和させなければならないわけであります。たとえば、前の(5)のエントリーでコメントをいただいている路傍の会計士さんの例え話のように、会計監査人と企業との間におきまして、意見の相違があって「監査意見は出せない」「いや、それでは招集通知が出せないので困る」といったトラブルが発生した場合、とことん話し合うことも大事でしょうが、最終的に投資家に目を向けた監査をしなければならないのであれば、監査法人さんは当該企業から監査人交代の意思表示を受けるリスクもあるでしょうし、また辞任することもやむなし、と決断することも必要ですよね。そうであるならば、普段から短期ローテーションに対応した監査体制を整えておかなければ、こういった事態で本当に株主や一般投資家のための監査業務をまっとうすることは困難になってしまうのではないでしょうか?たとえば減損や税効果会計のように、その企業のある程度の期間比較を必要とする「見積もり」や、企業ごとの重要な虚偽表示リスクがどこにあるのか、といった問題は、短い監査期間ではよくわからない、ということで判断できないところもあるかもしれませんが、だからといって、1年目、2年目ではよくわからない、なる理由によって経営者の意見にやむをえず従って監査意見を出すわけにもいかないでしょうし、また自信もって辞任をすることもできないのではないでしょうか。そもそも普段から短期でローテーションが可能な態勢を整えておいてこそ、経営者と意見が対立したときに、自信を持って企業との関係を絶つことができるわけでしょうし、それが一般投資家、株主に目を向けた監査の姿ではないのでしょうか。そういった体制つくりのためにも、監査法人の内部統制の整備は不可欠なもののように思います。どなたかが、監査というものは答えがひとつではない、一般に公正妥当と認められる会計基準から逸脱していなければ、財務諸表(計算書類)の内容の適正性を合理的に保証することが目的であれば、「適正意見」への到達にはいくつかの道がある、とおっしゃっておられましたが、現場重視をもって適正意見へ到達する道もあれば、現場と上級審査部との連携によって、適正意見へ到達する道も(これから考えれば)ありうるのではないでしょうか。それはひょっとすると、同一監査法人内における引継ぎのノウハウが必要になるのかもしれませんし、また監査法人間における引継ぎのノウハウまで要求されるのかもしれませんが、そういったノウハウも監査法人さんの構築すべき内部統制の一貫ではないか、と考えたりしております。(以上のとおり、私は2年のローテーションの義務化を推進しているものでは決してございませんが、ただ短期間での会計監査人変更が十分ありうる、といったリスク管理のもとで監査法人さんが内部統制システムの整備をされるのであれば、当然に短期で会計監査人が変更することも予想した監査業務を検討しておかなければ、投資家へ信頼されるための「外観的独立性」は説明できないのではないか、と思ってしまいました。おそらく、「限定意見」や「注記事項」、それから「引当金」項目の利用など、監査法人と経営者との話し合いの和解ラインを探る方法があることは承知しておりますが、いま監査法人改革によって問われている問題は、そのようなテクニカルなことで済ますことができるレベルの話ではないような気がしております。)

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2007年4月13日 (金)

会計監査人の内部統制(5-総会対策編)

このブログではずいぶんと以前から「会計監査人の内部統制」って、いったい誰が何をどうやって調査すれば判断できるのだろうか?と疑問を書き連ねておりました。(これまでの「会計監査人の内部統制」シリーズは、まとめてこちら からお読みいただけます。)けっこう私なりに悩んだりもしておりましたが、あまり世間では騒がれることもなかったものですから、私自身もちょっと関心が薄れておりました。ところが、ちょっと仕事絡みで本年度の定時株主総会対策マニュアルなどをパラパラとめくっておりましたところ、「平成19年度版・新株主総会実務Q&A」(三菱UFJ信託銀行 証券代行部編著 中央経済社)におきまして、「株主総会で準備しておいたほうがよい想定質問」として、この「会計監査人の内部統制のチェック」という項目があげられております。(会社法関連11項目のうちの1項目であります。)ほかの10項目については、誰でも準備しといたほうがいいかな・・と納得できるような項目でしたんで、ちょっと意外でした。と、いうことでして、この「会計監査人の内部統制」という問題についても、ある程度きちんと総会担当者や監査役の方は検討されたほうがよろしいのかもしれません。

1 会計監査人の内部統制(再考)

総会対策として「会計監査人の内部統制」を検討する場合の根拠条文としましては、会社法381条(監査役の権限)、同397条(会計監査人の監査役への報告義務)、そして会社計算規則155条(会計監査人設置会社の監査役の監査報告の内容)あたりだと思われます。アバウトな発想ではありますが、監査役には業務監査権限と会計監査権限があるわけですが、会計監査人が選任されている場合には、計算書類が適正に作成されていることに関する意見につき職業専門家である会計監査人の個別の意見を尊重するのが適切であります。(かならずしも財務会計的知見を要求されない監査役としては、そういった態度が妥当でしょう)そこで、監査役の会計監査業務の重点は、むしろその会計監査人の監査方法の相当性を判断したり、会計監査人の職務執行が適正に行われることを確保する体制に関する相当性判断が中心になるものと思料されます。つまり、J-SOXにおきましては、財務諸表が適正に作成されることを監査法人さんが内部統制報告まで含めてチェックすることになりますが、その考え方が、会計監査人による監査と監査役による会計監査との関係にもあてはまるような格好で理解できるのではないでしょうか。こういった発想からしますと、監査役による「会計監査業務」の重要なポイントとして「会計監査人の内部統制チェック」という問題が浮かびあがってくるように思われます。

たしかに、理屈のうえではそう考えることができましても、実際には上場企業の監査役に、果たして監査法人さんの内部統制監査(のような調査)など、現実的ではないようにも思われます。たとえば会社計算規則案が公表された頃の経営法友会さんからのパブリックコメントのなかにも、「監査役は監査法人の中まで調査する権限を付与されているのではないのだから、このチェック項目は厳格に過ぎるのではないか」との意見が出されていたように記憶しております。しかしながら、内部統制の議論が進んできた現時点におきましては、会計監査人と監査役との「監査全般に関する」連携協調は、内部統制システムの構築、運用、評価いずれに点におきましても重要かつ不可欠なモニタリング手法と言われておりますから、普段の情報交換、意思形成過程のなかで、監査役による(会計監査人さんへの)聞き取りや、監査法人さんからの内部統制報告書の徴求などにより、監査法人さんの内部統制チェックというものも可能ではないでしょうか。また、現に金商法上の内部統制報告制度におきましても、経営者評価のひとつとして、取引先(外部委託先)の内部統制チェックということも問題となります。取引先の内部統制を調査する権限など対象企業にはございませんが、それでもなんらかの評価を下さなければならないわけでありますから、これと同様の発想で考えることもできそうであります。

2 「コーポレート・ガバナンス報告書」を参考にしてみると?

なにわともあれ、監査役としましては(会計監査人の内部統制チェックの方法論を知るために)一般の上場企業が東証「コーポレート・ガバナンス報告書」におきまして、「会計監査人の内部統制」欄にはどのようなことを書いているのか、参考にするのが早道と思われます。そこで、いろいろとガバナンス報告書の記載を閲覧してみたのですが、あまり参考になる例は見当たりませんね。といいますか、自社が会計監査人からどのような内部統制監査を受けているか、とか、会計監査人と当社の関係はどうか、とか、なんだかよく趣旨が伝わってこないような記述ばかりではないでしょうか。いちおう、東証の記載要領のところも読んでみたのですが「会計監査人の内部統制に関する事項について記載することが考えられる」とだけ書いてありまして、これではたしかに何を書けばいいのかよくわからないと思われます。総会対策という観点から考えますと、会計監査人の内部統制をチェックしたことを株主に開示する趣旨は、①監査役が自らの会計監査業務を適正に行っていることを説明する趣旨と、②会計監査人の業務の適正を確保する内部統制が整備されていることを説明する趣旨が含まれていると考えられますので、この2点を充足できるような説明が要求されるのではないでしょうか。たとえば、私が社外監査役を務める上場企業の場合、某監査法人の地方事務所スタッフが中心ですから、組織的業務運営のうち、地方事務所の管理態勢に絞って聞き取りをしたり、昨年8月に各監査法人さんが金融庁に出された業務改善計画書のうち、内部統制にかかわる部分の改善運用の状況の報告を受けたりすることが考えられます。

3 4月12日の新聞報道(みすず解体の衝撃)から

日経新聞の朝刊で「みすず解体の衝撃(上)」なる特集記事が掲載されておりますが、(おそらく皆様方がこのブログを読まれるころは、すでに『下』のほうも掲載されていると思われます)そこでは、今後の四大監査法人の監査に関する品質管理が問題視されております。私は内部の人間ではありませんので、現実の姿というものは存じ上げませんが、縦割りの弊害を克服して、組織的監査の徹底を実現することが監査法人にとっての重要課題だそうであります。当該企業の内部統制報告制度の運用だけでなく、そういった監査法人さんの努力されている様子にも、監査役として関心を持つべきなのかもしれません。(それはそうと、この記事のなかで、みすず監査法人の古参の会計士さんが、トーマツさんとの移籍話が固まりそうになったときに「社風がちがいすぎる」として一斉に反発された、そのことで若手会計士もトーマツへの移籍をやめて、新日本さんを希望した、といった経緯が紹介されております。個別の監査法人さんの内実についてはあまり関心はございませんが、この「社風がちがう」というのは、監査法人でお仕事をされる公認会計士さんにとってはどんな意味があるのでしょうかね?社風が違いますと、個別企業への監査業務にも違いがあるんでしょうか?また、逆に「社風」というものが本当にあるんだったら、すでに「縦割りの弊害」はなくなっているんじゃないでしょうかね?それから、これも素人的な疑問でありますが、組織的監査を進めていけば、上級審査会や、審査担当部署が監査業務に占めるウエイトが大きくなるわけですよね。そういった管理部門の意見が監査業務に大きな影響を及ぼすのであれば、それこそ2年くらいのローテーションで担当監査責任者が交代してもいいのではないでしょうか?現場の責任者がコロコロ変わったり、担当監査法人がすぐに交代することは、企業の監査報酬に跳ね返るから妥当ではない、と言われるところでありますが、そういった論理と組織的監査の推進の論理とは矛盾しないのでしょうか?それともうまく調和できる考え方があるのでしょうか?そのあたり、いろいろと興味が湧くところであります)

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(追記)コメント、TB、そして個別のメールと、会計専門職の方々より、いろんなご意見を頂戴しました。(本当にありがとうございます。どうも最後の括弧書きの中身が、会計士さん方の”専門家魂”のようなものをシゲキしてしまったみたいです。。。ずっとこのブログをお読みの方はご存知のとおり、私は「これからの20年間は会計の時代である」と公言してきておりますので、けっして悪意に満ちた物言いではございませんので、どうか今後とも素朴な疑問におつきあいいただければ幸いです)

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2007年4月12日 (木)

監査役制度と企業環境の変化について

すでに、取締役を兼務する監査役のエントリーにてご案内のとおり、「監査役制度改造論」なる大杉謙一教授のたいへん興味深い論稿につきましては、「企業法務を社外監査役の視点から考える」という当ブログの主題とも関連するところであり、いろいろと考えながら拝読させていただきました。監査役制度をガバナンスの上で重要視したい立場からいたしますと、最初は少しとまどうところもあるかもしれませんが、よく読みますと(紀尾井町さんもご指摘のとおり)監査役制度に対する教授の思い入れが感じられ、監査役に対する一種の「檄文」として著されたのではないか、と感じます。また、精読するうちに、とうてい私のような場末の弁護士が批評できるようなものではない(やはりバックボーンが違いすぎます)と思うようになりましたので、この論稿を読ませていただいたうえでの私なりの単なる感想を述べさせていただこうかと思っております(気楽に数回に分けて・・・いつ完了するかはまだ未定でありますが。。。)

そこでまず、なぜ明治以来100年以上にわたり、日本独特の「監査役制度」というものの骨格が維持されてきたのでしょうか、そしてまたそれは変化しなければいけないような社会環境は果たしてあるのでしょうか?この点につきまして、教授は100年以上も維持されてきた制度である以上、この制度は合理的であり、すくなくとも日本企業には合致するものであったという論拠になるかもしれない、と述べておられます。ただ、商法改正に伴う諸事情も踏まえながら、「高度経済成長期の日本企業には、収益性の高いプロジェクトが豊富に存在していたので、経営者と株主の利害対立の危険は相対的に低かったこと」から監督機関には適法性監査だけが期待されていたことを指摘され、「企業の収益機会が稀少になり、経営者に求められる資質が調停能力からリーダーシップへと変化する(現代)ようになると、監督機関の役割も大きくなり、その権限も従前より強化される必要性が生じてきた」ものと論じておられます。ここに「高度経済成長の終焉から30余年が経過した今、監査役制度の根本の見直しが必要」とされる実質的な根拠を見出されておられるようです。(本文とはあまり関係ないかもしれませんが、大杉教授もすこしだけ触れておられますとおり、監査役制度の歴史のなかで、監査役に妥当性監査まで事実上認められていた時代があったんですね。その後、昭和25年改正によって、取締役会制度の法定化によって、そちらに妥当性監査への期待が高まり、昭和49年まで監査役の権限が会計監査のみに限定される時代となるわけであります。「新訂版・商法改正の変遷とその要点」2006年一橋出版 秋坂朝則著 参照)

私個人としましても、長年監査役制度が(改正を繰り返しながらも)維持されているところをみますと、日本企業にはかなり合致した制度であると思いますし、またその根本の見直しが必要ではないか・・・といったご主張にも共感する部分がとても多いです。ただ、監査役制度の根本的な見直しが必要ではないか、と考えるところの企業環境変化につきましては、私の場合には少し視点が異なります。おそらく、大杉先生は「適法性監査」→「妥当性監査」といった監査役の監督権限の拡大のための正当性を裏付ける諸事情を説明されたかったのではないか(「妥当性監査権限保有の正当性」→「取締役の任免権保有の正当性」にスポットをあてたかったのではないか)と推察いたしますが、私は(あまり深く考えず)単純に①企業法制のあり方が「事前規制」から「事後規制」へと変容されつつあること、②監査監督を担う外部機関のあり方が変わってきたこと、に求められるのではないか、と思っております。たとえば①につきましては、旧商法による大規模公開会社に対するガバナンス規制をはじめ、多方面にわたり、事前規制の要素が強かったわけでありますが、平成17年会社法改正によって「定款自治」をはじめ、公開企業に対しても経営自由度がアップした分、事後規制としての監督機能は強化する必要性が出てきたのではないか、と考えられますし、②につきましても、従前はメインバンク制度や行政監督、株式持合いなどによって、外部からの妥当性監査を含む規制に期待するところが大きかったのでありますが、ご案内のとおり、そういった外部監督機能を期待でいる制度自体が消滅(もしくは減少)しつつあるなかで、これらに変わる制度自体が現在必要とされるようになったのではないか、というところであります。まぁ100年とまでは申し上げられませんが、昭和25年改正以降の50年ほど、監査役制度が維持されてきた企業環境や、そういった企業環境が大きく変化していることについては、ある程度の説明がつくのではないか、と思っております。また、こういった根拠からですと、監査役の妥当性監査権限を認める→取締役の選定、解職権限を認めるといった流れをストレートに導くことはできないかもしれませんが、おおよそ監査体制への根本的な見直しが必要といった結論部分においては同様の意見に落ち着いていきそうな気がします。なお、見直しの視点でありますが、会社法上の内部統制システムの構築といった概念が、コーポレート・ガバナンスの議論に含まれることを前提といたしますと、こういった発想は監査役による妥当性監査に関する問題も含めまして、内部統制システムの整備運用と監査役制度の関係のなかで議論しやすいのではないか、と考えております。

つぎに取締役会設置会社における業務執行取締役と非業務執行取締役、そして監査役の職務権限にスポットをあてて、取締役兼務監査役の「自己監査」リスクへの私見を述べさせていただこうかと思っております。(不定期にてつづく・・・)

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2007年4月11日 (水)

顧問弁護士と社外役員就任問題

ちょっと本業のほうがバタバタしておりまして、今夜はブログをきちんと更新する時間がとれませんでした。もう少し時間的余裕のありますときに、監査役サポーターさんや、紀尾井町さん、とーりすがりさんなど、このブログ常連の論客の皆様が(おそらく)注目されていらっしゃる「監査役制度改造論」(by大杉教授)の論稿について、実務家に近い立場から私見(たたき台、いや、たたかれ台?)を述べさせていただこうかと思っております。この大杉先生の監査役改造論は会社法335条に関する話題でありますが、もうひとつ会社法335条に関する話題といえば、「当該企業の顧問弁護士(もしくは顧問法律事務所在籍の弁護士)は、当該企業の社外取締役、社外監査役に就任できるのか」といった伝統的争点がございます。もうすぐ「非常勤社外監査役実務指針」が商事法務さんから出版される予定でありますが、共著グループの間におきましても、この論点については非常に議論の多かったところでありまして、なかなか結論の出ない難問ではないか、と思われます。

なぜ会社法335条と関係があるかといいますと、監査役は取締役を兼ねることができないのと同様、使用人を兼ねることもできませんが、企業の顧問弁護士は、会社の「使用人」にあたるのではないか、といった争点がございます。(監査役の職務の独立性より)ところで、旧商法276条(現行会社法335条と同旨)の時代、法務省民事局第4課回答によりますと、顧問弁護士は商法276条の「使用人」に該当すると解釈して、「会社の顧問弁護士である者をその会社の監査役に選任する場合には、監査役就任の承諾を得る際に、顧問契約を解除しておくのが相当である」とされております。(いっぽう、日弁連見解では、276条に抵触することはないが、控えるほうがのぞましい・・・といった意見であります。最高裁判例昭和61年2月18日も、監査役である弁護士が当該会社の訴訟代理人になることについては違法ではない、との見解を示しております)つい先日の日経新聞でも、東京の大手渉外法律事務所さんでは、事務所が顧問、もしくは頻繁に相談業務を受託している上場企業の社外役員に就任するかどうか、という事務所の方針につきましては、かなり意見が分かれている、といった報道がなされておりました。近時、敵対的買収防衛策における社外役員の役割がクローズアップされ、また日興事件の特別調査報告書などをみてもおわかりのとおり、企業コンプライアンスの観点から社外役員の立ち位置が問題視されることが多くなっておりますので、こういった論点はけっこう「古くて新しい」話題といえるかもしれません。

法律解釈や、弁護士倫理規定の解釈など、いろいろな考え方がありそうですので、とくに違法とか適法とか、そういったレベルでのお話をするつもりはございませんが、これが株主総会参考書類への記載事項として、とくに問題としなくていいのかどうか、というレベルになりますと、ちょっと気になるところではないでしょうか。顧問弁護士が社外役員に就任することが違法かどうか、という純粋な学問的レベルとは別に、株主(とりわけ機関投資家)が、「社外役員の独立性」といった観点から会社の姿勢を判断する基準にならないのか・・・といったレベルのお話であります。たとえば監査役の選任議案に関する参考書類への記載事項としまして、会社法施行規則76条4項に、その社外監査役候補者に関する記載事項が列記されております。そして、候補者が下記のような場合に、そのことを会社が知っているときには、その旨を記載しなければならない、とされております。

(該当箇所のみですが)イ 会社の特定関係事業者(親会社ならびにその親会社の子会社および関連会社ならびに主要取引先)の業務執行者であること ロ 会社または会社の特定関係事業者から多額の金銭その他の財産(これらの者の監査役としての報酬を除く)を受ける予定があり、または過去2年間に受けていること・・・ニ 過去5年間に、会社の特定関係事業者の業務執行者となったことがあること

たとえば企業年金連合会あたりの議決権行使基準によりますと、この「特定関係事業者」というのは当該上場企業にとって、非常に取引額の大きい相手方企業のことを指すものと理解されているようでして、顧問法律事務所がどんなに大きな規模のものでありましても、取引額基準でいえば「特定関係事業者」には該当しないものと解されます。しかしながら、弁護士や公認会計士が、あえて社外役員に選任される理由は、その専門性もさることながら、高度な独立性に期待されるところが多いのは現実でしょうし、単に取引額の多少だけで判断するのは適切でないように思われます。むしろ、顧問法律事務所と上場企業との関係で捉えるならば、はたして企業の現経営者に対して業務上の助言をする立場にある法律事務所のパートナーさんが、独立公正な立場でモニタリング機能を発揮できるかといいますと、かなり怪しいのではないでしょうか。(もちろん、ここでは就任される方の人格といった問題を抜きにして、単純に外観的な独立性の観点から、という意味でありますが)ましてや、先日の日経新聞で記載されておりますとおり、大手法律事務所によっても、かなり問題視されているところからしますと、社外監査役の出身法律事務所が、たとえば過去2年以内に、当該会社から顧問料をもらっているとか、スポットで事件を委託したといった事情があるならば、それも「特別関係事業者」に該当するものとして、「この候補者の在籍する○○法律事務所は、当社の顧問法律事務所であります」といった記載をされたほうがいいのではないでしょうかね。(本来ならば、もし顧問法律事務所のパートナーさんであっても、社外監査役に就任してほしい理由まで記載されたほうがいいのでは・・・とも思うのでありますが、とりあえず候補者がそういった関係にあることだけでも記述する、との考えであります)そのあたり、あまり議論されていないところをみますと、施行規則の立法趣旨から離れてしまって、私の感覚がおかしいのかもしれません。

また、たしかに二段構えで準備をしておいて、参考書類には(法律および弁護士倫理規定の正当な解釈を根拠として)なにも書かないでおいて、もし株主から質問があった場合には、懇切丁寧に口頭で説明できるような支度を整えておく・・・というのが一般的なのかもしれません。しかし、社外役員が(株主のために)その能力を発揮するのは、どちらかといいますと企業の平時よりも有事の際ではないか、というのが持論であります。そして、平時において、きちんと対応していない企業が、果たして有事に対応できるのかといいますと、ほとんどそれは期待できないと思います。このたびの会社法(施行規則を含む)では、社外役員候補者について、参考書類で多くの項目を開示することになりましたが、これはやはり株主からみた関心事をできるだけ開示情報としようとの配慮からだと思われますが、なかでも社外役員の独立性については多くの機関投資家の関心事であることは間違いないと思います。そうであるならば、これまでの純粋な議論とは別に、社外役員のあり方に関する当該企業の姿勢を示す一貫として、「社外役員がうちの会社ではこういった仕事が期待されているので、こういった人を選任したい」と説明するための情報はどんどん開示したほうがいいと思います。(いろいろと株主総会対策本が出版されていますので、ひょっとすると、すでにどこかの本で話題になっているかもしれません。そういった議論がどこかでなされておりましたら、またご教示いただけますとありがたいです。ん?時間がないとかいいながら、書き出すと、けっこう長くなってしまいました。。。)

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2007年4月10日 (火)

経営統合はむずかしい・・・・

先日、エディオンとビッグカメラとの経営統合撤回に関するエントリーをアップいたしましたが、皆様すでにご承知のPENTAX社の取締役会内紛による統合白紙撤回の問題も、エディオン社の事例同様、企業統合の難しさを物語っているようです。ところで、マスコミの報道で興味深いのは、4月10日に予定されておりますHOYA社の臨時取締役会が何を決議するか、といった見通しにつきまして、日経、朝日、読売、産経は、TOBによるペンタックス株式取得を正式に決議する見込み、としているのに対して、毎日だけが合併協議継続を決議して、TOBを正式に決定するのは先送りする見込み、としています。(さて、10日のHOYAの取締役会は一体何を決議するのでしょうかね?私はなんとなくですが、毎日新聞ニュースの予想のほうが当たっているような気もしますが・・・・)

もうひとつ、マスコミの報道で気になりますのは、昨年12月に統合に関する基本合意の発表があった後、どういった理由で統合白紙の声が出てきたのか、合併比率に関する大株主の不満からなのか、社員による統合に伴う事業整理への不満からなのか。ひょっとすると、もっと現実的な「取締役間における確執」によるものなのか。(ちなみに、昨年12月の「統合に関する基本合意」に関するリリースを読みますと、合併後の会社のボードにペンタックス側で残る取締役は2名とされていますので、社長を含む合併推進派の2名の取締役が就任する予定だったのかもしれません。そうなりますと、確執があっても不思議ではないでしょう。)基本合意の承認を得るP社取締役会の直前まで、ほとんどの取締役には合併に関する事実が知らされていなかったということですので、本格的なDD(デューデリジェンス)はリリースの後で開始されたと思われますし、P社側の社員ら、多数の取締役らの「合併比率に関する不満」が中心的な理由なのかもしれません。しかし、だからといって(先日のエントリーでも書かせていただきましたが)PENTAX社の社長としましては、インサイダー取引の大きな危険を抱えながら、のんびりと根回しなどはできるはずもありませんので、ある程度合併準備に関する情報管理的手法についてはやむをえないもののようにも思います。

しかし、不思議なのは昨年12月の基本合意のリリースであります。どうして、この時点で細かい合併比率が算定できるのか、そのあたりは私にはナゾであります。P社側としましても、この基本合意をリリースする前日までは、合併推進派のおふたりの取締役しか合併の話は知らなかったはずであります。そんな状況のなかで、どうしてこういった合併比率が算定できるのでしょうか。(ということで、明日10日の様子をまた注目してみたいと思います)

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2007年4月 9日 (月)

取締役を兼務する監査役

土曜日(4月7日)は早朝から神戸大学まで出掛けまして、京都大学准教授でいらっしゃる曳野孝先生を中心とした「企業統治+経営戦略=収益性・業績」なる研究会に参加してまいりました。計量経済学の難しい公式を使ってのコーポレートガバナンスと経営戦略に関するお話であります。(この研究会の内容はたいへんおもしろいものなので、またときどき、誤解のない範囲においてエントリーのなかでも援用させていただこうかと思っております)ところで昨日の研究会におきまして、曳野先生は、コーポレート・ガバナンスの研究について、関西は東京から大きく水をあけられている、とぼやいておられました。(もちろん関西にも、たとえば神戸大学には、ガバナンス研究で知られるK教授がいらっしゃいますが・・・)私は法律学の分野における全国勢力図、のようなものをまったく存じ上げませんので、どこの大学がどんな分野に強い、といったことに、あまり関心をもっていないのでありますが、たしかにコーポレート・ガバナンス研究といいますと、最近では「公開会社法」研究や、社外役員制度の検証や提言、そして内部統制システム構築に関する研究などなど、どれをとりましても東京主導で活発な議論が展開されているように感じております。でも、これはコーポレートガバナンスに関する議論に限って言えば「やむをえないこと」ではないかなぁ・・・と思います。といいますのも、たとえば曳野先生の精緻な計量経済学に基づくガバナンス研究成果について、ご自身はその理論的な正当性についてはたいへん自信をお持ちでいらっしゃいますし、そのこと自体を私がとやかく申し上げるだけの力量もございません。ただ、みずからの理論に正当性を補強できるような「企業実務における実証例」が不足している、と痛感されているようなのです。これは経済学の見地からでも、法律学の見地からでも、同じようなことが言えるのではないでしょうか。理論的にどのような制度が適切か(もしくは企業パフォーマンスの向上に役立つか)といったところを論じようとする場合、その理論を根拠付ける実社会における企業実務や、立法事実を基礎付ける実証例を集積しようとする場合、どうしても経済団体などの支援(といいますか協力)が不可欠です。そういった意味では、東京の場合ですと主要な経済団体をはじめ、日本取締役協会や日本監査役協会の本部、そして社外取締役ネットワークなど、ガバナンスの研究団体もありますので、そういった実社会における実証例を学者の先生方が採取するにあたっての「アドバンテージ」は関西とは比べものにはならないほど東京のほうが豊富だと思います。したがいまして、こと「コーポレート・ガバナンス研究」に関するテーマをリードできるような論文は、やはり東京から発信されるケースがこれからも多いのではないかと推察しております。

ということで、やはり東京から発信されているガバナンス分野における法律学者の先生方の論稿のうち、私が最近ドキドキしながら拝読させていただいたのは、中央大学の大杉謙一先生が商事法務1796号(4月5日号)でお書きになっている「監査役制度改造論」と、跡見学園女子大学の柿﨑環先生が月刊監査役525号(4月号)でお書きになっている米国SOX法404条運用に関するSEC新ガイダンス(案)紹介とJ-SOXへの反映への試論(すいません、自宅でこのエントリーを書いておりまして、手元に当雑誌がないために、正式な題名を失念しております)  「経営者のためのSOX法404条ガイダンスの概要」であります。いずれの論稿につきましても、拙ブログにお越しの皆様方に、たいへん関心の高い分野における斬新な意見が含まれておりまして、ぜひご一読されることをお勧めいたします。もちろん、先生方のご意見に賛同されるか、ご批判されるかは、読まれた方次第でしょうし、冒頭でも申し上げたところとも関連いたしますが、学者の先生方からすれば、そういった実務家の方々の意見がたくさん出されることを歓迎されるのではないでしょうか。とりわけ「監査役制度改造論」は「すごい」です。つい先日、「監査役協会、内部統制監査の実施基準草案公開(2)」のエントリーのなかにおきまして、私は以下のように書きました。

すでに多くの企業で「社外取締役」の方々が就任されているのが現実ですし、この実施基準(注 監査役協会作成による「内部統制監査の実施基準」のこと)も上場企業の監査役監査指針(しかも内部統制整備に関する評価)を念頭に置かれているわけでありますから、もうそろそろ「社外取締役と監査役監査」の関係についても一般的な指針を設けてもいい時期に来ているのではないでしょうか。

ストレートに、というわけではございませんが、こういった疑問にもひとつの答えを提言されているのが、この「監査役制度改造論」であります。監査役制度100年の歴史に大きな転換を迫るこの制度改造論は、おそらく今後、諸団体でいろいろな議論を巻き起こすものと予想いたしますし、またたとえば日本監査役協会さんあたりは、この論文をどのように受け止めるのか、そのあたりたいへん興味がございます。なんといいましても、「取締役兼務監査役」もしくは「監査役兼務取締役」といった役員を会社法上制度(義務化)として提言されるわけでありますから。。。たとえば、本日(4月8日)の日経ニュースにありましたように、ペンタックスの取締役会におきまして、当社役員は、HOYAとの合併撤回動議に賛成した取締役が6名、反対した取締役が2名(社長と専務)ということで撤回動議が決議されたわけでありますが、ここに「取締役会に期待される監督機能」といった問題は出てきましても、「監査役による監督機能」といったことは少しも話題にされてこないのであります。(ホント、これが現実なんですよね・・・)さて、もしここに「監査役兼務取締役」という(社外人を半数以上含む)人たちが登場していたら、いったいどういった結論になっていたでしょうか。(私の悪いクセですが、長くなりましたので、またまた本編に入ることなく続編へと続かせていただきます。なお誤解のないように申し上げておきますが、会社法335条2項との関係で、取締役兼務監査役という制度は、あくまでも立法論としてのお話です。念のため・・・)

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2007年4月 6日 (金)

関テレの内部統制(構造欠陥と責任論)

昨日は「関西テレビの内部統制体制」にたくさんのアクセス、そしてコメントを頂戴いたしまして、ありがとうございました。「王子・北越」関連エントリー以来の一日5000アクセス超となりましたが、おそらく「あるある」」で検索された方や、雑誌系ブログで紹介していただいた関係ではないか、と思っております。私なりに皆様方のコメントを拝読させていただき、非常に勉強になりましたし、また多くのことを考えさせられました。皆様方のご意見をもとに、もうすこし関テレ(関西テレビのことです。なお、エントリーのなかでは、関西テレビのことを放送局といい、関テレから委託されて実際に番組を制作する企業のことを「番組制作会社」といいます)の内部統制について検討してみたいと思います。

straycatsさんのご質問(そもそも捏造行為は法的にどういう意味、罪があるのでしょうか?)ですが、たいへん鋭いご質問だと思います。ここでまず誤解のないよう整理しておきたい点がございます。この特別調査委員会報告では、(昨日のエントリーでも少しだけ触れましたが)捏造番組を放送してしまった関西テレビという放送局の構造的欠陥を究明し、その再犯防止策を提言するところに主眼が置かれているようです。(したがいまして、個人的な責任につきましては、個人名も特定せずに、150ページのうち、わずか1ページだけコメントされているのみです)しかも、「関西テレビは番組を捏造したか?」という問いに対して、さまざまな観点から検討して、事実を曲げて放送したことを「捏造」というのであれば、関西テレビは捏造したわけではない、と結論付けております。おそらく、このあたりはstraycatsさんが疑問とされているとおり、放送局が事実を捏造した、ということであれば放送法上の行政処分や、民事的な賠償問題にも大きな影響を与えることとなるので、「特別調査委員会による判断の限界」として、法的責任と直接関連する判断を差し控えたのではないか、と推測いたします。

監査役サポーターさん曰く、「最近、特別調査委員会が流行しているようで・・・」

内部統制、開示統制のあり方が、会社役員の責任に影響を与える風潮が強くなりますと、今後も企業の危機管理のひとつとして「外部独立第三者」による委員会調査の結果を待つ、といった企業の対応は激増すると予想しております。たとえば企業不祥事が内部告発によって公の知るところとなった場合、いつまでも社内調査を公表せずにおりますと、証拠隠滅の疑惑とか、危機管理能力の欠乏とか、その対応自体がマスコミの格好の攻撃対象となり、さらなる企業の信用毀損につながります。とりあえず、特別第三者委員会に調査報告を委ねるという形にしておきますと、公正性も担保されますし、また正式な報告書が出されるまで、マスコミには「現在、委員会で調査しておりますので・・・」と堂々と発言回避の機会を得ることが可能となります。また、監査役サポーターさんが、「どうして弁護士が委員長などになっていることが多いのだろうか」と疑問を呈しておられますが、これも民間人のなかで、証拠の採否から事実認定までのトレーニングを積んでいるのは、なんといっても法曹ではないか、と思いますし、こういった調査はどうしても「客観的な証拠に基づく事実認定」がなによりも優先されますので、ある程度はやむをえないのではないでしょうかね。なお、ここでたいへん興味深いのは「事実認定」といいましても、先の日興CGにおける委員会による事実認定とは少し方向性が異なるところであります。この関テレの特別委員会の手法はいわゆる裁判官的な手法が採用されております。つまり、この調査目的は、主に「捏造があったかなかったか」を判断することにありまして、責任追及を主たる目的とはしておりません。したがいまして、「事実かどうか」を客観的な証拠によって認定していこうとする「最終的判断のための事実認定」であります。いっぽう、先の日興CGにおける特別委員会の目的は「誰に責任があったのか」といったところに主眼が置かれておりますので、まず責任を問える事実とはどういった事実なのか、というところで委員会としての「仮説」を立てて、その仮説を裏付ける証拠を並べていき、最終的に責任判断を行うという、いわゆる「検察官的事実認定」の手法であります。したがいまして、日興CGの報告書をお読みいただくとおわかりかと思いますが、法的責任確定のためには、委員会の証拠評価や事実認定については、責任があるとされた当事者による十分な反論の機会が与えられるようになっております。このあたりは、やはり責任を追及するための事実認定なのか、企業の構造的欠陥を究明するための事実認定なのか、そのあたりの主たる目的の違いによるものだと(私は)認識しておりますし、このあたりの使い分けは、やはり法曹実務家が委員を務めていることに起因するのではないか、と考えております。

なお、関テレの内部統制を問題とする場合におきましても、この責任論と構造欠陥論とは区別して考えることができると思います。会社法上の内部統制として議論する場合には、取締役の責任問題と密接な関係があります。いわゆる内部統制の自由保障機能(セーフハーバー機能)であります。取締役が、ここまできちんと内部統制システムを構築(整備および運用)しているのであれば、たとえ不祥事が発生したとしても責任を問われない、といった問題であります。いっぽう金融商品取引法上の内部統制(いわゆるJ-SOX、内部統制報告制度)につきましては、まさに構造欠陥論と密接に結びつく議論であります。たとえ取締役において金商法上の内部統制システムの整備に不備をもたらしたとしましても、そのことをもって直ちに法的責任を問われるものではなく、別のサンクション(無限定適正意見がもらえない、市場での信用が低下する、証券取引所によるペナルティがあるなど、ただし最後の点につきましては、今年1月の企業会計審議会議事録をみるかぎりでは、ペナルティはなさそうでありますが)が待ち受けているだけであります。もちろん、会社法、金商法それぞれの内部統制の議論はかなりの部分で重複しますし、本報告書におきましても、どれだけ内部統制システム構築に向けて尽力していたかを検証するために、昨年5月に決定された関テレの内部統制システムの基本方針を引用しているわけでありますが、本委員会は「責任論」を最終目標として掲げておらず、構造欠陥の究明に目標を置いているために、思い切った委員会としての提言が出せるようになっております。つまり、責任論を目標とするならば、関テレ内部の予算や人事、組織の問題によって、内部統制の限界がみえてきてしまい、そこで議論がストップしてしまいます。しかしながら、責任論から解放されれば、無理な予算組みとか、無理な人員削減とか、東京進出をあせったなど、本当の意味での捏造に至る原因究明までたどり着くことが可能になってくると思われます。内部統制の議論が「人」や「組織」と関わるものである以上、どちらのアプローチも不可欠とは思いますが、その使い分けは十分意識しておく必要があるのではないか、と私は考えております。

また、ご質問のなかで、スポンサーや広告代理店こそ、捏造事件の一端を担っているのではないか・・・とありましたが、これもかなり「責任追及に求められる内部統制」に引きづられている考え方ではないかと思います。もし責任追及を主眼とする委員会報告であれば、また別の事実認定が必要となってきます。このたびの関テレ特別委員会報告をみましても、今回はスポンサーや広告代理店主導での番組制作であったことについては触れられているものの、「スポンサーの言いなりになっていたこと」が問題と指摘されているわけではなく、「東京支社で、ゴールデンタイムの仕事をとりたいがために、無理をしていた関テレの行動自体に問題があった」として、その関テレの東京進出自体のムズカシサにスポットが当てられておりまして、これはまさに「関テレという企業のもつ構造的欠陥」を中心とした事実認定がなされたことに起因するものと思われます。(まだまだ、一般視聴者とテレビ局との法的な関係、許容される演出と許されない誇張表現との差を誰が監視していくべきか等、重要な論点がございますが、かなり長くなりましたので、また別の機会に検討してみたいと思っております。また、他のエントリーにおきまして、かなり有益なご意見を頂戴しておりますが、コメントをお返しできずに申し訳ございません。)

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2007年4月 5日 (木)

関西テレビの内部統制体制

この4月より、同志社大学法科大学院の非常勤講師に就任いたしまして、後期より週1コマ、民事法演習(会社法)を担当させていただくことになりました。ということで、本日は教員の方々の懇親会に出席させていただき、たくさんの専任教員の方々とお話させていただきました。(元裁判官の「大学院教授」という方はけっこういらっしゃるんですね。)これまでの人生におきまして、「私学」というところに一度も通ったことがないものですから、同志社の今出川キャンパスの美しさには、たいそうビックリいたしました。ただ、私をお誘いくださった某教授以外、ほとんどの教授の方がブログをご存知なかったことからしますと、「この弁護士さんは卒業生でもないのに、なんでウチの大学院に?」って、思われたのではないでしょうかね。(^^;;あっでも、とくに商事法関係の先生方皆様に温かく迎えられて、ともかくホッとしましたです。

ところで、昨日はココログのメンテナンスのために更新はお休みさせていただきまして、昨夜はじっくりと「あるある大事典捏造」に関します特別調査委員会報告書に目を通しておりました。(150ページ以上のたいへん内容の濃い報告書であります。7週間にわたる5名の特別委員会委員、および約20名の調査担当弁護士によります珠玉の作品であります。なお、報告書の概要も合わせて関西テレビのHPにアップされておりますが、もしお時間がございましたら、この調査報告書本編を研究されるのがお勧めです。委員の皆様方にとりまして、事実認定のための証拠採取には人的物的な限界があったことが正直に書かれてありますし、リスクアプローチによよる真相究明の方法が赤裸々につづられております。したがいまして、この報告書を読むかぎりにおきましては、「まだまだ捏造された番組数は多かったのではないか」との疑念は出てきます。)日興コーディアルの特別調査委員会報告書は、金融商品の内容や取引の中身を理解するのがしんどいために、なかなか読み進めるのもたいへんだったと思いますが、こちらの報告書はページ数は非常に多くとも、中身は比較的どなたでも理解できるのではないか、と思います。昨日は関西テレビで「あるある捏造についての検証番組」が組まれておりましたが、この報告書を読んだ後に番組を見たほうがよかったようです。「検証番組を早期に放映すること」ということが、この委員会からの要望事項に含まれておりますし、またこの報告書によりますと、今後は関西テレビ独自の詳細な捏造事件報告書が提出(HPでも公表)される予定になっております。

とりわけ関西テレビの内部統制システム(報告書では内部統制体制)の現状と体制構築への大胆な提言部分につきましては、長年の放送業界の実態や高度に表現の自由が保護されるべき企業の特異性を考慮したたいへん興味深い内容になっております。日興の調査報告書との大きな違いといいますと、日興の報告書では「誰に責任があるか」といった視点を比較的明確に打ち出しておりますが、こちらの調査報告書は、不正を生み出した関西テレビの構造的な欠陥部分がどこにあったか、という視点を前面に打ち出しておりまして、「第三者による調査報告書」といいましても、いろいろなパターンがあることが認識できます。会社法上の内部統制システムをどう構築すべきか、という提言を委員会として重視するのであれば、こういった構造的欠陥を明確に判断する方式のほうが、なんとなくしっくりいくような気がしました。

ただ、この「あるある」報告書を最後まで読ませていただいて、もう少しツッコミが欲しかった(と、私が感じた)ところがございます。それは納豆ダイエットに至るまでの、番組制作側における(許されるべき)演出→(許容されない)誇張表現→捏造といった不正への流れが時間的にどのように増えていったのか、それとも時間的流れに関係なく、さまざまな不正が混在していたのか、といった視点であります。といいますのも、関西テレビの東京支店が制作を委託するにあたり、日本テレワーク(制作受託会社)及びアジトがいきなり捏造番組を制作することは考えられず、最初はちょっとした誇張表現から始まったのではないか、と推測されるからであります。「面白い」「わかりやすい」生活バラエティ番組で視聴率をとることが絶対の使命であったことのようですが、そのために最初は少しばかりの誇張表現から始まったのではないか、しかしそんなところに関西テレビ側からのクレーム等がこなかったために、次第にエスカレートしていき、最後には捏造することになんらの躊躇も覚えなくなる、といった時系列的な流れはなかったのでしょうか。内部統制システムの構築は、リスク管理の一種です。不正が発生した場合には、できるだけ早期に発見するシステム、不正が発見された場合には、できるだけ被害が最小限度ですむようなシステムを構築する必要がありますが、本件では番組制作会社側の「最初の小さな不正」をどうやって見つけ出すのか、それともそれは「内部統制の限界」であって、内部統制の仕組みだけでは見つけることはできないものなのか、もし見つけた場合に関西テレビ側としては、どう対処すればいいのか、といったところを、もう少し検討していただけたら、統制システム構築の具体的提言の説得力にも影響したのではないかな・・・と思いました。いずれにしましても、もしコンプライアンス研究会のようなものができましたら、こういった内部統制体制の提言を意識した報告書の検討をぜひしてみたいと思います。(それにしましても、短時間にこれだけの報告書を提出された委員の方々の意欲には、たいへん感服いたしました)

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2007年4月 3日 (火)

エディオン・ビックカメラ統合計画の撤回

2月8日に、業界トップのヤマダ電機に対抗すべく、エディオンとビックカメラが経営統合することが発表されましたが、ご承知のとおりビックカメラ側からの申出により、3月30日に両社の統合計画は白紙撤回されたようです。(日経ニュースはこちら)これを受けて、日経新聞の4月2日付け朝刊記事では、両社が「重要な経営情報をあいまいな状態で(経営統合を)発表したことになり、情報開示の問題点が浮き彫りになった」とやや批判的な見方で報道されております。(統合に関する発表の後は、株価が上昇したわけですから、投資家は不正確な情報を元に投資した、ということになる、とされております)

投資家へ確定的な情報を開示できなかったことにつきましては、市場の混乱を招いたこともあり、反省点もあろうかと思いますが、従業員の方々の予想外の反応の前に「統合撤回」を決断しなければならなかったビックカメラ経営陣にも、やむをえない事情があったのではないでしょうか。本来、ビックカメラとしましては、合併(経営統合)に関する重要事実につき、当然に証券取引所の自主ルールたる適時開示をしなければならないわけでありますが、どこまでのことが決まれば適時開示の対象となるのでしょうか。一般にはおそらく「業務執行機関による統合に関する正式決定の後」ということになろうかと思われます。つまり、適切な開示がなされた、といえるためには、投資家への公正、公平な情報開示が要求されますので、同じ日に両社とも経営統合に向けての取締役会決議がなされ、両社ほぼ同時刻に、それぞれ経営統合に関する開示要求事項を公表する、といった流れになると思われます。まぁ、この取締役会決議まで、しっかり社内における情報管理ができていればよいのですが、ここで留意すべきは「インサイダー取引になる時期と適時開示を必要とする時期のズレ」に関する問題点であります。本来、適時開示とインサイダー規制は裏腹の関係にある、と言われているところでありますが、この企業再編に関する重要事実といったものは、どうも単純に裏腹の関係とはいえないところが問題であります。

経営統合に関する重要事実の公表時期が「取締役会決議」の直後、といった場合、その公表時期までは社内でインサイダー取引に関する規制は適用されないか、といいますと、通説にしたがいますと、実はそうでもないようです。実はそう簡単には言い切れないところがございます。たとえば、両社の代表者が統合に向けての話し合いを始めた後であっても、また統合に向けての協議が常務会などで確定した後などにおいても、その統合に向けての準備活動の事実が存在した時点で、すでにインサイダー取引が規制される「社内の重要事実」は存在する、という見解もございます。(一部文言を修正しました)そうであるならば そういった見解にしたがうならば、経営統合に向けた準備が進んでいる最中から、両社の社内では常にインサイダー取引が発生してしまうおそれが出てきまして、たいへん高度な情報管理が要求されます。もしそういった情報管理に漏れが発生して、運悪くインサイダー取引が発生してしまったのであれば、それこそ発覚後には大きなダメージを企業が受けることになります。自社の情報管理によほどの自信があれば格別、そうでない場合には、たとえ財務、法務DDが未了であったとしましても、経営統合に向けた準備が進んでいる時点のおきまして、一刻も早く基本合意に関する臨時取締役会を行い、その決議内容を適時開示として公表しておこう、と考えることも(ある程度は)理解できるところではないでしょうか。(いったん経営統合に関するリリースをしておいて、後で撤回することによる企業信用毀損のリスクと、合併比率の確定や従業員の反応などをほぼ調査して、統合計画が白紙に戻らないことが確実になるまで公表を控える代わりに、情報漏えいにともなうインサイダー取引によって企業信用が毀損されるリスクとを比較したうえで、後者による損害(リスク)を優先的に回避する選択肢もあるのではないか・・・とも思えますが、いかがでしょうか。)

ましてや、先日(3月20日)新聞報道されておりましたように、東証の上場制度の整備に関する懇談会がリリースした提言内容におきましては、東京証券取引所に上場している企業に適時開示義務違反が認められた場合には、課徴金を課すべき、とのことであります。こういったシステムが導入されるようになりますと、一般事業会社としましても、適時開示の適正性には十分気を使わなければならないわけでありまして、やはり早期に情報を管理して、開示すべき要請はますます強くなっていくのではないかと思われます。そんな状況におきましては、いったん統合計画をリリースしていながらも、後日「修正」や「訂正」といったものではなく事情変更による「白紙撤回」といったこともありうるなかでの「見切り発車的」な統合に関するリリースにも、少しばかり同情できる部分があるのではないか、と思ったりしております。

(注)4月3日午後 紀尾井町さんのコメントを受けまして、一部エントリー内容を修正させていただきました。なお、本日午後3時より、24時間、ココログのメンテナンスがございますので、悪しからずご了承ください。

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2007年4月 2日 (月)

CSR経営は企業不祥事と無縁か?

(本エントリーとは無関係ですが、当ブログに関する若干のお知らせを追記)

不二家事件におきましては、「信頼回復対策会議」の議長でいらっしゃる郷原伸郎教授は、TBSの報道に不適切なところがあり「捏造」に該当する、不二家としては(TBSが第三者委員会を設けて徹底的な捏造調査をしないかぎりは)TBSに対して損害賠償請求訴訟を提起すべき、と会見されております。(フジサンケイビジネスアイの記事)たしかに、「このままでは雪印の二の舞になるぞ」といった社内文書も出てきたということですから、不二家自身の不正発覚を隠蔽する企業体質に大いに問題があったことは事実かと思われます。ただ「責任追及だけがコンプライアンスの目的ではない」とされる郷原教授の考え方からすれば、いったん不正隠蔽といった対応が明るみにでた不二家について、「あれもこれも」と悪者扱いする報道姿勢については、その企業の信頼回復を考える立場からみて、不二家の信用を徒に貶めていたものとして、また正しい原因究明のための事実調査の障害になるものとして、「捏造報道にはかなり大きな問題がある」と思われたのではないでしょうか。

最近でこそ、関西テレビの「あるある」捏造問題などで、マスコミの報道姿勢のコンプライアンスが大きな話題になっておりますが、郷原教授はすいぶんと前から、季刊誌「コーポレート・コンプライアンス」のなかでマスコミ報道の危険性に対して警鐘を鳴らしておられましたし、私が昨年、天満研修センターにて、郷原教授から直接質問させていただいたときも、「今後の企業コンプライアンス問題のなかで、一番難しいのがマスコミへの対応を含めたマスコミ問題です。」とおっしゃっておられましたので、この信頼回復対策会議の訴訟要請は、郷原教授の考え方を具現化したものと思われます。法令遵守というものが、企業不祥事を未然に防止することに主眼を置いたものであるならば、形式的な遵守体制の整備と違反者に対する責任追及の厳格化、といったところに企業の体制整備の力点があると思いますが、コンプライアンスはリスク管理の一種である、と捉えるならば、企業は関係者の責任追及とは別に、発生した不祥事をどうやって早期に発見するか、その不祥事の損害どうやって最小限度に抑制するか、といったところに力点が置かれます。私も企業コンプライアンスはリスク管理の一種である、という立場を支持するほうですが、そうしますと、有事におけるコンプライアンスの考え方としましては、徹底した事実調査と原因究明(因果関係も含めて)が第一、再発予防策検討が第二、そして事実調査に基づく関係者の責任追及が第三の問題ということになります。つまり優先順位としましては、責任者の追及は3番目ということになります。このように考えることが、もっとも企業価値を高めることにつながるのではないか、と思います。ただ、責任を追及することこそ、もっとも不祥事抑止策として適切である、といった考え方ですと、誰が悪かったのかといった犯人探しが注目されることとなり、あとから次々と「この企業にはこんな体質があった」と世間が納得しやすいような事案が根掘り葉掘り紹介される・・・・といった流れになってしまうようです。

それでは、すでに洋菓子販売を再開する不二家にとりまして、本当のところ、消費期限切れ商品(もしくは食品衛生法違反のおそれのある商品)を販売してしまった原因というところは明確になったのでしょうか?(皆様は、そのあたりご存知でしょうか?)コーポレートガバナンスに問題を抱えていた、といった会見での説明がなされたようでありますが、単に企業体質に問題があったというだけで、今後の不二家再生に生きる教訓が得られた、とはとても言えないはずであります。ましてや、企業不祥事といったものは千差万別でありますので、今回とはまた別の不祥事が発覚することへのリスク回避としては何が重要なのか、そのあたりが明確にされていなければ、結局のところ、経営者トップを処分して終わり・・・というに等しいような気がいたします。たとえば、私が「不二家の公表・回収義務を考える(その2)」においても、すこしだけ書かせていただきましたが、(不二家問題の当初に少しだけマスコミが取り上げておられた)不二家のCSR経営と不祥事との関係などは、このたびどう扱われたのでしょうか。環境問題への配慮から、できるだけ商品廃棄は避けよ、といった社訓が徹底されていた場合、その社訓にしたがって消費期限切れ商品を捨てられない風潮があったとか、労働問題への貢献策として「再雇用の積極的利用」を謳っていた不二家として、工場労働者が昔の勘に頼りすぎてしまい、消費期限を無視していた、といった意識があった、といったケースはなかったのでしょうか。私のいままでの実務経験からみて、私利私欲をむさぼる経営者不正以外における企業不祥事といったものは、不正を犯す目的と、もうひとつ、自らの行動を正当化するに足るだけの別の目的があるはずです。(このことは、すでに「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでも、何度か取り上げました)この不二家事件におきましても、現場で消費期限切れ商品を(おかしい)と知りつつ使用し続けていた裏には、何かこういった正当化(もちろんそれが世間に対して正当なものとして、通用するものでないことも事実でありますが)する原因があったのではないでしょうか。また、そこに目を向けていかないと、本当の意味での「不二家の再生」は図られないのではないでしょうか。ずっと事件発生以来、この不二家問題をフォローしていたわけではございませんので、このあたりの再生への原因究明の過程を知らないままで記述しているのかもしれませんが、こういったところがもう少し報道されてもいいのではないか・・・・と勝手に思ってしまった次第であります。(たとえば、内部統制報告制度についても、こういった問題を内包しているのではないでしょうか。会計監査人の監査と経営者による内部統制評価の間にズレが発生したままであった場合、業務プロセスにおける現場担当者としては、監査人の適正意見をもらう必要があるために、もしくは経営者による評価を「有効」としなければならないために、新たな会計の粉飾を発生させてしまう、といった行動を余儀なくされる・・・といった事態は考えられないでしょうか?)

(4月2日午後 お知らせ)

いつも当ブログを閲覧いただき、ありがとうございます。管理人からのお知らせです。いろいろとコメント、メールをいただく機会が増えました。ということで、下記のような管理人の独裁的ルールを設けましたので、よろしくお願いいたします。

ある特定エントリーにつきまして、多数のコメントを一時的に頂戴した場合、管理人のほうでまとめて一括コメントとして掲載する場合がございます。このブログはたいへんマニアックで狭い範囲のテーマしか扱わないようにしておりますが、それでもさまざまな論点についてコメントされた方々のご意見を、当ブログを閲覧された方にご紹介したい、というのが管理人の趣旨であります。

コメント、TBにつきましては、一日数回のチェックにより、スパム等につきましては都度削除させていただいておりますが、とりあえず本業を抱えながらのブログ運営をしておりますので、24時間以上チェックが困難な場合には、コメント、TBとも(いったん管理人がお預かりしておき)管理人による公開制限解除システムを設けることといたします。

なんだか、いろいろと制約が増え、また管理人としての窮屈さも出てきまして、たいへん申し訳ありませんが、皆様方が気持ちよく閲覧できますよう、管理人としても検討してまいりますので、どうかご協力のほど、重ねてお願い申し上げます。

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2007年4月 1日 (日)

ブログの体裁を少しだけ変えてみました。

いよいよ4月ですね。私の事務所の隣にあります西天満公園のソメイヨシノも5分咲きとなりまして、もう花見宴会が始まっております(かなり寒いと思うのですが・・・)今年度もどうかよろしくお願いいたします。

さて、Hamsterさんに、いろいろと「ココログ」プロでもできそうなことを教えていただいたおかげで、すこしテンプレートに修正を加えてみることにいたしました。このブログは2005年5月から始めまして、もう24ヶ月目に突入しましたので、24ヶ月分のアーカイブ(あんまり意味ないですが・・・)に変更しました。また、最近は多くの方にご批判、ご賛同のコメントをいただく機会が増えましたので、(念願だった?)20コメントまでのツリー表示に変更してみました。また、約1ヶ月分のエントリーが一覧できるように、左サイドバーの「最近の記事」も20表示としました。さらに、前々回のエントリーで不満を書いておりました「スパム防止機能」でありますが、TBにくらべて、それほどコメントスパムは多いというわけでもありませんので、防止機能を停止させております。(また、いろいろと問題が出てまいりましたら復活するかもしれませんが・・・)

そして、せっかくテンプレートを修正いたしましたので、50代、60代の読者の皆様にも、無理なくお読みいただけるよう、エントリー部分の文字を少しだけ大きくしてみました。(かなり読みやすいのではないでしょうか)mizukiさんから「前のデザインのほうがよかった」と不評を買っております写真デザインでありますが、これも修正しようかなと思いましたが、ちょっと時間が足りませんでしたので、また来週にでも検討してみようか、と思っております。

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