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2007年4月28日 (土)

TBS買収と企業価値判断について(2)

GW初日、大阪はたいへん良いお天気ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。アクセス数もきょうは激減しているところから拝察いたしますと、皆様ご家族で旅行、ハイキング、お買物と、連休を楽しんでいらっしゃることと存じます。(こういった時期にこそ、思いっきりハズしてもいいような話題を取り上げようかと思います(^^;;)さて、楽天によるTBS株式の大量買付事前手続から始まった買収交渉も、昨日(27日)TBS側が質問状送付、特別委員会(企業価値評価特別委員会)招集ということで、本格化してきた模様であります。日経新聞では「両社の攻防は日本企業に広がる買収防衛策のあり方を問うものである」と解説されておりますが、私もまったく同感でありまして、法廷闘争、委任状争奪その他、どのような方向に動いたとしましても、「事前警告型の防衛ルール」の有用性が試される大きなターニングポイントになることが予想されます。私のブログでは「TBSは楽天を濫用的買収者とみなすのか」シリーズで、この問題を何度か取り上げておりますが、1年半以上も前に「TBS買収と企業価値判断について」と題するエントリー(かなり恥ずかしい内容ですが・・・)も残しておりますので、その続編として今後のTBSと楽天の防衛策を巡る攻防への私なりの視点を述べさせていただきます。これは、私が今年2月に改訂されましたTBSの買収防衛ルールに関する読後感想文のようなものと受け止めてください。

 「楽天が濫用的買収者かどうか」は誰が判断するのか?

まずなんといいましても、TBS側としましては、楽天を「濫用的買収者である」といった認定に持っていきたいところであります。(もちろん株主価値の最大化のための防衛ルールでありますから、そんなことは一切口には出せませんが)これに該当すれば、株主総会に諮ることなく、防衛策が発動できるわけでありますから、楽天としましては司法判断を仰ぐしか方法がなくなってしまうわけですね。TBS側としては、ここに持ち込むインセンティブは働くわけでありますから、その認定には大きな関心が寄せられるところであります。ところで一般的なイメージからしますと、「濫用的買収者に該当するかどうか」といった判断権は、著名な委員の方々で構成される「企業価値評価特別委員会」にあるような気もします。でも、TBSの買収防衛ルールを読みますと、大量買付希望者が濫用的買収者に該当するかどうかは、「手続違背」の問題とされております。つまり事前に決められたルールを無視した人が「濫用的買収者」とされるわけでして、ルールを無視した人が出れば特別委員会は防衛策発動を勧告する、ということになっております。しかし、そもそも敵対的な買収において、取締役会レベルで防衛ルールを導入することが「合理的」とされるのは、ライブドア・ニッポン放送事件の際の高裁判断が基準となっているはずでありまして、当然のことながら「濫用的買収者かどうか」はその買付希望者の実体に関する判断によるものであります。したがいまして、手続違反を根拠に「濫用的買収者」であると決め付けるには、単なる「手続違反」の事実だけでは足りず、その手続違反の事実が、実態的にも濫用的買収者であることを推認させるだけのものでなければ「合理的なルール」とはいえないはずであります。したがいまして、たとえば楽天側に手続違反の事実が認められるとしましても、その後になんらかの実体的に濫用的買収者でないことに関する反論の機会を付与しなければ、特別委員会、TBSの取締役会の「発動を是とする行動」には疑問符がつくのではないでしょうか。ただし、そういった反論の機会が付与されましても、誰が濫用的買収者かどうか、に関する判断権を付与されているのか不明でありますので、どういった手続の流れになるのかは、ちょっとよくわからないところがあります。そもそも、このTBSの買収防衛ルールが、特別委員会に濫用的買収者かどうか、に関する「手続違背かどうか」以外に実質的な判断権を付与していないところに問題があるのではないかと思います。この買収防衛ルールにおきまして、手続違反の際に特別委員会の勧告が「全員一致」を要求しているのかどうか、まったく触れられていないのは、こういった手続違反については実質審理の必要性がないと考えれおられるところにあるのではないでしょうか。(なお、特別委員会が早い段階から、いろいろな資料を買付希望者に要求できるのは、特別委員会が実質的な判断をするからではなくて、発動を勧告しない結論に達したときに、すぐに現経営陣に代替案を用意する機会を付与するためであります)

もうひとつ、手続違反から「濫用的買収者」と認定するところで問題になりそうなポイントがあります。どういったことかと申しますと、本当は楽天の実体を判断しているのだけれども、それを「手続違反」と判断する可能性であります。手続審査と実体審査という区分は、そんなに明確なものではないと思われます。たとえば「これこれの判断に必要な資料とともに、貴社の見解を述べよ」といった質問に対して、楽天側が必要十分と判断した資料と意見を述べたとします。それに対してTBS側が「貴社は必要十分と思われる資料も提出していないし、こちらが答えてほしいことに十分答えていない」と判断した場合、これは、「質問に回答する」ということを形式的に捉えれば手続違反とは考えられませんが、「質問の趣旨に合致した回答をする」ことを手続と捉えれば手続違反であり「濫用的買収者」と認定しても差し支えないこととなります。こういった問題が、私の「屁理屈」でありましたら、特別委員会でもなんら問題は発生しないと思われますが、こんな屁理屈でも理解を示される方がひとりでもいらっしゃいますと、また新たな問題が発生いたします(つまり、特別委員会は防衛策発動勧告については、全員一致によるのか、そうでないのか明らかにされておりません)このように考えますと、特別委員会は実質的には濫用的買収者かどうかを実体的に判断する権限を持っているようにも思えますが、高裁判断基準が、司法の場で立証するにあたってはあまりにも厳格なために、これを手続違反の問題にすりかえているのではないか、つまり立証の負担を転嫁させようとしているのではないか、と考えられます。

このように、楽天を濫用的買収者と認定するにあたっては、諸問題が発生する可能性があるために、私見としましては、本件では「濫用」認定は回避され、特別委員会の正式評価手続のなかで検討される、つまり法廷闘争には至らず、株主総会による発動の是非承認手続もしくはそのまま不発動(楽天の買付容認)に至ると予想しております。(ところで、昨日TBSは、3件の番組で過剰演出や不適切な編集があったことで総務省より厳重注意を受けていますね。楽天側としては、この厳重注意を受けて、TBSは今後どのような内部管理体制をとる予定なのか、統合を進めるうえで逆に説明を求める必要がありますよね。また、視聴率とCSR経営、株主の利益とステークホルダーである視聴者の利益をどう考えているのか、具体的なTBSの見解も陳述していただくことも、当然TBS経営者の説明義務の範疇にあると思われますが、いかがでしょうか)

4月 28, 2007 TBS買収と企業価値判断について | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年4月26日 (木)

内部統制の限界論と開示統制(3)

タイトルは異なりますが、昨日のエントリーに関連した話題であります。加ト吉社の6年間にわたる約1000億円に上る架空循環取引による売上計上(外部の調査委員会報告書要旨による情報)には、32社程度の企業が関与していたようでありますが、本日午後、読売新聞ニュース東京新聞ニュースによって、名古屋証券取引所市場1部に上場している鉄鋼商社(O社)が関与しているとの報道がなされました。(このO社の株価は、このニュースの後、かなり下落しております)報道内容によりますと、加ト吉社の東京支社と、別の冷凍食品販売会社、そしてこのO社との間で、同一在庫商品が循環していたようであります。東京支社が関与する循環取引疑惑の取引額は240億円程度に上るとみられておりますので、いくつかの大手企業が関与していなければ、これほどの与信枠まで膨らむことはないと思われます。(現在、加ト吉社の架空循環取引につきましては、元常務の方がほぼ単独で進めておられたような報道がなされておりますし、そういった流れの外部調査委員会報告の内容のようでありますが、よく考えてみますと、東京支社だけでも5,6年の間におそらく異常な売上が認められたでしょうし、また全社的にみましても、異常な売上が限定的な取引のなかで発生していたことは取締役のなかでも気づいておられた方はいらっしゃったのではないか、という疑念はぬぐいきれません)

さて、こういった報道がなされた場合、現にO社の株価が大きく揺れているわけでありまして、一般投資家、株主にとりましては重要事実に関する報道がなされたわけでありますから、即時O社からの情報開示を(投資家としては)求めたいところでありますし、通常は「一部報道機関による報道内容について」と題する適時開示がなされるはずであります。ところが、現在(4月26日午前2時)に至るも、このO社からは自社HPにも、また適時開示情報HPにも、25日の報道内容が真実なのか、事実無根なのか、それとも内部調査中なのか、外部第三者に調査委託をしているのか、なんらの情報開示もなされていない模様であります。有価証券報告書の計算書類の真実性に影響を与える事実が問題となるだけに、ここでは実体面についての推測は控えさせていただきますが、この適時開示に関する上場企業としての姿勢については疑問を感じます。以前、スティールパートナーズに株を買い進められた明星食品社につきましても、どういった対応をとるのか公表をされず、「沈黙作戦」をとられたように報道されておりましたが、あの場合は熟慮期間として黙することもひとつの戦略とみられるところもあったかと思います。しかしながら、今回の場合には、おそらく名古屋証券取引所のほうからは、なんらかの会社の対応に関する開示を要求されているのではないでしょうか。

昨年10月ころにアップいたしました内部統制の限界論と開示統制といったエントリーをお読みいただきますと、私の意見も大方ご理解いただけるかとは思いますが、金融商品取引法の施行により、有価証券の流通面における企業情報開示制度については、大きく「内部統制報告制度」「四半期報告の法定化」「経営者確認書制度の義務化」に分けることができます。そして、内部統制報告制度だけでなく、この四半期報告制度、確認書制度の義務化につきましても、けっこう上場企業にとっては重要な制度変更であります。短期に報告書を提出しなければならず、その報告書には経営者やCFOの確認書も添付しなければならないわけでして、その確認手続きの適正性が企業内部においてシステムとして整備されなければならないわけであります。アメリカのSOX法でもそうでありますが(SOX法302条と404条の関係)、一般には内部統制と開示統制とは別個の手続きであると理解されておりまして、SEC規則をもとに考えますと、企業グループ全体からの重要情報収集手続きと企業情報開示手続きといったふたつの局面で適切性、網羅性、適時性が要求されます。たとえばこの鉄鋼商社であるO社におきましても、年間売上高6000億円のうちの250億円という売上比率が、どの程度まで重要性があるかは不明でありますし、どんなに財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムを整備運用していたとしましても、経営陣にとりましては事実を把握することが困難であったのかもしれません。つまり、内部統制の限界事例に含まれる事例だったのかもしれません。しかしながら、今回のような有事におきまして、できるだけ速やかに事実調査を行い、調査内容の真偽を判断し、公表すべき事実を確定する作業工程といったものは普段からマニュアル化、規則化しておくことは可能であると思います。こういった開示統制手続きがきちんと出来上がっている場合には、内部統制システムの整備状況も良好であろうと推測されますが、逆に適時開示が適切になされていない場合には、経営陣の内部統制システムの構築姿勢の評価にも悪影響を及ぼすものと推測されてしまいます。(こういった開示統制システムというものは、これまでも監査法人さん方も、それほど本格的に企業へコンサルティングされてきたことはなかったのではないでしょうか。むしろ、こういった統制システムの重要性を議論することで、会計不祥事が発生した場合の監査人自身への責任追及は軽減されるのではないかと思うのですが。)

もちろん、これまでも各証券取引所の規則によって四半期開示や確認書制度というものも存在していたわけでありますが、法定化され、義務付けられるとなりますと、もし適時開示に関する不適切な行為が認められた場合には、違法状態が存在することとなってしまいますし、取締役の法的責任論にも発展するのではなかろうか・・・という懸念を私は抱いております。(内部統制の議論と比較いたしますと、会計専門家の方による監査の対象外ですし、法的な争点にしやすい・・・といったほうが適切かもしれません)そこで、金融商品取引法の本格施行を前にしまして、最近話題になっている財務報告の信頼性に係る内部統制報告制度と同等程度に、この開示統制制度についても一定の注意を払っておかれたほうがよろしいのではないでしょうか。とりあえず、このO社が循環取引にどのように関与していたのか、その実体面につきましては、また明日以降の報道を注視しておきたいと思っております。

(26日午前9時40分追記)日経ニュースに今後のO社の対応について掲載されております。

(27日午前2時追記)コメント欄にも書かせていただきましたが、26日夕方にO社より開示情報として、加ト吉社との循環取引に関する中間報告が出されております。実は、物商分離というのは、冷凍食品業界における取引慣行としてはあたりまえのことで、商社取引と架空循環取引は外観からは認識は困難、とのご意見も頂戴しました。このあたりは、私も実務慣行がどうなっているのか、とりわけ専門商社が介入している取引の状況をもうすこし詳しく調査してから、あらためて続編を書かせていただくことにします。

4月 26, 2007 内部統制の限界論と開示統制 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年4月25日 (水)

架空循環取引と内部統制の効用(2)

ある大手損保会社の方が幹事となりまして、オトコばっかり8人の「合コン」に参加してまいりました。いやいや面子は凄かったです。内部統制コンサルの会計士さんや、某人材派遣会社の役員さんとか、普通にご紹介できる方もいらっしゃったのですが、こうやってブログで肩書きすらご紹介できない方も何名かいらっしゃって、実に楽しい夜会でした。とりわけ某著名企業で長い間「架空循環取引」に関与されていた方の話はナマナマしかった。。。この合コンは続編もあるでしょうし、信頼関係を破壊してしまってもナンですので、お話はできませんが、とりあえず勉強になりました。(^^;

さて「架空循環取引」といいますと、すでにligayaさんのブログでもご紹介されているとおり、加ト吉社(および関連会社)によります6年間で1000億円にも上る架空循環取引の内容が外部調査委員会報告書によって明らかにされました。(ただし公表されておりますのは報告書要旨のようです。外部調査委員のメンバーの方は主として大阪の弁護士、会計士の方々が多いようですね。)3月27日のエントリー(架空循環取引と内部統制の効用)におきまして、加ト吉社における組織概略図をもとにいろいろと内部統制の効用について検討しておりましたので、またその続編として若干の感想を述べてみたいと思います。まず、この報告書(要旨)を拝読いたしまして、モニタリング機能というものは加ト吉社では機能していなかったことが印象的であります。せっかくのコンプライアンス委員会、内部統制委員会(グループ企業連絡会を含めて)、危機管理委員会といった常設の組織が本件でどういった活動を行ったのか、この報告書ではまったく不明であります。報告書では「内部統制機能が発揮されなかった」と結論付けられておりますが、なぜこういった立派な組織が存在していたにもかかわらず、機能が発揮されなかったのでしょうか?整備と運用の状況を含めて、非常に知りたいところであります。

つぎに、架空循環取引として5つのパターンが存在していたことが報告されており、そのうち東京支社における取引に異常取引形態が認められていたにもかかわらずずさんな経理処理が放置されていたことが判明しております。もしひとつのパターンでも、架空循環取引の存在が判明すれば、別のパターンも(おそらく)容易に調査することが可能であったと思われますので、この経理処理の放置はかなり重大な問題ではなかったか、と考えられます。このあたりは(グループ会社とはいえませんが)関連企業も含めたグループ全体における内部統制システムのあり方というものの重要性を認識することが必要だと思われます。

そして最後になりますが、あまり報告書(要旨)では突っ込んだ疑問が呈されておりませんが、すでに昨年12月の段階で加ト吉社の子会社(加ト吉水産社)が架空循環取引に関与していたことを推認できる出来事が発覚していたようであります。この報告書におきましては、この子会社による架空循環取引への関与を見抜けなかった点に内部統制上の問題があったことを指摘されておられますが、私が一番疑問に感じますのは、この段階でなぜ加ト吉本社は自社を含めた事実調査に動かなかったのだろうか・・・といった点であります。この報告書によりますと、加ト吉本社で事実調査に動き出したのは、監査法人に対して取引先からの告発があった本年1月10日以後のことであります。ということは、昨年12月14日から約1ヶ月間、加ト吉社としては「何もしなかった」と評価せざるをえないのではないでしょうか。おそらくこのあたりが、報告書で指摘されている「創業者によるワンマン経営」ということの弊害かとは思いますが、こういった事情からみますと、本件における架空循環取引は、単なる内部統制システムの「限界」の問題ではなく、きちんとしたシステムとガバナンスがしっかりしている場合には、最小限度の損害発生と信用毀損の範囲で防ぎきれたのではないか、と思われます。(もちろん、架空循環取引に関与していた企業が判明しているだけで32社もあった、ということですから、事の重大さを考えますと、容易に事実調査に動くことができなかったような事情があったことは推認できそうでありますが、やはりそれは問題の次元が異なるというべきでしょう)正式な調査報告書を読みますと、もうすこし真相がはっきりするのかもしれませんが、ざっくりとではありますが、いくつかの疑念とともに、やはりグループ企業も含めた内部統制の構築によって、架空取引という、企業コンプライアンスに及ぼす影響を認識することが可能であった事例だったように思われます。

4月 25, 2007 架空循環取引 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年4月24日 (火)

MBOルールの形成過程を考える

(一部訂正に関する追記あります)

レックスHDの事例を引用しながらMBO(マネージメント・バイ・アウト)と少数株主保護についていろいろと考えていた時期から、ずいぶんと時間が経過してしまいました。最近の企業会計、企業法務の専門誌を読んでおりましても、このMBOと少数株主保護(株主排除?)に関連するレベルの高い論稿が増えたように思います。学者の先生方も、大手の法律事務所を中心とした法曹実務家の方々も、(また、以前日経ビジネスオンラインの記事でご紹介しましたとおり、裁判所におきましても)来るべきMBOの適法性(MBOに関与する取締役の善管注意義務、忠実義務違反など。なお価格の公正性を含めるとすれば、株式買取請求事件もここに入るでしょう)を争う法廷闘争に備えて、さまざまな議論が展開されているようであります。商事法務に3回にわたって連載されておりました「フリーズアウトに関するデラウエア州法上の問題点」(N弁護士)や、ビジネス法務6月号に掲載されているT准教授とK弁護士との対談(前編)、同6月号の大手NT法律事務所の方々による「M&Aを有利に進める株主対応」などなど、どれをとりましてもたいへん興味深い内容でありまして、会社法的な考え方、訴訟法的な考え方、比較法的な考え方など、いろいろと実務に参考となるところが満載であります。ただ、考え方はいろいろありますが、基本的なところでは、「効率的なMBOは企業社会では有益であるが、少数株主の利益は最大限確保されなければならない。一般投資家にとって上場企業の退場場面においても安心できる制度でなければ、市場に参加する投資家の数は増えないのであって、投資家保護、市場の活性化のためにも、退場企業のルールを合理的に決めることは重要。とりわけMBOに不可避的に発生する対象企業の取締役(支配株主)の利益相反問題を規制するべき合理的なルールの形成が必要。」といったところではほぼコンセンサスは得られているのではないでしょうか。

このブログでM&A関連のエントリーをアップするときには、いつも「素人考え」というフレーズで逃げておりますが、今回も素人的発想による疑問でありますから、そのあたりを「値引き」してお読みいただければ幸いです。といいますのも、非常に優秀でいらっしゃる若手、中堅のM&A専門家の方々の雑誌の論文を拝読しておりまして、よくわからないのが「アメリカの実務や、日本の会社法制度、裁判所制度を背景としたMBOルールがどうあるべきか」といった議論は進展しているように見受けられるのでありますが、「それじゃ、誰がその合理的なMBOルールを形成するのか?」といったところは、議論されているのだろうか・・・・・、というところであります。(ホント、これまったくの素人的疑問でありますから、もしすでに議論の集積がありましたらご教示いただきたいところであります)たとえば、わかりやすい例ですと、ある上場企業がMBOの対象企業となり、某ファンドが設立するSPCによってTOBをかける。この上場企業の経営陣は、TOBに賛同する旨の意見表明を行い、ファンドとともにSPCの持分を取得する。TOBによって90%以上の株式をSPCが取得した場合には、合併比率(交換比率)を調整のうえ、略式合併(略式株式交換)によって、少数株主を排除(キャッシュアウト)する、といったスキームがあるとします。もしかりに、この上場企業の経営陣による利益相反問題が顕在化しないままに、客観的にみてTOB価格が支配株主以外の少数株主にとって低廉である場合、その違法性(不公正)を正すべき合理的なルールはどこから生まれてくるのでしょうか?一般的にみてTOBに応じることなく、事後の簡易合併手続き(簡易株式交換手続きでも同様)における株式買取請求権の行使による是正が考えられるわけでありますが、しかし株式買取請求紛争の実態を考えますと、カネボウ株主の方のブログを拝見しておりましても、鑑定費用に莫大な費用がかかるところでありますし、(私も読ませていただき、ビックリいたしました)とうてい一般の株主が予納できるようなものではありません。また、たとえ費用をかけて公正な価格算定が可能でありましても、それは個々の株主の満足とはなっても、今後のあるべきMBOの姿を形成するようなルールは生まれてこないのではないでしょうか?(ここが最大の問題点だと考えるのでありますが、もし間違っておりましたらご意見をいただきたいところであります。よく、少数株主保護といっても、いっぽうで有益なMBOを阻害してはならない、その調整機能として反対株主には株式買取請求権を行使する機会があるではないか・・・と言われておりますが、果たして本当に、この株式買取請求権の存在が、そういった調整機能として有効なのかどうかは疑問ではないでしょうか。)また、会社法上日本ではクラスアクションのような制度はありませんので、個々の株主が全体のスキームを問題としながら、TOBから始まるMBOの不公正さを議論する場面というのはかなり限定的であることが現実だと思われます。

たとえば、先日の東京鋼鐵の合併事例において、いちごアセットマネジメント社が、少数株主として登場し、委任状争奪競争で一定の効果を残したわけでありますが、MBOの場面におきましても、そういったファンドが少数株主として登場することも考えられるところであります。そういったファンドがリスクを背負いながら、TOB後の合併比率の不合理さを根拠として簡易合併等の取消、決議無効を争う、といったことも考えられるところであります。しかしながら、ファンドにおきましても、日本における法廷闘争には時間と費用がかかるところでありますし、人様から預かった資金を長期間寝かせておくことはできないのが通常であります。そう考えますと、議決権行使の場面においては活躍が期待されるファンド型少数株主でありましても、ことMBOと司法判断、といった場面となりますと有効に機能しないのではないか、とも思料され、果たしてMBOの合理的なルール(取締役の利益相反行為に関する判断)は、せっかく裁判官の方々が、てぐすね引いて待っておられたとしましても、司法の場面では形成されないのではないでしょうか。また、ダイレクトにそういった取締役の責任を追及するための第三者責任追及訴訟(会社法上もしくは民法上の不法行為責任として)を提起することも考えられるでしょうが、おそらく勝訴可能性や、費用負担の面ではなんら変わるところはないと思います。敵対的買収防衛ルールにおいては、その導入および発動の場面において司法判断が担保されるがゆえに、「パワーゲーム」の手段となりえますが、MBOの場面においては、担保となる司法判断が形成される土壌がないように思えます。また、MBOの場面における「あるべき取締役の振舞い方」つまり、善管注意義務をどう尽くせばよいのか・・・といった議論もさまざまなところで行われておりますが、これは最終的には株主代表訴訟を提起されるリスクによって担保されているわけでありまして、果たしてMBOで顕在化すべき「利益相反問題」はそういった訴訟のリスクによって担保されているといえるのでしょうか?(これは、どんなに情報開示面を強調した、司法によるプロセス判断重視を検討しても、訴訟提起へのインセンティブ問題が前提にある以上は同様ではないでしょうか)

こういったところからしますと、あるべきMBOの姿を追求できるための合理的なルールというものは、果たして司法判断のなかから形成されていくのかどうかははなはだ疑問でありまして、「やったもん勝ち」の世界ではなかろうか・・・と一抹の不安を覚える次第であります。もちろん、東証ルールのような自主規制によって「事前規制」をはかるべきなのかもしれませんが、すでにいろいろなMBO事例をみましても、取締役の利益相反問題への対処方法は、個々の事例によって様々であり、どのように事前ルールを詳細に規定しましても、情報の偏在化に由来する力の差というものは埋まらない気がします。結局のところ、取締役の善管注意義務が尽くされることを担保できるのは、事後に公正な価格と公正な手続きが審査され、また立証責任が転換されるべきルールが形成されることによって、MBO手続きがひっくり返るリスクを背負うことに期待されねばならないのではないか、と思いますし、「法の支配」をM&Aの世界にも貫徹するのであれば、どうしても司法によるルール形成の可能性を考えなければいけないのではないでしょうか。いま、少数株主のサイドから考えられることといえば、今後のファンド資本主義の更なる台頭、日本の株式市場が国際的に活性化することが予想されるなかで、こういったルールをきちんと形成することにもファンドが寄与することが、将来的な投資コストの低減につながる、といったことを認識していただくことと、裁判所に向けては、このままだと肝っ玉のすわった少数株主なら株式買取請求で満足できる余地はあるけれども、「やったもん勝ち」の世界でビビッてしまって、強圧的なTOBで満足せざるをえない株主は救済されず、ひいては市場への参加者は限定的に終わってしまうこと、それは最終的には一般国民にとって法による支配が及ばない領域を作ってしまうことにつながることの是非を問い、できるだけ鑑定費用や訴訟負担をかけずに効率的なMBOか否かを判定できる裁判手続の実現(もしくは工夫。たとえば鑑定費用をかけずに、手続きの公正さだけを争うことで、立証責任のバランスをはかり、相対的な決議無効を争えるような形として、その後は当事者間における和解的解決で決着をつけるとか。)をお願いすることが必要ではないか、と思います。なんだか最後のほうは泥臭い話になってしまいましたが、これがMBOと法律とのありのままの姿ではないでしょうか。

(追記 記述の誤り「簡易合併」→「略式合併」、「簡易株式交換」→「略式株式交換」を訂正いたしました。失礼いたしました)

4月 24, 2007 MBOルールの形成過程 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年4月23日 (月)

楽しい会社法学習法

私のブログでは、かつて「セレブな会社法学習法」、「ロハスな会社法学習法」をまじめに紹介させていただきましたが、今回は「楽しい会社法学習法」をご紹介いたします。これまでのものとは異なり、京都産業大学法学部の准教授でいらっしゃる木俣由美先生の「楽しく使う会社法」で、楽しく会社法を理解しちゃおう!!というものであります。

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条文の語呂合わせによって、条文内容が頭に思い浮かぶような工夫が施されており、かなり笑えます。ちょっと語呂合わせに苦しいところもありますが、このような発想で会社法の書籍を著される先生はあまりいらっしゃらないのではないか、と思います。「枝番抜きで条項が変更されたらどうなるの?」「施行規則まで理解しなければ会社法を理解したとはいえないのでは?」「そもそも、なぜ会社法を楽しく学ぶ必要があるのか?」・・・・・・・、などといった細かいことは抜きにして(^^;;、ともかく楽しく会社法を学ぼう!!といった向きには最適な本ではないでしょうか。

実は木俣先生は、最終学歴は京都大学とありますが、私の(阪大法学部の)先輩でいらっしゃいまして、ブログ「元検弁護士」の矢部先生同様、私が「司法試験の右も左もわからない」頃に、いろいろと勉強を教えていただいた方であります。(ただし矢部先生は別の大学のご出身ですが)もう24年ほど前のころですが、まだまだ阪大の法学部には女子学生が稀少なころ、木俣先輩はまるで慶応義塾大学在学中の「竹内まりや」さんのように清純で、法学部の学生には珍しく(?)「イマドキ」(当時の)の服装と髪型で颯爽とキャンパスを歩いておられました。でも、その容姿とはウラハラに(天然なのか、計算によるものかはいまだに定かではありませんが)「大ボケ」をかます かましておられたところがありまして、木俣先輩の周辺にはいつも笑いが絶えないのでありました。あれから四半世紀が過ぎましたが、いまでも木俣先輩は「笑い」と縁が深いご様子で、日本笑い学会の現役の理事でいらっしゃいます。(こちらの理事紹介のページのお写真を拝見しますと、うーーーん、いまでも少しだけ「竹内・・・・」風の面影が残っておられるような、おられないような)なお、昨年、私が役員を務めておりました大阪の弁護士団体におきましても、この日本笑い学会の副理事長の昇幹夫教授(麻酔科、産婦人科医)をお招きして講演をしていただいたのでありますが、笑いと脳の活動とはかなり関連性があるようでして、会社法のようなディープな世界も、「笑い」と結びつけることになんらかの意義を見出せる可能性は否定できないと思いますよ。

4月17日の読売ネットニュースでは、そんな木俣先生のユーモアあふれる研究室の様子が掲載されております。また、最新号の商事法務(1797号)では、「株主総会決議がないことを理由にした取締役への退職金支払の拒否が、信義則上許されないとされた事例」につき、商事法判例研究として論稿をお出しになっておられ、研究活動にも勤しんでおられるようです。(私も仕事に行き詰まるようなことがありましたら、会社法研究者としてでなく、笑いの学会理事としての木俣先生に、なにかアドバイスをいただこうかなぁ・・・と。)

4月 23, 2007 セレブな会社法学習法 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年4月21日 (土)

ブログの通訳能力(おおすぎBlogに期待するもの)

すでに磯崎さんのブログでご紹介されているとおり、大杉謙一先生(中央大学教授)のブログが開設されております。(私もさっそく、WEBリストに追加させていただきました)閲覧されている方の数から想像して、(広報の役割としましては、私ではちょっと効果が薄いと思われますし)拙ブログでご紹介するのもおこがましいのでありますが、月1回程度でも更新していただきますと、たいへん刺激となりますので、ぜひ細く長くお続けいただければ・・・と、ひそかに期待する次第であります。

そういえば中山先生(当時47thさん)の「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の終焉にあたり、中山先生は「ブログ論壇考」というたいへん面白い「47thとしての2年間の感想」を綴っておられ、道半ばで帰国の途につかれました。私はその「論壇考」のなかで、47thさんが言いかけて文章にされなかった「今後ブログに期待される通訳能力」について、非常に関心がございました。大杉先生は、世間で注目される論文をお書きになる立場でありますから、そこにこめられたご自身の思いや、論文ではかけない微妙なニュアンスを「ブログを媒体として」お伝えになることは、まさにブログに期待される通訳的機能を発揮することとなるものと思いますし、私はそこに大きな社会的意義を感じます。これは葉玉先生(当時葉玉検事さん)が「会社法であそぼ」を開設されたときにも感じたところであります。

たとえば、このたびの「権限分配論の呪縛」に関するエントリーにつきましても、このブログを拝読したうえで、もう一度商事法務1796号のスクランブル「三角合併と買収防衛策」に目を通しますと、筆者の提起された問題点などが非常にクリアに頭に入ってきます。いままさに問題となっている論点への「通訳的機能」というものは、やはり書き手に相当の力量が求められるように思います。

47thさんが「ふぉり・あと」に最後まで書ききれなかった「ブログの通訳能力」を、おそらく大杉先生が今後自らのブログで体現していただけるのではないか・・・と考えますと、また法務ブログの楽しみがひとつ増えたような気になってまいりました。(あっでも、ホント、月1回程度でもけっこうですから、細く、長く、お