関西テレビの内部統制体制
この4月より、同志社大学法科大学院の非常勤講師に就任いたしまして、後期より週1コマ、民事法演習(会社法)を担当させていただくことになりました。ということで、本日は教員の方々の懇親会に出席させていただき、たくさんの専任教員の方々とお話させていただきました。(元裁判官の「大学院教授」という方はけっこういらっしゃるんですね。)これまでの人生におきまして、「私学」というところに一度も通ったことがないものですから、同志社の今出川キャンパスの美しさには、たいそうビックリいたしました。ただ、私をお誘いくださった某教授以外、ほとんどの教授の方がブログをご存知なかったことからしますと、「この弁護士さんは卒業生でもないのに、なんでウチの大学院に?」って、思われたのではないでしょうかね。(^^;;あっでも、とくに商事法関係の先生方皆様に温かく迎えられて、ともかくホッとしましたです。
ところで、昨日はココログのメンテナンスのために更新はお休みさせていただきまして、昨夜はじっくりと「あるある大事典捏造」に関します特別調査委員会報告書に目を通しておりました。(150ページ以上のたいへん内容の濃い報告書であります。7週間にわたる5名の特別委員会委員、および約20名の調査担当弁護士によります珠玉の作品であります。なお、報告書の概要も合わせて関西テレビのHPにアップされておりますが、もしお時間がございましたら、この調査報告書本編を研究されるのがお勧めです。委員の皆様方にとりまして、事実認定のための証拠採取には人的物的な限界があったことが正直に書かれてありますし、リスクアプローチによよる真相究明の方法が赤裸々につづられております。したがいまして、この報告書を読むかぎりにおきましては、「まだまだ捏造された番組数は多かったのではないか」との疑念は出てきます。)日興コーディアルの特別調査委員会報告書は、金融商品の内容や取引の中身を理解するのがしんどいために、なかなか読み進めるのもたいへんだったと思いますが、こちらの報告書はページ数は非常に多くとも、中身は比較的どなたでも理解できるのではないか、と思います。昨日は関西テレビで「あるある捏造についての検証番組」が組まれておりましたが、この報告書を読んだ後に番組を見たほうがよかったようです。「検証番組を早期に放映すること」ということが、この委員会からの要望事項に含まれておりますし、またこの報告書によりますと、今後は関西テレビ独自の詳細な捏造事件報告書が提出(HPでも公表)される予定になっております。
とりわけ関西テレビの内部統制システム(報告書では内部統制体制)の現状と体制構築への大胆な提言部分につきましては、長年の放送業界の実態や高度に表現の自由が保護されるべき企業の特異性を考慮したたいへん興味深い内容になっております。日興の調査報告書との大きな違いといいますと、日興の報告書では「誰に責任があるか」といった視点を比較的明確に打ち出しておりますが、こちらの調査報告書は、不正を生み出した関西テレビの構造的な欠陥部分がどこにあったか、という視点を前面に打ち出しておりまして、「第三者による調査報告書」といいましても、いろいろなパターンがあることが認識できます。会社法上の内部統制システムをどう構築すべきか、という提言を委員会として重視するのであれば、こういった構造的欠陥を明確に判断する方式のほうが、なんとなくしっくりいくような気がしました。
ただ、この「あるある」報告書を最後まで読ませていただいて、もう少しツッコミが欲しかった(と、私が感じた)ところがございます。それは納豆ダイエットに至るまでの、番組制作側における(許されるべき)演出→(許容されない)誇張表現→捏造といった不正への流れが時間的にどのように増えていったのか、それとも時間的流れに関係なく、さまざまな不正が混在していたのか、といった視点であります。といいますのも、関西テレビの東京支店が制作を委託するにあたり、日本テレワーク(制作受託会社)及びアジトがいきなり捏造番組を制作することは考えられず、最初はちょっとした誇張表現から始まったのではないか、と推測されるからであります。「面白い」「わかりやすい」生活バラエティ番組で視聴率をとることが絶対の使命であったことのようですが、そのために最初は少しばかりの誇張表現から始まったのではないか、しかしそんなところに関西テレビ側からのクレーム等がこなかったために、次第にエスカレートしていき、最後には捏造することになんらの躊躇も覚えなくなる、といった時系列的な流れはなかったのでしょうか。内部統制システムの構築は、リスク管理の一種です。不正が発生した場合には、できるだけ早期に発見するシステム、不正が発見された場合には、できるだけ被害が最小限度ですむようなシステムを構築する必要がありますが、本件では番組制作会社側の「最初の小さな不正」をどうやって見つけ出すのか、それともそれは「内部統制の限界」であって、内部統制の仕組みだけでは見つけることはできないものなのか、もし見つけた場合に関西テレビ側としては、どう対処すればいいのか、といったところを、もう少し検討していただけたら、統制システム構築の具体的提言の説得力にも影響したのではないかな・・・と思いました。いずれにしましても、もしコンプライアンス研究会のようなものができましたら、こういった内部統制体制の提言を意識した報告書の検討をぜひしてみたいと思います。(それにしましても、短時間にこれだけの報告書を提出された委員の方々の意欲には、たいへん感服いたしました)
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コメント
私的な見解になってしまいますが、まず、何故「捏造」したのかというところを考えると、毎週放送の番組は、製作会社3~4社で持ち回りで番組を作っており、1年に1度くらい入れ替えがあったりして、視聴率の取れない製作会社は、首を切られます。製作会社にとっては、死活問題です。当然、視聴率を取りに行きます・・・そのためなら何でもします・・・テレビ局もスポンサーがつかないとお金が入りません。多少のことは、目をつぶります。つまり、監査機関がお金を出すスポンサーにないといけないのです。これは、非常に難しいでしょう!番組作りの素人に監査させるのですから・・・おそらくシステムとして確立しないと思われます。これが、私の見解です。内部統制としては、NGですけどね。
投稿: 竹村 | 2007年4月 5日 (木) 09時59分
はじめまして。先生と同じ名前ですが、関西のある放送局に勤務しております。いつも勉強させていただいております。
私も実は竹村さんとよく似た感想を持っておりまして、この報告書を読んだ感想としては「これじゃ放送局はつぶれるな」
内部統制のあり方と表現の自由が保障されることの調和をどこに求めるか、といった視点はわからないでもないですし、また報告書のなかに取り上げられているNHKのコンプライアンス指針を参考にすることも理解できますが、民間放送はスポンサーと広告代理店の絶大な力の前ではいかんともしがたい面があります。
この報告書のなかで、ディレクターの交代について触れた部分がありまして、そこにあるように、放送局のコンプライアンスのあり方は、多分に「人」に依存しているのが現実ではないでしょうか。構造的な欠陥と言われますが、こういった「人」に依存するところが大きいことを認めつつも、今後長い目で検討する姿勢がなければ、これまでと同じことの繰り返しで終わります。
企業内だけで再発防止を考えることで果たして立ち直れるのだろうか、とこの報告書を精査して思ったようなところです。
長々と失礼しました。
投稿: 俊明 | 2007年4月 5日 (木) 11時07分
(俊明様)
>民間放送はスポンサーと広告代理店の絶大な力の前ではいかんともしがたい面があります。
つまり、森永や明治製菓の圧力で、不二家を攻撃したということですか?
テレビ局にCM料をはらわないと、ああいうことになるのですか?
投稿: hamster | 2007年4月 5日 (木) 16時48分
はじめまして。いつも勉強させていただいております。
私は法曹界にも、そのような業務にも携わらない一介のサラリーマンです。
検証番組を見ていて疑問に思ったのですが、そもそも捏造行為は法的にどう言う意味(罪)があるのでしょうか。直近起こった不二家と比較して、
一方は原因除去できるまで販売自粛、他方は相変わらず番組制作+放映
しております。
誰に対する提供物の品質かが異なっている気がします。
放送局はお金を出しているスポンサーのために番組を作り、
お金を払わない視聴者が捏造だと怒っている現象を見ていると、
竹村さんがおっしゃっているように、スポンサーが動かないと、
客観的立場を装った、監督官庁の勝手な品質レベルを法制化されるようになると思いました。
投稿: straycats | 2007年4月 5日 (木) 21時54分
「(第三者による)特別調査委員会」ばやりですが・・・。
①この手の委員会は、当事会社の発意で、任意に設置(報告書全文の公表を含む)されるものなのでしょうか。外部からの薦めとか(事実上の)強制のようなものでもあるのでしょうか。同じ不祥事でも設置・公表しないところもありますよね?この辺を分けるものは何でしょう?個人的には、「民」だけでなく、「官」もやって貰えると嬉しいですね(例えば、「冤罪」続きの警察・検察など)。
②委員会メンバーは元検察官を含む弁護士が多いですよね(しかもトップには高名な元検察官が多い)。何気に納得しまう人選ではありますが、よくよく考えると何も犯罪(嫌疑)捜査ではない訳ですから、あまり必然性はないような気もします。また、内部統制的な切り口で調査するんでしたら、「内部統制ビジネス」の”中核業界”である公認会計士とかコンサル会社の人々が入ることが少ないのも不思議な話ではあります(西武球団の件は、カネ周りの件ですので、多分メンバーに入っていると思いますが)。それとも、本当のところ、実働メンバーにはしっかり入っているけれど、例の「匿名を条件で」という約束になっているのでしょうか。
③短期集中で相当の時間をかけて調査しているようですが、委員への報酬はどれくらいなのでしょう(単価の高い人達ばかりです)。その出処は当事会社かと思いますが、どうやって報酬を決めているのでしょう。予定調和的には、社内処分として返上させた役員報酬を充てていたりするといいんですが、そう上手くはいかないでしょうね。下世話な興味に聞こえるかもしれませんが、この構図は、(会計)監査人の報酬は被監査会社自身が支払うという捩れ構造と通底すると思うわけで、この問題、そしてその延長上にある昨今の立法論議のヒントにもなると思うのです。会社法では、「独立性」の判断材料として、こういった事項も開示対象になってきました。「独立」調査委員会と謳うのなら、そういった”精神”を体現する会社が出てきても良さそうに思います。また、もしも当該不祥事が、後に株主代表訴訟に”発展”した場合、この報酬も「損害」と認定され得るのでしょうか?
いつも”ひねくれた”モノの見方しか提示せず、本ブログを汚すことになり、誠に申し訳ございません。
投稿: 監査役サポーター | 2007年4月 5日 (木) 23時44分
皆様、ご意見どうもありがとうございます。
いろいろと勉強になりました。
ご意見をもとに、続編をエントリーしてみました。
投稿: toshi | 2007年4月 6日 (金) 03時02分
納豆の売り上げ各メーカー軒並み2倍から4倍に
http://www.nattou.com/bbs710/nattoubbs.cgi?list=pickup&num=3065
ちなみに、大阪圏は茨城についで納豆の生産量二位だったと思います。
(旭松とかフジッコがあるから)
でも、所詮テレビなんてチンドン屋みたいなもんなんですから、正しい情報番組とか期待する方が異常だと思いますが。テレビ局員や制作会社は科学者でもないし、賢くもないし、モラルも高いわけではないのです。みんなと同じ程度の人です。
投稿: hamster | 2007年4月 6日 (金) 23時05分