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2007年4月16日 (月)

経営統合はむずかしい・・・・(その2)

土曜日(4月14日)の日経朝刊(近畿版)には、私が社外監査役を務めます企業の合併撤回特集記事がドカーン!!と掲載されておりましたので、私もあまり偉そうなことは言えないのでありますが、同日の新聞にペンタックス社の大株主でありますスパークス・グループ代表者の(HOYA、PENTAX合併撤回に関する)コメント記事が掲載されておりました。ペンタックス社の取締役らは、たとえ直前に事実を知らされたとはいえ、合併に向けた基本合意について承認をしていたのであるから、今頃になって白紙撤回というのは善管注意義務を著しく怠っていると思う、こういった場合は撤回と同時に企業価値向上に向けた代替案を提示すべきだ、とのこと。たしか、白紙撤回に賛同されていたペンタックス社の取締役の方々は、「現在の合併比率のままでは、株主総会における承認が得られないおそれがある」といった理由で、合併に反対されていたと記憶しておりますので、こういった大株主様のコメント内容からしますと、今後どうやって株主の方々に白紙撤回理由を説明すべきか、かなり頭を悩ませることになるのかもしれません。ただ、いちごアセット・マネジメント社が「このままの合併比率では、東京鋼鐵社の実際の企業価値を反映していない」として、多くの株主の賛同を得て合併承認決議を否決した事例もありますので、取締役が少数株主の意向を考慮することも必要なのかもしれませんし、簡単には善管注意義務を怠った行動かどうかは判断できないものと思われます。

先日の「経営統合はむずかしい・・・」のエントリーでも書きましたが、私自身も合併統合に向けての情報管理を経験したうえでの感想ですが、昨年12月21日にリリースされましたペンタックス社の合併統合に向けての基本合意のお知らせ によりますと、すでにHOYAとペンタックス社双方において、企業価値の算定が行われており(UBS証券およびモルガン証券が公正な第三者として算定)、合併比率も同時に発表されておりますが、ほとんどの役員も知らされていない状況で、合併比率まで決められてしまうような企業価値算定というのは可能なんでしょうかね?役員や従業員の協力なしに、詳細な財務および法務DD(デューデリジェンス)はできないはずでしょうから、おそらく外部に公表してもいいような財務情報によって企業価値算定がなされているはずですし、たとえ公正な第三者機関による双方の企業価値が決定されたとしましても、相手方企業の企業価値算定を承認するためには、さらに詳細なDDの結果を待たなければ合併比率など、(それこそ株主代表訴訟のリスクをかかえることになってしまい)承認できないのではないでしょうか。ということで、私の(誰が考えてもわかりそうな)理屈によりますと、この12月21日の合併比率決定までの経過というものが、いったいどういった交渉がなされてきたのか、というところが明らかになりませんと、とうてい「現経営陣の善管注意義務」の中身を議論することが困難ではないか、と思う次第であります。

もちろん、ペンタックス社の取締役の方々は、はじめて統合計画を知らされた役員会の席上で、「ちょっと時期尚早ではないか」と異議を述べるべきだったのかもしれませんが、そこで大きな懸案事項(インサイダー取引規制)が出てくるわけであります。もうすこし、合併比率が適正かどうか、調査を進めてから発表したいのはヤマヤマではありますが、そうなりますと、今度は社内から逮捕者を出すリスクを抱えることになってしまいます。(以前のエントリーでも話題になりましたが、少なくとも、この時点ではインサイダー取引に該当するような「重要事実」はすでに発生していることになります。)ペンタックス社のリスクマネジメントとしましては、どういった経緯でここまで合併統合の話が進んできたのかはわかりませんが、とりあえず基本合意の公表については、その場で知らされた取締役の方々としましても、合意せざるをえなかったことも十分推察されるのではないでしょうか。また、白紙撤回したことにつきましても、たしかに株主、従業員に対して、合併を撤回するに値するだけの企業価値向上策を提示する必要があることはそのとおりかもしれませんが、現在の株主の利益を毀損するような合併比率による統合を阻止することを優先するのもまた、取締役にとっての善管注意義務を尽くすべき行動だと思います。(将来の企業価値が向上するためであれば、どんな合併比率であっても統合すべき、とはならないはずです)ひょっとすると、企業価値向上策を検討するより先に、HOYAよりも他に経営統合に適した相手方を見つける努力をすべきかもしれませんし、また配当政策やIR活動によって、実際の株価をもう少し高めるような施策が検討できるかもしれません。4月下旬には、HOYA社におきまして、TOBに出るかどうか、最終判断をされるようでありますが、それまでに「広い意味での統合」を含めて、両社がどのような方向で協議を続けていかれるのか、誰のどのような利益を最大限尊重される意向なのか、これからも注視しておきたいと思います。ただ、現実には、株価を乱高下させたことは事実であり、一般の株主様にはご迷惑をかけることになるわけでありますから、このあたりの問題は、M&Aと企業コンプライアンスが交錯する場面として、非常に判断がむずかしいところであることは間違いなさそうであります。

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