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2007年4月15日 (日)

会計監査人の内部統制(6-新たな疑問編)

一昨日の「会計監査人の内部統制(5-総会対策編)には磯崎さんやcritical-accountingさん、路傍の会計士さんはじめ、いろいろなご意見を頂戴しました。たいへん勉強になりましたし、また考えさせられるところも多かったように思います。ただ、いろいろとご意見を伺っておりますと、また新たな疑問が湧いてくるわけでして(そんなにたいしたことではないのですが)、もうすこしこのシリーズを続けたいと思っております。

今回は、皆様方が関心を寄せておられた「組織的監査と監査人のローテーション(定期的な交代)」に関する疑問であります。会計士さんの不祥事が市場の信頼を揺らぎかねないとして、監査現場における会計監査人と企業との癒着を防止するために、短期的なローテーションについても議論がなされているところであります。たとえば2年程度の短期間によるローテーションを義務化してしまえば、監査法人内の上級審査部による品質管理を重視することとも合致して、会計監査人の内部統制構築論ともマッチングするのではないか、と考えたのでありますが、会計士さん方のご意見は、やはり現場責任者による監査は今後ももっとも重要なものであるから、直接的には短期ローテーション制度とは結びつかない(結びつけるべきではない)といったご意見が圧倒的に多いようです。

たしかに現場における監査が最も重要ですし、ここで杜撰な監査がなされてしまいますと、そもそも監査法人内における品質管理の基礎資料すら存在しないことになりますので、理屈としては理解できるところであります。また、会計監査人の交代が企業にとりましても、新たな会計コストに跳ね返ってくることも予想されるところでありますから、費用面からみましても、ある程度の期間、同一責任者のもとで会計監査が担当されるほうが企業にとりましても経済的だといえるかもしれません。しかしながら、今回の監査法人改革にかかる金融庁(公認会計士・監査審査会)の主たる改革目的は「株主、一般投資家に目を向けた監査制度」の実現ではないでしょうか。たいへん難題ではありますが、投資家や一般株主のための監査制度ではあるけれども、年間報酬はその個別の企業との契約によって支払われているわけでして、そのことと「株主へ目を向けた監査」とをどこかで調和させなければならないわけであります。たとえば、前の(5)のエントリーでコメントをいただいている路傍の会計士さんの例え話のように、会計監査人と企業との間におきまして、意見の相違があって「監査意見は出せない」「いや、それでは招集通知が出せないので困る」といったトラブルが発生した場合、とことん話し合うことも大事でしょうが、最終的に投資家に目を向けた監査をしなければならないのであれば、監査法人さんは当該企業から監査人交代の意思表示を受けるリスクもあるでしょうし、また辞任することもやむなし、と決断することも必要ですよね。そうであるならば、普段から短期ローテーションに対応した監査体制を整えておかなければ、こういった事態で本当に株主や一般投資家のための監査業務をまっとうすることは困難になってしまうのではないでしょうか?たとえば減損や税効果会計のように、その企業のある程度の期間比較を必要とする「見積もり」や、企業ごとの重要な虚偽表示リスクがどこにあるのか、といった問題は、短い監査期間ではよくわからない、ということで判断できないところもあるかもしれませんが、だからといって、1年目、2年目ではよくわからない、なる理由によって経営者の意見にやむをえず従って監査意見を出すわけにもいかないでしょうし、また自信もって辞任をすることもできないのではないでしょうか。そもそも普段から短期でローテーションが可能な態勢を整えておいてこそ、経営者と意見が対立したときに、自信を持って企業との関係を絶つことができるわけでしょうし、それが一般投資家、株主に目を向けた監査の姿ではないのでしょうか。そういった体制つくりのためにも、監査法人の内部統制の整備は不可欠なもののように思います。どなたかが、監査というものは答えがひとつではない、一般に公正妥当と認められる会計基準から逸脱していなければ、財務諸表(計算書類)の内容の適正性を合理的に保証することが目的であれば、「適正意見」への到達にはいくつかの道がある、とおっしゃっておられましたが、現場重視をもって適正意見へ到達する道もあれば、現場と上級審査部との連携によって、適正意見へ到達する道も(これから考えれば)ありうるのではないでしょうか。それはひょっとすると、同一監査法人内における引継ぎのノウハウが必要になるのかもしれませんし、また監査法人間における引継ぎのノウハウまで要求されるのかもしれませんが、そういったノウハウも監査法人さんの構築すべき内部統制の一貫ではないか、と考えたりしております。(以上のとおり、私は2年のローテーションの義務化を推進しているものでは決してございませんが、ただ短期間での会計監査人変更が十分ありうる、といったリスク管理のもとで監査法人さんが内部統制システムの整備をされるのであれば、当然に短期で会計監査人が変更することも予想した監査業務を検討しておかなければ、投資家へ信頼されるための「外観的独立性」は説明できないのではないか、と思ってしまいました。おそらく、「限定意見」や「注記事項」、それから「引当金」項目の利用など、監査法人と経営者との話し合いの和解ラインを探る方法があることは承知しておりますが、いま監査法人改革によって問われている問題は、そのようなテクニカルなことで済ますことができるレベルの話ではないような気がしております。)

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コメント

今まで気づかなかったけど、監査人が交代するリスクって、財務報告の適正性に関係する重大なリスクかも知れませんね。

じっくり検討しなければならない大きなテーマのような気がします。

投稿: saikawa | 2007年4月16日 (月) 06時59分

監査人が交代しないで、会社と監査法人が癒着して粉食決算につながったリスクは、カネボウとかエンロンとか、過去の歴史的な事実として、たくさんあります。

ところで、監査人が交代したことにより粉飾決算を防止できなかったことが過去に存在しましたか?将来、一定の蓋然性で発生しそうなのでしょうか?

プロフェッショナル・ジャッジメントとは、過去に繰り返し何度も起きた過ちより、過去はほとんど存在せず、将来もあるかないか分からないような全くどうでもいいリスクを、ことさらに重大視することを言うのでしょう。

そういえば、金融庁企業会計審議会は、「財務報告に係る内部統制」の実施基準で「財務諸表の重大な虚偽記載」を問題にしているとき、なななななんと(!)「受注入力の金額を誤る」リスクが例示されていました。

きっと上場会社では、受注1万円を、受注1億円と誤って入力してしまい、しかも本人がそれに全く気がつかないリスクが、山のようにたくさん存在しているのでしょう。

投稿: なるほど | 2007年4月16日 (月) 07時26分

わが国の過去の粉食決算の歴史を、分かりやすくまとめた本があります。
ケースブック監査論 新世社 北海道大学大学院教授・吉見宏著

過去20件を超えるわが国の粉食決算の中で、監査人の交代により、新しい監査人が粉食決算を見つけ損ねた事例は何件あるのかな?

・・・・日曜日を使い読んでみる・・・・

一生懸命読んだけど、1件も見つかりませんでした。(涙)
監査人の交代による粉食決算の見逃しは、蓋然性の高い大きなリスクではなさそうですね。

さあ、監査人と会社が癒着したケースはどれくらいあったかな?
なんと、ほとんどでした・・・(はぁ)

投稿: ケースブック監査論 | 2007年4月16日 (月) 07時44分

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?(toshi 様、前回のエントリーにコメント頂きありがとうござます。)  今回も「ビジネス法務の部屋」4月15日エントリー「会計監査人の内部統制(6-新たな疑問編) 」のコメントをさせていただこうと思います。 toshiさんの疑問ですが、 >監査法人さんは当該企業... [続きを読む]

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