CSR経営は企業不祥事と無縁か?
(本エントリーとは無関係ですが、当ブログに関する若干のお知らせを追記)
不二家事件におきましては、「信頼回復対策会議」の議長でいらっしゃる郷原伸郎教授は、TBSの報道に不適切なところがあり「捏造」に該当する、不二家としては(TBSが第三者委員会を設けて徹底的な捏造調査をしないかぎりは)TBSに対して損害賠償請求訴訟を提起すべき、と会見されております。(フジサンケイビジネスアイの記事)たしかに、「このままでは雪印の二の舞になるぞ」といった社内文書も出てきたということですから、不二家自身の不正発覚を隠蔽する企業体質に大いに問題があったことは事実かと思われます。ただ「責任追及だけがコンプライアンスの目的ではない」とされる郷原教授の考え方からすれば、いったん不正隠蔽といった対応が明るみにでた不二家について、「あれもこれも」と悪者扱いする報道姿勢については、その企業の信頼回復を考える立場からみて、不二家の信用を徒に貶めていたものとして、また正しい原因究明のための事実調査の障害になるものとして、「捏造報道にはかなり大きな問題がある」と思われたのではないでしょうか。
最近でこそ、関西テレビの「あるある」捏造問題などで、マスコミの報道姿勢のコンプライアンスが大きな話題になっておりますが、郷原教授はすいぶんと前から、季刊誌「コーポレート・コンプライアンス」のなかでマスコミ報道の危険性に対して警鐘を鳴らしておられましたし、私が昨年、天満研修センターにて、郷原教授から直接質問させていただいたときも、「今後の企業コンプライアンス問題のなかで、一番難しいのがマスコミへの対応を含めたマスコミ問題です。」とおっしゃっておられましたので、この信頼回復対策会議の訴訟要請は、郷原教授の考え方を具現化したものと思われます。法令遵守というものが、企業不祥事を未然に防止することに主眼を置いたものであるならば、形式的な遵守体制の整備と違反者に対する責任追及の厳格化、といったところに企業の体制整備の力点があると思いますが、コンプライアンスはリスク管理の一種である、と捉えるならば、企業は関係者の責任追及とは別に、発生した不祥事をどうやって早期に発見するか、その不祥事の損害どうやって最小限度に抑制するか、といったところに力点が置かれます。私も企業コンプライアンスはリスク管理の一種である、という立場を支持するほうですが、そうしますと、有事におけるコンプライアンスの考え方としましては、徹底した事実調査と原因究明(因果関係も含めて)が第一、再発予防策検討が第二、そして事実調査に基づく関係者の責任追及が第三の問題ということになります。つまり優先順位としましては、責任者の追及は3番目ということになります。このように考えることが、もっとも企業価値を高めることにつながるのではないか、と思います。ただ、責任を追及することこそ、もっとも不祥事抑止策として適切である、といった考え方ですと、誰が悪かったのかといった犯人探しが注目されることとなり、あとから次々と「この企業にはこんな体質があった」と世間が納得しやすいような事案が根掘り葉掘り紹介される・・・・といった流れになってしまうようです。
それでは、すでに洋菓子販売を再開する不二家にとりまして、本当のところ、消費期限切れ商品(もしくは食品衛生法違反のおそれのある商品)を販売してしまった原因というところは明確になったのでしょうか?(皆様は、そのあたりご存知でしょうか?)コーポレートガバナンスに問題を抱えていた、といった会見での説明がなされたようでありますが、単に企業体質に問題があったというだけで、今後の不二家再生に生きる教訓が得られた、とはとても言えないはずであります。ましてや、企業不祥事といったものは千差万別でありますので、今回とはまた別の不祥事が発覚することへのリスク回避としては何が重要なのか、そのあたりが明確にされていなければ、結局のところ、経営者トップを処分して終わり・・・というに等しいような気がいたします。たとえば、私が「不二家の公表・回収義務を考える(その2)」においても、すこしだけ書かせていただきましたが、(不二家問題の当初に少しだけマスコミが取り上げておられた)不二家のCSR経営と不祥事との関係などは、このたびどう扱われたのでしょうか。環境問題への配慮から、できるだけ商品廃棄は避けよ、といった社訓が徹底されていた場合、その社訓にしたがって消費期限切れ商品を捨てられない風潮があったとか、労働問題への貢献策として「再雇用の積極的利用」を謳っていた不二家として、工場労働者が昔の勘に頼りすぎてしまい、消費期限を無視していた、といった意識があった、といったケースはなかったのでしょうか。私のいままでの実務経験からみて、私利私欲をむさぼる経営者不正以外における企業不祥事といったものは、不正を犯す目的と、もうひとつ、自らの行動を正当化するに足るだけの別の目的があるはずです。(このことは、すでに「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズでも、何度か取り上げました)この不二家事件におきましても、現場で消費期限切れ商品を(おかしい)と知りつつ使用し続けていた裏には、何かこういった正当化(もちろんそれが世間に対して正当なものとして、通用するものでないことも事実でありますが)する原因があったのではないでしょうか。また、そこに目を向けていかないと、本当の意味での「不二家の再生」は図られないのではないでしょうか。ずっと事件発生以来、この不二家問題をフォローしていたわけではございませんので、このあたりの再生への原因究明の過程を知らないままで記述しているのかもしれませんが、こういったところがもう少し報道されてもいいのではないか・・・・と勝手に思ってしまった次第であります。(たとえば、内部統制報告制度についても、こういった問題を内包しているのではないでしょうか。会計監査人の監査と経営者による内部統制評価の間にズレが発生したままであった場合、業務プロセスにおける現場担当者としては、監査人の適正意見をもらう必要があるために、もしくは経営者による評価を「有効」としなければならないために、新たな会計の粉飾を発生させてしまう、といった行動を余儀なくされる・・・といった事態は考えられないでしょうか?)
(4月2日午後 お知らせ)
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コメント
色々と御面倒な作業をしてまで、このブログを継続していただきありがとうございます。
まず、最初に思いましたのが、マスコミのあり方について、今一度、見直す時期に来ているのではないかということです。
私自身、大学卒業後5年ほどテレビの制作会社で働いていた経験があり、番組は、面白ければ何をしても良いというものだという世界であることを痛感させられ、それに耐えきれなくなり辞めてしまいました。「捏造」、「やらせ」などあたりまえで、製作サイドは、たまたま、「捏造」については、その時は違う結果が出てしまった、と言い、「やらせ」については、再現であって、やらせではないと自分たちの都合の良いように言い訳を作って製作を進めるのが実情です。TBSも他局と差をつけようと誰かが出した裏も取れていないネタにとびついてしまったのが本当のところでしょう・・・ネタを出した人間は、今頃焦ってるだろうなあ・・・
そして本題の不二家ですが、消費期限切れの牛乳の処理方法等を含んだ実際の作業工程について説明が、消費者にまだ見えきれていないまま再開してしまったような感じてしかたがない。どこかしら、自分たちが向き合うべき相手が消費者であることを忘れているように思われる。社内監査、ISO、国の許可さえ出れば営業は可能かもしれないが、営業販売することと、実際に、物が売れることは別の話であって、不二家ブランドに頼っているようでは、「雪印」どころではすまない(潰れな!)と思うのは私だけでしょうか?
馬鹿なこと書いてますが、今日は誕生日なので大目に見て下さい。
投稿: 竹村 | 2007年4月 2日 (月) 15時29分
コメント、ありがとうございます。竹村さんの捏造に関する話をお聞きしての感想でありますが、テレビ局というところは、多くの取引先企業を使って番組を制作しているものと思いますが(上記のお話しでは「製作サイド」ということになりますでしょうか)、発注元であるテレビ局からは、どういった監視監督体制が敷かれているのでしょうか。たとえば上記の捏造や「やらせ」に関する現場の実態については、現場に発注者が存在しており、すぐに問題点が明確になるのか、それとお製作サイドとしては、そういった事情は一切テレビ局側には伝えないために、テレビ局としては判明困難であるのか・・・そのあたりの実態については存じ上げないものですので。また、本日のエントリーにも関係するかもしれませんが、番組製作サイドとしても立派な内容の番組を作りたいのだけれども、予算やテレビ局サイドからの注文によって、捏造、やらせの発端となるような番組製作を余儀なくされている・・・といった事情はあるのでしょうか。
当事者が本当にこういった番組つくりを改めるためには、どういった体制で臨めばいいのか、そのあたりの事情を把握しなければならないように思いました。
投稿: toshi | 2007年4月 2日 (月) 16時34分