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2007年4月25日 (水)

架空循環取引と内部統制の効用(2)

ある大手損保会社の方が幹事となりまして、オトコばっかり8人の「合コン」に参加してまいりました。いやいや面子は凄かったです。内部統制コンサルの会計士さんや、某人材派遣会社の役員さんとか、普通にご紹介できる方もいらっしゃったのですが、こうやってブログで肩書きすらご紹介できない方も何名かいらっしゃって、実に楽しい夜会でした。とりわけ某著名企業で長い間「架空循環取引」に関与されていた方の話はナマナマしかった。。。この合コンは続編もあるでしょうし、信頼関係を破壊してしまってもナンですので、お話はできませんが、とりあえず勉強になりました。(^^;

さて「架空循環取引」といいますと、すでにligayaさんのブログでもご紹介されているとおり、加ト吉社(および関連会社)によります6年間で1000億円にも上る架空循環取引の内容が外部調査委員会報告書によって明らかにされました。(ただし公表されておりますのは報告書要旨のようです。外部調査委員のメンバーの方は主として大阪の弁護士、会計士の方々が多いようですね。)3月27日のエントリー(架空循環取引と内部統制の効用)におきまして、加ト吉社における組織概略図をもとにいろいろと内部統制の効用について検討しておりましたので、またその続編として若干の感想を述べてみたいと思います。まず、この報告書(要旨)を拝読いたしまして、モニタリング機能というものは加ト吉社では機能していなかったことが印象的であります。せっかくのコンプライアンス委員会、内部統制委員会(グループ企業連絡会を含めて)、危機管理委員会といった常設の組織が本件でどういった活動を行ったのか、この報告書ではまったく不明であります。報告書では「内部統制機能が発揮されなかった」と結論付けられておりますが、なぜこういった立派な組織が存在していたにもかかわらず、機能が発揮されなかったのでしょうか?整備と運用の状況を含めて、非常に知りたいところであります。

つぎに、架空循環取引として5つのパターンが存在していたことが報告されており、そのうち東京支社における取引に異常取引形態が認められていたにもかかわらずずさんな経理処理が放置されていたことが判明しております。もしひとつのパターンでも、架空循環取引の存在が判明すれば、別のパターンも(おそらく)容易に調査することが可能であったと思われますので、この経理処理の放置はかなり重大な問題ではなかったか、と考えられます。このあたりは(グループ会社とはいえませんが)関連企業も含めたグループ全体における内部統制システムのあり方というものの重要性を認識することが必要だと思われます。

そして最後になりますが、あまり報告書(要旨)では突っ込んだ疑問が呈されておりませんが、すでに昨年12月の段階で加ト吉社の子会社(加ト吉水産社)が架空循環取引に関与していたことを推認できる出来事が発覚していたようであります。この報告書におきましては、この子会社による架空循環取引への関与を見抜けなかった点に内部統制上の問題があったことを指摘されておられますが、私が一番疑問に感じますのは、この段階でなぜ加ト吉本社は自社を含めた事実調査に動かなかったのだろうか・・・といった点であります。この報告書によりますと、加ト吉本社で事実調査に動き出したのは、監査法人に対して取引先からの告発があった本年1月10日以後のことであります。ということは、昨年12月14日から約1ヶ月間、加ト吉社としては「何もしなかった」と評価せざるをえないのではないでしょうか。おそらくこのあたりが、報告書で指摘されている「創業者によるワンマン経営」ということの弊害かとは思いますが、こういった事情からみますと、本件における架空循環取引は、単なる内部統制システムの「限界」の問題ではなく、きちんとしたシステムとガバナンスがしっかりしている場合には、最小限度の損害発生と信用毀損の範囲で防ぎきれたのではないか、と思われます。(もちろん、架空循環取引に関与していた企業が判明しているだけで32社もあった、ということですから、事の重大さを考えますと、容易に事実調査に動くことができなかったような事情があったことは推認できそうでありますが、やはりそれは問題の次元が異なるというべきでしょう)正式な調査報告書を読みますと、もうすこし真相がはっきりするのかもしれませんが、ざっくりとではありますが、いくつかの疑念とともに、やはりグループ企業も含めた内部統制の構築によって、架空取引という、企業コンプライアンスに及ぼす影響を認識することが可能であった事例だったように思われます。

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