« 顧問弁護士と社外役員就任問題 | トップページ | 会計監査人の内部統制(5-総会対策編) »

2007年4月12日 (木)

監査役制度と企業環境の変化について

すでに、取締役を兼務する監査役のエントリーにてご案内のとおり、「監査役制度改造論」なる大杉謙一教授のたいへん興味深い論稿につきましては、「企業法務を社外監査役の視点から考える」という当ブログの主題とも関連するところであり、いろいろと考えながら拝読させていただきました。監査役制度をガバナンスの上で重要視したい立場からいたしますと、最初は少しとまどうところもあるかもしれませんが、よく読みますと(紀尾井町さんもご指摘のとおり)監査役制度に対する教授の思い入れが感じられ、監査役に対する一種の「檄文」として著されたのではないか、と感じます。また、精読するうちに、とうてい私のような場末の弁護士が批評できるようなものではない(やはりバックボーンが違いすぎます)と思うようになりましたので、この論稿を読ませていただいたうえでの私なりの単なる感想を述べさせていただこうかと思っております(気楽に数回に分けて・・・いつ完了するかはまだ未定でありますが。。。)

そこでまず、なぜ明治以来100年以上にわたり、日本独特の「監査役制度」というものの骨格が維持されてきたのでしょうか、そしてまたそれは変化しなければいけないような社会環境は果たしてあるのでしょうか?この点につきまして、教授は100年以上も維持されてきた制度である以上、この制度は合理的であり、すくなくとも日本企業には合致するものであったという論拠になるかもしれない、と述べておられます。ただ、商法改正に伴う諸事情も踏まえながら、「高度経済成長期の日本企業には、収益性の高いプロジェクトが豊富に存在していたので、経営者と株主の利害対立の危険は相対的に低かったこと」から監督機関には適法性監査だけが期待されていたことを指摘され、「企業の収益機会が稀少になり、経営者に求められる資質が調停能力からリーダーシップへと変化する(現代)ようになると、監督機関の役割も大きくなり、その権限も従前より強化される必要性が生じてきた」ものと論じておられます。ここに「高度経済成長の終焉から30余年が経過した今、監査役制度の根本の見直しが必要」とされる実質的な根拠を見出されておられるようです。(本文とはあまり関係ないかもしれませんが、大杉教授もすこしだけ触れておられますとおり、監査役制度の歴史のなかで、監査役に妥当性監査まで事実上認められていた時代があったんですね。その後、昭和25年改正によって、取締役会制度の法定化によって、そちらに妥当性監査への期待が高まり、昭和49年まで監査役の権限が会計監査のみに限定される時代となるわけであります。「新訂版・商法改正の変遷とその要点」2006年一橋出版 秋坂朝則著 参照)

私個人としましても、長年監査役制度が(改正を繰り返しながらも)維持されているところをみますと、日本企業にはかなり合致した制度であると思いますし、またその根本の見直しが必要ではないか・・・といったご主張にも共感する部分がとても多いです。ただ、監査役制度の根本的な見直しが必要ではないか、と考えるところの企業環境変化につきましては、私の場合には少し視点が異なります。おそらく、大杉先生は「適法性監査」→「妥当性監査」といった監査役の監督権限の拡大のための正当性を裏付ける諸事情を説明されたかったのではないか(「妥当性監査権限保有の正当性」→「取締役の任免権保有の正当性」にスポットをあてたかったのではないか)と推察いたしますが、私は(あまり深く考えず)単純に①企業法制のあり方が「事前規制」から「事後規制」へと変容されつつあること、②監査監督を担う外部機関のあり方が変わってきたこと、に求められるのではないか、と思っております。たとえば①につきましては、旧商法による大規模公開会社に対するガバナンス規制をはじめ、多方面にわたり、事前規制の要素が強かったわけでありますが、平成17年会社法改正によって「定款自治」をはじめ、公開企業に対しても経営自由度がアップした分、事後規制としての監督機能は強化する必要性が出てきたのではないか、と考えられますし、②につきましても、従前はメインバンク制度や行政監督、株式持合いなどによって、外部からの妥当性監査を含む規制に期待するところが大きかったのでありますが、ご案内のとおり、そういった外部監督機能を期待でいる制度自体が消滅(もしくは減少)しつつあるなかで、これらに変わる制度自体が現在必要とされるようになったのではないか、というところであります。まぁ100年とまでは申し上げられませんが、昭和25年改正以降の50年ほど、監査役制度が維持されてきた企業環境や、そういった企業環境が大きく変化していることについては、ある程度の説明がつくのではないか、と思っております。また、こういった根拠からですと、監査役の妥当性監査権限を認める→取締役の選定、解職権限を認めるといった流れをストレートに導くことはできないかもしれませんが、おおよそ監査体制への根本的な見直しが必要といった結論部分においては同様の意見に落ち着いていきそうな気がします。なお、見直しの視点でありますが、会社法上の内部統制システムの構築といった概念が、コーポレート・ガバナンスの議論に含まれることを前提といたしますと、こういった発想は監査役による妥当性監査に関する問題も含めまして、内部統制システムの整備運用と監査役制度の関係のなかで議論しやすいのではないか、と考えております。

つぎに取締役会設置会社における業務執行取締役と非業務執行取締役、そして監査役の職務権限にスポットをあてて、取締役兼務監査役の「自己監査」リスクへの私見を述べさせていただこうかと思っております。(不定期にてつづく・・・)

|

« 顧問弁護士と社外役員就任問題 | トップページ | 会計監査人の内部統制(5-総会対策編) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 監査役制度と企業環境の変化について:

« 顧問弁護士と社外役員就任問題 | トップページ | 会計監査人の内部統制(5-総会対策編) »