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2007年4月11日 (水)

顧問弁護士と社外役員就任問題

ちょっと本業のほうがバタバタしておりまして、今夜はブログをきちんと更新する時間がとれませんでした。もう少し時間的余裕のありますときに、監査役サポーターさんや、紀尾井町さん、とーりすがりさんなど、このブログ常連の論客の皆様が(おそらく)注目されていらっしゃる「監査役制度改造論」(by大杉教授)の論稿について、実務家に近い立場から私見(たたき台、いや、たたかれ台?)を述べさせていただこうかと思っております。この大杉先生の監査役改造論は会社法335条に関する話題でありますが、もうひとつ会社法335条に関する話題といえば、「当該企業の顧問弁護士(もしくは顧問法律事務所在籍の弁護士)は、当該企業の社外取締役、社外監査役に就任できるのか」といった伝統的争点がございます。もうすぐ「非常勤社外監査役実務指針」が商事法務さんから出版される予定でありますが、共著グループの間におきましても、この論点については非常に議論の多かったところでありまして、なかなか結論の出ない難問ではないか、と思われます。

なぜ会社法335条と関係があるかといいますと、監査役は取締役を兼ねることができないのと同様、使用人を兼ねることもできませんが、企業の顧問弁護士は、会社の「使用人」にあたるのではないか、といった争点がございます。(監査役の職務の独立性より)ところで、旧商法276条(現行会社法335条と同旨)の時代、法務省民事局第4課回答によりますと、顧問弁護士は商法276条の「使用人」に該当すると解釈して、「会社の顧問弁護士である者をその会社の監査役に選任する場合には、監査役就任の承諾を得る際に、顧問契約を解除しておくのが相当である」とされております。(いっぽう、日弁連見解では、276条に抵触することはないが、控えるほうがのぞましい・・・といった意見であります。最高裁判例昭和61年2月18日も、監査役である弁護士が当該会社の訴訟代理人になることについては違法ではない、との見解を示しております)つい先日の日経新聞でも、東京の大手渉外法律事務所さんでは、事務所が顧問、もしくは頻繁に相談業務を受託している上場企業の社外役員に就任するかどうか、という事務所の方針につきましては、かなり意見が分かれている、といった報道がなされておりました。近時、敵対的買収防衛策における社外役員の役割がクローズアップされ、また日興事件の特別調査報告書などをみてもおわかりのとおり、企業コンプライアンスの観点から社外役員の立ち位置が問題視されることが多くなっておりますので、こういった論点はけっこう「古くて新しい」話題といえるかもしれません。

法律解釈や、弁護士倫理規定の解釈など、いろいろな考え方がありそうですので、とくに違法とか適法とか、そういったレベルでのお話をするつもりはございませんが、これが株主総会参考書類への記載事項として、とくに問題としなくていいのかどうか、というレベルになりますと、ちょっと気になるところではないでしょうか。顧問弁護士が社外役員に就任することが違法かどうか、という純粋な学問的レベルとは別に、株主(とりわけ機関投資家)が、「社外役員の独立性」といった観点から会社の姿勢を判断する基準にならないのか・・・といったレベルのお話であります。たとえば監査役の選任議案に関する参考書類への記載事項としまして、会社法施行規則76条4項に、その社外監査役候補者に関する記載事項が列記されております。そして、候補者が下記のような場合に、そのことを会社が知っているときには、その旨を記載しなければならない、とされております。

(該当箇所のみですが)イ 会社の特定関係事業者(親会社ならびにその親会社の子会社および関連会社ならびに主要取引先)の業務執行者であること ロ 会社または会社の特定関係事業者から多額の金銭その他の財産(これらの者の監査役としての報酬を除く)を受ける予定があり、または過去2年間に受けていること・・・ニ 過去5年間に、会社の特定関係事業者の業務執行者となったことがあること

たとえば企業年金連合会あたりの議決権行使基準によりますと、この「特定関係事業者」というのは当該上場企業にとって、非常に取引額の大きい相手方企業のことを指すものと理解されているようでして、顧問法律事務所がどんなに大きな規模のものでありましても、取引額基準でいえば「特定関係事業者」には該当しないものと解されます。しかしながら、弁護士や公認会計士が、あえて社外役員に選任される理由は、その専門性もさることながら、高度な独立性に期待されるところが多いのは現実でしょうし、単に取引額の多少だけで判断するのは適切でないように思われます。むしろ、顧問法律事務所と上場企業との関係で捉えるならば、はたして企業の現経営者に対して業務上の助言をする立場にある法律事務所のパートナーさんが、独立公正な立場でモニタリング機能を発揮できるかといいますと、かなり怪しいのではないでしょうか。(もちろん、ここでは就任される方の人格といった問題を抜きにして、単純に外観的な独立性の観点から、という意味でありますが)ましてや、先日の日経新聞で記載されておりますとおり、大手法律事務所によっても、かなり問題視されているところからしますと、社外監査役の出身法律事務所が、たとえば過去2年以内に、当該会社から顧問料をもらっているとか、スポットで事件を委託したといった事情があるならば、それも「特別関係事業者」に該当するものとして、「この候補者の在籍する○○法律事務所は、当社の顧問法律事務所であります」といった記載をされたほうがいいのではないでしょうかね。(本来ならば、もし顧問法律事務所のパートナーさんであっても、社外監査役に就任してほしい理由まで記載されたほうがいいのでは・・・とも思うのでありますが、とりあえず候補者がそういった関係にあることだけでも記述する、との考えであります)そのあたり、あまり議論されていないところをみますと、施行規則の立法趣旨から離れてしまって、私の感覚がおかしいのかもしれません。

また、たしかに二段構えで準備をしておいて、参考書類には(法律および弁護士倫理規定の正当な解釈を根拠として)なにも書かないでおいて、もし株主から質問があった場合には、懇切丁寧に口頭で説明できるような支度を整えておく・・・というのが一般的なのかもしれません。しかし、社外役員が(株主のために)その能力を発揮するのは、どちらかといいますと企業の平時よりも有事の際ではないか、というのが持論であります。そして、平時において、きちんと対応していない企業が、果たして有事に対応できるのかといいますと、ほとんどそれは期待できないと思います。このたびの会社法(施行規則を含む)では、社外役員候補者について、参考書類で多くの項目を開示することになりましたが、これはやはり株主からみた関心事をできるだけ開示情報としようとの配慮からだと思われますが、なかでも社外役員の独立性については多くの機関投資家の関心事であることは間違いないと思います。そうであるならば、これまでの純粋な議論とは別に、社外役員のあり方に関する当該企業の姿勢を示す一貫として、「社外役員がうちの会社ではこういった仕事が期待されているので、こういった人を選任したい」と説明するための情報はどんどん開示したほうがいいと思います。(いろいろと株主総会対策本が出版されていますので、ひょっとすると、すでにどこかの本で話題になっているかもしれません。そういった議論がどこかでなされておりましたら、またご教示いただけますとありがたいです。ん?時間がないとかいいながら、書き出すと、けっこう長くなってしまいました。。。)

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コメント

ごぶさたしてます
ちょっと水を差すようなコメントになってしまいますがご容赦ください。
「顧問弁護士」といっても、役務の提供と報酬の決め方、コンフリクトの処理のルール等その契約内容は一義的に決まるものではないので、ケース・バイ・ケースの判断が必要なのではないかと思います。
「顧問弁護士」という言葉自体が定義があいまいのまま人口に膾炙してしまっていることのほうが問題ではないかと・・・
J-soxで業務の文書化が求められていますが、(一般的には)弁護士報酬などはそれの対極にある最たるものではないかという感じもしています。

投稿: go2c | 2007年4月12日 (木) 22時12分

どうもおひさしぶりです。
go2cさんのブログでは、かなり刺激的なことを書いてしまいました。

「顧問弁護士」というのは、たしかに多義的ですね。どういった範疇でくくればよいのか、開示情報に関する定義だけに、もうすこし明確な用件が必要になるのかもしれません。普段からコンフリクトに留意する職業人ですから、一般企業の方からみるよりも、「独立性」を阻害するリスクは少ないのかもしれません。ただ、やはり開示問題は精神論ではなく、客観性が担保されるべきものでしょうから、(重要性といった問題もありますが)どっかで線を引く努力もしてみるべきだとは思います。

これからも、辛口、甘口、いろんなご意見お待ちしております。

投稿: toshi | 2007年4月13日 (金) 02時21分

一言だけで失礼します。
社外取締役や社外監査役が、役員報酬以外に何かもらっていたらその時点でアウトだと自分は思います。

投稿: とーりすがり | 2007年4月13日 (金) 12時20分

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