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2007年4月 9日 (月)

取締役を兼務する監査役

土曜日(4月7日)は早朝から神戸大学まで出掛けまして、京都大学准教授でいらっしゃる曳野孝先生を中心とした「企業統治+経営戦略=収益性・業績」なる研究会に参加してまいりました。計量経済学の難しい公式を使ってのコーポレートガバナンスと経営戦略に関するお話であります。(この研究会の内容はたいへんおもしろいものなので、またときどき、誤解のない範囲においてエントリーのなかでも援用させていただこうかと思っております)ところで昨日の研究会におきまして、曳野先生は、コーポレート・ガバナンスの研究について、関西は東京から大きく水をあけられている、とぼやいておられました。(もちろん関西にも、たとえば神戸大学には、ガバナンス研究で知られるK教授がいらっしゃいますが・・・)私は法律学の分野における全国勢力図、のようなものをまったく存じ上げませんので、どこの大学がどんな分野に強い、といったことに、あまり関心をもっていないのでありますが、たしかにコーポレート・ガバナンス研究といいますと、最近では「公開会社法」研究や、社外役員制度の検証や提言、そして内部統制システム構築に関する研究などなど、どれをとりましても東京主導で活発な議論が展開されているように感じております。でも、これはコーポレートガバナンスに関する議論に限って言えば「やむをえないこと」ではないかなぁ・・・と思います。といいますのも、たとえば曳野先生の精緻な計量経済学に基づくガバナンス研究成果について、ご自身はその理論的な正当性についてはたいへん自信をお持ちでいらっしゃいますし、そのこと自体を私がとやかく申し上げるだけの力量もございません。ただ、みずからの理論に正当性を補強できるような「企業実務における実証例」が不足している、と痛感されているようなのです。これは経済学の見地からでも、法律学の見地からでも、同じようなことが言えるのではないでしょうか。理論的にどのような制度が適切か(もしくは企業パフォーマンスの向上に役立つか)といったところを論じようとする場合、その理論を根拠付ける実社会における企業実務や、立法事実を基礎付ける実証例を集積しようとする場合、どうしても経済団体などの支援(といいますか協力)が不可欠です。そういった意味では、東京の場合ですと主要な経済団体をはじめ、日本取締役協会や日本監査役協会の本部、そして社外取締役ネットワークなど、ガバナンスの研究団体もありますので、そういった実社会における実証例を学者の先生方が採取するにあたっての「アドバンテージ」は関西とは比べものにはならないほど東京のほうが豊富だと思います。したがいまして、こと「コーポレート・ガバナンス研究」に関するテーマをリードできるような論文は、やはり東京から発信されるケースがこれからも多いのではないかと推察しております。

ということで、やはり東京から発信されているガバナンス分野における法律学者の先生方の論稿のうち、私が最近ドキドキしながら拝読させていただいたのは、中央大学の大杉謙一先生が商事法務1796号(4月5日号)でお書きになっている「監査役制度改造論」と、跡見学園女子大学の柿﨑環先生が月刊監査役525号(4月号)でお書きになっている米国SOX法404条運用に関するSEC新ガイダンス(案)紹介とJ-SOXへの反映への試論(すいません、自宅でこのエントリーを書いておりまして、手元に当雑誌がないために、正式な題名を失念しております)  「経営者のためのSOX法404条ガイダンスの概要」であります。いずれの論稿につきましても、拙ブログにお越しの皆様方に、たいへん関心の高い分野における斬新な意見が含まれておりまして、ぜひご一読されることをお勧めいたします。もちろん、先生方のご意見に賛同されるか、ご批判されるかは、読まれた方次第でしょうし、冒頭でも申し上げたところとも関連いたしますが、学者の先生方からすれば、そういった実務家の方々の意見がたくさん出されることを歓迎されるのではないでしょうか。とりわけ「監査役制度改造論」は「すごい」です。つい先日、「監査役協会、内部統制監査の実施基準草案公開(2)」のエントリーのなかにおきまして、私は以下のように書きました。

すでに多くの企業で「社外取締役」の方々が就任されているのが現実ですし、この実施基準(注 監査役協会作成による「内部統制監査の実施基準」のこと)も上場企業の監査役監査指針(しかも内部統制整備に関する評価)を念頭に置かれているわけでありますから、もうそろそろ「社外取締役と監査役監査」の関係についても一般的な指針を設けてもいい時期に来ているのではないでしょうか。

ストレートに、というわけではございませんが、こういった疑問にもひとつの答えを提言されているのが、この「監査役制度改造論」であります。監査役制度100年の歴史に大きな転換を迫るこの制度改造論は、おそらく今後、諸団体でいろいろな議論を巻き起こすものと予想いたしますし、またたとえば日本監査役協会さんあたりは、この論文をどのように受け止めるのか、そのあたりたいへん興味がございます。なんといいましても、「取締役兼務監査役」もしくは「監査役兼務取締役」といった役員を会社法上制度(義務化)として提言されるわけでありますから。。。たとえば、本日(4月8日)の日経ニュースにありましたように、ペンタックスの取締役会におきまして、当社役員は、HOYAとの合併撤回動議に賛成した取締役が6名、反対した取締役が2名(社長と専務)ということで撤回動議が決議されたわけでありますが、ここに「取締役会に期待される監督機能」といった問題は出てきましても、「監査役による監督機能」といったことは少しも話題にされてこないのであります。(ホント、これが現実なんですよね・・・)さて、もしここに「監査役兼務取締役」という(社外人を半数以上含む)人たちが登場していたら、いったいどういった結論になっていたでしょうか。(私の悪いクセですが、長くなりましたので、またまた本編に入ることなく続編へと続かせていただきます。なお誤解のないように申し上げておきますが、会社法335条2項との関係で、取締役兼務監査役という制度は、あくまでも立法論としてのお話です。念のため・・・)

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コメント

大杉教授の論稿、大変キャッチィな”そそる”タイトルで早速読みたいところですが、あいにくと当社にはまだ届いておりません。んでもって、読まずにおいてナンなんですが、山口先生のエントリーの範囲で勝手な感想を述べます(読まずに感想を書くのは禁じ手でしょうが、まぁお許し下さい)。

①まずタイトル。「改造論」というのが、私の世代的には、かの悪名高き「○○列島改造論」を彷彿とさせ、あまり気分はよくありません。なぜ「改革論」「改善論」ではいけないのかなぁ・・・? まぁ、趣味の問題ですが、ちょっと時代掛かっていて、あんまり今日的、21世紀的ではありませんな。

②「取締役兼務監査役」ねぇ・・・?。なぜ端的に、委員会設置会社における監査委員ではいけないんでしょうね。監査委員というのは、言ってみれば「監査担当取締役」ですよね? それとも、独任制を採用してみたり、(業務執行)取締役人事権(勿論解任権が肝です)なんて、既存の色んな制度を「いいとこ取り」(会社法立案担当者が最も忌み嫌う「つまみ食い」というヤツ)しているんでしょうか。因みに、私の元上司のさるご老人は、日本の監査役を英訳して米国人に示す際には、"audit director"がいいのだ、と既に10年くらい前から主張されております(通常は、”corporate auditor"などと英訳します)。私は言い得て妙であると未だに思っております。

③米国流、ドイツ流ではなく、ジャパン・オリジナルを提唱されているのでしょうか。だとしたら、そもそも現行制度がジャパン・オリジナルなんですから、もうこれ以上はやめにして、なるべく国際的にも通じるものにしたいものです。現行ジャパン・オリジナルは、(私の知る限り)韓国・台湾が採用していますが、また、新たにジャパン・オリジナルが出てくるとこれらの国(立案当局)は多分困るでしょうね。どちらもわが国の外交戦略上難しい位置づけの国ですので、友好善隣上もあまり彼の国を混乱させないようにすべきです。

あとそれから、これは蛇足ですが、HOYAは委員会設置会社ですから、そもそも「監査役」は出てくる余地はありませんよ。

(きちっと読んでから出直しますので、適宜削除して頂いて結構です。)

投稿: 監査役サポーター | 2007年4月 9日 (月) 22時59分

監査役サポーターさんには、かなり刺激的なタイトルだろうな・・・と思っておりました。内容を吟味されますと、さらに刺激的と思いますので、またご感想をお聞かせください。

なお、蛇足の部分でありますが、エントリーの中身はPENTAX社のことを書いておりますので、監査役会設置会社を前提としております。

投稿: toshi | 2007年4月10日 (火) 02時52分

大杉先生は、かねてより「日本の監査役制度にもいいところがあるので」という意見をお持ちでした。今回の論文での私案発表は、ずっと暖めていた自分の考えを明確化する時期にきたということでしょう。
監査役制度は長年にわたり改正が行われつづけてきましたが、いくら改正しても根本的に機能しないような形になっています。機能しない最大の理由は、監査役の人事権を代表取締役が握っているというところにあると私は考えておりました。大杉先生の意見は、監査役にも取締役会に参加し議決権を持つということでありますので、少なくとも一方的に代表取締役に人事権を握られている現在の制度を改善するという意味で賛成です。
監査役サポーターさんは、以前にも反論しておられましたが、委員会設置会社の監査委員という制度にこだわることなく、日本流にアレンジした方が現実的だと思います。
ただし、産業界に果たしてそのようなニーズがあるのかどうか、という点は大事なところで、霞ヶ関は産業界のニーズがなければ動きません。ここは、法曹学界で大杉私案を一つの有力試案として議論が続いていけば、やがて形あるものとなるのではないでしょうか。
それこそ、上村教授と神田教授で進めている「公開会社要綱案」の中に包含するような動きがあってもいいように思います。両教授ともすでに大杉論文はお読みになっているでしょうから。

投稿: 紀尾井町 | 2007年4月10日 (火) 10時01分

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