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2007年4月20日 (金)

TBSは楽天を「濫用的買収者」とみなすのか(その3)

本日のエントリーのタイトルから「おや?(その1)とか(その2)はあるの?」というお声が聞こえそうでありますが、(その2)のエントリーをアップしてから、すでに1年半が経過しております。今こうやって1年半前のエントリーを読み直しますと、かなり赤面モノでありますし、ずいぶんエラそうな書きぶりでして、何様かと思われそうです。しかしながら、このエントリーには中山龍太郎弁護士(当時47thさん)がコメントを付けておられますが、今読み返しても誠に的確であり、いまさらながら、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の偉大さを感じる次第であります。(そういえば、あの頃はまだ「ビジネス法務の部屋」のアクセス数もそれほどでもなかったように記憶しておりますし、エントリーの気楽さ、というものが行間から滲み出ているように思えますねぇ。)

エントリー(その2)では、TBSの買収防衛策があまり適切ではない、といったことをエラそうに書いておりましたが、その結果だけは当たっていたのか、この平成19年2月に、防衛策の内容が手直しされています。本日(4月19日)、1年半の提携交渉が行き詰まった末に、楽天側がTBSの株式を保有割合で20%超となる買い増し宣言をされたようで、またにわかにTBSによる買収防衛策発動の可能性が話題になっているようであります。1年半前のエントリーを読み返しておりますと、なんだか目の前には「司法判断」への関心ばかりが感じられたのでありますが、昨今の防衛策を取り巻く状況などを鑑みますと、別の要素も浮かんでくるように思えます。

まずは「天下のTBS」の防衛策であること。本日、民放連は全員一致で関西テレビの除名処分を決定しましたが、このブログでも取り上げましたように、あの第三者特別委員会の調査報告書の内容からしますと、テレビ局(とりわけキー局)の公共性といったものは他の一般私企業とはわけがちがうようですね。どうも「株主価値の最大化」という慣用句は使いにくく、「視聴者を含めたステークホルダー全体の利益の最大化」とでも語っておかねばならないような存在です。ましてや、TBSは不二家報道における「朝ズバッ」謝罪事件の直後でもありますし、テレビ局が社会的責任をまっとうしつつ、株主の価値を向上させなければならない、といった事業計画の説明は事業の継続性のための必須条件でしょうし、そのぶん、他の一般私企業だと問題になりそうな敵対的買収防衛策であっても、放送局の公共性、表現の自由の担い手としての責任、といったところを考えますと防衛策を導入する側にはいくぶんかのアドバンテージがあるような気がいたします。放送局は、三角合併の荒波に飲まれてはいけない、といったような政策的配慮というものが、どこかに感じられる現在の社会情勢ではないでしょうか。

ふたつめに、この「アドバンテージ」でありますが、法廷闘争に発展したときのアドバンテージなのか、委任状獲得競争に至ったときのアドバンテージなのか、見極める必要が出てきたように思います。(たとえば取締役会にある程度の裁量権があったり、独立第三者委員会の構成メンバーの利益相反性、社外取締役の独立性といったあたりの要素が、法的に問題になるのか、株主から歓迎されないといったレベルなのか)いずれにしましても、楽天のリリースのなかで、興味深いのが防衛策導入に株主総会の特別決議を要求する定款変更議案の理由(株主提案権行使書)であります。楽天側が提案理由として掲げておられる7つの項目につきましては、これまで事前警告型の買収防衛策を導入した企業やコンサルタントの方々はたいへん注目されているのではないでしょうか。このまま司法判断に突入したり、委任状獲得競争に至った場合には、たいへんな影響が出るかもしれませんね。私はここに掲げられている理由は、どちらかといいますと委任状獲得競争に対しては楽天にアドバンテージがあるようにも思いますし、外国人投資家、機関投資家の持ち株比率が多い企業であれば面白いかなと考えますが、安定株主が6割ともなりますと、さて、どうなりますかね。いずれにしましても、この1年半でどういった話し合いがなされたのか、そのあたりを知りたいところです。また、もう少しお話が前に進んだときに、(その4)をアップしたいと思います。

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コメント

過去の敵対的買収(本件が該当するのかどうか判断に困るところもありますが)の事例に比べれば相当に高度な争いとなっているようですね。今後の展開がどうなっていくのか注目されるところですが、toshiさんが問題提起されている「利益相反」問題については、当の有名法律事務所は所内でどのように整理されているのか、これはどうもよく分からないところがありますね。

投稿: 紀尾井町 | 2007年4月20日 (金) 10時52分

>紀尾井町さん

私は個人事務所を経営しているものですから、何百人といった法律事務所のコンフリクト問題の「感覚」がわかりません。(先日、社外役員のエントリーで少しだけ取り上げましたが。しかし今回は単に社外役員というだけのことではなく、まさに利益相反かどうか・・・ということですよね(^^:・・)それこそ「法律問題」として考えるのか、外からの評価(外観的独立性)を基準に考えるのか、といった整理が必要なのかもしれません。

話は変わりますが、「経営統合はむずかしい・・」は、たしか東京の大手法律事務所さんでもありましたが、これは今後のM&A事情からみると、すこしでもコンフリクト問題を解消できて、ある意味よかったのではないでしょうか。(地方の一弁護士の勝手な推測ですが)

投稿: toshi | 2007年4月20日 (金) 11時36分

M&A件数が増加している中で、三大(?)法律事務所が肥大化し続けています。企業側もスキームやストラクチャーが複雑化傾向にある中で案件を円滑に遂行するため、ノウハウ・実績等で安心感がある大手法律事務所に依頼しがちになるのもやむを得ないところもあるかなと推測しています。しかし、やがて大手法律事務所内のコンフリクト問題は深刻になっていくだろうなと思っておりましたが、今回の事件はまさに攻撃側と防御側に同一の法律事務所から有名弁護士がそれぞれに役員・特別委員会委員として登場しているわけですので、本事件が司法の場に持ち込まれた場合、利益相反問題や判断の公平性・妥当性などが一体どうなるのだろうか、という点で他人事ながら心配しているところです。
東京の大手法律事務所同士の完全合併が成立しなかったのは、少しだけコンフリクト問題を和らげる効果はあったのでしょうね。今後は、合併による肥大化ではなく、分離によって有力法律事務所を数多く設立するという方向が選択されるべきなのかもしれません。部外者なので内情はよく分かりませんが・・・

投稿: 紀尾井町 | 2007年4月20日 (金) 12時30分

こんにちは。
やっと紀尾井町さんとtoshiさんのやりとりが理解できました。

取締役会、企業価値評価特別委員会それぞれの協議には参加するが、議決には参加しない、といった対応は考えられませんか?専門家としての意見が期待されて選任されている以上は、他の委員や役員からの質問には回答すべきですが、やはり決議には参加しないのが無難なように思います。

投稿: sara.onji | 2007年4月20日 (金) 14時13分

話しは変わって恐縮ですが、以前話題となっていた上村教授と神田教授の「公開会社法要綱案」はもしかすれば完成しているのではないでしょうか。
本日の経済財政諮問会議に「公開会社法」の策定が今年度の骨太方針の議題として提出されるようですが。

投稿: 紀尾井町 | 2007年4月20日 (金) 14時43分

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