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2007年5月31日 (木)

独立第三者委員会の構成

(業務中に備忘録として記載しておりますので、内容がラフな点をお許しください。誤記がありましたら、追って訂正いたします)

(追記)コメントをいただいております「けんけん」さんの訂正箇所にご留意ください。

読売だけが報じているようですが、昨日(5月30日)の企業価値研究会(経済産業省)の会合において、敵対的買収防衛策の発動について判断する「独立第三者委員会」のルール作りについて審議されたようです。(読売新聞ニュースはこちら)そのなかで、判断の中立性を確保するためには社外取締役は構成委員としてはふさわしくない、といった基準が示される可能性のあることが報じられています。そのほかに、検討対象としては、経営者側に近い立場として、社外監査役、取引先、顧問弁護士なども含まれているとのことで、「独立第三者委員会」の委員の属性問題だけでなく、広く企業意思決定に関与する立場の人たちの「利益相反問題への対応」にも突っ込んだ議論に発展する可能性があるのではないでしょうか。(といいますか、私個人がそういった議論の発展に期待している・・・とも言えそうですが)

そういえば、総合メディカル社は、4月中旬に導入したばかりの買収防衛プランについて、昨日(5月30日「独立第三者委員会委員変更のお知らせ」を開示しておられました。導入時の独立第三者委員会委員の構成は、大株主先(おそらく取引先)経営陣から2名、弁護士1名といった構成でしたが、このたびは独立性を配慮して、大株主企業からの2名の方は退かれて、弁護士さんはそのまま留任、新たに公認会計士さん1名ほか、公正性に疑義が出ない企業から現役監査役をされている方1名が就任されたようです。私の記憶では、議決権行使助言会社であるISS社やグラスルイス社などのインタビュー記事(商事法務)では、それほど独立第三者委員会の構成員の属性についてはうるさくおっしゃっていなかったように思いましたので、「たいした問題ではないのかな」と思っていたのですが、企業価値研究会のほうで問題として採り上げられていたんですね。300社以上の防衛策導入企業のうち、85%程度は第三者委員会が構成されている、ということなんで、また今後いろいろな動きがあるかもしれません。(ちなみに、私も某企業において就任しておりますが、完全に独立性のある委員として就任しております・・・(^^; )

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事業リスクと内部統制の基本方針(その2)

またまた昨日のエントリーには、たくさんのご意見を頂戴しまして、どうもありがとうございました。監査役サポーターさんがおっしゃるとおり、わずかばかりの情報から、連結グループ企業15万人もの従業員がいらっしゃる日本の代表企業群のことを軽々に論じることは少しばかりためらいもございますが、常識的にみましても、10人ばかりの社員で23億円の会社資金を操作する・・・という事態はかなり異常ではないかと思いますし(これが組織ぐるみで23億・・・ということでしたら、たいしたことないのでは・・・ともいえそうですが)、昨年のNECS(子会社)における多額の架空取引とも併せ考えますと、社会的な非難の対象となってもやむをえないところがあるかもしれません。なお、本日(5月30日)のフジサンケイビジネスアイの記事におきましては、一連のNECの資金還流を解説したうえで、組織的な犯行といったニュアンスで書かれています。(フジサンケイビジネスアイの記事はこちらです)

昨日のエントリーへのいろいろなご意見を拝読いたしまして、「こんな不祥事が発生した。しかも内部統制システムに関してはレベルの高いものを構築しているにもかかわらず。だから内部統制に高額の資金投入はあまり意味がない」といった論調にもある程度は首肯しうるところがあるようにも思えます。ただ、交通整理をしておかなければならないのは、私の場合は(とくに会社法が規定している)内部統制システムの構築はあくまでもリスク管理を目的とするものであること、つまり不祥事リスクについては人間の利益獲得を目的とする集団である会社においては、不可避であることをまず認めて、その早期発見や被害額を最低限度に抑制するための仕組みと考えております。そして、「企業の体質改善」といった構造そのものを検討することも、こういった内部統制システムの構築と無関係とはいえないと思っています。ひとつの例として内部通報制度(ヘルプライン)が挙げられます。これは、企業体質が「不正を許さない構造」に一歩でも近づくものであれば、集団のなかにひとりでも真剣に声を上げる人が出てくることによって成立する制度であります。つまりいくら精密な内部通報制度を確立したとしましても、不祥事を仄聞する従業員の意識改革(たとえば10人のうち1人でもいいので)が期待できなければヘルプラインは機能しないわけでありまして、要するに構造改革の努力なしには内部統制システムの有効性は保証されないものと考えられます。もちろん異論もあるかとは存じますが、こういった意識改革のためには、社長の関与というものはとても大切だと思いますし、たしかに無力な場面もあろうかもしれませんが、「不祥事防止はリスク管理そのものである」の考え方からすれば、目に見えないところで(公表されていないところで)相当数の不正行為を早期に発見し、またその被害を極小に低減させているかもしれません。

これは単なる思いつきでありますが、この23億円の還流に関与した社員たちも、また昨年の架空取引事件に関与したNECS社員の行動も、いずれも2000年ころからの不祥事であります。ところでNECは2000年4月から社内カンパニー制を導入しております。おそらく事業ポートフォリオの見直しとして、インターネットソリューションに特化した3部門に資源配分を集中させるようになったようであります。こういった社内カンパニー制は現在も存在するものと思いますが、こういった制度が必要以上にカンパニー間での売上競争を助長していなかったのか、経営トップによる管理の目が社内カンパニー制度の拡充によって「目の届かない」範囲を作ってしまったことにはならないのか・・等、いろいろな点も検討しておいたほうがよろしいのではないか、と思っております。1990年代から、NECの場合には防衛庁事件などにも関与していたことがありましたので、単なる偶然かもしれませんが、横領開始の時点と、カンパニー制導入の時期がほぼ一致するということで、なにか企業戦略のあり方と今回の不正を生み出す環境変化との関連性も当然問題視されていいようにも思えます。(以上)

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2007年5月30日 (水)

事業リスクと内部統制の基本方針

昨日は京都地裁で、本日は名古屋地裁、連日ちょっと遠方に出かけておりましたので、少し疲れ気味です。 (; ̄ー ̄A  大杉先生のブログで監査役と会計監査人との関係についてご質問を受けておりますし、また酔狂さんやコンプロさんなど、常連の皆様より、きちんとしたコメントを頂戴しておりますので、(少しばかり考える時間を頂きまして)また改めてお返事をさせていただきます。

昨年3月にNEC子会社の架空取引と企業コンプライアンスと題するエントリーを書きましたが、今度はNEC本体にて社員8名ほどが関与する社内横領事件が発覚したようであります。(朝日新聞ニュースはこちら)US-SOXと不正防止さんは(このブログにおきまして)以下のとおりコメントに書いておられます。

NECは米国に上場しているため、昨年度からUS-SOXに基づく厳格な内部統制監査を受けています(監査報酬は7.4億円)。しかし、多額の従業員不正を、会社の内部統制評価や公認会計士の内部統制監査で見つけることはできませんでした。摘発したのは国税局です。 US-SOXによる「内部統制」監査は、お金がかかることが問題ではありません。担当者が単独で犯す誤謬しか発見できない制度であることに、重要な欠陥があります。監査の手法に欠陥があるのですから、内部監査部が監査法人の品質管理審査を受けても、実施基準を超えて連結売上高の75%を文書化しても、IT全般統制で全社的なエクセルシートの洗出しとパスワード保護管理をしても、不正防止効果を全く期待できないと思われます。

さすがに私も無力感は否めないところであります。こうやって一年以上も前に自分が書いたエントリーを読み直してみますと、端緒こそ内部調査と国税調査、ということで異なるところはあるものの、時期的にも重なるところが多いようですし、「組織的関与があった」とは申しませんが、社内における構造的なリベート体質のようなものの存在を疑われてもしかたないかもしれません。HPで公表されているNECのコンプライアンスへの取り組み姿勢といったものは、将来における再発防止策を中心とするものでありまして、それ自体は文句のつけようのないものと思いますが、こういった二つの社内横領事件を見比べますと、企業不祥事が発生しやすい社内の構造的な体質をどう変えるか・・・といった方向での防止策のほうが効果的ではないかと思います。(まあ、たしかに「ウチは構造的に問題がある」とは、なかなか発表できないことは承知しておりますが。それでも真剣に再発防止を検討するのであれば、環境整備への取り組みのほうがむしろ重要ではないかと思います)たとえば前回NECEで判明した架空取引によるリベート還流でありますが、発覚した時点におきまして、これを単なる一社員の犯行とみるのか、それとも社内(もしくは企業グループ内)で他にも同様の犯行が行われているのかどうか本格的に調査するのとでは大きな差があると思いますし、そういった調査を敢行することはまさに体質を変化させるためのコンプライアンス施策の一環であると思われます。また、たいへん地味ではありますが、こういった犯行は職場仲間のなかでは結構、周知の事実だったりするわけでして(私が最初に某企業のコンプライアンス委員に就任したときがそうでした)周囲の者が内部通報制度を利用しやすい環境を整えるとか、コンプライアンスオフィサーのような立場の者を増やすといったことが「構造的体質」を変える要因にもなりえようかと思います。

これと同じことは、日興コーディアルの不正会計事件のときにも申し上げたところでありますが、将来的な再発防止策といいましても、企業文化や業界の環境、そして不祥事の原因追及によって判明した社内事情などによって、対応策のベストプラクティスは様々でありまして、単に職務分掌を強化したり、相互監視体制を強化することで再発のリスクを低減できるほど甘くはないと思っております。もし構造的に不祥事が発生しやすい社内環境が認められるのであれば、地味で時間のかかることではあるかもしれませんが、同種不祥事が社内のあちこちで発生していないか徹底的に調査することも必要かもしれませんし、社内研修を強化することが必要な場合もあるかもしれません。

ところで、ここのところ、毎月「月刊監査役」では「内部統制システムに関する取締役会決議」の各社事例集といったものが採り上げられておりまして、毎回楽しみにしているのでありますが、どこの上場企業でも「内部統制システムの基本方針に関する取締役会決議の内容」というものは、それほど変わらないものなんですよね。会社法施行規則100条をみれば、損失の危険の管理に関する体制といったものも体制整備の一貫でありますので、いっそのこと、この基本方針のなかに、各企業においてどのような事業上のリスクがあるのか、そのリスクに対して自社がどのように対応するシステムを構築するのか(あるいは、したのか)といったことを明記したほうがいいのではないでしょうか。また、グループ企業であるがゆえに、グループ全体としての事業リスクといったものも考えられると思います。もちろん、継続企業としてのリスクといった注記内容を調べればいいのかもしれませんが、その企業が何をリスクと考え、そのリスクにどう対応しようと考えているのか、といったことを記述することで、その企業の内部統制システム構築への積極性をうかがうこともできますし、また一般株主や投資家にとっても、管理行為のうえでの企業価値を把握する資料にもなるのではないかと思います。他社との差別化をもう少し工夫してみてもいいんじゃないか・・・と思ったりしております。

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2007年5月29日 (火)

会計制度監視機構のひさしぶりの提言

昨日は「内部統制と代表者の関与」のエントリーにつきまして、いろいろとご意見ありがとうございました。やはり予想通りといいますか、現実の内部統制システム(現状把握と整備)構築の場面におきましては、経営者と担当者(外部コンサル)との距離はかなり遠いものかもしれません。(まだ他にもご意見がございましたら、昨日のエントリーにコメントを頂戴できますと幸いです。ボヤキに近いものでも結構ですんで。)

さて、先週金曜日の日経新聞の記事にもありましたように、会計制度監視機構より、本当にひさしぶりに「独立性の高い監査を実現するために(監査役と監査法人のあり方について)」と題する提言が公表されました。(提言内容はこちらのPDF)企業会計における不祥事が多発する原因のひとつとして、監査法人の独立性が十分に確保されていないことが問題であることから、これを監査役制度と会計監査人の関係を見直すことによって、あるべき方向を検討しよう、監査役の責任を問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向はバランスを失している感が否めないとのことで、いくつかの具体策が提言されております。公認会計士法等の一部を改正する法律案が国会で審議されているところでありますので、非常にタイムリーな提言ですね。

証券取引所の規則で(上場会社に対して)社外監査役に要求される基本的な能力や要件の詳細を記載した規則を策定するとか、「監査役リスト」のようなものを証券取引所が具備して、その中から上場会社に選択してもらったり、取引所が指名するなどの制度が紹介されており、それはそれで面白い提言だと考えますが、いまもっともポピュラーなご意見と思われるのが(立法論ではありますが)監査役に会計監査人の選任解任権を付与したり、報酬決定権を付与することで会計監査人の独立性を確保しようといった提言であります。これは会計制度監視機構に限らず、いろいろなところから監査役制度と会計監査人のあり方として提言されているところであります。

この提言の趣旨は、業務監査と会計監査の最終責任者である監査役の権限を強化することで監査役自身の独立性を強化して、会計監査人はその監査役の保証された独立性のもとで会計監査業務をまっとうする、といった考え方がベースにあるようです。それは結論部分におきまして「企業会計をめぐる不祥事においては、まず経営者が断罪されるべきであり、次に監査役の責任が徹底追及されるべき筋合いである。・・・監査役の責任をなんら問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向は、バランスを失している感が否めない」と記述されていることからも理解できるところでして、たとえ監査役の指揮監督下にあったとしても、会計監査人の業務上での独立性を守ることで不祥事防止の一翼を担える存在になる、といった観点からの提言だと思われます。監査役の責任が重いわけですから、まずは徹底的に監査役こそ責任問題の矢面に立つわけで、その結果として「会計監査人の責任軽減」を導く思想といえるのではないでしょうか。

ところで、会計監査人の責任軽減といった観点から「監査役と会計監査人のあり方」を考える場合、ふたつの考え方があると思います。ひとつは監査役の権限強化による考え方(つまり立法論としての会計監査人選任解任権付与を前提とするもの。監査役の独立性の傘のなかに、すっぽりと会計監査人が入ってしまうもの)と、これまでの会計監査人と監査役との法的な位置づけはそのままにして、会計監査人の業務の一部を監査役の業務で代替させ(監査役が会計監査人の業務の手足になるもの)、その監査役の代替業務を合理的に信頼することによって(つまり信頼の抗弁を会計監査人に付与することで)、会計監査人の責任軽減をはかる、といった考え方であります。私は会計監査人の責任限度を合理的な範囲にとどめながら、かつ監査役制度の強化を図ることができるのは、後者の考え方ではないかと思っております。

といいますのも、(たとえ立法論としましても)監査役に会計監査人の報酬決定権や選任解任権を付与するとなりますと、それはもう委員会設置会社における監査委員会と同様のものになってしまい、まさに監査役が妥当性監査を行うことを認め、また経営判断にも関与することを認めることになります。ここまできますと、もはや監査役は「監査」をするのではなくて「業務執行を決定する」ことに近い業務内容になってしまいます。(注)そもそも、経営陣と会計監査人との関係からみて会計監査の独立性が毀損されてしまうことを問題提起しているにもかかわらず、期待される対象であるはずの監査役自身が「経営者」になることを認めてしまっては、なんのために独立性確保をはかろうとするのか、理解できなくなってしまうのではないでしょうか。現行の会社法が認めているところの、取締役が決定する会計監査人の報酬について「同意する」ことや、選任解任に「同意する」ことあたりが、監査役本来の監査業務と言えるスレスレの場面のようにも思われます。また、監査役の独立性強化の下での会計監査人の独立性といった概念は、たとえば金融庁による指揮監督関係や、監査法人内部における組織的監査における指揮命令関係などと、どういった関係になるのか、かなり複雑な問題を新たに抱え込むことになるのではないか、という危惧も拭いきれません。さらに監査委員会とは異なる「監査役会」において、いったい常勤監査役と社外監査役がどのような役割分担をはかるべきなのか、その理想のようなものが見えてこないような気がします。

いっぽう、会計監査人と監査役との連携協調を重視して、会計監査人がその業務の一端を監査役に担ってもらう、という考え方であれば、日常の情報収集は常勤監査役に、そして財務会計的知見を必要とする会計判断は社外取締役に期待することで、それぞれの役割に応じた職務が明確になること、会計監査人の独立性が確保されにくい分野での取締役らとの交渉関係に必要な範囲で、監査役の独立性を利用する(監査役に交渉してもらう)ことで足りるのではないかと考えられること、そしてなによりも(これは先日も申し上げましたが)監査役制度の機能が発揮されているかどうか、といったことが監視検証され、対外的に評価の対象となるのであれば、そのことが監査役制度の実質的な社内における地位向上の要因になるのではないか、と期待されるからであります。(また、もし監査役制度が若干力不足の場合には、優秀な監査役サポーターが多数存在している事実とか、監査役会専従の外部専門家が存在している事実なども、その会社が監査役制度をどの程度重視しているか、といったことも評価されることになるようにも思われます)立法論を伴っての問題提起ということになりますと、それこそ監査役制度そのものを大きく変動させるような案に魅力を感じますけれども、本当に暫定的に、監査役と会計監査人との責任上のバランスの均衡を検討する、ということでしたら、やはり監査役と会計監査人との業務における分担を基本的に考え直すほうが得策ではないでしょうか。

(注)本日のお話は、「会計監査人の責任軽減・・・責任負担のバランス・・・といった観点からみた会計監査人と監査役とのあり方」について記述したものであります。純粋に監査役の独立性強化・・・といった目的のみを追求するのであれば、こういった「妥当性監査」「経営判断への関与」を前面に出す考え方自体も十分検討に値するものと思っております。

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2007年5月28日 (月)

内部統制準備と代表者の関与

日曜日(5月27日)の日経朝刊では、ある監査法人さんの(4月時点での)レポートとしまして、「内部統制(金融商品取引法上の内部統制報告制度)の導入準備」について、上場会社の7割強が、「これから整備」といった状況にあることが報じられておりました。概要は以下のとおりであります。

これから整備が7割強(内部統制の導入準備)

内部統制の導入準備 約4分の3の上場企業が本格的な導入準備をはじめていないとのこと(日経5月27日朝刊)。太陽ASG監査法人の調査で判明した。同監査法人は「十分な試験運用ができないまま来年四月を迎える企業が出かねない」とみている。4月に開催した太陽ASG監査法人主催のセミナーに参加した上場企業278社に調査を実施。「整備に着手した」「整備が5割程度進んだ」「整備は完了した」のいずれかの選択肢を選んだ企業の合計は全体の26,2%にとどまった。残りの7割強は本格的な導入準備に至っていなかった。

(なお、太陽ASG監査法人さんの実施した調査アンケートについて、その回答項目をみますと、「整備完了」「整備は5割程度」「整備を始めた」「現状把握を終えた」「整備方針を決めた」「プロジェクトを設置した」「プロジェクトはまだない」と並んでおりまして、そのなかから選択することになっていたようであります。ご参考まで。)

こういったアンケートは昨年後半あたりから、大手の監査法人さんのほうで何度か実施されてきたわけでありますが、「約7割が未だ準備に着手していない」といった結果報告内容につきましては、あまり変化がないようにも思われます。どなたかが、コメントでも書かれておられましたが、こういった調査結果を読みますと、アメリカでもPCAOB基準2号が廃止され、基準5号が適用される(将来的に)ということでもありますので、日本における実務対応についても今後慎重に各社において判断したほうがいいのかもしれませんね。(試験運用の段階・・・ということではありますが)ところで、このブログにおきましても、現状把握に関する問題点や、現場レベルにおける内部統制整備に関する問題点などを具体的に指摘して議論されてみては・・・といったご要望も承っておりますし、私もそういったエントリーの話題を検討したいと考えております。(有益なコメントをたくさんつけていただけそうですし)ただ、そういった議論をする前に、このアンケート調査の結果を踏まえて確認しておかなければならないと思いますのは、上場企業の社長さんは、自社の内部統制報告制度の整備運用についてはどの程度、積極的に取り組んでおられるのか・・・といったことにも留意すべきではないか・・・というたいへん基本的なことであります。また、とりわけこのブログを閲覧されていらっしゃる皆様方には、内部統制報告制度のための現状把握、システム整備の必要性をどのように社長さんに説得されたのか、といった点を教えていただければ、と思います。社長さんがグループ企業全体の内部統制整備に関して、どのような方針でどのように進めていくのか、そのあたりの確認というのはどうやってされているのでしょうかね。それとも、そんなことは無視して、現場レベルでコンサルタントさんと担当者で進めている、ということなのでしょうか。私自身も、もうそろそろ抽象的な内部統制理論の是非よりも、具体的な整備レベルでのお話をしたいと考えているところではありますが、社内で一番重要なリスクがわかっていらっしゃる(と思われる)代表取締役さんの目の届かないレベルの話をしても意味がないと思われます。そこで、さきほどのアンケート調査などにおきましても、セミナーに参加された上場企業の担当者の意識と、その企業のトップの意識とでは食い違いが生じていないのかどうか、そのあたりにたいへん関心を抱くところです。(経営トップの方々によるアンケート結果報告、というものもリアルタイムにあればおもしろいと思います)いま整備されつつある内部統制システム(あるいはその補強といった作業)は社長に認識され、社長が重大と認識しているリスクをどう管理することに役立つのか、そのあたりの説明がつかなければ、「それはおかしいのではないか」といったトップの問題意識すら生まれてきませんよね。以前、このブログでも少し話題となりましたが、経営者による業務プロセスの有効性評価のためのサンプリング手法というものも、あれは経営者(および役員一同)にわかるものでなければいけないのでは・・・といった問題意識から採り上げさせていただきましたが、あの議論の際にも、そもそも正規分布の法則の適用が妥当なものなのかどうかとか、サンプルを抽出する母集団が均一であることを前提とできない場合はどうしたらいいのか、など、当該企業の経営者でなければ正しい認識が下せない前提条件がいくらでもあろうかと思います。

「何のために、そのようなシステム構築が必要なのか」そういった疑問が社長さんから出てくるのが最も健全な姿なのではないでしょうか。少なくとも内部統制報告制度によって「会計不祥事については、『社長は知らなかった』では済まなくなる」ようなものを目指すのであれば、社長さんの関与の度合いといったものがとても重要になるものと思います。私のような社外監査役の立場の者は、そういった現場レベルでの進捗を認識しつつ、その重要性を社長に翻訳するのが大きな役目ではないかと思って、そのように活動しているのが現状であります。

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2007年5月27日 (日)

ブルドックソースの意見表明報告と附随質問

EDINETによりますと、スティールパートナーズ(正確にはSPのSPVLLC)がブルドックソース社(BS社)に対して5月18日にTOBを開始、その公開買付期間は40日間だそうであります。買付価格は1,584円ですが、現在のBS社株価は1、630円ということのこと。報道にもありますとおり、これまでBS社は敵対的買収防衛策を導入していなかったようで、急遽、アドバイザーを選任のうえ、対応策を検討中のようであります。

ともかく、BS社はSP社によるTOBに対して賛同とも反対とも意見表明をしておりません。証券取引法27条の10第1項、証券取引法施行令および発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令13条の2、第1項により、公開買付対象者は買付け開始日から10営業日以内に意見表明が義務化されておりますので、5月25日付けにて賛否留保の意見表明報告書の提出と、これに付随してSP社への質問を行っております。(BS社の意見表明報告書の内容等はこちら で閲覧できます)なお、新聞報道等におきましては、BS社の賛否留保、といった対応は意見表明が義務化されたにもかかわらず許されるのか?といった疑問が出されておりましたが、証券取引法で義務化されたのは意見表明報告書の提出でありますから、賛否どちらかの表明をしなくても、「今後も表明しません」といった内容の報告書を提出しても、とくべつに違法にはならないと思われます。(したがいまして判断留保、といった表明もなんら問題ないと思います)

ただ(ここからは私の素人考えですが)、79項目にも及ぶ質問事項について、報告書をSP社が受領した後わずか5営業日以内に(前記府令13条の2、第2項)対質問回答報告書として(SP社が)提出をしなければならない、というのは普通に考えますとかなり厳しいんじゃないでしょうか。しかも、ひとつひとつの質問に「明確かつ詳細に回答せよ」とか「具体的かつ詳細に・・」といった要望が記載されておりますので、いくらBS社の株主のためとはいえ、まともに回答するにはちょっと時間的制約がきついと思われます。(もちろん、こちらも「報告書」の提出が義務付けられておりますので、回答したくなければ、その理由を記載して回答を差し控えた報告書を提出するのは自由であります)そもそも、SP社のTOBに関する自らの賛否判断は留保しておいて、その判断のための根拠事由を収集するために相手方に質問をするといった対応はフェアといえるのかどうか、すこし疑問が残るものと私は考えております。なお、商事法務1786号には金融庁担当者の方の解説論文(公開買付制度の見直しに係る政令・内閣府令の一部改正の概要)が掲載されておりますが、その担当者の方の解説によりますと、たとえば公開買付期間が30日(延長請求ができない場合のうちの最短期間)だとすると、前半の15日間に、公開買付者と対象者、それぞれの意見を株主に提示させて、後半の15日間は一般株主の熟慮期間にあてる、したがって、意見表明報告を買付日から10日以内、対質問回答書を質問受領後5日以内と規定したもののようであります。そういたしますと、この5日以内に提出されてくる対質問報告書の内容を精査したうえで、対象者側の意見形成表明を行うといったことになりますと、(今回は公開買付期間が40日間ということで、若干長めではありますが)その意見表明には期限が付されていないわけでありますから、対象者側が一般株主に自らの主張を広報するのであれば絶対的に有利な立場に立つと思われますし、上記の制度趣旨にも反するものになるのではないでしょうか。なお、内閣府令の報告書様式の記載例におきまして、意見を留保したときにはその理由を付すること、今後意見表明する予定があるかどうかを記載することなどが定められておりますので、そもそも自己の賛否判断のための質問も許容されるかのようにも読めるわけでありますが、ここで想定されているところの「意見表明を留保せざるをえない理由」といいますのは、たとえば対象会社内において、賛否に関する意思形成過程で意見が分かれているとか、独立社外役員が強く反対(賛成)しているといったような場合を指すものであって、いわゆる社内意思形成過程を一般株主に開示する必要があることから「留保」が許容されているのではないかと思われます。したがいまして、自らの判断を形成するための質問をする必要があるために、判断を留保する、といった感覚は、どうも私にはフェアでない対応ではないか(そういったことで証券取引法が質問権を定めたとはいえないのではないか。質問権というのは、その質問に公開買付者が回答すること、それ自体を一般株主に開示させるためではないか)・・・という気がいたします。

また、以前にも少し触れましたが、楽天に対するTBSの再質問などにもみられるとおり、「どこまでの回答が得られたら、十分な回答とみなすか」といったことについて、対立(本件ではまだ対立かどうかは未定ですが)当事者間で認識が一致することなど到底ありえない話なわけですから(これは独立第三者委員会が設置され、そこが判断する場合でも同様だと思われます)、どちらがより「ルールを公正に適用しているか」によって判断せざるをえない場面が今後も散見されるようになるんじゃないでしょうか。そもそも、TBSさんも、このブルドックさんも、取締役の地位確保のためではなく、まさに株主利益を最大限守るために、十分な時間を確保して、相手方に対して多くの情報を収集しようと必死になっているわけであります。とりわけ買収防衛策を導入している企業におきましては、そのルールは自ら策定したものであるにもかかわらず、さらに相手方のルール遵守を要求したうえで、自らの判断のもとにルール適合性を判断するわけであります。ということは、裏を返せば、たとえばMBOの場面におきましても、一般株主がTOB価格が公正なものであるかどうかを判断するために、対象企業の取締役らは(公正な価格による一般株主排除の手段がとられているかどうか、を判断するための資料提供として)最大限の情報提供に尽力しなければならないはずでありまして、もし個別株主からの要求があれば、その要求にも最大限度、回答しなければならないのではないでしょうか。(そうでなければ、取締役の態度としては一貫していないはずであります)敵対的買収者が現れたときには、相手方に自分たちの納得のいくまでの情報提供を要求しながら、いっぽうでMBOを敢行する際には、政令や内閣府令で規定されている最小限度の情報開示で足りる、と考えるのは著しくフェアではないと思いますし、法的にもかなり問題性が高いのではないか・・・と、ふと素人考えではありますが、疑問が生まれるところであります。(なお、最後の部分につきましては、ビジネス法務7月号におきまして、田中教授と清原弁護士による座談会記事におきましても、少し触れられているところでありまして、今後さらに大きな論点として採り上げられるのではないか・・・と予想しております。M&Aにつきましては、私には素人的発想しか思い浮かびませんが、上記座談会記事は非常に参考になるところが多く、関心のある方は6月号の前半部分と併せてご一読されてみてはいかがでしょうか)

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2007年5月25日 (金)

委任状勧誘と議決権行使の助言

以前からたいへん尊敬申し上げておりました、ある企業の部長さんと夕食をご一緒させていただき、私の「ある事業」に関するご相談にのっていただきましたが、つくづく弁護士という仕事しかしたことのない人間にとってはビジネスはムズカシイものと思い知らされました。弁護士会への根回し(事前相談)といったあたりはなんとか大丈夫なんですが、マーケティングのセンスもありませんし、事業計画の中身も曖昧だし、組織の動かし方も不徹底・・・、そもそも今までは誰かがレールを敷いてくれて、そのうえで私は踊っていればよかったのでありますが、自分でレールを敷いたことがなかったもので、どうやってレールを敷けばいいのかわからないのであります。ホンマ、会社を経営しておられるオッサン方がみんな尊敬できるように思えてきました。(^^;;

さて、いつも拝読させていただいております先生方のブログは東証と大証の「上場廃止」ネタで満載でありまして、いろいろと勉強になりますが、そんななかでアデランス社の提案していた敵対的買収防衛策が総会における賛成多数で承認された件につきましては、あまりブログでは採り上げられていないようであります。スティール反対、ISS賛成、グラスルイス反対、日本プロクシーガバナンス賛成などなど、大株主や大手議決権行使助言会社の意見が分かれるなか、過半数を占める外国人株主の意向が注目される総会だったのではないかと関心を抱いていたのでありますが、どなたか詳しい解説をされているブログがございましたら、お教えいただけますと幸いです。

ところで、楽天とTBSの委任状争奪でも少し話題になっておりますが、この「委任状争奪戦」(ここでは議決権行使書への賛否呼びかけ事例も含む)につきましても、いろいろと考えてみますとツッコミどころがある論点のように思われます。事実関係はよく承知しておりませんが、たとえばISSがアデランス社に対して「賛同に値するようなガバナンス」を有償で指導した後に、委任状勧誘事例や議決権行使呼びかけ事例で、議決権行使助言を受託している機関投資家や、一般株主に対してアデランス社側への賛同を呼びかける・・・といった場合、(注 これはたとえば・・・ということですんで、実際にどうであったのか、という点につきましては、私は存じ上げませんが)けっしてISSは中立の立場とはいえないですよね。こういった議決権行使助言会社のご商売について、とくに法律上の問題は発生しないとしましても、委任状勧誘に関する内閣府令の規制対象に、誰のどこまでの行為が含まれるのか、という問題が残るのではないでしょうか。ちょっと勉強不足なものですから、また継続的に検討してみたいと思いますが、とりあえず問題点だけ備忘録程度に記載しておきます。(またお詳しい方、考え方のヒントなどご紹介いただけますでしょうか)

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2007年5月24日 (木)

監査役制度の活用と企業の監査コスト

ヒルトンホテルで私の所属する弁護士団体の総会がございまして、昨年度の役員でありました私は慰労対象者として、胸に大きなバラのリボンをつけまして(こんな経験は初めてですが)ご招待を受けました。二次会はちょっと失礼をしまして、総会が終わるなり、地下のタワーレコードに直行。。。いやいやありました!6年ぶりのニューアルバム、本日発売の竹内まりや「Denim」(初回限定盤) 早速事務所へ戻って、涙しながら(?)ひさしぶりの「まりや節」に酔いしれておりました。(;_;) 発売初日にCDを購入する・・・というのはチーちゃん(森高千里)の「ラッキー7」以来であります。

さて、critical-accountingさんも話題として採り上げていらっしゃいますが、5月22日日経朝刊の大機小機にて「頑張れ監査役、あなたの出番だ」と題する「問題提起」がなされております。(記事の要旨はブログ「会計、監査の話などなど。」をご覧ください)記者の方も、会社法と金融商品取引法を整理して「公開会社法」を制定すればもっとすっきりするのでは・・・とのお考えのようでありますが、とりあえず現行制度のもとにおいて、監査役の責任が重くなり、反面権限は強化されたわけでありますから、もっと監査役制度は有効に活用されるべきであると考えていらっしゃるようです。ただし、企業不祥事がマスコミで報道されましても、いつも監査法人さんや取締役さんばかりが責任の矢面に立ち、監査役は何をしていたのか?といった問題提起がほとんどなされないところをみますと、反面それほど監査役の権限行使について、あまり世間では期待されていないことを意味しているようでもありまして、それは現実問題として認めざるをえないところかもしれません。こういった現状を前にして、もっと頑張れ!と「あるべき監査役の姿」を追求するように経営者や監査役の方々に檄をとばしてみましても、これがなかなか伝わらないどころでありまして、それどころか機関設計の自由化ということで、子会社から監査役制度が消えつつある・・・というのが、また現状のようでもあります。また海外のファンドや議決権行使助言会社から上場企業に発信される「ガバナンス上の要求事項」というものも、独立社外取締役の採用への要望はありましても、監査役制度活用へのインセンティブになっている、といった話もあまり聞いたことがございません。

「公開会社法」における監査役制度の位置づけ、といったものがどのようなものを理想としているのかは、私も現在のところではよく存じ上げません。ただ、会社法と金融商品取引法が想定している内部統制システム構築の理論のなかで、監査役制度が大きな期待を寄せられていることは事実なわけでありますから、この制度を企業側、監査法人側双方から「有効活用したほうがオトク」であることがわかりやすく説明され、実践されることによって監査役制度活用のインセンティブが機能する場面というものを、どこかで設定する必要があるのではないでしょうか。

最近の企業成長率の回復基調によりましても、まだまだ管理部門へ大幅な予算が投入されるような時代とも思えません。そんななかで、各企業が内部統制システムの整備運用に多大な費用を投入している現実といいますのは、結局のところ金融商品取引法上の内部統制システムを整備しないと監査人による意見表明がもらえない、といった心理的強制力が働くなかで、外部専門家による導入提案への企業側からの反論の根拠がなにもない・・・といったことに起因するところが大きいのではないでしょうか。しかしながら、先日の関連エントリーのコメントのなかで、どなたかがおっしゃっておられましたが(私もそのとおりだと思っておりますが)、経営者による評価方法(評価範囲も含めて)については、その企業の規模や業種によって相当広範な裁量が認められるはずでありますし、そのような広範な裁量の幅のある評価方法こそ、内閣府令で「一般に公正妥当と認められる会計慣行」として認められたはずであります。そうしますと、私の理解が間違っていなければ、「攻めの内部統制」つまり、業務の有効性や効率性を高めるための内部統制システムの構築を目指す、ということ(つまり一切の心理的強制が働かない領域)を企業の目標にしているのであれば格別、監査人から適正意見を表明してもらえる範囲(つまり心理的強制力の機能する領域)においては相当大幅な経営者の裁量が認められるはずであります。(つまり公正妥当と認められる会計基準にしたがった評価である、と判断される評価方法の選択肢はかなりたくさん存在する、という意味)そうであるならば、まさに企業の監査コストを低減するためにこそ、監査役制度を有効に活用する道があるのではないでしょうか。

一番有効だと思われるのは、そもそも他社の内部統制コンサルタントなどをされている独立系の公認会計士さん、そうでなくても一般に財務会計的知見を有する公認会計士の方に社外監査役に就任いただいて、当該企業のコストや社風に見合ったシステムの整備運用の助言をいただくことだと思います。もちろん、監査人の方と協議連携していただくわけですから、話は早いですし、経営者の裁量範囲は広いわけでありますから、コストに見合った代替案の提示、といった交渉も可能かと思われます。だいいち、監査法人さんのほうでは、おそらく海外提携事務所のマニュアルを基本として、内部統制に関する組織的監査をなされるのではないかと思いますが、そもそも監査役制度は日本独特の制度でありますので、企業側が監査役制度を活用して内部統制システム整備を充実させます、と言われると、(裁量の範囲が広いだけに)かなり反論しにくいのではないでしょうか。また、日本における監査方法として、ダイレクトレポーティング採用しない理由として、実施基準が監査役制度の存在を掲げているわけでありますから、ダイレクトレポーティングを行う「監査役」の意見に従うのであれば、監査人自身の責任範囲も限定され好都合のように思いますが、いかがでしょうかね?

決して曖昧にしてはいけないと思いますのは、内部統制システムの評価、監査制度といったことを金融商品取引法といった重要な経済法に落とし込んでしまった現実であります。外部第三者は「あるべき内部統制システム」の導入を目的として業務に従事するものと思われますが、重要なことは、その「あるべき」というのは「理想」なのか「最低限」なのか、その見極めが誰の責任においてなされているか、であります。それが最終的に財務諸表の信頼性を担保(「監査の水準」において)するものかどうかは、法律と会計基準(監査基準?)の狭間の悩ましい問題に帰着するはずであります。そういった法律と会計基準(監査基準)の間における悩ましい問題、それを受け入れるにふさわしい立場といえば、監査役をおいて他には存在しないと思われます。多額の内部統制システム導入費用をかけること自体がひとつのリスクでありますが、そのリスクは監査役制度の充実で回避することにより、費用も低廉に済みますし、また内部統制監査人の立場からも、監査に付随するリスクを低減する方向において有益ではないかと思われます。また、監査役と内部統制監査人は、連携協調する必要もあるわけですから、経営者側においては監査役の意見が尊重されませんと、内部監査人による意見表明にも影響が出てくるわけですし、監査役自体の地位向上にも役立つのではないかなと思われます。内部統制報告制度に関する意見書自体が「監査基準」であること、その監査基準には(少なくとも経営者評価の方法においては)相当広範な企業側の裁量が認められること、経営者が優秀な監査役を選任することも、この監査基準適合のための選択肢のひとつであること、そしてなによりも、監査役があるべき企業の内部統制システムの妥当性まで判断できると考えることが法律上もトレンドであることから、監査役制度の活用は企業にとっても、監査人にとってもプラスの方向でインセンティブが働いてもいいお話に属するのではないでしょうか。(今週号の日経ビジネスの特集にありますように、本当に内部統制システム導入問題によって「経営がすくんでいる」のであれば、こういったことも真剣に考えてみてもいいのでは・・・という趣旨でエントリーしてみました。)

(追記)ご指摘を受けまして、会計基準→監査基準と修正いたしました。勉強不足ですいません。これからも基礎的な誤りがございましたらご指摘いただけますとありがたいです。

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2007年5月23日 (水)

内部統制を語る人との出会い(その1)

内部統制コンサルをされていらっしゃる某会計士さんのご紹介で、トーマツ在籍の丸山満彦さん と心斎橋の小料理屋で4時間ほどお酒を飲みながら「内部統制」について語り合いました。・・・・・と文字にしてみますと、ずいぶん上品に聞こえますが、実際には「しゃべりまくっておりました。」  いやいや、「まるちゃん」実に「濃いーぃ」方です。。。キャラが熱いというか・・・(^^; お仕事でも、今までたくさんの会計士さんとお会いしましたが、もともと関西の方ということもあってか、最初から「タメ口」で話しができる会計士さんというのは初めてであります。(こういったタイプの会計士さんというのは、大手監査法人にはどの程度の割合でいらっしゃるのでしょうか?)それにしましても、この方の「人生における内部統制のあり方」には非常に関心を抱かざるをえませんでした(私もあまり偉そうなことは言える立場ではございませんが。)

講演をされたり、管理基準案策定に関与されておられるからか、よく勉強されてますね。ERS(エンタープライズ・リスク・サービス)の件、システム管理基準追補版の件、経営者評価の方法に関する件、このブログでも話題になりましたサンプリングの件、会計士さんと「法律や政省令の解釈」との距離感などなど、いろんな意見交換ができて、たいへん楽しい時間を過ごしました。「まるちゃんがこんなことを言ってた」みたいな引用は控えますが、これからのエントリーの題材をたくさん頂戴いたしましたし、感謝しております。(明日はまた東京でお仕事とのことだそうですが、講演後、夜遅くまでミナミでお付き合いいただき、ありがとうございました。また貴重な機会を作っていただきましたS先生に厚くお礼申し上げます)

大阪でコンサルをされているS先生や、まるちゃんのお話をお聞きして思うのは、「これからの上場企業と監査人との『立ち位置』って、これまでと同じなんだろうか、それとも変わるんだろうか」といった素朴な疑問であります。おそらく監査法人で実際に監査をされていらっしゃる先生方も、同じような感想をお持ちではないでしょうか?社外監査役として、ときどき思うのが「なんでそこまでアプリオリに監査法人さんの見解に従わないといけないのだろうか?それが唯一の会計基準なのだろうか?」「監査法人さんのおっしゃることに従わないといけない、といった心理的強制力はどこからくるんだろうか?ルールや会計知識への気後れ?それとも粉飾の後ろめたさ?会社の信用問題?」私は内部統制監査、といった切り口ぐらいしか存じ上げませんが、これからの両者の立ち位置というものも、微妙に変化が生じてくるのではないかな・・・と、ふと考えたりしておりました。ひょっとすると、誰かがその「パンドラの箱」を開ける日が来るのかもしれません。

さて、「内部統制を語る人との出会い」シリーズ、つぎは6月になりますが、また東京から、これまた大阪講演の後にお会いする予定の方がいらっしゃいます。まるちゃんほど濃いキャラの方ではないと想像しておりますが、また意見交換できることを楽しみにしております。(いやいや、ブログから想像いたしますと、これまた濃いーぃ方かもしれません・・・)

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2007年5月22日 (火)

内部統制構築義務違反と取締役の責任

今日(5月21日)の日経朝刊にも広告が出ておりました旬刊商事法務の最新号(1799号)では、またいろいろと興味の湧きそうな論文や特集記事が出ておりますが、神田教授の「金融商品取引法の構造」なる講演録もそのひとつであります。結びのところで神田教授は「上場会社にとってどうかといいますと、会社法と比較すると、今後は金融商品取引法が圧倒的に重要になる と思います。(中略)・・・・それはともかくとして、上場会社にとって今後は会社法ではなく金融商品取引法というのが恐ろしく重要になる といってよいと思います。」とダメ押しされるかのごとく金融商品取引法の重要性を語られ、最後に「その理由をお話できないので大変申しわけありませんけれども、予定の時間がきてしまいましたので・・・雑談めいた話で申し訳ありませんでしたけれども・・・」 ~( ̄∇ ̄ ;)~  この講義録をお読みになられた方は、(私を含めて)どなたもきっと「その理由」のところをお聞きになりたかったのではないかと推察いたしますが、「寸止め」で講演録が終了しております。

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さて、昨日の「二つの内部統制構築理論(再考編その2)には、とーりすがりさんやメールを直接送っていただいた方々より、私見に対する反対意見を頂戴しておりました。(どうもありがとうございます)概ね、金融商品取引法上の内部統制構築義務といったものは、会社法上の内部統制構築義務に包摂される(つまり同質である)といった立場であります。おそらく最近はこちらの同質説のほうが有力ではないかと思われます。とーりすがりさんのコメントにもありますように、取締役の任務違反にはさまざまな行為や不作為があるのであって、会社の経営にあたり、あらゆる法令を守るべきことは当然である、したがって金融商品取引法上の義務についても同様であるから、金商法上の内部統制構築義務違反は取締役の善管注意義務違反のひとつとして(因果関係が認められるかぎりは)会社法上の損害賠償責任と結びつく、といったところから同質説が根拠付けられるようであります。こういったご意見は、これまでも論文等で拝見したことのある内容でありまして、私も以前より存じ上げておりました。

しかしながら、(たとえ金商法上の内部統制構築義務違反に取締役の損害賠償責任が認められるとしましても)上記の理由付けから「同質説」もしくは金商法上の内部統制構築義務といったものが会社法上のそれに包摂される、といった一元的理解まで説明できる、というのは少し論理的な飛躍があるのではないでしょうか。たとえばダスキン事件などでも問題となりましたが、食品衛生法という行政取締法規に違反する取締役の行為については、食品会社の取締役としては当然に法令遵守義務があるのであって、その法令違背については善管注意義務違反が認められるとされるのが通説かと思われます。しかしながら、会社法と食品衛生法はまったく別個の法律でありまして、一般法特別法の関係にはないはずであります。そうであるにもかかわらず、なにゆえ金融商品取引法の場合には、会社法との間で一元的理解の根拠となりうるのか、その合理的な理由が欠落しているのではないでしょうか。

また、昨日のエントリーでも私自身の疑問といたしまして、「そもそも金融商品取引法上の内部統制報告制度の場面で、取締役の責任というのは発生するのだろうか」と指摘させていただきました。(このあたり、いままであまり議論されている論文を拝読したことがございません。)まだまだ理解が浅いのかもしれませんが、このあたりは少し検討しておいたほうがよろしいのではないかと考えております。ひとつは、内部統制報告制度(金商法上の)は、「経営者評価」に関する制度であって、「取締役評価」に関する制度ではございません。この制度の役割と責任は「経営者(代表者)」にあるのであって、取締役ではないことは実施基準にも明記されております。もしここから「構築義務」を導くとすれば、それは取締役の善管注意義務から導かれるものではなく、経営者に対する特別の法定責任から導かれるのではないでしょうか。また、もう少し細かく考えてみますと、内部統制報告制度は「評価と監査」に関する制度でありますから、もし仮に善管注意義務が取締役に発生するとしますと、会社法431条違反、つまり「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従っていないこと」が問題になろうかと思われます。先日、内閣府令案が公表され、企業会計審議会が公表した基準(実施基準を含む)が、この一般に公正妥当と認められる企業会計慣行に該当することが明らかにされました。したがいまして、この基準に反するような経営者の評価や監査人の監査というものは、法令違反(会社法違反)となる可能性は認められるのかもしれませんが、しかし会社法431条からは、「構築責任」を問うところまでは認めることはできないと思われます。(なお、たとえ経営者の評価が431条違反となりうるとしましても、内部統制評価に関する公正妥当な企業会計慣行が「たった一つ」しかない、とまでは言えないを思われますし、すぐに経営者の法的責任に結びつくわけでもないと私は考えております。そもそも内部統制の仕組みというものは、各企業において自由な裁量を広く認めているのが企業会計審議会の立場であると理解しております)

さらに、そもそも金商法上の内部統制報告制度の存在から、財務報告の信頼性を担保すべき内部統制システムの構築義務違反という概念をわざわざ持ち出す必要性はあるのでしょうか?この制度は有価証券報告書の内容について、新たに義務化される経営者確認書とともに、その信用性を補完するにすぎないものと(少なくとも金商法上では)理解されるべきものであります。そうであるならば、財務諸表作成上の会計基準の適用違反とか、経営者確認書の開示手続き違反といった方向で、経営者のみの善管注意義務違反を検討すれば足りるのでありまして、金商法上の制度から「取締役に責任が発生する程度の注意義務違反とされる内部統制構築上の瑕疵とはどういったものか?」などと検討する必要はないように思われます。「重要な欠陥」が修復されないために、一般株主から投資対象としては評価されない・・・といったサンクションさえ付与されれば、金商法上の内部統制報告制度としましては十分でありまして(もちろん虚偽報告の場合は別でありますが)、経営判断の法理が適用されるかどうかも不明な金商法上の内部統制報告制度におきまして、取締役の法的責任問題が発生する・・・といった事態を想定いたしますと、今週号の日経ビジネスの特集記事ではございませんが、思わず背筋がゾクっとしてしまうのは私だけなのでしょうか?

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2007年5月21日 (月)

二つの内部統制理論(再考編その2)

皆様ご承知のとおり、5月17日付けにて金融商品取引法上の財務報告に係る内部統制報告制度に関する新設の内閣府令案が公表されております。(金融庁のHPよりご覧になれます。ご意見は6月18日午後5時までに提出とのこと)各企業におかれましては、この報告書の開示手続におきましては、担当役員の方々の「業務プロセスの内部統制が有効と評価できる」との確認書をとりまとめて、代表者の方が最終的に内部統制報告書を作成する、といった社内のプロセスまでの基本事項は出来上がりつつあると拝察いたしますが、あとはこういった内閣府令に基づき、報告書の様式(1号様式)の具体的な記載方法の検討ということになろうかと思われます。(しかし、この記載方式ですと、ひな型どおり・・・ということになるのでしょうか)私も、もう少し時間をかけて府令内容を検討してみます。

さて、二つの内部統制理論再考シリーズの続きでありますが、金融庁主導の金融商品取引法における財務報告内部統制と法務省主導の会社法における内部統制という二つの理論の関係について、少しずつではありますが、私見を述べさせていただくと同時に、今後の内部統制に関する理論の進展を予想してみたいと考えております。といいましても、具体的に整理できるほどの能力も持ち合わせておりませんので、とりあえず現状を前提として疑問点を検討してみようと思います。

1 一般法と特別法の関係に立つのか?

これは一元説、二元説といったほうが正確かもしれません。たとえば上場企業の取締役の会社法上の内部統制構築義務と、金商法上の内部統制報告制度について、これらの関係は異質なものなのか、同質なものなのか、といった問題点です。いよいよ2年目に入りました日本取締役協会の内部統制研究会(私は単に参加させていただいているだけですが)も、この二つの内部統制をいかに統一的に理解すべきか?といったことが中心課題となっているようですので、企業実務におきましても、議論のスタートとなる論点であります。著名な学者の先生方の間で結論が分かれている問題のようですし、私などは単なる感想じみたことしか申し上げることはできませんが、もし同質のものであるとするならば、内部統制を評価する者、内部でモニタリングする者、外部第三者として監査する者、この三者での複雑な法律関係を、どのように整理するのか、そのあたりの合理的な説明が必要ではないでしょうか。

このブログでは過去に何度か採り上げましたが、三者間では以下のような指揮監督関係が成り立つように思われます。(これが全てかどうかはわかりませんが)

①代表者は金商法上の内部統制報告制度の一貫として、全社的内部統制評価のために監査役の能力、監査役と会計監査人との業務内容(連携)が適正であるかどうかを評価する(意見書添付の参考1「財務報告にかかる全社的な内部統制に関する評価項目の例」の統制環境に関する項目をご参照ください)

②監査役(監査役会)は、会社法上、事業報告の対象たる内部統制システムの整備運用(構築運用)状況の相当性について判断をする、また会社法上は監査法人の内部統制監査を通じて会計監査人の適正について判断する

③会計監査人(制度上、同一人とされる金商法上の内部統制監査人)は、金商法上の内部統制報告制度における経営者評価への監査業務を通じて、監査役の適格性を評価することも可能であるし、また統制環境の一貫としてのモニタリングシステムが有効であるかどうかを判断することも可能である。

たしかに、会社法上の内部統制システム整備への期待というものは、企業の効率性確保、コンプライアンス経営といったところまでの拡がりのあるものであり、財務報告の信頼性確保を目的とする金商法上の内部統制構築とは目的が異なると思われますが、それぞれの目的は完全に分離することはできず、有機的に関連しているとみるのが素直でしょうし、そう考えますと上記のような指揮監督関係については誰が最終の責任者と考えるべきなのか、たいへん悩ましい問題にぶつかってしまうように思われます。たとえば、ある学者の方は、米国SOX法404条適用とは異なり、日本がダイレクトレポーティングを採用しなかったのは、日本には監査役制度があって、日常の監査業務のなかで、監査役にダイレクトな監査を期待できるからである(現実に、その機能が発揮されているかどうかは別として)・・・とおっしゃっておられましたが、もし内部統制監査人が監査役のモニタリングに期待するとしても、経営者から「あの監査役は内部統制を理解する能力が不十分であり、その実行力に不備があった」といわれてしまった場合、それでも監査役監査に依拠して経営者評価に関する意見を述べることは可能なのでしょうか。

2 金商法上の内部統制構築義務違反と取締役の善管注意義務との関係

昭和48年の最高裁判決(取締役の監視義務違反が初めて認められたもの)の射程範囲を限定することで、取締役の行動の萎縮的効果を限定的なものにしようとされた神崎克郎先生の内部管理体制に関する論文に始まる会社法上の歴史、そして「内部統制は経営管理そのもの。法律にはなじまない」とされていた会計学、監査論上の研究対象が、エンロン事件をきっかけとして、米国SOX法、そして日本の法律にも導入されるに至った金商法上の内部統制の歴史とを比較しますと、どちらも企業価値の向上を理想とするシステムであること、現実には企業不祥事防止を期待して導入されたものであることには共通点はあるにせよ、実際の運用には大きな隔たりがあると思われますし、一元的に捉える(同質なものとして捉える)には、かなり無理があるのではないか・・・というのが私の感想であります。(そもそも、金商法上の内部統制報告制度と、取締役の善管注意義務違反との関係については、これまであまり議論されていないのではないでしょうか。果たして、金商法上の内部統制構築が取締役の責任と結びつくものなのかどうか、といった問題であります。取締役の責任と結びつくのは、おそらく報告書の提出義務違反とか、虚偽記載などに関するものであって、「構築義務違反」とは結びつかないのではないでしょうか?「重要な欠陥」という用語は法律上の規範的要素を含まない、いわば会社の客観的な状況を会計ルールとの関係で示す用語でしょうから、単に重要な欠陥があったからといって、取締役の法的責任に結びつくとは思えません。もちろん代表者がこれを認識しつつ、長期にわたって放置していた・・・ということであればまた別かもしれませんが。このあたりは未だ思いつきの領域ですので、今後も再考してみたいと思っておりますが・・・)なお、これを議論する実益としましては、準備すべき一般事業会社の構築運用上の便宜が挙げられると思われますが、むしろ両社はまったく異質なものと捉えたうえで、最大公約数的に共通項を選択して、双方に資するシステムをめざすことで足りるのではないかと考えております。

なお、この「二つの内部統制理論」シリーズですが、今後の予定としましては、「確認書+内部統制報告書」の持つ意味、内部統制限界論と経営判断法理の関係、本当に「知らなかったではすまない制度」なのか?(知らなかったらやっぱりこれかれも免責されるのではないか?)などの論点から、金商法上の内部統制報告制度と会社法上の制度との差異を検討していきたいと考えております。

(21日お昼 追記)いくつかメールで有益なご示唆を頂戴いたしました。(コメントでなく、個人的なメールで頂戴したものですから、ご紹介できずに申し訳ありません)いただいたメールの内容につきましては、私のほうで整理させていただき、また次のエントリーの際に参考にさせていただこうかと思っております。本当にどうもありがとうございました。(主に金商法上の内部統制と会社法上の内部統制を統合的に理解することの実益のあたりに関する問題であります。)

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2007年5月18日 (金)

「弁護士」淘汰時代(ZAITEN)

コメントやトラックバックをお付けになった方で、「おや?なんで俺のは反映されないの?」と疑問に感じておられる方もいらっしゃるかとは思いますが、特定の方や団体への非難、中傷に関するものは、申し訳ございませんが、非公開扱いとさせていただいておりますので、(すでに1ヶ月ほど前に告知させていただきました)どうかご了承願います。 

業界事情ネタにつきましては、「法律事務所のハコ」シリーズ以来ではないかと思います。ろじゃあさんも、おそらく脊髄反射的に(?)この題名に興味をそそられてお買いになったんじゃないかと想像いたしますが、私もZAITEN(財界展望)6月号の特集記事「弁護士淘汰時代~巨大法律事務所勝ち組弁護士の現実~セレブ弁護士の知られざる『仕事とカネ』・・・・」が気になりまして、思わず読んでしまいました。

巨大法律事務所への業界の評判とか、パートナー就任へのアソシエイトの方々のすさましい競争とか、そういった記事はふだんよく見聞きするところでありますし、あまり関心もないのでありますが、やはり「弁護士淘汰時代到来」を予感させる大きな問題・・・そうです、弁護士人口急増問題につきましては、インタビュー記事の久保利先生のご指摘は正しいと思いますし、ホント厳しい現実はもうそこまで来ていることを実感しております。

ところでこのZAITENの特集記事でも、年間合格者3000人(2010年ころより)を基礎として、将来の弁護士急増による「淘汰の荒波」を予想されているわけでありますが、これはちょっと違うんじゃないでしょうか。こういった記事を読むたびに、「なんで3000人を基礎として将来予想するんだろうか?」と、違和感を覚えます。そもそも司法試験合格者3000人というのは、なんの根拠もない妥協の結果に過ぎないのではないでしょうか。ロースクール関係者の方(私も少しだけ関係者になるかもしれませんが)には怒られそうでありますが、この3000人という数字は近い将来にでも、見直される可能性があるんじゃないでしょうかね。(一時、規制改革委員会から9000名程度の合格者にしろ、といった要求がありましたが、現在はあまりそういった意見は聞かれませんけど。)私としましては合理的な根拠がない以上、3000人という数字が将来にわたって続くものとは到底思えないわけであります。たとえば、現在いろんなところで「弁護士の職域拡大のための専門化」ということが話題になるわけでありますが、何年も業務改革委員会等に携わり、また自身もどちらかというと専門性が高い(と一般には言われている)職域で食べさせていただいている者としましては、(誤解されることををおそれずに申し上げますと)企業社会が求める専門性を弁護士になってから習得することはほぼ不可能に近いと思います。これは大企業さんが求めるものであっても、中小企業さんが求めるものでも同じであります。(私自身も、一生懸命勉強しているわりには、専門領域に到達することに困難を感じております)なぜかと申しますと、「弁護士のスキル」として必須であるところの事実認定能力、日本社会の伝統のうえでの紛争解決能力、(監督官庁がないために自身で身に付けなければならない)弁護士倫理、そして(専門性の前提たる)語学力といったところを学んでいては、到底法律以外の専門性を身に付ける時間など存在しないはずであります。もちろんごく一部の例外的な方もいらっしゃるかもしれませんが、社会的なインフラという意味で考えますと、ごくごく一般的な合格者を念頭に置いて考える必要があると思われます。(前も申し上げましたように、司法試験に合格した程度の法律資格では、なんら実務では役に立ちません)おそらく3000人の合格者が輩出されることになりましても、この現実は「発想を変えないかぎり」変わらないと思います。

ただ発想を切り替えれば、企業社会が要求する専門性を具備した弁護士は誕生することになります。そうです、最初から専門性を具備した方々が、比較的簡単に弁護士資格を持てる社会にすれば良いわけです。つまり、一年間に12000人から15000人程度の弁護士資格を持てるような司法試験制度に変えてしまえばいいわけです。そうすれば、訴訟代理権というたいへん貴重な資格を有する専門家が日本にたくさん輩出されることとなり、グローバルな時代の国際金融を担う弁護士、知的財産権制度を担う弁護士がたくさん登場することになります。まさに日本に法化社会が到来することになります。もちろん弁護士の競争も熾烈をきわめますから、企業は弁護士の使い放題であることはまちがいないと思います。

しかしながら大きなリスクも発生します。おそらくそれだけの弁護士数になりますと、弁護士自治を単位弁護士会が守ることは不可能ですから、監督官庁のない弁護士は「野放し状態」です。弁護士には人様が正当な権限によって所有している財産を、これまた正当に収奪しうる権能(訴訟代理権)を持つわけですから、牙は至るところに向けられることになります。個人事務所であれば、着手金と報酬で合計100万円程度をもらえるのであれば、大企業を相手に2年間ほど訴訟をとことんまで継続することは可能であります。決議取消とか、無効確認訴訟のように、訴訟にほとんどお金がかからず、そのかわり企業にとっては信用にかかわる問題であるために、訴訟のたびに適時開示をしなければならないような事件を選択することも可能でしょう。そういった事件で、それこそ巨大法律事務所に訴訟代理を依頼して2年間ほど徹底的に裁判をすれば、そして、そういった訴訟が頻発することになれば、おそらく数億円規模のリーガルリスクになると思われます。(どの弁護士が能力が高いか・・・・といった情報を収集することは今後も困難でしょうから、とりあえず大企業としては、これまでどおり、著名な法律事務所に高額報酬で依頼せざるをえないと思われます)

弁護士という職業は、お金の流れるところに介入しなければ食べていけないものですから、弁護士人口が急増しましても、一般の方の生活圏での訴訟多発は発生しないものと思います。単位弁護士会による弁護士倫理の統制能力はおそらく崩壊すると思いますので、公益活動も弁護士として「社会的弱者の味方」として活躍される意思のある方に集約されてしまい、更なる問題に発展することが予想されます。(いまでも、相当深刻な問題でありますが)また、当然のことながら、反社会的勢力と弁護士とのつながりも発生することは避けられないはずです。ただ、あらっぽい考え方ではありますが、こういったことで国民が被害に遭わないかぎり、日本に本当の法化社会は到来しないように思います。弁護士という職業人が、企業社会、国民一般にとって、本当に何を求められるのか、また能力のある弁護士はどうやったら見極められるのか、そういったことを真剣に国民が考えることができるのは、痛い目に遭ってから・・・というのが現実ではないでしょうか。リスク管理委員会の委員などをやっておりますと、どうもそういった発想になってしまって恐縮なのですが、司法試験年間合格者1万人時代→法律補助資格制度を創設すると同時に年間司法試験合格者500人時代・・・といったより戻しこそ、この国の法曹制度のあり方にとっては避けられない現実なのだろうか・・・と、このZAITENを読みながら、瞑想にふけっておりました。(ちなみに私は合格者増員には賛成とか、反対とか、そういった見解を述べたものではございません。ただ単に、この記事に関する印象を述べたものであります。)

(注)もちろん、弁護士数増加の要請は「弁護士の大都市一極集中、偏在化を防止すること」にも政策的な意味があり、専門化のみで論じられるわけではございません。合格者数を年間1万人超ということにすれば、地方都市の公務員の方々等も弁護士資格を保有される方が増えて、偏在化防止にも有益かもしれません。ただし、また新たなリスクが発生する可能性についても検討しておく必要はあろうかと思われます。

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2007年5月16日 (水)

コンプライアンス違反による倒産急増?

昨年(2006年)は法令遵守違反が原因で倒産した企業が前年の37.8%も増加した、との結果が帝国データバンク社の調査で判明したそうであります。(フジサンケイビジネスアイの記事はこちら)5月15日の産経新聞朝刊には、同様の記事が掲載されていたようですが、その記事に関連して あおり罪?さんからコメントをいただきました。(以下、あおり罪さんのコメントから抜粋)

コンプライアンス(法令順守)上の不祥事が企業の致命傷となる傾向が強まっていることが、帝国データバンクの調査で浮き彫りとなった。同社が14日発表した平成18年度の調査結果によると、法令違反の発覚をきっかけに倒産に至った企業は102件に上り、前年度に比べ37・8%増と大幅に増加した。負債総額も3568億1600万円と3・3%増となった。(産経新聞社)

帝国データバンク「倒産速報&集計」によると、昨年(2004年度)一年間の倒産件数は1万3837件となっています。これは毎日約38件の企業が倒産していることを表しています。つまり、1時間ごとに1社は確実に会社が潰れているのです。法令順守は、大切なことです。ただし、倒産件数の比較で経営の効率性と法令順守を比較するなら、経営の効率化(倒産年間13,000)に要する努力の130分の1を法令順守(倒産年間100件)に割り当てれば良いこととなります。 法令順守はものすごく大切なことですが、むやみに倒産の恐怖をあおりたてて、コンプライアンス・ビジネスに利用することに対しては、相当に注意が必要なようです。 (抜粋おわり)

コメントのお返事にも書かせていただきましたが、私もほぼ同感であります。元の帝国データバンク社の調査報告書自体を読んでおりませんので、明確に断定することはできませんが、この記事だけで「法令違反がもとで会社の倒産を招く確率が高まった!さあたいへん!」と考えるのは早計にすぎるように思いますし、こういった記事を引用してコンプライアンスビジネスを広報するのはいかがなものか・・・と考えております。

1 データの分析内容から判明すること

ビジネスアイの上記記事によりますと、法令遵守違反(といいますか、この用語自体がちょっとおかしいようにも思えますが)の内訳は「粉飾」が17件、資金繰りで破綻したような「資金使途不正」が17件、「偽装」が15件、「談合」が13件ということです。しかしながら、こういった不正につきましては、その事例のほとんどにつき、会社の効率的経営に失敗したことが発生要因と考えられます。つまり、たしかに不正発覚が直接の原因ではありますが、そもそも健全経営が続いていたとすれば不正は発生しなかった可能性が高いわけでありますから、本当の原因は効率的な経営に失敗したことによるものと考えたほうがよろしいのではないでしょうか?たしかに近年、企業不祥事が増えたと一般的には言われるところでありますが、この倒産にからむ企業不祥事となりますと、そもそも経営逼迫状態となんらかの関係があるケースが多いように思われますので、不祥事→倒産、といった図式を短絡的に理解してしまうのはちょっと疑問に思われます。

2 法令違反事例が急増したのではなく、法令違反事例が発見されやすい環境が整ってきたのでは?

最近企業不祥事が増えた・・・といったフレーズも、本当にそうなのかどうか、疑ってみる必要があると思います。とりわけ、ここ数年、コンプライアンスに関する企業社会全般の関心が高まったことを受けまして、そういった企業不祥事が発覚しやすい環境が整ってきたことが原因かもしれません。内部通報制度、公益通報者保護法の実現、内部監査の充実に伴う企業の報告義務、公表義務概念の拡大、リーニエンシー(自主申告)制度そして、なによりも監査法人改革。こういった制度や改革が次第に根付いてきたことから、これまでと企業不祥事の発生件数はそれほど変わっていないにもかかわらず、発覚件数が飛躍的に増加した可能性があります。いずれにしましても、コンプライアンスビジネスというものも、表面的な数字のみの調査結果を利用するべきではないと思います。不正に至る原因事実の特定、そこから事業リスク、財務リスクを感じ取る能力みたいなものを必要とする、たいへん地味な仕事こそコンプライアンスビジネスに必要な仕事だと思います。(そう考えますと、実際には会計監査を担当する監査法人さんあたりが、もっともコンプライアンスビジネスに近い立場にいらっしゃるように思われます。ただし不正発見義務というものは現在のところ監査法人さんには法律で強制されておりません)

それぞれの企業にはその業界特有の事業リスク、財務リスクが存在すると思われますし、自社に妥当する規制法規等の内容を十分理解するための社内研修などは有益かと思われます。(インサイダー取引規制などは、こういった社内研修が必要ですよね)ただ「経営者、役職員に不正をおこさせない風土」といいましても、これを構築するのはなかなか困難でもあり、また抽象的でわかりづらいんじゃないでしょうか。コンプライアンスビジネスは、そもそも「不正はかならず起こる」というところから出発して、あくまでもリスク管理の一手法として割り切ったほうが適切であり、説得力があると思います。各企業において不正につながるような誘惑原因を探り出して、不正を早期に発見し、また発見した不正による企業被害を最小限度に押さえ込むような仕組みを具体的に提言することが大切な仕事だと考えたほうが適切かと思われます。したがいまして、普段の事業経営のかなり深い部分にまで入り込み、その企業特有のリスクを見つけ出し、初期段階で根絶できるかどうかがカギであって、もはや不祥事が発覚してからのコンプライアンスビジネスというのは、実際には機能しないような気がいたします。ですから、コンプライアンスビジネスというのは、有効に機能しているときには、目に見えない、本当に地味な仕事だと思います。(経営状態が悪化してきたときほど、経営者不正の可能性が高まるものとしてコンプライアンス問題に資金投入の必要性があるにもかかわらず、そういったときほど経営者が営業にばかり目がいってしまうところにとてもむずかしい問題が横たわっているのかもしれません)

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2007年5月15日 (火)

二つの内部統制理論(再考編 その1)

再考編序論をアップしてからすでに1週間が経過しておりますが、金融商品取引法上の内部統制報告制度における内部統制システムの構築と、会社法上の体制整備に関する内部統制システム構築との関係について、普段私が考えておりますことの続編であります。すでに何名かの方より、「もう財務報告に係る内部統制については現場の作業が進捗しているところだから、抽象的なことはいいのではないか」とのお話もありましたが、いま現実に行われている有効性テストの正解がハッキリと判明していない以上は、モノサシの目盛りが正しいのか間違っているのか、検証しておくことも不可欠だと思っております。

さて、この金商法上の内部統制と会社法上の内部統制が同質か異質なものか、といった議論は最近よく聞くところでありますが、もうひとつ、昨年6月に成立しました一般社団法人法・一般財団法人法上に規定されている「内部統制システム」について、どのように位置づけるべきか、といった問題も出てくるのではないでしょうか。この一般社団法人法上の内部統制と会社法上の内部統制との関係、もしくは金商法上の内部統制と一般社団法人の内部統制とのそれぞれの関係についてはこれまで、あまり検討されていなかったと思います。もちろん会社の担当者(とりわけ公開企業の担当者)の方にとりましては、一般社団法人法における内部統制の整備はほとんど関係ないわけでありますので、あまり実務家サイドにおきましては実益がある議論とはいえないかもしれませんが、それぞれの法律の関係を議論するのであれば、当然に検討しておかなければならないところだと思われます。ちなみに、一般社団法人・一般財団法人法90条では、理事会設置一般社団法人の理事会の権限として、以下のように規定されております。(理事会非設置法人の場合は76条)

(理事会の権限等)
第90条  理事会は、すべての理事で組織する。
2  理事会は、次に掲げる職務を行う。
一  理事会設置一般社団法人の業務執行の決定
二  理事の職務の執行の監督
三  代表理事の選定及び解職
3  理事会は、理事の中から代表理事を選定しなければならない。
4  理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。
一  重要な財産の処分及び譲受け
二  多額の借財
三  重要な使用人の選任及び解任
四  従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五  理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他一般社団法人の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
六  第百十四条第一項の規定による定款の定めに基づく第百十一条第一項の責任の免除
5  大規模一般社団法人である理事会設置一般社団法人においては、理事会は、前項第五号に掲げる事項を決定しなければならない。

この一般社団法人法の規定からおわかりのとおり、条文の内容はほとんど会社法で規定されている内部統制システムの整備(取締役会による基本方針の決定義務)に関するものと同じ条項になっております。大規模一般社団法人(負債額合計が200億円以上の一般社団法人)の場合には、体制整備に関する決定をしなければならない、という点も会社法上の大会社の場合とほぼ同様の規定です。しかしながら、一方は営利法人の内部統制に関する規定であり、一方は非営利法人に関するものであります。おそらく同じような規定ぶりと申しましても、その中身はかなり違うのではないでしょうか。

たとえば、内部統制は経営管理そのものであるとか、取締役の善管注意義務のひとつとしての内部統制構築義務は経営判断原則の適用がある、などと言われるところでありますが、非営利法人である一般社団法人の理事は、社員のための共益的な業務執行はいたしますが、経営を行うわけではありません。したがいまして、一般社団法人法上の内部統制は「経営管理」行為とは言えないでしょうし、また会社法上の内部統制のように「経営判断の法理」の適用がある、とも言えないと考えます。またそもそも、内部統制システム構築の目的としては業務の有効性、効率性の確保ということが挙げられますし、リスク管理そのものである、とも言われるところでありますが、非営利法人の理事については、業務執行の効率性、有効性確保のために内部統制システムの構築を要するものでもないでしょうし、またリスク管理における「リスク」はこれまた「儲け」と裏腹の関係にあるでしょうから、これも一般社団法上の内部統制とは関係のないものと思われます。そう考えますと、この一般社団法人上、内部統制の構築が要請される理由は、そこに多数の社員、債権者が存在するために、適切なガバナンスを構築するため(「一問一答・公益法人関連三法」商事法務 70頁以下)であります。これまでの監督官庁に代わり、法人自身が自律できる仕組み、つまり社員総会で決まったことは、適切に理事によって履行される仕組みつくりのために要請されている、つまりガバナンスの問題そのものが内部統制と解釈できるような気がいたします。

こういったそれぞれの法律の出来上がった経緯から、同じ「内部統制」という用語が用いられるとしましても、その法律の制度趣旨に合致した内容で理解されるべきであります。会社法も金融商品取引法も、そして公益法人法におきましても、それぞれ管轄となる省庁も異なりますし、条文に登場するに至った背景も異なっているはずです。したがいまして、一般社団法人法に内部統制システムの整備などが規定された背景や、その基本的な性質などを考えてみますと、基本的にはそれぞれ別個の法律体系から生まれてきたものであって、同質のものであるとか、規範としての意味合いに整合性が確保されているとか、一般法・特別法の関係にあるようなものではないと考えております。以前私は、統一的な理解に拘泥していたようなきらいがあったのですが、どうも耳に心地よい「内部統制」なる概念を、それぞれの法律制定にあたって、それぞれが解釈をして、導入されていった状況を素直に受け止め、あまり統一的な理解にはこだわらないでいいのではないか、と思い直しているところであります。そして、統一的に理解することによる「実益」のところは、別途検討することで足りるのではないか、と思います。(そのあたりはまた再考編その2、につづく)

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2007年5月14日 (月)

社外監査役「企業統治における役割」

すでにご承知の方もいらっしゃるかと存じますが、5月11日に日本監査役協会HPに「社外監査役(コーポレート・ガバナンスにおける役割)」という大部の論文が公表されました。同志社大学監査研究会と日本監査役協会関西支部監査実務研究会との共同研究報告書とされた、たいへん中身の濃い論稿であります。実は私が共同執筆者となっております「非常勤社外監査役その理論と実務」の執筆中から、この同志社大学、監査役協会共同研究報告の内容はずいぶんと気になっておりましたが、こうやって中身を拝読させていただきますと、監査役制度全般や社外監査役制度への光の当て方が「理論と実務」とは異なっているように感じられましたので、新鮮な気持ちで一気に115頁ほど読了いたしました。

もちろんお時間がございましたら、全文お読みいただくのがよろしいかと存じますが、私がぜひ監査役制度にご関心のある実務家の方にお読みいただきたいのが、96頁以下20頁ほどにわたる「3章 研究会、対話ノート」の部分であります。会社法のもとにおける監査役(監査役会)のあり方につきまして、学者サイドと実務家(関西の大手企業の監査役の方々)との間における「あるべき監査役の姿」に関するイメージに大きな認識の差があることに深い関心を抱かれることと思います。私なりに率直に表現させていただくとすれば、これだけの認識の差をそのままストレートに文章として表現されたのは、大胆であり、また問題提起としては有益ではないかと感じております。基本的には監査役の権限強化、独立性に裏付けられた専門性の発揮を通じて会社法が期待する監査役の地位を高めようと考えておられる学者サイドの意見に対して、(せっかく妥当性監査への期待が会社法の随所で垣間見えるわけであるから)企業経営の能力のある人を中心に、企業経営の効率性など、経営判断への関与の度合いを高めることによって監査役の地位を高めようとの気運を有しておられる現役監査役実務家の方々の意見とが、社外監査役への期待像、独立性、社外監査役への情報提供の程度、海外子会社との連携、親会社からの社外監査役招聘など、いろんな論点におきまして微妙な問題を浮上させております。(いや、実におもしろいです)

現在の監査役制度が十分に会社法で期待されているとおりに機能しているか、という問いかけには、おそらく皆様が疑問符をつけていらっしゃる。したがって、皆様がこういった議論をされる頭の中には、どうも社外取締役を中心とした「監査委員会」(委員会設置会社)との比較を意識されているようです。とすれば、先日このブログでもご紹介させていただいた大杉謙一教授の「監査役制度改造論」の問題意識にも通じるところがあるようにも思われます。従来の監査役制度と委員会設置会社における監査委員会、そして、ひょうっとしたらその中間に位置するような制度もあってもいいのではないか、それが会社法で期待される監査役制度のあり方にもマッチするのではないか、また、コーポレート・ガバナンスのあり方が世界共通の議論の対象となっている時代において、欧米の投資家にわかりやすい日本の制度といったものも検討されてもいいのではないか・・・など、いろんな問題意識が喚起されるところまで、昨今の監査役制度はたどり着いてきたのかもしれません。

なお、日本監査役協会のHPでは、前同日付けで、「会社法における中小会社の実務対応」につきましても論文が公表されておりますので、そちらもご関心のある方は参照されてはいかがでしょうか。

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2007年5月13日 (日)

株価算定評価書の開示について(2)

またまたM&A会計士ブログの澤村先生がMBO(マネジメント・バイアウト)における株式算定評価書に関するエントリーをお書きになっていらっしゃるので、早速拝読させていただきました。(すみません、私は他人様のブログの性格まで変えるほどの傲慢さは持ち合わせておりませんので、どうか「パンケーキの作り方」とか「おいしいレストラン特集」とか、そういったエントリーもお書きになってください。楽しみにしております。>澤村先生。実は私もささやかな趣味であります歴史モノ、「大和古寺巡礼の旅」とか「蘇我入鹿の遺跡のなぞ」みたいなエントリーを(当初は)織り交ぜたいと思っていたわけでありますが、おそらくどなたもそんなエントリーを平日の朝から読みたいとも思われませんでしょうし、もうここまできてしまいますと、ちょっと無理っぽいです 笑)

澤村先生のエントリーを拝読し、また私自身、MBOにおいて公開買付者(経営者の関与する会社)が少数株主を含めた対象企業側に提示する金額として、どうも気になりますのがDCF算定を基礎とした株価>純資産方式による株価の場合に、なぜDCFによる株価が優先されるんだろうか・・・ということであります。公開企業の株価というのは、本質価値と市場価値というのがあって、理想的な資本政策からしますと、この本質価値と市場価値をバランスよく高めていくこと、というのが基本的な考え方ではなかったかと思います。そして、この本質価値の重要な構成要素として、現在の企業の保有する純資産があると。(たとえば元産業再生機構代表者の富山和彦さんのご解説などは、こういったお話ではなかったでしょうか。)MBOがリリースされて、その後に競合的なTOBが現れなかったからといって、経営者の関与する企業のTOB価格が合理的な価格を提示したことの理由にならないのは、こういった本質価値と市場価値とのバランスが短時間には第三者からは判明しないからではないでしょうか。もちろん、一株あたりの純資産額よりもDCF法を算定の基礎とした株価のほうが大きい場合であれば、それなりに将来収益の価値も少数株主に配分されるのではないか・・・ということも理解しうるのでありますが、一株あたりの純資産額よりもDCF法による株価が低く、そのDCF法を基準とした株価をもとにTOB価格が提示された場合、なぜ清算を前提とした価格よりも少数株主は低い価格に甘んじなければならないのか、という点が、私にはよくわかりません。もし純資産部分の清算ということが(継続企業としての株式価値判断としては)おかしいのであれば、再調達時価純資産方式によるものでも結構かと存じます。コールオプションを放棄したわけでもない(つまり、長期保有の自由を自ら放棄したわけでない)一般株主が、なにゆえ最低限度の本質価値(再調達時価純資産)の部分を無視して、市場価値だけを基準とした算定方式に従わなければならないのか、(つまりコストアプローチは採用されずに、インカムアプローチとマーケットアプローチのみによる株価算定に左右されなければならないのか)ものすごく不思議であります。ただ、現実に昨年から今年にかけてのMBO事例のうち、いくつかは、この一株あたり純資産>TOB価格といった図式が成り立つものであります。単純に考えますと、この純資産の余剰のところは、すべて支配株主が少数株主の犠牲のもとで独り占めできることになって、明らかに不公平ではないでしょうか。

私は前も申し上げましたとおり、こういった企業価値判断の専門家でもありませんので、一般企業の監査役、という視点からの疑問を呈しているわけでありますが、もし自社のオーナー社長がMBOを決意したとして、こういったTOB価格を意見表明に関する取締役会で審議するとしたら「とんでもないですよ、社長、あんた自分ひとりで利益をもってっちゃって、どうすんですか??」と噛み付くんじゃないでしょうか。そういったバリュエーションの素人でも、監査役である以上は最終的には株主への説明責任が発生するわけですから、なぜ、一株あたりの純資産額(一株あたりの再調達時価純資産額)よりも低い株価によるTOBへの賛同が、少数株主にとっても公平といえるのか、合理的な、しかもわかりやすい説明ができないとおかしいのではないでしょうか。常勤であればまだしも、社外監査役としましては、明確な説明ができなければヤバイのではないかと思ってしまいます。(まあ、説明が不要となるように、略式事業再編の手法がとれるのであれば幸いかもしれませんが。)本日(5月12日)、テーオーシーのMBOが不成立となった旨のリリースがありましたが、まぁこのところ1000円前後の市場価格で推移しておりましたので、不成立は当然といえば当然かもしれません。しかしながら、やっぱりダヴィンチ側よりコストアプローチがなにゆえ考慮されていないのか、恣意的な株価算定と言わざるをえないのではないか、との疑問が提示されておりましたし、私自身としましても、このあたりはとても知りたいところであります。(ちなみに、オオタニファンドTO側の株価算定書によりますと、継続企業の価値算定にとっては、清算価値を基礎とする手法は適切でないことと、コントロールプレミアムが含まれていることにより妥当な算定ができないことが理由とされているようですが、それは競合するTOBが存在して、どの株主にも、できるだけ高い値段がつけられるインセンティブが存在する場合には妥当しても、支配株主と少数株主との利害が相反するMBOの場面にも妥当する理由なのでしょうか。アメリカでも長い歴史をもつMBOの実務でありますので、こういった場合でも合理的な説明方法があるのではないかとも思いますし、ぜひ今後の参考のためにも、どなたかにお聞かせ願えれば・・・と希望しております。

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2007年5月12日 (土)

週末上京日記(耳寄り情報あり)

ひさしぶりに上京しまして、日本取締役協会の内部統制研究会に参加させていただきました。半年ぶりに八田進二教授のお話をお聞きして、勉強になりました。なにが勉強になったかと申しますと、すでに八田先生の最近の金融商品取引法上の内部統制報告制度に関するお考えは、いろいろな雑誌で公式に述べておられますので、今日こそはボヤキに近いようなお話が聞けるのではないか・・・・と予想しておりましたが、期待どおり(?)普段の活字には表れないホンネの内部統制(といいますか、八田先生の理想とする内部統制報告制度)のあり方について、吐露いただけたことであります。「経営管理そのもの」であるはずの内部統制制度の法律(金商法)への落とし込みに至る苦悩、意見書前文の持つ意味、監査役制度への思い、その他もろもろ。

本当は内部統制最新事情として、いっぱい書きたいことがございますが、八田先生から「あんまりブログに書かないでね」と帰り際に念を押されましたので、伝聞方式での記述は控えさせていただきます。また別の機会に、活字jになったものへの感想ということで、書かせていただきますね(^^;ただ、ひとつだけ、耳寄り情報でありますが、以前このブログでもご紹介させていただいたCOSO中小企業向けガイダンスの翻訳書がいよいよ来月あたり発売されるそうであります。私自身も「いつ出るんやろか」と関心を寄せておりましただけに、この全文翻訳書につきましてはおおいに期待しております。

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2007年5月11日 (金)

株価算定評価書の開示について

M&Aフィナンシャル・アドバイザリー・サービスの著者でもいらっしゃる公認会計士の澤村八大先生のブログにおきまして、MBO等における第三者による株式算定書の開示制度について、感想をお書きになっておられます。ほかのM&A関連のブログでも少し話題になったりしておりますが、「第三者による株価算定評価書」といったものは、実際にバリュエーションに携わる方々にとっても、たいへん興味のあるところのようですね。こういったものは、あまり「教え合いっこ」はなされないようであります。(株価算定の方法といったものは、これだけ人材が流動化した時代においても、企業秘密のようなところがあるのでしょうか?)

MBOネタにつきましては、当ブログにお越しの皆様方には、おそらく書き手の能力に問題があるようでして、あんまり人気の高い話題ではございませんけれども、もうすこしおつきあいください。(^^;;、昨年の12月13日に証券取引法の企業情報開示に関する内閣府令等(証券取引法施行令の一部を改正する政令および発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令)が改正されまして、MBO等(経営者や親会社が関与するTOBにより、株式非公開化を図る制度)において公開買付けを行おうとする者は、買付届出書の添付書類として第三者作成にかかる株価算定書が要求されることとなりました。したがいまして、MBOにおける経営者関与会社が、TOB価格を決定する際に判断資料とした株価評価書がEDINETでも閲覧できるようになったわけであります。(どういった会社のMBO手続きのものが閲覧可能であるか・・・というところは澤村先生のブログに記載されております)

ただし澤村先生も指摘されておられるように、公表される株価算定評価書は、公開買付届出書を提出した者、つまりTOBをかける立場の方だけでありまして、MBOの際にもっとも知りたいところの「意見表明者が参考とした第三者作成にかかる株価算定書」については公表されません。(おそらく、これは競合TOBの場合の株主への情報開示を念頭におかれているものと思われます。ただ昨年12月に東証もMBOの際の情報開示に関する要請書、「合併等の組織再編、公開買付け、MBO等の開示の充実に関する要請について」と題する書面をリリースしておりますが、そのなかでは、MBOの際における対象企業側の第三者算定評価書も東証への提出資料としては要請されておりますが、公衆縦覧に供されるべき資料には含まれておりません)もし、「賛同のお知らせ」のように、MBO対象会社のほうも、意見表明書に第三者による株価算定書の添付が義務付けられたら、なかなか情報開示も充実するのではないでしょうか。とりわけ、澤村先生が感想でお書きになっているように「評価書の中身は、各社さまざまで、それぞれの個性が出ている」といったものでしたら、買付側の第三者と、対象企業の第三者がまったく別個の算定基準を用いているにもかかわらず、どうして対象企業が買付け側の価格に賛同するに至ったのか、そのあたりの経緯を詳細に説明しなければならないと思われます。(また、もしほとんど同じような内容でしたら、逆に公正性が強く疑われる結果になってしまうかもしれませんよね)

たとえば、5月7日に代表者の100%出資会社による公開買付けによってMBOを行うことがリリースされましたP社の場合、Nコーディアル社が買付け者側の第三者機関として対象会社の株価算定書を作成しておられますが、N社はフィナンシャルアドバイザーたる地位にあって、この案件の成功報酬をいただく立場にあるようです。また、算定根拠はこれまでの開示資料と、対象企業の事業計画書によるものであって、特別なDDはされないそうです。つまりフェアネスオピニオンではないということですよね。そして、基本は市場株価算定法によるものとして、そこに類似会社比較法、DCF法を参考にするといった手法とのことで、直前の株価をもとに評価する、というもののようです。正直申し上げて、素人ながら、なんでこれが公正な価格算定のための資料になるのか、大いに疑問であります。公表しなければならない情報が公表されずに企業側に一方的に存在している状況があって、しかも市場株価を基準に算定する(つまり一般株主に市場株価での売却を強要する)となると、これはけっこう問題になりそうな雰囲気が漂っていませんかね?(もちろん、適時開示すべき情報で、公表していないものはない、ということであればいいわけですが。でも、MBOをリリースした後に、経営者に競合してTOBを仕掛けるファンドなどが現れないように、企業に有利な情報を公表しないインセンティブというのも働くような気もします・・・)しかも、この評価書を算定した機関が、買付け届出者の代理人として交渉したり、成功報酬を受ける、ということになりますと、交渉成立への大いなるインセンティブが働くわけですから、買付者(=対象企業)が納得できないような評価内容をそもそも記述するはずがないと思われますが、いかがでしょうか。

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2007年5月 9日 (水)

インサイダー規制と内部統制の構築

(5月9日夜 追記あり)

ジャスダック上場の大塚家具さんが、増配(一株あたり20円→25円)に関する重要事実を決定しながら、公表前に自社株買いを行ったことで、インサイダー取引(平成18年改正前証券取引法違反)に該当するとして、金融庁より課徴金納付命令を受けるようです。該当事実は2006年2月の行為ですから、もう1年以上も前の事実ですね。(日経ニュース大塚家具さんの開示情報はこちらです)インサイダー取引規制の論点はけっこうたくさんありまして、とりわけ課徴金制度が導入されてからは、企業コンプライアンスの観点からも、ずいぶんと注意の必要なジャンルになってきたのではないかと思われます。(たまたまコンプライアンス委員とか、内部通報窓口業務とかやっている関係で、そう感じるだけかもしれませんが・・・)たとえば、このたびの大塚家具さんの場合、増配に関する開示でありますが、いったん20円と公表しておきながら、その後25円に修正する決定ですから、特別5円程度の増額修正ならいいのでは・・・とも思われそうですが、軽微基準によりますと20%未満ならオッケーですが、今回は25%の増額ですので、軽微とはいえないことになります。また、自社株買いにつきましても、もともと取締役会で決められた内容で、予定どおり適宜進めているわけですから、適用除外ということでいいのではないか・・・とも思われそうですが、ここにも論点がございます。(あまりに詳細な話になりますので、ここでは省略いたしますが・・・)そして、ニュース内容や大塚家具さんの公表された情報からしますと、先日もこのブログで話題となりました「重要事実の決定時期」に関する考え方が大きな争点だったようであります。(公表事実のなかにも「法律上の見解の相違があった」とされております)

増配に関する社内の決定時期について、証券取引等監視委員会は平成18年2月上旬、そして対象会社のほうは2月23日であったと主張されたようで、その2月10日から22日までの自社株取得行為がインサイダー取引に該当する、というもの。気をつけなければならないのは、会社側としましては、取締役会で正式に決定をして、その日に適時開示として公表したんだから、なんで内部者取引なの?といった感覚かもしれませんが、この「決定」というのは、証券取引法上では実質的判断と解されておりますので、前回も申し上げましたとおり常務会や経営会議での決定や、社内の体制次第では、ひょっとすると社長の意向表明といったところでも「決定」と評価されてしまう可能性も否定できません。(ここに、適時開示の社内実務とインサイダー規制の実務との「隙間」が出てきますので、コンプライアンス上の問題点が浮かび上がってきます。この「隙間」というものは、決定時期の問題だけでなく、適時開示における「重要事実」とインサイダー規制の「重要事実」が微妙に異なるところでも発生する可能性があります。たとえば先日のコマツさんの例では、海外子会社解散に関する事実が適時開示の対象にはなっても、まさかインサイダー規制の対象にはならないだろう・・・といった感覚から発生したようであります。この「隙間」は要注意だと思われます。)

単なる私見で恐縮ですが、こういった「決定」時期の実質的判断に由来する「隙間」問題についてのコンプライアンスリスクをどう社内で低減していくべきか、というところでありますが、(万全とまでは申しませんが)内部統制構築によるアプローチと、開示統制構築によるアプローチの二つが考えられるのではないでしょうか。内部統制的アプローチとして考えられますのは、上場企業でしたら、少なくとも社長の意思表明くらいでは重要事実の決定がなされたとは評価されないような体制を(形式的にでも)整えておくべきでしょうし、実質的な決定権限が取締役会にあること、監査役会による業務監査を経ておかなければ最終決定には至らなかった経験などを積み重ねていくことに尽きるのではないでしょうか。このあたりは、まさに会社法上の内部統制システムの整備と関連があるところだと思われます。また、開示統制的アプローチとしましては、社内での適時開示に関するルールを明文化しておき、開示対象事実の決定プロセスを、きちんと規定化すること、そして最終決定がなされるまでの間、誰が責任をもって情報を管理するのか、管理規定をもって明確化することだと思われます。こういった社内慣行の明文化と、その明文化されたルールが実際に守られていることで、こういったインサイダー規制に関するコンプライアンスリスクはかなりの程度低減できると考えております。(また、皆様方で、妙案がございましたらお教えください。)しかし、この大塚家具さんの場合も、コマツさんの場合もそうですが、おそらく「故意は認定できなかった」といった証券取引等監視委員会の見解からもおわかりのとおり、悪いことをして、不当な利益を得ようといった気持ちからではなく、たまたまひっかかっちゃった、というのが現実の意識ではないでしょうか。そもそも課徴金納付命令というものが、元々行政目的で発動されるわけでして、基本的には社会にある違法状態を是正するところに主眼があり、ペナルティ(制裁)ではないわけですよね。(いま、少しずつペナルティ的色彩の強い課徴金制度を市場規制にもとりいれよう、との意識が高まってきているわけではありますが)そういった行政目的による処分が発動されたことが、一般の社会では、けっこう強い非難の対象になっているところがあるように思います。きっちり争いたいんだけど、社会の風当たりが強くなるようだったら、課徴金を納付して済まそう・・・といったような企業行動にも反映されてしまうような気がします。こういった風潮についても、これでいいのかどうか、ちょっと考えるべき論点があるのではないでしょうか。

(追記)決定の解釈さんがご指摘のとおり、証券取引法上のインサイダー取引の「故意」について若干誤解を招く記載がありましたので、削除いたしました。この「故意」について証券取引等監視委員会が触れておられるのは、刑事立件への見解を示したのか、それとも課徴金賦課に関する情状としての見解を示したのか、明らかになっておりません。そのあたりちょっと報道や開示情報からはまだ判明しないようです。また、いろいろと示唆に富むコメントありがとうございます。(しかし、インサイダー取引関連になるとまた、なにゆえかアクセス数がアップしますね。。。(^^;  )

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2007年5月 8日 (火)

中小監査法人の登録辞退について

GW明けの5月7日の適時開示情報をみておりましたら、MBO(マネジメント・バイアウト)に関する意見表明報告書が2つも出ておりました。いま話題の株式会社テーオーシーのMBOに関する開示情報を含めますと3つです。このブログでMBOに関するエントリーをアップいたしますと、コメントもあまりつけていただけませんし、閲覧数も減ってしまうので、あまり皆様ご興味がないのかもしれませんが、(個人的には)会社法や金融商品取引法上の大問題だと思っております。おそらく、MBOは今後もどんどん増えてくると思いますが、企業価値向上が実現する陰で、情報不足や多数株主の恣意的な利益独占の状況に泣き寝入りするしかない一般株主(少数株主)は何も手が打てない・・・・・というのはどうなんでしょうか。このたびのダヴィンチ・アドバイザーズ(大証二部)によるテーオーシーへの「株主価値を守るための公開買付けのご提案」(TOB価格800円に対して1100円の提案)は、いろいろな意味で注目されるところだと思われますが、その提案内容からの感想でありますが、やはり買付届出書に添付されている株価評価書を少数株主側が閲覧して、そこからTOB価格の妥当性に関する意見を述べておられますが、こういった手続きはとても貴重だと思います。もし、5月11日が期限となっております有限会社オオタニファンドTOによるTOBが不成立となった場合、800円と1100円の金額の差もさることながら、少数株主側が開示資料をもとに企業価値向上策を公表して賛同を得た、という点も評価されるかもしれませんね。(もちろん、私はどちらにも特別の思い入れはございませんのであしからず。)

さて、昨日のエントリーのなかで、中小の監査法人さんが監査法人登録を辞退されるところが多いのはなぜか??といった疑問を少し書かせていただきましたが、さっそくligayaさんのブログにて、たいへん詳細にご解説いただきました。(いつも、どうもありがとうございます。)こういったところは、なにゆえか新聞報道などでもつっこんだ解説がなされないところですし、監査法人さんのリスク回避というのが、どのあたりに由来するのか・・・といったところがとても気になるところでしたので、(あくまでもligayaさんの私見、ということではございますが)たいへん勉強になります。実は今日(7日)、私が社外監査役を務めております会社で、監査役会と監査法人さんとの監査実施説明を含め、いろいろな協議がなされたのでありますが、その席上でちょっとこの話題について指定社員の方にお聞きしましたところ、ligayaさんとほぼ同じようなお話をされてました。学校法人の監査や任意監査で食べていくことを選択するところ、税務コンサル業務で食べていくことを選択するところ、どこかと統合することを考えているところ、いずれにしましても、監督官庁による組織的監査への厳格な立ち入り調査や(だいたい6ヶ月に一回くらいとか?ホンマかいな・・・)、報酬と、今後予想される負うべきリスクとの兼ね合い等で考えますと、中小の監査法人さんでは、法定監査のお仕事というのは、かなり厳しいものなのですね。。。とりわけ、私のほうから、監査法人の内部統制についていろいろとご質問させていただこうかと思いましたが、「監査報告の品質管理」ということで、きちんと書面および図面にてご報告がありました。あまり詳細なことを書くのも信頼関係違背になるといけませんので控えさせていただきますが、マネージャー以上の肩書きの方については、監査法人の顧問弁護士さんも巻き込んで、かなりシビアな品質管理をされていますね。また独立審査担当社員の方の業務評価とか、レビューの方法とか、一般の継続研修以外のプログラムを受講しなければいけないとか、中途採用における新たな問題とか・・・、私が予想していたのよりもはるかに厳しいことがわかりました。

こういった監査役と監査法人との意見交換の場はとても有益であります。私のような財務会計的知見をもたない監査役の素人的疑問が(わずかながらも)解消されることも有益なのでありますが、なんといっても内部統制、とりわけ統制環境上の問題点の把握だと思われます。減損会計や税効果会計、リース会計の適用など、会社の会計上、税務上の成績に大きな影響を与える評価見積もりへの考え方の相違のようなものを目の当たりにしますと、「こんなことだったら、ちょっと粉飾したほうがいいかも。なんぼでも、バレへん方法あるんとちゃうかな・・・・・」といったような気になりますよね。ホント、業績が悪かったらそう思います。でも、そこで役員クラス、グループ企業の社長さんなど、みんながまじめに、変な気をおこすことなく、変な数字をいじることはしない環境、それがあたりまえと思える環境、悔しかったら本業で見返す環境(笑)・・・・・、そういった環境があるとないとでは、やっぱり大違いのような気がいたします。日本を代表するような超大手企業と監査法人さんとの関係はまた別なのかもしれませんが、売上高100億とか200億くらいの規模の上場企業の場合ですと、会社と監査法人との信頼関係はまさに「企業の統制環境」にあるように思います。以前、ローテーションのお話をさせていただきましたが、そういった統制環境を監査法人の担当者の方が認識するまでに、やっぱり少しは時間を必要するのかもしれませんね。(文書化しろといわれても、これはなかなか文書化になじまないところではないでしょうか)

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2007年5月 7日 (月)

二つの内部統制理論(再考編 序)

「内部統制監査と会計士さんの法的責任」のエントリーには、みすず所属会計士さんと藤野先生より、たいへん貴重なコメントを頂戴いたしました。連休中にアップしたものでありますが、私のエントリーをお読みいただき、かなり心外に思われたり、もう少しよく調べてからご意見を述べたらいかがなものか・・・とのお怒りに近い感想をお持ちの先生方も多いかと存じます。(失礼な物言いがございましたらご容赦くださいm(_)m)ご指摘の点につきましては、真摯に受け止めまして、もう一度よく調査検討のうえ、続編をアップさせていただきます。私自身、こういったご批判、ご意見を頂戴することは本当にありがたいことと思います。自分の知らない世界のことを、思いつくままに記述しておりますので、至らぬ点もあろうかと思いますが、今後ともどうかご教示のほどよろしくお願いいたします。たとえば本日の日経新聞の一面におきましても、監査法人の登録制度を採用したがゆえに(また、監査体制に関する審査が厳格になるがゆえに)、30法人程度が今後の監査業務を辞退する予定、との記事が出ておりました。(たしか中間報告がもうすぐ日本公認会計士協会のHPにアップされるんですよね?)こういった記事を読んでおりましても、「なんで辞退しなければならないのか」「人手不足と監査強化とはどのような関係にあるのか」「辞退しなければならないほど、今後の監査法人の監査体制は変わるのか」「それではどう変わるのか」「辞退するほうがコスト的に見合うほど、監査は儲からない仕事なのか、それともやりたいけれど、泣く泣く辞退したのか」といったところ、素直に部外者である私などは本当に疑問の湧くところであります。こういったところを会計士さん方の世界の常識ではどう考えておられるのか、といったところに私はたいへん関心を持ちます。このブログはそもそも社外監査役という視点から企業価値をどう考えるのか・・・というところが出発点であります。「内部統制」ということを議論することによって、私は監査役と会計監査人(監査法人)は共通言語を持つ時代になったと理解しております。ということは双方がそれぞれ相手の世界のことをもっと知らなければならない時代になったと考えております。そういった気持ちで、今後も真摯にいろいろな話題を採り上げさせていただこうかと思っております。

さて、このブログではもう何回か、金融商品取引法と会社法における「内部統制理論」の関係について考えてきたわけでありますが、最近またいろいろな論文等で、このふたつの内部統制理論に関する問題が採り上げられておりますので、再度私自身の考えを整理してみたいと思っております。(これまでの私のエントリーにつきましては、こちら等をご覧ください)一般法、特別法の関係のように、同一の法体系のなかに存在するのか、それともそれぞれまったく別個の体系のものなのか、ということでありますが、まずそういった議論をする実益はどこにあるのか、ということが問題となりますし、またどのように考えるべきかを検討するにあたっての問題の視点を3,4点ほど提示してみたいと思っております。私自身、あまり統合的に検討する必要はないのではないか・・・といった立場に与するものでありますが、ひょっとすると、私が法律関係の仕事をしているために、財務報告に係る内部統制のあり方を考えるにしても、(さきほどの話と関連するかもしれませんが)法律家の観点で意見書を読んでいるところに原因があるのかもしれません。あの「財務報告に係る内部統制報告の実施基準」あたりは、おそらく監査論を学ぶ体系の上で成り立っている論理構成のような気もしますが、しかし「経営者評価の仕方」といった監査論では学ばない部分も中心にすえられているわけでありますから、これをどう考えるべきなのか、そのあたりも含めて、これから検討していきたいと思っております。(ちょっと本編を書く時間がなくなってしまいましたので、本日は序論のみとさせていただきます)

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2007年5月 5日 (土)

非常勤社外監査役の理論と実務

連休中にCOSOっとご紹介いたします。4月下旬に、商事法務より「非常勤社外監査役の理論と実務」(大阪弁護士会、日本公認会計士協会近畿会共同執筆による)が出版されました。(おそらくもう全国の書店に並んでいると思います。)事務所の近くにあります旭屋本店3階(法律経済コーナー)に行きまして、平積みになっているところをデジカメで撮影しようかと思っていたのですが、平積みではなく、監査役コーナーのところに数冊ばかり本棚に並んでおりました(;▽;)

31882062 私も、ごく一部ではございますが、執筆者として担当しております。一冊の本を世に出すまでに、どんな苦労があるのか、たいへんよくわかりました。ブログを書くのとは大違いですよね。ここのところ、監査役の実務や理論面で、さまざまなところから提言が出されておりますし、また財務報告に係る内部統制と監査役監査のあり方など、きわめて重要な議論も各所でなされておりますので、そういった議論の整理にお役立ていただければ幸いです。また実務に役立つことを主眼としておりますが、各所で弁護士、公認会計士それぞれが議論したうえでの意見なども織り込んでおります。また、よろしければ書店でお手にとって、興味のあるテーマ等、パラパラとお読みいただければ幸いです。そのまま自宅に帰って「うーーーん、やっぱりあの本、欲しい」と思われましたら、ご購入ください。(笑)非常勤社外監査役の方にとりましては、監査実務に役立つものと思いますし、常勤監査役の方にとりましては、非常勤社外監査役の職責のようなものをご理解いただくためにも有益かと存じます。「監査役と善管注意義務」あたりの記述は、かなり思い切った意見が述べられておりますし、また内部統制システムの整備状況と監査役の対応あたりの記述もかなり精緻なものとなっております。

(執筆者全員で合宿したのはもう昨年の夏。ずいぶんと昔のように思えてきました。)

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2007年5月 4日 (金)

内部統制監査と会計士さんの法的責任

GW後半は、少し大きめの裁判の準備のために毎日事務所で仕事をしております。(会計士の皆様、とりわけ監査法人に所属されている方は、例年どおりGW休暇なくお仕事に勤しんでいらっしゃるのではないでしょうか。)最近は「内部統制」に関する書物がたくさん書店で平積みになっておりますし、実務上の論点は出尽くしたのではないか・・・といった印象すら感じられるところでありますが、前回のエントリー同様、私自身はまだまだ会社法上も、また金融商品取引法上においても、この内部統制関連の議論のタネは尽きないものと思っております。本日は内部統制に関連するお話のなかでも、いま「特需」と噂されております会計士さん方の法的責任との関係について少し考えてみたいと思います。ちなみに、某監査法人が被告とされている長銀事件の大阪地裁判決(平成19年4月13日)の判決全文も、こちらのページで閲覧することが可能であります。(たいへん長いので、雑誌等への掲載後に解説付きで読まれたほうがいいかもしれませんが・・・)

少し前になりますが、「月刊監査役」3月号におきまして、神戸大学の志谷匡史教授が「公認会計士の任務懈怠とその責任(主要判例を素材に)」と題する論稿を著していらっしゃいまして、不正会計にまつわる公認会計士の法的責任の根拠、判例にみる会計士の義務と責任、判例の検討、そして最近の公認会計士制度部会報告にまで言及しておられ、まことに読み応えのある作品といった印象を受けました。なかでも、判例検討部分につきましては、平成3年の日本コッパーズ事件第一審判決からはじまり、平成17年の山一證券第一審判決まで、6つの判例につきまして事案、主張、判決を手際よくまとめておられ、たいへん読みやすくなっております。その判例検討部分を拝読しているなかで、志谷教授は言及されておられませんでしたが、今後金融商品取引法上の内部統制報告制度が施行され、財務諸表監査とは別に内部統制監査が行われるようになった後の、こういった不正会計に関連する会計士さんの法的責任はどうなるのだろうか・・・(果たして軽くなるのか、重くなるのか・・・・)といった疑問が素直に生じてまいります。

たしかに、これまで監査法人(公認会計士)の民事賠償責任が問われた事件を概観してみますと、志谷教授が指摘されていらっしゃるように、裁判所は会計専門職の方々へかなり寛容な判決が多いように感じられます。会計士さんの責任が認められた平成11年3月のヤオハン事件(資料版商事法務187号216頁)、平成15年の凸版印刷事件(判例時報1826号97頁)などは、その認定された事実関係からいたしますと、どう考えても専門家としての注意義務違反があったと断定できそうな事件でありまして、あまり結論については異論のないところのようであります。(志谷教授も同様の見解を述べておられます)その他の判例におきましては、監査に従事する当時の監査環境を十分考慮したうえで、その当時公認会計士監査に要求されていた注意義務の程度を十分斟酌したうえで、当時の水準から判断して注意義務違反はなかったと結論付けるところが一般的であります。(このあたりは、責任を追及する側の代理人弁護士の力量にも依拠している部分もあるかもしれません)

ところで、監査法人(公認会計士)さん方の責任が否定された事件の判決を眺めておりますと、裁判官の一定の共通認識が「まえがき」のように記載されていることに気がつきます。それは「会計監査は不正発見を目的とするものではない」ということと、「内部統制が有効に機能していない当該会社においては、会社のほうに落ち度が大きく、会計監査人が見落とすのもやむをえない」といったフレーズであります。(もちろん、ニュアンスはそれぞれの判決で異なりますが、おおむねこの二つのフレーズは共通認識になっているようです)採り上げられております判例の事実関係は、すでに今から5年以上前のものばかりでありますが、さて、このように内部統制報告制度が世間を賑わわせており、経営者に内部統制の評価、そして監査法人にはその監査が制度化されようとしている今、果たして今後も裁判所が会計専門職の方々にとって寛容な判決を出していただけるものかどうかは、ちょっと疑問符がつくところではないでしょうか。いままで「内部管理体制が悪いのだから(責任を問えないのも)やむをえない」とされていた上場企業の内部統制システムそのものが、今後は財務諸表監査を担当する会計士さんが、経営者の評価を通してではありますが、なんらかの監査意見を述べなければならないわけでありますから、経営者による内部統制報告に「適正意見」を出してしまいますと、「やむをえない」とされる前提がなくなってしまうわけであります。また、「そもそも会計監査は不正発見を目的とするものではない」といったフレーズにつきましても、たしかに現在でも会計士さんに不正発見義務が課されているわけではありませんが、この内部統制報告制度が導入された制度目的(経営者不正の防止)や、「監査にあたる者は、不正が行われているリスクをある程度認識したうえで監査業務に従事すべきである」といったリスク・アプローチの考え方からしますと、今後の会計不正に伴う監査人の法的責任論の場におきましては、もはや枕詞のようには使えないのではないでしょうか。ちなみに、この志谷教授が検討しておられる6つの判決のうち、凸版印刷事件は数少ない会計士さんの責任が認められた事例でありますが、この事例では会計士さんの責任に7割の過失相殺が認められております。なぜ過失相殺をしたかといいますと会社側の内部統制制度の不備が、不正を行いやすい環境を作り出していたから・・・とされています。この判例理論からしますと、今後はこの会計士さんが内部統制監査まで行うことになりますので、もしそういった企業の経営者による内部統制評価に「適正意見」を出しておりますと、まちがいなく過失相殺は斟酌されないことになるはずであります。

ここで「内部統制の限界論」を持ち出して、経営者による内部統制の無視があったことを主張すれば過失相殺は認められるのではないか・・・との反論もあるかもしれません。しかしながら、この実施基準にも書かれてあります「内部統制の限界論」でありますが、私も最近まで、誤解していたところでありますが、この議論はどうも内部統制の評価および監査における「合理的な保証水準」(つまり内部統制システムの目的達成への有効性には限界があるために、絶対的な保証ではなく、合理的水準で足りる、というもの)と関係するものであって、会社法上の内部統制の議論(つまり取締役や監査人の法的責任の減免)とはあまり関係がないのではないか、と考えております。(このあたりは、自説を改めたいと考えております)したがいまして、監査法人(公認会計士)の法的責任が検討されている場面におきまして、実施基準に登場する「内部統制の限界」に関する論点につきましては、あまり期待されないほうがよろしいのではないでしょうか。(この、会社法上の内部統制と金商法上の内部統制との関係につきましては、別途エントリーで検討したいところであります)

こういったところから考えますと、内部統制報告制度における監査法人さんの監査のレベルというものは、「レビュー」のレベルとしたほうがよかったのではないか、とふと思った次第であります。(四半期報告書の法定化における監査のレベルとの関係で、たしか内部統制報告制度における監査のレベルが決まった・・・といったような話を思い出しました)ところで、この「内部統制監査と監査人の法的責任」に関する論点は、上記の担当監査人の注意義務を議論するところだけでなく、監査法人自体の内部統制(組織的監査の強化)とも関係が出てきます。担当責任者に過失が認められる場合、もし組織的監査が励行されていたとすると、その監査法人内部の審査担当者の過失の有無にも影響が出てくるのではないでしょうか。このあたりは、これまであまり議論されてこなかったところだとは思うのですが、もし大手の監査法人さんあたりで、東京の大手法律事務所さんと検討されていらっしゃるようでしたら、その見解もお聞きしてみたいところであります。また、こういった内部統制監査と法的責任論を詰めて考えていきますと、「内部統制報告制度導入による監査役の法的責任論」も検討する必要が出てきますが、これはまた別の機会に検討してみたいと思っております。

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2007年5月 2日 (水)

金商法の内部統制報告書「等」

私のブログにお越しの皆様方であればすでにご承知のとおり、金融商品取引法におきまして、上場会社は有価証券の流動性に着目した開示制度の一貫として、「内部統制報告書」を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出することが義務付けられております。また、この内部統制報告書には監査法人(公認会計士)の監査証明を受けなければならないこともまた規定されております。(いまさら申し上げることもないと思いますが、金商法24条の4の4 1項、同法193条の2 2項です)

ところで、このあたりの条文を詳細に見渡しますと、「内部統制報告書等」といった概念が登場します。(金商法24条4の4第6項)

金融商品取引法24条の4の4 6項

 第二十四条第八項、第九項及び第十一項から第十三項までの規定は、報告書提出外国会社が第一項又は第二項の規定による内部統制報告書を提出する場合(外国会社報告書を提出している場合に限る。)について準用する。この場合において、同条第八項中「外国会社(第二十三条の三第四項の規定により有価証券報告書を提出したものを含む。以下「報告書提出外国会社」という。)」とあるのは「外国会社」と、「第一項の規定による有価証券報告書及び第六項の規定によりこれに添付しなければならない書類(以下この条において「有価証券報告書等」という。)」とあるのは「第二十四条の四の四第一項又は第二項(これらの規定を同条第三項において準用する場合を含む。)の規定による内部統制報告書及び同条第四項の規定によりこれに添付しなければならない書類(以下この条において「内部統制報告書等」という。)」と、「外国において開示(当該外国の法令(外国金融商品市場を開設する者その他の内閣府令で定める者の規則を含む。)に基づいて当該外国において公衆の縦覧に供されることをいう。第二十四条の四の七第六項及び第二十四条の五第七項において同じ。)が行われている有価証券報告書等に類する」とあるのは「内部統制報告書等に記載すべき事項を記載した」と、同条第九項中「、当該外国会社報告書に記載されていない事項のうち公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定めるものを記載した書類その他」とあるのは「その他」と、同条第十一項中「有価証券報告書等」とあるのは「内部統制報告書等」と読み替えるものとするほか、必要な技術的読替えは、政令で定める。

なぜ、「等」がつくかと申しますと、上記の条文にもあるとおり、金商法24条の4の4第4項が以下のとおり規定しているからであります。

第4項

 内部統制報告書には、第一項に規定する内閣府令で定める体制に関する事項を記載した書類その他の書類で公益又は投資者保護のため必要かつ適当なものとして内閣府令で定めるものを添付しなければならない。

先日、金融商品取引法の施行にあたり、政令、内閣府令案が公表されましたが、この流動性に着目した開示制度のうち、内部統制報告制度の施行に関する政令、内閣府令、事務ガイドラインにつきましては、後日公表ということで、まだ明らかになっていないところであります。(内部統制報告制度が適用される企業の範囲についてのみ公表されております。「会計・監査ジャーナル4月号」の座談会記事において、金融庁の企業開示課長さんのご発言では、春ころにも公表する予定、ということだったんですが・・・・・)いろいろな雑誌やネットでの解説などを探してみましても、この「内部統制報告書等」の「等」って、いったい何を示しているのか、まったく話題になっておりませんし、実は私はよくわからないのです。上記24条の4の4第4項の文言からは、内部統制報告書に添付される書類ということですが、193条の2がありますので、監査証明とは別モノですよね。(じつはこの193条の2の第2項にも、内部統制報告書に監査証明を受けなくてもいい場合があることが記載されておりまして、これも少し関心のあるところですが)有価証券報告書に関する金商法24条との対比で考えますと、定型的な会社の書類でいいのかな、とも思われるのですが、そもそも内部統制報告書自体が有価証券報告書の計算基礎(もしくは開示情報)の信頼性を担保するような役割を担っているわけですから、有価証券報告書に要求される添付書類と同じものが要求されるわけでもないですよね。したがいまして「有価証券報告書等」(同法24条第8項)と「内部統制報告書等」における「等」は、ちょっと意味が異なるのではないか、つまり内部統制報告書とともに、実質的には開示内容について、経営者が真実性を担保しなければならないような書面を提出する必要があるのではないか、と推測されます。

内部統制報告書、というものは、おそらくA4一枚程度の経営者の署名捺印を付した報告書になると思いますが、その報告書に添付されるのは、「財務報告の信頼性を確保するための内部統制システム(整備と運用)を記載した書面」ということになるのでしょうか?でも、そんな実質的な記録を添付書面として提出しなければならないのであれば、すでに内部統制(とりわけJーSOX法)に関する大きな話題になっているはずですよね。少し前に、東京で金融庁の方の解説を拝聴した際には、内閣府令で規定することは、テクニカルなところが中心であり、それほど大きな論点は出てこないようなお話だったと認識しておりますので、私の勘違いかもしれませんが、どうもモヤモヤっとしたところが漂っております。どなたか、情報通の方がいらっしゃいましたら、そのあたりをご教示いただけますとありがたいです。

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2007年5月 1日 (火)

上場規則の実効性確保に向けた制度整備

会社法が施行されてちょうど1年が経過しました。会社法附則4条により、本日から合併対価の柔軟化に関する諸規定が施行されることとなりますので、親会社株式を対価とした子会社による企業再編、いわゆる三角合併も解禁となります。私個人としましては、外国企業の日本子会社が、かなり厳しい事業性に関する要件をクリアしなければ、税制の適格性を具備できないことがネックになって、それほど三角合併が増えることはないのではないかと考えております。ただ、合併対価の柔軟性につきましては、おそらく企業再編のために「少数株主排除」を推進することに利用したい、と考えている企業が多いと思いますし、大企業だけでなく、中小の閉鎖会社におきましても、それなりの需要が多いと考えられますので、すくなくとも「交付金合併」のほうが今後いろいろな社会現象を巻き起こすのではないか、と予想しております。

さて(三角合併とはあまり関係はありませんが)4月24日に東京証券取引所は上場制度総合整備プログラム2007として、国際競争力向上をはかるための実行計画を公表しておられます。おおむね3月27日に公表されました「上場制度整備懇談会中間報告」の提言を受けて、まとめられたものでありますが、このプログラムでは実行の緊急性について3段階に分類しながら解説されているところが興味深いところであります(現在までの運用状況についても、別途報告書がリリースされております)。どの項目もたいへん勉強になるのですが、「上場規則の実効性確保」に関する項目のなかで「具体案を検討のうえ実施する事項」として、以下のとおりリリースされているのが目に留まりました。

上場廃止等の決定等、上場会社にとって不利益となる措置の決定時の対応について、更なる透明性の向上をはかるための検討を行う。

・上場会社が自主規制法人の決定に対する不服申し立てを行うことができる制度の整備について見当する。

・不服申立てが行われている間は、措置の実施は中断することが考えられる。

このあたりは、先の「懇談会中間報告」では、あまり具体的な提案としては書かれていなかったところだと思います。たいへんおもしろい提案でありますが、①ペイントハウス社などが利用していたような裁判所における仮処分制度との関係はどうなるのか、②連結中心の財務諸表の開示が中心となるなかで、不服申立権者の範囲とか、子会社の行為に関する連帯責任はどうなるのか、③不服申立てを認めることで、一般事業会社は監査法人へ責任を転嫁する道が出てくるのではないか(たとえば内部統制報告制度の有効性評価と監査意見との食い違いが発生した場合など)、④不服申立て手続きの中で、「情状酌量」の余地は認められるのか(たとえば、審査時点までに対象企業が「改善報告書」のようなものを出して、改善されたことを立証した場合には、処分が軽減されるなど)など、いろいろな論点が出てきそうであります。

とりわけ、先日の日興CGの上場廃止処分の是非に関しましては、ずいぶんと東証は「日興に甘い処分で、処分内容が不透明」と叩かれておりましたので、多様な処分内容を検討するだけでなく、こういった不服申立て制度を認めることによりまして、処分の客観性を担保する狙いもあるのではないでしょうか。ただ、上場規則の実効性確保を考える場合には、ペナルティの厳格化を維持して、過去の不正には断固とした対応をとる、という点を強調するのか、たとえ多少の規則違反があったとしても、事業会社の自律性を尊重しながら、その違反状態の是正に務めるという点を強調するのかによって、その運用も異なるような気がします。ペナルティの厳格な適用を重視するのであれば、どんなに事後対応として、内部統制や開示統制に関する改善策を提案しても処分は変わらないこととなりますが、違反状態の是正を第一義とするならば、不服申立て制度のなかで、コンプライアンスプログラムの導入や内部管理体制の変更などを訴えて、処分軽減もありうるように思えます。これまでも実効性確保の手段としましては、改善報告書の提出や、監理ポスト制度なども利用されておりましたので、私個人としましては、上場規則の実効性確保のためには、処罰を単に厳格に適用するよりも、規則が期待する上場企業の行動規範をできるだけ多くの企業に浸透させることを重視すべきでないか、と考えております。

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