昨日は「内部統制と代表者の関与」のエントリーにつきまして、いろいろとご意見ありがとうございました。やはり予想通りといいますか、現実の内部統制システム(現状把握と整備)構築の場面におきましては、経営者と担当者(外部コンサル)との距離はかなり遠いものかもしれません。(まだ他にもご意見がございましたら、昨日のエントリーにコメントを頂戴できますと幸いです。ボヤキに近いものでも結構ですんで。)
さて、先週金曜日の日経新聞の記事にもありましたように、会計制度監視機構より、本当にひさしぶりに「独立性の高い監査を実現するために(監査役と監査法人のあり方について)」と題する提言が公表されました。(提言内容はこちらのPDF)企業会計における不祥事が多発する原因のひとつとして、監査法人の独立性が十分に確保されていないことが問題であることから、これを監査役制度と会計監査人の関係を見直すことによって、あるべき方向を検討しよう、監査役の責任を問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向はバランスを失している感が否めないとのことで、いくつかの具体策が提言されております。公認会計士法等の一部を改正する法律案が国会で審議されているところでありますので、非常にタイムリーな提言ですね。
証券取引所の規則で(上場会社に対して)社外監査役に要求される基本的な能力や要件の詳細を記載した規則を策定するとか、「監査役リスト」のようなものを証券取引所が具備して、その中から上場会社に選択してもらったり、取引所が指名するなどの制度が紹介されており、それはそれで面白い提言だと考えますが、いまもっともポピュラーなご意見と思われるのが(立法論ではありますが)監査役に会計監査人の選任解任権を付与したり、報酬決定権を付与することで会計監査人の独立性を確保しようといった提言であります。これは会計制度監視機構に限らず、いろいろなところから監査役制度と会計監査人のあり方として提言されているところであります。
この提言の趣旨は、業務監査と会計監査の最終責任者である監査役の権限を強化することで監査役自身の独立性を強化して、会計監査人はその監査役の保証された独立性のもとで会計監査業務をまっとうする、といった考え方がベースにあるようです。それは結論部分におきまして「企業会計をめぐる不祥事においては、まず経営者が断罪されるべきであり、次に監査役の責任が徹底追及されるべき筋合いである。・・・監査役の責任をなんら問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向は、バランスを失している感が否めない」と記述されていることからも理解できるところでして、たとえ監査役の指揮監督下にあったとしても、会計監査人の業務上での独立性を守ることで不祥事防止の一翼を担える存在になる、といった観点からの提言だと思われます。監査役の責任が重いわけですから、まずは徹底的に監査役こそ責任問題の矢面に立つわけで、その結果として「会計監査人の責任軽減」を導く思想といえるのではないでしょうか。
ところで、会計監査人の責任軽減といった観点から「監査役と会計監査人のあり方」を考える場合、ふたつの考え方があると思います。ひとつは監査役の権限強化による考え方(つまり立法論としての会計監査人選任解任権付与を前提とするもの。監査役の独立性の傘のなかに、すっぽりと会計監査人が入ってしまうもの)と、これまでの会計監査人と監査役との法的な位置づけはそのままにして、会計監査人の業務の一部を監査役の業務で代替させ(監査役が会計監査人の業務の手足になるもの)、その監査役の代替業務を合理的に信頼することによって(つまり信頼の抗弁を会計監査人に付与することで)、会計監査人の責任軽減をはかる、といった考え方であります。私は会計監査人の責任限度を合理的な範囲にとどめながら、かつ監査役制度の強化を図ることができるのは、後者の考え方ではないかと思っております。
といいますのも、(たとえ立法論としましても)監査役に会計監査人の報酬決定権や選任解任権を付与するとなりますと、それはもう委員会設置会社における監査委員会と同様のものになってしまい、まさに監査役が妥当性監査を行うことを認め、また経営判断にも関与することを認めることになります。ここまできますと、もはや監査役は「監査」をするのではなくて「業務執行を決定する」ことに近い業務内容になってしまいます。(注)そもそも、経営陣と会計監査人との関係からみて会計監査の独立性が毀損されてしまうことを問題提起しているにもかかわらず、期待される対象であるはずの監査役自身が「経営者」になることを認めてしまっては、なんのために独立性確保をはかろうとするのか、理解できなくなってしまうのではないでしょうか。現行の会社法が認めているところの、取締役が決定する会計監査人の報酬について「同意する」ことや、選任解任に「同意する」ことあたりが、監査役本来の監査業務と言えるスレスレの場面のようにも思われます。また、監査役の独立性強化の下での会計監査人の独立性といった概念は、たとえば金融庁による指揮監督関係や、監査法人内部における組織的監査における指揮命令関係などと、どういった関係になるのか、かなり複雑な問題を新たに抱え込むことになるのではないか、という危惧も拭いきれません。さらに監査委員会とは異なる「監査役会」において、いったい常勤監査役と社外監査役がどのような役割分担をはかるべきなのか、その理想のようなものが見えてこないような気がします。
いっぽう、会計監査人と監査役との連携協調を重視して、会計監査人がその業務の一端を監査役に担ってもらう、という考え方であれば、日常の情報収集は常勤監査役に、そして財務会計的知見を必要とする会計判断は社外取締役に期待することで、それぞれの役割に応じた職務が明確になること、会計監査人の独立性が確保されにくい分野での取締役らとの交渉関係に必要な範囲で、監査役の独立性を利用する(監査役に交渉してもらう)ことで足りるのではないかと考えられること、そしてなによりも(これは先日も申し上げましたが)監査役制度の機能が発揮されているかどうか、といったことが監視検証され、対外的に評価の対象となるのであれば、そのことが監査役制度の実質的な社内における地位向上の要因になるのではないか、と期待されるからであります。(また、もし監査役制度が若干力不足の場合には、優秀な監査役サポーターが多数存在している事実とか、監査役会専従の外部専門家が存在している事実なども、その会社が監査役制度をどの程度重視しているか、といったことも評価されることになるようにも思われます)立法論を伴っての問題提起ということになりますと、それこそ監査役制度そのものを大きく変動させるような案に魅力を感じますけれども、本当に暫定的に、監査役と会計監査人との責任上のバランスの均衡を検討する、ということでしたら、やはり監査役と会計監査人との業務における分担を基本的に考え直すほうが得策ではないでしょうか。
(注)本日のお話は、「会計監査人の責任軽減・・・責任負担のバランス・・・といった観点からみた会計監査人と監査役とのあり方」について記述したものであります。純粋に監査役の独立性強化・・・といった目的のみを追求するのであれば、こういった「妥当性監査」「経営判断への関与」を前面に出す考え方自体も十分検討に値するものと思っております。