上場規則の実効性確保に向けた制度整備
会社法が施行されてちょうど1年が経過しました。会社法附則4条により、本日から合併対価の柔軟化に関する諸規定が施行されることとなりますので、親会社株式を対価とした子会社による企業再編、いわゆる三角合併も解禁となります。私個人としましては、外国企業の日本子会社が、かなり厳しい事業性に関する要件をクリアしなければ、税制の適格性を具備できないことがネックになって、それほど三角合併が増えることはないのではないかと考えております。ただ、合併対価の柔軟性につきましては、おそらく企業再編のために「少数株主排除」を推進することに利用したい、と考えている企業が多いと思いますし、大企業だけでなく、中小の閉鎖会社におきましても、それなりの需要が多いと考えられますので、すくなくとも「交付金合併」のほうが今後いろいろな社会現象を巻き起こすのではないか、と予想しております。
さて(三角合併とはあまり関係はありませんが)4月24日に東京証券取引所は上場制度総合整備プログラム2007として、国際競争力向上をはかるための実行計画を公表しておられます。おおむね3月27日に公表されました「上場制度整備懇談会中間報告」の提言を受けて、まとめられたものでありますが、このプログラムでは実行の緊急性について3段階に分類しながら解説されているところが興味深いところであります(現在までの運用状況についても、別途報告書がリリースされております)。どの項目もたいへん勉強になるのですが、「上場規則の実効性確保」に関する項目のなかで「具体案を検討のうえ実施する事項」として、以下のとおりリリースされているのが目に留まりました。
上場廃止等の決定等、上場会社にとって不利益となる措置の決定時の対応について、更なる透明性の向上をはかるための検討を行う。
・上場会社が自主規制法人の決定に対する不服申し立てを行うことができる制度の整備について見当する。
・不服申立てが行われている間は、措置の実施は中断することが考えられる。
このあたりは、先の「懇談会中間報告」では、あまり具体的な提案としては書かれていなかったところだと思います。たいへんおもしろい提案でありますが、①ペイントハウス社などが利用していたような裁判所における仮処分制度との関係はどうなるのか、②連結中心の財務諸表の開示が中心となるなかで、不服申立権者の範囲とか、子会社の行為に関する連帯責任はどうなるのか、③不服申立てを認めることで、一般事業会社は監査法人へ責任を転嫁する道が出てくるのではないか(たとえば内部統制報告制度の有効性評価と監査意見との食い違いが発生した場合など)、④不服申立て手続きの中で、「情状酌量」の余地は認められるのか(たとえば、審査時点までに対象企業が「改善報告書」のようなものを出して、改善されたことを立証した場合には、処分が軽減されるなど)など、いろいろな論点が出てきそうであります。
とりわけ、先日の日興CGの上場廃止処分の是非に関しましては、ずいぶんと東証は「日興に甘い処分で、処分内容が不透明」と叩かれておりましたので、多様な処分内容を検討するだけでなく、こういった不服申立て制度を認めることによりまして、処分の客観性を担保する狙いもあるのではないでしょうか。ただ、上場規則の実効性確保を考える場合には、ペナルティの厳格化を維持して、過去の不正には断固とした対応をとる、という点を強調するのか、たとえ多少の規則違反があったとしても、事業会社の自律性を尊重しながら、その違反状態の是正に務めるという点を強調するのかによって、その運用も異なるような気がします。ペナルティの厳格な適用を重視するのであれば、どんなに事後対応として、内部統制や開示統制に関する改善策を提案しても処分は変わらないこととなりますが、違反状態の是正を第一義とするならば、不服申立て制度のなかで、コンプライアンスプログラムの導入や内部管理体制の変更などを訴えて、処分軽減もありうるように思えます。これまでも実効性確保の手段としましては、改善報告書の提出や、監理ポスト制度なども利用されておりましたので、私個人としましては、上場規則の実効性確保のためには、処罰を単に厳格に適用するよりも、規則が期待する上場企業の行動規範をできるだけ多くの企業に浸透させることを重視すべきでないか、と考えております。
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