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2007年5月27日 (日)

ブルドックソースの意見表明報告と附随質問

EDINETによりますと、スティールパートナーズ(正確にはSPのSPVLLC)がブルドックソース社(BS社)に対して5月18日にTOBを開始、その公開買付期間は40日間だそうであります。買付価格は1,584円ですが、現在のBS社株価は1、630円ということのこと。報道にもありますとおり、これまでBS社は敵対的買収防衛策を導入していなかったようで、急遽、アドバイザーを選任のうえ、対応策を検討中のようであります。

ともかく、BS社はSP社によるTOBに対して賛同とも反対とも意見表明をしておりません。証券取引法27条の10第1項、証券取引法施行令および発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令13条の2、第1項により、公開買付対象者は買付け開始日から10営業日以内に意見表明が義務化されておりますので、5月25日付けにて賛否留保の意見表明報告書の提出と、これに付随してSP社への質問を行っております。(BS社の意見表明報告書の内容等はこちら で閲覧できます)なお、新聞報道等におきましては、BS社の賛否留保、といった対応は意見表明が義務化されたにもかかわらず許されるのか?といった疑問が出されておりましたが、証券取引法で義務化されたのは意見表明報告書の提出でありますから、賛否どちらかの表明をしなくても、「今後も表明しません」といった内容の報告書を提出しても、とくべつに違法にはならないと思われます。(したがいまして判断留保、といった表明もなんら問題ないと思います)

ただ(ここからは私の素人考えですが)、79項目にも及ぶ質問事項について、報告書をSP社が受領した後わずか5営業日以内に(前記府令13条の2、第2項)対質問回答報告書として(SP社が)提出をしなければならない、というのは普通に考えますとかなり厳しいんじゃないでしょうか。しかも、ひとつひとつの質問に「明確かつ詳細に回答せよ」とか「具体的かつ詳細に・・」といった要望が記載されておりますので、いくらBS社の株主のためとはいえ、まともに回答するにはちょっと時間的制約がきついと思われます。(もちろん、こちらも「報告書」の提出が義務付けられておりますので、回答したくなければ、その理由を記載して回答を差し控えた報告書を提出するのは自由であります)そもそも、SP社のTOBに関する自らの賛否判断は留保しておいて、その判断のための根拠事由を収集するために相手方に質問をするといった対応はフェアといえるのかどうか、すこし疑問が残るものと私は考えております。なお、商事法務1786号には金融庁担当者の方の解説論文(公開買付制度の見直しに係る政令・内閣府令の一部改正の概要)が掲載されておりますが、その担当者の方の解説によりますと、たとえば公開買付期間が30日(延長請求ができない場合のうちの最短期間)だとすると、前半の15日間に、公開買付者と対象者、それぞれの意見を株主に提示させて、後半の15日間は一般株主の熟慮期間にあてる、したがって、意見表明報告を買付日から10日以内、対質問回答書を質問受領後5日以内と規定したもののようであります。そういたしますと、この5日以内に提出されてくる対質問報告書の内容を精査したうえで、対象者側の意見形成表明を行うといったことになりますと、(今回は公開買付期間が40日間ということで、若干長めではありますが)その意見表明には期限が付されていないわけでありますから、対象者側が一般株主に自らの主張を広報するのであれば絶対的に有利な立場に立つと思われますし、上記の制度趣旨にも反するものになるのではないでしょうか。なお、内閣府令の報告書様式の記載例におきまして、意見を留保したときにはその理由を付すること、今後意見表明する予定があるかどうかを記載することなどが定められておりますので、そもそも自己の賛否判断のための質問も許容されるかのようにも読めるわけでありますが、ここで想定されているところの「意見表明を留保せざるをえない理由」といいますのは、たとえば対象会社内において、賛否に関する意思形成過程で意見が分かれているとか、独立社外役員が強く反対(賛成)しているといったような場合を指すものであって、いわゆる社内意思形成過程を一般株主に開示する必要があることから「留保」が許容されているのではないかと思われます。したがいまして、自らの判断を形成するための質問をする必要があるために、判断を留保する、といった感覚は、どうも私にはフェアでない対応ではないか(そういったことで証券取引法が質問権を定めたとはいえないのではないか。質問権というのは、その質問に公開買付者が回答すること、それ自体を一般株主に開示させるためではないか)・・・という気がいたします。

また、以前にも少し触れましたが、楽天に対するTBSの再質問などにもみられるとおり、「どこまでの回答が得られたら、十分な回答とみなすか」といったことについて、対立(本件ではまだ対立かどうかは未定ですが)当事者間で認識が一致することなど到底ありえない話なわけですから(これは独立第三者委員会が設置され、そこが判断する場合でも同様だと思われます)、どちらがより「ルールを公正に適用しているか」によって判断せざるをえない場面が今後も散見されるようになるんじゃないでしょうか。そもそも、TBSさんも、このブルドックさんも、取締役の地位確保のためではなく、まさに株主利益を最大限守るために、十分な時間を確保して、相手方に対して多くの情報を収集しようと必死になっているわけであります。とりわけ買収防衛策を導入している企業におきましては、そのルールは自ら策定したものであるにもかかわらず、さらに相手方のルール遵守を要求したうえで、自らの判断のもとにルール適合性を判断するわけであります。ということは、裏を返せば、たとえばMBOの場面におきましても、一般株主がTOB価格が公正なものであるかどうかを判断するために、対象企業の取締役らは(公正な価格による一般株主排除の手段がとられているかどうか、を判断するための資料提供として)最大限の情報提供に尽力しなければならないはずでありまして、もし個別株主からの要求があれば、その要求にも最大限度、回答しなければならないのではないでしょうか。(そうでなければ、取締役の態度としては一貫していないはずであります)敵対的買収者が現れたときには、相手方に自分たちの納得のいくまでの情報提供を要求しながら、いっぽうでMBOを敢行する際には、政令や内閣府令で規定されている最小限度の情報開示で足りる、と考えるのは著しくフェアではないと思いますし、法的にもかなり問題性が高いのではないか・・・と、ふと素人考えではありますが、疑問が生まれるところであります。(なお、最後の部分につきましては、ビジネス法務7月号におきまして、田中教授と清原弁護士による座談会記事におきましても、少し触れられているところでありまして、今後さらに大きな論点として採り上げられるのではないか・・・と予想しております。M&Aにつきましては、私には素人的発想しか思い浮かびませんが、上記座談会記事は非常に参考になるところが多く、関心のある方は6月号の前半部分と併せてご一読されてみてはいかがでしょうか)

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コメント

山口先生、いつも拝読させてもらっております。単なる感想ですが、
後半部分の、MBO云々のところは恐ろしいですね。
さらに飛躍すれば、友好的M&Aの場面においても、特に株式交換や合併のような場面になると、イチゴアセットではないですが、「なぜこのプレミアムになったのか」、「買収後どのように経営するのか具体的に述べよ」とかの経営開示を求める株主が出現しかねないですね。
(TOBだと単純にプレミアム次第のような気もしますが、被買収企業の株主は、合併や交換ですと買収者側の株主になってしまうので、買収後のシナジー達成感の見極めに必要だ、なんていいだしかねない)

投稿: katsu | 2007年5月27日 (日) 11時33分

すいません、追記させていただきますと、アメリカではオラクル-ピープルの敵対的M&Aの際、独禁法判決をクリアし、ISSの賛成表明を受けた後、社外取締役が買収表明の受け入れを取締役会に進言しました。
問題は当時ピープル社がITバブルが終焉し、業績下降局面にあったことで、社外取締役がこれ以上事態の混乱を広げないよう(つまり、株主利益を損なわないよう)にするために、取締役会にM&Aの受け入れを進めたのですが、日本のライツプランの独立委員会にこのような企業価値の本来的な判断まで求められて回答できる能力があるのでしょうか。

今の傾向ですと、独立性が強調されればされるほど、申し訳ございませんがアデランスのように弁護士や会計士のかたがたがメンバーを占めますので、経営の局面局面で臨機応変にジャッジメントできるのかなかなか見切り発車的な要素満載ですね。

投稿: katsu | 2007年5月27日 (日) 11時53分

山口先生、すいません最近はROM専門です

敵対的買収に対する防衛策の場合には、独立委員会を普通作るわけですけど、MBOの場面ではほとんど作られることはないですよね。まったく同じように株主の利益保護(企業価値判断のために)委員会を設置して、そこでkatsuさんが指摘されているように独立性の高い人たちによって意見形成がなされるということでしょうか。
本来、敵対的買収者が出現したときには、対象会社の一般株主にとってみれば、「二社択一」の関係にあるわけですよね。しかしMBOの場合には、そもそも二社択一の関係すら存在しないわけですから、独立委員会によって公正さが確保される要請は一般の防衛策導入時よりもむしろ高いのではないでしょうかね。

PS 最近、また内部監査の手順が変わり、かなり滅入っております。

投稿: narita-k | 2007年5月27日 (日) 12時18分

山口先生、ごぶさたしています。
いつもいろいろ勉強させていただいております。今回もトピカルなテーマを迅速に取り上げておられるのは、すばらしいと思います。

今回は面白いテーマですので、何か参考になるのではないかと思い、先生とは別の視点を書き込みさせていただきます。

質問と意見の関係ですが、小職は意見の形成のために必要な質問は当然許容されると考えています。むしろ、質問もせずにいきなり意見を表明することは、始めに(反対という)答えあり、という批判が妥当すると思います。反対をするとしても、しっかり熟慮のうえ、反対という意見にいたるのが適切だと思います。その意味で、質問を通じて相手方の立場について先入観に基づいた意見表明をすることを回避し、意見表明に関する取締役会での意思決定の基礎となるべき情報を適切に集めるように努力したうえで、それを踏まえて討議するのが適当であり、株主にとってミスリーディングとなる意見の表明とならないように、時間をかけて検討した結果の意見を表明することこそが、取締役としても果たすべき善管注意義務を尽くしたものになると思います。(意見表明にかかる取締役の義務については、個人的見解はまだ少数説と思われるますので、別に機会をあらためて議論をさせていただこうかと思っていますが)経営判断の原則の適用をも視野に入れ、拙速な意見表明を避けるのが賢明だと思います。

私見では、この質問の機会が公開買付法制上導入されたことが事前警告型防衛策にも少なからぬ影響を与えるものと考えており、その観点からも、質問の位置づけはかなり重視しています。

回答の期限が5営業日である点がかなり厳しいのではないか、というのはおそらく正当なご指摘だと思います。他方、本来公開買付者は、質問の対象となる事項について、当然検討済みの場合が多いはずであり、そうでなければ回答は「未検討」でも差し支えないはずです。また、一括回答となる部分があってもいいというべきでしょう。したがって、不可能ではなく、適切な対応も5営業日あれば可能であるといえるでしょう。

あまり書くと差し障りがあるかもしれませんが、対象会社も本来は買収提案があった時点で、当然自社の経営計画がしっかり策定されているはずですので、代替提案のために時間が必要というのは、やや首をかしげたくなる主張ではないか、という意見に親近感をもっています。むしろ、もっと堂々とこれまでしっかり経営しており、経営計画も買収者よりも優れていると言えていいのではないか、と。そこから時間をもらってもう一度考え直すというのは、「後だしじゃんけん」の批判もあてはまる場合が出てくるのではないか、そういうこともご検討いただきたいと思います。またユノカルを踏まえて、会社の経営方針をしっかり対外的に明確に表明しておられる会社もあり、いい法的アドバイスをしている事務所があるなと同業者ながら、賛同している対応をしておられるところもあります。

最後に、個別の事案についてのコメントは、差しさわりがありますので差し控えますが、買収防衛策の発動がありうる状況下では、まず独立取締役といえる社外取締役からなる特別委員会の組成を第一に考えるのが適当ではないか、と思われます。いずれの対応策となるか、未定の段階であってもどちらの対応をとる場合としても適切な初動対応が不可欠なのはいわずもがなではないか、と思われます。あくまで一般論です。
先生がおっしゃるように、ビジネス法務に掲載されている対談の中で論じられている見方も、参考になる点があると思いますが、これ以上長くなると失礼にあたりますので、この辺で。

またお邪魔させていただきます。

投稿: 辰のお年ご | 2007年5月27日 (日) 20時31分

katsuさん、他のエントリーにもコメントを付けていただきまして、どうもありがとうございました。たしかに独立社外役員による第三者委員会というものが有効に機能することで公正性が確保されるということはありますが、一方で迅速に適切な経営判断が下せるか、というと難しい面もあろうかと思われます。ただ、取締役といいましても、経営全般にわたる判断ができるような役員がいまの日本にどれほど存在するのか・・・といったところも気がかりな点ではあります。(自己保身という疑念もかなりぬぐいきれないのも事実だと思います)ここは詳細に議論すべき点かと思いますし、個別事案のなかで、バランスを確保する作業も必要ではないかと考えております。また、ご意見お待ちしております。

narita-kさん、かなりおひさしぶりですね。コメントありがとうございます。私も同感でありますが、あまりに厳しいものとなりますと、企業再編の円滑化を阻害することにもなる、という意見もよくわかるつもりです。法律の難しい解釈よりも、こういった場面では、公正とか透明とか、公平とか、そういった原理原則に沿った考えのようなことをもうすこし議論していきたいですね。

辰のお年ごさん、どうもコメントありがとうございます。
前半部分につきましては、たしかに辰のお年ごさんの意見のほうが合理性があるように思います。(一種の問題提起的な意味で書かせていただきました。ツッコミがなかったらどうしようか・・・と思っておりました)後半部分につきましては、またご意見を拝読していろいろと考えたことがございますので、続編にて新たな問題提起として書かせていただきます。

投稿: toshi | 2007年5月28日 (月) 00時55分

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