二つの内部統制理論(再考編 その1)
再考編序論をアップしてからすでに1週間が経過しておりますが、金融商品取引法上の内部統制報告制度における内部統制システムの構築と、会社法上の体制整備に関する内部統制システム構築との関係について、普段私が考えておりますことの続編であります。すでに何名かの方より、「もう財務報告に係る内部統制については現場の作業が進捗しているところだから、抽象的なことはいいのではないか」とのお話もありましたが、いま現実に行われている有効性テストの正解がハッキリと判明していない以上は、モノサシの目盛りが正しいのか間違っているのか、検証しておくことも不可欠だと思っております。
さて、この金商法上の内部統制と会社法上の内部統制が同質か異質なものか、といった議論は最近よく聞くところでありますが、もうひとつ、昨年6月に成立しました一般社団法人法・一般財団法人法上に規定されている「内部統制システム」について、どのように位置づけるべきか、といった問題も出てくるのではないでしょうか。この一般社団法人法上の内部統制と会社法上の内部統制との関係、もしくは金商法上の内部統制と一般社団法人の内部統制とのそれぞれの関係についてはこれまで、あまり検討されていなかったと思います。もちろん会社の担当者(とりわけ公開企業の担当者)の方にとりましては、一般社団法人法における内部統制の整備はほとんど関係ないわけでありますので、あまり実務家サイドにおきましては実益がある議論とはいえないかもしれませんが、それぞれの法律の関係を議論するのであれば、当然に検討しておかなければならないところだと思われます。ちなみに、一般社団法人・一般財団法人法90条では、理事会設置一般社団法人の理事会の権限として、以下のように規定されております。(理事会非設置法人の場合は76条)
|
この一般社団法人法の規定からおわかりのとおり、条文の内容はほとんど会社法で規定されている内部統制システムの整備(取締役会による基本方針の決定義務)に関するものと同じ条項になっております。大規模一般社団法人(負債額合計が200億円以上の一般社団法人)の場合には、体制整備に関する決定をしなければならない、という点も会社法上の大会社の場合とほぼ同様の規定です。しかしながら、一方は営利法人の内部統制に関する規定であり、一方は非営利法人に関するものであります。おそらく同じような規定ぶりと申しましても、その中身はかなり違うのではないでしょうか。
たとえば、内部統制は経営管理そのものであるとか、取締役の善管注意義務のひとつとしての内部統制構築義務は経営判断原則の適用がある、などと言われるところでありますが、非営利法人である一般社団法人の理事は、社員のための共益的な業務執行はいたしますが、経営を行うわけではありません。したがいまして、一般社団法人法上の内部統制は「経営管理」行為とは言えないでしょうし、また会社法上の内部統制のように「経営判断の法理」の適用がある、とも言えないと考えます。またそもそも、内部統制システム構築の目的としては業務の有効性、効率性の確保ということが挙げられますし、リスク管理そのものである、とも言われるところでありますが、非営利法人の理事については、業務執行の効率性、有効性確保のために内部統制システムの構築を要するものでもないでしょうし、またリスク管理における「リスク」はこれまた「儲け」と裏腹の関係にあるでしょうから、これも一般社団法上の内部統制とは関係のないものと思われます。そう考えますと、この一般社団法人上、内部統制の構築が要請される理由は、そこに多数の社員、債権者が存在するために、適切なガバナンスを構築するため(「一問一答・公益法人関連三法」商事法務 70頁以下)であります。これまでの監督官庁に代わり、法人自身が自律できる仕組み、つまり社員総会で決まったことは、適切に理事によって履行される仕組みつくりのために要請されている、つまりガバナンスの問題そのものが内部統制と解釈できるような気がいたします。
こういったそれぞれの法律の出来上がった経緯から、同じ「内部統制」という用語が用いられるとしましても、その法律の制度趣旨に合致した内容で理解されるべきであります。会社法も金融商品取引法も、そして公益法人法におきましても、それぞれ管轄となる省庁も異なりますし、条文に登場するに至った背景も異なっているはずです。したがいまして、一般社団法人法に内部統制システムの整備などが規定された背景や、その基本的な性質などを考えてみますと、基本的にはそれぞれ別個の法律体系から生まれてきたものであって、同質のものであるとか、規範としての意味合いに整合性が確保されているとか、一般法・特別法の関係にあるようなものではないと考えております。以前私は、統一的な理解に拘泥していたようなきらいがあったのですが、どうも耳に心地よい「内部統制」なる概念を、それぞれの法律制定にあたって、それぞれが解釈をして、導入されていった状況を素直に受け止め、あまり統一的な理解にはこだわらないでいいのではないか、と思い直しているところであります。そして、統一的に理解することによる「実益」のところは、別途検討することで足りるのではないか、と思います。(そのあたりはまた再考編その2、につづく)
| 固定リンク
コメント
内部統制基準
1.内部統制の定義
具体的に内部統制をどのように整備し、運用するかについては、個々の組織が置かれた環境や事業の特性によって異なるものであり、一律に示すことはできない。
>>>>>>>>>
日本公認会計士協会 監査委員会研究報告第16号 統制リスクの評価方法 付録5 統制行為の例示
受注:受注に関する以下の書類が整備されている。注文書、注文請書控、出荷指図書
出荷:出荷担当者は、出荷後、得意先から全ての物品受領書を入手し、照合している。
売上計上:経理部門では、売上伝票と出荷報告書の照合が行われる。
請求:請求書の記載内容について・・・請求金額の計算チェックが行われる。
>>>>>>>>>>
監査学者やそれに影響されて何も考えない人たちは、紋切り型で「内部統制は会社によって異なる」などと鸚鵡返しのようにしゃべりまくります。しかし、財務報告に係る内部統制に関して、上記のような統制行為をどこの会社も実施しているのが普通です。
・出荷指図書を作成しない???
・得意先の物品受領を確認しない???
・請求金額の計算チェックを誰もしない???
財務報告に係る内部統制は、金融業・小売業・建設業・製造業といった業種区分により、かなり異なることは間違いありません。しかし、同一業種の間ではかなり共通性があり、だからこそ監査法人は統一的な品質管理マニュアルで財務諸表監査を実施することができます。
監査理論からすれば、最小限のコントロールを定型化することが十分できるでしょう。このため、上記の委員会報告のような定めが存在するのです。(ただし、製造業=いまや日本のGDPの3割以下しか占めないマイナー業種の話・・・あららら)
財務報告に係る内部統制を、会社により全く異なるものだなどと詭弁を弄して、必要な統制行為を上場会社に説明せず、コンサルタントや監査法人のアドバイザリーサービスの高額請求書に委ねるやり方こそ、公的基準の重要な虚偽表示であり、立法の「重要な欠陥」でしょう。
投稿: 内部統制と経営管理 | 2007年5月15日 (火) 07時56分
コンピュータ屋です。
お世話になっています。
実務務対応の現場では、直近のこと、都合の良い議論に流されていきます。
「モノサシの目盛りが正しいのか間違っているのか、検証しておくことも不可欠」
実務対応の現場では、気づきもなかなかありません。直近のこと、都合の良い議論に流されていきます。
ぜひ、この点についてのご教授をこれからもよろしくお願いします。
内部統制のこと。
ベースとなることの見直し、また、2年目以降、その先のためにも、
よろしくお願いします。
投稿: コンピュータ屋 | 2007年5月15日 (火) 08時30分
こんばんは。
コンピュータ屋さんのブログ、拝見いたしました。J-SOX以前の問題を抱えている企業はたくさんあると私も思います。「類は友を呼ぶ」という諺がありますが、転落への要因が重なる企業というのは、いくつもの重要な欠陥が重なっている場合が多いように感じています。もし上場企業であれば、そういった悪循環の芽を早い段階で摘み取れるような仕組みを作れたらいいのに・・・と思います。けっこう地味な作業かもしれませんし、お金にならないかもしれませんが、そういったところにこれからも光をあてていきたいと思います。
投稿: toshi | 2007年5月15日 (火) 22時24分