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2007年5月22日 (火)

内部統制構築義務違反と取締役の責任

今日(5月21日)の日経朝刊にも広告が出ておりました旬刊商事法務の最新号(1799号)では、またいろいろと興味の湧きそうな論文や特集記事が出ておりますが、神田教授の「金融商品取引法の構造」なる講演録もそのひとつであります。結びのところで神田教授は「上場会社にとってどうかといいますと、会社法と比較すると、今後は金融商品取引法が圧倒的に重要になる と思います。(中略)・・・・それはともかくとして、上場会社にとって今後は会社法ではなく金融商品取引法というのが恐ろしく重要になる といってよいと思います。」とダメ押しされるかのごとく金融商品取引法の重要性を語られ、最後に「その理由をお話できないので大変申しわけありませんけれども、予定の時間がきてしまいましたので・・・雑談めいた話で申し訳ありませんでしたけれども・・・」 ~( ̄∇ ̄ ;)~  この講義録をお読みになられた方は、(私を含めて)どなたもきっと「その理由」のところをお聞きになりたかったのではないかと推察いたしますが、「寸止め」で講演録が終了しております。

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さて、昨日の「二つの内部統制構築理論(再考編その2)には、とーりすがりさんやメールを直接送っていただいた方々より、私見に対する反対意見を頂戴しておりました。(どうもありがとうございます)概ね、金融商品取引法上の内部統制構築義務といったものは、会社法上の内部統制構築義務に包摂される(つまり同質である)といった立場であります。おそらく最近はこちらの同質説のほうが有力ではないかと思われます。とーりすがりさんのコメントにもありますように、取締役の任務違反にはさまざまな行為や不作為があるのであって、会社の経営にあたり、あらゆる法令を守るべきことは当然である、したがって金融商品取引法上の義務についても同様であるから、金商法上の内部統制構築義務違反は取締役の善管注意義務違反のひとつとして(因果関係が認められるかぎりは)会社法上の損害賠償責任と結びつく、といったところから同質説が根拠付けられるようであります。こういったご意見は、これまでも論文等で拝見したことのある内容でありまして、私も以前より存じ上げておりました。

しかしながら、(たとえ金商法上の内部統制構築義務違反に取締役の損害賠償責任が認められるとしましても)上記の理由付けから「同質説」もしくは金商法上の内部統制構築義務といったものが会社法上のそれに包摂される、といった一元的理解まで説明できる、というのは少し論理的な飛躍があるのではないでしょうか。たとえばダスキン事件などでも問題となりましたが、食品衛生法という行政取締法規に違反する取締役の行為については、食品会社の取締役としては当然に法令遵守義務があるのであって、その法令違背については善管注意義務違反が認められるとされるのが通説かと思われます。しかしながら、会社法と食品衛生法はまったく別個の法律でありまして、一般法特別法の関係にはないはずであります。そうであるにもかかわらず、なにゆえ金融商品取引法の場合には、会社法との間で一元的理解の根拠となりうるのか、その合理的な理由が欠落しているのではないでしょうか。

また、昨日のエントリーでも私自身の疑問といたしまして、「そもそも金融商品取引法上の内部統制報告制度の場面で、取締役の責任というのは発生するのだろうか」と指摘させていただきました。(このあたり、いままであまり議論されている論文を拝読したことがございません。)まだまだ理解が浅いのかもしれませんが、このあたりは少し検討しておいたほうがよろしいのではないかと考えております。ひとつは、内部統制報告制度(金商法上の)は、「経営者評価」に関する制度であって、「取締役評価」に関する制度ではございません。この制度の役割と責任は「経営者(代表者)」にあるのであって、取締役ではないことは実施基準にも明記されております。もしここから「構築義務」を導くとすれば、それは取締役の善管注意義務から導かれるものではなく、経営者に対する特別の法定責任から導かれるのではないでしょうか。また、もう少し細かく考えてみますと、内部統制報告制度は「評価と監査」に関する制度でありますから、もし仮に善管注意義務が取締役に発生するとしますと、会社法431条違反、つまり「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従っていないこと」が問題になろうかと思われます。先日、内閣府令案が公表され、企業会計審議会が公表した基準(実施基準を含む)が、この一般に公正妥当と認められる企業会計慣行に該当することが明らかにされました。したがいまして、この基準に反するような経営者の評価や監査人の監査というものは、法令違反(会社法違反)となる可能性は認められるのかもしれませんが、しかし会社法431条からは、「構築責任」を問うところまでは認めることはできないと思われます。(なお、たとえ経営者の評価が431条違反となりうるとしましても、内部統制評価に関する公正妥当な企業会計慣行が「たった一つ」しかない、とまでは言えないを思われますし、すぐに経営者の法的責任に結びつくわけでもないと私は考えております。そもそも内部統制の仕組みというものは、各企業において自由な裁量を広く認めているのが企業会計審議会の立場であると理解しております)

さらに、そもそも金商法上の内部統制報告制度の存在から、財務報告の信頼性を担保すべき内部統制システムの構築義務違反という概念をわざわざ持ち出す必要性はあるのでしょうか?この制度は有価証券報告書の内容について、新たに義務化される経営者確認書とともに、その信用性を補完するにすぎないものと(少なくとも金商法上では)理解されるべきものであります。そうであるならば、財務諸表作成上の会計基準の適用違反とか、経営者確認書の開示手続き違反といった方向で、経営者のみの善管注意義務違反を検討すれば足りるのでありまして、金商法上の制度から「取締役に責任が発生する程度の注意義務違反とされる内部統制構築上の瑕疵とはどういったものか?」などと検討する必要はないように思われます。「重要な欠陥」が修復されないために、一般株主から投資対象としては評価されない・・・といったサンクションさえ付与されれば、金商法上の内部統制報告制度としましては十分でありまして(もちろん虚偽報告の場合は別でありますが)、経営判断の法理が適用されるかどうかも不明な金商法上の内部統制報告制度におきまして、取締役の法的責任問題が発生する・・・といった事態を想定いたしますと、今週号の日経ビジネスの特集記事ではございませんが、思わず背筋がゾクっとしてしまうのは私だけなのでしょうか?

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コメント

会社法の教科書的に書くなら、経営判断の原則は法令違反の場合に適用されないのが、確立した解釈であると思います。(常識的に考えても、法令遵守は義務であるため、裁量の余地はない)

ただし、金融商品取引法に定める「財務報告に係る内部統制」の内容について、基準そのものが経営者の裁量的決定を容認しています。会計との比較で書けば、会社が採用する会計方針の選択や会計処理は、一定の枠組みの中でかなりの幅がありますが、これは一般に公正妥当と認められる会計基準に適合する=適法な決算として認められます。同じことが、財務報告に係る内部統制の構築内容にも言えるでしょう。(法律的に、これを経営判断の原則で説明する人を見たことはありませんけど。)

なお、上場会社の場合において、金融商品取引法>会社法という基本的な考え方を、金融庁や一部の会社法学者が推進しているようです。今後の動向を見守りたいと思います。

投稿: 素朴な疑問 | 2007年5月22日 (火) 08時04分

素朴な疑問さん

ご指摘ありがとうございます。私も「素朴な疑問さん」とまったく同じ考えでして、経営判断法理の適用はないものと考えております。ただ、判例のなかには(大阪地裁平成15年10月15日)、ご指摘の「会計方針の選択や会計処理」につき、経営判断法理にしたがって取締役の善管注意義務違反の有無を検討しているものもありますので、どうなんだろうか・・・との思いから、エントリー末尾のような記述となりました。

早稲田大学の上村教授作成にかかる「経済財政諮問会議 金融・資本市場WG わが国の市場監視機構・体制のあり方について」と題するレジュメをHP上で読むことができますが、このあたり、最近の動向を知るうえでとても有益ですよね。神田教授のことも、すこしだけ触れてあったりするわけですが。
今後とも、いろいろとご教示ください。

投稿: toshi | 2007年5月22日 (火) 14時56分

日本監査役協会では、監査役監査に資するよう「内部統制システムに関する監査の実施基準」を公表しております。
http://www.kansa.or.jp/siryou/elibrary/el_001_070405.html

財務報告に関する内部統制の監査は、第14条に規定されていますが、ここではもっぱら財務担当取締役の行為について述べており、一般的な経営者=社長や事業部門担当取締役について触れておりません。

色々な意味で考えさせられる条項ですが、監査役協会を構成する多数の会社の監査役が「財務報告に係る内部統制」についてどのように理解しているか、よく分かる規定ですね。この基準作成には、知名度の高い著名弁護士も参加しているので、恐らく法的検討を重ねた上での判断でしょう。

投稿: 監査役協会の態度 | 2007年6月 5日 (火) 10時38分

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