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2007年5月14日 (月)

社外監査役「企業統治における役割」

すでにご承知の方もいらっしゃるかと存じますが、5月11日に日本監査役協会HPに「社外監査役(コーポレート・ガバナンスにおける役割)」という大部の論文が公表されました。同志社大学監査研究会と日本監査役協会関西支部監査実務研究会との共同研究報告書とされた、たいへん中身の濃い論稿であります。実は私が共同執筆者となっております「非常勤社外監査役その理論と実務」の執筆中から、この同志社大学、監査役協会共同研究報告の内容はずいぶんと気になっておりましたが、こうやって中身を拝読させていただきますと、監査役制度全般や社外監査役制度への光の当て方が「理論と実務」とは異なっているように感じられましたので、新鮮な気持ちで一気に115頁ほど読了いたしました。

もちろんお時間がございましたら、全文お読みいただくのがよろしいかと存じますが、私がぜひ監査役制度にご関心のある実務家の方にお読みいただきたいのが、96頁以下20頁ほどにわたる「3章 研究会、対話ノート」の部分であります。会社法のもとにおける監査役(監査役会)のあり方につきまして、学者サイドと実務家(関西の大手企業の監査役の方々)との間における「あるべき監査役の姿」に関するイメージに大きな認識の差があることに深い関心を抱かれることと思います。私なりに率直に表現させていただくとすれば、これだけの認識の差をそのままストレートに文章として表現されたのは、大胆であり、また問題提起としては有益ではないかと感じております。基本的には監査役の権限強化、独立性に裏付けられた専門性の発揮を通じて会社法が期待する監査役の地位を高めようと考えておられる学者サイドの意見に対して、(せっかく妥当性監査への期待が会社法の随所で垣間見えるわけであるから)企業経営の能力のある人を中心に、企業経営の効率性など、経営判断への関与の度合いを高めることによって監査役の地位を高めようとの気運を有しておられる現役監査役実務家の方々の意見とが、社外監査役への期待像、独立性、社外監査役への情報提供の程度、海外子会社との連携、親会社からの社外監査役招聘など、いろんな論点におきまして微妙な問題を浮上させております。(いや、実におもしろいです)

現在の監査役制度が十分に会社法で期待されているとおりに機能しているか、という問いかけには、おそらく皆様が疑問符をつけていらっしゃる。したがって、皆様がこういった議論をされる頭の中には、どうも社外取締役を中心とした「監査委員会」(委員会設置会社)との比較を意識されているようです。とすれば、先日このブログでもご紹介させていただいた大杉謙一教授の「監査役制度改造論」の問題意識にも通じるところがあるようにも思われます。従来の監査役制度と委員会設置会社における監査委員会、そして、ひょうっとしたらその中間に位置するような制度もあってもいいのではないか、それが会社法で期待される監査役制度のあり方にもマッチするのではないか、また、コーポレート・ガバナンスのあり方が世界共通の議論の対象となっている時代において、欧米の投資家にわかりやすい日本の制度といったものも検討されてもいいのではないか・・・など、いろんな問題意識が喚起されるところまで、昨今の監査役制度はたどり着いてきたのかもしれません。

なお、日本監査役協会のHPでは、前同日付けで、「会社法における中小会社の実務対応」につきましても論文が公表されておりますので、そちらもご関心のある方は参照されてはいかがでしょうか。

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コメント

ビックリ論文の大杉です(笑)。いつも、タイムリーな情報提供ありがとうございます。

ITやコンサルの模様についての皆様の書き込みも含めて、本当に勉強になります。私がぼんやりと(抽象的に)考えていたことが、現場の動きや理論対立の中でどこに位置づけられるのかが、ようやく少しだけ見えてきた感じで、大変昂奮しています。

私もなるべく近いうちに、きちんと価値のあるエントリーをまとめて、山口先生のブログにトラバさせていただきます(やり方を覚えたので)。

投稿: おおすぎ | 2007年5月14日 (月) 12時47分

すみずみまでお読みいただき、恐縮です。(もちろん、ビックリ論文といった表現は賛辞の意味がこめられております)
先生のブログにおける葉玉先生とのやりとりは、たいへん勉強になり、こちらこそ昂奮いたしました。ぜひ、買収防衛策に関する議論につきましても、いろいろとご教示いただきたいと思っております。

投稿: toshi | 2007年5月15日 (火) 03時36分

早速、私も「社外監査役」レポート、拝読いたしました。toshiさんもご指摘の通り、特に「第3章 研究会・対話ノート」が大変面白く、問題意識にあふれて示唆に富む、秀逸のレポートだと思います。私もかねがね、効率性監査には並々ならぬ関心を持っていますので、同士を得たごとく、非常に心強く感じました。

しかし、効率性監査の推進と言う観点から言いますと、支障となっているのは、実は、同僚の監査役です。監査役の中には、関西支部の監査実務研究会のような先進的な方ばかりではなく、いろんな方がおられます。先日も、日本監査役協会の会合で、監査役監査基準の改定についての話し合いの場がありました。私は、その第2条で、監査役の職責として、「企業の健全で持続的な成長の確保」が謳われていますので、そのためには効率性監査が不可欠であると思い、業務監査の規定の中に効率性監査の条文を追加しましたところ、同席している方から、批判と反発を浴びました。

効率性監査に関して、同僚の監査役の批判は、次の3点に集約されるように思います。
(1)監査は、もともと会計監査に源流があり、健全性を監査するものである、という監査理論からする反対論。この考え方にたてば、効率性監査は、傍流に追いやられることになります。
(2)健全性監査は、法律や定款といった客観的な基準があり、執行部も尊重せざるを得ないが、効率性監査は客観的な判断基準もなく、したがって執行部に訴える力も弱く、そもそも監査として成り立つとは思えない、と言う実務的な立場からする反対論。
(3)効率性監査に足を踏み入れると、過大な責任を負うことになるのではないか。もし効率性に関する助言が裏目に出て、ロスを出せばどのように責任をとるのか、という責任負担からする反対論です。

私からすれば、いずれも既存の発想にとどまる保守的な考え方に過ぎないように思います。たとえば、責任負担の点から言いますと、監査役の助言を執行部が取り入れ、その結果、ロスが出た場合には、一次的責任は執行部がとるべきでしょうが、監査役の責任は、「経営判断の原則」に則して考慮されるべきでありましょう。しかし、そもそも責任負担から逃れると言う発想が先に来るようでは、ろくな仕事が出来ないのではないかと思います。又、実務的に効率性監査が成立するのか、と言う点につきましては、プロゴルフのキャディとプレーヤーの関係と同じで、キャディとの間に信頼関係があれば、プレーヤーは客観的な基準が無くともキャディの助言を受け入れ、好スコアも可能になるでしょう。又、監査理論に関しては、健全性が本来の機能であることはよく分かりますが、効率性が経営の大きな要素を占めている以上は、監査対象として除外することは片手落ちといわざるを得ないと思います。

同僚の監査役と話しをしていて、反対論は、大体以上の論拠ですが、それがえてして感情論になるところが厄介なところです。その原因は、効率性監査を行うべき「意欲」と「能力」、ならびに「トップとの信頼関係」が自分には不足しているとの自覚があり、自分ではいかんともしがたいとの自覚が感情的な反発を強めているのではないかと邪推してしまいます。効率性監査が監査役の職責から必要と言うことであれば、歯を食いしばってでも、能力を涵養せざるを得ないと思います。

以上、立ち入った議論になりましたが、toshiさんが指摘されるように、学者先生方と実務家の間には認識ギャツプが横たわっておりますが、私は、それ以上に、実務家の中において、それの何倍かの意識ギャツプや認識ギャツプが横たわっているうに思えてなりません。改革に道遠しの感をいまさらのように感じています。 

投稿: 酔狂 | 2007年5月15日 (火) 10時22分

酔狂さん、おひさしぶりです。監査役のお立場から、たいへん貴重な意見をいただき、ありがとうございました。私にとりましては新しい視点であります。
たしかに、同僚の監査役さんどうしの間においても、酔狂さんご指摘のような状況があるんですね。親会社から来られた監査役さんとの関係でも、そういった関係がみられるのかもしれません。ゴルファーとキャディの関係はどこかで使わせていただこうかと思いました(笑)
しかし、酔狂さんの言われるような状況ですと、監査役協会のなかでの意見のとりまとめ、というものも結構たいへんなんじゃないかな・・・と思ったりしました。最近は次から次へと監査役の地位や権限に関する(とくに上場企業の場合)話題が浮上してきますので、なおさらのように思います。

投稿: toshi | 2007年5月17日 (木) 20時34分

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