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2007年6月30日 (土)

内部統制ルール実質緩和(速報版)

ここのところ株主総会ネタや買収防衛策に関するテーマが続いておりましたが、すこしばかり内部統制モノに戻ります。またまた土曜日の朝からビックリの日経ニュースであります。少しだけ噂の範囲では聞いておりましたが、2008年度から実施される(といいますか、すでに前年度実施としてすでに実施していらっしゃる企業もありますが)内部統制ルール(いわゆるJ-SOX)が緩和される見通しとなったそうであります。3日ほど前に葉玉先生といろいろなお話をさせていただいたときに、経済系の法律というものはなんと政治的な配慮によって成り立つ(もしくはお流れになる)ものか、またその配慮のなかで、いかに普遍的な法律を策定することがむずかしいものか・・・と改めて法のあり方を考えさせられましたが、金融商品取引法ルールといったものも、各省庁、経済団体、法律家組織、監査人組織の力学によって変容を余儀なくされる性(さが)を背負って生まれるものであります。ともかく実施される以前においてルールが変わるというのはほとんど前例をみないものでしょうし、これからもまた変わる可能性があることも証明してしまったようなものだと認識しております。目の前に「見積書」が届いてはじめて「内部統制リスク」に気がつくわけでして、システム導入だけでなく、そのシステムを誰が理解するのか・・・といったところで、見積もり以外の膨大な費用と時間を要することが現実化することになるはずであります。最近いろんな方とお話をする機会に恵まれましたが、この制度は費用に対する問題だけでなく、おそらく監査法人との間で「意見表明しないんだったら、やってみろ」といった開き直りの状況は必至であります。むしろ私からみれば、(内部統制評価は上場廃止とは結びつかないわけですから)自社で「重要な欠陥」を克明に表明する企業のほうが、経営者による本当の内部統制評価がなされているのであって、ぎゃくに(サンプル数が増えて監査費用が増えることはやむをえないにしましても)財務諸表の信頼性が高いのではないかとさえ思えるわけであります。金融商品取引法に導入されるに至った経緯と、その対応方法とのバランスを、もう一度見直す時期に来ているのかもしれません。また、上場企業を4つくらいに分類して、企業規模に対応した評価制度のようなものも(監査する方はたいへんかもしれませんが)真剣に検討されていいのではないでしょうか。(新聞報道によると、方法論自体はそれほどの変容はないと思われますが、それでも巷間あふれる内部統制マニュアル本はほとんどがこれまでの「実施基準」にしたがって書かれておりますので、なにを参考にすればいいんでしょうかね?私もこれからの情報に留意して、冷静に考えてみたいと思います。)

(7月2日追記です・・・)

コメントをたくさん頂戴しております。私自身の意見につきましては、右側のコメント部分に続編として若干記載しております。

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買収防衛策・独立第三者委員会の役割とは?

日本公認会計士協会近畿会に所属する4名の公認会計士の方々が、大手監査法人に対する懲戒処分を求める文書を金融庁に発送した・・・といったニュースはちょっとビックリですし、かなり関心あるんですけど、内容が内容だけに、おそらく会計士さん方のブログでは話題にならないでしょうね(^^;;

さて、昨日はブルドック新株予約権・仮処分命令事件の東京地裁決定につきまして、速報版をエントリーいたしましたところ、親切な方より「決定書パーフェクト版」を頂戴しまして、その決定の全貌を読ませていただきました。(本当にどうもありがとうございました。ちなみに「会社法であそぼ」の葉玉先生は、すでに昨日時点で全文を熟読されていらっしゃったようですね。葉玉先生の昨日のエントリーは圧巻です。)昨日のエントリーにコメントをつけていただいたnonomuraさんが指摘されているように、この東京地裁鹿子木決定と、即時抗告審における高裁決定(7月4日までに出るんでしょうか、それとも割当確定日までには出るということなんでしょうか)とは、かなり内容が異なる可能性もあると思いますので、M&Aのご専門家の方々の意見は最終決着がついてから・・・ということになるものと思われます。でもやっぱり部外者としては、この鹿子木決定が出るのを楽しみにしておりましたので、ワクワクしながら拝読いたしました。このブログのスタンスに忠実に、社外役員や独立第三者委員会委員の立場からみた地裁決定についての感想だけ述べさせていただきます。

1 グリーンメイラー≠濫用的買収者?

私自身がよく理解していないのかもしれませんが、このたびは「防衛策導入」ではなくて「防衛策発動」といった、世界でもあまり例のない事態における適法性が議論されているわけでありますが、公開買付者がグリーンメイラーであれば、緊急避難的に取締役会決議をもって発動できる、というのが(発動の場面においても)一般的な理論だと思われます。しかしながら、このたびの決定理由では、買付者による経営支配権の取得が対象企業の企業価値ひいては株主共同利益を損なうおそれがある場合の買付者のことを「濫用的買収者」とみなしている、と理解してよろしいのでしょうか?このように二段階で考える理由としましては、後述するとおり、この地裁決定では一般投資家保護の要請からくる「株主のTOBに応じるかどうか選択する機会の確保」と「株主が株主総会において議決権の行使という形で株主の選択権の行使の機会を確保」することを区別しているからであります。つまり、グリーンメイラーほど明確に会社に損害を与える買収者とはいえないけれども、どんな経営をするのか、株主からみて不安になるような買収者であれば、その買収自体にノーと言える判断権が最終的には株主総会にある、ということではないかと思われます。だからこそ、「そもそも特別決議がとれるような総会承認が得られるのであれば、TOBは成立しないはずであるから、防衛策は不要ではないのか」といった疑問も生じるところではありますが、TOBに応じるかどうかの株主の機会確保の要請と、株主共同の利益確保のための株主権行使の機会確保の要請とは違うんだ・・・といった理由で反論可能になってくるのではないでしょうか。こう考えますと、防衛策発動といった場面を前提とした場合には、取締役会で判断すべきグリーンメイラー性判断、株主総会で判断すべき濫用的買収者性判断、そしてTOBで株主個人が判断すべき企業価値判断といった分類が検討されることになるのでしょうかね。

2 「濫用的買収者」の判断について

事前警告型の防衛策を導入している上場企業はたくさんあると思われますし、そのなかでも諮問機関として「独立第三者委員会」を設置している企業も多いはずです。そして、その第三者委員会は公開買付希望者(交渉ルールにしたがって交渉に入った段階)が濫用的買収者に該当するかどうかの意見を求められるパターンが多いのではないでしょうか。(実は私が第三者委員に就任している企業さんもそうであります)この仕組みについては、今後も維持すべきかどうか、一度じっくり考えたほうがよさそうな気がいたします。すくなくとも導入を支援された大手渉外法律事務所さんや、信託銀行さんとご相談されたほうがいいのではないでしょうか。(私も相談してみようと思っております)この東京地裁決定を読んでの感想としましては、「濫用的買収者に該当するかどうか」といったあたりは、防衛策発動の可否が問われる場面において防衛側にとってハードルがかなり高いように思えます。昨年の王子・北越事件におきまして、北越側の第三者委員会が、王子製紙側のルール違反を捉えて濫用的買収者とみなして、発動勧告を決定したことがございましたが、今回の東京地裁決定が、スティールをグリーンメイラーとしては認定できないとしていることからみましても、安易に防衛側企業の判断として「濫用的買収者」であることを主張立証することは困難であって、(たとえ導入時点で株主総会の承認を得た防衛策であったとしましても)第三者委員会の認定に重きを置いて防衛策を発動する・・・といった手法にはリスクがかなりともなうように思いました。そういたしますと、わざわざ独立第三者委員会を設置しても、「濫用的買収者」であるかどうかだけを判断させる・・・という仕組みについては、若干論点がずれているように感じられますし、リスクに対する対応方法としてはイマイチ有効性に乏しいように思えます。たとえば「濫用的買収者」に該当するかどうかでスクリーニングして、該当する場合には即発動、そうでない場合には株主総会にかけて定款変更→発動容認(もしくは発動容認のみ)、といった手法の場合、濫用的買収者該当即発動のパターンにはかなりハイリスクなものを感じます。とくにこのたびの東京地裁決定では、新株予約権の無償割当というスキーム自体が「株主平等原則」の適用ありとされ、差別的行使条件が平等原則違反にならないための要件として「特別決議」の存在が大きくとりあげられておりますので、たとえ独立第三者委員会がどのような意見を述べたとしても、特別決議による発動承認を得るほうがリスクは少ないといえそうであります。

3 独立第三者委員会は不要か?

それでは、独立第三者委員会は不要なんでしょうか?このたびの東京地裁決定における「株主総会特別決議重視」の判断の解釈につきましては、今後M&Aの専門家の方々の意見も分かれるものと思います。また、私自身いろいろな解釈が成り立つような気がします。私がこの東京地裁決定のなかでもっとも重要と思える部分は、先に述べた防衛策のスキームが平等原則違反の例外的要件に該当する基本的ルールを掲示したことと、決定書の28ページから30ページあたりに記載された敵対的買収防衛ルールにおける証券取引法規制と会社法規制の接点の調和に関する考え方にあるのではないかと思います。投資家保護の観点からの情報開示ルール(公開買付届出書の記載事項とか、意見表明報告書とか、対質問回答報告書とか)による株主による公開買付に応じるかどうかといった選択権行使の機会確保と、株主による株主総会における議決権行使という形での選択権行使の機会確保とを、この決定は見事に切り分けて論じております。この地裁判断は合理性の高い見解だと思いました。たとえば事前の情報開示ルールや、企業価値判断に関する信頼性の高い情報提供ルールが整備されているのであれば、一般株主による総会における議決権行使という形での選択機会確保の要請は弱まるでしょうし、逆に整備されていないということであれば議決権行使による選択権確保の要請は高まる(つまり「総会における特別決議重視」となる)のではないかと思われます。そして、どのあたりに調和点を見出すか、ということにつきましては、結局のところ会社法の構造(権限分配論、株主平等原則、特別決議による少数意見の排除など)をどう理解するかとか、日本における株主と取締役との信認関係をどう考えるか、といったあたりの判断者の主観によるところが大きいのではないでしょうか。(このあたり、紛争当事者としましては、裁判所がいったいどのようなところに調和点を見いだそうとしているのか、といったことをきちんと抑えることが肝要ではないかと。)ここからは単なる私見にすぎませんが、究極を「株主による価値判断」に求めるとしましても、その株主の判断には価値判断のための情報アクセスの機会が必要ですし、またその開示情報は「信頼性の高い情報」でなければなりません。(また株主の判断が著しく不公正にならないような手続も必要だと思われます)とりあえず、現状の証券取引法における開示ルールや、事前警告型防衛策の交渉ルールが「単なる企業価値の比較による優劣だけでなく、企業価値を毀損するおそれの有無」まで信頼できる情報を提供できるものではない以上は、やはり公正中立な独立第三者委員会による情報開示が「株主総会における総会決議の妥当性」を担保する重要な要素のひとつにはなりうるのではないかと思います。つまり株主がTOBに応じるかどうかの選択権を行使するための情報提供と、株主総会で株主の総意としてその議決権を行使するための情報提供のいずれにおいても、独立第三者委員会がその助言を行うことで、株主総会における判断の合理性を支える要因になるのではないか、と考えております。(もうすこし具体的な内容はまた追って検討したいと思います。また決定全体まで踏み込んで感想を述べられるほどの実力はございませんので、あしからず)

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2007年6月28日 (木)

東京地裁、ブルドック防衛策発動を認容(速報版)

決定内容は不明でありますが、どうやらブルドックソースの買収防衛策発動差止めの仮処分事件について東京地裁が決定を出したようであります。スティール側の差止申立を却下した、とのこと。(私のブログへお越しの方々は、元公安調査庁長官の「詐欺」容疑での逮捕だとか、株主総会ネタとか、公認会計士試験の結果とか、そっちのほうが関心が高く、ちょっとこちらは関心が薄いのかもしれませんが・・・・・とりあえず速報版です)

ロイター通信の情報から要約した決定理由は以下のとおりです。

1)ブルドックが株主総会の特別決議で新株予約権の発行の承認を得たため、株主の意思が反映されているほか、ブルドックがスティールに割り当てた新株予約権を買い取る際、対価を払い経済的利益が平等に確保されているため、株主平等原則に違反しない、2)株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、買収によって企業価値が損なわれるかの判断は原則として株主総会に委ねられるべき。スティールが買収後の経営方針やエグジット(投資回収)の方針を明確にしないことで対抗措置を実施すべきと、株主総会が判断したことは合理性に欠くとは言えない

決定内容を正確に読まなければなんとも言えないところもございますが、「ブルドックだから」却下されるべき・・・といった理由ではなく、買収防衛策発動の適法性に関する基本ルールが示された・・・といっていい内容のような。おそらく「濫用的買収者だから」といった内容ではなくて、株主総会の判断に「企業価値判断権限」の基礎を置きつつも、双方の交渉過程を斟酌して「株主の判断の合理性」について検討を加えるといったあたりは、裁判所の判断に関する基本的ルールを示した・・・といってもいいのかもしれません。(もし、どこかで「決定全文」を読めるWEB等ございましたら、おそれいりますがどなたかご教示いただけませんでしょうか?)

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これはすごい株主総会かも(^^;;

(6月28日午前追記あります)

今年の株主総会の注目は外資系ファンドの増配要求、買収防衛策の導入否決などの株主提案権行使と言われておりますが、どうも提案株主側が苦戦を強いられているようであります。そんななかで、これは凄い!とうなってしまいそうなのが、わが地元、大阪・八尾市の名門企業パトライト(東証1部 旧 佐々木電機製作所)の株主総会であります。

パトライト、株主総会で社長解任(創業家側が続投に難色 毎日ニュース)

パトライト、取締役異動に関するお知らせ

たまたま、パトライトの株主総会に出席された株主の方のブログを見つけました。(しかし、この方も株式投資を始められて、いきなりこんな総会を目の当たりにするというのは、スゴイですね・・・。たくさんの株主の方が、「こりゃたいへんだ」と思って、途中で帰っちゃった・・・というところがかなりナマナマしいですね。。。現実はこんなもんなんでしょうね。)

出席株主200名(注 28日の読売朝刊によると170名程度とのことです)というのは、けっこう多いほうですよね。社長さんは「一体何が起こったんだ?」とのことですが、一番前のほうに、元従業員の方々が陣取っておられた・・ということですから、ある程度の予測というものはつかなかったのでしょうか。前の日までの票読みとか、事務局サイドでも危機感というものはなかったんでしょうかね?しかし、議長不信任動議が通ってしまって、いきなり社外監査役が議長を務めることになったんでしょうか、それともある程度、この社外監査役さんは、こういった事態に至ることを認識していたのでしょうか?(しかし株主総会のお土産が「パトライト」だなんて、本当に「緊急事態」になってしまったんではシャレにならないかも・・・・・(^^;; )

(追記)今朝の新聞では各誌、テン・アローズの解任劇と一緒に伝えているようです。とりわけ日経近畿版ではかなり大きく報道されています。昨夜掲載させていただいた株主の方のブログもそうですし、新聞のインタビュー記事もそうですが、一般株主にとって、修正動議の可決は(事前に招集通知にも何も記載されていないために)「何がなんだかわからない状態」だと思います。とくに、ブログを拝見して思いましたのは、「これから肝心な決議が行われるかもしれない」にもかかわらず、総会の途中で一般株主が退席してしまうような事態というのは、ひとつ間違えますと株主に対する説明義務を尽くしたかどうか・・・といった法的な問題にも発展しかねないかもしれません。テン・アローズ社のように、総会前から報道などによって、一般株主にも動向が判断できるのであればいいとしても、おそらくパトライト社の場合には、本当に解任劇が想定されていなかった可能性がありそうです。そう考えますと、他人事(ひとごと)ながら、議長不信任動議によって急遽議長となられた社外監査役の方は、きわめて難しい立場に立たされたでしょうし、もし法律家が社外監査役に就任した場合には、(独立した公正中立的立場が期待されているわけですから)議事進行の適法性維持や、包括委任状の有効性判断などとともに、会場に出席されている一般株主の方々への説明責任を果たすことにも十分配慮しなければならないと思われます。かなり怖いなぁ・・・というのが実感です。

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2007年6月27日 (水)

1時間45分で株主総会無事終了

社外監査役を務める会社の総会が無事終了いたしました。1時間45分程度を要しました。「合併白紙撤回」という株主の皆様方を困惑させるような事態を生じさせたために、今年は会場出席者188名の株主の皆様のご参加のもと、たいへん厳しい質問が続出でありました。(総会終了後も、一般株主の方々にいろいろと質問される役員もいて、かなりハードな部類に属するものだったかもしれません。)やはり合併撤回の経緯、基本合意の段階での公表の是非、再度のM&Aへの考え、白紙撤回した今後の単独事業による計画実現可能性などなど、どれをとりましても株主の皆様方にとりましては長期保有にとっての関心事ばかりであります。もちろん会社側としましては、どれも想定していたところでしたので、すべて的確に回答できたと思いますし、また「インサイダー情報」とみなされる事実につきましては、現時点での(数字的な)回答は控えさせていただいたような次第であります。私は事前にリハーサルをしていた成果は大きかったと思います。リハーサルの功罪はいろいろと議論されるところだと思いますが、株主の方々の前で「こう答えよう」といった単なる作戦ではなく、リハーサルのなかで、今後の基本方針を、役員全員が再確認して、次年度何が最重要課題であるか・・・といったことを社内で合意形成できたことが成果だと思っております。

反省点といえば「株主優待券」に関する回答でした。これは昨年、一昨年もあったのですが、飲食店業界の場合、株主優待券の中身については、競争会社との比較において、詳細にリサーチしておく必要があります。たとえば株主招待券がほかの割引券と併用できるのかどうか、他店はどのように取り扱っているかなど。かなり細かい話かもしれませんが、そういった取扱いについて、一般株主の方々は他社との比較において「この会社は株主をないがしろにしている」とお考えになるようです。会社の基本姿勢を立派に説明することも大事かもしれませんが、株主にとって関心の高い分野への詳細な事前調査も同じくらい重要だということを再認識いたしました。来年の想定問答のなかでは、事前に同業者の株主優待制度およびその周辺事情はきちんと把握しておく必要がありそうです。ともかく、社長もさることながら、一番ご慰労申し上げたいのは事務局(総務部)の皆様方であります。今年はかなり胃の痛くなる日々が続いたのではないでしょうか。

いろいろと用意をしておりましたが、残念ながら(?)監査役を指名しての質問はまったく出ませんでした。(やっぱり、ほとんどの個人株主の方は、社長の人と「なり」を見にこられているんですよね)

オフ会に関するお知らせです。

さて、先日来、広報させていただいておりました「ビジネス法務の部屋 関西オフ会」でありますが、予想以上のお申し込みを頂戴いたしまして、居酒屋「土筆んぼう」の予約室の収容人数いっぱいになってしまいました。(本当にありがとうございました)お越しになる方々と、失礼のないようにゆっくりとお話できる人数にも限界があると思いまして、(現在ご参加予定者数は16名)このあたりで(たいへん申し訳ございませんが)いったんオフ会ご参加希望者の募集を締め切らせていただきます。もし、オフ会が成功裡に終わりました折には、また第二弾とか検討させていただきますので、その節にはどうかよろしくお願いいたします。ちなみに、お若い方、女性の方もいらっしゃいますが、全員社会人ばっかりで、学生さんはいらしゃいませんでした(^^;; (とくに異業種交流会ではございませんが、かなり面白そうなメンバーの方がおそろいのようですので、せっかくの機会ですし、ご参加いただいた方々で、管理人を無視してご交流をはかっていただいてもぜんぜん構いませんので、どうかよろしくお願いいたします。)

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会社法を熱く語る人との出会い(その1)

ある企業法務部の方のご紹介で、前から一度意見交換させていただきたかった葉玉匡美先生と食事をご一緒させていただき、3時間以上にわたり、会社法を熱く語っていただきました。(というよりも、私としましては総会を直前に控え、社外役員としての立場にて勉強させていただきました)いや、実にサービス精神旺盛な方でありました。ブルドックソース社の買収防衛策から始まり、会社法および金商法上の内部統制理論、会計参与制度の誕生秘話(これはとりわけおもろかった!)、MBOにおける少数株主保護のあり方、上場企業とソフトロー、そして会社法が誕生するまでの生みの苦しみなどなど。いろいろと意見交換をさせていただき、とりわけ印象的だったのは、さすがに立案担当者としての(法律を成立させるための)政治的判断と、裁判官が紛争解決のために会社法を適用する場面を見据えた妥当性判断について、絶妙なバランスをとりながら会社法を策定することに努力されていた点でしょうか。(こういうのは、やはり実際に話をお聞きしないとわからないですね)本日、いろいろとお話いただいた内容は、また今後の会社法ネタの参考にさせていただこうかと思っております。(どうも、ありがとうございました)とりいそぎ、明日は株主総会本番ですので、また「無事に」終了してホッと一息ついた頃に、(たぶんその頃にはブルドックの仮処分命令の決定が出ているのではないかと思いますので)続きをエントリーしたいと思っております。たいへんお忙しいなか、熱く語っていただいた葉玉先生に厚くお礼申し上げるとともに、こういった貴重な機会をおつくりいただいた某企業のKさんに感謝申し上げます。m(--)m

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2007年6月26日 (火)

職場の人間関係と内部統制システム

総会準備のため、ブログ更新の時間もとれません。ただ、国民生活白書に関する報道ニュースを備忘録としてとどめておきます。

日経ニュース  読売ニュース

永遠の課題かもしれませんが、企業価値に関わる問題として、こういった職場の人間関係と内部統制システムの問題は避けて通れないと思います。以前もこのブログでたいへん盛り上がった話題に「コンプライアンス経営はむずかしい・・」がありましたが、楽しい職場だからといって、コンプライアンス経営にとってプラスとは限らないと思います。

私は職場での「成功体験」がぜひとも必要だと思います。それも、単独プレイでの成功ではなく、チームとして「勝つ味を覚えること」どうせひとりの人間として会社の仕事に貢献できる力など限られていますが、それが5人、10人集まったときに、横断的な意思疎通ができるかどうか・・・。やっぱりみんな自分が可愛いので、ダイレクトに自分の評価につながることは積極的でも、なかなか横断的意思疎通なんて、「成功体験」を味わってみないと「言うは易く、行なうは難し」だというのが、私の実感であります。これは職場が「楽しい」とか「和気藹々」といった単純な雰囲気とは別次元のものではないかと。一度、真剣に内部統制システムの構築運用と、職場の人間関係について、考えてみたいです。

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2007年6月25日 (月)

ブルドック買収防衛策、その光と影

日曜日(6月24日)のブルドックソース株主総会で、買収防衛策発動承認の特別決議が可決され、事後の手続と方針に関する取締役会決議が公表されております。(開示情報はこちらです)土曜日のスティール代表と日経新聞との電話会見によれば、防衛策が承認されても仮処分申立事件は取り下げない、とのことでしたので、今週もしくは来週早めにも東京地裁で司法判断(新株予約権の割当差止めの仮処分)が下されるようであります。総会で8割を超す株主が防衛策導入に賛成した、との報道内容に触れますと、「なんだ、もう決着ついてるんじゃないの?」といった感覚になりそうです。ただ、そもそも私の感覚では「買収防衛策とは、発動するものではなくて、あくまでも交渉のための時間稼ぎの道具」だという認識を持っております。防衛手段を発動することは、あらかじめ決められた合理的な交渉ルールを相手方が無視するに至ったからこそ合理的に許容されるものである、と。もはや交渉する余地もない段階から防衛策を導入し発動する、といった対応は、たとえば刑法の世界でいうところの「正当防衛」の要件を満たさなければ違法性が阻却されないのではないか・・・といった素朴な疑問が湧いてきます。(毎度ながらの注意書きですが)以下は私の勝手な素人的判断に基づく見解でありますので、あくまでも「ひまつぶしの読み物」としてお楽しみいただければ幸いです。(あっでも、このブログを読まれている方が、月曜日の午前中から「ひま」なはずはありませんか・・・)

1 取得条項付新株予約権の無償割当は差止め対象となるか?

「買収防衛策の発動」といいますのは、具体的には会社法273条、同277条で新設されました取得条項付新株予約権の無償割当を行うことを指しております。ちょっとマニアックな論点かもしれませんが、おそらく法律のご専門家の方々は、この論点についてもご関心があるのではないでしょうか。以前、日本技術開発と夢真ホールディングスの仮処分事件のときには「株式分割による新株発行」が差止め対象となるかどうかが、論点とされましたが、あのときは差止対象にはならない(準用もしくは類推適用も不可)ということでした。このたびも新株予約権の無償割当が会社法247条の「差止めることができる募集新株予約権の発行」に該当するのかどうか、(もし該当しなければ被保全債権が存在しなくなってしまいます)という点がいちおう問題になろうかと思われます。私自身としましては、247条の制度趣旨や、日本技術開発事件の決定の射程範囲などの解釈から、このたびの新株予約権の無償割当も、247条の準用(もしくは類推)によって差止めの対象にはなりうるものと考えております。(ちなみに、日本技術開発事件のときには、私は早稲田大学の上村教授の意見書を拝読し、準用もしくは類推適用説に賛同しておりました)

2 適用される裁判所の基本的ルールは何か?

買付希望者がたまたま「スティール」だったから、本日の総会におきましては防衛策導入発動に8割の賛同が得られたようにも思えますが、これがたとえば内国法人の食品会社が、スティールと同様1700円のTOB提示額だったらどうだったのでしょうか?本来内国法人であれば友好的な提案から始まるとは思いますが、今回のような事態がまったく発生しない、とは言いきれないはずであります。誰もが「スティールでなく、競合もしくは関連食品会社だったら、企業価値判断といった観点から(今回とは)株主の意見を異にする可能性はある」と回答されると思いますが、おそらく裁判所というところは、生身の企業価値判断の世界へ踏み込むことはないと思われます。したがいまして、今回の仮処分の決定について、どのような結論が出るとしましても、「買付希望者の色(個性)」というものはあまり裁判所の判断のなかには出てこないのではないかと思います。もし仮処分申立が却下される場合に、それが「スティール」だから・・・という理由が出てくるのであれば、「グリーンメイラー」もしくは「濫用的買収者」である、といった判断に至るか、もしくは株主総会における特別決議で発動が承認可決されたという事実を裁判所が相当に重視する姿勢であるか、どちらかだと考えます。しかし、裁判所がズバっと、「スティールだから・・・」といった判断を下す可能性はかなり低いのではないかと私は予想しております。「会社を食い物にする」という判断はそもそも立証困難な事由ですし、、また株主の総意としての、現経営陣とスティール(もしくはスティールが呼んでくる別会社)の価値向上策への比較判断能力にもそれほど大きな期待は抱いていないと思われるからであります。むしろ株主総会で承認を得た、という事実は、現経営陣が保身目的で防衛策を導入発動するためではない、といった「主要目的」を認定する際の一事由にすぎないのではないでしょうか。ということで、裁判所としましては、「スティールだから」といった色メガネを抜きにして、「企業価値を向上させる買収者は適法に支配権を獲得できて、そうでない買収者には効き目がある買収防衛策の手続はどうあるべきか」といったシンプルな基本ルールを今回の事件に適用する可能性が高いと推測しております。そう考えますと、先日「ブルドック買収防衛策における素人的疑問」で書かせていただきたような、たとえば①平時導入、有事導入②買収者の経済的損失の補填問題③防衛策排除についての株主意見の反映④総会における導入発動への承認の有無など、オーソドックスな防衛策の仕組みに関する論点が「現経営陣の導入発動に関する目的」論と絡めて判断対象とされるように思われます。(今回の事件では、TOB価格変更はあったものの、経済的損失への補填、取締役の任期短縮、解任要件の緩和、そして本日の特別決議による承認といったところで、およそ②から④までの要件該当性をブルドック側はほぼ満たしたといえそうであります)

問題があるとすれば、やはり①の要件、つまり平時導入、有事導入といったあたりではないでしょうか。冒頭にも書かせていただきましたとおり、「正当防衛」つまり、とんでもない買収者が突然出現して、交渉もせずに土足で上がりこんでくる・・・といった事態であれば、交渉ルールがなくても、これを跳ね返して「企業価値を守る」ことこそ、経営者の義務であります。そのような事態であれば有事導入も問題ないと思われますが、証券取引法上のルールを最低限度守って交渉をしている買収者に対して、防衛策を発動する、といった事態は、逆に買収者側にはビックリではないでしょうか。上場企業には、買収防衛策を導入するかどうか、1年間の猶予期間が与えられたわけでありますから、防衛策を導入しないというのも、「支配のあり方」に関する企業の意思表示のひとつと考えられます。私は裁判所のルールとして、事前に買収防衛策をルール化している企業と、そうでなかった企業とでは、判断枠組みにおいても異なるものがあってもやむをえないのではないか・・・とも思います。それは単に「事前交渉ルールに則ったうえで交渉がなされたかどうか」といった問題だけでなく、対象会社側に「保身目的」が事実上推定されるものとしたり、「主要目的ルール」の立証責任が対象会社側に厳格に課されたり、といったような不利益が対象会社側の負担とされてもいたしかたないのではないか・・・とも思えますが、有識者の方々はどのようにお考えになるのでしょうか。(私としましては、裁判と向き合う当事者のスタンスとしては、スティール側は比較的ゆったりと構え、ブルドック側は一生懸命、防衛策の適法性を裁判所に訴える・・・といった図式が浮かんでくるのですが、このあたりはどう予想されるでしょうか)一般に買収防衛策を導入した企業は株価がいったん下落する、といわれておりますが、そういった洗礼を受けながらも、導入企業は株式価値の最大化に努力しているわけであります。買収防衛策を導入しない企業は、「うちの会社は、防衛策はいらない。株価向上のための努力をし、真の企業価値が時価に反映するよう努力することが最大の防衛策と考えている」と宣言されております。そうであるならば、これまでの努力の成果としての時価そのものが防衛策であるわけですから、(慌てて買収防衛策を導入するのではなく)買収者によるTOB価格との比較において素直に株主に判断してもらう・・・というのが、筋が通ったお話のように思えてなりません。

3 課税問題はどうなるのか?

これはなかなか難しい論点でありまして、私もいろいろと教えていただきたいのでありますが、まず発行企業(ブルドック)は新株予約権を無償割当するわけですが、無償割当による新株予約権の取得価額はゼロとされておりますので非課税取引として扱われているようであります。(所得税法施行令109条1項3号、法人税法施行令119条1項3号)そして今回は信託型ライツプランにおける新株予約権の発行とは異なり、取得条項付新株予約権の「取得」(つまり新株予約権を一般株式と交換する)ところが大きな問題になるわけですね。すべての株主に平等に新株予約権を割り当てるわけでありますが、そのなかで差別的行使条件が付与されているために、スティールの割当分については「取得」の対価が株式ではなくて、現金(23億円)になっているわけであります。みんなが「株式」を取得するのであれば、株式分割と同様、持分比率に変動はない(とみなされる)わけですから、課税繰り延べが認められて、万々歳ということだと思いますが、スティールの持分については取得の条件として株式が交付されないために、株主間に持分変動が生じます。つまり、スティール以外の一般株主には「配当」が付与されたのと同様の経済的利益が生じますから、「取得」の時点で課税されるのではないか・・・といった問題が生じるわけであります(そうですよね?)。ところで、株主間に不平等が発生しないように、つまり「他の株主に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」には、課税繰り延べを認める・・というのが平成18年度の税制改正事項として規定されておりますので、(司法判断における有利さのためだけでなく、「ほかの株主にも損害を及ぼすおそれがない場合」といった課税上の問題点もクリアするために)ブルドックはスティール側に23億円での「取得」を決めているわけでありますが、ただこの23億円はブルドック側としては「特別損失」として計上しなければなりません。(一般株主側からの)新株予約権の「行使」であれば資本等取引という扱いとなりますが、新株予約権の取得や消却にあたっては、資本等取引とは認められず、あくまでも損益取引として扱われます。つまり自己新株予約権の取得につきましては、これを株式で取得する場合には資本等取引として認められるわけでありますが、現金取得の場合には損益(負債?)として計上しなければならないわけですね。しかしそうなりますと、やっぱりスティールの持分損失をブルドックが現金でカバーした分は、結局(スティールは持分の希釈化を23億円で補填されたものにすぎず、損得はありませんので)一般株主にブルドック側から現金配当したのと実質的には同じことになりませんでしょうかね?(スティールに割り当てられた新株予約権について、譲渡の機会を与えて経済的損失を填補させるといった扱いではなく、ブルドックの費用において、23億円の現金で取得する、といったスキームを選択したことから「やっかいな」問題が発生しているものと考えればよろしいのでしょうかね?)本日現在、まだ課税当局より一般の株主に特段不利益となる課税関係が生じない旨の回答を得られていない、とのことでありますが、本日のブルドックの開示情報のなかでは、このあたりがもっとも悩ましい問題のようにお見受けいたしました。また解決のおりには、お詳しい先生方ののブログででも、わかりやすい解説をぜひ期待しております。

(追記)メールでのご指摘により、若干修正をしております。

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2007年6月24日 (日)

介護事業の世界を少しだけのぞいてみました。

(きょうはビジネス法務とはあまり関係のないエントリーですので、ご関心のない方はスキップしてください。)

今日は福岡県大牟田市にあります介護福祉センター「藤井さん家」(ふじいさんち)に伺い、認知症の方々と半日ほど過ごす機会に恵まれました。ここ福岡はコムスン発祥の地でもあり、また現在も地域密着型介護施設推進の場としても厚生労働省から注目されているところであります。

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この写真が「藤井さん家」です。ここは9時から5時まで認知症認定を受けている方々が介護ヘルパーさんと一緒にすごすケアセンターです。看護師資格を有する方も常時いらっしゃいます。今年1月にオープンし、運営されて半年になりました。元々、ここは私の母方の祖父母の家だったのですが、昨年叔母がこの土地と(朽廃した)建物を大牟田市に寄贈し、(叔母のかねてからの希望もあり)大牟田市はこれを地域密着型介護施設として利用することを決めました。その後きれいに改修され、ご覧のとおりの立派な施設が誕生し、私も備品などの関係ですこしばかり支援をさせていただいたものであります。27年ぶりに足を踏み入れたとたん、昔いとこや祖父母と遊んだ頃の記憶がよみがえり、感慨ひとしおでありました。

ここの運営管理者は牧坂秀敏氏でありまして、この地域密着型介護施設の運営管理のために東京から単身でここ大牟田にやってこられました。ちなみに、牧坂氏は介護ヘルパーの視点から、老人介護の問題を研究されている方でもあります。きょうは、認知症の方と過ごすかたわら、この牧坂氏からも、民間事業として介護事業が果たして成り立つのかどうか、いろいろとお話をうかがいました。

4535561907_1 施設型の介護センターの場合(つまり藤井さん家のような施設の場合)、常駐スタッフは最低3名必要であり、あとは利用者の数に合わせてヘルパーさんに交代で勤務していただくこととなりますが、これで運営が黒字になるのは「利用者が常時7名から8名必要」とのことです。しかしながら、この施設の場合、常時3名ほどの利用者しか確保できておらず、残念ながらまだ軌道に乗っているというわけにはいかないようであります。「地域密着型」といいましても、いろいろ難しい問題がありまして、たとえばこんな田舎であっても、自治会(町内会)加入者は年々減少し、現在は地域住民の3割しか自治会に加入していないとのこと。また、地域といいましても、みんな仲がいいわけではなく、「あの家のことにはかかわりたくない」といった100年の禍根を残す関係も多いということで、とりわけ介護の問題ともなりますと、新たな近隣問題に発展するケースもあるとのことでして、「地域密着型」などというものは、総論としては賛成でも、いざ実行するとなると問題が山積しているのが現実のようであります。

028_320_1 私が訪問したときにも2名の認知症の方がいらっしゃいました。90歳の女性(写真の方)と83歳の男性です。牧坂さんや、ヘルパーの方々みなさんと一緒に昼食をいただきましたが、なかなか意思疎通を図ることもできず、コミュニケーションをとるのが本当に苦労いたします。自分が情けなく思えましたのは、こうやって意思疎通がはかれないと、なんだか気を使わなくてもすむのではないか・・・といった気持ちになってくるのでありますが、牧坂さんやヘルパーさんの接し方はまったく違いました。健常者の方と同様、相手がどう感じていたとしても、きちんと「ひとりの人間として」相対しておられた点であります。たとえ認知症というものが治癒するものでないとしても、我慢したり、人のために何かをしたり、ものを考えたりする機会を与えることで認知症の進行速度は緩やかになるそうであります。相手がどんな状態であっても、社会に接点をもった人間として扱うことこそ重要なことだそうです。認知症の方がよく人の話をわからないがゆえに、そこにある「モノ」のような感覚にとらわれた自分の気持ちがなんだか恥ずかしく思えました。

「24時間、365日の介護サービス」を謳い、コムスンが福岡から東京へ進出したのが1988年のこと。なぜ、コムスンがこのような介護事業を黒字化させたのか?牧坂さんにうかがいましたが、やはり創始者である榎本憲一氏の「カリスマ的存在」にあったように思われます。国からの補助金事業として事業化されたとしましても、このような過酷なヘルパーさんのお仕事はたいへん厳しい労働条件を強いられます。当時13店舗だったころは、榎本氏の情熱に賛同された方々の献身的な支えがあったからこそ成り立った事業ではないかと思いました。しかしながら、グッドウィルに事業譲渡され、飛躍的事業展開が始まり、榎本氏が事業から離れてしまうと、もはや「ノルマ化」したヘルパーさんたちの仕事は厳しいだけのものとなり、予想通りの展開になってしまったのが現実ではないでしょうか。

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本日、ワタミの株主総会において、代表者の方が「介護事業を引き受けても、ワタミの企業価値は一切下がることはない」と7400名の株主(およびその家族)の前で説明されたそうです。もちろんワタミの場合は訪問介護と施設介護を地域密着型と民間推進型に仕分けされたうえでの計画でありますが、たとえそうでありましても、この事業は家族や地域による協力体制のうえでなければ成り立たない事業のような気がします。(だからといって、具体的な提案がすぐに思い浮かぶほど立派なことは何も申し上げられませんが)

昨日、日弁連の司法シンポが開催されたJALシーホークホテル福岡といえば、折口氏が「ジュリアナ東京」の九州拠点としてイベントを開催していた場所でした。ひとりの人物が、さまざまな事業で成功する「カリスマ」にはなれないのかもしれません。たった一日くらいの経験で、わかったような話をするわけではありませんが、「人が天に召されるまでの平穏な時間」の問題を、できるだけ多くの方に真剣に考えていただけたら・・・と思いながら、施設をあとにして大阪への帰路につきました。。。

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2007年6月23日 (土)

上場企業の執行猶予制度

本日(6月22日)は福岡ドーム横のJALシーホークホテルにて日弁連の司法シンポジウムが開催されましたので、そちらに参加しておりましたが、その後私用のために私の生まれ故郷であります福岡県大牟田市に来ております。実に27年ぶりに「新栄町」に降り立ちましたが、全国どこの中堅都市とも変わらぬ駅前風景(ネオンが輝くのは消費者金融の看板ばかり)に変わり果ててしまってたいへん寂しい思いであります。決して活気がないのではなくて、いわゆる国道沿いの郊外型大型店舗が、ここ大牟田にも乱立しているようでして、駅前の衰退は必然なのかもしれません。楽しい思い出の詰まったこの元炭鉱都市ではありますが、ここで育ててくれた祖父、祖母、そして両親も、いまは皆他界してしまい、ここで誰との接点もなくなってしまった現実も、寂しさの一端になっているようです。ただ、「たったひとつだけ」この町との「接点」が残っておりまして、明日そこへ向かうことを楽しみにしております。

さて、東証は市場1部および2部に上場している企業に対して、「グレー企業」を移す「特設注意市場」を創設する方針を固めたそうです。(毎日新聞ニュース)これは今年4月に公表されております上場制度総合整備プログラム2007におきましても、「直ちに実施する事項(第一次実施事項)」として掲げられておりましたので、少数特定者の持ち株比率に関する上場廃止基準の変更等とともに、概ね実施が予想された内容であります。私は今年3月に日興CGの上場維持決定と題するエントリーのなかで、日興のような会計不正が発生した場合に、「維持」か「上場廃止」かといった二者択一の選択肢だけでは、不正発覚後の自立的な内部管理体制の向上へのインセンティブが生まれないとして、「執行猶予的な制度があったらいいのではないか」といった感想を書かせていただきましたが、まさに今回の「特設注意市場」の場合はそのような制度に近いものだと思っております。いったん「特設市場」に移管されたとしましても、内部管理体制の構築へ企業自身が努力することによって再び特設注意市場から元の市場に復帰できることになると思われますので、不正発覚後の自助努力が報われる制度として機能するのではないでしょうか。ただし、この制度が有効に機能するためには、新たに創設される東証の自主規制法人の運営にも依拠するところが大きいようにも思われます。

ところで、先の上場制度総合整備プログラム2007のなかで、内部統制報告制度との関係におきましては、東証上場企業が監査人による「適正意見」を受理できなかった場合であっても、ただちに上場廃止処分とするわけではない、と明言されているところであります。しかしながら、おそらくそれは「維持」と「廃止」の二者選択を前提とした場合の考え方であって、このような「特設注意市場」が創設された場合には、どのような取扱を予定しているのでしょうか?たとえば監査人による「意見不表明」の場合で、財務諸表監査においては「適正意見」を受理した上場企業のような場合とか、企業自身が「重要な欠陥があり、期末までに修復されていない」といった内容の開示を行ったケースなど、いろいろな事態が考えられるわけですが、そういった内部統制の評価監査において、問題のある上場企業については、上場管理行為の一貫としまして、この「特設注意市場」への移管といったことも検討されるのでしょうかね?

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2007年6月22日 (金)

「会計参与」はなぜ普及したのか?

きょう(6月21日)の日経夕刊の一面に「会社法新制度、中小が活用」といった見出しとともに、会計参与を起用した企業数が1000社を超えたようだ・・・との記事が掲載されておりました。就任された会計参与の方々の保有資格では、8:2=税理士:会計士とのことでして、まずは税理士(税理士法人)さん方のご尽力が会計参与制度の普及に大きな役割を果たしていることは否めないところではないかと思われます。しかしあれだけ新会社法施行前後におきまして、ある意味「利用されるのかどうか、不安視」されていた会計参与制度が、なぜ1年でこれほどまでに普及したのでしょうか?(そういえば、磯崎さんの「お笑い会計参与」のエントリーを想い出します。私はこの時分には、大変失礼ながら、まさか1年でこんなに会計参与が利用されるとは思っておりませんでした。)

そもそも「会計参与」といった制度が、税理士法人や税理士さんにとって魅力的なものなのかどうか、施行当初は疑問があったと思います。記帳代行や決算書作成業務と比較して、それに付加される報酬と比較すると、会計参与については第三者責任など負担すべきリスクが大きすぎるのではないか・・・といった感想を聞きました。しかしながら、この5月にも改訂されました「会計参与の行動指針」によりまして、ずいぶんと責任の範囲の明確化とか、業務手順の画一化とか、(このブログでも一時話題となりました)取締役との計算書類の共同作成作業がうまくいかなかったときの対処法とか、そういった指針の制定によって責任負担リスクがかなり低減されてきたことが、普及につながったのではないかと思われます。それと、もうひとつ、税理士さん方の業務内容がずいぶんと様変わりしてきたことも原因のひとつではないでしょうか。昔ながらの記帳代行、計算書類作成といった業務だけでなく、顧客企業さんの経営計画までコンサルティングされる方が増えたように思います。そうなりますと、顧問税理士といった立場をさらに進めて、その企業の役員として経営に参画する、といったことにも関心を寄せる方が増えてきてもおかしくないと思われます。たしかに、20年ほど前に商法改正の議論のなかでも、「会計調査人」とか「会計指導人」といった、会計監査人制度に類似した商法上の機関制定が議論され、そこでは税理士さん方が監査や会計の世界に登場する機会が検討されていたわけでありますが、やはり現代ほど顧客と税理士事務所とのIT革命が進んでいない時代でしたので、記帳代行業務を飛び越えて、コンサルティング業務への意欲といったものも今ほどではなかったのではないでしょうか。

いずれにしましても、金融機関さんと中小企業さんとのおつきあいのなかで、会社に会計専門家がいらっしゃるということが、その関係を円滑にする役割は重要だと思いますし、直接金融(株主、一般投資家)→会計監査人、間接金融(銀行)→会計参与といった図式を基準として、企業の開示制度の信頼性が高まることになりますと、棲み分けもスムーズに維持されることになりますので、今後もますます「会計参与」制度の有効活用は進むのではないか、と思っております。ただし上場企業でさえ、これだけいろんな会計不正事件が発覚する世の中ですから、現実の問題としまして、いくら責任限定契約を締結されていらっしゃるとしても、就任時までのおつきあいのなかで、信頼関係を結ぶに足る企業かどうかを見極めていかないと、トラブルに巻き込まれるリスクも増えていくんじゃないかと思います。私の身近なところにはいらっしゃらない「会計参与」に関するエントリーですんで、私の推測による根拠を示しただけでありますので、また実務上からの有益なご意見、ご経験をお持ちの方がいらっしゃいましたら、いろいろとご教示ください。

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2007年6月21日 (木)

加ト吉社の外部調査委員会

監査法人で働く会計士(補)のブログ」(noppy246さん)でも紹介されておりましたが、今週号の日経ビジネスでは「粉飾連鎖」と題する特集が組まれております。そのなかで「会計士が落ちた罠」と題して、「会計士を骨抜きにする4つの殺し文句」が紹介されております。(これ、なかなか面白いです。詳しい内容は上記noppy246さんのブログでどうぞ)しかし、加ト吉社がみすず監査法人さんから適正意見を受理したと報道されるやいなや、700円→750円と株価が一瞬のうちに急騰するわけですから、やはり監査法人の適正意見というものの経済的価値はモノスゴイものですね。一方で本日、加ト吉社の子会社が販売していた冷凍コロッケに関する表示偽装(牛肉→豚肉)の報道がなされるや、今度は株価急落ということで、これまたコンプライアンス経営の重要性を真摯に受け止める必要もありそうです。現実をあらためて認識いたしました。逆に申し上げますと、こういった事例を前にしますと、たしかに会計士さんに対して、業績の悪化している企業さんの担当者からすれば、無理難題を言ってみたい気になるかもしれませんね。

ところで、この特集記事のなかで、加ト吉社の6年間約1000億円にも及ぶ架空取引に至った経緯が詳細に紹介されておりますが、その記事の最後のところで外部調査委員会の調査内容に関しましては、やや批判的に紹介されておりまして、私的にはこの外部調査委員会の調査内容へのコメント記事がもっとも鮮烈な印象を受けました。つい先日、法曹の事実認定能力について、その専門的手腕こそ企業社会は有効活用せよ・・・なんて、ずいぶん偉そうに書かせていただき、批判的なご意見も頂戴しておりましたが、(うーーーーん)たしかに、この記事を読んでみての感想としましては、あんまり偉そうなことは書かないほうがいいなぁ(^^;・・・と思いなおした次第であります。といいますか、我々法曹としましても、自戒すべきところが多いのかもしれません。もちろん、事実認定能力といったものには優っていると思いますが、それは十分な事実調査に裏打ちされるものですから、そういった調査が不十分ですと、どうしようもありません。誰からも文句が出ないほどに詳細に事実を認定していかなければ、不正の原因特定についても、また再犯防止策の提言についても説得的な意見は書けないのだろうな・・・と思います。

(広報)さて、先日お知らせいたしましたビジネス法務の部屋のオフ会(7月12日午後6時半から梅田にて)でありますが、すでに8名の方よりご参加の意向を頂戴しておりまして、最小催行人数(3名)を超えておりますので、予定どおり開催することといたします。なお、まだまだ参加者を募集いたしておりますので(だいたい15名くらいまでならだいじょうぶと思います)、気軽に参加してみたい・・とお考えの方がいらっしゃいましたら、メールにてご連絡ください。なお、これまでメールを頂戴した方はほとんど「レベルが高そうですので、話についていけるかどうか・・・」「私のような者でもだいじょうぶでしょうか」といった、枕詞をおつけになっていらっしゃいますが、(このブログがそのようなイメージを持たれているのかもしれませんが)ブログをご愛読されていらっしゃる方でしたら、どなたでも歓迎ですので、どうぞご応募くださいませ。

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2007年6月20日 (水)

監査役の外観的独立性

大手監査法人さんの「内部統制コンサルティング」のプレゼンによりますと、IT統制というのは、だいたい第3フェーズあたりで指導する、といったところなんでしょうか。もし私もコンサルティングに立ち会う機会がございましたら、ぜひとも「IT統制とメール管理」の関係につきまして意見交換をさせていただこうと思っております。(まだまだ貴重なご意見をいただいておりまして、本当にありがとうございました。ここまできますと、管理人は議論の整理をする必要がありそうなんですが、なかなか難しいですね。)

さて、「監査役の理想と現実」をまじめに考えるシリーズでありますが、先日は「店長兼務監査役」さんのお話をまじめに採り上げました。本日は、不正会計によって創業者会長さんが引責辞任をされたブックオフさん(ブックオフコーポレーション、以下BOといいます)について、すこしだけ気になることがございますので、ブログにて検討させていただきます。(朝日新聞ニュースはこちら)先月9日頃に発売されました週刊文春記事により、BOさんのリベート疑惑等が発覚しまして、5月中旬には社内で外部委員を中心とした調査委員会が設立され、その中間報告(要旨抜粋)が6月19日にリリースされたようであります。この文春記事のなかで、外部委員会が検証したのは4項目ございますが、そのなかのひとつの項目として「BOの監査役会は3名の社外監査役で構成されているが、3名とも学生時代の仲間であり、大きな疑問がある」といった点であります。(ちなみにBO社のコーポレートガバナンス報告書を読みますと、1名が常勤社外監査役、2名が非常勤社外監査役となっております)

上記朝日新聞ニュースでも指摘されておりますが、外部調査委員会といいましても、委員長には顧問弁護士さんが就任されておられるようで、そもそも経営者個人もしくは会社の利益のために活躍される顧問弁護士さんが、公正中立に事実認定を行うべき外部調査委員会の委員長にふさわしいのかどうか、少し疑問が残るところであります。ただ、この調査委員のメンバーは、いずれも企業コンプライアンスの分野で著名な弁護士の方々でありますので、そういった疑念は「百も承知」のうえでの構成だと思います。(おそらくなんらかの合理的な理由があろうかと思われます)ただ、それよりも私がビックリいたしましたのは、「監査役制度に問題がある」と指摘された内容を検証するための調査委員会が「監査役会の下部機関として設立」されているところであります。なぜそうなったのかと申しますと、先ほどの中間報告によりますと「(調査委員会の)独立性を担保するため、調査委員会は今後当社監査役会の直轄とする」とあり、「調査委員会の選任は委員長および監査役会に一任する」とのことであります。(いずれも臨時取締役会にて決定された、とのこと)しかし、社外監査役3名が学生時代の友人どうしであって、監督機能が十分行使されなかったのではないか、といった疑惑を検証するにあたって、その監査役さん方3名で構成されている監査役会に独立性が担保されていると言えるのでしょうか?また、その監査役会が選任した外部第三者委員の方々に、そういった監査役会の機能検証について公正中立な判断が期待できるものなのでしょうか?

ちなみに、この中間報告(要旨)によりますと、

BO社の監査役3名につきましては、たしかにいずれも同じ大学の同窓生で、合唱団仲間であるとの事実は認められるが、今般、厳正な本調査を委託してきたことからも明らかなとおり、職務執行に公正を欠くことは考えがたい、

との結論に至っておりまして、おそらく最終報告におきましても、この監査役会の検証活動といったことは、ほぼ同様の結論で終止符が打たれるものと思われます。過去の職務執行の公正性を判断するにあたって、問題発覚後の監査役の対応を根拠とすることは、(その対応がおよそ自発的になされたものであることが立証されないかぎりは)おそらく説得性に欠けるものだと思われますので、なんとなく、この調査委員会の判断は苦しい理由付けになっているような気がいたします。なお、「仲良し三人組」がなぜ、外観的独立性からみてよくないのか?といった論点もあろうかと思いますが、「経営者がへんなことをしていたら、辞任してでも抗議しますよ」といった監視役が一人でもいることによって、経営陣が業務執行や役員会に臨む気持ちが違ってくると思います。あの仲良し三人組だったら、これくらいのことは大目に見てくれるのでは・・・といった甘い気持ちを経営者に抱かせるとすれば、それは大きな問題だと考えます。誤解を恐れずに言わせていただくとすれば、たとえ不祥事を隠蔽するにしても、そもそも監査役が「鼻につく」経営者であれば、監査役にいろいろと突っ込まれてはマズイと考えるでしょうから、このたびの文春記事にようにたやすく社員に内部告発されるような尻尾をつかませないほどに巧妙に隠蔽するのではないでしょうか。「あの監査役さんたちだったら・・・」といった甘い考えがあったために、結果として脇が甘く、容易に従業員にも不祥事の発端が垣間見えたのではないか、とも考えられます。(注 これは決して、不祥事隠蔽を肯定するものではございません。)

もちろん、私は「BO社の監査役の方々が、本当にまじめに監査役としての職責を全うしておられたのか疑わしい」と邪推しているわけでは決してございません。BO社のガバナンス報告書によりますと、この監査役の方々は(平成18事業年度におきまして)、ほぼ全回取締役会に出席されておりますので、おそらくまじめに経営者としての経験を生かしつつ監査役としての職務に取り組んでおられたのだと推測いたします。ただ、あえて申し上げるとすれば「外観的な独立性」といったところに問題があったのではないかと思います。監査役会を構成する3名の監査役さんが、代表者の大学の先輩であり、また同じクラブの仲良しグループであったということになりますと、「本当に厳しい意見を経営陣に申し述べることが期待できるだろうか」と普通に疑問が湧いてくるのではないでしょうか。たとえそんなことはない、と当事者が感じておられるとしましても、やはりそういったことを疑われないだけの外観的独立性も重要ではないかと思います。経営陣が監査役に対して、そういった外観的な独立性など、あまり意識されていなかったことが、このたびの調査委員会の人選や監査委員会直轄、といった組織構成にも影響しているのではないでしょうか。経営者自身からみて「なんか異分子的な人だなぁ」と少し違和感を感じるような人を監査役に招聘できる(たったひとりでも結構かと思いますが)度量というものも、企業のコーポレートガバナンスのあり方にまで目を届かせている株主監視の時代には、必要な能力のひとつではないか、とふと考えさせられるような事例であります。

この監査委員会は、取締役会に中間意見を申し述べるにあたって、社外の法律専門家(これもたいへん著名な方々)の意見を参考とされているようですので、かなり厳正に審査されたうえでの報告書となっているようでありますが、一番大きな問題であるリベート疑惑をはじめ、いくつかの検証項目につきましては、厳正な内容の報告書と評価されるにせよ、どうも監査役に向けられた疑惑も含めての調査報告書ということになりますと、ずいぶんと監査役制度自体が軽んじられているのではないか、といったことが思い浮かぶわけでして、かなり疑問が残るところではないかと思っております。

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2007年6月19日 (火)

会計帳簿閲覧謄写請求の仮処分

楽天によるTBSの会計帳簿等閲覧謄写請求の仮処分が、東京地裁で却下され、本日即時抗告をされたようであります。仮処分決定全文は読んでおらず、報道ニュースからの情報だけしかわかりませんので、推測の域を超えておりませんが、楽天側は閲覧請求の目的物についての閲覧謄写権があること、TBS側に閲覧謄写を拒絶する正当理由が認められないことについては裁判所が認めたものの(つまり被保全権利は認めるというもの)、仮処分によってまで認めなければならないほどの株主としての著しい権利救済の必要性は認められない(つまり保全の必要性は認められない)といった理由だったそうであります。そもそも会計帳簿の閲覧請求の仮処分といいましても、いったん閲覧を認めてしまいますと、本訴訟で勝訴したこととまったく同様の利益を楽天側が取得してしまうことになりますので(いわゆる満足的仮処分)、仮処分を利用する側にとりましては、かなり厳格な要件該当性が必要となってくるものと思われますので、TBS側が拒絶事由をまったく主張しない場合とか、株主総会による議論をまっていたのでは、回復しがたい個人としての株主権侵害を主張する場合、株主総会による多数派決議によって、少数派株主が一方的に不利益を受ける場合など、この時期に閲覧謄写を認める高度な必要性がないかぎり、なかなか仮処分による楽天側の満足は得られないものと思われます。

それでも楽天側が「即時抗告」によって、緊急に会計帳簿閲覧謄写にこだわる理由は、買収防衛策の一貫としての大株主との株式の持合依頼が、会社法の禁止する「利益供与による株主権行使依頼」に該当するのでは・・・との疑念に対する調査や、総会で議決権を行使する株主が自由意志によるものかどうか、といった点を調査する必要性が高いとの判断からのようであります。しかしながら、これらの調査結果は、後日司法判断を仰ぐ際に(たとえば代表訴訟提起の前提とか、敵対的買収防衛策導入や発動の是非を争う裁判の前提とか)利用すれば、閲覧謄写権を少数株主権として認めた趣旨はまっとうされるのであって、総会における議論の前提としてまで利用されることは妥当ではない、といった裁判所の判断があるのかもしれません。したがいまして、即時抗告審では、司法判断ではなく、総会における株主の判断の前提として会計帳簿を調査しなければ、株主権が回復困難なほどに侵害されてしまうことを説得的に立証しなければならないと思われます。

ところで裁判所は何を考えながら保全の必要性なし(株主にそのまま本訴訟での救済をはかっていては回復困難な権利侵害が発生する、とまではいえない)といった手法で却下したのでしょうか?先に述べたように、純粋に会計帳簿閲覧権の法的性質(経営管理のための株主の権限ではあるが、それは後日の訴訟資料収集の機会を株主に付与したもの)からなのでしょうか?それとも別の意味がこめられているのでしょうか?たとえば、敵対的買収防衛策の是非といったものは、総会で承認されることはあまり大きな意味はなく、防衛策導入の経緯やその仕組みなどについて、導入後や発動後に司法判断で検討すれば足りる、したがって、総会での承認を排除しなければ反対株主の権利救済が困難になるというわけではない、といった意味はないのでしょうか?・・・・・いろいろと疑問点が浮かぶわけでありますが、ともかく決定文の内容が判明しておりませんので、あくまでも推測ということで。

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2007年6月18日 (月)

オフ会のお知らせです(* ̄∇ ̄*)

ブログをはじめて2年4ヶ月ほど経過いたしましたが、このあたりで一度オフ会を開催したいと思います。本当に肩のこらないもので、ブログのことや、エントリー内容に関連するような話題で盛り上がっちゃいましょう。もしご参加いただける方や、お問い合わせの方がいらっしゃいましたら、左サイドバーにございますメールにて事前申し込みをお願いいたします。(お電話でのお問い合わせはご遠慮ください(^^;))

開催日時 2007年7月12日(木曜日)午後6時半集合

開催場所 大阪梅田周辺の居酒屋「土筆んぼう」(たぶんお初天神店か阪急東通り店)

最小催行人数 3名(もちろん、何人でも結構ですよ)

参加資格 「このブログを見たよ」とおっしゃっていただければ誰でも。ただし、自己紹介可能な方(どこの会社の誰が来てました・・・などとブログで公表することはございませんが、せっかくの機会ですので、ご参加された方どうしで、お知り合いになれますように)

参加費  居酒屋での飲み会としての常識的な範囲内

また、オフ会につきましてはときどき広報いたしますので、どうか気軽に参加してください。管理人は大阪人なもので、梅田での開催とさせていただきましたが、もちろん遠方からのご参加も歓迎です。

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IT統制とメール管理(その2)

日曜日にもかかわらず、昨日のIT統制とメール管理のエントリーには、有識者の方々より多くのコメントを頂戴し、どうもありがとうございました。(肝心の管理人は「父の日」ということで、昼から家族と出かけておりまして、コメントをお返しできず申し訳ございませんでした)実は他のエントリーのアップを予定しておりましたが、皆様方の真摯なご意見を読ませていただきまして、その感想を続編として書かせていただきます。なお、閲覧されていらっしゃる方には、昨日のコメントのほうが多数説(おそらく現在の通説)であり、私の意見は少数説(一般に公正妥当と認められる会計もしくは監査の基準の解釈からは離れているかもしれない・・・説)とお考えいただき、あくまでも問題提起といった意味でご理解いただけますと幸いです。したがいまして、昨日のエントリーのコメントは、内部統制システム整備運用にあたり、たいへん有益なものではないかと思いますので、どうかご参照ください。

IT統制(金商法上の内部統制報告制度における)と電子メール管理の関係につきましては、やはり「財務報告の信頼性確保」といった内部統制の目的との関係では、その評価や監査対象としてはそれほどのウエイトは占めない・・・といった意見が多数説であると私は昨日のコメントから理解いたしました。(したがって、近時のIT統制に関する解説書では、あまり触れられていない、といった結論になると思います)それでは、そういった立場の方々は、下記のように書かれている「実施基準」はどう解釈されるのでしょうか?

(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準Ⅰ内部統制の基本的枠組み2内部統制の基本的要素(6)IT情報技術への対応②ITの利用及び統制より抜粋)

イ 統制環境の有効性を確保するためのITの利用

 ・・・(中略)・・・

また、ITの利用は、統制環境の整備及び運用を効率的に行っていく上でも重要となる。たとえば電子メールといったITを利用することは、経営者の意向、組織の基本的方針や決定事項等を組織の適切な者に適切に伝達することを可能とし、統制環境の整備及び運用を支援することになる。

一方で、ITの利用はたとえば経営者や組織の重要な構成員等が電子メール等を用いることにより、容易に不正を共謀すること等も可能としかねず、これを防止すべく適切な統制活動が必要となることにも留意する必要がある。

上記の前段落のほうは、皆様方もご指摘のとおり、電子メールが情報伝達手段として使用されるにあたっての財務報告の信頼性に関係する業務プロセスを問題としていることがわかりますので、これについては私も異存はございません。しかしながら後段落のほうはいかがでしょうか。防止すべく適切な統制活動が必要とされているのは、まったく財務報告の信頼性を確保すべき業務プロセスとは無関係なところで、電子メールの管理が要求されていると理解すべきではないのでしょうか。昨日はすこし説明不足でありましたが、そもそも内部統制報告制度が金融商品取引法に導入されましたのは、ライブドア事件もさることながら、コクドほか8社が「有価証券報告書虚偽記載」ということで監理ポスト入りした事例が発端となっていたはずです。つまり、大株主の記載において、虚偽の名義人を記載していた多くの企業のうち、悪質と思われた8社が処分の対象になった、というものであります。これらの事例は「株主に関する事実」の記載が問題となったケースであり、そもそも財務報告の信頼性確保のための「業務プロセス」そのものが問題となったものとは異なるのではないでしょうか。繰り返しになるかもしれませんが、そういった不正防止も「投資家保護を目的とした企業情報の開示のために要請されるもの」と考えるならば、「IT統制」といったものも、そもそも財務報告の信頼性確保のための業務プロセスにとらわれる必要はないわけでして、「正確性の反映」のためのITだけでなく、経営者による共謀などによる不正の防止のための統制もIT統制といえるのではないか、と感じる次第でありますし、それが素直な理解ではないか、と思うわけであります。IT統制というものは「モノ」だけを見つめるものではなくて、かならず「モノと人との関係」を扱うはずではなかったのでしょうか。(モニタリングの有効性を確保するためのITの利用に関しても、「モノと人」との関係が重視されるのではないでしょうか)たとえば経営者とITとの関係で捉えるとすれば、メール管理に関する統制の仕組み整え、その仕組みをおよそ経営者が理解することによって、「こんな仕組みがあるんだったら、社内で不正を指示することもできないし、意思連絡もできない」と悟ることができ、抑止的効果がはかられるかもしれません。人間は不正への誘惑があるからこそ、不正へと近づく(性弱説)のであるならば、こういったIT統制はまさに金商法が最も重視している経営者不正の低減に効果的なはずであり、その機能を果たすべき場面ではないでしょうか。これは純粋な「統制環境に関する評価、監査」の問題ではなくて、おそらくIT統制の問題でもあろうかと思われます。

日興コーディアルの不正会計事件のときには、外部第三者委員会の委員は(おそらく補助者も用いてのことだと思いますが)、一ヶ月間に社内メール50万件を調査した、との報告内容でした。そのうえで、子会社代表者の関与事実については一部メールがサーバーから一括削除されていたがゆえに認定を断念した、とのことであります。おそらく、この50万件には、本当にどうでもいいような社内メールも含まれていたのではないか、と推測いたします。それでも、そういったメールを丹念に調べていけば、「仮説の信憑性」を補強する証拠が出てくるわけであります。たしかに、メール管理そのものが財務報告の信頼性確保に向けた統制活動そのものとは無関係なように思えますが、こういった社内のトップクラスが社内メールの管理による効果を認識していたとするならば、不正への誘因がひとつ減ることになるのは間違いないところと思います。コメントのご指摘につきましては、議論を深めるきっかけとなりましたし、私がかなり誤解しているところもあるようにも思えますが、ちょっと心のどこかで咀嚼しきれないところがございましたので、あえて続編として感想を述べさせていただきました。

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2007年6月17日 (日)

IT統制とメール管理

最近の金融商品取引法における内部統制報告制度(いわゆるJ-SOXと呼称されるところ)に関する解説本などでは、COBIT for SOX(2nd Edition)など、IT統制に関する文書化の要点などが紹介されているようで、システム監査に精通されていらっしゃる方のお話などをお聞きするなかで、実務レベルでの対処については半分くらいは理解できそうな感じがいたします。ただ、ずいぶんと前の話になりますが、財務報告の信頼性確保のためのIT統制のお話といえば、「メール管理」といったことが論点のひとつだったと思います。最新号の「旬刊経理情報」は「実施基準完全対応!IT統制の文書化はこうする」といった特集でして、丸山先生はじめ、システム監査に造詣の深い先生方が、あらゆる角度からIT統制の文書化について解説をされているのでありますが、そこには「メール管理」のことがまったく触れられておりません。

ひょっとすると、実施基準とメール管理は無関係なのか・・・とも考えたのでありますが、J-SOX導入のきっかけとなったライブドア事件や、先日の日興コーデの不正会計問題の際も、事実解明のためにメールが果たした役割というのが最も大きなものだったことは間違いありませんし、財務報告の信頼性確保のための内部統制と無関係なわけはないと思われます。社内メールと社外メールの効果的管理方法、メールの管理保存方法、他人のメールへのアクセス制限、修正履歴や削除履歴などの記録方法、そしてなによりも、メール送信に関する人的教育研修など、どれをとっても不正会計防止のためには全社的なIT統制と関係するでしょうし、経営者として関与しなければならない「第一歩」ではないかと考えておりますが、なぜ一切の解説がないのでしょうか?(ちょっと不安になりましたので、実施基準を確認しましたが、(ITの利用)の最初のところで「統制環境の有効性を確保するためのITの利用」として電子メールの重要性についてきちんと書かれてあります)そもそも、メール管理につきましては、内部統制報告制度の実施を待つまでもなく、早急に各社で対応しなければならないわけですから、構築するのは当たり前なのかもしれませんが、それでも制度実施後は経営者評価やIT統制監査などの対象となるはずですから、どういったレベルまでのメール管理をすれば内部統制報告制度上のIT統制としては合格基準なのか、ある程度感覚として知っておきたいところであります。

もうひとつ、最近の内部統制システムの文書化作業のなかで、気になりますのが、内部統制リスクとしての「文書化と開示リスク」であります。私自身、ある企業におきまして、リスクマネジメント委員会委員として、リスク評価や対応方法の検討作業に携わっておりますが、その委員会議事録はどこまでのことを記載すべきなんでしょうかね?(これ、委員会開催のたびに、法律家委員の方より疑問が呈されまして、大問題になっております)リスクマネジメント委員会には、オブザーバーとして社長も出席しておりますので、先日の全日空の発券トラブルではありませんが、IT関連事故で会社に損害が発生した場合に、株主から代表訴訟を提起された場合に、取締役の事故予見可能性(役員は事故発生のリスクをどこまで事前に把握していたか)を立証するためには、株主の方から委員会議事録につき文書提出命令を申立られる可能性がありますよね。委員である私が何を話したのか、そのリスクは最終的な決算財務プロセスにどのような影響を与えるのか、そのリスクについて会社はどこまで対応方法を検討していたのか、委員会としてはどういった提案を役員会に提示したのか、など、議事録に詳細に記載しておかねばならないのでしょうか。あまり書きたくないような気もいたしますが、文書化しておかないと、あとで委員会活動をきちんとやっていたことの証拠が残らないことにもなりますし、これはかなり難問であります。役員の最終的な責任については経営判断の裁量が広いところで救われることも多いかと思いますが「リスクを知ってて何も対応していなかった」と社会的非難を受ける可能性は高いわけでありますので、「一生懸命内部統制システムの整備運用に努めていればいるほど、開示リスクは増える」という結果にはなってしまうのでは・・・・・との不安がよぎります。もちろん開示義務が発生するような文書を隠蔽することはもってのほかであります。しかしながら民事訴訟法上の文書開示を拒絶できる事由、たとえばもっぱら内部専用文書の体裁を整えるとか、外部専門家を交えての意思形成文書と評価できる体裁にするとか、内部統制構築そのものが「営業秘密」に属すると考えるとか、他人の著作権(知的創造物)やプライバシー権侵害のおそれがあるとか、いろいろと文書化にあたっては、その開示リスクを低減するための要素はあろうかと思いますので、業務記述書にせよ、マトリックスにせよ、評価書にせよ、議事録にせよ、財務報告の信頼性確保のための内部統制システム整備運用プロセスに関わる文書化にあたりましては、(将来的に発生するであろう)文書化リスクにつきましても細心の注意が必要なのではないでしょうか。(そういえば議事録は作成せずに、外部専門家作成にかかる会議メモだけ残しておき、外部専門家事務所にて、内部監査や会計士監査の資料用として保管する・・という案も出ておりましたことを付言いたします)

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2007年6月15日 (金)

カネボウ事件と株式買取請求制度

カネボウ事件(産活法に基づくMBO事例)につきましては、反対株主による株式買取請求に関する裁判(買取価格決定申立事件)のなかで、「鑑定のための予納費用」があまりにも高額(たしか2500万円でしたっけ?)なことに圧倒されてしまいまして、それ以来あまりフォローしておりませんでした。しかし、今週号の「東洋経済」(6月16日号)を読みますと、ずいぶんとたいへんなことになっているんですね。TOBに応じなかった一般株主の方々には、カネボウ側に「公正な価格」による買取請求を求める権利(ただし、本件では旧商法における「公正な価格」の解釈が問題となっています。)があるわけですが、その「公正な価格」の内容を巡って、日本でもたいへん著名な学者の先生方が、一般株主側、会社側それぞれに分かれて鑑定書を提出されているそうであります。

カネボウ側弁護士の方や、元産業再生機構関係者の方は「そもそも少数株主は、投機行為として株式を取得したにすぎず、排除されることもありうることを承知のうえで株式を購入しているわけであるから、やむをえないのではないか」といった趣旨の反論をされておられるようですが、そういった主張のレベルでありましたら、逆に会社側も、継続企業を標榜して株式を上場したわけでありますから、政策を変更して非公開の手法をとるのであれば、それなりの不利益を受けることもやむをえないといえそうなんで、あんまり説得的とはいえないように思います。また、少数株主を排除する決議に先立つTOBに多数の一般株主が応じた事実から「会社側の提示している162円という買取金額は、多数の株主の賛同を得たものであって、公正な価格であることは明らか」との主張につきましても、現実的には「強圧的」な手法であることは間違いないと思いますので、「多くの株主の賛同を得ている」ことの根拠にはならないと思います。むしろ、「公正な価格」といったものは、どういった根拠で、どういった計算方法を用いて算定すべきなのか、コントロールプレミアム帰属に関する根拠なども含めて論理的に判断されるべきものだと思われます。

ただ論理的に・・・と申しましても162円(会社側)と1578円(カネボウ株主側)とは大きな隔たりがありますので、裁判所がどういった計算根拠とその計算に斟酌すべき事実を採用するかは、非常に興味のあるところです。その裁判所が参考とするであろう商法学者の方々のお出しになった「意見鑑定書」が、双方に提出されておりますので、あのライブドア、ニッポン放送事件の頃を想起してしまいますね。配当還元法を基礎とすべきか、収益還元法を基礎とすべきか、あるいはそれ以外の方法も加味すべきか・・・といったいろいろな考え方が示されているようでありますが、記事だけからの印象(誤解があれば申し訳ございませんが)で気になりましたのは、TOBによって特別に支配的な株主が結果的に誕生して、上場廃止処分となった場合、その買取請求権行使の場面においては「公開会社の株価形成」を前提として判断するのか、それとも「閉鎖会社の株価形成」を前提とするのか・・・といった点であります。これは、ものすごく大事なポイントのように思えます。最初から特別支配権を有するほどに大株主がいる場合と、会社側がTOBを利用して「結果的に」大株主がいる状態を作った場合とでは、「少数株主」の意味が異なるのではないか、と思います。これは、この5月1日に施行されました会社法上の合併対価の柔軟化について、解禁前にその潜脱方法として利用されてきた全部取得条項付き種類株式や、株式交換契約を用いて少数株主を排除する企業再編の場合と同様の問題ではないでしょうか。たしかに、株式買取請求権が行使される「その時点」だけを捉えますと、閉鎖会社を前提とした株式評価方法が採用されるべきのようにも思えますが、TOBからの一連の「因果の流れ」として、少数株主が存在するものと考えれば、公開企業における株価算定方式が採用されるべきもののように思えます。(記事のなかに神田教授のご意見として「市場価格のない株式の評価方法としては・・・配当還元方式が理論的妥当性を有する原則的な方法」とありましたので、上記のような疑問を抱きましたので、誤解がございましたらご指摘ください)また、株式買取請求権が行使される「その時点」だけを捉えますと、そもそも支配権プレミアムといったものは少数株主には付与する必要はないのでは・・・とも考えられそうですが、TOBからの一連の流れを統合して考えますと、少数株主は配当だけに関心があるのではなく、その持分移転による支配権譲渡分も保証されねばならない、といった考えが妥当性を帯びることになりそうであります。

なお、この記事のなかで、上記のように双方で「公正な価格」算定に大きな開きがあるのは、業績予想、フリーキャッシュフローの成長率、資本コストなどの差に起因するものとされておりますが、昨日の経済産業省次官の会見スピーチにおける「企業価値とは」に関するご意見(無形資産こそ企業価値)や、「誰もそんなしんどい事業なんて買手がつかないよ」と言われていながら、誰かが手を挙げだしますと、あっという間に競売状態になっているコムスン事業一括譲渡の事例などを見ておりますと、企業価値算定、とりわけ公開企業の株式価値算定といったものは、何を基準に判断したらいいのだろうか・・・・・と悩むところであります。そういった株式算定根拠の不透明さを考えますと、こちらのブログのコメントでも指摘されているようなことが実際にも疑われるかもしれませんし、「不透明と疑われる部分」が公正であることの手続き的保証の程度や立証責任をどちらに転嫁すべきか・・・といったことも、この買取価格決定事件だけでなく、MBO手続そのものを争うような事件におきましても、裁判所は真剣に検討していかなくてはいけないのでは、と思います。(以上の内容は私個人の勝手な考えであります。)

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無配企業いろいろ・・・

(以下は3月決算の上場企業を想定したお話であります。)そろそろ、総会リハーサルの季節であります。実は先日ある会社の総会で社外監査役に選任され、就任を承諾いたしましたので、現在二社の監査役をさせていただいているわけでありますが、もう一社の総会が6月下旬ということで、某信託銀行さんの監修のもと、リハーサルが始まりました。そういえば、今年から商法時代とは違いまして、計算書類としての損失処理案の承認が不要になりましたので、(剰余金処分に該当する事由がないかぎり)無配の場合には「力が至らず、申し訳ございませんでした」と陳謝する機会もなくなってしまったんですね。(ちなみに、私が社外監査役をさせていただいている会社は、積立金取り崩しをして、配当を継続することを付議いたしますが・・・)次年度以降に復配することを株主の皆様に決意表明したいときには事業報告の「対処すべき課題」あたりに決意表明を書いて、その報告の際にでも謝罪する、といったスタイルをとるのでしょうか?

しかし無配といいましても、当期純利益がたくさん出ていて、上り調子でどんどん資金につぎこんで堂々としている企業さんもいらっしゃいますね。そんな会社でも、剰余金の処分として付議すべき事由がなければ(繰越利益剰余金のまま)定時総会には何の決議も必要ないわけですから、こっちは気持ちが楽でいいですね。

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2007年6月14日 (木)

使用人兼務常勤監査役

昨日の「限界論」にはコメントやメールをいただきまして、ありがとうございました。まだまだ議論したいことがございますので、また昨日のエントリーにも、お気づきの点がございましたらコメントをいただきたいと思っております。(どうかよろしくお願いします)ところで、金融庁のHPで金融・資本市場の国際化に関するスタディグループの中間論点整理がリリースされております。「金融高等裁判所創設」の話題とか、独占禁止法における課徴金制度と平仄を合わせながら本年度中に課徴金制度の改正を行う予定、その他今後の金融資本市場のあり方で問題となりそうな点が網羅されていて、たいへん興味深いものであります。

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さて、6月13日の企業情報(適時開示情報)を閲覧しておりましたところ、(どこの企業さんかは申し上げませんが)不正な会計処理に監査役さんが関与されていた、ということで、責任を感じて辞任された・・・といった情報が開示されておりました。しかも、その監査役さんは3年間ほど業務執行者(使用人)を兼務されておられたそうでして、その使用人という立場で経費計上時期の遅延、売上の早期計上などの経理操作に関与されていたようであります。(こういった監査役の職務に絡む話題というものは、私はとてもビックリするのですが、ほとんどニュースにはならないんですね。ん?でも会社法上、監査役は使用人を兼務することができましたっけ?)

先日の大杉教授(中央大学法科大学院)の「監査役制度改造論」(取締役兼務監査役)ではございませんが、ご承知のとおり、監査役は取締役や支配人、その他使用人等の業務執行者の地位を兼職することはできません。(会社法335条2項)では、間違って監査役と使用人の兼職が行われたら、株主総会の効力や、監査報告書の効力は無効になってしまうのでしょうか。これはひとつの論点になりそうでありますが、判例の見解によりますと(最高裁平成元年9月19日)監査役としての職務の効力に影響が出るものではなく、そういった組織法上の監査役の行動については効力は否定されないようであります。以下、上記最高裁判例の抜粋です。

株式会社の監査役は会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることができないものとされているが(商法二七六条)、監査役に選任される者が兼任の禁止される従前の地位を辞任することは、株主総会の監査役選任決議の効力発生要件ではないと解するのが相当である。けだし、商法二七六条(原文のママ)は監査役の欠格事由を定めたものではないと解すべきであるのみならず、監査役選任の効力は、株主総会における選任決議のみで生ずるものではなく、被選任者が就任を承諾することによって発生するものというべきであって、会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人の地位にある者を監査役に選任する場合においても、その選任の効力が発生する時点までに取締役等の地位を辞任していれば、右兼任禁止規定に触れることにはならないからである。そして、監査役に選任された者が就任を承諾したときは、監査役との兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであるが、仮に監査役就任を承諾したものが事実上従前の地位を辞さなかったとしても、そのことは、監査役の任務懈怠による責任(商法二七七条、二八〇条一項、二六六条ノ三第一項)の原因となりうるのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。そうすると、○○弁護士を監査役に選任する旨の本件総会決議は、会社の顧問弁護士が商法二七六条によって兼任の禁止される地位に当たると否とにかかわりなく、有効であるというべきであるから、本件総会決議を有効とした原審の判断は結論において正当であり、・・・・・(略)(なお、○○のところは私が一部修正しました)

なるほど、兼職禁止の条文の解釈として、使用人が監査役に選任されて、その就任の意思表示をした時点で、使用人の職務については辞任した、とみなすわけですね。したがって、その後の使用人としての職務は事実上のものにすぎないと。(しかし、これはこれで行政上の免許事由の存否に関わる問題とか、使用人の一方的な辞任の法的効力とか、新たな論点が出てきそうな気はいたしますが)しかし、上記最高裁判例におきましても、監査役としての「任務懈怠責任」が発生する場合があることは指摘されておりますので、辞任して終わり・・・というわけにもいかないケースも出てくるものと思われます。(ちなみに、上記最高裁の事例は顧問弁護士さんが監査役に就任した事例でありますが、顧問弁護士が社外監査役に就任することの是非・・・といったことは、すでにこのブログでも一度ご紹介したとおり(顧問弁護士と社外役員就任問題)かなりデリケートな問題を含んでおります(^^; ただ本日の話題とは少し離れます。)

正論からいえば、監査する者と監査される者とが同一人に(事実上)帰属するわけでありますので、到底監査役としての監督を期待できるわけでもなく、本件はこういった兼職問題が不正会計事件の発生を容易にしてしまったと言えそうな事例でありますが、他の3名の監査役さん(この企業は4名の監査役のいらっしゃる監査役会設置会社です)とか、6名の取締役さんたちは、3年間も会社法上の兼職禁止規定(商法上の規定も同様)の存在を知らなかった、もしくは放置していた、といったあたりが事実なのかもしれません。今回は監査法人さんからの指摘によって不正会計処理が発覚した、ということなんですが、外部第三者は兼職の事実を知りえないとしましても、内部経営陣の方々がこういった問題を軽視しておられた(もしくは無視しておられた)、ということは、結局のところまだまだ監査役という職責の重要性というものが中堅上場企業レベルでは意識されているところまでには至っていない、といったことを物語っているのかもしれません。(ちょっと悲しいですけど・・・そういった企業が多くないことを願いますが。)

ただ、使用人兼務監査役(事実上)という方が、不正会計事件に関与していて、そのために会社に損害が発生してしまったという場合、他の監査役さんや取締役の方々の責任問題といったことも検討課題に浮上してくるかもしれません。「これはマズイぞ」といった声が誰からか上がるのが普通じゃないかと思うのでありますが、こういった兼職状態が3年も続いていたとなりますと、それこそ内部統制システムの構築義務違反だとか、他の監査役さんの任務懈怠だとか、取締役らの監視義務違反だとか、そういった監督上の注意義務違反がかなり認められやすい環境になったのではないかと思われます。これは余程、今後のガバナンスのあり方を検討していかないかぎり、それこそ「統制環境」に重要な欠陥があるとみなされてしまうかもしれません。(ちなみに、この企業さんは現在監理ポストのようであります)

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2007年6月13日 (水)

スティール、ブルドックへ法廷闘争開始(速報版)

リヒテンシュタイン代表が来日して、ブルドックソースの代表と面談して「物別れ」に終わった直後の仮処分申請ということのようですね。買収防衛策発動差し止めの仮処分(新株予約権発行差止め)と、株主総会決議の差し止め仮処分、取締役の違法行為差止め仮処分を合わせて、とのことだそうです。(読売新聞ニュースによるもの。ただし朝日が最初に報道していたようですね)差別的行使条件の付いている防衛策が株主平等原則に反する、という理由のようですから、これは真っ向勝負ですし、経済産業省の企業価値研究会においても議論されていた大きな論点が裁判上の争点になるかもしれません。

スティールの代表が日本に来て記者会見に臨むというのは、私の予想では、ブルドックも天龍製鋸も、おんなじようにいろいろと質問が続くので、「もう他社は、なんべんも同じこと聞かんといてくれる?」といった意味でマイクの前に立ったのかな・・・と思っていたのですが、今朝のワイドニュースで野村教授(中央大学)は「あれはおそらく、裁判官に印象を良くするためのパフォーマンスでしょう。」と解説されておられました。(さすが、野村先生、予想どおりであります)ちなみにリヒテンシュタイン代表は、5月21号の日経ビジネス誌で「世界初の単独インタビュー」を受けておられ、サッポロHDとの今後について熱く語っておられましたが、そっちはどうなるんでしょうかね?とりいそぎ、速報版ということで失礼いたします。

関連エントリー ブルドック買収防衛策の素人的分析

(追記)経済産業省の次官による定例会見では、「スティールの主張はまったくの事実無根」と憤慨されているようであります。私が思うに、スティール側が指摘したかったのは、企業価値研究会の提唱した「事前警告型買収防衛策」における「差別的行使条件」のところが株主平等原則と抵触するのではないか・・・といったことかと思います。当時のエントリーにも書かせていただきましたが、私もちょっと疑問に感じていた部分ではありますが、会社として特定の株主に対して平等原則違反の扱いをしていいか、といった問題と、多数決によって一部の少数株主の議決権行使に影響を与える決議をしてもよいのか、といった問題点があったかと思います。

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内部統制監査と実施基準の「限界論」

しかし監査法人さんによる内部統制報告制度のコンサルタント報酬というのは高いですね。1人当たり1日ウン十万!?・・・・・(すべてのフェーズを通して)しめてウン千万!?あと、これにもし導入しなければならないシステムなどを勧められたらもっと高額になるんでしょうか?中堅規模の公開企業なら一年間の利益がふっとびますよね。ということで、ひさしぶりの内部統制ネタでありますが、本日はいわゆるJ-SOX(金融商品取引法上の内部統制報告制度)に関する素朴な疑問シリーズであります。なお、会計にも制度会計と管理会計がありますように、内部統制にも金商法上の内部統制と、攻めの内部統制、つまり本格的に事業活動の効率性を高めるための内部統制とは分けて検討するべきというのが私の基本的な立場ですので、きょうのお話は監査意見表明を必要とする金商法上の内部統制報告制度を念頭に置いたものとお考えください。

私のブログでも、以前から「内部統制の限界」といったことについて考えていたわけでありますが、これは企業会計審議会の意見書では通し番号54頁で記述されております。この内部統制の限界論といったものが、内部統制の評価と監査との関係ではどう表現されるのだろうか・・・といったことが以前から疑問でしたし、とても関心を抱いておりました。「会計・監査ジャーナル」6月号では、内部統制部会の委員でいらっしゃった方の「内部統制監査の実施上の課題」という論稿が出ておりましたので、(こういった私の疑問が解消されるのではないか・・・と期待しながら)拝読いたしました。この論稿の内容自体は最近の問題点がよく整理されており、わかりやすかったのでありますが、私が一番知りたかった「内部統制監査と内部統制の限界の関係」につきましては、まったく触れておられませんでした。しかし「内部統制の限界は、意見書の54頁に記述されている」といった位置づけからするならば、これは経営者の評価方法だけでなく、監査手法とも何らかの関係があるはずですし、とりわけ「対費用効果」に関する限界といったものは、経営者評価や公認会計士監査と一体どういう関係にあるのか、十分な理解を得たいところであります。(同じように考えている企業担当者の方や、経営者の方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。)しかしながら、先の論稿では「課題」としても挙がっていないわけでありますので、おそらく監査論の世界におきましては、当然に認識されているはずの問題なのかもしれません。ちなみに、「対費用効果」に関する内部統制の限界として、意見書には次のとおり記述されております。

内部統制は、組織の経営判断において、費用と便益との比較衡量の下で整備及び運用される。組織は、ある内部統制の手続きを導入又は維持することの可否を決定する際に、そのための費用と、その手続きによるリスクへの対応を図ることから得られる便益とを比較検討する。

概ね、私の理解は以下のとおりであります。そもそも「対費用便益」の限界といった概念は、財務諸表監査の監査基準にも適用されるものであって、そこでは監査というものが、合理的な水準で(つまり投資家にとっての有益な開示情報として、概ね信頼できる範囲で)あればその目的をほぼ達成できるわけですから、不要不急な費用をかけてまで、実査を重ねる必要はない、といったことを表現しているものであります。(たとえば「逐条解説・改訂監査基準を考える」八田・町田 35頁~37頁)ところで、この監査基準における「対費用効果による限界」といった概念が、内部統制報告制度にも同じ意味で導入された場合、どう表現されるのか、という点が疑問であります。つまり内部統制の構築、運用の評価にあたり、その有効性を判断するには、対費用効果の限界を考慮してよいと考えるのか、それとも会計士さんによる内部統制監査特有の問題であって、「監査の水準」(合理的保証の程度)で足りることの説明だけに関係する概念なのか、それともそもそも内部統制システムの整備運用にあたっては、対費用効果の限界を経営判断として検討してよい、という意味なのか、というところの整理であります。このあたりは、もうすでに整理に関する合意形成はできているのでしょうか。

そもそも財務諸表は経営者の意見表明であり、財務諸表監査はその経営者の意見表明にある程度の信頼性に関する保証を付与するものだと捉えるならば、経営者による内部統制報告書も、財務諸表監査と同じように財務諸表に対する信頼性を付与する機能を持つ制度のはずです。(これは同じ時期に金融商品取引法上で制度化される経営者確認書とも同様の機能であります)そういった原則からしますと、財務諸表監査における監査基準の考え方は、そのまま内部統制に関する経営者評価の方法(一般に公正妥当と認められる内部統制監査の基準)にも適用されるのではないかと思われますので、「有効性の評価方法」においても、経営者が対費用効果を考えながら評価すれば足りる・・・といった考え方が成り立つように思えるのであります。ただ、「対費用効果による限界」といった問題は、会計士監査に独特な概念であって、監査の水準のみに適用される概念である、と捉えるのであれば、内部統制監査の手法を検討する場合のみに問題となるのではないか、とも考えられます。しかしながら、どうでしょうか、上記の意見書の文言を素直に読む限りにおいては、そもそも内部統制の構築運用の場面において、経営者(上場企業)は、その経営判断においてできる範囲での費用で構築すれば足りるのであって、虚偽表示に至るリスクとその対応策さえ予算の範囲できちんと検討されていれば、内部統制報告制度の目的は達成されたものと言える(だから経営者が有効と評価できる範囲はとても広い)、とも読めるわけでありまして、「目的達成のために完璧な内部統制システムの整備運用をめざすことを要求しているものではないことを、単に裏から説明したにすぎない」とは言い切れないように思えますが、いかがなもんでしょうか。第一法規出版「内部統制の要点」第2章におきまして、内部統制作業部会の会員でいらっしゃる先生の解説されているところ(57頁~58頁 お持ちの方はご参照ください)を読みましても、やはり同様の意見のように読めるのでありますが・・・・。

ここのところ、本業の準備書面の作成や、医療過誤事件の事前交渉(これ、ちょっと予想外にたいへんになってきました・・・)などに追われて、十分な参考書類にまで目を通しておりませんので、ちょっと私の理解にも不明瞭なところがあるかもしれませんが、今後の実務におきまして、かなり重要な点ではないかと思いますので、また考えるヒントなど頂戴できましたらありがたいです。

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2007年6月12日 (火)

委任状争奪戦と監査役の役割など

5月25日の委任状勧誘と議決権行使の助言に関するエントリーにおきまして、「委任状争奪戦はツッコミドコロ満載の論点なんで、また勉強しなければ・・・」と書いておりましたところ、最新号の旬刊商事法務(1801号)に東京の著名な先生(弁護士)による「株主提案と委任状勧誘に関する実務上の諸問題」と題する論文が掲載されておりましたので、一生懸命拝読させていただきました。とりあえず、委任状勧誘規則と委任状争奪に関わる論点はほぼ網羅されており(そのために、論文の長さも結構なものです)、実務上参照するには、かなり役立つのではないかと思いますので今後とも活用させていただきます。そもそも委任状にまつわる論点というのは、会社法303条から305条までの株主提案権の行使と非常に深い関係にあるわけですが、ちょっと前までは「総会屋排除」といった政策的な意味合いで議論されていたものが、最近は「モノ言う株主」つまり機関投資家やファンドによる株主提案権行使への対応といった意味合いで議論されているわけでして、そもそも従来の議論がそのままあてはまるのかどうか、そのあたりから検討しなおす必要があると思います。また、たとえば会社法304条は株主提案権のなかでも、いわゆる修正動議(議案提案権)に関する新設規定でありますが、これも総会運営に関する議案提出(手続動議)の問題であれば、これまでも「総会屋」がらみで議論されてきましたが、配当増額や取締役選任などの反対動議に関わる論点につきましては、(問題となる場面は)「総会当日の出席が前提となるために(当日出席は機関投資家には関係ないために)あまり議論されてこなかったのではないかと思われます。(なお、以下の問題は取締役会設置会社であり、かつ上場企業を念頭に置いたものであります)

この委任状争奪戦に関わる法律上の論点といいますのは、ずいぶんと理解困難なところが多いように思えますし、勉強するのも面倒くさいような・・・とも思っておりましたが、本日のタイトルのとおり、監査役制度とも無縁ではございません。先日もTBSと楽天との委任状争奪に関する楽天側の委任状勧誘文面の内容が不明確であって、TBSの一般株主に誤解を招くおそれがあるために中止を要請した・・とのニュース(要望書の内容はこちら)がありましたが、委任状を勧誘した企業の監査役のところには、一般株主もしくは競争企業側から、取締役らによる違法行為の差止請求をせよ、との要望書が届く可能性もございます。自社の取締役が一生懸命に委任状勧誘を行っているところへ、それは違法行為であり、かつ会社に著しい損害を発生させる可能性があるとして、監査役自身が委任状勧誘の差止をすべきかどうか、そういった問題を株主や議案提案者より突きつけられるケースもありうるわけであります。(実際に過去にはそういった事例も見受けられます)監査役として、放置してもよいケースも多いとは思うのですが、しかし何もしないでいると気持ち悪いですし、監査役としての対応方針といったものを検討してみる価値もあるかもしれません。結局のところ、議案を特定しない包括委任状の効力をどうみるかとか、議事進行に関する包括委任状の取扱についてどう考えるべきか、といったところが最大の論点だとは思うのでありますが、具体的な問題点は、また株主提案権の行使された6月総会の進展のなかで触れてみたいと考えております。(この問題、ブログで書くとすれば、ものすごい分量になりそうです・・・)

また、先日のいちごアセットによる委任状勧誘による(少数株主側の)成功例をみての感想でありますが、一般株主による議決権行使のための情報提供というものは、単に会社によるものだけではなく、同じ株主の立場から得られる情報も重要ではないか、と素直に思えたことであります。会社からの開示情報に乏しい場合には、その補完としての株主側からの情報提供があってこそ、株主総会に期待される公正な意思形成が成立するのではないでしょうかね。株主総会を開くということは、単にそこで「数集め」をするだけでなくて、「株主が議論をして意思形成」をするところだと再認識できるような事例だったと思います。ひょっとしたら、こういった考え方は、政策的に「総会屋の活動防止」といったことが強調されてきた時代にはあまり説得性がなかったのかもしれません。現時点ではむしろ、少数株主の保護の要請と、企業戦略としての財務政策(資源流出の防止)の実現の要請との調和といったあたりの問題になるのかもしれません。  そして現時点では、こういった考え方の違いというのは、議決権行使に関する代理権授与契約の法的性質論にも影響を与えるものなのかもしれません。(これは私の勝手な推測でありますが)また、最近は少数株主排除のために「TOB+略式組織再編」といった手法を用いて、株主総会を開催することなく少数株主を排除するスキームが流行しておりますが、この手法ですと、さきほどの「株主側からの情報提供行為」といったものが存在しません。素直に合併契約の承認総会を開催すれば株主の賛同が得られないのに、TOB+略式合併の手法を用いればスクイーズアウトできる・・・というのは、果たして妥当な結論なんでしょうか。そもそも、略式組織再編の手続きが合理性を持つのは、ある重大な企業の意思決定を行うに際して、(特別決議の要件を満たすのが明らかな)特別支配会社が存在するからであります。重大な意思決定を行うにあたって未だ特別多数を支配していない状態でTOBをかけて一般株主の意思と問うのとは大きな違いがあると思いますし、その「大きな違いがある」ことを証明してくれたのが、先のいちごアセットの事例ではないかと思います。(そう考えますと、やはりTOB+略式組織再編による手法は、どうもスキームとしては問題があるのではないかと考えますが、いかがでしょうか)

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2007年6月11日 (月)

課徴金引上げにより法廷闘争勃発?

企業会計不正の抑止力として期待されている課徴金制度でありますが、来年の通常国会で金融商品取引法の改正を予定しており、そのなかで課徴金納付命令を課す「対象行為」の範囲を拡大し、さらに課徴金の納付額も大幅に引き上げる検討に入ることのようであります。(日経ニュースはこちら)独占禁止法の分野においてもまた、課徴金の引き上げを検討している、とのことでありまして(こちらは読売ニュース)、経済法の分野における行政処分(課徴金)制度の運用において今後いろいろと議論されるところが多くなりそうであります。とりわけ制裁的意味を含めた課徴金の納付額の問題と、課徴金の減免制度を細則化して、悪質な場合には金額を加重し、また軽微もしくは反省がみられる場合には金額を軽減させるといった課徴金制度の運用問題が焦点になるのではないでしょうか。

皆様もご存知のとおり、課徴金制度は原則として「違法な行為によって対象企業が不当に得た利益を返還させる」「見つかったら元に戻す」といった思想に基づいて運用されておりまして、「制裁的な意味合いは薄い」からこそ、刑事処分との二重処罰禁止をうたった憲法に違反しないとされている、と一般的には考えられております。(だからこそ、企業の故意過失を問題にすることなく「うっかり」インサイダー取引にも課徴金は課されるわけであります)しかしながら、現在検討されている課徴金制度の厳格化(虚偽開示などへの制裁的な意味合いをもった高額の課徴金制度)が実現することになりますと、①企業自身が経営者による会計不正によって実質的な損害を被ることになり、株主代表訴訟の対象となりやすくなる、②制裁的意味での課徴金制度ゆえに、処分が確定すると経営者個人の刑事罰が認められやすくなる、という意味で、証券取引等監視委員会や証券取引所における事実調査の内容が、これまで以上に対象企業の経営者にとって民事的にも刑事的にも影響度の高いものになることが推測されます。新たにTOBルール違反などにも課徴金が賦課される、といったことが検討されているようですので、おそらく金商法上もまた、独禁法上においても、課徴金納付命令に対する異議申し立てについては(経営者の保身という動機付けもあって)増加することになるでしょうし、その結果として裁判所において課徴金処分の取消を求める裁判も増えることになるのではないでしょうか。このあたりは、あまり検討されている文献等も見当たりませんが、これも立派なリーガルリスクの一種といえるでしょうし、リスク管理の一環としまして、今後刑事法学者の方々の意見なども交えながら議論されることになるのではと思います。

先日、企業法務における事実認定の困難さ、といったエントリーを立てまして、持論につきましては皆様方よりいろいろとご批判も頂戴いたしましたが、こういった課徴金制度のあり方も企業内における事実認定の問題ともまた、無縁ではないと思われます。経営者や法人に刑事罰が課される「犯罪事実」と課徴金が課されるべき「対象事実」とがいったい同じレベルの事実(認定事実)なのか、違うのか、といったことも問題でありましょうが、とりわけ対象企業のルール違反の悪質性によって課徴金が加重されたり、軽減(免除)されることがあるというわけですから、「悪質性を根拠付ける事実」や「悪質性を排除することを根拠付ける事実」の振り分けこそ、事実のあてはめの問題に属するものでありましても、そもそもそういった根拠事実の有無といったものをどうやって企業内で評価していけばいいのか、やはり考えてみますと意外にムズカシイ領域ではないかと思っております。(いろいろと考えておりますと、本当に課徴金引き上げといった制度改正が、経営者の会計不正を思いとどまらせるために効果的と言えるのか?といった根本的な疑問にも戻ってしまうかもしれませんが・・・)

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2007年6月 9日 (土)

内部統制を語る人との出会い(その2)

さて、先月のまるちゃんこと丸山満彦さんに続き、今月も「内部統制を語る」ブロガーとして、行方(なめかた)洋一弁護士と本日(6月8日)お会いしました。昨日、行方先生は大阪で金融財政事情研究会主催のセミナー講演をされたそうですが、そのまま大阪に滞在され、夕方より食事をご一緒させていただきました。(第一印象・・・年齢よりも「見た目」かなり若いですね。。しかし、この「きんざい」さんのセミナー予定を見て驚きましたが、行方先生は、文字通り北海道から沖縄まで、全国ツアーの真っ最中だったんですね。どうもご苦労さまです。)

任期付公務員(金融検査官)を経験されても、元の事務所に戻ってくると、また普通の弁護士としての職務に忙殺されてしまい、なかなか経験を生かす機会がない・・・とは、よく聞く感想でありますが、この行方先生の場合には、(メリルリンチでの経験も含めて)ご自身の経験をそのまま専門性の高い業務(金融機関の内部統制コンサル)に生かそうと努力されているところにたいへん関心を持ちました。(うーーーん、私もあと10才若かったら、そういった経験を積みたかったんですけど、かなりうらやましいですね)金融機関も、そして監督する行政庁も、まだまだ縦割りに近い組織運営が残っていると思いますので、こういった外部第三者的な人間が、横串を刺すように問題を提起することはかなり貴重かもしれません。内部からみてきた矛盾点などを認識しているからこそ、そういった問題提起が金融機関等に受容されるんじゃないかと思います。たとえば、金融機関に限られるものではありませんが、公認コンプライアンス・オフィサーといった資格があるわけですけど、一般事業会社におきましても、こういった縦割り組織の活性化を自由な発想で考える立場とか、そういった資格者がいれば向いている分野かもしれません。(このあたりはまた別エントリーで考えてみたいところでありますが)

行方先生は、まるちゃんのように「濃いーぃ」方ではいらっしゃいませんでしたが、予想以上に「外向き」ですね。宴席の途中で、若い仲居さんが「おだし」をすこしこぼしちゃったんですけど、女将さんといっしょに平身低頭謝る仲居さんに対しても、おもしろい話を持ちかけて、雰囲気を和らげて、すぐに仲居さんと仲良くなっちゃうところなんか、さすが「ソフィア出身」(?あんまり関係ないですかね?)などと思わず感心してしまいました。(笑)

3時間半ばかりの短い意見交換ではありましたが、金融機関独特の「内部統制構築上の悩み」も聞けましたし、内部統制システム支援機構の活動なども参考になり、たいへん有意義な時間を過ごさせていただきました。今後の行方先生の活躍にますます期待いたしますし、また東京でも意見交換の時間をいただきたいと思っております。(しかし、うまく帰れたんですかね?)

     お知らせ

さて、この「内部統制を語る人との出会い」シリーズ、来月もある方を東京からお招きして、いろいろと意見交換をさせていただこうかと思っておりますが、そろそろお約束どおり、「ビジネス法務の部屋」オフ会をやりたいですね。このブログをご覧の関西人の方々は、おそらく6月いっぱいはお忙しい(って、私もそうですが)と思いますので、7月初旬ころに大阪キタあたりでどうでしょうか?いや、もう少しディープに天満あたりでおいしい韓国料理を食べながら・・・というのもいいかもしれませんね。(あっ、もちろん会費制ね(^^;))また、このブログで広報させていただこうかと思っておりますので、どうか気軽にご参加いただければ・・・と思っております。(最小催行人数は私含めて3人くらいで・・・笑)

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2007年6月 8日 (金)

ブルドック買収防衛策の素人的分析

すでに皆様、新聞報道等でご承知のとおり、スティールパートナーズ(正確にはスティール・パートナーズ・ジャパン・アセット・マネジメント・ファンドーSPV、以下SPといいます)の株式公開買付(TOB)に対して、ブルドックソース(以下、BSといいます)は差別的行使条件付新株予約権の無償割当てによる買収防衛策発動を株主総会に付議することを決定しております。(BSによる開示情報はこちら)先日までSPのTOBに関してはBS側は賛否を「留保」されておりましたが、この日「反対の意思表明」も明らかにされております。(すでにTOBが開始されている関係で)「発動」に関する総会決議を求めるわけでありますので、SPによる差止仮処分(司法判断)申請へと向かう可能性も出てきましたので(※1)、少しだけ素人的な考えでBSの買収防衛策の分析をしてみたいと思います。(ただし、法廷闘争の可能性といいながら、6月8日金曜日のBSの株価動向のほうが、今後の展開には大きな影響を与えそうな気がしますので、注目しておきたいと思います。追記ー8日午前の株価ですが、かなり下げていますね。1655円→1615円  ヤフー掲示板の意見を象徴しているかのようです。)なお、M&A関連のエントリーの際には、毎度ながら、専門家意見ではなく、素人的発想による分析でありますので、投資判断におきましてもなんらの参考にされませぬよう、お願いいたします。

(※1)ただし、本件プランは新株予約権の「無償割当」を行いますので、会社法247条がそのまま適用されるわけではなく、果たして本件プランに株主側より差止請求がなしうるか、といった問題がございます。(だいぶ以前にこのブログにおきましても、日本技術開発、夢真事件の際に個別論点として検討したことがあります。あのときは株式分割が問題となりましたが、基本的には同様の論点があると考えられます。)

大雑把な意見ではありますが、このBSの防衛策を拝見しまして、中期計画案の公表とともに株主総会での承認決議を目指しているものの、やはり法廷闘争をかなり意識しながら作成されたものではないか・・・といったところであります。このような防衛策発動を付議することを決定した理由としましては、大きく分けて二つの理由があるように読めます。ひとつはSP側がBSの経営権を握った場合の具体的な企業価値向上計画がなんら示されておらず、このような態度はそもそもBSの企業価値を毀損し、株主の共同利益を毀損することは明らかである、といった流れであり(※2)、もうひとつはSPは何の予告も交渉もせずに突然のTOBを開始するに至ったものであり、その後の再三にわたる情報提供要求にも満足な情報を提供しなかったことはたいへん不誠実な対応である、といった流れかと思います。また、これは理由ではございませんが、差別的行使条件付新株予約権の無償割当の方法として、SPにもいちおうその保有割合に応じて割り当てるものの、その行使は制限され、その代わりSP社の保有に至った経済的損害だけは填補する(つまり、希釈化された株式の価値目減り分はお金で返す、というもの)ものとして、経済的な意味合いでの株主平等原則違反をできるだけ回避しようと考えておられます。

(※2)ブルドックの企業価値を毀損し、ひいては株主共同利益を毀損する、とあり「明らかに」とは明文化されておりません。私としましては、ライブドア、ニッポン放送事件の高裁判決の4原則に近い要件への充足を検討されているのではないかと思っているのですが、今回は取締役会のみでの防衛策発動ではなく、株主総会における特別決議による承認をもって発動の正当性を充足しようとされているので、「明らか」とまで明文化する必要はないのでは・・・といった判断があろうかと推測されます。

以上の買収防衛策発動理由やそのスキームからみますと、以下のことが言えるのではないか、と推測いたします。まず、BSの場合、もともと敵対的買収防衛策を導入していなかったために、「防衛策で定めた合理的な交渉ルール」というものを使えない状態からの防衛を検討しなければなりません。よく「平時導入」「有事導入」といわれますが、本件の場合は「大量保有報告書を提出して、TOBをにらんで交渉が開始された買収希望者の出現」というよりも、いきなりTOBを開始してきた買付け希望者の到来後の問題でありますから、単なる「有事」というよりも「超有事」における導入と考えてよいかと思われます。第三者割当による防衛策に関する事例ではありますが、皆様ご承知のライブドア事件の高裁判断などによれば、有事導入でありましても、買収防衛策を導入することが違法とはならない要件といったものが示されましたので、「超有事」においても法(または省令)が定めるTOBルール以外に、なんらの防衛策が講じられない、といったものではなく、すくなくとも買付け希望者が、当該会社の企業価値を毀損することが明らかな場合においては防衛策を急遽導入しても適法な場合があると考えられます。BSとしましては、数度にわたる質問状送付とその返答内容により、こういった要件該当性を明らかにしようとの趣旨ではないかと考えられます。

もうひとつ、SPは突然やってきてTOBをかけてきた、現経営陣としては企業価値提案を比較して株主に説明するために、必要な情報を提供してもらおうとしたが、なかなか出してくれない、といったところが強調されております。このあたりは、おそらくTOBルール上は、もはや防衛策を導入(発動)することは予定されず、フェアにそのルールに従わねばならないのが原則かもしれないかもしれませんが、そもそも前交渉もなく、情報提供も非協力的な相手方の出現に対して、対象企業は杓子定規にTOBルールに従わねばならないのか、そういったフェアでない(これをフェアでないといえるかどうかは微妙ですが)相手方であれば、対抗措置をとることも正当性があるのではないか・・・といった主張が予想されるのではないでしょうか。つい先日、このブログのエントリーにおきましても、私はBS側がTOBへの賛否を留保して、大量の質問を求めるというのはルールに悖るのではないか、との疑問を呈しましたが、その前提となるところで、そもそもSP側がルールに悖るような対応をとったがゆえに対抗措置をとるのは正当である、といった主張が、当初より考えられていたのかもしれません。いずれにしましても、超有事の段階におきまして、買収防衛策を発動する、というものですから、かなりギリギリの選択であることは間違いないと思われます。したがいまして、発動に関する承認を株主総会の特別決議に付議したり、相手方の損失を最小限度にとどめるべく希釈化の補填措置をとることで、できるだけ法廷闘争を有利に展開しよう、といったBS側の戦略があるのではないかと思われます。

ただ、こういった戦略が奏功した場合、すこし疑問が生じるところもありそうです。ひとつは、もし超有事になってから買収防衛策を導入しても防衛が成功するとなると、「じゃあ、高いお金を払って事前警告型の防衛策を導入しなくてもいいのではないか?」といった素朴な疑問であります。ただ、よく考えてみますと、事前警告型の防衛策を導入しているケースでは、(いまだ裁判所の明確な判断がありませんので、正当性があるかどうかはわかりませんが)防衛策導入企業が一方的に定めた防衛ルール(交渉ルール)がありますので、とりあえず買付けを希望する会社はそのルールに従わねばならない、といった事実上のアドバンテージを対象企業側が保有することが可能になる点であります。つまり、この平時に導入した防衛策のおかげで、「濫用的買収者」に該当するかどうかの判断過程などにより、かなり長期間にわたって交渉を継続できるといったメリットがあると思われます。そしてもうひとつの疑問としましては、もしこういった戦略が成功するのであれば、そもそもMBO(マネジメント・バイアウト)事例におきましても、少数株主側に「情報提供不足」を理由として、省令に記載されたTOBルールを最低限度遵守していたMBOの合理性を否定する根拠が生まれてくるのではないか、といったところであります。省令に規定されたルールにさえしたがっていれば、MBOは手続き違反にならない、といった判断がなされるようにも思えるわけでありますが、そもそも非公開化のために現経営陣が少数株主に提供すべき情報というものが不十分であるときまで、そもそもTOBルールは予想していなかったということであれば、少数株主側としては、MBOのためのTOB手続きを企業側が敢行しようとする場合には、実質的にその適法性を争う道が開けるようにも思えます。ともかく、今後のSPの動向には目を離すことができないようです。(なにぶん、たたき台としての素人的発想による分析でありますので、またこういったM&A戦略実務に精通されていらっしゃる方や、私と同じ素人的な方におかれましても、ご意見を頂戴できればありがたいです)

(追記)早朝より、メールにていくつかのご意見を頂戴しております。三角合併(対価柔軟化)が施行されて、M&Aにおけるファンドの社会的有用性が認知されれば「毀損ルール」では対応できないのではないか、ブルドック側の支配権プレミアムに関する主張は、その前提となる市場株価について、正しく企業価値を反映していることを認めたものかどうか、明らかではないのではないか、等。(もちろんブログには詳細は書けませんので、あしからず・・・)

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2007年6月 7日 (木)

朝まで生総会?(ほか)

1DI社の株主総会質疑応答要旨集の件

昨夜、たいへんおもしろいなぁと思い、株式会社ドリームインキュベータ(DI社)の開示情報を拝見しておりましたが、やっぱり今朝の日経新聞にも掲載されておりました。(日経ニュース)6月5日のDI社の定時株主総会における株主とDI社役員との質疑応答要旨が開示されておりまして、(DI社の株主の皆様ですから、当然かと思いますが)厳しい質問に対して堀代表はじめ、関係者の方々が真摯に回答されている様子が窺われます。(この要旨を最後までお読みいただきますと、本日のエントリータイトルの意味がおわかりいただけるかと)なお、このDI社の質疑応答要旨の開示は、4月に開示されている株主(板倉氏)からの質問とDI社の回答の延長線上にあるものと推測いたします。私のような生半可な経済知識しか持ちえていない者には、この要旨と株主とのやりとりにつきましては、たいへん勉強になりました。BS重視の経営、PL重視の経営というのは、こういった場面で、このように説明するときに用いるわけですね。最近のM&A事例の成功例、失敗例などの記事も、なるほど、こういった視点から読むと少しは理解できそうであります。そういえば、昨日、ある信託銀行が、株主総会議長に対して模範解答を即時伝達するシステムを売り出す、とありましたが、その企業特有の想定問答集に対応しているのでしょうかね?また、今年あたりからは、社外役員や常勤監査役さんにも、指名のうえで質問が飛んでくるかもしれない・・・と先日、総会リハの際に代行さんがおっしゃっていましたが、そういった場面にも対応できるのかどうか。。

2 グッドウィル社のコムスン事業譲渡の件

昨夜のグループ会社への事業譲渡に関する発表と、それに対する厚生労働省の見解報道によって、一気に株価が持ち直すかと思いましたが、市場はそんなに甘くなかったですね。(ストップ安で午前の取引終了)介護事業に対するコンプライアンス経営への社会的期待の大きさを示していると理解していいのか、それとも「感情論とは別に、親会社が同じである以上、また同じことを繰り返す可能性が高い」といった冷静な分析と理解していいのか。いままでフォローしておりませんでしたので、コメントするだけの情報は持ち合わせておりませんが、今後の動向については気になるところであります。

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2007年6月 6日 (水)

企業法務と事実認定の重要性(上)

つい先日「企業不祥事の適時開示に関する疑問」なるエントリーを書きました。そのなかで、従業員の不祥事が発覚した場合の企業の適時開示に関する処方につきまして、持論を展開させていただいたわけですが、酔狂さんよりご異論を頂戴しました。きょうは、そのご意見をもとに、「企業法務における事実認定の重要性」について持論を述べさせていただこうかと思います。といいますのも、私は企業法務専門弁護士というわけではございませんが、17年ほどの一般民事、刑事事件の裁判経験のなかで、なにが現在の企業法務の実務に一番役立っているかと申しますと、法令知識や法律解釈能力よりも、経験に培われた「事実認定」能力である、と考えているからであります。おそらく2年後に迫りました「裁判員制度」におきましても、裁判員に任命された皆様方をもっとも苦しめるのは、この「事実認定」のムズカシサではないかと思います。民事事件と刑事事件との事実認定方法の差異というものをまったく学習することもなく、いきなり刑事事件(しかも重大犯罪)の事実を確定せよ・・といわれましても、これはたいへんな難問であろうかと思いますし、職業裁判官も、予断排除原則からみて、軽々しくヒントを与えるわけにもいかないと思いますので、今後の裁判員制度の運用にはたいへん苦労するところが予想されます。以下は法律家を代表しての意見ではなく、私個人の意見でありますので、あまり一般化しないでお読みいただければ幸いでありますが、ただこういった視点から職業専門家たる弁護士を企業において最大活用する道がある、ということを企業法務担当の皆様、企業経営者の皆様には知っておいていただければ、損はないと考えております。

今週月曜日の日経「法務インサイド」では、有事における株式持合い依頼とインサイダー取引の要件該当性といった、かなりレベルの高い議論が紹介されておりました。レベルの高い議論であるがゆえに、登場する専門家の方々のご意見もかなり分かれていたように思います。このブログでも以前すこし触れましたが、公表前に「重要事実」を知って株取引をしてしまうと、インサイダー取引に該当するということでありますが、この「重要事実」というものがどういう場合に該当するのか?といった問題は「事実認定」ではなく、法律解釈の問題であります。(現に最高裁判例による「法律解釈」が存在するところであります)法律を作ったり、作られた法律を解釈することは、純粋な人間の精神的創造作業でありまして、頭脳明晰な方々があれこれと議論をして「最大公約数」的な落ち着きどころを見つけ出せばいいのではないかと思われます。しかしながら、「事実認定」はまったく異なります。過去の事実の真相はタイムマシンでもないかぎり、「神のみぞ知る」ところでありまして、本来人間が踏み込むべき領域ではないと考えております。「いやいや、事実に関与する事件当事者は真相を知っているはずではないのか?」といった疑問を抱く方もいらっしゃるかとは思いますが、それはとんでもない誤解であります。裁判の代理人を経験すればすぐに認識できますが、人間の記憶というものは曖昧なものでありまして、バイアス(偏見や先入観)がかかってしまえば、事件の概要すら不明瞭なものになってしまいます。(これは現実の裁判制度において、偽証罪に関する規定が何の役にも立っていないことからも明らかであります)しかしながら、国家の文化水準の向上のために、社会の紛争を人間が平和的に解決しなければいけないわけでありますから、ごくごく少数の「神の領域に踏み込むことを許された人々」が必要となるわけでありまして、それが裁判官、検察官、弁護士(最近は司法隣接業種の方も)といった法曹職業人なのであります。したがいまして、この「事実認定」を行う際には、そういった神の領域に踏み込んでいることへの畏敬の念をもって精神的な作業を遂行する必要があるのであり、誠心誠意、全力を尽くして事に当たらねばならないと心しております。

ところで、企業コンプライアンスとか、企業の透明性といった概念が社会規範として受容されるようになりますと、なんでもかんでも裁判で決着をつける、ということだけでなく、行動指針を自ら見出すために、また社会から一定の評価を受けるために、企業自身もしくは裁判所以外の公正かつ独立の第三者が、この「事実認定に関与する」機会が増えてきます。(事実認定をする、ではございません。あくまでも「事実認定に関与する」であります)いわゆるソフトローの重要性が増す社会とでも言えばよいのでしょうか。たとえば先日のエントリーで採り上げました「適時開示」として開示する必要のある「発生事実」というものも、この「事実認定」作業が必要となってまいります。比較的簡単に事実の発生を認識できるものもありますが、企業不祥事の「発生事実」といったものは、おそらく認識が困難な部類に属するのではないでしょうか。たとえばタイムリーディスクロージャーに関する解説書などを丁寧に読みますと、上場企業は、ある事実が発生した時点で速やかに事実を開示すべき、とは書いてありません。正確には「ある事実が発生したと、企業が認識できた時点で開示すべき」と書いてあります。「ある事実が発生した、と企業が認識した時点」とは、いったい何時のことをさすのか?これがまさに重要なポイントでありまして、これは内部統制とは別個に開示統制システムを構築する場面におきましても有益な議論となるわけであります。

そこで、酔狂さんのご指摘を引用してみたいと思います。(少し長いので、半分に分けてご議論してみたいと思います)

TOSHI先生は「適時開示情報として公表する趣旨は企業業績との関連性ある事実ということでしょうから、たとえば企業が従業員の損害賠償責任について、民法上の使用者責任を負担する可能性の高いケースであれば、開示すべきでしょうし、そうでない場合には、マスコミ等で問題になったとしても、開示不要と判断するのがいちおうの基準かもしれません」と書いておられますが、私は、そう単純では無いと思います。

かつて不祥事対応をしていた私の体験からすると、仮に使用者責任を負担する可能性の高い場合であっても、適時開示に最も反対されるのは、警察だろうと思います。たとえば、社員が業務上横領を働いたとします。企業としては使用者責任を問われる可能性は当然あります。しかし、企業は同時に被害者になりますので、警察に被害届を提出しますが、それを受けた警察が、すぐに公開捜査に踏み切るという可能性は、どの程度考えられるのでしょうか。事案が複雑であればあるほど、捜査の着手に時間がかかり、公開捜査への移行が遅れていくのは、やむをえないことと思います。その時に企業が被害者として、適時開示をすると、著しい捜査妨害ということにもなりかねません。

このご指摘はたいへん鋭いと思います。私も内部通報制度(ヘルプライン)の外部窓口業務を担当しておりますので、こういった場面を何度か経験いたしました。ただ、「社員が業務上横領をはたらいた、とします」といった問題の立て方は、弁護士としての立場からしますと異論がございまして、それこそ「神の領域への侵入」にあたるのではないか・・・との疑念を拭えません。業務上横領をはたらいた・・・と確定的に事実認定することを許された人間は裁判官だけであります。そう考えますと、「発生事実」つまり、企業が事実発生を「認識しうる」時点といいますのは、いったいどの時点なのか、ということを一生懸命検討する作業が必要になってまいります。たとえ本人が「私がやりました」と早い段階から調査担当社員に申し出ておりましても、警察は業務上横領の告訴手続きについてはすぐに受理しませんし、また受理したとしても、証拠不十分によって不起訴となるケースも非常に多いのが現実です。(たとえば背任に関する告訴事件の起訴率は約30%です)早期の段階で適時開示してしまって、後で警察検察が不起訴処分とした場合、逆に適時開示の内容を修正したり、対象社員から名誉毀損で訴えられるリスクも発生します。(企業内におけるセクハラ問題等、内部通報制度の運用におきましても、このあたりは非常にデリケートな論点となります)業務上横領の被疑者自身が事実を認めており、かつ検察庁が起訴した時点あたりが、ようやく「業務上横領の事実を企業が認識した」と認めてもいい時点なのではないか・・・といった「事実認定としての」心証形成がおおむね妥当なところではないでしょうか。また、このように考えますと、酔狂さんが心配されておられるような「適時開示と警察の捜査との衝突」といった問題点も回避されることとなります。(これはあくまでも、私個人の意見であります)人間の精神作業としての「事実認定」には限界があり、また客観的な目的のもとで行うべきものでありますから、謙抑的に遂行されねばならないのであります。(かなり長くなりましたので、下へつづきます。下では、調査委員会による事実認定、コンプライアンス委員会の事実認定、インサイダー取引規制や確認書制度に有用な開示統制制度の事実認定などを整理したうえで、酔狂さんの談合罪に関するご意見に触れてみたいと思います)

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2007年6月 4日 (月)

オリックスとIRIの経営統合(株式交換契約締結へ)

(6月4日深夜追記あり)(6月5日未明 再追記あり)

磯崎さんもビックリ!のオリックス(オリックス株式会社)とIRI(株式会社インターネット総合研究所)の経営統合でありますが、私もかなり驚いております。とりあえず業務中ですので速報版ということで失礼いたします。

オリックス・IRI社 経営統合に関する基本合意について

この株式交換比率(完全親会社:完全子会社=1:0.667)は直近株価による比率の3倍程度の開きですね。(ちなみに、オリックス側からみますと、IRI株主に交付する財産価額がオリックスの純資産額の20%以下ですので、簡易組織再編行為に該当するために総会決議は不要になります)ちなみに、昨年12月のSBI社とIRI社との統合基本合意の際には、(完全親会社:完全子会社=1:0.512)だったかと思います。

SBI社とのことや監査法人さんの意見不表明の件もありましたし、とりあえずIRIの株主の皆様は大満足かと思いますが、一番関心がありますのは天下の(?)GCA(GCA株式会社)が株式交換比率の算定として、オリックスには市場株価法を中心に、そしてIRIには類似会社比較法と修正純資産法を基礎としているところであります。(ちなみに、昨年12月のSBI社との交換比率の算定は、双方の市場株価の直近3ヶ月間の平均値だったと思われます。したがいまして、IRI社の最近の株価については企業価値を適正に表現しているものではない、との判断があったのかもしれません)磯崎さんもご指摘のとおり、オリックスにおきましては、この株式交換に関する承認総会は開催されませんが、来るべき定時総会での質問が予想されますので、おそらく合理的な説明がなされるものと思われます。なぜIRIについて市場株価法を基準とするのではなく、類似会社比較法と修正純資産法を併用したのか?その詳細について、たいへん興味がございます。私としましては、今後いろいろなところで影響を与えそうな事例ということでT-Zoneさんの動向を注目しておりますが、このオリックス社、IRI社の事例もまた注目に値するものになりそうです。また、こういった企業価値分析にお詳しい方々のブログで詳細な展開がなされることを(他力本願ですが)期待しております。(^^;;

(追記)朝日新聞ニュースによると、佐山代表のコメントとして「市場株価は(IRIの)上場廃止を前提としたものであり妥当ではない。資産などから評価した」とあります。やはり最近の株価は特別事情によるものと考えておられるようです。(ところで、株価算定評価法のうち、修正純資産法というのは、再調達時価純資産方式のことを指すのでしょうか、それとも税引後の清算価格を基準とした純資産方式のことを指すのでしょうか。)

(追記2)M&A会計士(澤村先生)のブログで、分析がされております。また、critical-accountingさんのブログでも統合に関する感想が述べられております。ろじゃあさんのブログでは、IRI社代表による統合説明会資料とストリーム映像が紹介されておりまして、私も東京証券取引所における「最後の」説明会を閲覧いたしました。(こういった有事の選択肢と、その選択に至る過程などは勉強になりますね)澤村先生の分析を拝読して、ますますGCAの株価算定方法について、正確なところが知りたくなりましたし、またインサイダー取引のにおいのする本日(4日)のIRI社の市場株価の動きがどう評価されるのか、今後注目しておきたいと思います。(それにしましても、IRI社側はいったん上場廃止となった後にMBOを行うことまで検討されていたようですが、そもそもオリックス側としても、IRI社が上場廃止となった後でも、安く購入できたのではないかとも思われますが、このあたりIRI社の信用を毀損してはいけないといった理由からなんでしょうかね。なお、IRI社の株式に関するヤフー掲示板では、統合合意については解消される可能性がしきりに話題にのぼっておりますが、ホルダーの皆様方は自己責任にてお願いいたします)

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定款への「企業理念」の記載

第一法規出版さんが毎月出しておられた「新会社法AtoZ」が、このたび「会社法務AtoZ」に衣替えされたようですので、引き続き購読しておりますが、その創刊号特集で新会社法時代の定款の活用について掲載されておりました。(正確には、定款自治を経営戦略に活用しよう・・・というものです)この記事のなかでとくに目に留まりましたのが株式会社エーザイさんの定款第2条に「企業理念」が記載されていることであります。エーザイさんがHOYAさんなどと並んで、ガバナンスやCSRへの取り組みではたいへん有名な企業ということは周知の事実でありますが、こういった定款記載への取り組みにつきましてはまったく存じ上げませんでした。ちょっと調べてみますと、2005年の株主総会で定款変更議案が承認されて、初めて企業理念を定款に記載しておられたんですね。ちなみに、条文化されている企業理念はこちらに掲載されております。(コーポレートガバナンスガイドライン

なかなか斬新なアイデアですし、まさに定款自治を経営戦略に活用している一例として、参考にさせていただきたいと思ったりするわけでありますが、こういった企業理念を定款に記載するにあたりましては、何か問題となりそうなところはないのでしょうか?どこの企業でも企業理念を条項化している・・・ということでしたらよいのでありますが、あまり企業理念を規定化されている企業も多くないように感じましたので、どこか懸念されるところでもあるのでしょうかね。すこし気になるところは、そもそも定款というものは株主間とか会社関係者間における会社の取り決めを規定するもの(会社の根本規範)ですから、こういった企業理念を書く・・・というのは、どういった意味があるのか、という本当に基本的な疑問が浮かんできそうであります。条文のなかにも「株主の皆様」というフレーズが出てきますが、株主が決める規範のなかに「株主の皆様」というのもなんかちょっと違和感を抱くところです。

ただ、経営者が理念として掲げるべきものを、将来の株主も含めて、「総体としての株主」が信認をしたものである、と考えれば、こういった理念の規定もありかも・・・とも思えますが、もうひとつの疑問は、「この規定は一体、どんな効力を持つんだろうか」といったことであります。株主も社員もみなステークホルダーズであって、ステークホルダーズの利益を図ること、法令遵守を根幹にすえること、患者様の利益をはかることを一義とすること等、書かれていることはまことにそのとおりであって、文句のつけようもないところでありますが、この規定は内部統制システム整備の基本方針の一例としての「法令定款に適合する体制」違反、という場合の「定款違反」のモノサシになりうる条項なのでしょうか?おそらく記載内容からすれば、訓示規定とか精神規定、努力規定といったところであって、この定款2条違反をもって、裁判上の根拠規定にはならないのではないかと思われます。しかしながら、こういった訓示規定に近いような条文を定款に挿入することになりますと、任意的記載事項として定款に規定されている事項につき、定款違反が問題となるような事例におきまして、ほかの規定につきましても「努力規定」とか「訓示規定」といった解釈が出されてくるおそれはないのでしょうか?

そもそも社団法人の設立に関する民法37条によれば、定款は設立行為の一種として規定されておりますし、同38条では定款変更には主務官庁の認可を要するものとされております。社団法人と営利法人たる株式会社とでは、その意味合いも異なるのかもしれまえんが、こういった民法の規定をみておりますと、設立に関与する株主や、定款変更を承認する株主に対しては、定款の内容というものが一義的であり、かつ解釈の余地のないほどに明確なものでなければならないようにも思われます。そうでなければ、たとえばこの企業理念について、いったいどこが変われば特別決議を要する「定款変更」に該当するのか、(ステークホルダーズ、とされている)社員、会社債権者や株主、そして経営者など、その認識によってマチマチになってしまうことはおそらく間違いないと思います。そのように考えますと、この企業理念を定款に取り込む、ということは、定款の裁判規範性に関する問題と、定款変更の要否の不明瞭性に関する問題といった新たな論点を将来的に持ち込んでしまうのではないかな・・・といった不安が生じてくるように思われます。もし、このあたりが明確な理由によって、他の定款内容と区別できるのであれば、私も関係する会社の企業理念につきまして、定款への挿入をお勧めしてみたいと思っております。

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2007年6月 1日 (金)

たいへん有益なHPのご紹介です。

(金曜深夜 追記)

土日はネット環境のまったく存在しない場所で「釣り人」になってきますので、パソコンはまったく閲覧できません。したがいまして、コメント、トラバのアップも日曜夜まではできませんので、ご了承ください。(では、行ってきます・・・・)

本日はご紹介案件が続きますが、このHPはお勧めです。大阪弁護士会所属の弁護士でいらっしゃる西野佳樹さんのHP(西野法律事務所)が、ついに本日(6月1日)公開されました。西野先生は、パソコン通信「べんべんネット」(弁護士専用掲示板)時代から情報系にたいへん詳しい方でいらっしゃいますが、取扱業務は民事全般ということで、とくべつに情報系専門弁護士というわけではございません。

INDEXページだけをご覧になりますと、「ん?べつに普通の法律事務所のHPじゃないの?」とお思いかもしれませんが、「法律コラム」の充実ぶりがスゴイです。しかもコラムの内容がかなりハイレベルでありまして、(企業法務関連ではございませんが)皆様方が個人的に日常の法律紛争に巻き込まれた際には、ぜひ、このコラムを参考にされることをお勧めいたします。ご自身が依頼される弁護士さんと面談される前にでも、こういった予備知識をもって臨まれますと、おそらく初めての方でも「弁護士の能力比較」が可能になるのではないかと思いますので、はっきり申し上げて、私のところへ相談に来られる前に、この西野先生のコラムを読んできてほしくないような気もいたします(笑)コラムのなかで、ときどきチラっと(?)冷徹な視線が垣間見えるところもございますが、けっして意地悪な先生ではございませんので(^^;

ちょっと前から、「中身を見ていただきたい」とのことでテスト版を拝見しておりましたが一般市民の方にもわかりやすく、非常に有益な専門家の知己が惜しげもなく詰まっているHPと思いましたので、さっそく公開当日にご紹介させていただきました。いままでも多数の法律事務所に関するHPがございますが、どうでしょうか、おそらくサービス精神とレベルの高さではナンバー1ではないかと思います。

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内部統制システム構築・運用ガイドブック

昨日ケーリッヒさんより、コンプライアンスや内部統制を勉強するための適当な書籍はありませんか?とのご質問を頂戴しましたが、きょうご紹介するのは、法務担当者の方に向けてお勧めしたい一冊であります。(もうご購入されていらっしゃったらゴメンなさい)

どちらかといいますと、私のブログでは実際に内部統制構築支援をされている方や、内部統制監査に関与される方、またそういったシステム構築や支援に疑問を抱いていらっしゃる方々のご意見が多いようですが、本日ご紹介する新刊(5月25日発売)は、実際に上場企業で内部統制システムの構築に携わっていらっしゃる方々によって作成されたガイドブックであります。

1431 「内部統制システム構築・運用ガイドブック」(商事法務 経営法友会 法務ガイドブック等作成委員会編 1、800円税別)

実際に執筆されたのは、22社22名の法務、総務担当者の方々で、これまで会社法および金融商品取引法上の内部統制システムの構築運用に関与されてこられた方であります。執筆を担当された方のなかには、私も存じ上げております方もいらっしゃいまして、本当に昨年、一昨年あたりから、法務部やコンプライアンス部において真剣に悩み、勉強し、現場で動いてこられた方による珠玉の一冊であります。いまからきちんと内部統制の概要を整理しておこうとお考えの方には前半部分(基本解説編)が適しておりますし、他社はいったいどの程度のことをしているのか・・・といった実際の統制システム構築運用の現状を把握されたい方には後半部分(実務運用、対応編)がオススメです。私も後半部分のみ拝読いたしましたが、さすがに日々システム構築の現場を担当されておられる方が執筆されているだけありまして、中期的目標、中期計画の設定や予算配分、海外子会社のモニタリング、リスク分類方法、ISO27000等による情報セキュリティマネジメントなどの視点がコンパクトに記載されており、また実際に役立つ参考書籍などの紹介もありまして、たいへん貴重な一冊ではないかと思われます。内部統制システムの導入を命じられた担当者が、実際の現場でどこまでのことができるのか、その悩みも伝わってくるようであります。

ただ、本の性格からはやむをえないとは思いますが、経営陣がどれだけの熱意をもって、担当者にシステム構築を命じているのか、担当役員とはどのように接したらいいのか、外部コンサルタントはどう活用すべきなのか、経営陣にどのように導入を説明すべきなのか、監査役との対話なども含めて、人的資源の活用あたりまで紹介していただければ・・・と、少し物足りないところもございます。また、「物足りない」という問題ではございませんが、会社法における内部統制システムの構築といったあたりがメインの記述となっているような印象を受けましたので、詳細な財務報告に係る内部統制の「評価」といった視点はそれほど記載されていないようですんで、そのあたり書店で確かめてからご購入されたほうがよろしいかと思います。

なお、私がお勧めいたしますのは、この本をひとりでお読みになるのではなく、現場レベルでいろいろと議論の「たたき台」として皆様方でいろんな書き込みをしながら、「自社における内部統制システム教本」をお作りになることです。いわば、この本をまっさらな「ぬりえ」のノートとお考えいただき、ここに御社特有のいろんな色を塗りこんで、御社独自のマニュアル本を作成するといったイメージで活用されるのがよろしいかと思います。

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企業不祥事の適時開示に関する疑問

(6月1日お昼に追記あります)

日経新聞に全部取得条項付種類株式の課税処分の帰趨につきまして、たいへん興味ある記事が掲載されておりましたので、MBOと絡めてエントリーしようかと思っておりましたが、ちょっと皆様方の関心の薄い領域のお話になってしまいそうでしたので、急遽、予定を変更しまして、いろいろと一緒に考えていただきたいテーマといたしました。。。

関西在住の方でしたら、かなり衝撃的な事件でしたのでご存知の方も多いかと思いますが、5月中旬にペッパーフードサービス(東証マザーズ)経営による心斎橋のレストランで店長と従業員の共謀による強盗強姦事件が発生しまして(事件内容はこちらです)、昨日(5月31日)に顛末に関する報告が開示されております。(適時開示情報)ちなみに、ヤフーの掲示板も、ものすごいことになっております。

この事件を契機にペッパー社とファミリーマートとの商品販売に関する提携が中止となり、また社会的不安を発生させたものとして、企業の信用は大きく毀損されている模様であります。自らの店舗内で、しかも被疑者二人とも制服のまま女性客に睡眠薬を飲ませた・・・というものですから、企業責任という点では非難されるのも当然でありますし、新聞等でも報道されましたので適時開示情報として公表しなければならないものと思われます。

しかし、ちょっと事案が変わっていたら、どうだったんでしょうか?たとえば、この店長と従業員が、店舗終了後、店の外で女性を誘って、睡眠薬を飲ませ・・・という場合、新聞などでは「ペッパーレストランの店長と従業員は、店舗営業終了後、共謀して・・・」といった報道をされる可能性もあるかと思いますが、そういった場合でもペッパーフード社は適時開示情報として公表する必要はあるのでしょうか。店が終わって、二人とも私服に着替えて、その後に女性を物色して・・・といった流れでありますと、もう会社の業務とは無関係でしょうから、会社の責任とは離れてしまって、あくまでも従業員たちの個人的な犯行として会社としてはなんら対応する必要はないようにも思えますがいかがでしょうかね。(ちなみに先日の同志社大学ラグビー部の学生達の事件の際には、大学が社会に向かって謝罪の言葉を述べておられましたが、同じ時期に東京大学の某教授が破廉恥罪で逮捕された際には、少なくともマスコミレベルでは東大はまったく謝罪の言葉を述べておられませんでした。このあたりの基準もよくわからないところであります。)「そもそも、今回のペッパーフード社による開示情報には「今後は二度とこのようなことがないよう、社員教育を徹底し・・・」とありますが、こういった従業員の犯行の場合、どこまでが社員教育と言えるのか疑問であります。「決して強姦や強盗はしないように」といったことが社員教育ではないと思いますし、「せめてお店の中では強盗しないように」というのも、ちょっとへんですよね。本当に真剣に考えますと、こういった場合の社員教育とか、どこまでの事実が認められれば適時開示の対象となると考えるのか、けっこう難しい判断を迫られるのではないでしょうか。(さきほどあげたような、お店の外での犯行の場合、ファミリーマートさんは販売提携の中止を申し出るのでしょうか。)

また、かりに店舗外での従業員の犯行についても情報開示の必要があるとしても、その従業員が犯行を否認している場合にはどうしたらいいのでしょうか。従業員の弁護人としては、無罪推定原則を理由に、情報は一切公表するな、また会社側の一方的な処分は留保せよ、と主張してくる可能性があります。こういった難しいケースでは、会社だけで判断するのではなく、やはり顧問弁護士の指示を仰ぐのが無難だと思いますが、やはり適時開示の是非となりますと、あまり弁護士としても経験されないことが多いと思いますので、やはり悩むことがあるんじゃないでしょうか。自宅では適時開示規則などが手元にないものですから、なにか明確な基準等がありましたら、またお教えいただければ幸いです。

(追記)こういった自社従業員による犯罪行為の発生等につきましては、適時開示規則の開示すべき発生事実のうち、「その他会社の運営、業務、財産又は上場有価証券に関する重要な事実」に該当するものとして、各社開示をされるようですが、いわゆるバスケット条項ですから、どこまでの事実を開示すべきか・・・ということは、結局のところ規則を読んでもよくわかりませんね。開示すべきかどうか迷った場合には開示すべき、と、どの本にも書いてありますが、開示したくないから迷うわけでして(笑)。適時開示情報として公表する趣旨は企業業績との関連性ある事実ということでしょうから、たとえば企業が従業員の損害賠償責任について、民法上の使用者責任を負担する可能性の高いケースであれば、開示すべきでしょうし、そうでない場合には、マスコミ等で問題になったとしても、開示不要と判断するのがいちおうの基準かもしれません。したがいまして、このペッパーフード社の場合には、使用者責任が発生することが推測されますので(「事業の執行につき」の解釈に関する付随的業務の範囲内)適時開示すべきですし、もし勤務外での行動と事実認定できるのであれば、使用者責任が発生する可能性は著しく減るわけですから、開示不要という結論が妥当ではないか・・・と考えます。

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