委任状争奪戦と監査役の役割など
5月25日の委任状勧誘と議決権行使の助言に関するエントリーにおきまして、「委任状争奪戦はツッコミドコロ満載の論点なんで、また勉強しなければ・・・」と書いておりましたところ、最新号の旬刊商事法務(1801号)に東京の著名な先生(弁護士)による「株主提案と委任状勧誘に関する実務上の諸問題」と題する論文が掲載されておりましたので、一生懸命拝読させていただきました。とりあえず、委任状勧誘規則と委任状争奪に関わる論点はほぼ網羅されており(そのために、論文の長さも結構なものです)、実務上参照するには、かなり役立つのではないかと思いますので今後とも活用させていただきます。そもそも委任状にまつわる論点というのは、会社法303条から305条までの株主提案権の行使と非常に深い関係にあるわけですが、ちょっと前までは「総会屋排除」といった政策的な意味合いで議論されていたものが、最近は「モノ言う株主」つまり機関投資家やファンドによる株主提案権行使への対応といった意味合いで議論されているわけでして、そもそも従来の議論がそのままあてはまるのかどうか、そのあたりから検討しなおす必要があると思います。また、たとえば会社法304条は株主提案権のなかでも、いわゆる修正動議(議案提案権)に関する新設規定でありますが、これも総会運営に関する議案提出(手続動議)の問題であれば、これまでも「総会屋」がらみで議論されてきましたが、配当増額や取締役選任などの反対動議に関わる論点につきましては、(問題となる場面は)「総会当日の出席が前提となるために(当日出席は機関投資家には関係ないために)あまり議論されてこなかったのではないかと思われます。(なお、以下の問題は取締役会設置会社であり、かつ上場企業を念頭に置いたものであります)
この委任状争奪戦に関わる法律上の論点といいますのは、ずいぶんと理解困難なところが多いように思えますし、勉強するのも面倒くさいような・・・とも思っておりましたが、本日のタイトルのとおり、監査役制度とも無縁ではございません。先日もTBSと楽天との委任状争奪に関する楽天側の委任状勧誘文面の内容が不明確であって、TBSの一般株主に誤解を招くおそれがあるために中止を要請した・・とのニュース(要望書の内容はこちら)がありましたが、委任状を勧誘した企業の監査役のところには、一般株主もしくは競争企業側から、取締役らによる違法行為の差止請求をせよ、との要望書が届く可能性もございます。自社の取締役が一生懸命に委任状勧誘を行っているところへ、それは違法行為であり、かつ会社に著しい損害を発生させる可能性があるとして、監査役自身が委任状勧誘の差止をすべきかどうか、そういった問題を株主や議案提案者より突きつけられるケースもありうるわけであります。(実際に過去にはそういった事例も見受けられます)監査役として、放置してもよいケースも多いとは思うのですが、しかし何もしないでいると気持ち悪いですし、監査役としての対応方針といったものを検討してみる価値もあるかもしれません。結局のところ、議案を特定しない包括委任状の効力をどうみるかとか、議事進行に関する包括委任状の取扱についてどう考えるべきか、といったところが最大の論点だとは思うのでありますが、具体的な問題点は、また株主提案権の行使された6月総会の進展のなかで触れてみたいと考えております。(この問題、ブログで書くとすれば、ものすごい分量になりそうです・・・)
また、先日のいちごアセットによる委任状勧誘による(少数株主側の)成功例をみての感想でありますが、一般株主による議決権行使のための情報提供というものは、単に会社によるものだけではなく、同じ株主の立場から得られる情報も重要ではないか、と素直に思えたことであります。会社からの開示情報に乏しい場合には、その補完としての株主側からの情報提供があってこそ、株主総会に期待される公正な意思形成が成立するのではないでしょうかね。株主総会を開くということは、単にそこで「数集め」をするだけでなくて、「株主が議論をして意思形成」をするところだと再認識できるような事例だったと思います。ひょっとしたら、こういった考え方は、政策的に「総会屋の活動防止」といったことが強調されてきた時代にはあまり説得性がなかったのかもしれません。現時点ではむしろ、少数株主の保護の要請と、企業戦略としての財務政策(資源流出の防止)の実現の要請との調和といったあたりの問題になるのかもしれません。 そして現時点では、こういった考え方の違いというのは、議決権行使に関する代理権授与契約の法的性質論にも影響を与えるものなのかもしれません。(これは私の勝手な推測でありますが)また、最近は少数株主排除のために「TOB+略式組織再編」といった手法を用いて、株主総会を開催することなく少数株主を排除するスキームが流行しておりますが、この手法ですと、さきほどの「株主側からの情報提供行為」といったものが存在しません。素直に合併契約の承認総会を開催すれば株主の賛同が得られないのに、TOB+略式合併の手法を用いればスクイーズアウトできる・・・というのは、果たして妥当な結論なんでしょうか。そもそも、略式組織再編の手続きが合理性を持つのは、ある重大な企業の意思決定を行うに際して、(特別決議の要件を満たすのが明らかな)特別支配会社が存在するからであります。重大な意思決定を行うにあたって未だ特別多数を支配していない状態でTOBをかけて一般株主の意思と問うのとは大きな違いがあると思いますし、その「大きな違いがある」ことを証明してくれたのが、先のいちごアセットの事例ではないかと思います。(そう考えますと、やはりTOB+略式組織再編による手法は、どうもスキームとしては問題があるのではないかと考えますが、いかがでしょうか)
| 固定リンク
コメント