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2007年6月15日 (金)

カネボウ事件と株式買取請求制度

カネボウ事件(産活法に基づくMBO事例)につきましては、反対株主による株式買取請求に関する裁判(買取価格決定申立事件)のなかで、「鑑定のための予納費用」があまりにも高額(たしか2500万円でしたっけ?)なことに圧倒されてしまいまして、それ以来あまりフォローしておりませんでした。しかし、今週号の「東洋経済」(6月16日号)を読みますと、ずいぶんとたいへんなことになっているんですね。TOBに応じなかった一般株主の方々には、カネボウ側に「公正な価格」による買取請求を求める権利(ただし、本件では旧商法における「公正な価格」の解釈が問題となっています。)があるわけですが、その「公正な価格」の内容を巡って、日本でもたいへん著名な学者の先生方が、一般株主側、会社側それぞれに分かれて鑑定書を提出されているそうであります。

カネボウ側弁護士の方や、元産業再生機構関係者の方は「そもそも少数株主は、投機行為として株式を取得したにすぎず、排除されることもありうることを承知のうえで株式を購入しているわけであるから、やむをえないのではないか」といった趣旨の反論をされておられるようですが、そういった主張のレベルでありましたら、逆に会社側も、継続企業を標榜して株式を上場したわけでありますから、政策を変更して非公開の手法をとるのであれば、それなりの不利益を受けることもやむをえないといえそうなんで、あんまり説得的とはいえないように思います。また、少数株主を排除する決議に先立つTOBに多数の一般株主が応じた事実から「会社側の提示している162円という買取金額は、多数の株主の賛同を得たものであって、公正な価格であることは明らか」との主張につきましても、現実的には「強圧的」な手法であることは間違いないと思いますので、「多くの株主の賛同を得ている」ことの根拠にはならないと思います。むしろ、「公正な価格」といったものは、どういった根拠で、どういった計算方法を用いて算定すべきなのか、コントロールプレミアム帰属に関する根拠なども含めて論理的に判断されるべきものだと思われます。

ただ論理的に・・・と申しましても162円(会社側)と1578円(カネボウ株主側)とは大きな隔たりがありますので、裁判所がどういった計算根拠とその計算に斟酌すべき事実を採用するかは、非常に興味のあるところです。その裁判所が参考とするであろう商法学者の方々のお出しになった「意見鑑定書」が、双方に提出されておりますので、あのライブドア、ニッポン放送事件の頃を想起してしまいますね。配当還元法を基礎とすべきか、収益還元法を基礎とすべきか、あるいはそれ以外の方法も加味すべきか・・・といったいろいろな考え方が示されているようでありますが、記事だけからの印象(誤解があれば申し訳ございませんが)で気になりましたのは、TOBによって特別に支配的な株主が結果的に誕生して、上場廃止処分となった場合、その買取請求権行使の場面においては「公開会社の株価形成」を前提として判断するのか、それとも「閉鎖会社の株価形成」を前提とするのか・・・といった点であります。これは、ものすごく大事なポイントのように思えます。最初から特別支配権を有するほどに大株主がいる場合と、会社側がTOBを利用して「結果的に」大株主がいる状態を作った場合とでは、「少数株主」の意味が異なるのではないか、と思います。これは、この5月1日に施行されました会社法上の合併対価の柔軟化について、解禁前にその潜脱方法として利用されてきた全部取得条項付き種類株式や、株式交換契約を用いて少数株主を排除する企業再編の場合と同様の問題ではないでしょうか。たしかに、株式買取請求権が行使される「その時点」だけを捉えますと、閉鎖会社を前提とした株式評価方法が採用されるべきのようにも思えますが、TOBからの一連の「因果の流れ」として、少数株主が存在するものと考えれば、公開企業における株価算定方式が採用されるべきもののように思えます。(記事のなかに神田教授のご意見として「市場価格のない株式の評価方法としては・・・配当還元方式が理論的妥当性を有する原則的な方法」とありましたので、上記のような疑問を抱きましたので、誤解がございましたらご指摘ください)また、株式買取請求権が行使される「その時点」だけを捉えますと、そもそも支配権プレミアムといったものは少数株主には付与する必要はないのでは・・・とも考えられそうですが、TOBからの一連の流れを統合して考えますと、少数株主は配当だけに関心があるのではなく、その持分移転による支配権譲渡分も保証されねばならない、といった考えが妥当性を帯びることになりそうであります。

なお、この記事のなかで、上記のように双方で「公正な価格」算定に大きな開きがあるのは、業績予想、フリーキャッシュフローの成長率、資本コストなどの差に起因するものとされておりますが、昨日の経済産業省次官の会見スピーチにおける「企業価値とは」に関するご意見(無形資産こそ企業価値)や、「誰もそんなしんどい事業なんて買手がつかないよ」と言われていながら、誰かが手を挙げだしますと、あっという間に競売状態になっているコムスン事業一括譲渡の事例などを見ておりますと、企業価値算定、とりわけ公開企業の株式価値算定といったものは、何を基準に判断したらいいのだろうか・・・・・と悩むところであります。そういった株式算定根拠の不透明さを考えますと、こちらのブログのコメントでも指摘されているようなことが実際にも疑われるかもしれませんし、「不透明と疑われる部分」が公正であることの手続き的保証の程度や立証責任をどちらに転嫁すべきか・・・といったことも、この買取価格決定事件だけでなく、MBO手続そのものを争うような事件におきましても、裁判所は真剣に検討していかなくてはいけないのでは、と思います。(以上の内容は私個人の勝手な考えであります。)

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コメント

今日分かったのですが、カネボウの損害賠償請求事件ですが、最高裁で口頭弁論が行われたそうです。
これで、「何でも公開買付」とした高裁判決は変更される見通しです。
個人的には、請求そのものが維持されるのか、と言う点に興味を持っております。
http://blog.livedoor.jp/advantagehigai/archives/65484255.html

投稿: 山口三尊 | 2010年9月30日 (木) 22時32分

おひさしぶりです。

そちらのブログで内容を拝見いたしました。最近、こちらの事件はほとんどフォローしておらなかったので、頭が整理できました。(差戻しになるのですかね?私の予想ですが)

投稿: toshi | 2010年10月 2日 (土) 11時45分

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