ブルドック買収防衛策、その光と影
日曜日(6月24日)のブルドックソース株主総会で、買収防衛策発動承認の特別決議が可決され、事後の手続と方針に関する取締役会決議が公表されております。(開示情報はこちらです)土曜日のスティール代表と日経新聞との電話会見によれば、防衛策が承認されても仮処分申立事件は取り下げない、とのことでしたので、今週もしくは来週早めにも東京地裁で司法判断(新株予約権の割当差止めの仮処分)が下されるようであります。総会で8割を超す株主が防衛策導入に賛成した、との報道内容に触れますと、「なんだ、もう決着ついてるんじゃないの?」といった感覚になりそうです。ただ、そもそも私の感覚では「買収防衛策とは、発動するものではなくて、あくまでも交渉のための時間稼ぎの道具」だという認識を持っております。防衛手段を発動することは、あらかじめ決められた合理的な交渉ルールを相手方が無視するに至ったからこそ合理的に許容されるものである、と。もはや交渉する余地もない段階から防衛策を導入し発動する、といった対応は、たとえば刑法の世界でいうところの「正当防衛」の要件を満たさなければ違法性が阻却されないのではないか・・・といった素朴な疑問が湧いてきます。(毎度ながらの注意書きですが)以下は私の勝手な素人的判断に基づく見解でありますので、あくまでも「ひまつぶしの読み物」としてお楽しみいただければ幸いです。(あっでも、このブログを読まれている方が、月曜日の午前中から「ひま」なはずはありませんか・・・)
1 取得条項付新株予約権の無償割当は差止め対象となるか?
「買収防衛策の発動」といいますのは、具体的には会社法273条、同277条で新設されました取得条項付新株予約権の無償割当を行うことを指しております。ちょっとマニアックな論点かもしれませんが、おそらく法律のご専門家の方々は、この論点についてもご関心があるのではないでしょうか。以前、日本技術開発と夢真ホールディングスの仮処分事件のときには「株式分割による新株発行」が差止め対象となるかどうかが、論点とされましたが、あのときは差止対象にはならない(準用もしくは類推適用も不可)ということでした。このたびも新株予約権の無償割当が会社法247条の「差止めることができる募集新株予約権の発行」に該当するのかどうか、(もし該当しなければ被保全債権が存在しなくなってしまいます)という点がいちおう問題になろうかと思われます。私自身としましては、247条の制度趣旨や、日本技術開発事件の決定の射程範囲などの解釈から、このたびの新株予約権の無償割当も、247条の準用(もしくは類推)によって差止めの対象にはなりうるものと考えております。(ちなみに、日本技術開発事件のときには、私は早稲田大学の上村教授の意見書を拝読し、準用もしくは類推適用説に賛同しておりました)
2 適用される裁判所の基本的ルールは何か?
買付希望者がたまたま「スティール」だったから、本日の総会におきましては防衛策導入発動に8割の賛同が得られたようにも思えますが、これがたとえば内国法人の食品会社が、スティールと同様1700円のTOB提示額だったらどうだったのでしょうか?本来内国法人であれば友好的な提案から始まるとは思いますが、今回のような事態がまったく発生しない、とは言いきれないはずであります。誰もが「スティールでなく、競合もしくは関連食品会社だったら、企業価値判断といった観点から(今回とは)株主の意見を異にする可能性はある」と回答されると思いますが、おそらく裁判所というところは、生身の企業価値判断の世界へ踏み込むことはないと思われます。したがいまして、今回の仮処分の決定について、どのような結論が出るとしましても、「買付希望者の色(個性)」というものはあまり裁判所の判断のなかには出てこないのではないかと思います。もし仮処分申立が却下される場合に、それが「スティール」だから・・・という理由が出てくるのであれば、「グリーンメイラー」もしくは「濫用的買収者」である、といった判断に至るか、もしくは株主総会における特別決議で発動が承認可決されたという事実を裁判所が相当に重視する姿勢であるか、どちらかだと考えます。しかし、裁判所がズバっと、「スティールだから・・・」といった判断を下す可能性はかなり低いのではないかと私は予想しております。「会社を食い物にする」という判断はそもそも立証困難な事由ですし、、また株主の総意としての、現経営陣とスティール(もしくはスティールが呼んでくる別会社)の価値向上策への比較判断能力にもそれほど大きな期待は抱いていないと思われるからであります。むしろ株主総会で承認を得た、という事実は、現経営陣が保身目的で防衛策を導入発動するためではない、といった「主要目的」を認定する際の一事由にすぎないのではないでしょうか。ということで、裁判所としましては、「スティールだから」といった色メガネを抜きにして、「企業価値を向上させる買収者は適法に支配権を獲得できて、そうでない買収者には効き目がある買収防衛策の手続はどうあるべきか」といったシンプルな基本ルールを今回の事件に適用する可能性が高いと推測しております。そう考えますと、先日「ブルドック買収防衛策における素人的疑問」で書かせていただきたような、たとえば①平時導入、有事導入②買収者の経済的損失の補填問題③防衛策排除についての株主意見の反映④総会における導入発動への承認の有無など、オーソドックスな防衛策の仕組みに関する論点が「現経営陣の導入発動に関する目的」論と絡めて判断対象とされるように思われます。(今回の事件では、TOB価格変更はあったものの、経済的損失への補填、取締役の任期短縮、解任要件の緩和、そして本日の特別決議による承認といったところで、およそ②から④までの要件該当性をブルドック側はほぼ満たしたといえそうであります)
問題があるとすれば、やはり①の要件、つまり平時導入、有事導入といったあたりではないでしょうか。冒頭にも書かせていただきましたとおり、「正当防衛」つまり、とんでもない買収者が突然出現して、交渉もせずに土足で上がりこんでくる・・・といった事態であれば、交渉ルールがなくても、これを跳ね返して「企業価値を守る」ことこそ、経営者の義務であります。そのような事態であれば有事導入も問題ないと思われますが、証券取引法上のルールを最低限度守って交渉をしている買収者に対して、防衛策を発動する、といった事態は、逆に買収者側にはビックリではないでしょうか。上場企業には、買収防衛策を導入するかどうか、1年間の猶予期間が与えられたわけでありますから、防衛策を導入しないというのも、「支配のあり方」に関する企業の意思表示のひとつと考えられます。私は裁判所のルールとして、事前に買収防衛策をルール化している企業と、そうでなかった企業とでは、判断枠組みにおいても異なるものがあってもやむをえないのではないか・・・とも思います。それは単に「事前交渉ルールに則ったうえで交渉がなされたかどうか」といった問題だけでなく、対象会社側に「保身目的」が事実上推定されるものとしたり、「主要目的ルール」の立証責任が対象会社側に厳格に課されたり、といったような不利益が対象会社側の負担とされてもいたしかたないのではないか・・・とも思えますが、有識者の方々はどのようにお考えになるのでしょうか。(私としましては、裁判と向き合う当事者のスタンスとしては、スティール側は比較的ゆったりと構え、ブルドック側は一生懸命、防衛策の適法性を裁判所に訴える・・・といった図式が浮かんでくるのですが、このあたりはどう予想されるでしょうか)一般に買収防衛策を導入した企業は株価がいったん下落する、といわれておりますが、そういった洗礼を受けながらも、導入企業は株式価値の最大化に努力しているわけであります。買収防衛策を導入しない企業は、「うちの会社は、防衛策はいらない。株価向上のための努力をし、真の企業価値が時価に反映するよう努力することが最大の防衛策と考えている」と宣言されております。そうであるならば、これまでの努力の成果としての時価そのものが防衛策であるわけですから、(慌てて買収防衛策を導入するのではなく)買収者によるTOB価格との比較において素直に株主に判断してもらう・・・というのが、筋が通ったお話のように思えてなりません。
3 課税問題はどうなるのか?
これはなかなか難しい論点でありまして、私もいろいろと教えていただきたいのでありますが、まず発行企業(ブルドック)は新株予約権を無償割当するわけですが、無償割当による新株予約権の取得価額はゼロとされておりますので非課税取引として扱われているようであります。(所得税法施行令109条1項3号、法人税法施行令119条1項3号)そして今回は信託型ライツプランにおける新株予約権の発行とは異なり、取得条項付新株予約権の「取得」(つまり新株予約権を一般株式と交換する)ところが大きな問題になるわけですね。すべての株主に平等に新株予約権を割り当てるわけでありますが、そのなかで差別的行使条件が付与されているために、スティールの割当分については「取得」の対価が株式ではなくて、現金(23億円)になっているわけであります。みんなが「株式」を取得するのであれば、株式分割と同様、持分比率に変動はない(とみなされる)わけですから、課税繰り延べが認められて、万々歳ということだと思いますが、スティールの持分については取得の条件として株式が交付されないために、株主間に持分変動が生じます。つまり、スティール以外の一般株主には「配当」が付与されたのと同様の経済的利益が生じますから、「取得」の時点で課税されるのではないか・・・といった問題が生じるわけであります(そうですよね?)。ところで、株主間に不平等が発生しないように、つまり「他の株主に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」には、課税繰り延べを認める・・というのが平成18年度の税制改正事項として規定されておりますので、(司法判断における有利さのためだけでなく、「ほかの株主にも損害を及ぼすおそれがない場合」といった課税上の問題点もクリアするために)ブルドックはスティール側に23億円での「取得」を決めているわけでありますが、ただこの23億円はブルドック側としては「特別損失」として計上しなければなりません。(一般株主側からの)新株予約権の「行使」であれば資本等取引という扱いとなりますが、新株予約権の取得や消却にあたっては、資本等取引とは認められず、あくまでも損益取引として扱われます。つまり自己新株予約権の取得につきましては、これを株式で取得する場合には資本等取引として認められるわけでありますが、現金取得の場合には損益(負債?)として計上しなければならないわけですね。しかしそうなりますと、やっぱりスティールの持分損失をブルドックが現金でカバーした分は、結局(スティールは持分の希釈化を23億円で補填されたものにすぎず、損得はありませんので)一般株主にブルドック側から現金配当したのと実質的には同じことになりませんでしょうかね?(スティールに割り当てられた新株予約権について、譲渡の機会を与えて経済的損失を填補させるといった扱いではなく、ブルドックの費用において、23億円の現金で取得する、といったスキームを選択したことから「やっかいな」問題が発生しているものと考えればよろしいのでしょうかね?)本日現在、まだ課税当局より一般の株主に特段不利益となる課税関係が生じない旨の回答を得られていない、とのことでありますが、本日のブルドックの開示情報のなかでは、このあたりがもっとも悩ましい問題のようにお見受けいたしました。また解決のおりには、お詳しい先生方ののブログででも、わかりやすい解説をぜひ期待しております。
(追記)メールでのご指摘により、若干修正をしております。
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コメント
前に買収防衛策をルール化している企業とそうでない企業への司法側の判断基準ですか。
極論すれば、いかに保身目的をうやむやにするかの議論となるのでしょうか(私見ですが)。
先生の議論にはいつもながら敬服いたします。介護問題から会計や内部統制問題まで・・・。
年齢が接近している方とは思えません(非常勤講師なされている大学の学部をH3年に卒業したものです)。
あと、先生のブログにリンク貼り付けしていただいたおかげで、アクセス数が増加傾向にあり、御礼申し上げます。
現在、スパム防止のため、ブログ運営会社に登録された方以外の方と通信する機会もなく、地味に更新しております。
大義名分は別として、買収防衛策そのものが、保身目的であることが臭うマターであることは明白ですね。この「保身」についてもう少し選択肢があってもいいような気がします。
すみません、本論とは異にしますが。
企業再生の場合、なんだかんだ言っても、最後は社長の背中をメーンバンクが押す構造があり、再生ファンドやスポンサーも結構、オーナーの処遇は気を使っていました。例えば、顧問としたり、とりあえず、第一回目の役員には就任しないものの、次の総会で代表権のない取締役に復帰するとか、それをM&Aのディール交渉で債権者とは裏取引をしていたりとか、再生弁護士先生方の恐るべしテクニックを拝見させていただきました。
北朝鮮問題も結局は将軍様への気遣い次第ですし。
こういった最後の砦(ここでいう「砦」は経営的に行き詰ったことで今回とはまた違いますが)への戦略的配慮も必要な気がします。
つまり、買収防衛策にゴールデンパラシュートを容認する、役員退職金の奨励や役員報酬の引き上げ等です。
買収され、取締役を放逐され、「タダの人」 になるリスクが大きすぎる割には、たいした役員報酬を請求できない日本社会では、欧米以上に過剰な防衛策に走りがちです。役員の再就職も困難ですし。
霞ヶ関の役人には天下りがルール化され、正当化されようとしています。
株主価値や企業価値を置き去りにしていたではないか? と言っても、一定の功労は認めざるを得ませんし、それこそコンプライアンス、会計の透明性、企業価値の向上、株主代表訴訟まで、数年前とは経営者リスクは大きくなっています。
これでは 「社長・役員は損な役目ではないか?」 と思われても仕方ありません(ジャック・ウエルチあたりは、やりがいを与えることが一番のインセンティブといっていますが、日米ではディレクター・一般役員の報酬格差も相当あります)。
保身へのパラシュートや適正な役員報酬の議論など取締役の「権利」についても幅広い議論が繰り広げられるとフェアな気がします。
(最も、今まで企業を私物化してたではないか? というご反論もあるでしょうが)
ブルドックについては、法律で勝利して、経営で敗北する、と思います。つまり、計画案は頓挫し、株主から改めて責任を問われる日が来るはずだと感じざるを得ません。私見です。
toshi様
「当初の上場制度総合整備プログラム2007」の8ページ
http://www.tse.or.jp/rules/seibi/2007program.pdf
および上場制度整備懇談会中間報告(こちらの方がわかりやすいです)
の19、20ページあたり
http://www.tse.or.jp/rules/seibi/houkoku.pdf
複数議決権株式スキームがとりわけ注目されているようです。
誰もあまり言わないので、少し自信がないのですが、太田洋氏(西村ときわ)の三角合併セミナーで言及されていたので本物だと思います。
投稿: katsu | 2007年6月26日 (火) 00時22分
toshiさん、はじめまして。東京の同業者です。(会社法務AtoZの7月号で先生のブログが紹介されておりましたね。)
司法判断が下される、とのことでありますが、私も結論は別にして、どういった理論構成で裁判所が防衛策発動に対処するのか、非常に注目しています。
スティール=「濫用的買収者」?
発動承認の特別決議可決が決定的な理由?
多数の賛同=防衛策不要?
有事導入=防衛策不可?
平等原則違反=防衛策不可?
toshiさんが指摘されているように、いろんな理由が考えられますが、toshiさんとは違って、私は他の事案にも一般化されるような判断理由によって結論を下すことはないと考えています。アドバイザーの西村ときわ(もうすぐ「西村あさひ」ですが)側としては、スティールがまったく経営に関与するつもりがない点を捉えて「濫用的買収者」であるといった方向で主張を組み立てているようです。toshiさんのいわれる「正当防衛の要件該当性」ですね。ですから、裁判所も濫用的買収者の認定をすることで、これまで導入されている他の会社の防衛策への影響が極力でない方向で検討されるのではないでしょうか。特別決議による承認は、濫用的買収者の認定との「併せ技」として重要な判断事由になると思いますよ。
投稿: 萬代 | 2007年6月26日 (火) 01時59分
山口先生
ちょっとお邪魔します。
企業価値の優劣について争っても司法は判断しないよ、と言っていたニッポン放送の頃からの裁判所の考え方は、私見では合理的な「アプローチ」と考えています。証拠に基づく判断を基礎とする司法判断において、どちらが企業価値をより高めるか、言って見れば将来に向けての価値創造力を判断せよ、ということを求めても、なかなかうまくいかないように思います。言って見れば、過去の事象を立証することは訴訟に適合的でしょうが、将来の事象を裁判でどうやって白黒つけるか、なかなか難しいのではないか、という素朴な疑問です。
(企業価値研究会などの方向性について、企業経営者に「企業価値増大」を考える契機をもたらした点で大きく評価されるべきと思っていますが、司法判断の基準としては困難を強いるのではないか、とずっと思っています。あくまで私見ですので、異論があれば検討したいと思います)
次に、株主が経営方針についての情報を提供しなければならない、という現在の事前警告型の防衛策のあり方について、裁判所がどういう考えを示すか、興味を持っています。私見では、それこそがまさに経営陣の下すべき判断であり、それを大量買付け行為をしようとする者に示せ、というのはどうも筋違いではないか、という見方もあると考えています。もちろん、すでにそういう方針を持っている買収者もいるでしょうし、その場合にはその情報提供を求めることにも、一定の意味はあるでしょうが、それを提供しないものをどうして濫用的と認められるのか、私にはよくわかりません。どうしてその方針を示さないと株式が買い付けられないのか、どうもよくわからない、というのが正直なところです。
そういう理屈よりは、むしろ端的に、買収提案があった場合にも、応じる義務がそもそも会社にはない、といってしまえばいいのではないでしょうか。会社が経営方針を定めて経営しているところに買収者が来た場合、ユノカルが言っているのは、会社の「経営方針」への脅威であったように理解しているのですが、これがなぜか企業価値への脅威、と日本では議論がすりかえられてしまっている(おそらく意図的)のではないか、と疑問に思っておりました。偉い方々が、相当な深謀遠慮で、ユノカルとは厳密には違いがあることを認識しながら、こういうレトリックを考え出したのだろうと思いますが、インサイダーの議論に参加していない者ゆえ、素朴に疑問を抱き続けています。
上記諸疑念に対して、一定の回答が、今週・来週あたりに示されることを期待しつつ。
東京からは、なかなか先生の楽しそうな会合には参加できず残念ですが、東京に来る際はご一報を。
投稿: 辰のお年ご | 2007年6月26日 (火) 02時27分
感想のみいくつか・・・
買収され、取締役を放逐され、「タダの人」 になるリスクが大きすぎる割には、たいした役員報酬を請求できない日本社会では、欧米以上に過剰な防衛策に走りがちです。役員の再就職も困難ですし。
→経営の失敗のおかげで、従業員はある日いきなり解雇され、依願退職させられ、賞与がなくなります。経営者の身分の安定性のみを重要視するのは、冷酷かつ傲慢な権力者への迎合で検討に値しません。
経営に関与するつもりがない点を捉えて「濫用的買収者」である
→経営できる第三者が見つかれば、濫用とは言えない可能性が残されています。
特別決議による承認は、濫用的買収者の認定との「併せ技」として重要な判断事由になる
→株主平等の原則は、特別決議でくつがえすことができるような性質の権利ではないと思います。
敵対的買収者におびえる会社関係者は、次の点を認識しましょう。
①買収者の選択肢は、会社が高値で買い戻さない限り、自分で経営するか第三者に高値で買わせるしかない
②敵対的買収の際は、株価が通常の2倍近くに高騰しており、この価格で購入する経済的合理性はほとんどの場合に存在しない
③買収者であれ第三者であれ、経営のために購入した場合、平常時と高騰時の株価の差を「のれん代」として将来負担する必要がある。大多数の事例では、これを吸収できないので、ダイムラーベンツのクライスラー買収の結末にあるとおり、壮大な失敗と無駄に終わることが多い。
⇒敵対的買収は、会社が冷静に対処=買戻しを拒絶すれば、買収者が自滅するだけです。あなたの会社を、まともな第三者が通常の株価の倍額で購入するでしょうか???
(感情や恐怖から離れて冷静に考えれば、合理的に解決できる問題です。)
投稿: unknown | 2007年6月26日 (火) 08時10分
皆様、コメントどうもありがとうございます。
私は辰のお年ごさんの意見にかなり近い感覚を抱いているのでありますが、一点だけ考えたい点がございます。
(辰のお年ごさん 曰く)
言って見れば、過去の事象を立証することは訴訟に適合的でしょうが、将来の事象を裁判でどうやって白黒つけるか、なかなか難しいのではないか、という素朴な疑問です。(引用おわり)
私も同感なのですが、しかしながら現実には株式買取請求権に基づく株式価格決定申立事件というものが行われており、そこではかなり将来価値まで見据えた価格評価などが裁判所で議論されているのではないでしょうか?また、裁判所も過去においていくつかの価格算定方式の総合判断によって公正価格の算定を行っていると思われます。もちろんこれは商事非訟事件ではありますが、こういった制度が存在する以上は(私的には)裁判所が「企業価値判断」から逃れられないことを示しているのではないか・・・との疑念をぬぐえません。それとも「公正な株価算定」と「企業価値算定」とは別個のものと考えたらいいのでしょうか。このあたりはどのように考えたらよいのでしょうか。またお時間のあるときで結構ですので、お教えいただければ幸いです。
投稿: toshi | 2007年6月26日 (火) 11時41分
山口先生
鋭い突込みをいただきましたが、「証拠に基づく判断を基礎とする司法判断において、どちらが企業価値をより高めるか、言って見れば将来に向けての価値創造力を判断せよ、ということを求めても、なかなかうまくいかないように思います」という文とあわせて考えていただくしかないですね(苦笑)。株価算定と企業価値の算定がどういう関係になるか、最近の事案で裁判所の判断がこれからどのように示されるか、見守っています。回答になっていませんが、いろいろ論点が絡んでいるので改めてその節に。
ただ、株式の価値を考える際、将来キャッシュフローの現在価値を考える以上、根源的には将来の事象を(各種仮定を設定したうえで)算定しているのはたしかでしょう。ただ、裁判所は自らは判断せず、ある時点での株価を将来予想を含めて、どのような価値と見るのが「公正な」価格となるか、規範的な判断をしているのだと思います(上記事案での考え方が示されたところで、再度議論したいと思いますが)
しかし、企業価値基準でいうように、企業価値を高める買収が良い買収で、そうでないものが良くない買収であり、裁判所にどちらの経営が企業価値を高めるといえるか、の判断を求めるような争い方(例えば、ニッポン放送事件でのそれ)は、DCFなどの場面と同じようなアプローチだったのでしょうか。どうもそうは思われませんが、どうなのでしょう?そうやって考えると、そもそも、企業価値基準とは、どういうアプローチなのでしょうか。どうもよく分かりません。これを支持する学者、実務家の方に、もう少し踏み込んで議論して解説いただきたいな、と思っています。
B社の件では別の論点での判断になるでしょうが、将来この点を論点の中心にすえた争いをする企業が出てくるのか、興味があるところです。いずれにせよ、B社の件で裁判所の判断が示されたところで、また先生のエントリがあるのを楽しみにしています。
投稿: 辰のお年ご | 2007年6月27日 (水) 00時41分
B社の件につきましては、決定の帰趨を含め、さまざまな議論がなされているようですが、買収防衛策の有効性について最終決着がつくようなものにはならないかもしれませんね。たとえば特別決議が必要なのか、それとも普通決議で足りるのか、とかいろんな疑問点は残しつつ、事案解決型の判断理由が付される可能性もありそうです。(私自身は、もうすこし今後の防衛策のあり方についてモノサシになるような決定が、地裁、高裁を通じて出てほしいと願っているのですが)
私自身も、たいへん関心をもって見守ることといたします。
投稿: toshi | 2007年6月27日 (水) 01時36分