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2007年6月23日 (土)

上場企業の執行猶予制度

本日(6月22日)は福岡ドーム横のJALシーホークホテルにて日弁連の司法シンポジウムが開催されましたので、そちらに参加しておりましたが、その後私用のために私の生まれ故郷であります福岡県大牟田市に来ております。実に27年ぶりに「新栄町」に降り立ちましたが、全国どこの中堅都市とも変わらぬ駅前風景(ネオンが輝くのは消費者金融の看板ばかり)に変わり果ててしまってたいへん寂しい思いであります。決して活気がないのではなくて、いわゆる国道沿いの郊外型大型店舗が、ここ大牟田にも乱立しているようでして、駅前の衰退は必然なのかもしれません。楽しい思い出の詰まったこの元炭鉱都市ではありますが、ここで育ててくれた祖父、祖母、そして両親も、いまは皆他界してしまい、ここで誰との接点もなくなってしまった現実も、寂しさの一端になっているようです。ただ、「たったひとつだけ」この町との「接点」が残っておりまして、明日そこへ向かうことを楽しみにしております。

さて、東証は市場1部および2部に上場している企業に対して、「グレー企業」を移す「特設注意市場」を創設する方針を固めたそうです。(毎日新聞ニュース)これは今年4月に公表されております上場制度総合整備プログラム2007におきましても、「直ちに実施する事項(第一次実施事項)」として掲げられておりましたので、少数特定者の持ち株比率に関する上場廃止基準の変更等とともに、概ね実施が予想された内容であります。私は今年3月に日興CGの上場維持決定と題するエントリーのなかで、日興のような会計不正が発生した場合に、「維持」か「上場廃止」かといった二者択一の選択肢だけでは、不正発覚後の自立的な内部管理体制の向上へのインセンティブが生まれないとして、「執行猶予的な制度があったらいいのではないか」といった感想を書かせていただきましたが、まさに今回の「特設注意市場」の場合はそのような制度に近いものだと思っております。いったん「特設市場」に移管されたとしましても、内部管理体制の構築へ企業自身が努力することによって再び特設注意市場から元の市場に復帰できることになると思われますので、不正発覚後の自助努力が報われる制度として機能するのではないでしょうか。ただし、この制度が有効に機能するためには、新たに創設される東証の自主規制法人の運営にも依拠するところが大きいようにも思われます。

ところで、先の上場制度総合整備プログラム2007のなかで、内部統制報告制度との関係におきましては、東証上場企業が監査人による「適正意見」を受理できなかった場合であっても、ただちに上場廃止処分とするわけではない、と明言されているところであります。しかしながら、おそらくそれは「維持」と「廃止」の二者選択を前提とした場合の考え方であって、このような「特設注意市場」が創設された場合には、どのような取扱を予定しているのでしょうか?たとえば監査人による「意見不表明」の場合で、財務諸表監査においては「適正意見」を受理した上場企業のような場合とか、企業自身が「重要な欠陥があり、期末までに修復されていない」といった内容の開示を行ったケースなど、いろいろな事態が考えられるわけですが、そういった内部統制の評価監査において、問題のある上場企業については、上場管理行為の一貫としまして、この「特設注意市場」への移管といったことも検討されるのでしょうかね?

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コメント

はじめまして。
コメントは「はじめまして」ですが、以前から読ませていただいてました。(失礼ながら勝手にリンクも貼らせていただいてます)
法務に関しては全くコメントできる立場ではありませんが、先生が大牟田出身と書かれていることに親近感がわき、おもわずコメントしました。
27年ぶりであればかなり変わった街に寂しさを感じられること理解できます。
私、社会人になって25年福岡市内在住で、月に一度実家に帰省しています。それでも街の変化に寂しく思っています。父など自分が年寄りであることを棚に置き「大牟田は年寄りばかりになってしもた」と言っています。

法律って難しい言葉が多すぎて拒否反応がありますし、小企業勤務なので高度なビジネス法務は必要ないのですが、信条が「知らないより知っているほうがよい」なので、先生のわかりやすいエントリーに興味を持って読むようになりました。私が理解できているかは別ですが・・・(苦笑)

今後も法務に関してはコメント出来ないと思いますが、同郷の読者が一人いるとお見知りおき下さいませ。

投稿: 兄貴 | 2007年6月23日 (土) 07時52分

>兄貴さん

はじめまして。コメントありがとうございます。
大牟田ガーデンホテルという立派なホテルはあるものの、周囲にはなにもなく、閑散な雰囲気に驚いております。きょうのエントリーにも書かせていただきましたが、昔にぎやかだった大牟田のシンボルである「松屋デパート」も「井筒屋」もなくなってしまったんですね。きれいな映画館さえ閉鎖されており、兄貴さんがおっしゃるとおり「お年寄りの町」になってしまったようです。
でも、これを機会にまたときどき大牟田に来ます。

また通常エントリー(?)のほうにも、どうか気軽にコメントください。今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2007年6月24日 (日) 02時20分

上場企業の不正発覚問題は深いですね(上場でなくとも最近の北海道のコロッケ問題とかありますね)。見つかれば「組織ぐるみ」か「管理がずさん」とお決まりのマスコミフレーズを浴びせられますし。

個人的にTV局の内部統制はどんなものか関心があるのですが…。
冗談はさておき、90年代後半の公開基準緩和のときにセットで論じられていなかった(ような記憶がある)ことと、上場支援産業が甘やかすことにも問題があるような気がします。

まったくの私見ですが、「上場制度整備プログラム」に新規IPO企業に限り種類株式の導入を認める方向性で議論することになっています(グーグルみたいなものですね)。
私は東証自ら上場の際に導入するのではないか?と勘くぐっています。このまま上場するとNASDAQあたりに買収提案されそうです(注:現在NASDAQはロンドン証券取引所に敵対的買収を仕掛け、ロンドンに逃げられています。ロンドンは先日イタリア証券取引所を買収し、体力をつけてNASDAQに対抗しています。このほか証券取引所や先物取引所などの合併や統合が世界レベルでは活発ですので)。

投稿: katsu | 2007年6月24日 (日) 11時32分

東京大学大学院准教授のご意見
「誰も完璧ではない」
http://www.asahijobplatz.com/column/?id=345
事件が起きると、識者と呼ばれる人々や公的機関が口をそろえて、教育がなっていない、〇〇が悪いと言う。不安になると誰かを締め上げていく悪循環が、加速度的に高まってきています。

マスコミも、やたらに不安をあおり、悪者を探すような報道をやりすぎてはいないでしょうか。私たち国民の一人ひとりは、年齢や立場に限らず、毎日をそれぞれ懸命に生きているまともな人間だということ、実際にそう思うし、社会認識としてはそういう前提から始めるべきです。

自分は安定した高みにいて、経験の少ない人をバッシングしているだけでいいのでしょうか。いじめの問題も、この社会の現状がそのまま子供社会に反映しているのでしょう。まず他者へのバッシングをやめる。それを大人から始めなくてはなりません。

現在のキャリア教育と呼ばれているものは、「人間力をつける」とか、心のあり方論、道徳論に堕しがちですが、そうではなく「実質的な武器になる知識とスキル」と、厳しい条件の中で適応しつつも、理不尽な扱いには真っすぐに「変だ」と言える力。この二つを持たせて社会に送り出してあげたい。

>>>>>>>>>>
失われた10年の間に荒れ狂った制裁・厳罰化祭りの後で、ようやく良心的な意見がでてきました。

投稿: バッシングを終わりにしよう | 2007年6月25日 (月) 07時45分

>katsuさん

種類株式専用の市場が創設される(たとえば伊藤園)という話は先日新聞に出ていましたが、IPOに限って種類株式を発行できる・・・というのは一般の市場で、ということなんでしょうか。会社法のもっとも「奥が深い」ところですよね。税務もある程度わからないと活用の可能性が理解できないといったところでしょうか。
上場支援産業の功罪といったところは、実は私の最近もっとも関心のある分野でして、また今後はこのテーマのエントリーが増えると思います。どうか忌憚のないご意見をお待ちしております。

>パッシングさん
ご紹介ありがとうございます。これも興味ある話題です。このブログでも何度かこういった話題を提起したことがあるのですが、反対意見が多くて、認識を新たにしたような次第です。でも、基本的にはこの教授の考え方に私は賛同いたします。バッシングの前に人間の弱さを見つめて、そこから不祥事防止策を共有する方向性に共感をおぼえます。

投稿: toshi | 2007年6月25日 (月) 20時06分

その「重要な欠陥」ですけどね。

専門の先生によっては「普通の会社ならまず必ずある」と言うんです。
定量的ではなく定性的なもの(例えば組織、教育制度、そしてIT等)
になると、
期末までに容易に解消されることは難しい場合もあるでしょうから、
イメージとしては上場企業約3700社のうち2000社ぐらいが
何らかの「重要な欠陥」がある、ということになるかもしれない(?)。
とにかく我々事業者は「虚偽の報告」と判断されることだけは避けなければ
なりませんので、「これはヤバそうんだなー」と思ったら(会計士と相談
のうえでしょうけど)とりあえず「重要な欠陥にしとこかな」と
いうふうになってしまいそうだし、
腰の引けた公認会計士らはそれを勧めるでしょう。

(どうやらこの辺は、ようやくはっきりしてきました)


まあ、だいたい「欠陥」ではなく「弱点」と翻訳しておけば
よかったんですけどね。

経営者は「うちの会社に重要な欠陥がある」と言われる、と言うか、
自ら報告するわけですが、日本語としての「欠陥」という言葉が
あまりに重いがゆえにパニックになるひとも出てきそうです。
さりとて虚偽表示は怖い…。


冗談で言うんですが、この法律の執行停止って出来ないんですかね。
行政訴訟になるのかな?
役所と法体系の「内部統制システムの不備」が
その理由ですよ(笑、えない。泣きたい…)。
役人って自分の職務で過ちがあっても(犯罪は別ですが)
刑法の対象外?ですからね。

投稿: 機野 | 2007年6月26日 (火) 13時39分

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