東京地裁、ブルドック防衛策発動を認容(速報版)
決定内容は不明でありますが、どうやらブルドックソースの買収防衛策発動差止めの仮処分事件について東京地裁が決定を出したようであります。スティール側の差止申立を却下した、とのこと。(私のブログへお越しの方々は、元公安調査庁長官の「詐欺」容疑での逮捕だとか、株主総会ネタとか、公認会計士試験の結果とか、そっちのほうが関心が高く、ちょっとこちらは関心が薄いのかもしれませんが・・・・・とりあえず速報版です)
ロイター通信の情報から要約した決定理由は以下のとおりです。
1)ブルドックが株主総会の特別決議で新株予約権の発行の承認を得たため、株主の意思が反映されているほか、ブルドックがスティールに割り当てた新株予約権を買い取る際、対価を払い経済的利益が平等に確保されているため、株主平等原則に違反しない、2)株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、買収によって企業価値が損なわれるかの判断は原則として株主総会に委ねられるべき。スティールが買収後の経営方針やエグジット(投資回収)の方針を明確にしないことで対抗措置を実施すべきと、株主総会が判断したことは合理性に欠くとは言えない
決定内容を正確に読まなければなんとも言えないところもございますが、「ブルドックだから」却下されるべき・・・といった理由ではなく、買収防衛策発動の適法性に関する基本ルールが示された・・・といっていい内容のような。おそらく「濫用的買収者だから」といった内容ではなくて、株主総会の判断に「企業価値判断権限」の基礎を置きつつも、双方の交渉過程を斟酌して「株主の判断の合理性」について検討を加えるといったあたりは、裁判所の判断に関する基本的ルールを示した・・・といってもいいのかもしれません。(もし、どこかで「決定全文」を読めるWEB等ございましたら、おそれいりますがどなたかご教示いただけませんでしょうか?)
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コメント
おはようございます。
いつも拝見しています。
なかなか素晴しい決定だと思いますし、特別決議の存在を株主平等原則違反の有無と関連付けているところは斬新と思われます。ただ、まだ抗告審でどうなるかはわかりませんね。先日の楽天とTBSの会計帳簿等閲覧仮処分も、地裁と高裁で大きく理由が異なりましたし。
投稿: nonomura | 2007年6月29日 (金) 09時41分
従来から、一部の株主に対する有利な新株発行を、株主総会の特別決議=3分の2以上の賛成で決議することができました。
一部の株主への有利発行は、他株主の持分全体に対する割合を薄めるので、権利の侵害となります。また、株主平等の原則から見れば、やや変則的な取扱いです。しかし、特別決議があれば、一部株主の有利取扱いは、資本多数決の原則により正当化できると理解しているようです。
その意味では、今回の決定も、会社法のこれまでの新株の発行等に関する考え方の確認又はその延長線上だと思います。
10年以上前から、会社法務に関しては、戦略法務、予防法務など、掛け声だけで内容は何の代わり映えのしないものを、わざわざ手を変え品を変え話題を提供しているだけのように感じます。
(財務報告に係る内部統制ルールとそっくり・・・)
投稿: 当然の決定 | 2007年6月29日 (金) 10時31分
特別決議は万能なのか?
主義主張など未成熟な株主が混在している株主総会の特別決議で、一株主を排除できる力が本当にあるのかが疑問。
株主総会はプリンシパル(株主)によるエージェント(取締役)の経営方針などの採択の場であり、(エージェントが先導しているとはいえ)決してプリンシパル同士のやりとりの場ではないと思うが・・・。
投稿: 648 | 2007年6月29日 (金) 11時13分
失礼します。素人の質問ですが、
スティールに23億円が支払われるために、その経済的損失が回復されることが平等原則違反にならないといわれています。このままスティールがTOBを取り下げずに、23億円を受け取って、その23億円でまたブルドックの株を買い集めたらどうなるんでしょうか?計算上では、また現在と同様の株を保有できることになるのではないでしょうか?そうすると、ブルドックはまた買収防衛策を導入することになるのでしょうか。
投稿: @大阪南 | 2007年6月29日 (金) 16時56分
スティール・パートナーズは、当初株式を購入した時の割合より、新株発行後はそれにより薄められた割合での対価を受け取ることになります。
スティール・パートナーズが、この金額を元手に株式の再取得を図れば、株価が変わらないことを前提とした場合、同一金額ではより少ない割合しか所有できません。
ブルドックが再度買収防衛策を実施したら、この繰り返しとなります。
つまり買収側は、元手となる金額が同じなら、いつまで経っても買収できないことになります。
投稿: 当然の決定 | 2007年6月29日 (金) 18時30分
>当然の決定さんへ
すいません、回答していただいてありがとうございます。
>スティール・パートナーズは、当初株式を購入した時の割合より、新株発行後はそれにより薄められた割合での対価を受け取ることになります。
スティール・パートナーズが、この金額を元手に株式の再取得を図れば、株価が変わらないことを前提とした場合、同一金額ではより少ない割合しか所有できません。>
とのことですが、この防衛策発動によっても、スティールは約3%の株式持分比率は有しているわけですよね。そのうえで23億円分の株式を再度取得しても元の持ち株比率には届かないのでしょうか?(TOBでどれだけ集められるか、ということは別として)そうであるなら、裁判所が認定しているような「経済的な損失の補填」にはならないのではないでしょうか?再度同じ持分を保有できるだけの金額を補填するからこそ、株主平等原則に違反していないということだったのではないのでしょうか。
>ブルドックが再度買収防衛策を実施したら、この繰り返しとなります。
つまり買収側は、元手となる金額が同じなら、いつまで経っても買収できないことになります。>
ということですが、たしかに買収防衛策を繰り返せば買収は困難かもしれませんが、毎度毎度、繰り返していれば実質的な会社財産の流出(特別損失計上によって、一般株主へ資産が流れる)も繰り返されてしまうことになるわけですよね。防衛に要するアドバイザリー費用も膨大なものになるでしょうし。そうすると、規模の大きなファンドなどであれば、ホワイトナイトが登場するまでゆさぶりをかけることは容易と思うのです。
投稿: @大阪南 | 2007年6月29日 (金) 19時05分
現時点ではなく、スティール・パートナーズが株式を買い集めた時点と比較して、再度同じ持分を保有できるだけの金額を補填することにはならないでしょう。(買い集めの時点で株価が漸次高騰していることを考慮しています。ご指摘のとおり、現時点だけで判断するなら、スティール・パートナーズに損害が発生しないような価格設定です。)
資本取引(増資など)は、個々の株主の持分割合の増減の問題であり、会社の収益には直接関係しないと一般的には説明されます。
株価100円の株式を1円で発行しても、会社は損をしません。
本来入ってくるべき99円が入ってこなかったとの反論が一応は考えられますが、その損失は持分割合が薄くなった他株主が負担します。なぜなら、会社の総資産=株主の資産であるので、その持分の増減に過ぎないからです。一方、株式はもともとただの紙切れですので、いくらで発行しようが損を出すことはありません。
少なくとも、買収防衛策の実施により、会社の手持資産は株主に1円たりとも流出しません。
投稿: 当然の決定 | 2007年6月29日 (金) 20時02分
総会の特別決議があった、株主の80%から防衛策の導入を承認されたということで、総会決議の適法性に少しも疑問を持たない前提で多くの議論がなされているようです。総会に出席し議決権を行使する株主は、3月末の基準日現在の株主です。6月24日の総会までに3ヶ月も期間が開いており、その間のブルドックソースの売買高のボリュームには相当のものがあります。ということは、基準日現在の株主と総会日現在の株主にはかなりの数の入れ替わりがあったはずです。総会で議決権を行使する株主の中には、すでに総会日現在では株主ではなくなっている人もいる、株主でもない人が議決権を行使して特別決議がなされているにもかかわらず、買収防衛策の適法性が高まった、そして即日に新株予約権の無償割当の取締役会決議が行われている。また、買収者には経済的損失を与えないスキームなので株主平等原則には問題がない、ということで妥当な決定と評価する意見が大勢のようです。
toshiさんのブログでは、根源的な疑問を感じて論じるというスタンスがあるようですので、少しだけお邪魔して横槍を入れたいと思います。
上記のように、基準日現在の株主と総会日現在の株主には相当の入れ替わりがあるにもかかわらず、すでに株主ではなくなっている人が総会で議決権を行使し、総会日後の株主に大きな影響を与える決議がなされた。
この点に疑問を抱きませんか?すでに株主でない人によって投票される総会のあり方を合法とする会社法のあり方には大きな欠陥があるようです。総会日現在に株主ではないということであれば、その議決権行使をさせてはならない、総会日現在に株主となっている人は、総会決議が大きな影響を与えるので議決権行使を認める、というのが合理的な考え方だと思います。
現在の基準日制度と株主総会決議のあり方は、何か変だなと思いませんか。
ちなみに申し上げますと、大人社会の英国では、総会前の48時間以内の株主に議決権を与える、しかも総会日現在に株主ではなくなっている人には議決権行使は認めない、逆に株主となった人には議決権行使を認める、という制度になっているようです。大変に合理的な考え方だと思います。
現在の法曹界で活躍しておられる方々は米国のロースクール留学組が大勢で、そして日本法も米国法型になってきています。英国法の研究者の発言権がもう少し強くなればいいなと期待しているところです。
次に、買収防衛策のスキームに関する疑問です。買収者に割り当てられた新株予約権を会社が現金にて買い取るということと、株主に対する利益供与の問題をどのように整理するのでしょうか。会社側には、会計処理上、特別損失が生じる、これを逆に言えば、特定の株主に利益供与した結果の損失、というようには考えられませんか。
まだまだ数多くの論点がありそうに思えます。
投稿: シロガネーゼ | 2007年6月30日 (土) 08時14分
@大阪南さんの「スティールがTOBを取り下げずに、23億円を受け取って、その23億円でまたブルドックの株を買い集めたらどうなるんでしょうか?」という設問は、極めて興味ある鋭い質問と思いました。
理論からは、他の株主は無償で新株予約権を保有しているから、実質的に株数は、その時点で4倍(厳密には10%強のスティール分は新株予約権が発行されないから、4倍弱ですが)になっている。結果として、株価は1/4に下がっているとなります。
しかし、現実のマーケットは、新株予約権の無償発行で直ちに1/4に下がるかどうかは不明であり、その時のブルドック株価でおもしろい現象も発生するのではと思います。例えば、じょじょに下がると予想するなら、スティールが保有株を売却して、ブルドックのディールを手じまいすることもあります。この場合、当然スティールは、さらなる利益を得るわけでブルドックのディールは成功と評価できると思います。もともと、スティールは、ブルドックTOBの目的を経営が目的ではなく投資による利益が目的と言っていたのですから、短期的な投資に終わったかも知れないが目的達成ではないでしょうか?(最も、スティールの観点から、本ディールをブルドックと見ずに、日本マーケットと見たならば、長期的にも大きな勝利とも言えるのではと感じました。)
投稿: ある経営コンサルタント | 2007年6月30日 (土) 11時02分
>シロガネーゼさん
どうもおひさしぶりです。詳細なご意見ありがとうございます。
基準日の点につきましては、債権者側も主張されていたようで、決定書の33ページで東京地裁は主張を排斥すべき理由を述べております。会社法の基準日と議決権行使の規定(124条1項、2項)に沿ったものであって、なんら違法ではないというものであります。「現在の株主の意思をできるだけ総会決議に反映させる」という趣旨であれば、シロガネーゼさんがご紹介されている英国方式のほうが合理的な制度のように思います。ただ、たとえば総会というところが「総体としての株主意思の合意形成のための討論の場」と考えた場合、もしくは株主には総会で意思決定するための情報収集の時間が必要と考えた場合、総会の直前に株式を取得した株主に合意形成への参加を認めることにもやや難点があるように思えます。たとえば「いちごファンド」のように、最近は株主→株主といった情報伝達手段によって総会での合意形成に影響を与える可能性についても無視できないと思っております。そうしますと、一定期間以上株主として在籍していることを議決権行使の要件とみることもあながち合理性がないとはいえないように思いますし、現行の会社法の規定が、単に会社側の事務処理上の要請から、というだけでなく、それなりの合理性を持っているようにも思えるのですが、いかがでしょうか。
>経営コンサルタントさん
私も@南大阪さんのご意見はおもしろいと思います。明星食品の株式について投下資本を回収した後に、日清食品株式を買い進めたことがあるわけですから、再度防衛を果たした会社に対して投資する、ということも皆無とはいえないように思います。ただ現実の株価からみて、それが投資対象として評価できるものかどうかは別でありますが。このあたりは、私ももうすこし検討しておきたいと思います。
投稿: toshi | 2007年7月 1日 (日) 03時01分
toshiさん
ご返答ありがとうございました。
ものの考え方の合理性に重きを置き、法が認めているからから許されるという考え方はおかしいと思うべきで、法に合理性がなければ改正すべきではないかということからコメントしたものです。
総会日現在において株主でなければ議決権行使を認めるべきではない、というのが英国法の基本的な考え方で、一定期間株主であるものへの議決権を尊重するという考え方の延長がフランス法の複数議決権の考え方です。
日本の基準日制度には実務的には利便性があるものの総会決議への無責任性からすれば合理性がないと考えるのが普通ではないでしょうか。日本の商法学者の“通念”に合理性がないと思われますので、基本的なものの考え方に柔軟性を持つべきだろうと思う次第です。
債権者側が主張していたことは知りませんでした。調べもせずに理屈だけでコメントしてしまっていたようです。
投稿: シロガネーゼ | 2007年7月 1日 (日) 12時37分
ご存じの方も多いとは思いますが、次の裁判所のWebに決定文が掲載されました。報告です。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070702153919.pdf
投稿: ある経営コンサルタント | 2007年7月 4日 (水) 12時24分