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2007年6月24日 (日)

介護事業の世界を少しだけのぞいてみました。

(きょうはビジネス法務とはあまり関係のないエントリーですので、ご関心のない方はスキップしてください。)

今日は福岡県大牟田市にあります介護福祉センター「藤井さん家」(ふじいさんち)に伺い、認知症の方々と半日ほど過ごす機会に恵まれました。ここ福岡はコムスン発祥の地でもあり、また現在も地域密着型介護施設推進の場としても厚生労働省から注目されているところであります。

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この写真が「藤井さん家」です。ここは9時から5時まで認知症認定を受けている方々が介護ヘルパーさんと一緒にすごすケアセンターです。看護師資格を有する方も常時いらっしゃいます。今年1月にオープンし、運営されて半年になりました。元々、ここは私の母方の祖父母の家だったのですが、昨年叔母がこの土地と(朽廃した)建物を大牟田市に寄贈し、(叔母のかねてからの希望もあり)大牟田市はこれを地域密着型介護施設として利用することを決めました。その後きれいに改修され、ご覧のとおりの立派な施設が誕生し、私も備品などの関係ですこしばかり支援をさせていただいたものであります。27年ぶりに足を踏み入れたとたん、昔いとこや祖父母と遊んだ頃の記憶がよみがえり、感慨ひとしおでありました。

ここの運営管理者は牧坂秀敏氏でありまして、この地域密着型介護施設の運営管理のために東京から単身でここ大牟田にやってこられました。ちなみに、牧坂氏は介護ヘルパーの視点から、老人介護の問題を研究されている方でもあります。きょうは、認知症の方と過ごすかたわら、この牧坂氏からも、民間事業として介護事業が果たして成り立つのかどうか、いろいろとお話をうかがいました。

4535561907_1 施設型の介護センターの場合(つまり藤井さん家のような施設の場合)、常駐スタッフは最低3名必要であり、あとは利用者の数に合わせてヘルパーさんに交代で勤務していただくこととなりますが、これで運営が黒字になるのは「利用者が常時7名から8名必要」とのことです。しかしながら、この施設の場合、常時3名ほどの利用者しか確保できておらず、残念ながらまだ軌道に乗っているというわけにはいかないようであります。「地域密着型」といいましても、いろいろ難しい問題がありまして、たとえばこんな田舎であっても、自治会(町内会)加入者は年々減少し、現在は地域住民の3割しか自治会に加入していないとのこと。また、地域といいましても、みんな仲がいいわけではなく、「あの家のことにはかかわりたくない」といった100年の禍根を残す関係も多いということで、とりわけ介護の問題ともなりますと、新たな近隣問題に発展するケースもあるとのことでして、「地域密着型」などというものは、総論としては賛成でも、いざ実行するとなると問題が山積しているのが現実のようであります。

028_320_1 私が訪問したときにも2名の認知症の方がいらっしゃいました。90歳の女性(写真の方)と83歳の男性です。牧坂さんや、ヘルパーの方々みなさんと一緒に昼食をいただきましたが、なかなか意思疎通を図ることもできず、コミュニケーションをとるのが本当に苦労いたします。自分が情けなく思えましたのは、こうやって意思疎通がはかれないと、なんだか気を使わなくてもすむのではないか・・・といった気持ちになってくるのでありますが、牧坂さんやヘルパーさんの接し方はまったく違いました。健常者の方と同様、相手がどう感じていたとしても、きちんと「ひとりの人間として」相対しておられた点であります。たとえ認知症というものが治癒するものでないとしても、我慢したり、人のために何かをしたり、ものを考えたりする機会を与えることで認知症の進行速度は緩やかになるそうであります。相手がどんな状態であっても、社会に接点をもった人間として扱うことこそ重要なことだそうです。認知症の方がよく人の話をわからないがゆえに、そこにある「モノ」のような感覚にとらわれた自分の気持ちがなんだか恥ずかしく思えました。

「24時間、365日の介護サービス」を謳い、コムスンが福岡から東京へ進出したのが1988年のこと。なぜ、コムスンがこのような介護事業を黒字化させたのか?牧坂さんにうかがいましたが、やはり創始者である榎本憲一氏の「カリスマ的存在」にあったように思われます。国からの補助金事業として事業化されたとしましても、このような過酷なヘルパーさんのお仕事はたいへん厳しい労働条件を強いられます。当時13店舗だったころは、榎本氏の情熱に賛同された方々の献身的な支えがあったからこそ成り立った事業ではないかと思いました。しかしながら、グッドウィルに事業譲渡され、飛躍的事業展開が始まり、榎本氏が事業から離れてしまうと、もはや「ノルマ化」したヘルパーさんたちの仕事は厳しいだけのものとなり、予想通りの展開になってしまったのが現実ではないでしょうか。

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本日、ワタミの株主総会において、代表者の方が「介護事業を引き受けても、ワタミの企業価値は一切下がることはない」と7400名の株主(およびその家族)の前で説明されたそうです。もちろんワタミの場合は訪問介護と施設介護を地域密着型と民間推進型に仕分けされたうえでの計画でありますが、たとえそうでありましても、この事業は家族や地域による協力体制のうえでなければ成り立たない事業のような気がします。(だからといって、具体的な提案がすぐに思い浮かぶほど立派なことは何も申し上げられませんが)

昨日、日弁連の司法シンポが開催されたJALシーホークホテル福岡といえば、折口氏が「ジュリアナ東京」の九州拠点としてイベントを開催していた場所でした。ひとりの人物が、さまざまな事業で成功する「カリスマ」にはなれないのかもしれません。たった一日くらいの経験で、わかったような話をするわけではありませんが、「人が天に召されるまでの平穏な時間」の問題を、できるだけ多くの方に真剣に考えていただけたら・・・と思いながら、施設をあとにして大阪への帰路につきました。。。

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