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2007年6月 4日 (月)

定款への「企業理念」の記載

第一法規出版さんが毎月出しておられた「新会社法AtoZ」が、このたび「会社法務AtoZ」に衣替えされたようですので、引き続き購読しておりますが、その創刊号特集で新会社法時代の定款の活用について掲載されておりました。(正確には、定款自治を経営戦略に活用しよう・・・というものです)この記事のなかでとくに目に留まりましたのが株式会社エーザイさんの定款第2条に「企業理念」が記載されていることであります。エーザイさんがHOYAさんなどと並んで、ガバナンスやCSRへの取り組みではたいへん有名な企業ということは周知の事実でありますが、こういった定款記載への取り組みにつきましてはまったく存じ上げませんでした。ちょっと調べてみますと、2005年の株主総会で定款変更議案が承認されて、初めて企業理念を定款に記載しておられたんですね。ちなみに、条文化されている企業理念はこちらに掲載されております。(コーポレートガバナンスガイドライン

なかなか斬新なアイデアですし、まさに定款自治を経営戦略に活用している一例として、参考にさせていただきたいと思ったりするわけでありますが、こういった企業理念を定款に記載するにあたりましては、何か問題となりそうなところはないのでしょうか?どこの企業でも企業理念を条項化している・・・ということでしたらよいのでありますが、あまり企業理念を規定化されている企業も多くないように感じましたので、どこか懸念されるところでもあるのでしょうかね。すこし気になるところは、そもそも定款というものは株主間とか会社関係者間における会社の取り決めを規定するもの(会社の根本規範)ですから、こういった企業理念を書く・・・というのは、どういった意味があるのか、という本当に基本的な疑問が浮かんできそうであります。条文のなかにも「株主の皆様」というフレーズが出てきますが、株主が決める規範のなかに「株主の皆様」というのもなんかちょっと違和感を抱くところです。

ただ、経営者が理念として掲げるべきものを、将来の株主も含めて、「総体としての株主」が信認をしたものである、と考えれば、こういった理念の規定もありかも・・・とも思えますが、もうひとつの疑問は、「この規定は一体、どんな効力を持つんだろうか」といったことであります。株主も社員もみなステークホルダーズであって、ステークホルダーズの利益を図ること、法令遵守を根幹にすえること、患者様の利益をはかることを一義とすること等、書かれていることはまことにそのとおりであって、文句のつけようもないところでありますが、この規定は内部統制システム整備の基本方針の一例としての「法令定款に適合する体制」違反、という場合の「定款違反」のモノサシになりうる条項なのでしょうか?おそらく記載内容からすれば、訓示規定とか精神規定、努力規定といったところであって、この定款2条違反をもって、裁判上の根拠規定にはならないのではないかと思われます。しかしながら、こういった訓示規定に近いような条文を定款に挿入することになりますと、任意的記載事項として定款に規定されている事項につき、定款違反が問題となるような事例におきまして、ほかの規定につきましても「努力規定」とか「訓示規定」といった解釈が出されてくるおそれはないのでしょうか?

そもそも社団法人の設立に関する民法37条によれば、定款は設立行為の一種として規定されておりますし、同38条では定款変更には主務官庁の認可を要するものとされております。社団法人と営利法人たる株式会社とでは、その意味合いも異なるのかもしれまえんが、こういった民法の規定をみておりますと、設立に関与する株主や、定款変更を承認する株主に対しては、定款の内容というものが一義的であり、かつ解釈の余地のないほどに明確なものでなければならないようにも思われます。そうでなければ、たとえばこの企業理念について、いったいどこが変われば特別決議を要する「定款変更」に該当するのか、(ステークホルダーズ、とされている)社員、会社債権者や株主、そして経営者など、その認識によってマチマチになってしまうことはおそらく間違いないと思います。そのように考えますと、この企業理念を定款に取り込む、ということは、定款の裁判規範性に関する問題と、定款変更の要否の不明瞭性に関する問題といった新たな論点を将来的に持ち込んでしまうのではないかな・・・といった不安が生じてくるように思われます。もし、このあたりが明確な理由によって、他の定款内容と区別できるのであれば、私も関係する会社の企業理念につきまして、定款への挿入をお勧めしてみたいと思っております。

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コメント

いつも拝見させていただいております。

この問題、ISO9001や14001等の「マニュアル」と「方針」の関係に近い部分があるかな?と感じました。とはいえ、会社の定款ですと法律上の重みもまったく異なりますし、より慎重な検討というのもの必要になってくるかなと思います。

個人的には、定款に企業理念を直接記載させるというのは「株主が経営者(及びその先の従業員等)に対して、企業としての活動の基本方針をコミットさせる」という印象を受けます。その意味では「株主の皆様に~」という言い回しは若干気になりますが、一つのトライアルとしては面白いのかなと思います。

一方、経営を委任しているという考え方からすれば、定款には「会社は、経営理念(経営基本方針)を制定しなければならない。」等と定めておき、その内容自体は別のもので定めるという形もアリなのかと思っています(ややISO的ですが・・・)。ジャストアイデアなのですが

第○条 会社は、取締役会の決議に基づき、経営基本方針を定める。
2 経営基本方針が変更された場合には、株主総会にて報告を行うものとする。

等のような定めを行うことも一つの選択肢になり得るのではないでしょうか?もし差し支えなければ、法的な視点からアドバイスを頂ければ幸いです。

投稿: Swind@立石智工 | 2007年6月 4日 (月) 10時03分

こんにちは。秀逸な内容でいつも圧倒されています。

定款に企業理念を導入することについては、定款変更時であれば問題は発生しませんが、設立時の定款に挿入している場合、公証人の認証が得られないのではないでしょうか?どなたがご経験のある方がいらっしゃいましたらお教えいただきたく。

投稿: ないとう | 2007年6月 4日 (月) 11時31分

匿名司法書士です。すばらしいブログに小心者の私は本名でコメントさせていただく勇気がありませんのでご容赦下さい。設立時の定款認証で企業理念が含まれていても認証されます。実例を数例聞いております。ただ、公証人によってはミスター雛形と呼ばれるような方もおりますので、やり辛いこともあるでしょうが。。。そもそも公証人にこのような権限はないのではと。山口先生、初めまして。鋭いコメントに感服いたします。コメント大変失礼致しました。

投稿: ないとうさんへ | 2007年6月 6日 (水) 08時01分

>立石さん
いつもありがとうございます。
私もこの問題については、ジャストの印象を述べたまででして、あまり自信をもって意見ができる立場ではございませんが、私も後半部分のご提案については概ね賛成であります。どうも定款に「こうもとれるし、あんなふうにもとれる」といったような解釈が成り立つ条項を入れるのには躊躇してしまいますので、できれば別のところで宣言したほうがいいのではないかと。(回答になっていないかもしれませんが)

>匿名司法書士さん
ご教示どうもありがとうございます。たしかに公証人にはそのような権限はありませんよね。逡巡される方はおられるかもしれませんが、最終的には認証せざるをえないものと思います。どうか今後とも、いろいろとお教えください。

投稿: toshi | 2007年6月 7日 (木) 02時43分

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