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2007年6月 8日 (金)

ブルドック買収防衛策の素人的分析

すでに皆様、新聞報道等でご承知のとおり、スティールパートナーズ(正確にはスティール・パートナーズ・ジャパン・アセット・マネジメント・ファンドーSPV、以下SPといいます)の株式公開買付(TOB)に対して、ブルドックソース(以下、BSといいます)は差別的行使条件付新株予約権の無償割当てによる買収防衛策発動を株主総会に付議することを決定しております。(BSによる開示情報はこちら)先日までSPのTOBに関してはBS側は賛否を「留保」されておりましたが、この日「反対の意思表明」も明らかにされております。(すでにTOBが開始されている関係で)「発動」に関する総会決議を求めるわけでありますので、SPによる差止仮処分(司法判断)申請へと向かう可能性も出てきましたので(※1)、少しだけ素人的な考えでBSの買収防衛策の分析をしてみたいと思います。(ただし、法廷闘争の可能性といいながら、6月8日金曜日のBSの株価動向のほうが、今後の展開には大きな影響を与えそうな気がしますので、注目しておきたいと思います。追記ー8日午前の株価ですが、かなり下げていますね。1655円→1615円  ヤフー掲示板の意見を象徴しているかのようです。)なお、M&A関連のエントリーの際には、毎度ながら、専門家意見ではなく、素人的発想による分析でありますので、投資判断におきましてもなんらの参考にされませぬよう、お願いいたします。

(※1)ただし、本件プランは新株予約権の「無償割当」を行いますので、会社法247条がそのまま適用されるわけではなく、果たして本件プランに株主側より差止請求がなしうるか、といった問題がございます。(だいぶ以前にこのブログにおきましても、日本技術開発、夢真事件の際に個別論点として検討したことがあります。あのときは株式分割が問題となりましたが、基本的には同様の論点があると考えられます。)

大雑把な意見ではありますが、このBSの防衛策を拝見しまして、中期計画案の公表とともに株主総会での承認決議を目指しているものの、やはり法廷闘争をかなり意識しながら作成されたものではないか・・・といったところであります。このような防衛策発動を付議することを決定した理由としましては、大きく分けて二つの理由があるように読めます。ひとつはSP側がBSの経営権を握った場合の具体的な企業価値向上計画がなんら示されておらず、このような態度はそもそもBSの企業価値を毀損し、株主の共同利益を毀損することは明らかである、といった流れであり(※2)、もうひとつはSPは何の予告も交渉もせずに突然のTOBを開始するに至ったものであり、その後の再三にわたる情報提供要求にも満足な情報を提供しなかったことはたいへん不誠実な対応である、といった流れかと思います。また、これは理由ではございませんが、差別的行使条件付新株予約権の無償割当の方法として、SPにもいちおうその保有割合に応じて割り当てるものの、その行使は制限され、その代わりSP社の保有に至った経済的損害だけは填補する(つまり、希釈化された株式の価値目減り分はお金で返す、というもの)ものとして、経済的な意味合いでの株主平等原則違反をできるだけ回避しようと考えておられます。

(※2)ブルドックの企業価値を毀損し、ひいては株主共同利益を毀損する、とあり「明らかに」とは明文化されておりません。私としましては、ライブドア、ニッポン放送事件の高裁判決の4原則に近い要件への充足を検討されているのではないかと思っているのですが、今回は取締役会のみでの防衛策発動ではなく、株主総会における特別決議による承認をもって発動の正当性を充足しようとされているので、「明らか」とまで明文化する必要はないのでは・・・といった判断があろうかと推測されます。

以上の買収防衛策発動理由やそのスキームからみますと、以下のことが言えるのではないか、と推測いたします。まず、BSの場合、もともと敵対的買収防衛策を導入していなかったために、「防衛策で定めた合理的な交渉ルール」というものを使えない状態からの防衛を検討しなければなりません。よく「平時導入」「有事導入」といわれますが、本件の場合は「大量保有報告書を提出して、TOBをにらんで交渉が開始された買収希望者の出現」というよりも、いきなりTOBを開始してきた買付け希望者の到来後の問題でありますから、単なる「有事」というよりも「超有事」における導入と考えてよいかと思われます。第三者割当による防衛策に関する事例ではありますが、皆様ご承知のライブドア事件の高裁判断などによれば、有事導入でありましても、買収防衛策を導入することが違法とはならない要件といったものが示されましたので、「超有事」においても法(または省令)が定めるTOBルール以外に、なんらの防衛策が講じられない、といったものではなく、すくなくとも買付け希望者が、当該会社の企業価値を毀損することが明らかな場合においては防衛策を急遽導入しても適法な場合があると考えられます。BSとしましては、数度にわたる質問状送付とその返答内容により、こういった要件該当性を明らかにしようとの趣旨ではないかと考えられます。

もうひとつ、SPは突然やってきてTOBをかけてきた、現経営陣としては企業価値提案を比較して株主に説明するために、必要な情報を提供してもらおうとしたが、なかなか出してくれない、といったところが強調されております。このあたりは、おそらくTOBルール上は、もはや防衛策を導入(発動)することは予定されず、フェアにそのルールに従わねばならないのが原則かもしれないかもしれませんが、そもそも前交渉もなく、情報提供も非協力的な相手方の出現に対して、対象企業は杓子定規にTOBルールに従わねばならないのか、そういったフェアでない(これをフェアでないといえるかどうかは微妙ですが)相手方であれば、対抗措置をとることも正当性があるのではないか・・・といった主張が予想されるのではないでしょうか。つい先日、このブログのエントリーにおきましても、私はBS側がTOBへの賛否を留保して、大量の質問を求めるというのはルールに悖るのではないか、との疑問を呈しましたが、その前提となるところで、そもそもSP側がルールに悖るような対応をとったがゆえに対抗措置をとるのは正当である、といった主張が、当初より考えられていたのかもしれません。いずれにしましても、超有事の段階におきまして、買収防衛策を発動する、というものですから、かなりギリギリの選択であることは間違いないと思われます。したがいまして、発動に関する承認を株主総会の特別決議に付議したり、相手方の損失を最小限度にとどめるべく希釈化の補填措置をとることで、できるだけ法廷闘争を有利に展開しよう、といったBS側の戦略があるのではないかと思われます。

ただ、こういった戦略が奏功した場合、すこし疑問が生じるところもありそうです。ひとつは、もし超有事になってから買収防衛策を導入しても防衛が成功するとなると、「じゃあ、高いお金を払って事前警告型の防衛策を導入しなくてもいいのではないか?」といった素朴な疑問であります。ただ、よく考えてみますと、事前警告型の防衛策を導入しているケースでは、(いまだ裁判所の明確な判断がありませんので、正当性があるかどうかはわかりませんが)防衛策導入企業が一方的に定めた防衛ルール(交渉ルール)がありますので、とりあえず買付けを希望する会社はそのルールに従わねばならない、といった事実上のアドバンテージを対象企業側が保有することが可能になる点であります。つまり、この平時に導入した防衛策のおかげで、「濫用的買収者」に該当するかどうかの判断過程などにより、かなり長期間にわたって交渉を継続できるといったメリットがあると思われます。そしてもうひとつの疑問としましては、もしこういった戦略が成功するのであれば、そもそもMBO(マネジメント・バイアウト)事例におきましても、少数株主側に「情報提供不足」を理由として、省令に記載されたTOBルールを最低限度遵守していたMBOの合理性を否定する根拠が生まれてくるのではないか、といったところであります。省令に規定されたルールにさえしたがっていれば、MBOは手続き違反にならない、といった判断がなされるようにも思えるわけでありますが、そもそも非公開化のために現経営陣が少数株主に提供すべき情報というものが不十分であるときまで、そもそもTOBルールは予想していなかったということであれば、少数株主側としては、MBOのためのTOB手続きを企業側が敢行しようとする場合には、実質的にその適法性を争う道が開けるようにも思えます。ともかく、今後のSPの動向には目を離すことができないようです。(なにぶん、たたき台としての素人的発想による分析でありますので、またこういったM&A戦略実務に精通されていらっしゃる方や、私と同じ素人的な方におかれましても、ご意見を頂戴できればありがたいです)

(追記)早朝より、メールにていくつかのご意見を頂戴しております。三角合併(対価柔軟化)が施行されて、M&Aにおけるファンドの社会的有用性が認知されれば「毀損ルール」では対応できないのではないか、ブルドック側の支配権プレミアムに関する主張は、その前提となる市場株価について、正しく企業価値を反映していることを認めたものかどうか、明らかではないのではないか、等。(もちろんブログには詳細は書けませんので、あしからず・・・)

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コメント

私はこの計画を拝見し、新株予約権の設計内容だけで、判断するのではなく、事業計画の内容でも判断できないものかと憤りを感じてしまいました。今後もいろいろありそうです。
事業計画の内容は、これまでの経営者の責任には触れず、黒字であるにもかかわらず従業員を4分の1以上も削減するというものでした。これで、株主価値は上がりますが、従業員や一部地域社会(工場や営業所の閉鎖)など幅広くステークホルダーの価値は毀損されており、それに見合う、経営者の責任は触れられていません。私としては、せめてアドバイザリーフィーぐらいの役員報酬カットを望みますが。
このままでは、発行が経営者の保身のために従業員を切り捨てるのかと不公正にならないでしょうか。

投稿: katsu | 2007年6月 9日 (土) 03時20分

>katsuさん

先日も、たしか投稿いただきましたよね?
katsuさんのブログ拝見いたしました。かなり以前のものまでさかのぼって読ませていただき、共感する部分が多いと思いました。(ご紹介してもよろしいのでしょうか?)
本日、ブルドックソースの従業員一同より、「スティールによるTOBへの反対声明」が出されておりますが、5年間で25%の従業員削減しかも3つのうちの1つの工場閉鎖ということですから、たしかにkatsuさんのおっしゃるとおり、従業員へのしわ寄せは否定できないものと思いますし、こういった対応がなぜもっと早く開示されていないのだろうか、と不思議に思います。反対声明といったものも、少しむなしいような気もいたします。なお、ヤフーの掲示板では、そもそもスティールが企業価値を毀損する、といったブルドック側の説明に矛盾があるのではないか・・といった疑問も本日あたり盛んに出ておりまして、なかなか説得力があると感じました。ステークホルダースの利益を無視することは企業価値の毀損にはあたらないのでしょうかね?
経営判断に関わるところでの議論につきましては、おそらく司法判断になじまないでしょうし、総会における株主の判断に依存するところが大きいのではないか、と考えておりますが、おっしゃるとおりライツプランの設計の是非だけでなく、中期事業計画の中身や、経営者側の企業価値算定根拠なども重要な問題ではないかと思います。でも、本当にイカリソースとブルドックとのシナジー効果などは早期に株価へ織り込むような対策はとれなかったんでしょうか。

投稿: toshi | 2007年6月 9日 (土) 21時09分

TOSHIさま
コメントありがとうございます。以前もMBOの株価判断だったかな、投稿した者です。
私どもはブログを見ていただいたとおり、とあるシンクタンクで経営コンサル(らしきこと)をやっております。買収防衛というテーマは非常にニーズが高いものです。
但し、クライアント企業の話をよく聞くと、何に怖いのかよくわからないケースが多々あります。「株主構成、持合体制には自身があるが、万一に備えて・・・」といった方が多い(それだけ、精緻に企業経営をやってらっしゃるんでしょう。スティールに狙われた企業は脇が甘いということになりますか)。
時折、「どのような企業の買収が考えられますか?日本では、アメリカでは・・・」と聞いていくと、中国とかインドとかという答えが返ってきます。
話がそれましたが、買収防衛対策は、企業担当者の話を聞いているうちに、「現代版、総会屋対策」に尽きる感あり、法律の解釈論はとても重要であり、先生のようなブログをよく参考にさせてもらっております、

本件につきましては、日経新聞の書きぶりが、新株予約権の設計にばかり目が行っている様で、「法律もさることながら、実態はどうなの」と疑問に思った次第でございます。

先生のブログは大変参考になっております。今後ともよろしくお願い申し上げます。

投稿: katsu | 2007年6月11日 (月) 03時41分

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