買収防衛策・独立第三者委員会の役割とは?
日本公認会計士協会近畿会に所属する4名の公認会計士の方々が、大手監査法人に対する懲戒処分を求める文書を金融庁に発送した・・・といったニュースはちょっとビックリですし、かなり関心あるんですけど、内容が内容だけに、おそらく会計士さん方のブログでは話題にならないでしょうね(^^;;
さて、昨日はブルドック新株予約権・仮処分命令事件の東京地裁決定につきまして、速報版をエントリーいたしましたところ、親切な方より「決定書パーフェクト版」を頂戴しまして、その決定の全貌を読ませていただきました。(本当にどうもありがとうございました。ちなみに「会社法であそぼ」の葉玉先生は、すでに昨日時点で全文を熟読されていらっしゃったようですね。葉玉先生の昨日のエントリーは圧巻です。)昨日のエントリーにコメントをつけていただいたnonomuraさんが指摘されているように、この東京地裁鹿子木決定と、即時抗告審における高裁決定(7月4日までに出るんでしょうか、それとも割当確定日までには出るということなんでしょうか)とは、かなり内容が異なる可能性もあると思いますので、M&Aのご専門家の方々の意見は最終決着がついてから・・・ということになるものと思われます。でもやっぱり部外者としては、この鹿子木決定が出るのを楽しみにしておりましたので、ワクワクしながら拝読いたしました。このブログのスタンスに忠実に、社外役員や独立第三者委員会委員の立場からみた地裁決定についての感想だけ述べさせていただきます。
1 グリーンメイラー≠濫用的買収者?
私自身がよく理解していないのかもしれませんが、このたびは「防衛策導入」ではなくて「防衛策発動」といった、世界でもあまり例のない事態における適法性が議論されているわけでありますが、公開買付者がグリーンメイラーであれば、緊急避難的に取締役会決議をもって発動できる、というのが(発動の場面においても)一般的な理論だと思われます。しかしながら、このたびの決定理由では、買付者による経営支配権の取得が対象企業の企業価値ひいては株主共同利益を損なうおそれがある場合の買付者のことを「濫用的買収者」とみなしている、と理解してよろしいのでしょうか?このように二段階で考える理由としましては、後述するとおり、この地裁決定では一般投資家保護の要請からくる「株主のTOBに応じるかどうか選択する機会の確保」と「株主が株主総会において議決権の行使という形で株主の選択権の行使の機会を確保」することを区別しているからであります。つまり、グリーンメイラーほど明確に会社に損害を与える買収者とはいえないけれども、どんな経営をするのか、株主からみて不安になるような買収者であれば、その買収自体にノーと言える判断権が最終的には株主総会にある、ということではないかと思われます。だからこそ、「そもそも特別決議がとれるような総会承認が得られるのであれば、TOBは成立しないはずであるから、防衛策は不要ではないのか」といった疑問も生じるところではありますが、TOBに応じるかどうかの株主の機会確保の要請と、株主共同の利益確保のための株主権行使の機会確保の要請とは違うんだ・・・といった理由で反論可能になってくるのではないでしょうか。こう考えますと、防衛策発動といった場面を前提とした場合には、取締役会で判断すべきグリーンメイラー性判断、株主総会で判断すべき濫用的買収者性判断、そしてTOBで株主個人が判断すべき企業価値判断といった分類が検討されることになるのでしょうかね。
2 「濫用的買収者」の判断について
事前警告型の防衛策を導入している上場企業はたくさんあると思われますし、そのなかでも諮問機関として「独立第三者委員会」を設置している企業も多いはずです。そして、その第三者委員会は公開買付希望者(交渉ルールにしたがって交渉に入った段階)が濫用的買収者に該当するかどうかの意見を求められるパターンが多いのではないでしょうか。(実は私が第三者委員に就任している企業さんもそうであります)この仕組みについては、今後も維持すべきかどうか、一度じっくり考えたほうがよさそうな気がいたします。すくなくとも導入を支援された大手渉外法律事務所さんや、信託銀行さんとご相談されたほうがいいのではないでしょうか。(私も相談してみようと思っております)この東京地裁決定を読んでの感想としましては、「濫用的買収者に該当するかどうか」といったあたりは、防衛策発動の可否が問われる場面において防衛側にとってハードルがかなり高いように思えます。昨年の王子・北越事件におきまして、北越側の第三者委員会が、王子製紙側のルール違反を捉えて濫用的買収者とみなして、発動勧告を決定したことがございましたが、今回の東京地裁決定が、スティールをグリーンメイラーとしては認定できないとしていることからみましても、安易に防衛側企業の判断として「濫用的買収者」であることを主張立証することは困難であって、(たとえ導入時点で株主総会の承認を得た防衛策であったとしましても)第三者委員会の認定に重きを置いて防衛策を発動する・・・といった手法にはリスクがかなりともなうように思いました。そういたしますと、わざわざ独立第三者委員会を設置しても、「濫用的買収者」であるかどうかだけを判断させる・・・という仕組みについては、若干論点がずれているように感じられますし、リスクに対する対応方法としてはイマイチ有効性に乏しいように思えます。たとえば「濫用的買収者」に該当するかどうかでスクリーニングして、該当する場合には即発動、そうでない場合には株主総会にかけて定款変更→発動容認(もしくは発動容認のみ)、といった手法の場合、濫用的買収者該当即発動のパターンにはかなりハイリスクなものを感じます。とくにこのたびの東京地裁決定では、新株予約権の無償割当というスキーム自体が「株主平等原則」の適用ありとされ、差別的行使条件が平等原則違反にならないための要件として「特別決議」の存在が大きくとりあげられておりますので、たとえ独立第三者委員会がどのような意見を述べたとしても、特別決議による発動承認を得るほうがリスクは少ないといえそうであります。
3 独立第三者委員会は不要か?
それでは、独立第三者委員会は不要なんでしょうか?このたびの東京地裁決定における「株主総会特別決議重視」の判断の解釈につきましては、今後M&Aの専門家の方々の意見も分かれるものと思います。また、私自身いろいろな解釈が成り立つような気がします。私がこの東京地裁決定のなかでもっとも重要と思える部分は、先に述べた防衛策のスキームが平等原則違反の例外的要件に該当する基本的ルールを掲示したことと、決定書の28ページから30ページあたりに記載された敵対的買収防衛ルールにおける証券取引法規制と会社法規制の接点の調和に関する考え方にあるのではないかと思います。投資家保護の観点からの情報開示ルール(公開買付届出書の記載事項とか、意見表明報告書とか、対質問回答報告書とか)による株主による公開買付に応じるかどうかといった選択権行使の機会確保と、株主による株主総会における議決権行使という形での選択権行使の機会確保とを、この決定は見事に切り分けて論じております。この地裁判断は合理性の高い見解だと思いました。たとえば事前の情報開示ルールや、企業価値判断に関する信頼性の高い情報提供ルールが整備されているのであれば、一般株主による総会における議決権行使という形での選択機会確保の要請は弱まるでしょうし、逆に整備されていないということであれば議決権行使による選択権確保の要請は高まる(つまり「総会における特別決議重視」となる)のではないかと思われます。そして、どのあたりに調和点を見出すか、ということにつきましては、結局のところ会社法の構造(権限分配論、株主平等原則、特別決議による少数意見の排除など)をどう理解するかとか、日本における株主と取締役との信認関係をどう考えるか、といったあたりの判断者の主観によるところが大きいのではないでしょうか。(このあたり、紛争当事者としましては、裁判所がいったいどのようなところに調和点を見いだそうとしているのか、といったことをきちんと抑えることが肝要ではないかと。)ここからは単なる私見にすぎませんが、究極を「株主による価値判断」に求めるとしましても、その株主の判断には価値判断のための情報アクセスの機会が必要ですし、またその開示情報は「信頼性の高い情報」でなければなりません。(また株主の判断が著しく不公正にならないような手続も必要だと思われます)とりあえず、現状の証券取引法における開示ルールや、事前警告型防衛策の交渉ルールが「単なる企業価値の比較による優劣だけでなく、企業価値を毀損するおそれの有無」まで信頼できる情報を提供できるものではない以上は、やはり公正中立な独立第三者委員会による情報開示が「株主総会における総会決議の妥当性」を担保する重要な要素のひとつにはなりうるのではないかと思います。つまり株主がTOBに応じるかどうかの選択権を行使するための情報提供と、株主総会で株主の総意としてその議決権を行使するための情報提供のいずれにおいても、独立第三者委員会がその助言を行うことで、株主総会における判断の合理性を支える要因になるのではないか、と考えております。(もうすこし具体的な内容はまた追って検討したいと思います。また決定全体まで踏み込んで感想を述べられるほどの実力はございませんので、あしからず)
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