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2007年6月 1日 (金)

企業不祥事の適時開示に関する疑問

(6月1日お昼に追記あります)

日経新聞に全部取得条項付種類株式の課税処分の帰趨につきまして、たいへん興味ある記事が掲載されておりましたので、MBOと絡めてエントリーしようかと思っておりましたが、ちょっと皆様方の関心の薄い領域のお話になってしまいそうでしたので、急遽、予定を変更しまして、いろいろと一緒に考えていただきたいテーマといたしました。。。

関西在住の方でしたら、かなり衝撃的な事件でしたのでご存知の方も多いかと思いますが、5月中旬にペッパーフードサービス(東証マザーズ)経営による心斎橋のレストランで店長と従業員の共謀による強盗強姦事件が発生しまして(事件内容はこちらです)、昨日(5月31日)に顛末に関する報告が開示されております。(適時開示情報)ちなみに、ヤフーの掲示板も、ものすごいことになっております。

この事件を契機にペッパー社とファミリーマートとの商品販売に関する提携が中止となり、また社会的不安を発生させたものとして、企業の信用は大きく毀損されている模様であります。自らの店舗内で、しかも被疑者二人とも制服のまま女性客に睡眠薬を飲ませた・・・というものですから、企業責任という点では非難されるのも当然でありますし、新聞等でも報道されましたので適時開示情報として公表しなければならないものと思われます。

しかし、ちょっと事案が変わっていたら、どうだったんでしょうか?たとえば、この店長と従業員が、店舗終了後、店の外で女性を誘って、睡眠薬を飲ませ・・・という場合、新聞などでは「ペッパーレストランの店長と従業員は、店舗営業終了後、共謀して・・・」といった報道をされる可能性もあるかと思いますが、そういった場合でもペッパーフード社は適時開示情報として公表する必要はあるのでしょうか。店が終わって、二人とも私服に着替えて、その後に女性を物色して・・・といった流れでありますと、もう会社の業務とは無関係でしょうから、会社の責任とは離れてしまって、あくまでも従業員たちの個人的な犯行として会社としてはなんら対応する必要はないようにも思えますがいかがでしょうかね。(ちなみに先日の同志社大学ラグビー部の学生達の事件の際には、大学が社会に向かって謝罪の言葉を述べておられましたが、同じ時期に東京大学の某教授が破廉恥罪で逮捕された際には、少なくともマスコミレベルでは東大はまったく謝罪の言葉を述べておられませんでした。このあたりの基準もよくわからないところであります。)「そもそも、今回のペッパーフード社による開示情報には「今後は二度とこのようなことがないよう、社員教育を徹底し・・・」とありますが、こういった従業員の犯行の場合、どこまでが社員教育と言えるのか疑問であります。「決して強姦や強盗はしないように」といったことが社員教育ではないと思いますし、「せめてお店の中では強盗しないように」というのも、ちょっとへんですよね。本当に真剣に考えますと、こういった場合の社員教育とか、どこまでの事実が認められれば適時開示の対象となると考えるのか、けっこう難しい判断を迫られるのではないでしょうか。(さきほどあげたような、お店の外での犯行の場合、ファミリーマートさんは販売提携の中止を申し出るのでしょうか。)

また、かりに店舗外での従業員の犯行についても情報開示の必要があるとしても、その従業員が犯行を否認している場合にはどうしたらいいのでしょうか。従業員の弁護人としては、無罪推定原則を理由に、情報は一切公表するな、また会社側の一方的な処分は留保せよ、と主張してくる可能性があります。こういった難しいケースでは、会社だけで判断するのではなく、やはり顧問弁護士の指示を仰ぐのが無難だと思いますが、やはり適時開示の是非となりますと、あまり弁護士としても経験されないことが多いと思いますので、やはり悩むことがあるんじゃないでしょうか。自宅では適時開示規則などが手元にないものですから、なにか明確な基準等がありましたら、またお教えいただければ幸いです。

(追記)こういった自社従業員による犯罪行為の発生等につきましては、適時開示規則の開示すべき発生事実のうち、「その他会社の運営、業務、財産又は上場有価証券に関する重要な事実」に該当するものとして、各社開示をされるようですが、いわゆるバスケット条項ですから、どこまでの事実を開示すべきか・・・ということは、結局のところ規則を読んでもよくわかりませんね。開示すべきかどうか迷った場合には開示すべき、と、どの本にも書いてありますが、開示したくないから迷うわけでして(笑)。適時開示情報として公表する趣旨は企業業績との関連性ある事実ということでしょうから、たとえば企業が従業員の損害賠償責任について、民法上の使用者責任を負担する可能性の高いケースであれば、開示すべきでしょうし、そうでない場合には、マスコミ等で問題になったとしても、開示不要と判断するのがいちおうの基準かもしれません。したがいまして、このペッパーフード社の場合には、使用者責任が発生することが推測されますので(「事業の執行につき」の解釈に関する付随的業務の範囲内)適時開示すべきですし、もし勤務外での行動と事実認定できるのであれば、使用者責任が発生する可能性は著しく減るわけですから、開示不要という結論が妥当ではないか・・・と考えます。

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コメント

追記として、「適時開示情報として公表する趣旨は企業業績との関連性ある事実ということでしょうから、たとえば企業が従業員の損害賠償責任について、民法上の使用者責任を負担する可能性の高いケースであれば、開示すべきでしょうし、そうでない場合には、マスコミ等で問題になったとしても、開示不要と判断するのがいちおうの基準かもしれません」と書いておられますが、私は、そう単純では無いと思います。

かつて不祥事対応をしていた私の体験からすると、仮に使用者責任を負担する可能性の高い場合であっても、適時開示に最も反対されるのは、警察だろうと思います。たとえば、社員が業務上横領を働いたとします。企業としては使用者責任を問われる可能性は当然あります。しかし、企業は同時に被害者になりますので、警察に被害届を提出しますが、それを受けた警察が、すぐに公開捜査に踏み切るという可能性は、どの程度考えられるのでしょうか。事案が複雑であればあるほど、捜査の着手に時間がかかり、公開捜査への移行が遅れていくのは、やむをえないことと思います。その時に企業が被害者として、適時開示をすると、著しい捜査妨害ということにもなりかねません。

あるいは、談合の場合、企業は課徴金を課せられますので、企業業績との関連は否定できません。したがって、社内で談合の事実を把握すれば、すぐに適時開示すべきということになりますが、実際には、上場企業が談合の事実を適時開示した事例はあるのでしょうか。又、適時開示をしなかったために、適時開示を怠ったとして、何らかの制裁を課せられたケースはあったのでしょうか。仮に制裁を課せられたケースがあったとすれば、それは談合捜査との兼ね合いで、妥当といえるのでしょうか。

結局、この問題は、証券取引を巡る私益と、犯罪捜査という公益との衡量の問題になってくるように感じます。不祥事に関しては、適時開示の原則からだけでは考えきれない問題があるように思います。

投稿: 酔狂 | 2007年6月 4日 (月) 16時55分

酔狂さん、たいへん有益なご意見ありがとうございます。
火曜日の夜に、この酔狂さんのご意見を中心として、エントリーを書かせていただく予定にしております。

投稿: toshi | 2007年6月 5日 (火) 02時45分

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