経産省によるMBO指針の報告書案
今朝の日経一面にも出ておりましたが、経済産業省の企業価値研究会は、MBO(マネジメント・バイアウト)に関するTOBルールについて、できるだけ価格の不透明さを解消するための指針に関する報告案をまとめ、これを公表することになりそうであります。(とりあえず、日経ニュースはこちら です。)最近のMBO事例を企業側からみた場合、いろいろなリスクが隠れているようにも思えますが、基本的には法務、会計、税務に関する相当深い知識と経験がないと、そのスキームのリスクを低減することは困難ではなかろうか・・・というのが実感であります。ただ、MBOそのものの規制のあり方を考えておくことは、今後非公開化を検討する場合にも有益であろうかと思われます。
私自身は、MBOの研究家でもない単なる素人ではございますが、ここのところ、いろいろな雑誌などでMBOが内在的に持っております問題点などが採り上げられており、そういった問題点をどう克服するか・・・といった視点にかなり関心がございますので、こういった表を作成して、事前規制や事後規制の区別、法による強制力の有無による区別などを基準として、考えるきっかけとしたいと思っております。何を考えるのか、といいますと、基本的には有益なMBO、つまり少数株主の権利を保護しつつ、シナジー効果のあるMBOを完遂させることに実効性のある規制方法を模索する・・・という基準であります。表に示しております◎はある程度実効性が期待できる、×はあまり期待できない、△がよくわからない・・・という形で、私自身の意見を書いておりますが、有識者の方がご覧になれば、おそらくツッコミドコロ満載ではないかと思います。
情報開示といいますのは、TOBに応じる株主にとりまして、その価格が適正であるかどうかを判断するに足る情報という意味であります。役員の行動規範といいますのは、本来的に「取締役の利益相反行為」性を内在しているMBOの場面におきまして、対象企業の取締役がどのように振舞えば利益相反行為ではないと言えるのか、という善管注意義務違反の有無の観点からの規制であります。そもそも善管注意義務違反行為があったかどうか、ということは司法判断だけでなく、機関投資家による役員評価等ガバナンスの問題にもつながるわけでありますが、MBOの場面におきましては、上場廃止を伴うために、事後の一般株主による評価による規制という観点はなくなってしまうことになります。公正性確保の仕組み、といいますのは、企業価値判断のための独立第三者委員会の設置や、社外役員の構成など、MBO手続きに関する論点を指すものであります。そして、企業の説明義務といいますのは、MBO価格の公正性に一定の疑いが生じるおそれのある場合に、その補完として、企業が一般株主に対して、公正であることの説明義務を課すことを想定した仕組みであります。この表に基づきまして、今後経産相指針や、東証ルールなど、もしくは司法判断などが出てきた際の「あるべきMBO実現のための実効性」について考えてみたいと思っております。(なお、本来ならばもっと複雑なマトリックスになるはずでありましょうが、ブログアップ用にかなり簡素化してみました。)
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コメント
小生、MBO実務の経験がありませんし周辺知識も不足しているのでトンチンカンなコメントかも知れませんが、新聞記事を読んでの感想です。
記事にあるような会社側にMBO価格の公正性を説明する義務がある云々は当然としても、株主のカウンターパーティである会社に対して、株主にとっての最善の行動をすることを期待するのはそもそも無理があるように思います。
独立第三者委員会も結局はアリバイ作りに使われる危惧がありますし、むしろ新聞記事にあったような、インサイダー取引的なMBOの排除や他の買収者によるMBO価格のオファーが出て来やすい仕組みの(指針ではない)事前事後規制の法整備を行い、株主利益が損なわれないようにすることの方が、実務的にはより重要と感じます。東証の上場審査においても、MBO会社の再上場については安易に上場を認めないような厳しい審査が求められるように思います。
他方、これだけMBOが盛んになってくると、小規模上場企業についてはMBOリスクが株価に織り込まれている筈だ。だから、最低限のルール整備は必要だけれども、そのリスクを承知で株を保有したのだから投資家の自己責任でしょ、と片付けてしまいたい気持ちもあります。経産省も実はこの考えに立っているようにも思います。
投稿: いちろー | 2007年7月19日 (木) 20時58分
どうもご無沙汰しております。(そちらのブログのほうは、ファイナンス関連でむずかしいときもありますが、かならず目を通しております)
MBO関連のエントリーにはなかなかコメントがつきませんので、たいへん感謝いたしております。
このたびTOCに関するMBO事例で、他の買収者による敵対的買収が実効性を証明しつつありますが、これなどは「他の買収者によるMBO価格のオファーがでやすい仕組み」に説得性を持たせているように思います。
(東京の著名な弁護士の方も、こういった仕組みができることで少数株主への説明義務が果たせるのではないか、と述べておられます)ただ、あまりこれを強調しすぎますと、会社側は自分で自分の首を絞めることにならないのでしょうかね?つまり、MBOの適正価格などといったものは客観的に一義的に決まるものではない(まさに、これが会社側の逃げ道だと思いますが)と思いますが、あまり情報を提供することもなく、「ほかの企業が手をあげないということは適正価格だ」と主張することは、逆にいろんな要素で価格が決まるのではなく、最小限度の情報でも価格は決まることを認めることになるんじゃないのでしょうか。
投稿: toshi | 2007年7月20日 (金) 11時43分
上記について、少し前の議論ですが、ちょっとコメントさせていただきます。
>これだけMBOが盛んになってくると、小規模上場企業についてはMBOリスクが株価に織り込まれている筈だ。だから、最低限のルール整備は必要だけれども、そのリスクを承知で株を保有したのだから投資家の自己責任でしょ、と片付けてしまいたい気持ちもあります。
(いちろーさんに対する批判の趣旨ではないのですが、自己責任の使い方で、ごまかしがときに見られると考えており、少し問題提起をしたいので、例として議論させてもらいます。)
仮に、最近この地区は空き巣が多いから、家賃が低いので、それを知って住んでいる以上、被害にあっても自己責任でしょう?といえるでしょうか。そういうところに住むかどうか、選択の問題はあるとしても、被害にあった人に自己責任とは言えないはずです。
別の議論の場面で、支配株主が権限を握っている例でその権限行使の結果を正当化するために、そういう会社に投資したのだから何をされても自己責任だ、という強弁をする人を見かけることがあります。(支配株主による権限の濫用のおそれがあっても、それを分かって投資しているのだから、その結果について投資した少数株主の自己責任だ、という考え方です)これも同様に、おかしな議論の組み立てだと思っています。
資本的多数決の原則を否定する意図はないのですが、多数の株主の議決権行使の結果としての特別決議が成立する場合と、一人の株主の意思で特別決議が可決した場合(特に少数株主の反対が多かった場合)とは区別しなければならないのではないか、と。会社法も決議取消事由の規定を通じて、濫用に対する一定の歯止めを用意しているので、おかしな議論の設定だと思います。力の論理、強者の論理を正当化する暴論だと思っています。
本題に帰って、やっぱり、MBOの場面でも、善管注意義務・忠実義務を尽くしていない点が取締役らにあれば、それはそれとして責任の問題を議論すべきではないか、と思います。それをさしおいて、自己責任にすぐ議論が行ってしまうと、議論が途中で止まってしまい、おかしなことになると思われます。仕方がない、という発想が先立っているのかもしれませんが、やはりもう少し議論を詰めておく必要があると思います。
結局、こういう場合が放置されると、投資対象として株式に魅力がないことになってしまうのではないでしょうか。それが全体として証券市場の魅力が乏しい(またはリスクが大きすぎる)ことにつながり、いつまでも停滞したままになるのではないか、と懸念します。市場に近い仕事をしている人間として、やはり企業のガバナンスがしっかり働き、問題が発生した場合にも裁判上も救済が(中途半端ではなく)十分なされる制度的な基盤が整備されている、という状況になってほしいと願っています。
自己責任という言葉の使い方をもう少し考える必要があるだろう、と。あくまで私見ですが。
投稿: 辰のお年ご | 2007年10月14日 (日) 00時41分
MBOの場面にかぎらず、たとえば金商法施行後の金融機関の説明責任のあり方なども、この「自己責任原則」が問題になってくるかと思います。事前規制社会から事後規制社会へ、といった小泉改革のなかで、ずいぶんと「自己責任原則」といった用語が登場する機会が多くなったようで、辰のお年ごさんのおっしゃるように、安易に使用されるおそれも大きくなってきたように私も感じます。
たとえば金融機関がどこまでの説明をすれば、その先は商品売買に関する適合性があるものとして「自己責任」を問えるのか、そのあたりはいま金商法のなかでも一番苦慮しているところではないでしょうか。同じようにMBOの場面におきましても、やはり自己責任が通用する前提となる環境に留意すべきだと思います。(たとえば情報開示の点など)このエントリーをアップした後に、経済産業省からMBO指針が出されたわけですが、ずいぶんと総花的な内容になっているような気がしまして、あまりこのあたりと関連させて検討はしておりません。私見とおっしゃっていますが、このあたりは実に重要な論点ではないかと思いますし、投資家保護という金商法の大きな趣旨とも関連するところだと考えております。
投稿: toshi | 2007年10月15日 (月) 21時48分